かうんたーあたっく・五 見えない敵

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:5〜9lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 74 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月22日〜12月27日

リプレイ公開日:2005年01月01日

●オープニング

「敗けた上に、情けをかけられ‥‥私の目が曇っていましたか」
 冒険者ギルドの手代は溜息をつく。
 山賊団討伐に向った冒険者達は激戦の末に山賊団に完敗。この一件に関してギルドは大きく株を落とした。惣雲坊と山賊団は奉行所の管轄の外へ逃走し、ひとまず次の仕事が来るアテは無い。
 勝ち逃げされて忸怩たる思いの冒険者に声がかけられたのは、それから半月程が過ぎた頃だ。

「街道に山賊団の残党が出没しているようでございますね」
 難しい顔をした手代は、視線を落としたまま話を始める。
 ここで言う山賊団の残党とは、先日冒険者達と闘い、そのあと江戸から姿を消した惣雲坊達について行かなかった者達のことのようだ。
「それじゃ今度はそいつらを捕まえるのか?」
「いえ、今回は奉行所から手勢を出して対処するようです」
 もとを正せば山賊退治は本来彼らの仕事だ。江戸の急成長により奉行所は慢性的に人手不足、これまでこの件はギルドに専任されていたが‥‥失った信頼は大きい。
「奉行所の捕り手で大丈夫なのか?」
「さて‥‥しかし、私達が心配しても仕方ないでしょう」
 関東の支配者である源徳武士団は決して弱くは無い。これまでの報告を過小評価しなければ、遅れを取る事は無いだろう。
「俺達に手勢を集める力があればな」
 冒険者の1人が愚痴をこぼした。
 ギルドへの依頼は、依頼主の事情で予め条件や人数が決められる。だから中には4人で十分な仕事を10人で行う美味しい仕事もあれば、一目で無茶と分かる難条件の仕事も少なくない。山賊団絡みの仕事はどちらかと言えば後者だろうか。
「それで、仕事のことですが」
 前置きはおいて、手代は本題に入った。

「仕事の内容は、凶賊を率いて暴れる破戒僧を倒して欲しいということです」
 どこか山賊団とダブる話だ。‥‥流行っているのだろうか。
「賊の名前は鬼骨坊」
 どこかで聞いた名前である。
「‥‥」
 以前に冒険者達が二つの村同士の争いを仲裁する依頼を受けたときに、冒険者達の邪魔をして村人を殺害した凶賊一味だ。その後の消息は不明だったが、つい最近になってまた現れたらしい。
「あの村の有志が依頼料を出し合って、敵討ちとして頼んで参りました」
 さて、どうしたものか。

「あの時の外道がまた現れたか‥‥よーし、この俺が天誅を下してやるぜ」
 冒険者ギルドに立ち寄ったパラ侍は話を聞くと、冒険者達に協力したいと言い出した。

●今回の参加者

 ea0023 風月 皇鬼(31歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea0416 漸 皇燕(37歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea0629 天城 烈閃(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1151 御藤 美衣(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea1290 狩野 響(43歳・♂・志士・ジャイアント・ジャパン)
 ea2538 ヴァラス・ロフキシモ(31歳・♂・ファイター・エルフ・ロシア王国)
 ea5062 神楽 聖歌(30歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea5708 クリス・ウェルロッド(31歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea5943 鬼子母神 豪(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea5989 シャクティ・シッダールタ(29歳・♀・僧侶・ジャイアント・インドゥーラ国)

●リプレイ本文

●承前
 出立前。
「おーおー、君が前の依頼もがんばってくれたっていうおチビの戸川ちゃんね」
 ヴァラス・ロフキシモ(ea2538)は戸川月斎に近寄った。
「‥‥チビだと?」
「ま、足手まといにならんようにがんばってくれや、ムヒヒ」
 ヴァラスが頭をポンポン叩いて、パラ侍の顔が見る間に紅潮する。
「この俺が足手まといだと! 表に出ろ!」
 ヴァラスは仲間を一瞥し、パラと共に外に出た。数人が後に続き、室内には四人の冒険者が残った。
「出発する前に、お前達に話しておかねばならないことがある」
 風月皇鬼(ea0023)が口を開く。表情が重い。
「私達だけに話?」
 神楽聖歌(ea5062)とシャクティ・シッダールタ(ea5989)は顔を見合わせた。今回は何度か依頼をともにした面子だから、特に話すことがあるとは思えない。だが傍らの御藤美衣(ea1151)を見ると、彼女も思いつめた表情をしていた。只事ではない。
「お前達は、鬼骨坊事件の時にいなかった。宿場に行く前に、どうしても知っておいて貰わねばならない事がある」
「‥‥」
 御藤は顔面蒼白。何か言わなくてはと思うのだが、恋人の浪人の不在が彼女を臆病にする。
「‥‥単刀直入に言う。今から退治に行く鬼骨坊とは俺のことだ」
 二人の息を飲む音が聞こえた。
 一筋縄ではいかない事件になる予感が、した。

 外ではヴァラスと戸川が仲良く喧嘩していた。
「大丈夫でしょうか」
 中の二人を思って、クリス・ウェルロッド(ea5708)が口を開く。
「心配は無用だよ。本物を奉行所に突き出した所で今回の依頼には意味は無い」
 漸皇燕(ea0416)が答える。彼らやヴァラスは事件に関わりがあった。クリスは一味の1人だし、ヴァラスは村人の殺害現場に居たのだ。
「まあ予想外には違いないが、依頼どおりに排除するだけだね」
「そうですね‥‥しかし、最近偽物が多いな。実はこの前も私の偽物が現れたんですよ」
 皇燕はクリスの偽物を想像した。
「傍迷惑なことだね」
「そうなんですよ」
「お前の偽物ではさぞ迷惑をかけたろう」
「どういう意味でしょう?」
 話が終わって風月達が出てきた。表情から察するに聖歌とシャクティは納得してくれたようだ。
 宿場町までは戸川を入れて8人が歩いて向う。志士と浪人が来る予定だったが来ず、残る1人、天城烈閃(ea0629)は後から追いかけると言い残して別行動を取っていた。

●宿場町
「俺は町に入らない方が良いだろう。ここで待っているから、鬼骨坊一味の聞込みは頼んだぞ」
 皇鬼はそう云って宿場には入らず、手前の茶店で待機することにした。
「遠目だったとは言え、私も一見されておりますから‥‥折角あの依頼ぶりに村で出会った女性と会話出来る機会だというのに。嗚呼悲しまないでおくれ。また必ず来ますから」
 妄想爆発のクリスも留守番。
「おいおい、おめぇが一番やべぇってのに、自分から乗り込む気かよ?」
 二人と同じく居残り組のヴァラスは、町に行くつもりの御藤を止めた。
「髪の毛おろして、化粧してくから誰もあたいだって気づかないよ」
「ムケケッ‥‥女は度胸ってか? 敵さんは俺達狙いかもしれねぇんだぜ? 分からねぇ訳じゃねえよな〜」
 薄笑いを浮かべるヴァラスを、御藤は歯軋りして見返す。
「ん、何の話だ? 早く宿場に行くぞ。破戒坊主に天誅を食らわせるのだ」
 唯一、事情を知らないパラはやる気満々だ。
 戸川には適当に誤魔化して三人を残し、残る面子は鬼骨坊一味の聞込みに宿場に入った。

「実は24日はわたくしの誕生日ですの♪」
 道すがら、シャクティは話した。
「まあ、同い年ですね」
 聖歌は微笑む。その日は西洋では聖人の誕生前夜の祭日だが、ジャパンでは特別な日ではない。彼女らにしてみれば、友人の誕生日で十分だった。
「コホン‥‥私事はさておき、わたくしには此度の事が因果応報に思えてなりませんわ。せめて、わたくしたちが後始末できる事を、御仏の慈悲と思いましょう」
「はい、そのためにまずは偽者の情報集めですね」
 シャクティらは旅人を装って聞込みを始めた。冒険者達は今回、依頼人に会う事も冒険者と名乗る事も極力避けていた。隠密裏に事を進めるのは、出来るならこの事件を闇に葬りたいと思うからだ。

「最近、ここらを荒らしてる鬼骨坊って知らない?」
 美衣は1人で調べ歩いた。相方が居ない事もあるが、目立ちたくなかった。
(「本当は、他人に罪を擦り付けるなんてしたくないんだけど‥‥」)
 心中の罪悪感が、孤独を好ませたのかもしれない。
「知ってるも何も、この宿じゃその話で持ち切りだぜ」
 酒場で聞くと簡単に証言が取れた。
「ああ、罪もない長べえを嬲り殺した血も涙もねえ屑だっていうじゃねえか」
「一昨日も、江戸から来た家族連れが襲われて、1人も助からなかったそうだぜ」
「さっき旅人から聞いたんだが、今日明日にも奉行所の捕り手が来るそうだぜ」
 飯を食っていた宿場の男達が口々に言った。
「ホント? どこにいるのっ!」
 身を乗り出した美衣に、給仕の女が教えた。
「噂じゃあ、この宿場から一里の寺に隠れてるって話だよ」
 街道から少し外れた所に、功鳴寺という無住の荒れ寺があるらしい。美衣はその場所を詳しく尋ねた。
「まさか変なことを考えてるんじゃないだろうね。悪いことは言わないから、止めておきなさい」
「そういう訳にもいかないんでね」
 皇燕も同様の情報を得た。退治の話と分かると、土地のヤクザ者が道案内と助太刀を名乗り出たが、下手に同行者が出来ると面倒だったので追い払った。

「ではその荒れ寺でほぼ間違いないんだな?」
 聞込みの成果を聞いて、風月達は腰をあげる。
「ムキキキキ、わる〜い鬼骨坊一味には大人しくお縄になってもらいませんとなぁ〜。そうでしょ〜、風月のおにいちゃん?」
 ヴァラスが言う。冒険者たちの間では、場合によっては今回は殺害も已む無しの雰囲気が出来ていたので場の空気は重い。
「‥‥よし、鬼骨坊と名乗る凶賊には、その名と共に滅んでもらうとしようか」

●寄り道
 一方、単独行動を取った天城は単騎、鬼骨坊事件の時の依頼人が住む寺を訪れていた。
(「今回の一件、さすがに偶然同じ名前とは考え難い。しかし、あの事件の真相を知る者はごくわずかだ‥‥」)
 天城はその関連を確かめずにはいられなかった。
「ご住職、その節は随分と世話になった。来る途中で村を見てきたが、その後変わりはないか?」
「分かっております。鬼骨坊の一件で参られたのでしょう?」
 若い住職は少し老けたように見えた。この住職は事件の真相を知る数少ない1人。
「そうでなければ、あなた方が来るにはまだ時が経っていませんからな」
 住職によれば、村の対立はあれ以来収まっているらしい。それを唯一の慰めとして、彼は二つの村の融和に心を砕いているようだ。見透かされたので、天城は前置きを省いた。
「最近になって村を離れた者はいないか? 良くも悪くも村人通しのつながりの深い村だ。その辺の事はすぐ分かるだろう」
「おりませんな」
「それだけ聞けば十分だ。‥‥いや、もう一つ聞かせてくれるか?」
 天城は住職から答えを得て、自身の予想を深めた。
 それと同時に、不安が彼の脳裏に浮かび上がる。
「間に合えば良いが‥‥」
 天城はここに来る前、ヒース・ダウナーに偽者一味への潜入を頼んでいたが、流れの傭兵はリスクが高すぎるとして仕事を断った。
「あの男、知っていたのではあるまいな‥‥」
 天城は馬を急がせた。

●本物と偽者
 戦闘は冒険者達が、荒れ寺についてすぐ始まった。
「っぐ!」
 寺から射掛けられた数本の矢が皇鬼に刺さる。
「ムケェッ、まるで待ち受けてたってタイミングだぜ‥‥やっぱり罠かよ!」
 双剣を抜いたヴァラスはまず弓使いを黙らせようと突撃した。他の冒険者も彼に続き、寺の中からもヤクザと浪人達が姿を現した。
「遮蔽を利用しているのか? でも私の偽者にしては腕は大したことありませんね」
 クリスは突撃には加わらず、長弓で相手側の射手を狙った。背嚢から矢を二本取り、弓に番える。敵の弓は複数あるようなので反撃を受けては忽ちやられてしまう。遮蔽を避けて、一撃で倒すつもりで狙う。
「私には難しすぎる精密射撃ですが、物は試し、と言いますし」
 放った矢は命中、射手の1人は後ろに隠れるが次の矢を撃つ前にお返しの矢が飛んできた。

「はっ、はっ」
 聖歌は1人出遅れた。顔は面頬に隠れて見えないが吐く息が荒い。大鎧を着込んだ彼女が辿り着く前に、荒れ寺の前で接近戦が始まる。
「どけ、雑魚ども! 鬼骨坊はどこだ!」
 先頭は龍叱爪を振り回して駆け込んだ皇鬼。シャクティが彼の傷をリカバーで回復させる。それにヴァラスと御藤、皇燕と戸川の合わせて6人を、偽鬼骨坊一味の8人が取り囲んだ。奥には射手が3人ほど居て、人数の不利は否めない。
「また会ったな、外道」
「え?」
 御藤と対峙した浪人は彼女を知っていた。美衣に向ける殺気が他とは違う。
「長べえ殿の事、忘れたとは言わせぬぞ!」
 言い捨てて、美衣に斬りかかる。それが長べえに雇われていた浪人と知り、美衣の心は冷えた。
「冗談じゃないよ!」

 罠は風月にかけられたものではない。目的は彼女とその相方、そしてヴァラスの三人。
 冒険者達は罠に落ちこんだ。

「手のこんだことを‥‥迷惑千万だな」
 皇燕は攻め込んだ相手にカウンターを決めて打ち倒した。肩に傷を受けたが、構わず次の相手にかかる。
「お前らの主張する事は俺にはよくわからんが‥‥賊は賊らしく牢屋の中が似合いだ」
 偽者一味の事情をこの武道家は意に介さなかった。戦いの最中に感傷に浸る暇は無い。遅れていた聖歌も戦列に加わって、戦いは激しさを増す。
「私の一撃受けてみますか?」
 聖歌は乱戦では頼りになる。何しろ、その重い鎧はなまじっかな攻撃を通さない。それに彼女は鬼骨坊事件に関わっていないので敵の情報外の存在だった。
「まさかお前達、俺達を誘き寄せるためだけに宿場を荒らしたのか‥‥」
 皇鬼はリーダー格の浪人の1人と戦っていた。
「ふん、貴様らと一緒にするな。我らは噂を流して一芝居を打ったのよ‥‥鬼骨坊!」
 ここに白髪のジャイアントはいなかった、風月以外は。
「鬼骨坊なんて悪そうな戒名の坊主がいる訳無いだろうが‥‥その名はな、人々の怒りや憎しみの捌け口、全ての罪を被って舞台から消える生贄の名前なんだよ」
「ならば丁度良いではないか。貴様が消えて幕だ!」
 浪人の斬撃を間一髪、龍叱爪で止めた。連続して繰り出される攻撃を受けながら、皇鬼は反撃の隙が出来るのを待った。

「間に合ったか?」
 息を切らせてやってきた天城は、寺に向けて矢継ぎ早に撃ちかけた。新手の出現に相手側の射手が退き、クリスは寸でのところで命を救われた。いや、1人で数に勝る敵を正面から相手したクリスを褒めるべきだろうか。
「‥‥」
 木によりかかり、崩れるクリスの体を天城が抱きとめる。
「男に抱かれるなんて‥‥がく」
「それだけ口が聞けるなら大丈夫だな。あとは任せろ」

「むっ‥‥いかん」
 弓矢の援護を失い、予想以上に固い冒険者達の防御に時を取られた浪人側に焦りが見えた。シャクティが回復に専念したのが幸いしたのか冒険者達は容易に崩れなかった。
「退け! この場は一旦退くのだ!」
 御藤と戦っていた浪人が撤退の指示を出す。
「悪いが、お前達を逃す訳には‥‥」
「良いのか! 我らが捕まれば貴様らも只では済まんぞ!」
 追撃の矢を撃とうとした烈閃の手が一瞬、固まった。浪人の投げた小柄が彼の弓の弦を切る。
「待って!」
 背中を見せた浪人に、御堂が追いすがる。
「くっ、貴様だけは許せぬ!」
 振り向きざまの刀と御藤の二刀が交差した。
「きゃあっ」「ぐぬっ」
 血しぶきをあげて、二人は離れた。浪人はそのまま逃げ去る。追走する余力は冒険者達に無い。シャクティが残った魔力で仲間の傷を治した。重傷を負った者はポーションを併せて使った。
「どう報告する?」
「‥‥」
 傷を回復させた冒険者達はそのまま江戸に帰還した。ギルドの報告書には、宿場町に出現した凶賊鬼骨坊一味を荒れ寺に追い詰めるも逃走を許す、とだけ記された。