かうんたーあたっく・三 ふたつの村
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■シリーズシナリオ
担当:松原祥一
対応レベル:4〜8lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 88 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月13日〜11月18日
リプレイ公開日:2004年11月21日
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●オープニング
江戸から徒歩2日ほど、東西に隣接する二つの村は、昔から仲が悪かった。
家畜の肥料にする草刈り場の事で揉めたり、二つの村の間を流れる小川の水争いなどは日常茶飯事だった。そうした関係であれば村人同士の喧嘩はしょっちゅうで、時にはそれが不幸な犠牲者を出す事にもなった。
何処にでもある悲しい話。
「し、信作ー!」
切っ掛けは東村の信作が刺された事に始まる。
「貴様が悪いんだ!」
殺したのは西村の若者で長次郎、二人とも幼い頃は一緒に遊んだ事もある仲だったが長じてからは村同士の諍いに飲み込まれて何かと対立していた。直接の原因は信作が村の娘に乱暴した事からだったが、長次郎の激発には一言では言い表せない怨嗟の積み重ねがあった。
「俺の‥か、仇を‥‥」
刺された信作はその傷が元で一週間後に死ぬ。村同士の対立で直接の死者が出たのは数十年ぶりの事で、二つの村は極度の緊張に包まれた。当然、隣村から報復はあるものと覚悟はしていたが、それは迅速に、かつ意外な形で実行された。
「貴様が長次郎か?」
「そうだ。お前たちは‥‥!」
信作の父は息子の無念を晴らすために浪人を雇った。
「貴様に恨みは無いが、その命貰い受けるぞ」
信作の父に雇われた4人の浪人は長次郎と彼の妻、それから居合わせた一人の男を殺し、長次郎の首を村の入口にさらした。
無論、それで事が終わった訳ではない。今度は長次郎の父と偶然殺された男の父が浪人を雇った。
息子達の仇である四人の浪人と、信作の父を殺す為である。
「依頼は、二つの村で今起きている争いを終わらせることです」
冒険者ギルドの年配の手代は集まった冒険者達に依頼を説明する。
依頼主は二つの村の近くの寺の若い住職。
住職は信作が刺された時点で仲裁の為に出向いたらしいが、信作の父は住職の説得に耳を貸さず、凶行を止めることが出来なかった。もはや自分の力では争いを止められないと、冒険者ギルドに依頼を持ち込んだ。
「何故その依頼を俺達に?」
呼ばれたのは以前に山賊退治を受けた冒険者達だ。しかし、今回の依頼に山賊団の影は無いように思える。
「長次郎の父親達が雇った浪人の事なのですが‥‥」
実は長次郎の父親は冒険者ギルドに敵討ちの依頼を持ち込んでいた。
しかし、絶対に信作の父親を殺してくれと頼むのでギルドではこの依頼を受けなかった。
諦めきれない長次郎の父が冒険者や浪人に声をかけて、村に連れていったらしいのだが、その中に冒険者志願でやってきたパラの浪人と異国の戦士がいた。
「関係が無いこともないと、そういう事ですな」
もっとも強制する事では無いし忙しい者もいるだろう。受けるか否かは自由だと手代は言った。
「村の争いに浪人を雇い、しかも関係のない者まで手をかけるとは許せんな。任せておけ、俺がご子息の仇を討ってやるぞ」
パラの浪人、戸川月斎は涙を流して頼む長次郎の父親に必ず仇をとると約束した。
「それはまことでございますか? どうか、どうかお願い致します」
長次郎の父親が雇ったのは戸川を含めて6人だった。中でも腕が立つのは戸川と異国の戦士の二人。
「この村の事情に興味は無いが、俺は傭兵だ。貰った金の分は働こう。ところで‥‥」
ファイターのヒース・ダウナーは依頼人に尋ねた。
「話は聞いたが、その寺の住職とやらがまた説得に来ないとも限らないじゃないか? 俺達としては途中で仕事を中止されるのは困る。もし中止する時は違約金を貰うが構わないな?」
「構いませんとも。私が心変わりするなど有る筈がない心配です」
「そうか‥‥」
長次郎を斬った浪人達は東村に留まっていた。報復を恐れて、いわば大事な戦力を手放す事が出来なくなったのだ。二つの村はピリピリと張り詰めた空気が渦巻いていた。
「ところで‥‥」
手代は説明を終えた後に声を潜めて言った。
「庚兵衛が牢抜けをしたそうですよ。‥‥まだ依頼にする話にはなっていませんが」
山賊団の前頭目、蛟の庚兵衛。
冒険者達は依頼で一度彼を破っている。果たしてこのまま終わるとは思えない。
●リプレイ本文
二つの村の争いを鎮めるために江戸を発った冒険者一行10人は、まず水争いのもとになった小川を越えて村も通り過ぎ、依頼人の住職の住む寺に向った。
往来で冒険者の姿をみかけた村人は、また二つの村の誰かが用心棒を雇ったのかと噂しあった。
●作戦名『共通の敵作戦』
寺に入った冒険者達は準備を始める。
「どうだ、なかなかのものだろう?」
風月皇鬼(ea0023)は服を替えた。袈裟を纏い、手には数珠と六尺棒を握った風月はまるで別人だ。衣装は全て自前。活劇役者というだけあって即席でも、僧侶と見えぬ事もない。
「徳の低そうな坊主だな」
「破戒僧だからそれでいい。それより顔隠すもの、何か無いか? 芝居とは言え悪役だからな、面をみせて足がつくと拙い」
風月達はこれから足がつくと拙いことをする。
依頼を受けてから真剣に考えた、それが結論だった。
「しかし、本当にそのような事をして村が仲直りするのでしょうか‥‥」
若い住職は話を聞いても不安らしい。当然だろう。
「今更‥‥他に手はないですよ」
破戒僧一味の仮面の男、クリス・ウェルロッド(ea5708)は住職に近づき、その顔を覗き込む。
「‥‥どうしても嫌だというなら住職さん、いっそ争いの元の川を破壊してあげてもいいのですよ?」
「川をは、破壊?」
住職の不安は増大した。
「わかって下さい。私も仕方なく汚れ役を引き受けるのです。村の平和のために」
面頬をしているのでクリスの表情は読めない。彼を知る者は笑みを浮かべていると確信した。
「村の為に、そこまでのお覚悟でしたとは‥‥」
説得される住職。
「分かって頂けましたか。では私達は早速、人質になりそうな婦女子を攫って参りますので」
冒険者とは思えぬ台詞を吐いて立ち上がるクリス。
「本当に大丈夫なのでしょうか?」
一抹の不安を感じた住職はこの作戦の指揮者である麻生空弥(ea1059)に問いかける。
「‥‥勿論です」
麻生は答えるのに少し間を要した。
●潜入班
寺で麻生達とは別れて、冒険者として二つの村に入った者が数名。
鬼子母神豪(ea5943)は最初、止めた。
「どうしても行くのでござるか?」
「豪ちゃんはあたいの性格、知ってるでしょ。行くよ」
恋人の御藤美衣(ea1151)を見つめて、豪は胸中の不安を押し殺して笑った。
「やれやれ、美衣が言って聞く娘ではないでござるからね。拙者も一緒に行こう」
美衣の行動は危険度では麻生達の計画に劣らない。豪はとても独りでは行かせられなかった。
「俺も同行するぜぇ。俺の考えじゃ、あんたらの作戦もありかなぁって思うしよぉ、争いを止める一つの手段としてよぉ。ムククク」
ファイターのヴァラス・ロフキシモ(ea2538)も御藤達と同行を志願した。
「‥‥」
三人が村に入るのを眺めていた志士の天城烈閃(ea0629)は独語する。
「果て無き憎しみの連鎖か‥‥。確かに、容易な事件ではないな。だが、それを終わらせるために俺達はここに来た。止めて見せるさ。必ずな‥‥」
天城や御藤達の役割はまだ先だ、その前に他の者の動きを見てみよう。
「お前達知っているのか? 長次郎の父親はこちらより多くの浪人を集めたという話だぞ」
漸皇燕(ea0416)は住職から依頼を受けた冒険者として、正面から東村を訪れた。
「余所者には関係ねえ話だ!」
「そうだそうだ」
「どうにもなるめぇよ。あんたも、とばっちり食らう前に村を出ることだ」
予想通りではあるが、緊張状態の続く村人の反応は冷たい。本来の皇燕なら冷笑を浮かべて皮肉の一つも言う所だが、今は仲裁に来た良い人の役なので我慢する。
「いや血の雨が降ると分かっていて、見過ごせない。俺が話して喧嘩を止めさせよう、その浪人達の居場所を教えてくれないか?」
華国出身の皇燕は日本語がまだ不得手だが、黙っていれば人品のいい青年がそのように話すので、人の良い村人が浪人達の家を教えてくれた。
その頃、西村を訪れた志士の狩野響(ea1290)は知人と再会する。
「奇遇だな。前の依頼から‥‥元気してたか?」
「見ての通りだ」
ヒース・ダウナーに驚いた様子はない。狩野はヒースに案内されて長次郎の父親の家まで来る。
「寡聞にして知らないが、日本人は待ち伏せることを奇遇というのか?」
「お見通しか、話が早い。貴殿が受けている依頼だが‥‥止めるつもりでいる」
響が言うや否や、襖が音を立てて開いた。パラの侍、戸川月斎が凄い形相で立っている。
「なんだぁとぉ〜」
(「兄上は那須に浮気ですの‥‥。ですが、安心してくださいクリスさん」)
山賊団に少なからず関わりをもった冒険者の兄を持つ少女、夜十字琴(ea3096)は夜になるのを待って単独で村に潜入した。
「私がばっちり役に立って見せますから‥‥」
少女の単独行には訳がある。琴はクリス達の作戦の口裏合わせの為に、村人を人質として寺に連れてくると約束をした。暗い所が苦手な10才の少女が独りで‥‥無謀と紙一重だが、使命感に燃える琴は恐さを忘れた。
「こ、こわくはありませんの‥‥で、でもお化けが出そうなのです」
村が近づく頃には琴の勇気も底を尽いた。
そして。
「誰だ!」
「‥‥っ!!」
バタッ。
声にならない悲鳴をあげて倒れた琴に、彼女を呼び止めた村人が近づいた。
「見かけない顔だ‥‥どこの娘だ?」
「まさか、この娘が‥‥」
「いや違う。しかし、放っても‥‥。おい誰か、‥‥を呼んできてくれ」
目を回す琴の頭上で何人もの村人が話している声が聞こえた。
緊張の反動で彼女の意識は闇に飲まれていく。
●対立構造
琴が目を覚ましたのは見知らぬ家だった。
「ん? 気がついたか」
侍の格好をした子供が琴の側にいた。何となく、ここがまだ村の中だと認識できた。
「あの‥‥話さなくてはいけないことがあります。大人のひとを呼んできてくれますか?」
「俺は大人だ!」
月斎の叫び声を聞きつけて、響とヒース、それに村の男達数名が部屋に入ってきた。
「あの‥‥えーっと私は近くのお寺様に御用があったのですが、道に迷ってしまいまして‥‥」
「話さなくてよい。こちらの事情説明が先だろう‥‥」
響はヒースと月斎に目配せをした。どうやら説得には成功したようだ。
問題はその後に起きたのだ。
少し時間を戻す。
「大変だ!」
響がヒースと月斎を相手に言葉を重ねている所に急報が届いた。
「どうした?」
走りこんできたのはヒース達と共に雇われた浪人だった。
「今そこで、長べえさんが‥‥斬られた!」
長べえとは長次郎の父親のことだ。ヒースと月斎以外の浪人達は長べえの護衛で外に出ていた。
襲撃者は男女の浪人と異国の戦士‥‥。
「考えてみろよおっさん。仇討ったところで死んだ息子は生き返らねーし次はあんたが命を狙われるんだぜぇ、きっと」
ヴァラスは浪人に守られた長べえに村を出ることを薦めた。
「お断りする。長次郎を殺した奴らに報いを受けさせるまで、私は村を出る訳にはいかない!」
父親の声は震えていたが、断固とした意思が感じられた。
「あんたは黙ってて! ‥‥出て行けとは言わないから、さっさと雇った用心棒解雇して、この騒ぎ止めなさい」
御藤は刀を長べえの喉元に突きつけていた。何気ない振りをして近づき、一瞬の早業だった。まんまと出し抜かれた浪人たちは依頼人を盾に取られて遠巻きに彼女らを睨みつけている。
「貴様ら、隣村に雇われた犬どもか!」
「まさか‥‥拙者達はそのような者ではござらん。だが下手に動けば容赦はしないでござるよ」
豪は美衣の死角を守る位置を取り、油断なく浪人達に目を向ける。
「そうだぜぇ、動くなよぉ‥‥俺達にしたら、騒ぎの発端になったおっさんらを殺しちまうことなんて何でもねぇんだからなぁ」
両手の小太刀を玩び、ヴァラスは笑みを浮かべた。芝居とは思えぬ迫真の演技である。
「卑劣な!」
歯噛みする浪人達の顔からは彼らなりの正義感が伺えた。だがそれ故に和解が難しいのも確かだ。
「そういうことね。どうしても止めないっていうなら‥‥息の根が止まるよ?」
御藤は刀を持つ手に力を込めた。
「何といわれても、こればかりは‥‥私は長次郎の首に誓った、命で替えられる話じゃない‥‥」
「‥‥なんで、あんた達の命はそんなに安いのかい? 死んだら、残された人の悲しみは分かっているのじゃないのかい!」
危険を感じて豪が叫ぶ。
「駄目だ、美衣! それが拙者が‥‥」
間に合わず、御藤の刀が長べえを斬った。そこまでは浪人達も予想していた。
「南無三!」
「「「あっ」」」
浪人達が声をあげたのは、身を翻した豪が長べえに刀を突き刺したからだ。2人を知らぬ浪人達には分からぬその境地、御藤でさえ言葉がなかった。
「‥‥見たか、長べえを斬ったのはこの拙者だ。隣村の馬の骨など知らぬ、強情を張るから拙者が斬った。同じことを言うなら隣村の奴も斬るまで‥‥止めたければ力づくで来い」
血刀を下げて、豪は一分の慈悲もない修羅の如く立っていた。
「違う、豪ちゃん! それは違うよ‥‥」
「なんて事ですの‥‥」
話を聞いて、琴は再び眩暈がした。御藤たち三人は浪人の追撃を振り切って逃走したらしい。事態の急変に、天城が東村に向った。今は皇燕と共に時間稼ぎをして騒ぎが大きくなるのを防いでいる。
「それでな、琴殿。‥‥クリス達はどこにいる?」
「‥‥あ」
寺にいる麻生達はこの変事を知らない。二つの村は蜂の巣をつついたような騒ぎであり、住職に知らせを送る暇も無かった。この修羅場に、もし村人誘拐と寺占拠を企む破戒僧一味が乗り込んできたら‥‥琴は結果を想像したく無かった。
(「ど、どうしましょー、兄上ぇーー‥‥」)
彼女の兄ならば涼やかに『斬れ』と言うのだろうか。
「琴殿」
パニックに陥りそうになったが響の声で正気に戻る。この場には彼女しかいないのだ。
「ともかく‥‥今は非常事態なのですね。部外者の琴にもそれは分かります。‥‥せめて今だけは‥‥互いに向けた刃を別の場所に向ける時ではないでしょうか?」
琴は、2人の浪人と一人の異国風の戦士が寺の方に向うのを見たと言った。
予定とは違うし、何も知らないクリス達に重荷を背負わせるが、この土壇場では他に思いつかなかった。
大胆不敵なすり替えを。
「ふはは、まだまだ足りんな‥‥。この鬼骨坊を相手にするには‥‥無力!」
攻め立てる村人と浪人達を相手に、鬼骨坊こと皇鬼は大見得を切った。
村人達の様子に鬼気迫るものがあり、破戒僧の挑発に『長べえさんの仇だ!』などと皇鬼には意味不明な怒号が飛び交う。
(「‥‥何か、変だ‥‥」)
変といえば、人質を連れてくるはずの琴が戻っていない。段取りと違う展開に心中で首を捻ったが彼はアドリブに強かった。悪役を全うする。
「あれ‥‥気のせいかな、‥‥あれ?」
面頬をかぶり、弓矢で形ばかりの応戦をしたクリスは攻め手に仲間達の姿を見つけた。琴が彼に向けて何事か叫んでいるが、村人の声にかき消されて聞こえない。
「‥‥大変だ!」
2人より少しばかり耳の良い麻生が最初に気づいた。本物の悪役にされている事を知った三人は、仲間達の協力を得て大急ぎで脱出する。捕まれば消えない汚名と市中引き回しは確実だ。
「逃げた鬼骨坊一味は必ず俺達が捕らえる。だが、発端は村同士の争いだ。息子を殺されたら憎みあって当然だ。だが、その憎しみは、きっとまた新たな憎しみを呼ぶ。もう、やめるべきなんだ。こんな事は‥‥。でなければ、同じ悲しみを背負う者が増えるだけだ」
天城は村人達に争いを止めるよう説いた。
彼の言葉が伝わったかは分からない。しかし、今の村人達は殺された者達を悲しんでいる。長べえも息を引き取り、下手人も捕まっていない今は、村同士で殺し合うことは出来ないだろうと思った。納得のできない者もいたが今はそうするより無かった。浪人達もそれで納得した。奇怪な破戒僧や謎の浪人を相手にするのは、彼らにとってもリスクが大きすぎる。
「‥‥」
響は長べえの遺言で金を受け取るヒースを見て、疑問がわいた。響はヒースを説得する自信があり、波乱はあったがその通りになった。ヒースが裏で手をひいた証拠は無いが、或いは冒険者を呼んだのは‥‥。
「都合のよい結末だな」
「何の話だ? ‥‥そういえば、風の噂で聞いたのだが庚兵衛が脱獄したらしいな。‥‥どこかで、また会うかもな」
ヒースや月斎、浪人達は去り、冒険者達も江戸に戻った。
生きのびた人々には、次の冒険が待っている。