殺し屋稼業・四 死者の伝言

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:4〜8lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 40 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月25日〜11月30日

リプレイ公開日:2004年12月07日

●オープニング

「敵討ちの件、いつになったら引き受けて下さるのか?」
 いつまでも伝八が動く気配が無いので、冒険者は焦れて薬売りの重蔵に問い質した。
「おや、本気だったのでございますか?」
 重蔵は聞き返す。
「粋な武家の方々には面白い遊びがあるものと、調子を合わせていましたが、やはり私などには荷が過ぎました。申し訳もございません」
 冒険者達は薬売りを殺し屋の連絡係と見込んで偽の殺人依頼を出していた。
「は? ばれてたって、俺‥‥いや私の努力は一体‥‥」
 無頼に化けた志士が落胆して肩を落とす。

 そこまでで、前回の依頼は終了した。
 今回はその続きだ。

「さて、どうしたものか‥‥」
 冒険者ギルドの手代が言うのを、岡引の千造は苦々しい顔で聞いていた。
「畜生、俺の金だと思って‥‥今度こそ真面目にやらねえと、てめぇに縄ぁかけるぜ!」
 千造はどこかで工面してきた金をたたきつけ、手代に依頼の続きを頼んだ。
「しかし、向こうには面が割れてしまったわけでしょう。それに、本当に殺し屋の手下かどうか」
「奴が伝八の手下なのは間違いねえことだ。この千造親分が、あんなサンピンに笑われたまま終われるか!」
 千造は重蔵が伝八の手下である証拠を語らない。
 しかし、口が軽いのがこの岡引の長所(?)。何度か聞くと、舌の方が勝手に動く。
 突き詰めて言えばそれは千造の勘だった。殺し屋鴫の伝八が絡んでいるとこの岡引が睨んだ事件を調べる中で、何度か重蔵を見かけた。それだけのことらしい。物証のある話ではないので、さすがの岡引も言いよどんでいたのだろう。
「ただの偶然ということも‥‥」
「うるせえ。こちとらてめぇと違って、年中悪人を追いかけてるんだ。俺の目に狂いはねえ」
 言葉は強いが、このままでは立場が苦しい。窮した千造は、何としても重蔵の正体を暴けと言い捨てて、逃げるように立ち去った。残された依頼料を見下ろして、手代は溜息をつく。

「少し調べてみましたが、黒とも白とも‥‥」
 手代は再び冒険者達を集めて説明する。
 伝八の殺しと思われる事件の中に、重蔵が出入りしていた店や屋敷があった。ただ、薬売りの行動としては特に不自然ではない。それに近所での評判は善人そのものだ。
「それから、聞いた話では近く、重蔵さんは東海道を渡って上方に行かれるそうです。親分はその前にケリをつけたいと仰っていますが‥‥実はこんなものが投げ込まれていまして」
 手代が見せたのは、質の悪い紙片だった。石に包まれてギルドに投げ込まれたという。
 文面は以下のとおり。
『また人が死ぬ 気をつけられたし 野村助右衛門』
 さて、どうしたものだろうか。

●今回の参加者

 ea1160 フレーヤ・ザドペック(31歳・♀・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1636 大神 総一郎(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2046 結城 友矩(46歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3108 ティーゲル・スロウ(38歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3513 秋村 朱漸(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4492 飛鳥 祐之心(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea5973 堀田 左之介(39歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea6388 野乃宮 霞月(38歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●長屋暮らし
「三・二の半!」
「このボンクラが‥‥いかさまだ!」
 賭場で渡世人の堀田左之介(ea5973)が暴れた。
 毎夜の乱行は、堀田の面相を変えた。幾ら鍛えていても、1人で暴れて大勢に何度もどつき回されるのだから堪らない。そんな死にたがりがよれよれの姿で戻ると、長屋から呆れ顔で薬売りの重蔵が飛び出してきた。
「何があったんですか?」
「‥‥あんたには‥‥関係ねえこった‥」
 その様子を、破れ障子越しに覗く者がいた。
 教師を生業とする飛鳥祐之心(ea4492)である。
「‥‥」
 飛鳥は暫く眺めていたが、首を振って奥に引き込んだ。
 朝になり、武芸者の結城友矩(ea2046)が長屋に訪れた。
「ご苦労様でございます」
 重蔵は家の前に立つ結城に頭をさげた。
「うむ、貴殿の安全は拙者が守るゆえご安心めされよ」
 結城は数日前に唐突にやってきて重蔵の命が危険に曝されている告げ、それ以来、朝から晩まで重蔵の家に通い詰めている。最初、結城の押し掛け用心棒を重蔵は嫌がったが、テコでも動かぬ結城に根負けして好きにさせる事にした。結城は重蔵が何処へ行くのにも付き添った。
「僕も同行させてください」
 重蔵の同行者は1人でなく、応急手当の勉強中であるという飛鳥も重蔵と行動を共にしたいと言って、その通りにした。
「なんというか‥‥世間にはおかしなことが起こるものです」
 薬売りが武士2人を供にして往来を歩くのは何とも奇妙な光景だった。
「しかし、先生のような人が命を狙われるなんて、世の中間違いだらけだな。キミもそう思いませんか?」
 飛鳥は並んで歩く結城に話しかけた。結城は気の利いた演技が出来る男ではないので沈黙を守ろうかとも思ったが、それも不自然と思って口を開いた。
「左様、然らば人の恨みは他人に分かるものではない。野村助右衛門をご存知ない貴殿が何故に命を狙われるのか、それも世の不思議でござる」
 結城はギルドに野村の名で投げ文があった事を重蔵に話していた。
「結城様の話をお聞きしていますと不思議だらけでございますね。冒険者とは、いつもそのような仕事をなさっておられるのですか?」
「他人事ではござらん」
「は?」
「今は貴殿も不思議の中にござる。危険を感じたらすぐに逃げてくだされ」
 一事が万事この調子で、薬売りの重蔵が厄介ごとに巻き込まれたらしいと彼の客筋に噂が広がるのに時間は掛らなかった。

●投げ文
 重蔵に飛鳥達が張り付いている間、野乃宮霞月(ea6388)とティーゲル・スロウ(ea3108)は野村の文を調べていた。
「死人は文を書かねえからな。容疑者の字と照らし合わせて、誰が投げ込んだのか突き止めてやる」
 スロウと野乃宮は手分けして関係者の筆跡を集めにかかったが、これは思ったより難事だった。ギルドには野村と久地藤十郎の署名があったが、字の似てるか否かを判別できるほどの筆跡は無かった。
「こうしてみると野村本人の筆跡とは、やはり似てないですね」
「まあな。一応裏は取ってみるが。後の奴らはどうするかな、さすがに頼んで同じ字を書いて貰うって訳にはいかないしな‥‥」
「おい、俺をいつまで待たせておく気だ?」
 用心棒の秋村朱漸(ea3513)は投げ文を借りるつもりでギルドに来ていた。一枚の紙を挟んで神聖騎士と僧侶が仏頂面を並べていたから、結果を察して苦笑する。
「そう上手くはいかねえやな。じゃあ、ちょいとこいつを借りてくぜ」
 投げ文を掴み取ると、その足で秋村は日本橋の薬種問屋へ向った。

「アンタが佐太郎さんかい? 俺ぁ昔アンタの兄さんに世話んなった者で秋村ってんだ」
 秋村は店で野村佐太郎を呼び出して、愛想よく話しかけた。
「実ぁちょっと妙な事になってんだよ」
 佐太郎が来意を伺うと秋村は表情を曇らせて、懐からあの投げ文を取り出して板敷きの上に広げた。
「こ、これはっ!」
 佐太郎は驚きに身を固くした。秋村の目にそれは演技とは思えなかった。
「まだ知らなかったようだな。実はな、数日前ギルドにこいつが投げて込まれてたのさ。どこのどいつか知らねぇが‥‥アンタを狙ってるって事もあるだろ?」
「まさか、そんなことは‥‥私には命を狙われる心当たりがありません」
「いやいや、もしもの事があってからじゃ遅ぇんだ‥‥でだ。暫くの間、俺がアンタの用心棒を務める」
 秋村の突然の申し出に佐太郎は目を丸くする。
「窮屈だろうが我慢してくれ。野村さんの恩義に報いてぇんだ」

「地道に調べてみるとするか‥‥」
 野村の墓参りをした野乃宮は、そのままギルドには戻らず、助右衛門の妻が暮らす長屋に寄った。
「実は俺達の所に妙なものが届けられてな」
「‥‥」
 妻の表情は暗かった。夫に商人殺しの疑いがかけられていると云われたり、今度は死んだ筈の夫の名前で投げ文がされたりと異常な状況だから、気落ちするのも当然か。
「不躾だが野村さんの書いた手紙か書付を貸して頂けないだろうか」
「‥‥少しお待ち下さい」
 野村が仕官を求めて相手に出そうとした書きかけの手紙等が残っていた。投げ文の文字を思い出してそれを見るが似てないと思えた。
「時に、佐太郎さんの事だが」
 野乃宮は佐太郎の流派と江戸に来た時期を尋ねた。流派は知らなかったが江戸に来たのは半年程前らしい。
「佐太郎さんが何か?」
「‥‥いや、何でもない」
 彼は重蔵の名前も出して見たが、野村の妻は薬売りの事は知らない様子だ。
「お手数をおかけした。色々と心配もあるだろうが野村さんの為にも強く生きることだ。何かあればギルドに連絡をしてくれ」
 妻の不安を掻き立てた気がして、野乃宮はそう言って長屋を出た。
 その後、野乃宮は容疑者扱いするのかと嫌がる久地からも書付を取ってきたが、投げ文の文字とは似ていなかった。

●岡引
「何故野村は冒険者は殺し屋だなんて話をしたのか?」
「そりゃおめぇ、決まってるぜ」
 フレーヤ・ザドペック(ea1160)は岡引の千造と酒場で飲んでいた。
「ほほう‥」
「野村が殺し屋だったのよ」
 千造の言葉に、フレーヤは首を振った。
「旦那、幾らなんでもそれは無いんじゃない」
 野村は真面目な男だったと評判だ。ただし、喜三郎の兄を殺した疑惑があり、その正体は冒険者にとっては酷く曖昧になっていたが。
「だから、てめぇはまだまだだってんだ。いいか、殺し屋なんて、真っ当な野郎が口にする言葉じゃねえ。野村は影で伝八から殺しの仕事を請け負ってたのさ、それで自責の念から口を滑らせた‥‥だがそんな事は伝八にはお見通し、口封じの為にブスっとやられちまったのよ」
「へぇ‥‥驚いた。さすがは千造親分だ」
 フレーヤは感心して見せた。半分ほどは酒の間に彼女が千造の推理を誘導していた。
「旦那がそこまで見切っているって事は、伝八程度は役不足だ。実は重蔵を突いて泳がせて殺し屋の元締めをしょっ引くつもりでしょ?」
「あたりめぇよ。この千造様は殺し屋一匹に手間なんざかけねえ。そいつが分かるとは、てめぇも少しは成長したな」
 千造は上機嫌で酒を重ねた。
(「何をしてるかと思えば‥‥このお嬢は‥‥」)
 フレーヤを探していたティーゲルは2人の会話を聞いていた。千造に挨拶し、ティーゲルはフレーヤを誘った。
「先日は岡引にいっていたが俺らも狙われている可能性は高い。あまり単独で動かないほうがいいぞ」
「だからこうして旦那と居るんじゃない。あの旦那が狙われた時に俺がついてた方がいいしね」
 酒のため僅かに上気した顔で云うフレーヤに、ティーゲルは一抹の不安を感じたが、その場は別れて彼の方は重蔵絡みの聞き込みに行った。
「俺だって考えてるんだけどね‥‥」

「牢獄を見させてほしい」
 大神総一郎(ea1636)は正面から千造に牢獄捜査を頼んでいた。
「諦めな。そいつは無理ってもんだぜ」
 千造の返事は冷たい。牢獄の内側を調査する事は千造の権限を超える。
「では然るべき方に取り次ぎを頼む」
「‥‥簡単に言ってくれるぜ」
 千造の上司の同心から与力まで話を通さなくていけないが、事が牢獄内の不審死となれば町奉行の耳にも入る。外部の冒険者に牢内の捜査を許すことはまず有り得ない。
「親分、人が殺されているんだ。それも監視のあった牢獄の中で。これを調べなくてどうする?」
「て、てめぇ‥‥俺を馬鹿にしやがるなら、承知しねぇぞ。できねぇものはできねぇんだよ」
 大神は仕方なく、唯一の情報源である千造から手下が殺された時の事を詳しく聞いた。と言っても千造も詳細は知らない。牢獄は牢役人が見張っていて、手下が死んだ日も異常は無かった。下手人は内部犯を別にして考えるなら、物の怪か忍者の類としか思えない。
「医師はどうだ? 囚人を診る医師に変装すれば易々と中に入れるのではないか?」
「うーむ‥‥医者は決まった人だ。偽物なんかが簡単に入れる所じゃねえぞ」
 大神は牢獄出入りの医師に確認を取った。その日も普段と変わらない務めだったと云われ、特に不審な様子は無かった。

 それぞれの方法で関係者に張り付いた冒険者達。
 結果として冒険者の動きもある程度は知られる事になったが、『第二の殺人』を未然に封じるためには必要なことと冒険者達は考えた。しかし投げ文の主は誰か分からず、何事も起きないまま、時が過ぎていった。

●騒動
 重蔵の長屋では相変らず堀田がボコボコにされていた。
 このままでは本当に死にはしないかと飛鳥が心配になるほどだ。一応は手が空いた時は秋村が目を光らせて、相手が刃物を持ちだしそうになったら割って入るようにしてはいたが。
「‥‥アンタに回す駒はねえよ。目障りなんだ、帰ってくれ」
「へへ‥‥」
 入った賭場で出入り禁止を申し渡された左之介はキッチリ暴れるだけは暴れて、秋村の手も焼かせて長屋に何とか帰り着いた。いい具合に意識が飛びそうだったが、歯を食い縛る堀田は重蔵と飛鳥に体を抱えられる。
「‥‥くっそぅ‥‥さわんな」
「喋らないで。一体、何があったんですか?」
「‥‥」
 堀田は朦朧とした意識の中で、うわ言のように野村、菅谷、伝八の名前などを呟いた。本人はそのつもりだったが、あとで飛鳥に聞いた所では余計な言葉も口から出ていたようだ。飛鳥はそれほど耳が良くは無かったし、小言だったので何を言ったかは分からない。
「昨日はありがとよ。‥‥俺はなにか言わなかったかい?」
「ああ、賭場でやられた人達の事を罵っておいでのようでしたが‥‥事情を知らない私がこんな事を言うのは筋違いですが、無茶は止めた方がいい」
 重蔵は堀田の身を案じている様子だった。
 堀田は昼間は人の良い遊び人風だが、毎夜狂犬のように喧嘩して戻ってくる。重蔵以外の住人は恐がって近づかなかった。
「あんたの親切は感謝してるぜ、けどこいつぁワケありなんでな‥‥聞かねぇでくれや」
 重蔵は無理に聞こうとはしなかった。

 今回はこれで終わりかと冒険者達は思った。
 だが‥‥。
「畜生がっ!!」
 ギルドに秋村が飛び込んできた。
「佐太郎が‥‥殺された!!」

●混迷の道標
「佐太郎はお前が守ってたんじゃないのか?!」
「うっせえ!! グダグダ言ってっと死なすぞっ。こんなモノが店に残ってたぜ」
 秋村はクシャクシャに丸めた紙片を見せた。そこには野村の死の真相について佐太郎に話したい事がある旨が書かれていた。それを見た佐太郎が秋村に内緒で店を抜け出し、何者かに殺された。
 佐太郎の死体の首筋には針で刺されたような跡‥‥。
「そんなバカな‥‥」

 ‥‥つづく。