美人はいかが3

■シリーズシナリオ


担当:マレーア

対応レベル:7〜13lv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:05月15日〜05月20日

リプレイ公開日:2005年05月23日

●オープニング

「一応、動物に毒味して貰いましょうね」
 泥炭から生えたキノコ。太陽のぬくもりを保って暖かい岩場で開き初めたかさを山羊に与えると、むしゃりと上手そうに食べた。動物は本能的に毒を見分けるものである。
(「これでキノコ栽培もいけるかも。あとは、毒消しを用意した上で人間が‥‥」)
 力づけられるマチルドの目は、次の瞬間さらに大きく見開かれた。なんと、山羊はキノコばかりかキノコによってボロボロになった泥炭まで食べ始めたのだ。
「こ、これってどういうこと?」

 その頃、心配して見に来た女忍者が見守る中。女性錬金術師と史書の二人は文献を調べ、泥炭の有効活用を探していた。
「泥炭は火力は無いけど、スープのようにことこと煮たり、染め物作業には向いて居るみたいですね」
「ええ。弱くて安定した火力は香気抽出の温度管理にも都合がいいわね〜」
「これで‥‥『まちるど』さんのご両親に‥‥その‥‥本当のことを‥‥話せるかも知れません‥‥」
 二人の自信に満ちた会話に、マチルドが解決しなければならない今ひとつの問題が提起された。彼女の親は、まだ婿の身分を知らないのだ。

 さて、いろいろと良い兆しが有るとは言え、ますます減り続ける資金。幸い販路と加工のメドは立ったが、薬草園はこれからが始まりだ。
「皆様、もっとお金を儲けませんと、次でマチルド様は破産ですわよ」
 皆を集め、タンゴは容赦ない宣言を行った。

●今回の参加者

 ea1544 鳳 飛牙(27歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1683 テュール・ヘインツ(21歳・♂・ジプシー・パラ・ノルマン王国)
 ea1984 長渡 泰斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea3000 ジェイラン・マルフィー(26歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea3446 ローシュ・フラーム(58歳・♂・ファイター・ドワーフ・ノルマン王国)
 ea4136 シャルロッテ・フォン・クルス(22歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea4238 カミーユ・ド・シェンバッハ(28歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea5297 利賀桐 まくる(20歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea6855 エスト・エストリア(21歳・♀・志士・エルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

双海 涼(ea0850)/ ミィナ・コヅツミ(ea9128

●リプレイ本文

●美容計画
 ローシュ・フラーム(ea3446)が新製品のテストに寄こした新型鍬で泥炭掘りの効率は上がる。煉瓦を作る要領で、木枠に押し込み形を整える。
「いろいろ試したがこのやり方がベストだろうな」
 ほくそ笑むローシュの傍らで、鳳飛牙(ea1544)は身体を張った仕事をしている。
「う゛〜」
 朝早くから、悲鳴ともつかぬおぞましい声を上げ、泥炭から引き上げた腕を火に近づけ、食らいついた蛭を引き剥がし、壷に入れる。売れるかどうかも判らぬ蛭を採取するためだ。
「んー。こちらはさっぱりです」
 棒等で蛭が食いつかないか試みるテュール・ヘインツ(ea1683)。だが全く食いついてこない。カミーユ・ド・シェンバッハ(ea4238)の提唱する美容利用は頓挫の模様であった。
「あ、あのう‥‥」
「どうしたんだい? マチルドさん」
 両腕を腫らした飛牙が微笑むと、いかにも申し訳なさそうにマチルドは言った。
「差し出がましいかも知れませんが、泥炭をゆっくりと自然乾燥させると蛭は逃げ出すと思います」
「あ〜!」
(「またミヤに馬鹿にされる」)
 飛牙は赤面した。早速、泥炭を蛭が通れるくらいの粗い籠に置いて、濡れた水苔を敷いた箱の上に置いてみた。半乾きに為った頃、箱の中を覗いてみると沢山の蛭が蠢いている。テュールがエックスレイヴィジョンで確認してみると、蛭は泥炭から逃げ出したようだ。
 こうして蛭と泥炭の分離にメドが立った。但し美容に使うためには匂いを何とかする必要があるだろう。

 その様子をやれやれと言う感じで長渡泰斗(ea1984)は眺めていた。
「俺の手配は無駄になったようだな」
 苦笑する泰斗。そこへタンゴが何十頭もの山羊を連れてやって来た。
「頼まれた通り家畜を調達してきたわ。目的は畜糞の肥料化だったわよね?」
「た、タンゴ殿。こんなに‥‥金はどうするんだ?!」
 真っ青になる泰斗を後目に
「お金? 残念だけどこれしか貰えなかったわ」
 ポンと革袋を放る。確かめると、銅貨ばかりで300枚はあるだろうか。
「一頭一月1C。仔山羊ばかりなので乳は出ないけど、肥育を請け負って預かって来たの。餌をどうするかは知らないけれど、山羊なら荒れ地の雑草で充分ね。くれぐれも薬草を食べられないように注意してね。ともかく、これで畜糞は手にはいるわよ」
「‥‥あ、忝ない」
 泰斗は冷や汗を拭った。俗に一石二鳥と言うが、投げる物は石で無くては為らない。フスマやおがくずを放り投げても効果が期待できないからだ。ジャン卿の時とは別の考えに改めなければ、成功は難しいだろう。
 泥炭で食用キノコを栽培し、そのボロボロに為った苗床で家畜を養う。そしてその糞で土地を肥やす。‥‥言うは容易いが、幾重もの障害が立ちはだかる。泰斗は荒れ地の岩を片づけつつ、想いを巡らせた。

●父の背
 手入れの行き届いた農地。麦の青い穂が風と追いかけっこをしているその中に、熱心に草を取る農民の姿があった。
「初め‥‥まして! まちるどさんの‥‥使いです」
 利賀桐まくる(ea5297)はたどたどしい言葉で語りかけた。マチルドは正に今が正念場。冒険者達による教育や農園の仕事と多忙を極める。この場を離れることは勝負を下りる事だとタンゴに言われれば是非もない。このため代わりに赴いたのがまくるであった。
 農道に腰を掛け、お弁当のパンと古ワインを頂きながら、まくるはマチルドの父と言葉を交わした。
「まちるどさん‥‥が、たとえ‥‥これからどうなろうと‥‥あなたの方の娘である事に‥‥変わりありません。ボクらも精一杯‥‥お力添えします、どうか‥‥まちるどさんを‥‥暖かく‥‥見守ってあげて‥‥下さい」
 頷く父の姿。まくるの思いは充分に伝わったようだ。

●蒸し風呂
 ‥‥農園の近く、テントが一つ。路銀の無い旅人が一晩の宿だろうか‥‥っておい、煙?!
「ぷぁ、いーい感じー☆ こんだけ湯気出るなら、普通の風呂屋に負けないぜ」
 テントの中から上半身裸で出てきたのは飛牙。どうやら煙に見えたのは湯気であったらしい。泥炭を用いてかまどで石を焼き、テントにおいた壷にその焼き石を入れて上から水をかける。こうすることにより、テントは小さな蒸し風呂となっていた。
「後はジャンさんのところに頼んだやつがいくらになるかだよな。出来ればタダで譲って欲しいところだけど」
「あら、ジャンの馬鹿と知り合いなのン?」
 タオルと水を差し出すのはタンゴ。どうやらこちらもジャン・タウラスとは知り合いであるらしい。しかし馬鹿とまで言いますかタンゴさん。
 泥炭を利用した蒸し風呂。可能であれば入浴料で金を稼げる、と言う事だろう。個人用テントは実験用で、本番ではジャンに頼んだという軍用テントを用いるようだ。
「でェ。そのテントの輸送費は、どこから出るのかしらぁん?」
「‥‥え゛?」
 ぺけぺけと計算道具を細い指ではじきながら、タンゴは本来の自分の耳を掻くと
「あの馬鹿のところからだからぁ、輸送費だけで安く見積もっても10Gォ? それに『現役で使える軍需品』は流石に無料じゃ回してくれないわよね。村の教会を囲える程の大きさな訳だしィ、布代として考えてもせいぜい300は下らないわねェん‥‥あら、だいじょぶ?」
 のぼせたか、頭が追いつかなかったか。
 タンゴの足元で倒れる飛牙の姿があった。
「それにこれだけの手間がかかるんじゃ、パン屋の風呂の方が安くなりそうだしィ」

●薬草園
 イリア・アドミナル(ea2564)の神経はいかに支出を減らし利益を出すか、ということに絞られていた。今の時期は、一晩明ければ雑草の芽があちこちから生えてしまう。テュールやローシュらと協力しながらそれらを摘んでいく。
 しばらくして、ローシュは今後のことを考えた提案をした。
「荷の量が増加した場合、陸運より水運‥‥だと思うが、ギルドへその費用の見積もりを依頼してはどうだろう。その時に使う船は、修復可能な廃船あたりで」
 そうですね、と手を休めて頷くイリア。
 さらに、大きなものということで風呂を思い出す。
「まだ焦ることはないと思うんです。最悪、建築費用だけで赤字ということも考えられますし。今回は、建築用の石の用意と、香料を使った宣伝、建築費用の見積もりまででいいのではないでしょうか」
「残金も少ないしね。あ、ミントだけど香り袋にしたら卸値が上がるみたいだよ」
 テュールが販路を拓いているジェイラン・マルフィー(ea3000)から聞いた話である。
「それじゃ、ミント4に対し他三種はそれぞれ2の割合で栽培しましょう」
 イリアは育ちの良いものを選んでそれぞれ株分けし、繁殖しやすいように手を加えた泥炭地に、仲間達と共に植えていった。植え方にも気を配っている。
 さらにテュールは、前回は採らなかったウォーターミントとトクサを販売に当てた。その際、イリアは薬草の鮮度と保存状態に気をつけるように言い、濡らさないように梱包した上でアイスコフィンでの保存を提案した。
 最後に染料や染物の作成だが、自生の植物からそれに適したものを探し出した。

●エスト工房
 イリアが選別した染料用の植物を加え、エスト・エストリア(ea6855)はハーブやバラからの染料の抽出実験を開始した。前回作った香料のようにうまくいくことを願って。
 抽出が終わるまでの間、エストはマチルドへ香料抽出のレシピ伝授をみっちりと行った。特に温度調節。
 真剣な顔で指導を受けるマチルドの側で、テュールは抽出した精油とミント水の調香をしていた。こちらも大ヒットを目指して真剣である。
 エストの脳はさらに別のことにも働く。
 これはタンゴとの相談も必要になるが、レシピ歩合の話だ。
 今だと、設備補修・香料抽出・設計の三点からお金をもらうはずである。まだエスト一人で作業を行っているが、将来はマチルドか雇用人がやるだろう。そうなったら歩合を下げるつもりでいた。後は香料や発見物の命名権でも下げられるだろう。
「命名権をどうするかは、お任せしますね」
「あ、はい」
 生返事のような応答。
「依頼外で売れた分は錬金術研究所宛てで送ってください。何れまとまったお金ができたら、後日命名権まで含めてお売りします」

 覚えることがいっぱいで知恵熱でも出しそうなマチルド。
 そうこうしている間に染料抽出も終わり、いよいよ染めの実践である。
 テュールも一時手を止め、出来具合をじっと見守る。
「‥‥む」
 どうやら想像していたようにはいかなかったようだ。
 原因を調べてみたところ、ミョウバンの質がいまいちということだった。産業化するには、腕の良い染色職人と、安価で頼める錬金術工房が必要だろう。
「腕の良い染色職人ねぇん。もう亡くなったけど、パリにとっても鮮やかな赤と赤紫を染める事が出来る親方が居たわ」
「おい。その技を伝える人は居ないのか?」
 泰斗の問いにタンゴは
「確か一人息子が居たはずよ。同業者の妬みを受けて潰されたと聞いているわ」

●レディの嗜み
 マチルドのスパルタ修行は今は剣の稽古である。
 指南役はシャルロッテ・フォン・クルス(ea4136)だ。
「主が留守の間、領地を守るのが妻の務め。万が一、賊が侵入した時皆を守るために剣を取らねばなりません」
「男の人に勝てるものでしょうか‥‥」
「力では勝てませんから、技とスピードで補うのですよ。足さばきが重要ですが、これは体で覚えてくださいね」
 とりあえず、生傷は絶えない。
 休憩の時、シャルロッテは呼吸を整えるマチルドにそっと尋ねた。
「やはり、気心知れた仲でなければ自身のことを話すのは難しいですか? わたくしは単にマチルドさんが得手とするものがわかれば、これからの方針決めに役立つと思ったのですが‥‥」
 冒険者達の惜しみない協力に、マチルドは充分に感謝していた。
「わたしは‥‥」
 ぽつりぽつりと、彼女は言葉を紡いでいく。
 シャルロッテはそんなマチルドに手製の人形を手渡し
「自信を持ってください。主はあなたを覚えて下さっています」
 休憩が終われば、次は礼儀作法や振る舞いの授業である。
 これには、カミーユも加わった。
「100m先からでも、それとわかるのが美しい姿勢ですわ」
 つま先は少しだけ離して踵はつける。お尻を引き締め腹筋と背筋で背すじを真っ直ぐ‥‥等、指導は細部にまで及んでいる。しかし初心者にはこれくらいが良いだろう。
「歩く時はその姿勢を維持したまま、体重は前に出した足と共に移動するのよ」
「‥‥ぅ」
 いきなりは難しかったようだ。
 けれど、ひたむきに会得しようとしているから、日を置かずそれが自然となるだろう。
 特訓は乗馬にも及んだ。
「あまり考えすぎてはダメよ。その緊張は馬にも伝わってしまうわ」
 乗る前に馬の大きさに慣れるのが先かもしれない。マチルドはすっかり馬にバカにされていたのだった。

●販売開始
 売らねば資金は減るばかり。それは判っちゃいるけれど‥‥。
 マチルドの諮問にローシュは答える。
「わしに商売の事を聞くのは無駄というものじゃ。わしの店を見れば、そんなことを聞く気にはならんだろう」
 如何ともし難い焦燥感。
「だが、わしは有能な男を知っている。ジェイランならあるいは」
 その頃、ジェイランはドレスタットの商人ギルドで勝利しか許されない戦いの直中にいた。サンプルとして持った来たのは、ハーブ染めの糸・キノコの乾物・ミント水。そして、キノコでボロボロになった苗床と蛭。
 ジェイランが自分の弟子故に、一通り説明を聞いてくれていた師匠は、ゆっくりと口を開き厳しい言葉を投げかけ始めた。
「先ず、使い終わった苗床だ。着想は素晴らしいが、キノコを採って飼料として使えるまでの時間が問題だ。安定供給できなければ、いくら値を下げても売れぬだろう。寧ろこれはマチルド殿の農園で消費するのが良い。運送コストを考えると割りにあわんでな。蛭も採算が合わぬのでギルドでは扱わない」
 素早く頭で検算する。輸送で利益が飛びそうだ。
「次ぎに、キノコは普通に市場に流せる。スープの具としてはそこそこに売れるぞ。ハーブ染めはいまいち発色が不安定だ。まだまだ売り物には早いだろう」
「じゃあ、良いミョウバンさえ手に入れば良いじゃん」
「いや、技術蓄積が無いのも原因だろう。安定して染めることができなければ売り物には為らぬ。それに、今取り合えず上手く染まっているのは生糸と羊毛だけだ。麻や木綿はお話にならない」
 一番良い物を持ってきたつもりだが、明らかに染まりが悪い。
「師として忠告しておく。糸は買わずに自前で作れ。値段と出来具合から見るに、羊毛を使うのが良いだろう。ミント水だけだな、今すぐ金になるのは。キノコが育つのには時間が掛かる」
 こうしてジェイランの働きで試験販売が始まった。

●終焉?
 皮袋からこぼれるコインからは、今までのような美しい輝き見ることは出来なかった。
「‥‥83C‥‥ですか」
 タンゴの差し出した皮袋の中には、金貨は一枚も入っていなかった。
「染物用の生糸とミョウバン。精油生成・風呂試作の薪。ジャン宛のシフール便代。その他もろもろ。‥‥出費があまりにも多すぎるわ。これではいくら商人ギルドに顔をつないでも、売りに行く前にお終いね。‥‥お疲れ様、かしら?」
 普段とは全く違う口調で淡々と話す黒髪の女。事態はそこまで差し迫っていた。マチルドの農園経営は遊びではない。経営用の金が無くなったらそこで終了なのだ。終了と共に鎖される結婚の道。
「‥‥マレシャル様‥‥」
 手の中にあった小さな人形をぎゅうと握り締め、必死に涙を堪えようとするマチルド。しかし幾ら堪えようとも瞼は涙を止める堰にはならず、ほろりほろりと零れ落ちるばかり。

‥‥ごりっ。

「‥‥え?」
 手の中の、硬い感触。思わず握っていた人形のスカートをめくりあげると、腹の部分は袋状になっていた。開けて見ればなんと五枚の金色の硬貨。
「‥‥?!」
 目を丸くするマチルド。それは見ていたタンゴも同じだ。しかし、その後の対処は流石にタンゴの方が上であった。
「‥‥私に気づかれないうちに、一部の金貨を別にしてあったのですね。マチルド様、あなたの用心深さと心がけは素晴らしいものですわ」
 きょとんとするマチルドを横目に、こぼれ出した金貨を皮の袋にしまいこむ。先程よりも重さを増した皮の袋をマチルドの手の中に収めると、その手の上から自分の手を重ねた。
『諦めてはいけません。主はあなたを覚えておられます』
 人形の服には同じ色の糸でそう刺繍されていた。

残金:5G83C