井中の冒険・六 調査中止

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:4〜8lv

難易度:難しい

成功報酬:4

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月23日〜11月29日

リプレイ公開日:2004年12月03日

●オープニング

 江戸から徒歩2日の距離にある村で遺跡が見つかってから、数ヶ月。
 村の枯れ井戸の底に隠された通路が発見され、石組みの通路の先には沢山の埴輪が守る部屋があった。
 まず冒険者ギルドに依頼が持ち込まれて調査に向ったが失敗、宙に浮いた遺跡の探索権を手に入れようと山賊崩れの山師や発掘屋が村にやってきた。互いに譲らぬ山師達の喧騒で村は一触即発の事態に陥る。
 ギルドの冒険者の仲裁で事なきを得て、遺跡探索は再開されたが‥‥今度は村が資金不足に陥り、遺跡には更に深部の存在が明らかになる。已む無く冒険者達は一旦、遺跡を封印し、地上調査を行ったのだが‥‥。

 前の依頼を終えて江戸に帰還した冒険者と入れ替わりに、井戸の村に領主の使いが訪れた。
「この村に危険な遺跡があると近隣より訴えがあった。訴えによれば、魔物まで出没しておるそうだが、しかと相違ないか?」
「は、はぁ‥‥確かに井戸の底に何やらそのようなものが‥‥」
 しどろもどろで話す村長に、使いの武士は厳しい目を向ける。
「愚か者め! そのような重大事を、何故に今まで届け出なんだか。貴様、お上を何と心得るか!」
「も、申し訳ございません。これまで村に被害はありませんでしたので‥‥」
 正確には村長は最初、井戸に穴があいた時に届出はしていた。ただ最近は心労の為か、死人憑きが出た事などは報告が遅れていた。
「聞く所によれば、冒険者どもを招いて独自に探索を行っておったとか‥‥遺跡の宝に目が眩み、危険な遺跡を野放しにして宝物を我が物にせんとした企みは明白! どうだ、言い逃れは出来まい」
「いいえ、そのような大それた考えは決して‥‥」
 必死の釈明は通じず、村長は武士達に捕まえられてしまった。

(「とんでもねぇことになりやがった‥‥」)
 その場に居合わせた霞の文蔵は物陰から村長が連れていかれるのを見守るしかなかった。
「良いか。井戸のことは我が方で吟味し、しかるべき処置を取るゆえ、その方達は今後、井戸に近づいてはならんぞ。禁を破った者は厳罰に処すゆえ、しかと心得よ」
 武士達はそう村人に言うと、井戸に幾つも岩を投げ込んで封鎖してから去っていった。

「侍が、あとからきやがった癖にきたねえ横車を押しやがって!」
 文蔵は冒険者ギルドに駆け込んだ。
「てめぇらが美味しいところを持っていきたいばかりに無実の村長さんに縄をうって、ご丁寧に井戸に石まで投げやがった‥‥そうは問屋がおろさねえ」
 文蔵の話では、武士達は洞窟側の入口には気がつかなかったらしい。
「なあに、井戸に入らなきゃいいのさ。俺達が洞窟に入って、偶然扉を見つけちまうのは禁を破るとは言わねぇわな」
 強引だ。そもそも村長が洞窟の事を喋ればそれまでなのだが、文蔵にとってはこれまでの苦労が水の泡になるかどうかの瀬戸際なのだろう。
「という訳でな、手が足りねぇのよ。てめぇの力を借りるのは癪だが、今度ばかりは仕方がねえ。一緒に来ちゃくれねえかい?」
(「さて、どうしたものか」)
 話を聞き、ギルドの手代は考え込んだ。あの村の領主は源徳配下の武士だ。特に悪い噂は聞かないから、文蔵の言ったように私利私欲の為にやったとは限らない。ギルドに依頼を持ち込む可能性も無くはない。それとも危険は踏まずに封印して神社でも建てるか。予想は難しい。
「ともあれ、話だけはしてみましょうか」
「ありがてぇ。急いで頼むぜ!」
 手代は冒険者を集めた。この前から無報酬で、正式な依頼とは言えなかったから、文蔵に協力するか否かは冒険者の自由だ。別に調査するのもいいかもしれないが、ある意味ではそれも危険だろう。

●今回の参加者

 ea0176 クロウ・ブラッキーノ(45歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea0707 林 瑛(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1244 バズ・バジェット(35歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea1672 安来 葉月(34歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea3462 咲堂 雪奈(25歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea4653 御神村 茉織(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4660 荒神 紗之(37歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5062 神楽 聖歌(30歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea5428 死先 無為(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6147 ティアラ・クライス(28歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●嘘吐きは泥棒の始まり
「オーガを見たわ。腕試しにちょうどいいかなと思って追いかけたら、偶然洞窟を見つけちゃったのよ。奥に入ってそこに扉があって‥‥死人憑きがいるなんて知らなかったわ」
 華国出身の冒険者、林瑛(ea0707)の証言。
「皆でピクニックをしていたら遺跡に住んでいたと思われるオーガと遭遇しましてネェ‥‥逃げ込んだ先が偶然、洞窟だったのですョ」
 フランク出身の競売商、クロウ・ブラッキーノ(ea0176)の鼻毛抜きつつの証言。
「だから、事前に報告したでしょう? 暇なので腕試しにオーガらしいモノを見かけた付近を捜索することは。いいえ、嘘ではありません。居るかどうかも判らないし空振りに終わる可能性も高いから報酬も助っ人も不要とは言いましたが、確かに届けは出しています」
 ビザンツ出身の通訳、バズ・バジェット(ea1244)の証言。
「は、はい。私達がお上を差し置く形で遺跡の調査に関与しましたのは事実です、お詫び致します。ですが村長さんの判断は利便性と迅速さを求められた結果であり、私利私欲とは関係の無い事を申し開きさせて下さい」
 子守の安来葉月(ea1672)の証言。
「今はこらえてーな。まだどうなるかわからへんけど、他のもんが奉行所に掛け合いにいっとるさかいな。勝手やゆーことは重々承知しとるよ。けど遺跡のことは村長はんが全て知ってはるんやから、いくら言い訳考えて偶然装うとしても無理な話やで」
 山師達を前にした泥棒の咲堂雪奈(ea3462)の言葉。
「村長が、井戸のことで思い悩んで心労を患ってたのは知ってたよ。村に押しかけてきた山師達には脅され‥‥いや俺らとは上手くやってたんだよ‥‥だけど遺跡を徘徊する魔物には心底怯えちまってた。‥‥なあ遺跡の事なら実際に潜った俺の方が確かだ。代わりに話すんで、か弱い年寄りは開放してやっちゃくれないか?」
 警固の御神村茉織(ea4653)の証言。
「ギルドに確認して頂ければ分かりますが、私達が受けた依頼は『この村の脅威を全て取り除き最後まで遺跡調査を行う』こと。つまり冒険者への依頼は村の脅威を排除することであり、村長は遺跡自体を村の脅威と考えておられた。それならば遺跡から出る宝は副次的な品、何度も依頼を出して村の財政は困窮し、これから冬が来る時期なれば、その有無に関わらず冒険者への報酬にしたのは私意でなく村の為を思っての事です。何卒、寛大なご処置をお願い致します」
 博徒の荒神紗之(ea4660)の証言。
「遺跡のことですか‥‥さあ? 見ての通り、僕はここでお茶を飲んでいるだけですのでそういった込み入った事は‥‥。いえね、実はここで待っていれば仕事にありつけそうだと聞いたものですからね。所で、このお菓子なかなか美味しいですよ、お役人様もお一つどうです?」
 学者の死先無為(ea5428)の証言。
「村長さん、悪い人じゃなかったのに可哀想‥‥え、死んでないの? 私? 私はここでハラキリショーが見られるって聞いたから見物に来てるのよ。そうだ、今さっき出来たばっかの思い切り泣ける新曲があるんだけど聞いてかない?」
 シフールの学者、ティアラ・クライス(ea6147)の証言。

●天網恢恢疎ニシテ漏ラサズ
「私は‥‥役人と争うことは出来ません。どうすれば良いのでしょうか?」
 学者の神楽聖歌(ea5062)は悩んでいた。侍の自分が事に介入することで騒ぎが大きくなるのを恐れて。妙手もなく思案にくれる。
「神楽様の好きなようになされば宜しいではありませんか」
 封鎖された井戸を眺めて、死先はお茶を啜った。持参した茶菓子を神楽に勧める。
「美味しいですよ」
 そのぶん、少し高かった。尤も、昨今は冒険者も相当に稼いでいたから、彼のように茶道楽も出来れば一銭にもならない依頼に走り回ることもできた。
「今も、皆様が村長様と遺跡探索再開の為に力を尽くしておいでです、きっと上手く行きますよ」
 死先はのんびりとした調子で言った。
「私は‥」
 神楽は立ち上がり。
「文蔵さん達ともう一度、話をしてきます」
 死先に茶の礼を述べて山師達の小屋へ向う。
「‥‥」

「このまま引き下がりたないことはよーわかるで」
 小屋では咲堂と林が山師達を説得していた。文蔵の他に急変を知って河田屋与平、白河重庵、相良縞之介の三人も到着していた。広いとは言えない小屋に六人と、それから山師達の部下が入り、話し合いが続いている。
「けどな、なんやかんやゆーたかて、うちらの雇い主は村長はんや。村長はんが居らんうちに強行したらタダでは済まんことぐらい分かるやろ?」
「理屈を言いやがる。だがね、鳶に油揚げさらわれて黙っておけるかい」
 河田屋与平が言うと、文蔵も憤懣する如く肩を怒らして吠えた。
「おうよ。しかも、あの村長さんに縄を打つなんざ役人のやる事はバカバカしくて話にならねぇ」
 さて温度の高い2人に比べ、白河と相良は慎重な姿勢を見せた。
「わしは出方を見てからでも遅くはないと思う。調査を中断する不安はあるがの」
「無理をして墓を増やすことはない」
(「ふーん、そんな感じなんだ‥‥でも」)
 横目で林は咲堂の顔を見た。
 林は文蔵達の探索に随行し、遺跡内に残る冒険者にとって不都合な痕跡を消す心積もりだった。言い出し難い雰囲気になったので先程から黙りこくる事になったが。
「!」
 入口のそばにいた林は突然後ろから肩を掴まれた。驚いて振り返ると眼前に褐色の魔法使いの顔。
「おやおや、男衆のなかに娘サンが一人‥‥健全な青少年の育成上、良くありませんネェ。私と交代ですョ」
 クロウは林を引っ張り出して、代わりに小屋の中に入った。
「うちもおるんやけど」
「細かいことを気にしちゃ駄目ですよ」
 クロウは山師達に勝算を確認した。
「遺跡の深さを考えると調査の長期化は避けられないとお解かりのはず。お上に目を付けられながら、それを振り切り続行するのは難しいかと」
「‥‥てめえも探索はやらねえって腹か?」
「私ですか? 勿論、いつでも戦う準備はできてますョ。ウフ」

 結果的に、この話しあいは物別れに終わった。最後には体を張って止めた咲堂雪奈は縄で縛られた。
「うう〜〜」
 林やクロウが文蔵達についていったのが雪奈には悔しかった。村にいた冒険者が全員で止めていれば或いは山師達を止められたか。しかし、それには流血沙汰となったかもしれず‥‥彼らは穏便な方法を選んだ。
「やれやれ‥‥しょうのない人達だ」
 死先は咲堂の縄を解き、そのあと村人達に役人が来たら口裏を合わせて山師達の事を誤魔化してくれるよう頼んだ。押し寄せる不安をかき消そうとするように、ティアラ・クライスは自作の歌をうたった。

●幕間 ティアラのTHE癒し系新曲
「振り向くな!振り向くな!振り向くな!
 ホシは狙われている
 フクブクロ!フクブクロ!フクブクロ!
 ふところを狙うものたち
 やみのくにからーやってぇきたっっ!恐ろしぃ恐ろしいぃ
 エチ●ヤの一味
 どうする、どうする、どうっする君ならどーうする
(親父の声で「福袋も売ってるぜ!」)
 どうする?どうする?どうっする?「鬼力指輪」あったらどーうする
(再び親父の声で「大人買いかい兄さん」)
 おもいんだ!!俺達が白紙で出しちまう大童ぁ」

(作詞・作曲・歌:ティアラ・クライス)

●隠密探索行
 奇天烈な歌で送られ、文蔵と与平の隊は村を出た。むかうは遺跡に通じた裏山の洞窟だ。
「縞チャンも一緒にピクニック、行きませんカ?」
 クロウは村の出口で相良に声をかけた。
「やめておけ、盗掘の片棒を担ぐこともあるまい」
「ウフ、優しいのですネ」
「‥‥」
 後の事は死先達に任せてあるが、無計画な探索には違いない。それでもクロウや林には遺跡に行く目的があった。文蔵や与平もそれは同じだろう。大人数では返って不利だとクロウが進言すると、文蔵は素直に聞き入れて部下を選別した。
「でも最深部まで到達できるとは思えないんですよネェ」
「行ける所まで行ってやるぜ」
 結論を言えば、文蔵は行ける所まで行った。
 死人憑きの大群にも怯まず、先を目指した文蔵は‥‥帰ってこなかった。
「お、親分ー!!」
「五郎サン、文蔵さんのことは諦めて下さい。彼はいってしまったんですヨ。さあ帰る時間です」
 クロウは文蔵の手下の襟首を掴んで脱出した。遺跡に潜った四分の一が死んだ。
「墓穴を掘ったって感じよね‥‥」
 林は遺跡に残して来た消えない痕跡を思って顔を顰める。全員で来ていれば結果は変わっていたか。無益な事と分かっていても後悔を感じた。

●事情聴取
「かかる事態を引き起こした原因が何処にあるか‥‥だが、この私にも手落ちがあったのだろう。もっと早くに封鎖しておれば死人を出すことも無かった」
 井戸の村の領主は痛恨の表情を浮かべた。
 年齢は30代後半、一見して武士の表情は暗く、冷たい印象を与えた。
 安来葉月、バズ・バジェット、荒神紗之、御神村茉織の四人はこの武士の屋敷に出向いて村長の助命嘆願と遺跡の探索続行を願い出ていた。そこに監視の為に村に行っていた使いから急報が入り、全員が村へ来ていた。
「‥‥」
 遺跡探索の詮議は既に終わっている。冒険者達は嘘を突き通し、領主側は薄々と感じてはいたがそれを不問にした。推測すれば、領主の財産や村人の命には何の損害も与えていない現状で、冒険者達を訴えて揉める事に意義を見出せなかったのかもしれない。
『腕試しと称してオーガを追って洞窟に入った迂闊な者が死人に食われて不慮の死を遂げた』
 で済んでしまった。山師達もまさか違うとは言えないし、元はと言えば自分達の責任による事だから、領主の計らいは寛大と思わねばならない。文蔵の手下や与平達には遣り切れない想いだけが残った。
「‥‥新兵衛、そちの責任もよく考えねばならんな」
 名前を呼ばれて、村長は身を固くした。
 領主にとって山師の死や冒険者の処遇はどうでも良い事のようだが、領内の村長についてはそれはあてはまらない。
「待ちなよ。確かに村長さんには配慮に足らなかった所もあるけどさ、悪気は無くてした事なんだ。それは分かっているんじゃないのかい?」
 荒神は村長の為に抗弁する。武士の顔は不快げだ。荒神は志士として神皇家に仕える身、武士にとっては些か面倒な存在だった。
「当家の領内のことに口出しは止めて頂こう」
「そりゃ分かるけどよ、こっちもこのままだと寝覚めが悪いんだよ。無関係って訳じゃねえからな」
 御神村はざっくばらんな口調で言った。
「‥‥あ、有難う御座います」
 村長は冒険者達が自分の為に言葉を尽くしてくれる事に感激して泣いた。
「んで、結局、領主様はあの井戸をどうなさるお考えで?」
 しんみりとしてしまったので、御神村は話題を変えた。すると、バズが横から発言する。
「その前にお聞きしたい。あの井戸とその下の遺跡は、一体どなたの持ち物となるのでしょう」
「さて難しいことを聞く。いつ誰が作った者かわからぬでは返答のしようもないが、当家の領内にある上は当家が管理せねばならないものであるな」
 領主は然るべき手段にて由来を確かめ、その上でその処遇を決めるべき事であると述べた。
「それではそちらで調査を行われるということでしょうか? それでしたら私達が口出しをする所ではありませんが‥‥」
 安来の問いには、領主は沈黙した。決めかねている、といった風にも見えた。
 問題は大きくなっていたが、根本は何も変わらないままなのだ。
「ともあれ、この先は当家が判断いたすことゆえ冒険者どのにはお引取りを願おう」
 それ以上の反論を許さず、武士は冒険者達は帰した。
 果たして、このまま探索は終わってしまうのだろうか‥‥。