井中の冒険・十 奈落

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:7〜11lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 79 C

参加人数:10人

サポート参加人数:3人

冒険期間:04月13日〜04月19日

リプレイ公開日:2005年04月23日

●オープニング

 昨年夏、江戸から2日の村で遺跡が発見されたことから端を発し、
 途中で依頼が中止されたり、様々な紆余曲折を経たが‥‥ついに最後のとき。


 江戸、冒険者ギルド内。
「あの村と、連絡が途絶しました」
 ギルドの手代は、井戸の村の危機的な状況を淡々と語った。
 まずは前後の事情から説明しなくてはなるまい。

 この前の依頼で、冒険者達は村で怨霊と遭遇した。
 すぐ次の依頼が来るかと思われたが、それ以来、何の音沙汰もない。手代も後で知った話だが、村の領主である結崎秀昌は独自で怨霊退治を行おうとしたらしい。
「相良縞之介が雇われたそうです。‥‥どうにも出来すぎた話ですがね」
 相良は結崎の配下と裏山の洞窟から遺跡に潜り、消息を絶った。

 以上の話は村に残っていた山師の子分達から、調査旅行から戻った探検家の白河重庵が聞いたものだ。そのあと白河は冒険者と話をするためにギルドにやってきて現在に至る。
「久しぶりじゃな。だが、ゆっくりはしておれんのだ」
 ここからは手代にかわって、白河が話した。
 詳しい情報を得ようと白河の仲間が井戸村に残ったのだが、すぐ合流する筈が無い約束の日時が過ぎても連絡が無い。白河から話を聞いて手代も村の情報を得ようとしたが、結果は同様だった。
「こうなれば、じかに村に乗り込むしかないが、何が出るか分からぬ危険な仕事じゃ。お主達しか頼める者がおらぬ」
「という次第でして。結崎様にも伝えの手紙を出しましたが、おそらく間に合わないでしょう」
 もし届いたとしても、遺跡にギルドの冒険者が関わる事を許さなかった領主が手助けになるか分からない。
「仕事は村の状況を探ることなのか?」
「うむ」
 白河は頷いた。仲間の救出や事態の解明とは白河は云わない。
「じいさん、あの遺跡は何だったのか分かったのか?」
「分からん。二、三ヶ月の調査で遺跡のことが分かれば苦労はせんと前にも言ったじゃろう」
 それは道理かもしれないが、使えないこと夥しい。
 ともあれ、一刻を争う事態である。

●今回の参加者

 ea0176 クロウ・ブラッキーノ(45歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea0707 林 瑛(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea0841 壬生 天矢(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea1244 バズ・バジェット(35歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea1672 安来 葉月(34歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea2988 氷川 玲(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4653 御神村 茉織(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4660 荒神 紗之(37歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea4868 マグナ・アドミラル(69歳・♂・ファイター・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea6147 ティアラ・クライス(28歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)

●サポート参加者

嵐山 虎彦(ea3269)/ イレイズ・アーレイノース(ea5934)/ 水鳥 八雲(ea8794

●リプレイ本文

●沈黙の村
「‥‥あ」
 村に到着した先発隊5名。静まり返った村の捜索中に死人に襲われる。
「ぬぅおぉぉぉぉ!」
 敵は冒険者が戸を開けて中に入るまで、部屋の隅に身を沈めていた。牙を持った死人がマグナ・アドミラル(ea4868)の顔面を襲う。
「ふんっ!」
 右手の長巻を振るった。並の相手なら胴体真っ二つだが、死人は離れない。ビザンチンの巨人の肩から、血がふき出した。
「旦那っ!」
 短刀を持つ氷川玲(ea2988)は加勢に入ろうとしたが阻まれる。別の二体が冒険者を囲んでいた。ただの死人憑きとは違う俊敏性と行動――死食鬼だ。
 嫌な悪寒が全身を駆け抜けた。
「一体は俺が、コワす。残りは頼む‥‥」
 玲は月露を両手で包むように構えた。強靭な体力を持つ死食鬼に短刀一本で一対一(タイマン)を挑む。
「てことは、もう一つは俺か?」
 壬生天矢(ea0841)は微笑した。あと二人の味方は、こと格闘戦に関して言うなら一段は劣る。
「鬼道衆が1人、隻眼の若獅子‥‥参る!」
 僧兵の安来葉月(ea1672)に食らいつこうとした死食鬼の頭部を太刀で割った。頭に深々と傷を受けても、この魔物は平然と反転し、天矢に牙を剥いた。
「くっ‥‥」
 死食鬼に一撃受けた安来はすぐ下がり、携帯していたポーションを飲んだ。リカバーは修得しているが、傷ついた体では成功率は低い。
「私も戦います」
 死食鬼は安来が勝てる相手では無い。だが、安来が攻撃される間に仲間が倒してくれれば良い。それだけの覚悟はあった。
「私を忘れて貰っちゃ困るよ!」
 荒神紗之(ea4660)はマグナの援護に、後ろから死食鬼に斬りかかる。しかし、紗之の力ではカスリ傷を与えるのが精一杯だ。
「この不感症野郎! 私を無視するな!」
「‥‥」
 その間、マグナは防戦一方だ。マグナの狙いはカウンターだが、肩に受けた傷が深い。逡巡は死食鬼の特殊体質にもあった。相手が生物でない死人憑きだろうと、ダメージを受ければ動きは鈍くなるものだ。しかし、死食鬼にはそれが無い。戦い難い相手だ。
「‥‥ままよ」
 腹を決めた。

「おーおー、ズタボロだ」
 後発の五人が村に到着する。
「まあ、生きてるのが不思議なくらいだ」
 道返の石が効いたのか、辛うじて死食鬼を倒したが壬生とマグナは瀕死。氷川も数十合の激しい打ち合いの末に死食鬼を沈黙させる。魔物を排した後、荒神がブレスセンサーで隠れていた生き残りの村人達を発見し、助け出した。生き残りの話によれば、白河が村を去った直後に死食鬼が村を襲ったようだ。
「姐さん! ご無事でござんしたかっ」
 冒険者が揃い、これからの事を話している時に、以前村を出た山師の子分達がやってきた。彼らは姐さんと呼ぶのは荒神の事だ。山師達は少しばかり彼女に義理があった。
「水くせえじゃねえですか。一声かけてくれりゃ、もっと早く馳せ参じたものを」
「お前ら‥‥」
 そんな事になってたら、もっと一杯死んだろうか。既に、多くの死体を見ていた。
「‥‥ただ、連絡が取れないだけだったらどんなにか良かったか。こんなことになるなんて‥‥」
 安来は物言わぬ村人達に詫びた。
 村の生き残りは、わずか5人だった。


●最後の遺跡
 後発組の御神村茉織(ea4653)、ティアラ・クライス(ea6147)、林瑛(ea0707)、バズ・バジェット(ea1244)、クロウ・ブラッキーノ(ea0176)と、それに同行した白河重庵。
 合わせて10人の冒険者と一人の探検家は遺跡に向う者と村に残る者に別れた。
「次回に賭けても良いのだぞ?」
 マグナは言った。村に残るのはクロウと白河、それに荒神の三人。それに生き残りと山師の子分達だ。再び死食鬼の襲撃があれば、全滅は必至。
「行ってくれよ。片を付けなくちゃ、村は守れないんだ」
 前の依頼で彼らは確かに村を守った。それがこの結果だ。もとより、行くも留まるも地獄の一丁目。
「行ってしまいましたネ‥‥ウフ」
 クロウは三角頭巾に死に装束の幽霊スタイルで仲間を見送った。最後まで奇怪な男である。
「サテ、それでは全部燃やして無かったことに‥‥冗談ですョ」
 荒神と彼女の舎弟?達の冷たい視線に笑みを返すクロウ。冒険者達と山師は協力して死体を埋葬した。
「所でおぬし、その格好は何の為にしておるのじゃ?」
「前にここで幽霊にターッチされてしまったおかげで、私も仲間になってしまったんですョ」
 クロウは仲間を待つ間、白河と駄弁って過ごした。
「そう言えば、白河サンも余計なコトを嗅ぎ回ってる間に目を付けられましたかネ?」
「わしの事は心配せんでいい」
 白河は時折、苦しそうに咳をした。クロウの視線に気づくと、歳のせいだと苦笑いする。

 村を出た8人の冒険者は裏山の洞窟から遺跡に入った。
 第二階層までは無事に進み、そこで真新しい死体を発見する。ドワーフの戦士、確か相楽縞之介の仲間だった男だ。
「ここで死人憑きどもと戦ったみてぇだな。‥‥ここに死体が残ってるってぇことは、先に入った連中は全滅かね?」
 死体を調べていた御神村が顔をあげる。逃げたい気分満々だが、身体は前へ進む。
「待って」
 バズは仲間達が先に行こうとするのを止めて、呪文を唱えた。地の精霊力の助けを借りた振動感知の魔法だ。死霊に対しては無意味だが、不意打ちを受ける確率は大きく減る。
「この先に遺跡の主(ヌシ)がいて、あたし達が来るのを待ち構えてくれてたりするのかしら?」
 林瑛が呟く。
「くれなかったら何だ? こんだけの事があって、もぬけの空じゃ収まりがつかねえ」
 御神村は吐き捨てた。
 一行は奥に進んだ。時折現れる死人憑きを地道に倒していく。

「YAYAYA!
  YAYAYA!
 俺は武装をかかさないDADADA
 なぜなら武神だからYAYAYA
 だーけど分かるぜ熱い友情〜♪依頼の成功目指しずばっと決めるぜ〜
 唸ーれ鉄拳!!トリプルアタッ」
 仲間の頭上でティアラ・クライスが歌って踊る。そんな余裕を打ち消したのは壁や天井から染み出るように現れた青白い亡霊の、群れ。
「マジぃ? 今いち奮わない武闘会応援する暇もないってか?」
 シフールは青白い手から逃れようと必死に身をよじった。
「一匹だけじゃねえのかよ!」
 御神村は野太刀を振り回して下がる。怨霊を退治すれば終い、と思っていただけに大量出現に肝が冷えた。
「詮索はあと、今は切り抜けるのが先だわ」
 今回、唯一のオーラ魔法使いである瑛は側にいた天矢にオーラパワーをかける。自分にかけている余裕は無かった、冒険者達は10体前後の怨霊に囲まれている。
「わしが道を開く。呪文が完成したら、一気に抜けるぞ」
 死霊にダメージを与えられる相州正宗を振るって、マグナが通路の先を示した。
「燃やせ燃やせ怒りをもやーせー」
 前衛の援護にとティアラは氷川の腕に跨って月露にバーニングソードを付与した。一、二体であれば彼らのような熟練の冒険者には怨霊と言えど難しい相手では無い。だが数が多すぎた。

「次から次へと‥‥」
 命からがらに亡霊群から逃れた冒険者達。バジェットが新たな敵を感知する。
「旦那、交代だ」
 通路を塞ぐ埴輪達に、氷川は背負っていた大槌を引き抜く。最深部を目指す為に色々と用意をしていた。
「‥‥ちょっと疲れたからあたしは下がりたいかも‥‥代わりに宜しく」
 林は槌を天矢に渡した。
「心得た」
 ここまで魔法薬も惜しげもなく使った。それでも、いつ終わってもおかしくない無理をして進んできた。
「この有耶無耶のまま終わってたまるか‥‥命を落とした者達の為にも!」
 天矢が両手で握った槌から生まれた衝撃波が埴輪を砕く。
「行け!」
 初めてきた場所、道など分かる筈も無いが奥へ奥へと進む。

「ここも死体か‥‥うむ?」
 かなり来て、石室に数人の死体を見つける。侍と浪人、女僧侶。
「あなたも、ですか‥‥」
 安来は物言わぬ浪人の死に顔を見つめた。領主に探索を依頼されたという相楽縞之介はここで力尽きたらしい。
「ここは行き止まりのようだな。先の交差まで戻‥‥」
 言いかけて、マグナは相楽の死体が起き上がるのを見た。死体が纏う青白い影には、覚えがある。
『どこへ行く?』
 間近にいた安来はピュアリファイを唱える。
(「まさか死人憑きに、いえ死体に死霊が憑依した?」)
「待て。この者には聞きたい事があるっ」
 マグナは詠唱途中の安来の手を掴んだ。安来はその手を振り払う。
「離して下さい。この者が元凶なら‥‥どんな理由があろうともっ」
 許す理由が無い。
「同意だが、そんだけじゃここまで来た意味がない」
 氷川は安来を止めた。安来もそれ以上は言わない。側で見ていた茉織は心中で息を吐いた。彼もこの遺跡とは付き合いがいい加減に長い。色々と厄介事が増えたものだと実感する。
「んじゃ、何者で何故蘇りさ迷うか問うては見るかい?」

「貴き方よ、御身の名は何と申される?」
 マグナは武器を置いて相楽の死体と向き合った。
『‥‥我が名は‥加佐別。おおきみの臣にして、未和科の孫、大内彦の息子‥‥』
 言葉が通じるのか亡霊は質問に答えた。しかし、その後は沈黙。まるで他に語ることが無いとでも言うように。
『‥しい‥‥』
 憑き物が落ちて、相楽の死体は倒れた。

 冒険者達は遺跡を出た。帰りは何故か亡霊は現れず、行きほどの苦労は無かった。


●井戸村
 探索組が村に戻ると、結崎秀昌が来ていた。
「ご苦労であった」
 言葉少なに冒険者達の労をねぎらう。事情は村に残った荒神が話していた。
「村への救援、痛み入る。その方たちのおかげで、村の者を救うことが出来た。幾ら感謝しても足りぬ。して、山へ向った者達は如何であった?」
「残念ながら‥‥」
 相楽達の全滅を報告する。遺跡で見つけた死体には侍も混じっていた。恐らく相楽達に同行した結崎の部下だろう。
「左様か‥‥本当にご苦労であった。江戸で休まれるが良かろう」
 まさに死屍累々である。
「私達が口出すことじゃないけど、このあとどうするのさ?」
「さて‥‥」
 最後の言葉は意外に投げ遣りだった。今回の件、結崎も責めを負うことは明白。この武士が腹を切り、事件はそれで終わるのか。
「もし‥‥そうなったら」
 紗之、マグナ、天矢、玲の四人がギルドの手代に預けたものが意味を為す。それを渡された時、手代は顔をしかめ、本当に必要なのかと四人に聞いたほどだ。
 冒険者達は疲れ切った身体を休めるために廃墟と化した村を後にした。余談であるが、この時の活躍が山師の子分達の手で噂になり、荒神はこの村にちなんだ異名を持つ事になる。壊滅した村の名は斥鬼村と言った。


もう少しだけ‥‥つづく