美人はいかが2

■シリーズシナリオ


担当:マレーア

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:05月04日〜05月09日

リプレイ公開日:2005年05月09日

●オープニング

「己の身を守るために必要なのは力」
 長身のエルフの女がクールに言い放つ。刃のない剣を渡された花嫁候補は戸惑いながらも真剣に話を聞いている。
「守られるのではなく守る為の力を。‥‥まずは、わたくしが騎士として初めて習った事を教えましょう」
 そして手にした力の使い方を誤らぬように。
「宜しくお願いします」
 マチルダは頭を下げた。‥‥貴婦人になるのも色々大変なようである。

 ところ変わって、立場中立の会計係タンゴの借り受けた部屋では。
「何であんな重要な事教えて下さらなかったんですか?!」
 見た目ひどく幼い少女が妖艶な猫耳女に突っかかっている最中で。
「最初から言われてたことじゃなぁ〜い☆ 『50Gを元手にして』ってのは。店を作るのに商品ばかりを用意して棚やお釣りは忘れました、って訳には行かないでしょおん? それに寄付OKにしちゃったら、冒険者は無制限にお金持ってる人もいるしィ」
 少女は言葉に詰まった。確かに裕福な冒険者は多い、心優しい冒険者から寄付を得れば何もしなくとも金子を十倍にすることが出来るだろう。金はある程度まとまれば、利子を取って貸し出すだけで金を生むのだ。しかし、それでは奥方試験の意味がない。
「50G‥‥いや、35G。そろそろまともに何か始めないと、あっさり無くなっちゃうよ。皆様?」
 タンゴは悪戯っぽく嘲った。

●今回の参加者

 ea1544 鳳 飛牙(27歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1683 テュール・ヘインツ(21歳・♂・ジプシー・パラ・ノルマン王国)
 ea1984 長渡 泰斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea2955 レニー・アーヤル(27歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea3000 ジェイラン・マルフィー(26歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea4136 シャルロッテ・フォン・クルス(22歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea4238 カミーユ・ド・シェンバッハ(28歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea5297 利賀桐 まくる(20歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea6855 エスト・エストリア(21歳・♀・志士・エルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

キラ・ヴァルキュリア(ea0836

●リプレイ本文

●大失敗
 湿地から一握りの泥炭をつかみ取る。見た目は真っ黒な泥。よく見れば未だに原型を留めた草の茎や葉の筋が残り、何やら小さな虫がうごめいている。
「泥炭‥‥読んで字の如し。まさに泥の炭だな」
 そんな感想を呟いて、長渡泰斗(ea1984)は鳳飛牙(ea1544)に頼まれた仕事に取りかかった。スコップで泥炭を掬い取っては大きな桶に詰め込み、手押し車で運んで行く。その横を飛牙がひょいひょい歩いて泰斗を通り越して行く。飛牙の背中には天秤棒、その両の端には泥炭をぎっしり詰めた桶二つ。
「おい無理するなよ。一人でそんなに担いじゃ大変だろう?」
「ム〜モンタァ〜イ(無問題)!」
 などと華国語で返事してくるりと後ろを向き、後ろ歩きで泰斗に口をきく飛牙。
「こういうのには馴れてっからさ。道場に弟子入りした頃は、体力付けるのに散々やらされたもんさ。棒に重たい水桶ぶら下げて、山道をえっちらおっちら‥‥うわっ!」
 道のくぼみに足を取られ、蹴躓いて転んだ。泥炭まで派手にぶちまけて、体中真っ黒け。
「ほら、言わんこっちゃない」
 予め、お屋敷の裏庭の地面に人が横に入れるだけの穴を掘り、運んできた泥炭でその穴を満たして準備完了。
「で、穴掘って泥炭入れて、何するわけよ?」
 お目付役の黒猫女タンゴに訊ねられ、
「泥炭ってのが美容に良いらしいんだよな。で、実際に試してもらおうと思ってさ」
 タンゴは飛牙のほっぺたを指でつまんでぷにぷに。
「うぇぇ、なんだよ‥‥」
「あなた、若いだけあって綺麗なお肌してるわねぇ〜? あなたが最初の実験台になってはいかがかしらぁ?」
 男殺しの微笑みにウインク一つ。
「よっしゃあ! 俺も男だ、やってやるぜ!」
 で、飛牙は服を脱いで、ジメジメドロドロの泥炭の中にざぶん。そのうちに冒険者の女性陣やら村の娘たちやらが集まって、物見高く見物を始めた。──え? 何やってるの? 泥炭風呂? 美容にいいの? ホントかしら?
「あ、体がポカポカ温まってきて、いい感じ‥‥ちょっと待て、何かヘンだぞ。ポカポカっていうより、体がヒリヒリ‥‥うわっ! こいつはヤベぇよ! 水! 水!」
 思わず泥炭の中から飛び出し、井戸端へ行って泥炭を洗い流すと、飛牙のお肌は赤くかぶれてヒリヒリ痛み、しかも黒い奇妙な塊が体のあちこちぶら下がっている。
「うわっ! 蛭だぁ!」
 泥炭の中には蛭がいる。獲物を見つけると吸盤の口で吸い付き、血を吸うのだ。ヒルの噛み傷は小さいが、なかなか血が止まらないから後が面倒だ。
「そういえば、悪い血を蛭に吸わせる健康法もあったわよね〜」
 なんて言いながら、タンゴは事も無げにぷちっぷちっと蛭を引き剥がす。
「あ〜ら、もうこんなに血を吸って大きくなっちゃってぇ〜」
 その有様を眺めながら、女性陣は安堵のため息。──飛牙が尊い犠牲になってくれてホントに良かったわ。

●キノコ
 蛭騒ぎも一段落すると、飛牙はイリア・アドミナル(ea2564)のお手伝い。二人して近場で薬草を探してみたのだが、特に目新しい物は見つからなかった。
「そーいや、ジャンさんのところでトリュフが採れたけど、ここら辺にもあるかな?」
 そんな会話をしていると、手伝いをしていた利賀桐まくる(ea5297)の目にふと止まった物がある。
「これ‥‥キノコだよね?」
 荒れ地の岩の傍に積まれた泥炭からキノコが生えている。新たな発見であった。キノコの生えた泥炭は、恐らく去年あたりに薬草を取りに来た土地の物が、作業の過程で捨て積んだ物であろう。泥炭は菌に冒されてボロボロになっている。
「見たところ、食用になる種類ですね」
 イリアが目利きする。もっとも、食べられそうに見えて実は毒キノコであることも多い。経験深い土地の者に聞くなり、動物に食べさせるなりして確かめた方が良さそうだ。

●販路確保
 傷つけず、根こそぎ取らず、保全すること。それが肝心とイリアは言う。モーブ・ミント・トクサ・クレソン。それらの見本を携えて急ぎジェイラン・マルフィー(ea3000)が向かったのは商人ギルド。
「またお前か?」
「親方ぁ。これ一束3Gの価値はあると思うじゃん」
 早速交渉が始まる。弟子とは言え商売だ。厳しい値段が付けられる。
「えー。だって、商人は金が命。元手は大切にしろってのは親方の教えじゃん。今ある資源を枯渇させず最大限活用して稼がなきゃ」
 心配そうに付き添うまくるの共々弟子を見やり、
「判った。ならば独占契約だ。それで良いなら投資の意味も込めて奮発しよう」
 展開に、まくるは喜びのあまりジェイランに抱きついた。
「こほん。だが泥炭はこれくらいだな」
 泥炭は輸送費を除けば辛うじて黒が出る程度。
「手を加えた方が高く売れる。加工品をこの値で買い叩こうとは思っておらんぞ」

●トレーニング
「あ、ご、ごめん‥‥もう少しゆっくりの方がいい?」
「ご、ごめんなさい‥‥大丈‥‥んんっ‥‥」
「もうちょっとで届くから‥‥ほら‥‥」
 全身の筋肉を伸ばす運動は、怪我を防ぐのに重要だ。少々身体の硬いマチルドにとって、地面にぺたりと座ったまま上体を前に倒すのも一苦労である。飛牙の身体面での特訓は、この後森の探索を兼ねたランニングと続く。
「貴族の奥様なら太目の方がいいんだろうけど冒険者を雇ったという話も領主の耳に入るだろうし、苦労なく金を集めましたと見られるのもあんまりいい気分しないしね。どうせあんな事言ってくる領主様だ、結婚してからもいろいろ仕事が待ってる。貴族は体力だ、行くぞーっ!」
 青春っていいねえ。マチルドはぜえはあ言いながらも大きく頷き、水を一口含んでは足を進める。

「領主の奥方の嗜みとしてぇ、母国語のぉ読み書きはぁ必須条件ですぅ。今日からぁビッシビシやりますよぉ」
 間延びした口調のレニー・アーヤル(ea2955)。
「ではぁ、名前を書いてみましょう〜。『マチルド』の綴りはぁ‥‥」
 言いかけて、きれいな筆記体でマチルドと書かれていくのを見るレニー。
「あ、あの、名前は書けると‥‥伝えた事があったと」
 そう言えば、手紙は宛名とサインだけは自分で書いている、と言っていた。しかしこれだけとはいえ綺麗な字だ、将来立派なレディからのお礼の手紙を見る事も出来そうである。
「そ、そうですねぇ。それでは紋章の方の勉強に入りましょうかぁ」
 少々慌てつつ、レニーは新たな板を取り出した。この辺りの領主の紋章と、その持ち主の名前がそれぞれ書かれている。貴族の仲間入りするからには最低限の紋章知識は重要だ。少なくとも名前の綴りを覚えておく必要がある。
 数日の学習の後。マチルドは近隣の領主の名前を覚え、紋章と照らし合わせる事が出来るようになった。残念ながら手本を見ずに名前を書く事は出来ないようであったが。
「うーん、本当は調査資料を読むところまでいきたかったんですけどねぇ」
 何事も詰め込み過ぎは効率低下を招くものである。レニーはこの辺りで切り上げることにした。
 変わって講師となったのはシャルロッテ・フォン・クルス(ea4136)であった。
「領主の妻たる者は、いざと言う時夫に代わって領地防衛を指揮しなければなりません。また、騎士の道を知っておく必要があるでしょう。貴族の儀礼は行き違いによる意味のない諍いを避けるために生まれました。武器を持つ者が弁えもなくそれを使うならば、それは悪魔をただ喜ばせるだけの行いとなるります」
 剣で闘う必要はない。それは忠誠を誓う騎士の仕事だ。領主の奥方たる者は彼らの統率者でなければならない。
「自分の指に剣先を軽く当てて見せましょう。ほら、こうやって刃が人の肌に刺さると傷つくのですよ。不用意に振り回さないよう、注意してくださいね」
 いざという時、敵の一撃をかわす技量は確かに必要だ。しかしもっと大切な心得がある。乗馬だ。馬は賢い動物で、乗り手に資格がないと見ると言うことを聞かない。馬を御せない者は統率者としての資質を疑われても仕方ない。
 先ずは馬になれるために貴婦人としての乗馬から。シャルロッテが轡取る馬に、横乗りに乗る。おっかなびっくり駿馬の上のマチルドに、
「何れは一人で跨って頂きますよ。馬で領地を回ることも貴族の奥方の嗜みです」
 小領主と言えども徒歩で回ることは、創造主の権威を身に帯び清貧質実を良しとするクレリック領主でも無い限り、著しく権威を損ねるのだ。

●商品開発
 馬車で自前の実験器具を持ち込み、エスト・エストリア(ea6855)は石造りの一室に居を構える。樋で水を引き入れ、排水の管を張り、どうにかこうにか即席の実験室を創り上げた。
 バラ水の作成は錬金術の基本技術。乾燥させた香り良き花や香草を蒸して、蒸気と共に抽出されるオイルを冷やして取り出す。程なく出来たミントオイルのきつい涼やかな香りに、ふふりと会心の笑みを浮かべる。オイルの含有量は申し分なさそうだ。
 但し、実験室的には誰でも出来る簡単なものであるが、本格的に売り出すとなると話にならない。温度管理もさることながら蒸気を逃がさぬ設備が要る。配管は加工が容易な鉛だと、比較的安く済むであろう。荒抽出を大規模なそれでやり、精製の再蒸留を実験器具で行えば、費用は最小限で抑えられると思う。
「どうですか? タンゴさん」
 得意げにプランを示す。
「そうですね。抽出釜は特注品になりますから、かなりな出費が必要でしょう。ただ、それがお金を稼ぐのですから、投資する意義は高いですね」
「さらに実験が必要ですが、もし抜く香草があれば後で売って下さると助かります〜。抽出用の道具を買い揃える程儲かったらレシピを販売しますね〜」
「香草はジェイランさんが作ってくれた販路に全て乗せる予定です。商品開発用には少し回せるとは思いますけど。‥‥ご希望のレシピの買い取りはおいくらですか? 今回のお給料でお支払いしますが‥‥」
 そうだった。限られた資金から全ての支払いは為される。気づいてエストは、
「レシピ代は儲けの歩合で頂きます。ところで薪等はどれくらいまでなら資金持ち出しに成りませんか?」
「大した出費じゃないですけど、相場分は頂きますよ。それよりも泥炭を使った方が良いんじゃないですか?」

●薬草園
「とりあえず、だ。湿地の水をどうにかせにゃあならん。が、水を抜く為に工事をするには如何せん、資金が少ないのが致命的だな。水路を掘るにしろ何にしろ、人足を雇ったらソレだけで35Gなんて吹っ飛んじまう。‥‥てな訳で当面、工事はしないで『湿地である事』を活かしていった方が無難ではなかろうか? 水生の薬草を植えるとか、活用は出来ると思うのだが‥‥」
「そうですね‥‥」
 泰斗の言葉にじっと耳を傾けていたイリアは、ふと思い当たる。先の調査で見つけたモーヴもクレソンも、湿地でないと生育しない。ならば泰斗の言う通り、湿地であることの地の利を生かし、湿地に適した作物を育てて行くのが最善であろう。
「自生する薬草を生かす形で、薬草園として整備する。それが一番でしょう」
 見通しは立ったが、仕事の前に確認せねばならないことがある。
「ねえ、聞いてもいい? ナイフにスコップに農民セットとか使う予定だけど、僕たちが自分で使う分も予算から出してもらわないといけないのかな? 毎日きちんと持ち帰るなら、持ち込みありでいいのかな?」
 テュール・ヘインツ(ea1683)が訊ねると、タンゴは答えた。
「そ〜ね。道具の持ち込みは構わないけど、道具の使用料として予算から差し引いて、その分をあなた達の報酬に追加することになるわね〜。道具1つにつき、その使用料は1人1日あたり1ゴールド‥‥」
「え〜っ!? そんなに!?」
 聞いて思わず顔から血の気が引いたが、そのすぐ後で、
「あ〜ウソウソ。そこまで悪魔みたいな真似はしないわよ。使用料はせめて銅貨で払えるお値段にしてあげるわね」
 それを聞いて、テュールもほっと胸をなで下ろす。
「ところで、その猫の耳みたいな飾りだけど‥‥」
 ずっと気になったので、ついでに訊ねてみる。
「あ〜、これは一種の‥‥まぁ、おまじないみたいなものよ」

 薬草園の場所としてイリアが指定したのは、モーヴやクレソンなどの自生地からさほど遠くなく、ガマやアシなど水辺の雑草が生い茂る土地だった。
「大変なことだけど、始めなきゃ始まらないから頑張ろうね」
 テュールは早速、地面に見取り図を書いて作業の段取りを始めた。
「水路の予定が立て易くて、薬草が育った後に運んだりするときになるべく便利で、雨が降って川の水嵩が増しても沈んじゃわないところ‥‥て、そんな都合のいいところあるわけないよね」
 さしあたってティールは、川の増水の影響を受けにくい場所から整備作業を開始。繁茂する雑草を刈り取り、運搬を便利にするための木道を設置。木道に使う板はなるべく廃材を利用して経費を抑える。刈り取った草は天日で乾かした後、焚き火にして処分。残った灰は売りに出し、経費の足しにする。整備作業と平行してモーヴとクレソンの採取も行った。
 さて、作業も一区切り付いたその日の夕刻。
「‥‥ああ、どうしましょう」
 イリアは途方に暮れていた。乾燥した泥炭を使って薫製肉を作ろうと試みたのだが、結果は大失敗。泥炭は火力が弱く、薫製材料は無駄になった。そもそも桜の木のチップなど、薫製に適した木でいぶさなければ、おいしい香りが肉に付かない。
「実験のつもりでやったんだから、余計なお金はかかりませんわよね!? かかりませんわよね!?」
 両手を合わせてタンゴに懇願すると、
「なら、今回はそういう事にしてあげるわね。その代わり‥‥」
 そんなわけで、その日のイリアの夕食からはお肉が消えてティールの前に移動した。

●予算がどんどん減っていく
「さてさて。本日のお給金でございま〜す♪」
 依頼の最終日。冒険者の一人一人に、タンゴがニコニコ顔で報酬を手渡す。冒険者たちの顔もホクホク。手の中に受け取った金貨がずしりと重く‥‥え!? 金貨がこんなに!? どうして今回も報酬がこんなに多いの!? 冒険者たちの顔から笑いが消えた。
「今回の収支決算を簡単に説明するとねぇ〜、薬草販売その他で36G儲かって、だけど設備投資に50G以上費やして、あなた達への報酬をさっ引くと‥‥という厳しい現状なのよねぇ〜」
 言葉を失う冒険者たちに艶っぽい横流しの視線を送りつつ、タンゴはニコニコ笑いながらトドメの一言。
「早いとこ収益上げないと、あぶないわよん」

 残金:20G18C