井中の冒険・八 魔の山

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:5〜9lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 19 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月02日〜01月07日

リプレイ公開日:2005年01月13日

●オープニング

 夏に江戸から徒歩2日の距離の村で遺跡が発見されたことで始まったこの依頼も、年越しが確定した。
 もっとも、ギルドの手続き上は領主から探索中止命令が出されたことで依頼は終了していた。だから、今ギルドに出されている依頼は井戸探索とは関わりがない。その筈なのだが‥‥。

 新年を目前に控えた江戸、冒険者ギルド内。
「村の雰囲気はすっかり違ったそうですねぇ」
 ギルドの手代は薬のお礼に新兵衛から届いた手紙に目を通していた。
 探索中止の前も、冒険者の相手をするのは村長の新兵衛ばかりで一歩退いた感じはあったが、鬼退治に行った時には露骨に冒険者を避ける雰囲気があった。
「まあ、あの村の人達にとっては仕方のない感情がございましょうね」
 冒険者が敬遠されるのは珍しい事でも無い。金を貰って他人の事情にずかずか踏み込む商売だから、衝突や摩擦は日常ごと。探索中止に至るまでの顛末を思えば、複雑な思いは寧ろ自然である。
「それでも依頼は来るからな」
 冒険者の1人が言い、手代が頷いた。
 前回の依頼のあと、再び裏山に入った村人にまた犠牲者が出た。
「まだ鬼がいたのですか?」
「いいえ、それならまだ良かったのかもしれません」
 裏山に登った人数は三人。二人は村の人間で、あとの1人は村を出る山師の手下を金で雇っていた。もし鬼が出た時の為にと用心の気持ちが働いたのだろう。その山師は最後の探索にも同行して生還した者の1人で、山鬼の一匹ぐらいであれば、何とか出来る男だった。
「こ、この化物め! 親分の仇だっ!!」
 現れた怪物に震える村人を守り、山師の男は果敢に怪物に向っていったらしい。
 村人二人はどうにか村まで逃げのびたが、男は帰ってこなかった。
「化物の体は腐っていたそうです。洞窟の入口の確認と、男を襲った死人の退治が今回の依頼です」
 洞窟から繋がる遺跡の扉は前回、冒険者が閉めている。だが死人がそこから出てきたとするなら、壊されているかもしれない。今回は扉については確認のみで、もし破壊されていたなら冒険者達の情報を元に修復方法を検討する事になる。
「今回は急を要する依頼です。馬を用意しました。村までは1日で行けるでしょう」
 この手代がそんな配慮をするのは珍しい。何かあるのだろうか。
 さて、どうするか。

●今回の参加者

 ea0176 クロウ・ブラッキーノ(45歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea0707 林 瑛(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea0841 壬生 天矢(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea1244 バズ・バジェット(35歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea1672 安来 葉月(34歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea3462 咲堂 雪奈(25歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea4653 御神村 茉織(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4660 荒神 紗之(37歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea4868 マグナ・アドミラル(69歳・♂・ファイター・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea6147 ティアラ・クライス(28歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)

●リプレイ本文


 神聖暦1月3日、騎馬の集団が村に姿を現した。
「ふー、冷えやがる。しかも尻がいてぇのなんの‥‥」
 馬上で御神村茉織(ea4653)は悪態をついた。ギルドが馬を用意してくれたは良いが、日頃馬に乗りなれないのは如何ともしがたい。
「先に村長の家に向いましょうか。何かあったようですよ」
 村の様子を見てバズ・バジェット(ea1244)が言う。手遅れも予想したが、村はまだあった。しかし、この前とは少し違うのを彼は感じる。
「死人が来たのかい?」
 村長の家に着くなり、バズと同じく最悪も覚悟していた荒神紗之(ea4660)が聞いた。
「姐さん、心配には及びませんや」
 出迎えたのは村を去ったはずの山師の子分達だ。遺跡から生還した経験のある彼らは村に迷い込んだ数体の死人憑きを始末して冒険者達の到着を待っていた。
「あんた達、帰ったんじゃないのかい」
 年末の依頼で荒神は山師達と話をつけていた。与平と文蔵の子分達はもう村にいない筈だった。 男達は身内の死体を受け取りに来たというがその割には用意がいい。
「お叱りはあとで幾らでも受けやすが、今は死人どもが先でさあ」
「何か変なことを企んでるんなら先に相手するよ」
「とんでもねぇ、ただ俺達は姐さんの役にたちてぇんで。用が終わったら長居も致しません」
 数人の男達は無償で村の守りに手を貸すと言った。これは冒険者達には思わぬ助けとなった。
「しょうがないねぇ」
 荒神は村人と山師達から話を聞くとすぐ、この村を治める結崎秀昌の屋敷に向って出発した。遺跡から死人が出て来ているとすれば、事態は急を要した。
「あなた達の見た死人のことを詳しく話してください」
「そや、まずどこで遭ったかそこから教えてや」
 安来葉月(ea1672)と咲堂雪奈(ea3462)は山で死人と遭遇した村人から話を聞いた。村人の話ではその死人は鋭い牙が生やし、動きも速かったらしい。
「やはり、並の死人憑きではないのでしょう」
 安来は恐がる村人を宥めて山師達が倒した死人を改めて貰ったが、山中であったものとは別のようだ。これで少なくとも二種類の死人が村の周囲にいる事になった。
「安心しい。白河のじいちゃんにも頼まれとるさかい、この村は必ずうちらが守るわ」
 怯える村人達を少しでも安心させようと雪奈が言った。その横ではシフール商人のティアラ・クライス(ea6147)が良く分からない歌を口ずさみ、餅を撒いている。
「負けないこと♪値切らせないこと♪逃げ出さないこと信用第一〜」
 餅を震える手で受取り、村人達は冒険者らに頭を下げた。
「お頼み申します。村を守ってくだせえ」

 守りを固める村に、遅れていたマグナ・アドミラル(ea4868)と壬生天矢(ea0841)の二人が到着する。
「どんな状況であるか?」
 武神の称号を持つマグナの姿は村人に頼もしく映った。
「山ん中に〜、死人がうようよよ〜」
 偵察に出たティアラが歌うように話す。シフールは裏山に何体も死人憑きが動いているのを上空から見てきた。
「村人は一箇所に集めた方が良かろう。荒神殿は?」
 領主の所に向ったと聞いて、マグナは押し黙る。
「この状況、既に扉は開かれたと考えるべきであろう。なんとしてもここで根絶やしにせねば‥‥近隣の村、全てが脅かされる。必ず討ち取らねばならぬ」
「悠長に待ってる場合じゃないでしょ。出元が判っているんだから、そこを閉じに行けばいいのよ」
 じれったいとばかりに林瑛(ea0707)は洞窟行きを主張する。
「扉を直せば、しばらくは時が稼げるかもしれません」
「気休めって気もするが、俺達はもともと扉を確認するために来たんだ。どうせ今回だけで収まりそうも無いなら、見とくだけしとこうぜ」
 他の仲間達も似たような事を考えていた。
「‥‥わし達が討って出た方が囮になるかもしれぬな」
 荒神を待たず、マグナ達は村の守りを山師の男達に任せて裏山に入った。

「やれやれ、腐った尻には興味が無いのですガ」
 クロウ・ブラッキーノ(ea0176)は不平を溢しつつ、山中の捜索には付いてきた。クロウは怪しい場所では変わり身や赤外線視覚の呪文を使う。誰かを探しているようだったが、山には動物と死人以外にはいなかった。
「ただの死体のようですネ」
 クロウの足元には首筋を噛み切られた無惨な死骸があった。半分まで雪に埋まっていたが、村人を守った山師の男に間違いなかった。
「今すぐ埋葬してやりてぇが‥‥また来るぜ」
 茉織は仏に祈りを捧げた。雪のため加害者の追跡は困難だった。冒険者の間で意見は割れたが、洞窟の確認を最優先にしてその場を立ち去る。そして冒険者達は洞窟に到達した。

 大上段から振り下ろした示現流の太刀が死人憑きを粉砕する。
「今度は迷わず冥途に行け」
「安らかに眠りにつかれよ」
 壬生天矢とマグナの二人だけで、洞窟のそばにいた二体の死人憑きは片付いた。
「タフではあるが脆い。猟師達を襲った者とは違うな」
 冒険者達は慎重に洞窟内に歩を進めた。
「さあ行くわよ」
 林瑛はバジェットの腕を掴んで先を急ぐ。
「何故に引っ張っていくのかな?」
「だって、あんた灯り持ってるじゃない。新年早々美女とお出掛けで良かったね」
「美人ね‥‥」
 余談だがバジェットと林は同じグループに属している。
 バジェットと安来がランタンで洞窟を照らす。洞窟の奥で彼らは開かれた扉を発見した。
「外側から壊れとる‥‥」
 雪奈は扉を観察して開けた者を想像した。先日来た時に、山鬼が壊した扉を冒険者達は閉めた。内側からであれば怪力で破壊されたかと思う所だが外側からならつっかえ棒を外して板を引き剥がせば簡単に開く。
「なんや見落としあったかいなぁ‥‥」
 依頼はこれで完遂だ。しかしここで御神村、壬生、安来の三人が遺跡内の隠し扉の確認を言い出した。遺跡内は立ち入り禁止だから禁を破ることになる。
「依頼を軽んずるつもりはありません。ですが、それが村人達への被害に繋がるなら、私は一人の僧兵として放置しておけません」
 ここに荒神が入れば止めていたか。冒険者達は決まりよりもその場の判断を優先した。
 一歩間違えば死への道行。不安を押し殺して地下に降りる。

「えー、最近の依頼とかけて、ここの参加メンバーととく―そのこころは‥‥クロウ(苦労)で始まり、クライス(危機)で終わる‥‥」
 最初は緊張していたが敵が出てこないので手持ち無沙汰のティアラは無駄口を叩き始める。冒険者達は記憶を頼りに第一階層の中を進み、隠し扉の前まで来た。
「これも山鬼が開けたって言うの?」
 隠し扉は開いていた。破壊された形跡がないのは外側から誰かが開けたとしか思えない。しかし、クレバスセンサーでやっと見つけた扉を、山鬼が開けられるものだろうか。
「ともかくこの扉は閉めていきましょう。洞窟の扉も修復した方がいいと思います」
 扉の応急処置にと安来は木材を購入していた。冒険者達はひとまず二つの扉を閉めて地上に戻る事にした。床に残る痕跡からは、死者達ここから這い出してきた事を教えていた。

 村に帰還すると、荒神と領主の手勢が彼らを待っていた。
「遺跡を見て参ったのか?」
 詰問調で結崎秀昌は問う。
「ああ、見てきた」
 答える彼らは包み隠さずに話した。危険を考えた場合、必要な処置だったと説明する。
「そうか。禁を破ったは許し難いが、今は非常時ゆえ詮議は不問とする。皆のもの、ご苦労であった。江戸に帰ってよく休むが良い」
 結崎は冒険者の労をねぎらい、つぶさに報告をさせたあとで冒険者達を解放した。結崎は死人憑きに備えるために村人に指示して村の周りに柵を作らせる。

 帰還する前に、営業スマイル全開でクロウは駿馬の手綱を村長の手に持たせた。
「これは、何でございましょうか?」
「この文蔵、差し上げますヨ」
 文蔵とは駿馬の名前らしい。ヒートハンドでクロウの焼印が押された馬を彼は惜しげもなく村に贈った。
「走って良し・売って良し・食って良しと利用価値は高いと思いますョ」
「おぅいキミ」
 ちょっと待てとばかりにクロウの肩を叩いたのはティアラ。
「タダであげるくらいなら私が1Cで引き取りますよ?」
「結構です」
 即答されてかくんと肩を落とすシフール。
「ふっそのネタはいつか使おうかと思ってたのに‥‥やられたわ」
 謎の捨て台詞を残してパタパタと飛び去った。
「‥‥マア、世話が面倒かもしれませんが、緊張の繋ぎにでも使って下サイ」
 村長は駿馬の文蔵とクロウを交互に見つめていたが、厚く礼を言った。
 冒険者は帰還するが事件は終わっていない。山には死人憑きが放たれ、近隣の村々を脅かしていた。