井中の冒険・弐 発掘屋の喧騒

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 48 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月07日〜09月13日

リプレイ公開日:2004年09月15日

●オープニング

 先日、江戸から徒歩2日の距離にある村で遺跡が見つかった。
 村の中の枯れ井戸の底に隠された通路が発見され、石組みの通路の先には沢山の埴輪が守る大きめの部屋があったそうだ。
 早速、探索の冒険者ギルドに依頼が持ち込まれ、9人の冒険者が調査に向った。

「先の検討がつくようにと、お願いした筈ですが‥‥」
 冒険者ギルドの年配の手代は表情を曇らせる。
 固い埴輪を打ち破る策を持たずに井戸に入った冒険者達はほうほうの体で江戸に戻ってきた。
 金槌を持った冒険者を送り出そうかと村に使いを出すと、埴輪は別の冒険者が退治してくれたという返答が帰ってきた。しかし、村では新たな問題が発生したらしい。
「井戸の話を聞きつけて、山師ですとか発掘屋を名乗る人達が村に大勢やってきたとか」
 彼らはそれぞれ、自分達に遺跡探索を許可するよう村長に詰め寄ったらしい。だが、一組に認めると他の者達が暴れそうな気配であり、扱いに困っているという。
「そこで冒険者ギルドに仲裁を頼みたいのだそうです」
 ギルドとしてはそれぐらいなら冒険者ギルドに探索も任せて貰いたい所だが、前回の失敗があるのでそこまで強くは出れない。手代は今回の件を上手く仲裁して、引き続き依頼も受けられるようにして欲しいと冒険者達に言い含める。

 村に現れた発掘屋達は4グループ。
「まず霞の文蔵という山師を名乗る男です。見てきた者の話から察するに元は山賊でしょう。子分を10人連れているとか。次が河田屋与平‥‥文蔵と同じ手合いです。子分は8人。対立しているのは主にこの二人のようですね。三番目は白河重庵と名乗る発掘屋。冒険者風の仲間が4人いて、今まで遺跡を何度も発掘してきた専門家と言っています。最後が埴輪の部屋を破った浪人、相良縞之介とその仲間の3人です」
 村長は当然、最初は相良達に探索を頼もうと思ったそうだが、浪人の提示した依頼料が余りに高額だったので二の足を踏んでいるうちに文蔵達が現れて収拾がつかなくなった。
 このままでは村内で刃傷沙汰になる可能性が高いと、気の弱い村長は顔を真青にしているそうだ。

●今回の参加者

 ea0176 クロウ・ブラッキーノ(45歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea0707 林 瑛(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1244 バズ・バジェット(35歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea1672 安来 葉月(34歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea3187 山田 菊之助(29歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4331 李 飛(36歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea4653 御神村 茉織(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5428 死先 無為(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5999 不動 金剛斎(34歳・♂・志士・ジャイアント・ジャパン)
 ea6147 ティアラ・クライス(28歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●再び井戸の村へ
「先日はすまないことをした! この通りだ」
 ジャイアントが大きな身体を丸めて必死に謝罪している。
 彼の名は不動金剛斎(ea5999)、神皇家に仕える志士であり冒険者、先日の依頼に遅刻した人物でもある。
「さて、どうしたものですかネェ‥‥業界は信用第一とは良く言ったものですよ」
 ウィザードのクロウ・ブラッキーノ(ea0176)は額に手をあてて、溜息をもらした。
「‥‥確かに、前回私達が失敗しなければ状況がここまで複雑にはならなかった訳ですが」
 山田菊之助(ea3187)は頭を下げる不動に冷淡な視線を投げつけた。
 今回彼らは仲裁役を頼まれた訳だが、冒険者ギルドが最初の依頼に失敗していなければ山師やフリーの探検家が入り込む余地はなく、村も余計な不安を抱えることは無かったとも言える。
「弁解もない」
 更に身体を縮める不動。
「ところで、何で待ち合わせの場所に来なかったの?」
 林瑛(ea0707)の問いに、不動の顔が少し朱を帯びた。
「実は、納涼祭に浮かれて出発日を見誤ってしまった。面目次第もない」
 不動の背嚢には小梅ちゃん団扇やら山水画が入っている。他の仲間の荷物も似たり寄ったりだ。中には福袋で良い物を当てて稼いだ者もいたらしい。
「もう、そのへんで良いであろう。お前達も、人が悪いぞ」
 見かねたように李飛(ea4331)が言った。クロウは押し殺した声で笑っている。冒険に欠員は謂わば付き物で、今回も一人来ていない。常習者というなら話は別だが、心から不動を責める者はいなかった。
「失敗は俺達の責任だ、お前が気に病むことは無い。まあどうしても詫びたいなら、今度の仕事で返すのだな」
「そうそう、俺だって、あの時ちゃんと買ってればって思うけど、今更悔いても仕方ねーよな。今の仕事をなんとかしねーとさ」
 御神村茉織(ea4653)は不動に同情的だ。御神村の職業は忍者だが存外に優しい性格をしている。
「仕事で失った信頼は仕事で取り戻すしかありません。‥‥その仕事の内容が微妙な問題ですけど」
 安来葉月(ea1672)の言う通り、微妙な情勢だ。依頼は仲裁だが、ギルドとしてはこれからも仕事が欲しいのが本音。その匙加減を誤れば、汚名を雪ぐどころの話ではなくなる。
「下手をすれば、私達自身が争いの種となりかねないですからね」
 とバズ・バジェット(ea1244)は冷静に分析する。
「それなのですが」
 話の方向を見ていた死先無為(ea5428)は、この場で仲間達に確認することにした。
「バジェット様の仰るように、僕達も気をつけねばならない立場にあります。ですから最低限、村に入る前に意思統一をしておきたいのですが‥‥」
 死先はそこで言葉を切り、仲間の顔を見回す。異存は無いとみて、今回仲裁役とサポートに甘んじるか、それとも自分達も名乗りをあげるのか、多数決を取って決めたいと持ち出した。前者は悪くすればただの下請けであり、後者は道理に悖る上に反発を覚悟しなくてはならない。さて冒険者達の選択は。

●井戸端会議にて
「尻尾まいて逃げ出した野郎が今更戻ってきたって、てめぇらの座る場所はねぇよ」
 村長の家に着くと、のっけから不穏な空気が立ち上った。
 霞の文蔵は予想通り、冒険者達の来訪を良く思わなかった。むしろその反応は正直というモノで、顔に出さないだけで全員が同じ意見と見るべきであろう。
「ははは、文蔵サンも人が悪いですね。折角、こうして出会えたのですから仲良くしましょう、ネ」
 物怖じしないブラッキーノはフレンドリーなつもりの笑顔で上がりこむ。傍目には邪悪な笑みを浮かべた闇の魔法使いにしか見えないが。
「て、てめぇ‥この場でやろうってのか!」
 腰を浮かせた文蔵と河田屋与平の子分らの奥に、村長の卒倒しそうな顔が見えた。
「お待ちください。私達は皆さんから仕事を取り上げるために来たのではありません」
 武器をもたない葉月の言葉に山師たちは動きを止める。仮にも村人の見ている前だ、無抵抗な女性に乱暴はできない。葉月は彼らに、自分達が村から今回の仲裁役を請け負っている事を告げた。
「本当か、村長!」
「はい‥‥私達はこういった事は素人ですので、手助けを願いました」
 警戒する文蔵らに冒険者達は、自分達は仲裁役だけで遺跡探索を横取りすることは無いと説明する。
「なんでぇ、そういう事ならせいぜい宜しく頼むぜ。どうせ、俺んところに決まるのは間違いないけどな」
 そういい残し、文蔵は子分を引き連れて野営地に戻っていく。他の者達も出て行った。
「意外に、大人しく従ったわね。ま、いいわ。あたしは予定通りにね」
 ついたばかりだが林は荷物を置くと外へ出て行く。
「では私も。あとはお任せします」
 バズも出て行き、同じくクロウと不動も姿を消した。
 残った者のうち、御神村と死先、安来の三人は村長に用がある。山田と李はひとまず話がつくまで待機だ。

●上州浪人、相良縞之介
 クロウと不動、それにバズは連れ立って相良縞之介とその仲間三人の下を訪れた。
「何か御用かな?」
「ウフ、縞チャン。アナタと親交を深めたいと思いましてネェ」
 艶やかな視線を相良におくるクロウ。
「それでは仲裁役が務まるまい」
「分かりやすく言うなら情報収集‥‥それに提案です」
 誤解を正すようにバズが言うと、不動も頷いて身を乗り出した。
「単刀直入に言うが、探索料を下げられないか? 勿論、只でとは言わない」
 不動とバズはギルドが相良達に足りない戦力を補完してリスクを減らす代わりに、探索料の減額を持ちかけた。実例として、バズが魔法で水晶の剣を作って見せた。
「なるほど。一理あるな」
 とは言っても、相良達の要求額が減る代償に冒険者の雇用費が発生するのだが‥‥。
「これで上手くいけば、私と一緒に井戸の底デスよ」
 相良に擦り寄ろうとするクロウ。何というか、一人で危ない雰囲気を出しまくりだ。色々と下心がある訳だが、今回分かった事は多くない。相良は上州が出身だとか、仲間の小男は三太と言って風貌通りの元博徒だとかドワーフが華国出身の武道家で酷く無口である事や紅一点の女性が白の僧侶らしいこと等々。

●山師二組
「さてと、これで良い」
 御神村は村長に許可を得て、問題の井戸を封印した。木で蓋をし、ちょっとした仕掛けも施してある。
「様子でも見にいくか――」
 夕闇濃くなる暮れ六つ、忍者は辺りの目から隠れるように立ち去った。

 御神村が文蔵達の野営地に着くと、様子が騒がしい。早くも連中の正体が拝めるかと微笑し、聞き耳を立てると聞こえてきたのは聞き覚えのある声。
「俺の仕事増やすんじゃねぇって言ったんだ! おめぇ達の素性は先刻承知、お上が出張ってこねぇ内に帰ぇんな!」
 ヤクザ者を前に啖呵を切っているのは不動。普段は人の良い顔をしていてもそこは武家の出、恫喝はなかなかに堂に入ったものだ。
「なんだとぉ、このドさんピン!」
「二本差しなら脅しが効くと思うなよ、怪我するだけじゃすまねえぜっ」
 山師達も負けていない。日頃から腕っぷしと口の悪さで凌いでる輩だ。いくら相手が志士でも一声で萎縮する事は無い。しかし、すぐ乱闘という訳ではない。山賊だって山道で獲物を相手にしたのでなければ刀は抜かない。まだ斬りあう程の因縁は無い。

「おい文蔵、こいつは何の騒ぎだぁ? 五月蝿くて飯も食えねぇ」
 大声で言い合うものだから、隣の野営地で飯を食っていた河田屋与平が子分を両脇に連れて出てくる。
「河田屋の‥‥おめぇには関係ねぇこった。耳に栓でもしてねちまいな」
 文蔵と与平の間で火花が散った。不動から見れば似た者同士なのだが、犬猿の仲だ。
「なんだ、ギルドの旦那か。‥‥ははぁ、つまらないことするもんだねぇ」
 与平は不動を一瞥し、何か察した顔で微笑する。
「何がおかしい。おめぇも文蔵と同じ穴の狢だろうが!」
「言い掛かりだ。それとも何か証拠が?」
 不動は言葉に詰まった。反論を探している所で後ろから声をかけられた。
「李さん‥」
「加勢がいるか?」
 現れたのは李飛だった。安来と死先が村長に持ちかけた相談が一応話がついたので、李と山田は連絡係として彼らの下へやってきたのだ。

●発掘屋、白河重庵
「はてな?」
 林瑛はひとりで白河重庵の野営地を訪ねていた。途中、野営地の側で拾い物をする。鬼の顔が彫られた変わった小柄を見つめているうちに、確か仲間の持ち物だったと思い出して懐にしまう。
「この探索にかける意気込みとか、聞かせてほしいんだけど」
 そう率直に林が切り出すと、林の三倍の年月は生きてそうな白河重庵は子供っぽい笑顔を浮かべた。
「意気込みを聞きたいじゃと? ‥‥よし! ではワシがどうしてこの村に目をつけたのか、その発端となる話から聞かせねばなるまい。メモの用意はよいか? あれはかれこれ20年前の春の事じゃ‥‥」
「いや、そんな昔話はいいんだけど‥‥」
 重庵の冒険譚(眉唾物なので内容は割愛)から分かる事は何も無い。ただ半分‥いや一割でも信じるなら、彼は古代文明の発見を求めてさすらう探索者らしい。
「オジイサンも苦労してるのね。あたしも、この国には船を間違って来ちゃったの。最初は言葉も判らなくて苦労したわ」
「後悔しておるか?」
「さあ‥‥どうかしら‥‥」
 世間話をするうちに、山田が連絡を持ってきた。
「明日の正午、代表者は村長の家に集合してください。井戸の探索権について、再度話し合いを行います」

 山田と李は条件として、代表者一名のみで来ること、仮に二名以上だったら参加権を失うことになることを四組に伝えた。そして、この取り決めには村長も同意している事を付け足す。この手の交渉は依頼人を抑えてしまえば勝ちだ。この時点では、冒険者達は順調に仕事を進めているように見えた。

●腕試しと入れ札
「では、そういうことで」
 話し合いの冒頭、死先は既定事項を伝えて話をまとめた。
「ま、待ちやがれ!」
 文蔵が顔を真っ赤にして立ち上がる。
「何か問題でも?」
「大ありだ! こ、この文蔵の前で、そんな茶番が通ると思うなよ!」
 死先は四人が集まると、バズ達が伝えたように、相良達にギルドが手を貸して報酬額を引き下げさせる事で話がまとまったので、文蔵達にはどうぞお帰り下さいと述べたのだった。そりゃ怒るわ。
「文蔵と意見を合わせるのは気に入らないが、俺も納得できないね。村長さんもギルドになんと言われたか知らないが、随分とアコギなことをするもんだ」
 与平も剣呑な様子だ。白河も納得しかねるといった顔をしている。
「しかし、相良様には実績がおありになります。僕もこの村の人達もそれは知っていますが、残念ながら皆様の腕前は知りません。この違いは明白ではありませんか?」
「この野郎、言うに事欠いて腕が信じられねぇだと‥‥よーし、そこまで言うなら俺様も黙っちゃいられねぇ。今ここで腕前を見せてやらぁ!」
 腕をまくりあげる文蔵。
「仕方ありません、文蔵様がそこまで仰るなら結果は先に延ばしましょう。実力を確かめてからの方が、皆様もご納得しやすいでしょうから」
 死先は微笑する。ギルドの冒険者と模擬戦を行い、実力を証明するように言った。
 既に段取りは仲間達に伝えてあった。
「不幸な事故として相手のリーダーの骨の一本や二本、コキャっと折ってやりませんか?」
「‥‥」
 不穏な台詞を耳元で囁かれ、安来は眉間に皺を寄せた。公正を尊ぶ彼女には、無為の謀略は合わない。
「暴力沙汰にはしない筈が、どうしてこうなるのでしょう‥‥」
 棒を構えた葉月は、対面に目をやった。
「いいか野郎ども! 絶対に負けるんじゃねえ。おめぇ達が漢だってとこをあいつらに思い知らせてやれ!」
 冒険者打倒に気炎を吐く山師たち。
「大丈夫でしょうか‥‥」
 村長は青い顔で成り行きを見守っている。
「ご心配なく。刃物は使いませんし、これぐらいはよくある事ですから」
 死先は気楽に請負う。模擬戦だからと武器は棒か素手に限定していた。無論、だからと言って血を見ずに済む筈は無い。下手をすれば死人も出るだろう。

 手加減無しの実戦なら、冒険者は文蔵達を凌駕したかもしれない。だが模擬戦‥しかも集団戦となれば勝負は幾らでも気紛れが起こる。恨みを買っていた金剛斎が最初に集中攻撃を受けて沈み、李がつい本気を出すと相手が血を吐いて倒れた。
「皆様の実力はよく分かりました」
 これ以上は殺し合いという前に止めて、死先は場を治めるため相手方の治療費は自腹を切った。もっと一方的にギルド側が勝つ事を期待していたが、6:4位で素人目には分かり難い結果となった。
 こうなると返って厄介だ。ギルドが足りない戦力を補う提案の欠点も指摘されている。つまり実力があるなら幽霊対策に不安がある文蔵達でも問題はない。
 横一線に並べてしまった。
「入れ札では?」
 山田の案には安来が賛成する。ギルドの冒険者に支払う報酬も込みで井戸探索の仕事料を木札に書き入れて、最安値をつけたチームに探索権を渡す。皆が譲らない状況では妥当な提案だが。

「待て」
 御神村は井戸に仕掛けた鳴子の音を聞いた。誰かが封印の破ったかと井戸に向う。
 はたして蓋が開いて、中に人が倒れていた。
「五郎!」
 倒れていたのは文蔵の子分だった。落ち方が良かったのか一命を取りとめた五郎は、蓋が開いてるので変だと思って覗いたら後ろから誰かに突き落とされたのだと証言した。
「‥‥ん?」
 クロウは井戸の側である物を拾う。鬼神ノ小柄だ。
「これは確か‥‥きな臭くなってきましたね」
 魔術師は目を輝かせた。

 冒険者達は一旦、ギルドに報告するために戻った。村長はギルドにすぐ依頼を出すと彼らに約束した。
 彼らの目的はひとまず達成されたが、この村の災厄は何も解決されていない。