殺し屋稼業・三 殺し屋騙し

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:4〜8lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 92 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月11日〜11月16日

リプレイ公開日:2004年11月20日

●オープニング

「邪魔するぜ」
「こりゃ親分、ご苦労様です」
 岡引の千造がギルドの暖簾をくぐったのは、霜月に入ってからの事だ。
 先日はもうすぐ浪人殺しの下手人を捕まえてやると息巻いた千造だが、今は不景気な顔をしている。その理由――捕まえた殺し屋の手下を牢死させた事は年配の手代の耳にも入っていた。
「親分、お顔の色が優れないようですが‥」
「大きなお世話でぇ」
 千造の顔には、仕える同心からお叱りを受け、挽回しようと新たな手掛かりを探して江戸市中を探したが成果無しと、如実と語っていた。
「‥‥といいてぇ所だが、どうにも八方塞がりのつまらねぇ事になってやがる。この俺が、てめぇのまずい面を拝む羽目になるとは思いたくなかったぜ」
 千造の言葉に手代は息をのんだ。
「ほぅ‥‥では親分が依頼を?」

 手代は集めた冒険者達に千造の出した依頼の事を話した。
「つまり、その鴫の伝八とかいう殺し屋を探して、捕えろというのだな」
 冒険者の一人が言うのに、手代は頷いた。
 鴫の伝八とは簪暗器を良く使う殺し屋だが、その姿を見た者はおらず、正体不明の賊だ。
「この広い江戸で顔も分からぬ相手を探せと言われてもな‥‥」
 それについて実は手が無い訳でも無かった。ここからが依頼の要諦なのだ。
 千造は苦労して、伝八の仕事の窓口を努めているらしい男を捜し出していた。しかし、既に一人獄死させているだけに今度は慎重に事を進めて、伝八自身を捕えたかった。
「うーむ、その連絡係に接触して嘘の依頼を頼み、伝八を罠に引き込む‥‥か。はたしてそう上手く行くかな?」
「さあ、そればかりは‥‥」
 奉行所の動きは当然警戒されているだろうし、千造は面が割れている。思案の挙句、冒険者達にお鉢が回ってきたと、そういう事らしい。
「ふーむ」
 額面通りとしても、難しい依頼である。評判の殺し屋を罠にかけようというのだから、下手をすればこちらの首が飛ぶ。
「そういえば、最近寺に活きのいい死体を持っていけば甦らせてくださるそうですね」
「縁起でもない事を言うな!」

 伝八の連絡係と目されるのは、薬売りの重蔵という男。
 独り身で年は27、小男で面は三枚目だが愛敬がある。住んでいる長屋も判明している。
「重蔵さんかい? 今時珍しいくらいに良い人だよ。この前も隣の娘が熱を出したら真っ先に飛んできて、走って医者を呼んできてくれてねぇ」
 近所の評判はすこぶる良い好青年だ。
 道で知人に会えば必ず重蔵の方から頭を下げてくる、物腰は柔らかく、老若男女の別なく優しい。
 とても殺し屋の手下とは思えない善人だ。
「さて、どうなるか‥‥」

●今回の参加者

 ea1160 フレーヤ・ザドペック(31歳・♀・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2046 結城 友矩(46歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3108 ティーゲル・スロウ(38歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3891 山本 建一(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4492 飛鳥 祐之心(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea5973 堀田 左之介(39歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea6177 ゲレイ・メージ(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea6388 野乃宮 霞月(38歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●酒場
 港で働いた荷役の人足がたむろする酒場、奥にある小さな座敷で侍の結城友矩(ea2046)は薬売りの重蔵と向かい合っていた。同郷の馴染みがたまたま久しぶりにあい‥‥等といった温かさは微塵もない。
「まずは一献」
 結城が持ち上げた徳利を、重蔵はやんわりと断る。
「‥‥私は、話を伺いに参っただけでございますから」
「おお、それは失礼いたした」
 軽く頭を下げ、結城は鴫の伝八に頼みたいという『仕事』の話を始めた。遊び人に騙されて自害した妹の仇を取って欲しいと‥‥。
「悔しいが、拙者の剣術では返り討ちがせいぜいでな」
 仇の名やら何やら、あらかた話終わると結城は相手の返答を待った。
「なるほど。分かりました」
「引き受けて下さるのか?」
「先に申しましたように私は話を伺うだけ‥‥後日こちらから連絡を」
 話はそこで終りとなった。騙りとは言え、敵討ちを頼む結城は物足りなさを感じたが、存外にこんなものかと思い直すと腹に義憤が湧いた。
「まずは上首尾ってところか」
 酒場でのやり取りをギルドで聞いて、渡世人の堀田左之介(ea5973)が笑みを見せる。釈然としないのは浪人教師の飛鳥祐之心(ea4492)。
「俺には重蔵氏のような良い人がただの殺し屋に手を貸すとも思えないが‥‥人は見掛けによらぬということなのか‥‥」
 他に一仕事を終えたばかりの結城、僧侶の野乃宮霞月(ea6388)、それに今回の依頼人である岡引の千造が揃っていた。結城が酒場で重蔵に会えるように算段をつけたのも千造である。どんな手を使ったのかと聞いたら、投げ文だと答えた。
「まあ悪党の事情なんざ知ったことじゃねえ。そんな甘ぇこと言ってやがるから、その何とかって浪人に逃げられるのよ」
 千造があてこするように言ったのは、先日の菅谷左近の件だろう。
「親分、ところで鴫の伝八とやらはどんな野郎なんです? 恥かしい話だが俺達はよく知らない。今回の仕事のためにも、ちょいと教えといて欲しいんだけどな‥」
 霞月が言うと、千造は腕をくみ、僧侶を横目で睨んだ。
「知りたきゃ教えてやるぜ。伝八ってな、通り名で本名は誰もしらねぇ。俺の見立てじゃあ、この4、5年で奴が殺した人間は両の手におさまらねえ。金のために赤の他人を殺める、殺し屋野郎だ」
 鋭い針、恐らくは簪を凶器に使うので付いた二つ名が鴫の伝八。殺されたのは商人や侍、浪人に博徒‥‥様々だが皆、人に恨みを買う覚えの一つや二つは持っていた。そこから殺し屋の犯行と推測されたらしい。
「ふーん、そこまで絞り込めるってのは流石は餅は餅屋だな。とすると、獄死したって子分も自然死じゃないかもな」
 何気なく言った霞月の台詞に、千造の表情が変わった。分かりやすい男である。
「朝になったら冷たくなってやがった。‥‥首筋から血を流してな」

●喜三郎
 飛鳥、堀田、ゲレイ・メージ(ea6177)の三人は連れ立って喜三郎の泊まる宿を訪れた。
 喜三郎が現れると飛鳥は頭を下げた。
「俺の所為で菅谷氏には逃げられてしまった‥‥すまなかった」
「あ、困ります。お顔をあげてください」
 喜三郎の顔には気落ちは見られない。本心は知らず、江戸で探すことはもう諦めたのか。堀田もゲレイも飛鳥と揃って頭を下げ、なかなか上げないので喜三郎も根負けする。
 三人が来たのは詫びだけではない。言葉は悪いが、それは口実。三人は先の依頼に心を残し、喜三郎に聞きたい事があったのだ。
「菅谷氏と対峙した時、物陰から俺を目掛けて小柄が飛んだ。あの場所に潜んでいた第三者、心当たりはないだろうか?」
「いいえ。菅谷に味方がいたとは存じませんが、悪党は徒党を組むもの‥‥私も帰りの道中は用心を致しましょう。飛鳥さん、それはどんな男でしたか?」
「‥‥すまない、姿は見ていない‥‥」
 直後に彼は気絶している。飛鳥は質問を変えた。
「時に、喜三郎殿に協力している御仁は、どんな得物を使うのかな?」
「‥‥そのことは、どうかお聞きにならないでくださいまし」
 話しにくい様子だ。それを見て、ゲレイは喜三郎に言った。
「江戸を出たと見せて、菅谷は舞い戻ってくるかもしれない。今更だが、菅谷と野村について、ご存じの事を教えてもらえませんか?」
「兄の仇でございますから話せと言われるなら三日三晩とお話しできますけれど、何をお聞きになりたいのでしょう?」
 喜三郎は血眼になって仇の事を調べたから、全て話せば長すぎる。と言って面識は無いので、要約するほど理解はしていない。大雑把な認識では冒険者達と大差はないだろう。
「‥‥あ、ところで、鴫の伝八という名前に心当たりはありませんか?」
「たしか殺し屋の名前と伺っておりますが、詳しいことは」
 鎌をかけたが、先の依頼で伝八の名は喜三郎も知っている。尤も、仮に喜三郎が動揺したとしても商人の心を読めたかどうか。
 話が尽きると三人は喜三郎を見送った。
「どうかご無事で」
「こんな形で江戸を去らせるのは残念だ。是非また来てくれよ」
 飛鳥と堀田の別れの言葉に旅姿の喜三郎は笑みを返した。
「皆様もお元気で。江戸に来れるかは分かりませんが、もし上方に来られることがあれば立ち寄って下さい」
 喜三郎は京都を目指す。東海道は十日路というが、凡そ十四、五日はかかる旅だ。

●芝居
「おや旦那。今日は走っていないんだな」
 地道な聞き込みを続けるフレーヤ・ザドペック(ea1160)は通りで千造とすれ違った。
「そらおめぇ、優秀な手下どもが走り回ってくれるからな。気楽なもんよ」
 結城らのことである。
「ふん。その分、財布はお寒いだろう? 熱い茶でよかったら、奢らせてもらうよ」
「しみったれてやがるな」
 フレーヤは千造と同じ目星で、陸奥流か中条流の使い手を探していた。なお現在の関係者では久地藤十郎が陸奥流だった。
「実は俺の剣術に似た流派が日本にもあると聞いて、練習相手に探しているんだけど、中条流か陸奥流って知らない?」
 千造にもさりげなさを装って聞いた。
「やっとうの道場なら江戸には捨てるほどあるぜ。わざわざ聞くなんざ、まだまだだな」
「そうかい」
 あとは毎度の世間話になる。
「千造の旦那、残念だったな‥‥旦那の愚痴聞かせてもらえるか?」
 2人の姿が見えたのか、ティーゲル・スロウ(ea3108)が近づいた。
「俺はてめぇの肴か?」
「嫌なら別にいい」
 当然、千造はうんざりするほど語った。別れ際にフレーヤは千造に忠告した。
「事件の真相に近いほど、犯人に認識されている確率は高い。暗殺されないよう単独行動は避けた方が良いわよ。俺は端役で警戒もされないだろうけどね」
「へ、余計な心配だぜ。俺様の前に現れやがったら、ありがてぇくらいのもんだ」
 その場でフレーヤと別れたティーゲルは獄死した手下が葬られた無縁墓地へ向う。仏から聞いた言葉は『伝八』。
(「手下の口封じを伝八が行ったということか‥‥」)
 暫しティーゲルは留まったので墓参りに何度か来る者を見かけたが、それが死んだ男の縁者かそれとも他の誰かの知り合いかは分からず、中に彼の見知った顔はいなかった。

 山本建一(ea3891)は浪人風の粗末な身なりで街をぶらぶらと歩いていた。
(「私は女好きの浪人、女好きの浪人‥‥」)
 時折、何事かぶつぶつと呟く。仲間のために囮を買って出た彼は、今は結城の妹を嬲って捨てた女好きの浪人、『山本某剣』に化けている。
「これは山本様、その格好はどうしたので?」
「う、わ‥俺は山本建一ではありません‥いや、ない!」
 知人に声をかけられると逃げた。
「これはいかんな。道を変えよう」
 山本は普段は歩かない場所を通り、向こうから知人が歩いてくると慌てて姿を隠したりした。
「‥‥大丈夫なのか?」
 そのにわか浪士の後方を、少し距離を離して堀田とゲレイが尾行している。
「見ようによっては、仇に狙われる凶状持ちと見えない事もないよ」
 慣れない無頼を演じる山本の様子は頼りないが、いまさら変更はきかない。
 ひたすら伝八の現れるのを待った。
「おっと、俺はそろそろ行くぜ。あとは頼む」
 二役を演じる堀田は走って、重蔵の長屋に急ぐ。

「どこに目ぇつけてやがる!」
「なんだとぉ!」
 渡世人の顔になった堀田は長屋の近くで適当な相手に喧嘩を吹っ掛けた。
 挑発して、ボコボコに殴ってもらう。足腰立たないほど痛めつけられて長屋の前で倒れると、案の定というか近所の人に混じって重蔵が現れた。重蔵が居るであろう時間を見計らって騒ぎを起こしたのだ。
「丈夫な人ですね。骨は折れていませんよ」
 左之介の傷を診た重蔵は、命の心配は無いだろうと言って応急処置をし、傷に効く薬草をくれた。
「おまえさん、薬屋かい? すまなかったな、お代はこいつで‥‥」
 金を払おうとすると重蔵は首を振った。
「‥‥初対面の相手に情けをかけられる理由はないぜ」
「それなら、私に陰徳を積ませて下さいよ」
 傷の養生と言って、そのまま堀田は長屋に転がり込んだ。日常的に接する重蔵は善人の標本みたいな男だ。昼間の重蔵は薬箱を担いで客を回っていたので、その間は山本の護衛をして過ごした。

●騙り
「敵討ちの件、いつになったら引き受けて下さるのか?」
 いつまでも伝八が動く気配が無いので、結城は焦れて重蔵に問質した。
「おや、本気だったのでございますか?」
 重蔵に聞き返されて、結城の表情が強張る。
「惚けてもらっては困る。山本を討ち果たさねば、拙者は国に帰れぬのだ!」
「いやはや、そこまで言われては降参です。山本様は江戸で評判の志士、とても討ち果たすことなどできません」
 重蔵は首を振る。薬売りの彼なら、どこかで山本の評判を聞くのは容易かろう。 
「粋な武家の方々には面白い遊びがあるものと、調子を合わせていましたが、やはり私などには荷が過ぎました。申し訳もございません」
 重蔵は頭を下げる。結城は居場所が無い。
 人選が悪かったと言える。
 舞台に上がったのは江戸で名の知れた冒険者2人。よほど凝って作らなくては難しい。
「何か事件に関わりのある事でしょうか? しかし、山本様の浪人ぶりは私から見ても少々‥‥」
「‥‥うむ、実は遊びだ。迷惑をかけたな」
 結城は認めた。言い繕う事も出来るが、ここは退く。

「は? ばれてたって、俺‥‥いや私の努力は一体‥‥」
 知らせを聞いた山本は自分の姿を見下ろして呆然とする。真面目な彼は役作りに真剣に取り組み、素行の悪い浪人ぶりもようやく慣れてきたところだ。山本が不良化したと陰口も叩かれていて‥‥これでは自分の評判を下げただけである。
「私がいって、確かめてきます」
 刀を掴んだ志士を、飛鳥が止めた。
「どうする気だ」
「止めないで下さい。なあに、斬りつけて脅しかければ化けの皮が剥がれますよ」
「こらこら、浪人化したままだぞ」
 善後策を話し合うが、ひとまず依頼期間が過ぎた。
 さて、どうしたものか。