殺し屋稼業・五 五里霧中

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:5〜9lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 29 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月20日〜12月25日

リプレイ公開日:2004年12月30日

●オープニング

「おせぇな‥‥」
「佐太郎さんなら、用事があると言ってに出て行かれましたけど?」
「なんだとっ!?」
 ギルドへの投げ文を警戒して関係者の護衛に張り付いた冒険者たち。
 しかし、まるでそんな彼らをあざ笑うように『第二の殺人』が起きた。
「見ろ。首筋を針で一突きだ‥‥兄と弟が同じように殺されるなんて、こいつは只事じゃねえ」
 野村佐太郎は人通りの無い林で見つかった。
 死体には争った形跡があったが、外傷は首筋の刺し傷のみ。凶器は見つからず、懐中の金子には手がつけられていない。そして店には兄の死の事で佐太郎を呼び出した文が残されていた。
「佐太郎のやつ、お店で番頭になったばかりでこれからって時に‥‥人の命は分からねぇな」
「殺し屋の仕業だって言うじゃねえか。こぇぇ世の中になったもんだぜ」

 事件から暫く時が流れて。
「最近の若い者はなってないね」
 白髪混じりの隠居が、冒険者ギルドの年配の手代と話していた。
「少しは見込みがあると思った野郎は殺されるし、江戸のお役人は下手人をいつまでも捕まえられない。俺は悔しいよ」
 隠居は佐太郎の勤めていたお店、松代屋の先代で名を清次郎という。武神祭見物に京の本店から江戸に来ていた。所が番頭殺しのためにそれ所ではなくなり、まだ50を超えたばかりで行動力に富む彼は自ら事件を調べてギルドに辿り着いた。
「このままにして京に戻ったんじゃ寝覚めが悪い。俺が依頼を出してやるから、そちらさんで人を集めてくれないかね?」
 これは事件を気にしていた者にとっては渡りに船の提案だった。
 先まで依頼を出していた岡引の千造からは、金が無いから依頼は出せないと言われている。冒険者を使っていながら佐太郎を死なせた事で、千造は上から何かお叱りを受けたようだった。

「という事で、松代屋のご隠居からの依頼、お預かりしました」
 手代は冒険者達を集めて事件を説明する。
 依頼の目的は佐太郎の下手人を見つけることだ。
 と言っても今回、手掛かりは殆どない。
 難事件に挑む事となる。

●今回の参加者

 ea1160 フレーヤ・ザドペック(31歳・♀・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2046 結城 友矩(46歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3108 ティーゲル・スロウ(38歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3513 秋村 朱漸(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3891 山本 建一(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4492 飛鳥 祐之心(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea5973 堀田 左之介(39歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea6177 ゲレイ・メージ(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea6388 野乃宮 霞月(38歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●振り出しに戻る
「ごめんください」
 教師の野乃宮霞月(ea6388)が久地藤十郎を訪れたのは、年も暮れかけた12月下旬。
「おぬしは確か、野村の‥‥」
「ご無沙汰しています」
 野乃宮は頭を下げて、浪人の家にあがった。
「何の用だ? 野村の弟が殺された件は耳にしたが、ワシは弟の事は良く知らぬぞ?」
「助右衛門は佐太郎のことは余り話さなかったので?」
 霞月は佐太郎の情報を調べていると言った。本当は佐太郎が殺された事で霞月の推理は振り出しに戻ってしまったので新しい容疑者を探している所だ。
「うむ、武士を捨てた弟のことを良く思ってなかったかもしれぬな」
 その話は知っていた。さりげなさを装って質問する。
「そいや、野村とはどういう縁で知り合ったんで? 見た所、久地の旦那は同じ上方出身じゃないようだし、江戸は長いのかい?」
「‥‥おぬし、ワシのことを調べておるのか?」
「そういうのじゃないんだがね」
 誤魔化すが、疑っていると云ったのに等しい。
「身内を疑うとは因果な商売よな」
 久地が不快な顔で語った所では、野村と久地は冒険者ギルドで知り合った。久地の生国は江戸の北、越後の方で仕官先を探して江戸に来たのは3年前だ。
「ワシを疑う暇があったら、喜三郎とかいう商人を調べたらどうだ?」
「旦那は喜三郎を疑ってるんで?」
「奴は野村を仇といったのだぞ」
「そうでしたねぇ」
 霞月は久地宅を辞した。白いものが音も無く降る。いつのまにか、外は雪だ。
「‥‥思えばこの事件も夏の終りから始まり、随分と時が経ったな」
 薄暗い空を見上げ、霞月は身を震わせる。

「悪党が善行を積めば善人になる、善人が悪行を積めば悪人になる」
 哲学的だが、神聖ローマ出身の武芸者フレーヤ・ザドペック(ea1160)の言葉だ。人の善悪の不定を言ったのか。
「要するに、善人だ悪人だと固定観念は持たないのが一番」
「そいつは理屈だぜ」
 断言するフレーヤに、岡引の千造はかぶりを振った。フレーヤは霞月と一緒に酒場で岡引を見つけて、いつものように飲みながら話した。
「理屈かね」
 霞月は冷めた体を温めようと酒に口をつけ、二人の会話を興味深そうに聞いた。
「当たり前だ。神や仏じゃあるめぇし、人間が理屈通りに動けるもんじゃねえや」
「じゃあ、旦那はどうやって下手人を見つけるんだい?」
 フレーヤが云う。
「決まってらぁ、俺が下手人と決めた奴が下手人だ」
 言い切った。
「聞いた俺がアホだったよ。‥‥所で、魔法で犯人を探せるらしいんだけど、どうよ?」
「なんでぇ、その魔法たぁ?」
 フレーヤが云うのはバードのムーンアローの事だ。彼女自身は使えないので効果のほどは伝聞の怪しさだが、殺しの犯人を見分ける事が出来るらしい。それを聞いて手酌でちびりちびりやっていた霞月が声を出す。
「あ、俺もその話を親分にしようと思ってたんだ。フレーヤ、俺の心を読んだのか」
「‥お前もアホか、偶然だよ。で、どう思う?」
「ふーむ」
 問われた千造は目を瞑って一分ほども考えこんでいたろうか。
「ふー‥‥俺はな、おめぇがいつそいつを言い出すかと待っていたのよ」
 一拍の沈黙の後、フレーヤは云った。
「さすが親分だ」

 これまでの経過を振り返っても、何も確実なモノがでてこない。
 それは何故か?
 冒険者達が得る情報の大部分は千造からのもの、彼の憶測の上のものだ。既に存在する死体は動かしようがないとしても、凶器の断定、参考人の情報は親分の感情が多分に入っている。
(「‥‥もう一度最初から俺達の目で洗直しの必要が有るな」)
 そう考えた渡世人の堀田左之介(ea5973)は1人で野村宅に来ていた。
「あれ」
 戸を開けたのは若い娘だった。左之介は長屋には野村の未亡人が1人住まいと聞いていたので驚いたが、母親を心配して一人娘が奉公先に暇乞いをして戻ってきていた。
「そうだったのかい、そりゃあ都合がいいな」
 野村に線香をあげながら話を聞いた左之介は表情を引き締めると、妻子に野村兄弟に関して教えて欲しいと切り出した。
「外の話じゃないんだ。野村が家でどんなだったか、京でどんな生活だったか、その頃の佐太郎の話とか‥‥そいうのを全部話して貰いてぇ」
 藪から棒な左之介の言葉は、妻子を当惑させた。そも1人の人間について全て話すのは簡単ではない。とても語り尽くせるものでは無いから、ここでは彼が色々な話を聞き、色々な思いを得たことだけを記しておく。
「おい」
 思案顔で長屋を出た堀田は、ティーゲル・スロウ(ea3108)に呼び止められる。
「なんだ?」
「なんだとはご挨拶だな。こっちは野村の後家の所に足しげく通うヤクザ者がいると聞いて期待して待っていたら、お前が出てきたんだよ。ここ数日通う詰めだそうだが、野村の妻はそんなにいい女かね?」
 ティーゲルは神聖騎士だ。どこか知らないが大らかな教会である。
「妙な言い方をするなよ。話を聞いてただけさ」
「よくそんなに話すことがあるな‥‥まあ、いい。俺も挨拶しとこう」
 騎士の言葉が気になったが、堀田はまだやる事があったので聞かずにスロウと別れた。

「迷ったときは原点に戻れ‥‥だな」
 堀田が野村宅に長居していた時、スロウは江戸の町を忙しく往復していた。まず佐太郎の墓に行った彼はデッドコマンドで死者の声を聞いた。
『死』
 臨終の時に死を想うのは普通だ。その奥底に何があるのかは神でないスロウには分からない。騎士はその後、江戸のあちこちの酒場で鴫の伝八の噂の出所を探した。
「ずいぶん酔っているな、かもの伝八に怒りの発端の男を殺してもらうのか?」
「あ? かも‥‥?」
 語学力の低さから聞込みは難渋したが、伝八について町人の認識は分かった。
 鴫(しぎ)の伝八の名が人の口に上るようになったのは2、3年前。人の恨みを沢山買っていた侍とヤクザ者を立て続けに殺して、その存在が知られた。名前は本人が名乗ったものではなく、以前に伝七という義賊がいたのでそこから名付けられたようだ。
「どうやって伝八に殺しを頼むんだ?」
「さあなー、奉行所で聞いてみたらどうだい」
 肝心の所は収穫が無かった。予想はしていたが、余所者の冒険者に江戸の闇は深い。
 調査を切り上げて茶屋で一服したスロウは野村の妻の素行を調べた。
「主人が死んだ晩に、あの奥さんは家に居たのか?」

●松代屋
「ご無体な‥‥」
「無茶ではない。店主、佐太郎殺しについて店の者に問質したいことがある。今日は店じまいを致せ」
 結城友矩(ea2046)は薬種問屋の松代屋に乗り込み、全員の尋問を行うから部屋を貸すよう主人に言った。
「まあまあ、結城さん。こちらも急に仕事を休むことは出来ませんでしょう。まだ時間はあります。ゆっくりとやりましょう」
 結城についてきた山本建一(ea3891)が言う。この山本はれっきとした志士だが、以前に重蔵を騙そうとして無頼漢に化け、見事に失敗した経緯があった。今回は慎重にやろうと心に決めていた。
「うむ‥‥だが山本殿。尋問は徹底的にやらねば意味が無いのだ。此度は人が死んでおる、あとで聞き違いがあったでは済まされんのだぞ」
 とは言うものの松代屋にしてみれば、町奉行所の取調べがようやく終わった所である。いくら侍でも、松代屋は結城の行動を突っ撥ねても問題はない。
「非礼は承知している。しかし、亡くなった佐太郎の為にも放ってはおけぬのだ」
 結城は誠実な無礼者であった。主張は明瞭で、二心の無い事も見て取れるが、遠慮をしない。1人で乗り込んでいればどうなっていたか分からないが、良くも悪くも人の良い同行者のおかげで、幾つか証言をとることが出来た。
 しかし‥。
「その方ら、佐太郎のことを調べて何とするつもりか?」
 近所から何から、徹底して結城が聞込みをしようとしたのを誰かが通報したのか、二人は奉行所に連れてこられた。
「冒険者ギルドに依頼があったのでござる。それ以上は仕事上のことゆえ、ここで話すことは出来ませぬ」
「江戸の町で起きた事件は我らが管轄でござるぞ」
「これは異な事を申される。拙者達は勝手に調べているだけでござる。邪魔をしている訳ではない」
「屁理屈を言うな。松代屋では雇い人全員を長時間拘束し、商いの邪魔をしたというではないか」
 結城と山本は叱られて奉行所を出た。
「‥‥フッ、侭ならぬことよ。聞込みと申すのは、真剣勝負よりも疲れるわ」

●薬売り
 仲間達が聞き込みに躍起になっている頃、飛鳥祐之心(ea4492)は重蔵の長屋にいた。
「先生、あの時はどうも。御蔭で手当の腕も大分様になりましたよ」
「それはようございましたね。飛鳥様の熱意には私も感服いたしました」
 重蔵が出かけるのに祐之心は付き合った。
「‥‥所で、また人が殺されたって話ですよ。薬種問屋の松代屋の野村佐太郎という方なのですが、先生はご存知ですか?」
「はい、商売柄お名前だけは。大変な事件だったそうですね」
 薬売りだから耳に入っていて不思議は無い。向うは重蔵の事は知らなかったようだが。
「ええ。この方の兄も同じ人物に殺された様でしてね。兄は上方から出向く人が居るほどの恨みを買っていた様ですが、弟はその様な事は無し‥‥何故なのだか。あ、先生も上方に出向く予定だったのですよね?」
「そのつもりだったのですが、江戸で仕事が増えてしまって。もう暫くは江戸暮らしです」
「そうだったんですか‥‥」
 不意に祐之心は重蔵の前に出た。真剣な表情で薬売りと向き合う。
「お役人も犯人の目星はつけている様ですが‥‥先生、貴方が殺し屋の連絡係ではないかと疑われている様です。よもや、本当ではありませんよね?」
「ありません。飛鳥様も結城様と同じことを仰いますね、私はそんなに悪人に見えますか?」
 茶化されては困ると飛鳥は重蔵に近づき、その手を掴んだ。
「貴方が事件の近くで良く目撃されているからです‥‥例の鴨の伝八の」
 顔を近づけ、小声でそう告げる。
「え‥えっ」
「俺はこの事件を解決したいのです。もう死者を出さぬ為にも。疑われお気を悪くされるのも分かります。‥‥ですが、協力して頂けませんか」
 往来である。浪人が今にも土下座をせんばかりに深々と頭を下げるので、重蔵は大いにうろたえた。
「弱った‥‥いや、困ったことになったなあ」
 あとで長屋に帰ってきた堀田は重蔵から昼間の顛末を聞かされて、どうしたものかと相談を受けている。連日の聞込みで頭が一杯の左之介は「全部話すこったな」と答えたが、重蔵は溜息をつく。

●再び振り出しに戻る
「‥‥クソがッ!!」
 佐太郎が殺された時、秋村朱漸(ea3513)は大荒れだった。
「この朱漸様の上前を撥ねやがるとは、舐められたもんだぜ。舐められてる‥‥テメェらもだッ!!」
 勢い同じ依頼を受けた仲間達を罵倒して、この浪人は単独で岡引の千造の周りを調べ始めた。
 千造の過去は良く分からない。急成長した江戸の町にはそんな人間はゴマンといるが、言葉使い等から上州、甲州辺りから出てきたと思われる。歳は35歳、独り身で町の評判は中の下。江戸に来たのは10年ほど前で、数年後には十手を持っていた。
(「他は兎も角牢で死んだヤツの殺られ方だ‥‥。真っ当な線じゃ内部の人間の仕業としか思えねぇ」)
(「それにマジで重蔵が橋渡し役なのか?」)
(「俺等は意図的に躍らせれてる気もすんだよな。余計ややこしくなるようにな」)
 酒場で秋村は色々と考えつつ、背中越しにフレーヤ達と千造の会話を聞いていた。ムーンアローの事は、そう言えばそんな魔法があったかなと思いつつも、また躍らせようとしてるのではと気を引き締めた。

 野乃宮、フレーヤ、秋村の三人が依頼を受けた者をギルドの一室に集めたのはその直後だ。
「千造め、関係者を集めて首実験を行うって言いやがったぜ。‥‥ま、それで事件解決なら、俺は何も言わねえけどな」
 秋村はまだ岡引を疑っていた。
「待った。この場にゲレイ君の姿が見えないが?」
 左右を見回して祐之心が言う。彼はゲレイ・メージ(ea6177)に簪を貸す約束をしていたが、依頼が始まってからゲレイの姿を見ていない。
「まさか、伝八にやられたんじゃねえだろうな」
「‥‥」
 嫌な予感が冒険者達の脳裏に浮かぶ。そのゲレイは目的も行動も不明のまま、依頼終了まで居所が分からなかった。
「居ない者の心配をしても仕方がない。ともかく、これで下手人も何かしらの行動に出るだろう。勝負はその時だ」
 今回の調査は不完全な結果に終わったが、怪しいと思えば誰でも疑えるのだった。そもそも完全な調査など非現実的だ。
「野村の妻は、佐太郎殺しの時には内職の仕上がり分を日本橋に届けに行ってる。松代屋とは目と鼻の先で、実質的にアリバイが無い。それからこれは近所で聞いた噂だが、奥方が浮気をしていたという節がある」
「江戸を去る時に喜三郎が松代屋に佐太郎を訪ねている。あと佐太郎が江戸に来てからすぐ、知り合いの浪人者が訪ねてきたそうだ。名前は別人だがこれが菅谷に似ている」
「野村の娘だが表向きは本人の暇乞いとなっているが、助右衛門が人殺しと聞いた奉公先が解雇したらしい」
「久地は賭場に出入りしてる。監視したが何度か夜中に出かけてた」
「重蔵の京都行きの話ですが、薬売りの仲間うちで1人京都に出かける事になっていて、重蔵さんに決まっていたものが直前になって変更されたそうです」
 疑惑は広がり、事件は結末に向っていた。