殺し屋稼業・六 首実検
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■シリーズシナリオ
担当:松原祥一
対応レベル:5〜9lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 29 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月05日〜01月10日
リプレイ公開日:2005年01月18日
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●オープニング
「所で、魔法で犯人を探せるらしいんだけど、どうよ?」
冒険者の一言が元で岡引の千造は野村兄弟殺しの関係者を一堂に集めて、首実検を行う事にした。
町奉行所の許可を得る為に時間がかかり、冒険者ギルドに依頼が届いたのは年が明けていた。
「毛唐の魔法で佐太郎殺しの下手人が分かるとは、信じちゃいないが‥‥一向に下手人が捕まらないんじゃ藁にもすがろうって気にもなる」
松代屋のご隠居は言った。店の者で怪しい人間が居れば、何処へでも出頭させると協力的だ。江戸支店の奉公人達は非協力的だが、本店の先代にそう言われては断ることも出来ない。
他に、薬売りの重蔵、久地藤十郎、野村の妻子も呼ばれる。
正規の調べでは無いので、場所は奉行所以外にしなくてはならなかった。松代屋のご隠居がちょうど芝に寮を買ったので、そこを首実検の場所に提供した。
「という事で、松代屋のご隠居からお手伝いの名目で依頼をお預かりしました」
今回の首実検には奉行所の手勢は出ない。
魔法に頼って犯人探しをするなど、正規の調べではないからだ。証拠能力も認められてはいない。何が起こるかも分からないので、岡引の千造の指揮で冒険者達が全て取り計らうことになった。
「1人も逃すんじゃねえぞ。伝八が1人でも来るとも限らねぇからな‥‥大捕物になるぜ。おめぇらの命、俺が預かる」
千造は大張り切りだ。しかし、下手人はまだ謎のままだ。
果して、どうなるか。
●松代屋従業員の聞込み結果
「佐太郎に女ですか? いいえ、仕事一筋のような男で。おかげさまでお店も順調でございましたから、忙しくてそんな暇も無かったでしょうねぇ」
「仕事は出来ましたし、それなりに野心も持っていました。こんな事がなければ、末は暖簾分けをして、店を持っていたでしょうに」
「揉め事ですか? そりゃあ、商売上どこで恨みを買っているか分かりませんよ」
「矜持の高い男でした」
「佐太郎は兄弟のことは話さなかったねぇ。仲は良くなかったようだ」
「番頭さんはいい人でしたよ。お武家の出だっていうのに、それを鼻に掛けたところがちっとも無くて」
「嫌ってた人? ご隠居さんに可愛がられていましたから、そりゃ妬む人はいたんじゃないかしら」
「口入屋の山城屋さん? 知りませんなぁ‥‥きっとたいした店じゃないね」
「以前に街中でヤクザに言い掛かりをつけられたことがあったんですが、佐太郎さんは堂々とした態度で追い払ってくれて、さすがお侍の出は血が違うと思ったものです」
「京で同じ殺しを見たかって? ‥‥知りませんなぁ」
「あの人は武士を捨てても商人で一旗あげようと頑張っていなさった」
「政治は江戸なんて言う人もいるが、なんたって京都ですよ。そりゃ毎日すごいもので‥‥」
「喜三郎‥‥ああ、一度番頭さんを訪ねてみえました。菅谷様という方は存じませんが、一度、京で世話になったというご浪人が来られたことがあります。薬売りの重蔵さんですか? いえ存じません」
「喜三郎の店? ああ、それなら多分、小間物屋さんだね。いいや、小さなお店だ」
「一年前? いえ特に変わったことは‥‥」
●リプレイ本文
●手配
ギルドでバードの手配を頼んだ冒険者達は待つ間、今度の依頼のことを話した。
「まさかマジで言い出すとはな‥‥」
千造を疑っている秋村朱漸(ea3513)は事の成り行きに戸惑いを隠さない。
「ああ、行き詰まってるのは十分理解しているが‥‥。やはり乱暴だよな、この実検は」
苦笑を浮かべて飛鳥祐之心(ea4492)が言った。
確かに、乱暴なのである。
「機は熟した。そして匙は投げられた」
バードの魔法のことを岡引に話したフレーヤ・ザドペック(ea1160)でさえ、この展開に戸惑いがある。そして彼らが探し出したバードまで首実検への協力を拒んだ。
「なんで出来ねぇ? 仕事料はちゃーんと払うって言ってるんだぜ」
バード探しは主に秋村と言いだしっぺのフレーヤが行った。西洋ならともかく江戸にバードは少なく、ようやく探したバードに断られると期日までにもう一人を探せるか難しい。
「いや簡単なことだよ。例えば僕がその話を受けて、矢が君に命中したら、君は怒るだろう?」
「‥‥あったりめぇだ。そんなインチキやりやがったら生かしちゃおかねえ」
「だからさ」
バードは言う。ムーンアローで犯人探しをすれば、必ずひと悶着が起こる。バードの高潔と魔法の完全性を万民が信じるなら別だが、まずバード自身が疑いの目を向けられる。何の証拠能力もないばかりか危険人物扱いをされるのはほぼ間違いのない所だ。
「無論、僕の魔法は百発百中さ。だけどそれを信じてくれなんて図々しい事は言わない。だから、そういう面倒事は受けられないんだ。悪いけど」
どう説得してもバードの答えは変わらない。そこで諦めれば依頼は終りだが‥‥この仕事を最初から受けている者の中にスクロールを使える者が一人だけいる。僧侶の野乃宮霞月(ea6388)である。冒険者達はバード探し以外に、次善の策としてムーンアローのスクロールを探していた。
「何しろ、貴重な品ですから」
方々を探して漸く見つけたが、譲り受けるには相当な出費を強いられた。霞月が白紙の巻物を提供した上に持ち金の少ないゲレイ・メージ(ea6177)、ティーゲル・スロウ(ea3108)の二人と霞月を除いた冒険者5人がそれぞれ6両もの金を出すことになる。白紙スクロール一巻と三十両、本当はもっと安いのだが常に品薄で市場に出回らない貴重品の価格はあって無いようなものだ。
「ムーンアロー一回のために合わせて40両‥」
「巻物は破れるまで何度も使えるって話だ。そう考えると安い買物なんだろう」
スクロールは滅多に出物が無い。霞月も文字の入ったスクロールを持ったのは初めてだ。
「これでお膳立てはそろった。蛇とでるか鬼とでるか‥‥」
ティーゲルはもしもの時は白紙の巻物を読み上げる気だったが、スクロールは彼らの手にある。もう舞台の幕を開くしかない。
●月光の矢
「‥‥っ」
フレーヤは痛みに耐えた。向かい合う霞月の前にはムーンアローの経巻が広げられている。二人は魔法の試し打ちをしたのだが、さすが戦士だけにかすり傷で済む。
「なにを指定しました?」
側で見ていた祐之心が聞いた。
「ローマの戦士でやってみた」
試し打ちは一応成功。この魔法の指定条件は口に出す訳では無い。思うだけでいい。
「俺は野村助右衛門を直接殺した実行犯を指したと言って、頭の中じゃ全く別の人間を指定することが出来る。まったく匙を投げたい気分だぜ」
「だからこうして俺が寝食を共にして護衛をしてるじゃないか」
不測の事態に備えて女戦士は霞月から片時も離れない。居場所も仲間以外には知られないよう気を配った。
「偽証と思われるのが心配なら、今からでもほかにバードかスクロール読める人間を探すか?」
ティーゲルは言ってから、首実検が私刑になることを想像して発言を取り消した。
ある意味、今回彼らにとって最良の結末は首実検を恐れた犯人がボロを出してくれることだ。何事も起こらず首実検で矢が誰かに命中した場合の方が面倒とも云える。
「矢は何回撃てるのでしょう?」
「回復のことも考えると最大6回だな」
一度もスクロールの使用に失敗しなかった場合だ。
「それだけの数で二つの事件を解決しなくてはなりませんか」
祐之心は野村助右衛門、野村佐太郎、獄中の伝八の部下の三人についてそれぞれ殺害者、殺害の依頼者、協力者を指定し、またそれ以外に鴫の伝八も入れたいと考えていた。
冒険者達は指定条件をあれこれと考えたが、この事は当日までは秘密にした。ムーンアローの事だけでなく首実検の内容は一切緘口令を敷く。秋村も岡引の千造に、
「よおよお、旦那よ。間違っても首実験がどんなだか外で言い回んじゃねぇぞ? もしもホシがあの四人じゃねぇ場合‥‥ソイツが探りに来ねぇからな」
と忠告していた。そのおかげか、噂された割には首実検の中身は当日まで知らない者の方が多かった。
●前日
首実検の1日前。
「秋村さん」
寮の近くの雑木林を歩く秋村は呼ばれて振り返る。ゲレイ・メージが片手をあげて、彼に近づいてくる。
「ここで何を?」
「気にすんな。それより何の用だ」
「そうだ、佐太郎の死体のことを聞きたくて」
ゲレイの質問に、秋村は苦虫を噛み潰したような顔をする。ゲレイが拘るのは佐太郎を殺した凶器だ。針のようなもので首筋を一突き、それ以上の事は実際に見た秋村にも分からない。
「やっぱり、簪だろうか?」
「太い針かもしんねぇぜ‥‥んなこた今はどうだっていいんだ。邪魔だからあっちいきな」
「‥‥ここで何を?」
「散歩だ」
無論、散歩ではない。秋村は寮の周りをうろついている怪しい奴はいないかと見回っていた。
「なるほどね。それで首尾はどうかな?」
「これからやるんだよ」
首実検の噂はそれなりに広まっていたので、あれが噂の松代屋の寮かと言い合う者は何人かいた。それ以外に、秋村は気になる浪人連れを見かけていたが秋村が近づくと立ち去った。
「‥‥警護の連中に言っておくか」
また、どこで話を聞いたのか首実検の内容を知っていて、非道な私刑を中止するようにと談判にやってきた学者がいた。魔法により罪人を仕立て上げるなど持っての他だと息巻くその学者は秋村の手に余り、警護の冒険者に引き渡した。
●容疑者
首実検当日、町代屋の寮に事件の関係者が集められた。
「手荒い真似をしてすまない。‥‥最近、世間を騒がしている殺人者の捜査の一環だ。協力してくれ」
ティーゲルが言うが、関係者側の列に並ぶ渡世人の堀田左之介(ea5973)は不満たらたらの顔だ。
「何だか知らねぇが、俺は関係ねぇよ。何が捜査だ、馬鹿馬鹿しいや」
怒って帰ろうとする堀田の肩を秋村が掴む。
「何しやがる。俺は家に帰るんだぜ」
「へぇ、身に覚えがねぇならずんと構えてりゃいいじゃねえか、あ?」
「‥‥ち、仕方ねぇ」
毒づいた堀田は不精不精に従った。秋村は苦笑いを噛み潰し、関係者たちの顔をゆっくりと見回した。
関係者として此処に呼ばれたのは薬売りの重蔵、久地藤十郎、野村の妻と娘、堀田の5人だ。それに立会い人として松代屋の隠居と使用人達が呼ばれた。
「左之さんは、どうしてここに?」
重蔵は不思議そうに堀田を見た。重蔵自身は自分にかかった嫌疑は知っているが、隣の堀田から事件の関係を聞いた事は無い。
「身に覚えのねえことで」
堀田は惚ける。この中で松代屋のご隠居と久地は堀田の事を知っているが、今は知らぬ振りをしてくれている。堀田と話す重蔵に、祐之心が声をかけた。
「先生」
祐之心は応急手当の技を学ぼうと重蔵のところに通っていた。
「すみませんね、先生。変な実験につき合わせてしまって」
「そう思うなら中止してください」
重蔵は怯えと怒りの混じった顔で言う。
「‥‥すみません」
呼び出された関係者は松代屋の隠居以外、概ねこの重蔵と同じ様な表情だ。奉行所の外に呼び出されて得体の知れない取調べを受けるのだから無理もない。堀田は彼らを観察していたが、首実検の不確かな噂も手伝ってか生きた心地もしない様だ。久地藤十郎などは怒りの為か一言も口をきかない。野村の妻でさえ、冒険者達に向ける目は冷たい。
「じゃ、武器をここで出してから中へ入ってくれ」
スロウは容疑者達の体を検めた。野村の妻子の時はフレーヤを呼んだ。
●首実検
「では立会人の皆さまは此方へ」
結城友矩(ea2046)は松代屋の使用人達を別室に案内した。使用人達を呼ぶように言ったのは結城だが、容疑者達だけならともかく使用人達も合わせて入れるだけの大きな部屋が無いので、彼らには首実検の間、別室に待機して貰う事とした。無論、別室でもムーンアローの射程内だ。そうしておいて首実検を行う間に現れた結城の姿に、関係者達は目を見張った。
「これより首実検を始める」
結城は皮兜に面頬をつけ、皮外套の下には皮鎧。腰には刀を佩いて全身から殺気が満ちていた。誰の目にも、この男は犯人を斬り捨てるためにこの場にいるのだと分かった。
「まず言っとくが‥‥逃げられやしねぇぜ? ゲロっちまった方が早ぇんじゃねぇのか?」
その場の雰囲気を決定づけるように秋村が言う。
「‥‥っ」
野乃宮は二度続けて自分に矢を撃った。『野村助右衛門を直接殺した実行犯』、『野村佐太郎を直接殺した実行犯』共にこの場には居ないか、或いは野乃宮が犯人ということだ。
「まさかとは思うが‥‥」
スクロールを使う前に鯉口を切り、日本刀を構えていた結城が野乃宮に刃を向ける。もし野乃宮が怯んで腰を浮かせ斬ったろう。それが分かるから、霞月は黙って睨み返す。
「結城の旦那、まだ途中だぜ?」
秋村が言った。
「うむ‥‥野乃宮殿、続きを」
促されて再び霞月はスクロールを握り、念を送った。既に二発のムーンアローの間に1回失敗していた。残りは多くて三発。
「わっ」
矢は重蔵に命中する。驚く重蔵の首筋に結城は刃を突きつけた。
「逃げれば斬る」
「い‥‥命ばかりはお助けを」
震える重蔵の体を千造が蹴り倒した。
「やっぱりてめぇか‥‥大人しくお縄を頂戴しろ!」
千造は冒険者達が止める間もなく重蔵を十手で滅多打ちにし、動かなくなった所で縄を取り出して縛り上げた。
三発目の指定条件は『獄死した手下殺しの実行犯』だった。
思わぬ捕物で中断した四発目を行う前に、騒ぎが起こる。外から呼び笛の音が響いた。
「襲撃だ!」
護衛の冒険者が駆け込んできたのと同時に、天井から男が一人落ちてきた。ゲレイ・メージである。
「く、曲者が‥‥」
ゲレイは首実検の間、天井裏に潜んで上から眺めていた。そこに黒装束の曲者が入ってきて、咄嗟にウォーターボムを放った彼は曲者に蹴られて天井から落とされた。
「なんでお前、あんなところに?」
「外から忍び込んでくる奴がいると思って‥‥まさか本当に来るとは」
天井裏の羽目板が割れて、黒覆面の男が眼下の冒険者達を覗いている。その唇から呪文がこぼれていると気づいて、ゲレイは床を転がった。
「おのれっ」
最も早く動いたのは結城だ。日本刀を天井に向けて突き上げた。しかし僅かに届かない。刀では難しいと見て、野乃宮はコアギュレイトを使う為に近づこうとするが護衛のフレーヤが僧侶を止めた。
「外へ!」
冒険者らが関係者を連れて外に出る前に、天井から白い煙が溢れ出た。堀田、ゲレイ、野乃宮が急激な眠気に膝をつく。千造と久地、野村の娘も倒れた。
動けない重蔵の体を背負って寮の庭に出た祐之心は、そこでかつて見た男を発見した。
「菅谷左近!」
数ヶ月前に江戸から姿を消した浪人は叫んだ飛鳥に振り向く。
「いつぞやの‥‥誰が野村を殺したか分かったか?」
「答える理由はないでしょう。‥‥この騒ぎはてめぇか菅谷っ!!」
祐之心は頭に血が昇り、重蔵を放り出して菅谷に切りかかる。菅谷は祐之心と重蔵を交互に見ていたが後退した。追いかける祐之心に後ろから仲間の声がかかる。見れば寮から火の手が上がっていた。
松代屋の寮は全焼した。それでも他に延焼せず、焼死者もでなかったのは冒険者達の手柄と言える。火は菅谷と共に屋敷を襲った曲者達が放ったもので、天井にいた忍び以外に十名ほどの浪人がいたようだ。
襲撃者たちは火事のドサクサに紛れて逃げたが現場には首実検を批難する文面の紙が残されていた。首実検は終わり、岡引の千造は薬売りの重蔵を鴫の伝八として召し捕った。
はたしてこれが解決への道となるだろうか。