井中の冒険・五 調査拡大

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月09日〜11月14日

リプレイ公開日:2004年11月18日

●オープニング

 江戸から徒歩2日の距離にある村で遺跡が見つかってから、数ヶ月。
 村の枯れ井戸の底に隠された通路が発見され、石組みの通路の先には沢山の埴輪が守る部屋があった。
 まず冒険者ギルドに依頼が持ち込まれて調査に向ったが失敗、宙に浮いた遺跡の探索権を手に入れようと山賊崩れの山師や発掘屋が村にやってきた。互いに譲らぬ山師達の喧騒で村は一触即発の事態に陥ったもののギルドの冒険者が仲裁に入り、遺跡探索が再開されたものの‥‥。
 村は度重なる探索で資金不足に陥り、遺跡は更なる深淵を見せたのだった。

 状況を打開するため、冒険者達から幾つかの提案が出された。
「成功時のみ、出土品の売却益の一部を報酬として支払う事にすれば、村にかかる負担も減ると思うのですけれど‥」
 この申し出により、今後は基本的に冒険者への依頼は無報酬と決まった。無論、遺跡より価値のある代物が出土すれば一攫千金も夢では無いが。
 そして。
「そうですネェ。何も分からないまま調査を続けてその度に予期せぬ事態で撤退するよりは、発掘から一度離れて、皆サンで遺跡に関する情報収集を行うのは如何でショウ」
 ひとまず地下探索を中断し、井戸遺跡の不思議を、冒険者達は地上で調査する事となった。

「この辺りの伝承に、この遺跡に関する事柄は無い」
 遺跡探検家、白河重庵は絶望的なことを口にした。
 遺跡といえば、昔の住居址や墳墓、城郭などを差すが、この地下遺跡は今のところ誰かの墳墓ではないかと思われている。但し、誰の墓なのか皆目検討がつかない。
「じゃが、遺跡探索は常に新しい発見により古い常識が打ち破られてきた。現に遺跡はあるのじゃ、調査は意味があるとわしは思う」
 白河はこの調査に賛成だった。
 既存の情報があてに出来ない以上、江戸や周辺の村での調査は冒険者達の感性が頼りだ。
 白河はこの件に関しては協力は惜しまないと約束した。

「妙なことになったものですが‥‥ただ良い機会かもしれませんねぇ」
 冒険者ギルドの手代は、何か考えるように腕を組んだ。
 無報酬の依頼が続くのはギルドにとって何の益も無いので本来奨励されるものではないが、遺跡から価値のあるものが出てくればギルドの名前も上がるからと反対もしなかった。
「‥‥そう言えば、山師達は村に基地を作ったそうですよ」
 探索に関わっている四組の山師達が村の中にそれぞれ小屋を建てたらしい。
 大したものではないが、探索の長期化を見越した備えは彼らの本気の表れとも取れる。
「やれやれ、もうすぐ冬ですが‥‥今年中に解決するんですかねぇ」
 そう言って、手代は溜息をついた。

●今回の参加者

 ea0176 クロウ・ブラッキーノ(45歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea0707 林 瑛(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1244 バズ・バジェット(35歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea1672 安来 葉月(34歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea2751 高槻 笙(36歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3462 咲堂 雪奈(25歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea4653 御神村 茉織(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4660 荒神 紗之(37歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5999 不動 金剛斎(34歳・♂・志士・ジャイアント・ジャパン)
 ea6147 ティアラ・クライス(28歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)

●リプレイ本文

『井戸遺跡(仮称)に関する周辺地域の調査報告書』

 これは10人の冒険者と彼らと関係した山師達が、ある村の遺跡について5日間調査を行った、その記録である。

●確かな事は‥‥
 クロウ・ブラッキーノ(ea0176)の言を信じるなら、この世に確実な事は一つしかない。
「すなわち、それは縞チャンが私と一緒に居たいが為に報酬無し覚悟で新居まで建設しているという事でしょうかネ」
 縞チャンとは、ブラッキーノの熱い秋波を無視し続けている浪人の相良縞之介のコトだ。
 今日もブラッキーノがわざと相良達の小屋から良く見える場所に腰を落ち着け、紅葉狩りと洒落込んでいても相良は一瞥もなく通り過ぎるばかり。
「口には出さず行動で愛を返す‥‥あァ、漢らしい愛を感じますョ。ウフ」
 熱視線という名のガン飛ばし。
 不意にその射線を遮った文蔵の手下の五郎が怖気を覚えて身を震わせた。
「‥‥」
 ふと五郎に魔手を伸ばそうとしたクロウは見知った顔が近づいてくるのに気づいた。
「みんな忙しそうに調べてはるのに、クロウはんは随分のんびりやなぁ」
 咲堂雪奈(ea3462)は白河重庵と共に調べたい事があったので、皆より先に村に来ていた。
 今回は地上の調査が主なので必ずしも村に来る必要はなく、殆どの者は江戸や周辺の村々を調査基地としている。
「なにか、特別なこと考えてはりますのん?」
 咲堂はニコニコと笑っている。依頼で会うのもこれで数度となれば、それが彼女の常態なのだとクロウも知っていた。
「ただの番犬ですヨ‥‥」
 褐色の肌のウィザードは禍々しい笑みを返した。

「おーい」
 裏山へ向った咲堂と白河を追いかける一人の巨漢。
 志士の不動金剛斎(ea5999)は二人の前まで走り、荒い息を吐き出した。
「どうかしたん?」
「白河さんに聞きたい事があってな、江戸の調査を切り上げて来た」
 余程急いだのか、もう冬も間近というのに不動は汗まみれだ。
「ふむ、では歩きながら話を聞こうかの」
 三人はそのまま目的の洞窟へ向う。道すがら、不動は白河に井戸遺跡の年代を尋ねた。
「奇遇だなぁ。それは俺も聞きたいと思ってたんだ」
 声に振り返ると薮の影から御神村茉織(ea4653)が姿を表す。
「諜報は得意だが、書物めくりは嬉しくない方でね、専門家の意見を拝聴しようと思った訳なんだが‥‥」
 不動と同じ目的で村に来た御神村は二人が山へ行ったと聞いて、先回りして待っていたようだ。さすがは忍者といったところか。
「ふふふ、どのくらいだと思うかね?」

●仮説
「遺跡の規模から見て、相当な実力者が造ったと考えるのが筋よね」
 冒険者の酒場でタダ茶を飲みながら、林瑛(ea0707)は呟いた。
「私もそう思います」
 答えたのは安来葉月(ea1672)。他に、バズ・バジェット(ea1244)、高槻笙(ea2751)、それに荒神紗之(ea4660)の姿もある。いずれも江戸で調査を開始した面々で、高槻が互いの情報交換の為にと彼らを酒場へ誘っていた。
「それで死ぬ間際は何らかの原因で没落した‥‥違うはね。没落では見捨てるだけよ。暗殺か、或いは反乱を起こして負けたこの地方の支配者階級の人物‥‥そう睨んでるわ」
 林の仮説は、大小の違いはあるものの、関東の実力者の建造物という点では他の冒険者達もほぼ同じ見方をしている。
「遺跡が迷路のように入り組んでいるのは、非常時の地下通路のようなものとは考えられませんか?」
 高槻の言葉に、バズが逆の意見を述べた。
「例えばあれが、昔、反乱を起こした人物の墓とすれば、墓を立てて奉ると同時に封印とも考えられます。だとすれば入り組んだ構造も分からないではない」
 バズは遺跡は墳墓であると同時に非業の死を遂げた実力者の怨霊を鎮める為に奉ったと推測していた。遺跡の構造に関してはこの場にいないが雪奈が別の仮説を立てている。ともあれ、建造者に注目する三人は協力して調べる事にした。
「私は、遺跡内部にいた死人憑きの存在も気に掛かりますね。今の住人の全てに近い人数に思えますけど、彼等が廃村の住人だとしたら‥‥なぜ遺跡の中に入ったのでしょう?」
 安来がそう口にすると、ちびちびと酒を飲んでいた荒神が指で机を叩いた。
「それだ。‥‥私も廃村のことはひっかかってた。クロウが村長にいった台詞が耳から離れなくてねぇ」
 『廃村となった村は、どのようにして滅んだか?』、安来と荒神はこの疑問を調べてみる事にした。

●調査
 江戸は関八州‥‥いや日本を代表する都だ。しかし、源徳がここを府と定めてから歴史が浅い事もあり過去を知ろうとする者には様々な障害が立ち塞がった。
「‥‥では、東国をまとめて中央に反乱を起こした人物、或いは墳墓が造れるだけの財力をもったこの地方の過去の支配者を教えて欲しいと?」
 結論から言えば、冒険者が調査の階を登るには歴史に明るそうな学者に尋ねる以外に無い。
 読めない古文書の閲覧を頼んだり、基礎知識無しで全方位的な情報収集は時間と人数に余裕がある時に行うものだ。正道から始めたのでは依頼期間どころか一生を費やす事になりかねない。
「そうですわ」
 元より、読み書きに堪能でない林に選択肢は少ない。彼女は白河の紹介でとある学者を訪ねた。
「ふーむ、突飛な申し出ですな。仔細をお聞きしても宜しいかな?」
「それはちょっと‥‥まだ確かなことは分かっていないので。ご協力頂けるなら、然るべき時にはご報告を」
「左様か。反乱‥‥ふーむ」
 学者は数分ほど、考えを巡らしたのちに言った。
「むかし、武蔵の国造の一族の間で乱が起こり、一方が朝廷の力を頼み、他方が毛野の豪族に助けを頼むが滅ぼされた話がある。人によれば、今を除けば坂東の隆盛はその頃と申す者もおるようだ」
 何時頃の話かと問えば、推古神皇の御世よりも前と答えられた。無論、詳細を記した当時の書物などは皆無で、後世の史書に僅かな記録が残るばかりだ。
「研究家としては興味も尽きぬが、しかし‥‥このような事を調べても益はありませんぞ」
 学者としては古代史の真実を知ることは万金の宝に勝るが、社会的に考えるなら反乱を起こした人物を調べることは禁忌だ。強大な力が忘れ去られるにはそれだけの理由がある。
「分かっていますわ。ご迷惑はお掛けしません」
 同じ頃、バジェットと高槻の担当は圧倒的な敵との戦いだ。高槻の生業は学者、バジェットは通訳、この2人には書物主体の調査は苦ではない。林とは方法論が違う。
「‥‥この富士の反乱は?」
「いえ、それではさすがに年代が近すぎるでしょう。様式から推し量れば、古代か、或いは関東で墳墓が盛んに作られた頃のものだと思いますが‥‥」
 ここで言う古代は後述するとして、古墳時代となれば数百年以上前の話だ。由来確かな書物は皆無、多くは後世の史家が残した資料をあたる事になる。現れるのは無数のキーワード。英雄による朝敵討伐、殺戮の荒神、巨大なおろち退治の勇者、渡来人の移住、鬼の国、山の龍神‥‥人が蛇を生む話、大亀を妻にして海中の国‥‥切り取られ、装飾された時代の断片は彼らの問いに答えはしない。
「‥‥ここまでにしておきましょう。読書は嫌いではないけれど、切りがありませんからね」
 高槻は浮かび上がったキーワードの幾つかを白河にぶつけるために村に向う。バジェットも同行した。

「あの村は昔は廃村だったって聞いたんだけど?」
「さあ、そんな昔のことは分からないなぁ」
 荒神と安来は最初、冒険者ギルドを当たった。
 しかし、江戸のギルドはつい最近になって出来た組織だったから、化物関係の資料はともかく、江戸周辺の村の資料などあるはずもない。それでも2人の熱意に押されて、係員は村の周辺で怪物が出た記録が無かったか、心当たりを調べてくれた。
「えーと、あの辺りの記録だとこれぐらいかな」
 ギルドが出来た頃、化物や賊の資料を集めた時のものだ。それには約30年前に山賊が住み着いて近隣を荒らした事や、50年近く前に怨霊が出没したことが記されていた。どちらも村の記述は無いので廃村になったのはそれより以前だろう。
「ギルドの前身みたいなものの記録は無いのか?」
「いや‥‥無理を言うなよ」
 江戸のギルド以前に口入屋や便利屋商売があったとしても、ギルドとは縁が無い。
「使えないねぇ。じゃ、今ある村がどうやって出来たかも分からないかねぇ?」
「そんな事は役所に聞け」
 道理である。奉行所を訪ねると、これはすぐに分かった。
 今の村は、江戸が出来た頃に地方から移って来た人達が作ったものらしい。村が出来た時には、特にトラブルは無かったようだ。2人は調査範囲を周辺の村々に広げた。
「なんでもその昔、旅の僧が以前の村人に打ち殺され、僧侶の祟りで村が滅びてしまったんだそうだ」
「呪われた畑からとれた野菜が昔の村人を残らず食い殺したって話よ」
「あそこには、やんごとなき貴人が愛人の死を悼んでひっそりと建てた墓があるんだと」
「幼い頃わしの爺さまに聞いた話じゃが、あの辺りは昔は忌み地じゃったそうな」
「遠い空から飛来した知的生命体が一夜にして築いたミステリーだって話だぜ?」
「恨みを残して井戸に身を投げた娘の怨念が祟っていると聞いたのぅ」
 色々な話が聞けたが一部にはあからさまなホラもある、この頃には井戸の噂が広がっていた為なのか、根も葉もない話が広まっていた。

●商売繁盛祈願
 シフールのティアラ・クライス(ea6147)の場合、調査活動は主目的ではない。
「査定はこの線でどうよ?」
 村長を相手に、商談交渉中。
「またてめぇか! 何度も抜け駆けしようとしやがって、懲りねぇ野郎だ!」
 乱暴に文蔵が戸を開けた。足音で気づいていたティアラはリストを隠す。
「ふふふ、甘い。私はキミの一歩も二歩も先を云っているのだ」
 胸を張るシフール。
「何だぁ?」
「にしても、戦馬なんであんなに高いのかしら‥‥」
 話を逸らすシフール。
「てめぇが馬の心配するのか? 変わった奴だぜ」
「それじゃキミ、そういうことで一つよろしく」
 文蔵を無視して村長に挨拶し、パタパタと飛び去るシフール。

●遺跡
「どう?」
 洞窟から回って、遺跡につながる扉を調べた。
「それらしい印は無いのぅ‥‥」
「残念」
 扉の封印を確かめ、一行が洞窟から戻ると江戸から高槻とバジェットが来ていた。
「遺跡の作られた年代の件じゃが、誰か意見があるものはおるかの?」
 まるで生徒に質問するように白河が言った。場所は山師達が基地とする小屋で、村に来た冒険者と山師のほぼ全員が集まっていた。
「埴輪を置いた古墳が三世紀から七世紀が主とか言う話なんで、その辺りの年代かねぇ」
 まず茉織が言った。それに高槻が異を唱えた。
「ですが‥‥その頃の古墳とは様式が違うように思います」
「うちも構造には疑問があるわ。もったいつけんと、おじいはんの見立てを聞かせてや」
「わしの見解もおぬし達と大差ないわい。先史文明の遺跡なら嬉しいが、さすがにそれはあるまい。西洋の地下墓地のようでもあるが石棺が見つからぬと判断できんのぉ‥‥下を目指して間違いはないと思うが」
 要するに、確たることは何も分からなかった。幾つか気になる所があるが、上層で発見された装飾品などから判断すれば5世紀頃の建造物ではないかとする線が濃厚だ。
「なんだ、大騒ぎしてそれだけしか分からんとは‥‥ふーむ」
 不動は顔をしかめた。彼は神皇家の名前を出して資料閲覧を交渉したり、村々を回って頭を下げて話を聞いたりと東奔西走していた。馬が潰れるので不動は随分と走り、歩いた。
「気を落とすでない。おぬし達が少し調べたくらいで新事実が出たら、わしは廃業じゃよ」
「‥‥新しい発見があるかもって言ったのはあんただぜ?」
「参考にはなった」
 白河は冒険者の話を真剣に聞き、メモに取っていた。
「継続調査はわしがやろう。おぬし達は他のことを‥」
 その言葉に冒険者たちは我知らず、足元を見る。
 再び地下に降りるのか。

 ともあれ、依頼の日数が流れて冒険者達は江戸に帰還した。