井中の冒険・四 井戸端会議

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月18日〜10月23日

リプレイ公開日:2004年10月30日

●オープニング

 江戸から徒歩2日の距離にある村で遺跡が見つかってから、はや二月。
 村の枯れ井戸の底に隠された通路が発見され、石組みの通路の先には沢山の埴輪が守る部屋があった。
 まず冒険者ギルドに依頼が持ち込まれて調査に向ったのだが失敗し、宙に浮いた遺跡の探索権を手に入れようと山賊崩れの山師や発掘屋が村にやってきた。互いに譲らぬ山師達の喧騒で村は一触即発の事態に陥ったもののギルドの冒険者が仲裁に入り、先日ようやく遺跡探索が再開されたのだったが‥‥。

「そんなに深い代物でしたか‥‥」
 冒険者ギルドの年配の手代は戻ってきた冒険者達の話に、困り顔で頭を掻いた。
 四組の山師に冒険者達が助太刀して井戸に潜ったまでは良かったが遺跡は想像以上に広く、第二層というべき所まで降りた所で死人憑きの大集団に遭遇し、冒険者達は引き返した。
「あの村も可哀想に‥」
 そんな危険な遺跡が自分達の足元にあったと知り、村人達は心休まる所が無いだろう。手代は村長に今後のことについて手紙を送っていたが、返事が芳しくない。文面からは村長の困惑がよみとれた。
「このままではラチがあきませんね。誰か、村に言って話をしてきてはくださいませんか?」
 手代は冒険者達に村へ行ってくれるよう頼んだ。
 正式な依頼ではない。
 依頼料は出ない、無料奉仕である。というのも、何度も依頼を出したことで村は資金不足に陥っている様子だ。前回の依頼で遺跡から幾許かの金銀は得ていたが、山師達にも無償という訳にはいかないから、殆ど残らなかったのであろう。
 かと言って使いの者では話が進まないので、少しでも事情を知る冒険者達に話をしてきて貰いたいというのである。依頼料は出ないが、話をまとめてこれば幾許かの手間賃は出すと手代は言った。
 手紙によれば、山師達もちょくちょく様子を見に来ているようだ。
「このまま終りにするのもしのびない‥‥何とかして差し上げたいですが」

●今回の参加者

 ea0176 クロウ・ブラッキーノ(45歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea0707 林 瑛(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1244 バズ・バジェット(35歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea1672 安来 葉月(34歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea2751 高槻 笙(36歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3462 咲堂 雪奈(25歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea4653 御神村 茉織(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4660 荒神 紗之(37歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5999 不動 金剛斎(34歳・♂・志士・ジャイアント・ジャパン)
 ea6147 ティアラ・クライス(28歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●村に到着
 今回は遅刻者ゼロ。珍しい事もあるものだ。
 余計な話は置くとして、冒険者ギルドの10名は再び井戸の村に到着した。
「ここが、その遺跡が発見された村なんですね」
 初めて訪れた高槻笙(ea2751)は村の入口で立ち止まり、村の風景を記憶に留めようと、ゆっくりと景色を眺めた。
「行くぞ」
「まずは村長さんにご挨拶ですね」
「そうそう、可哀想なあの村長を安心させてやらないとね」
 荒神紗之(ea4660)は心配性の村長の顔を思い浮かべて苦笑した。井戸の下の遺跡が危険な物と分かった心労は相当なもの。
「少しは頼りにされているのでしょうけど‥」
 林瑛(ea0707)は後の言葉を濁した。冒険者は正義の味方ではない。或いは己たちは災厄の使者で村に不幸を振りまいているだけでは無いか。

「よくぞおいで下さいました」
 村長の新兵衛は冒険者達を歓迎した。その顔には疲労が色濃く表れている、やはり心中穏やかではないのだろう。
「早速で悪いんやけど、村長はんの許可を貰いたい事があるんやわ」
 咲堂雪奈(ea3462)は笑顔で言った。
「私の許可?」
 怪訝顔の村長に、雪奈は仲間の馬の背に乗せてきた資材を見せた。それは雪奈が身銭を切り、出発前に購入したものだ。
「当座の安全確保のためにな、あの遺跡を封鎖するんや」
 咲堂は井戸のある方を見る。この案は冒険者達の総意では無いが、賛同者は多い。荒神と安来葉月(ea1672)も遺跡の通路に土嚢を積む事を提案するつもりでいたし、御神村茉織(ea4653)も遺跡内の扉の補強を考えていた。
「それはよろしゅうございますが‥‥」
 村長は躊躇いを見せた。封鎖は願ってもないが、下手に手を出して災厄が拡大するのは恐い。
「‥‥村長、このまま放置しておくわけにもいかない事はお分かりでしょう?」
 葉月が新兵衛に決断を促す。
「なあに、ちょいと中を確認して、死人どもが溢れてこねぇように細工するだけさ。寝た子を起こすような真似はしないと約束する」
 御神村も言って、村長はそれならばと遺跡の一時封鎖を許した。
「おおきに。よっしゃ、ほなら今から行ってくるわ」
 答えを聞くなり、雪奈は井戸に向う。よほど気に掛っていたのだろう。
「しょうがないね。一人にもできないから、私も行くよ。後のことは任せた」
 荒神は雪奈の後を追う。いつのまにか茉織の姿も無い。
 冒険者が着いた早々、慌しいことである。

●井戸端会議
 雪奈達を除いた冒険者達は村長の家に通された。とりあえず荷物を置いて一休みした冒険者達に一旦奥に下がっていた村長が茶を持って来た。
「所で、井戸の底にいた死人達は一体誰なんでしょうネェ?」
 茶を受け取りながら、クロウ・ブラッキーノ(ea0176)は何気なさを装って聞いた。
「え?」
「ホラ、まさか生まれた時から死人じゃないでしょ。死ぬ前は生きた人間だったはずですよネ」
「ああ、言われてみれば‥‥そこまでは考えた事もありませんでした」
 道理ではある。首を捻る村長にクロウは微笑を向けた。
「遺跡で見つかったあの死人憑きが廃村の村人達だったとしたら‥‥私達が遺跡発掘を続ければ歴史は繰り返すってカンジですかねェ?」
「そ、そんな‥」
 すっかり気の弱くなっていた村長は、クロウの言葉に胸を押さえて奥に戻った。
「‥‥私達はここに仕事を取りに来たのでしょう? 脅かしてどうするんですか」
 バズ・バジェット(ea1244)は呆れたように言い、クロウの姿を眺めた。
「恐がってくれた方が、スムーズに事が運ぶんじゃないですか」
 悪びれる事もなくクロウは返した。その様子を見ていた林はポツリと呟く。
「冒険者‥依頼が無ければ、ただのゴロツキ。身に沁みる言葉だわ」
 林は彼らの置かれた状況を反芻する。
 予算不足で全員ジリ貧。でも問題が多過ぎで仕事になりそうなのは色々ある。
 この頭の痛い状況を打開することが今回の使命だった。
「‥‥今回の交渉って、微妙よね」
 冒険者はその本質で冒険を好む。リスク回避を考えない訳では無いが、初めから無難に済ます方法を考えるくらいなら冒険者になど、なっていない。
(「どんなに言葉を繕おうと、あたし達は冒険がしたいだけではなくて?」)
 林は自問した。ならばクロウのように己を隠さない者の方が実があるか。
「‥‥ウフ、何か?」
 クロウは林の視線に気づいた。
「その格好で平然としてるあんたには感心するわ」
 この時のクロウは頭から足先まで山羊毛100%の防寒着『まるごとヤギさん』に着替えていた。村長から相良達が来ていると聞いて着替えたのだ。本人曰く、愛しい夫を待つ可愛らしいヤギさんなのだそうだが、どこから見ても‥‥。
「ウフフ、既に私は他人の妻、惚れちゃ駄目ですよ」
「在り得ないから」
 ちなみに相良にも一瞥もなく無視された。

「集まったか。では皆それぞれ意見があるだろうが、俺の提案から言わせて貰おう」
 不動金剛斎(ea5999)は居並ぶ面々を見回す。冒険者達が来る事をどこから聞いたものか、その日は山師達も揃っていた。てっきり諦めたとばかり思っていた不動はわざとらしく咳払いし、霞の文蔵に目を向ける。
「しかし、おぬし達は良くぞ戻ってきた。あの死人の群れを見ても退かぬとは、天晴れな心意気だ」
 これまで山師達と衝突していた不動の言葉だから、文蔵は片膝を立てて答えた。
「冗談言うねぇ。あれしきでケツをまくるほど、この文蔵は落ちぶれちゃいねぇや」
「ふむ、さすがだのう。だが少しは手下共の気持ちも考えてやってはどうかな?」
「そろそろ、仕事の話をしてよね」
 シフールのティアラ・クライス(ea6147)は不動の肩まで飛んで早く提案を言うように急かす。
「むむ、そうだったな」
 不動は文蔵達にもう一度意味ありげな視線を向けてから、己の提案を示した。

●遺跡封鎖
「金がないので雇えないと正直に言うしかねぇだろ?」
 地の底で御神村は呟いた。側には咲堂と荒神が居る。三人は封鎖の為の資材を井戸の上から下まで運んで、今は第一の部屋(埴輪の間)で小休憩を取っている所だ。
「不動たちはそのセンで話すようなこと言ってた。無料でも受けるのはうちらだけだからって」
 荒神は持参した保存食を咲堂に渡しながら言う。冒険者には酔狂な者が多い。実際、報酬の無い依頼でも好みに合えば受ける者は少なくない。これはバズの案だが、遺跡で魔法の品が出土した時には最も活躍した冒険者一名に贈ると言えば、それだけでタダ働きを厭わぬ者は大勢来るだろうと言っていた。
「そうだな、俺はそれでもいい。封鎖するってだけで自腹を切る奴もいるしな」
 御神村は咲堂を見た。木板やら何やらで、結構な出費になった筈だ。
「なんや、文句でもあるんか? ここから死人憑きなんかが出てきて誰かやられたら、あんたかて寝覚めが悪いやろ」
「いやその通りだ‥‥助かった。用意がいいってのは大した美点だと思うぜ」
 以前の事を思い出したのか、御神村は素直に礼を言う。
「じゃ、そろそろ行くか。土嚢は後にするとして、とりあえず洞窟につながる扉と下に通じてる隠し階段の状態だけは見ておきてぇな」
 土嚢積みは安来らの発案で、遺跡から死人達が外に出ないように通路を封鎖しようというのだ。荒神も土をつめる袋を用意していたが、大掛かりな作業になるので三人では出来ない。

「‥‥気休めかもしれねぇけどな」
 裏山の洞窟に通じる扉の閂が抜けないように補強を加えながら、御神村は独白する。
「誰かさんの言うみてぇにこの下にホントにヤバイもんがいるんなら、こんなんじゃ止められる訳がねぇ」
「この下に、生きている者は居ないよ」
 いつのまにか荒神が近くまで来ていた。無論、御神村も気づいていた。
「呼吸を調べてみたんだけど、この辺りには私達ともぐら以外には生きている者は居ないわ。死人達は、息はしていないかな」
「そりゃ、死んでるんだからな」

「‥‥」
 雪奈は一人で埴輪の間から亡霊が出た部屋までの間を丹念に調べた。
(「隠し通路の類は無し、か‥‥」)
 床に手をついて小柄で弄っていると、奥に行っていた二人が戻ってきた。
「しかし、凄い遺跡だよな。これで怪物を一掃したら、観光にでも使えんのかねぇ」
「墳墓やろうって話やのに見世物にするんかいな。バチあたるわ」
「そうなのか? じゃ、これが終わったら奉って神社を建てなくちゃな‥‥大変だな」
 一応、扉や隠し通路から何かが出てきた形跡は無かった。ひとまず簡単に開かないように細工して、井戸の出口にも改めて鳴子を設置した。また話し合いの後で井戸から繋がる通路も土嚢を積んで封じた。
「土嚢は多少、やり過ぎの感がありますけど‥‥。多分、手軽さの割には相当効果的だと思います」
 これを推進したのは安来だ。ただし手軽というには語弊があった。次からは遺跡に入る度に撤去や再設置の手間がかかる。通路を全て塞ぐのはどうかと意見も出たが、人間が超えられる程度の壁は大体死人憑きでも超えられるので意味が無かった。
 ただ遺跡の入口を塞いだことは村人達にはかなり安心感を与えたようだ。
「‥‥」
「高槻さん、どうかしましたか?」
 作業の後で、井戸を眺める笙の様子にバズは声をかけた。
「この下で空気と話したのですが‥‥ここ最近で誰かが中に入っていたようなのです」
 高槻は志士だ。魔法と言えば攻撃魔法を覚える者が多いが、彼は空気や呼吸を調べる魔法を覚えている。
「‥‥その事は村人には秘密にした方がいいでしょうね。ここではなんですから、あとで皆と村長さんには話しておかなくては」

●依頼
 不動は会議の場で、この村の脅威を全て取り除き最後まで遺跡調査を行うまでを依頼とし、報酬は成功時の出来高報酬のみとする提案を行った。
「俺は無償でも構わんがな!」
 山師達を威嚇して不動は発言をしめくくる。長期間の無料奉仕は確実だから、資金力があるか、或いは伊達と酔狂で依頼を受けている冒険者以外には辛い条件だ。不動の意見には高槻と荒神が賛同した。
「私の意見は、概ね不動さんと同じですわ。成功時のみ、出土品の売却益の一部を報酬として支払う事にすれば、村にかかる負担も減ると思うのですけれど‥」
 そう言って、安来は村長を見る。
「あと、発掘した物品の鑑定と適正価格での買取りを当面、こちら側で請け負うのはどうかな?」
 発言したのはティアラ。依頼の皮算用だけでなく、困窮している村のキャッシュフローに言及したのはシフールながら商売人の彼女らしい提案だ。それに出土品の扱いは、或いは誰が潜るかよりも重要事だ。
「適正価格なんて、誰にとって適正だか分かりゃしない」
 ティアラの意見に河田屋与平が反対した。この件は複雑だったから今回は棚上げされる。もし貴重な魔法の品でも出てくれば、その扱いで揉めるのは必至だろう。
「これじゃ何の為の話し合いか分からないよ」
「何も俺は、そっちの言うことを全部飲めないってんじゃない。そちらの御人の案には異存はねぇよ」
 与平は不動の案に賛同した。
「‥‥む」
 意外な事に文蔵と白河重庵、それからあれほど報酬に拘っていた相良縞之介も成功報酬で納得した。

 さて報酬の件に一応の片付いたので、次にどこから探索を再開するか、の話になった。
「洞窟に棲んでいたらしい鬼達の事が気に掛りますね」
 バズは遺跡につながる洞窟と、この村の周辺の調査が必要だと言った。
「あたしは遺跡の下にもぐるのがいいかな。最深部を目指して、とりあえず死人憑きの殲滅からかしら」
 林はハイリスクハイリターンな案を提案する。これはこの場にいない御神村も最優先事項としていた。
 依頼の条件を気にしていた不動や安来、ティアラには特に案は無い。
「ブラッキーノ様は何かご意見は?」
 話の聞き手に回っていた高槻はウィザードに意見を求める。
「そうですネェ。何も分からないまま調査を続けてその度に予期せぬ事態で撤退するよりは、発掘から一度離れて、皆サンで遺跡に関する情報収集を行うのは如何でショウ」
 意見としてはバズに近い。性格も生まれも違う二人だがウィザード同士、腕力に任せて道に切り開くより頭を使う方を尊ぶのか。
「私も、遺跡について大凡を調べ、把握することが第一ではと気にかけておりました。死人憑きも急務ですが、こちらの安来様が封鎖のご提案をされていますので、ここは歌にありますように急がば回れとしては如何でしょう?」
 高槻は物腰は柔らかいが、江戸で一、二を争う実力者と目される名うての冒険者だ。その彼が順当な筋を探してまとめたので、明確な異論は出なかった。
「そういう事なら、わしが協力できそうじゃな」
 殆ど黙っていた白河が言った。遺跡探険家の彼には、その手の調査は本業だ。白河が辺りをつけて、冒険者ギルドには11月頭には依頼を出す事に決まる。

「ところで五郎サンはお元気ですカ?」
 去り際、クロウが尋ねると文蔵は露骨に警戒した。己の子分が魔物(?)の毒牙にかけられるかと思ったのか。ピンピンしているような事を聞いて、クロウは苦笑する。
「存外に、大したコトが無いですネ」
「??」
 冒険者と山師達は村を離れた。
 すぐに邂逅する事となるが、果たして続行される遺跡探検はどんな結果を彼らに示すのか。