若葉屋日記・四 競売前夜

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:4〜8lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 40 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月23日〜12月28日

リプレイ公開日:2005年01月02日

●オープニング

「何者であろうな、その褌頭巾とは‥‥」
 町奉行所同心の桜木は配下の岡引から若葉屋の報告を聞いていた。
「へい、若葉屋が雇った冒険者を一撃でのしちまう凄腕、只者じゃありやせん」
 岡引の又五郎は大川で行われた争いの一部始終を見ていた。
 最初は待ち構えるギルドの冒険者達が優勢に戦いを進めていたが、褌頭巾が現れた途端、形勢は逆転した。
「いずれにしても、江戸の風俗を乱す輩であれば放ってはおけぬ。若葉屋もこのままでは済むまい、又五郎‥‥若葉屋から目を離すな」
「承知いたしやした」
 とは言うものの世間は師走。江戸の町奉行所も多忙を窮め、若葉屋だけにかかずりあう暇は無い。又五郎も日々の務めに忙殺されて若葉屋からは足が遠のいた。

 その頃の若葉屋。
「‥‥本気か?」
「ああ、俺はやるぜ」
 若葉屋文吉はおーくしょんを開くと宣言した。しかし、闇でなく表で‥‥。
「‥‥」
 そもそも『闇のおーくしょん』とは、盗品すれすれ‥‥いや殆どが盗品のマニアックな古褌を褌まにあ達の競売にかける闇取引である。表で堂々とやれる話が無い。
「いや、それは何とか方法を考えてだな‥‥みんなで考えればきっと何とかなる!」
 文吉からギルドに依頼が届けられた。

「‥‥という次第でございます」
 手代は淡々と依頼の説明をした。先日の河原で褌狂い達に敗退した事は責める言葉は無かったが、若干口調が冷たいかもしれない。大川で勝利した褌狂い達は、今では堂々と若葉屋に出入りしている。
「若葉屋がおーくしょんを開くことが知れれば、黙ってはおりますまい」
 さて、どうなるか。

●今回の参加者

 ea0042 デュラン・ハイアット(33歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea0167 巴 渓(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea0176 クロウ・ブラッキーノ(45歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea1467 暮空 銅鑼衛門(65歳・♂・侍・パラ・ジャパン)
 ea1856 美芳野 ひなた(26歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea3511 柊 小桃(21歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3865 虎杖 薔薇雄(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4475 ジュディス・ティラナ(21歳・♀・ジプシー・パラ・イスパニア王国)
 ea5794 レディス・フォレストロード(25歳・♀・神聖騎士・シフール・ノルマン王国)
 ea7367 真壁 契一(45歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●混沌の若葉屋
「しばらく見ねぇ間に‥‥」
 幾日ぶりに若葉屋の暖簾をくぐった巴渓(ea0167)は狭い店内を一瞥してニヤリと笑った。
「随分と脱線したなぁ、無惨な有様だぜ。ま、元々この店はそうだったっけなぁ」
 褌を異様な目付けで見つめる客の一団がいて、その右に暗黒大魔道、左にシャイニング・バラバラマン、そしてミスター銅鑼。渓に勝手な渾名をつけられた名物男達が怪しい雰囲気を醸し出している。隅では先日、文吉に詰め寄った美芳野ひなた(ea1856)が、世を儚んでさめざめと泣き崩れていた。
「私が文吉さんにヘンな覚悟をつけさせてしまったばっかりに、どー考えたら、闇オークションを白昼堂々と‥‥はぁ」
「お嬢さん、何があったか知らないがこれで涙を拭いて」
「あ、ありがと‥ぉ?」
 そっと客が差し出したのは一枚の褌‥‥ひなたは無言で懐から下駄を取り出し、思い切りぶちのめす。
「いい年して、昼間から惚けた顔で褌に頬擦りですか! 度が過ぎると、大ガマのちゃっぴいに丸呑みになってもらいますよ?」
 大川で冒険者が手痛い敗北を喫して以来、褌狂いの勢いは増していた。若葉屋に一般客は寄り付かず、魔窟魔界の装いだ。
「私のような極一般的な思考の持ち主から言わせて頂きますと、洗濯したとはいえ他人の使用済み下着をはくのは躊躇われますヨ」
 暗黒某ことクロウ・ブラッキーノ(ea0176)は店の様子を眺めてそうのたまう。
「存在理由を揺るがす見識をお持ちですな」
 台帳をめくる真壁契一(ea7367)は新たにギルドから斡旋された冒険者。若葉屋に足りなかった戦力と渓が太鼓判を押す彼は、商売の専門家だ。若葉屋の経営改善に一役買ってでた。
「確かに酷いものですが、今まで素人考えでやっていたのでしょう。手を加える所は沢山あります。捨てたものではないですぞ」
 ひとまず噂が立っているおーくしょんの対処からだ。
 店の表は真壁と先程のひなた、褌サラシ巻き姿に白樺木綿さんを背負ったの柊小桃(ea3511)、それにシフールのレディス・フォレストロード(ea5794)の四人で切り盛りした。
「そういえば、もう聖夜祭ですねぇ‥‥」
 レディスは棚上を定位置にして座布団を敷き、茶を飲みながらじっと客の様子を観察した。
「正月は福袋を配るんだよ。いい褌たくさん入れておくからね♪」
 妖怪褌を背負った小桃はシフールの眼下を忙しそうに動き、客の相手をした。
「小桃ちゃんの褌がいいな」
「えー、白樺木綿さんは小桃の友達だからダメダメぇ」
「いやそれじゃなくて今締めてるのを‥‥」
 小桃の放った重力波が客を吹き飛ばした。
「悪い人にはお仕置きだよ! もう来ないでくれる?」
 まだ精霊魔法の腕が低いので派手に転がった割に客の怪我は軽微だ。普通なら傷害だが、小桃のお仕置きは妙に客に受けた。わざわざ傷薬を買ってから店に通う客もいるとかいないとか‥‥閑話休題。
「褌に取りつかれた者の恐るべき繁殖力、一敗地に塗れるとはこういう事でござるか」
 一方、店内の清掃を真壁達に任せた大江戸変態三銃士の一角、暮空銅鑼衛門(ea1467)は店の外に出ていた。
 遠のいた一般客を呼び戻すため虎杖薔薇雄(ea3865)、ジュディス・ティラナ(ea4475)と共にチンドン屋活動に力を入れる。
「大丈夫さ、この私が戻ってきたからには美しい泥舟に乗った気分でいてくれたまえ」
 筋金入りの変人として幾つも二つ名を持つ薔薇雄だが、本業は用心棒。暮空達に同行するのは褌頭巾が現れた時の護衛のためもあった。
「ばらおさんとちんどんやさんをやれて、よかったわ」
「ふふ、どうしてです?」
 ジュディスは言った
「だって、ばらおさんが歩くとみんながふりむくんですものっ☆」
 今からこんなで少女の将来を思うと、どきどきである。
 三人は暮空が作った歌をうたって、町に繰り出した。

●幕間 銅鑼衛門記念そんぐ『褌を取り戻せ!』
♪ミーはshock!
 褌で空が落ちてくる
 ミーはshock!
 俺の胸に落ちてくる
 厚い心ヒモでつないでも
 今は無駄だよ
 邪魔する奴は剣先一つでダウンさ
〜中略〜
 俺との褌を守る為
 お前は旅立ち
 明日を見失った
 微笑を失った顔など
 見たくは無いさ
 褌を取り戻せ!

(作詞・作曲・歌:暮空銅鑼衛門)

●若葉屋巨頭会談
「いいか? 白昼盗品バリバリのマニア褌を扱ってみろ。文吉、オメェは終わりだぜ?」
 渓は文吉を叱り付けた。
「私は本当に迷いました。でも、いつまでもグズグズしてられないってそう思ったから、文吉さんに問いかけたんですよ。はァ‥‥ひなたは情けないです」
 ひなたも追い撃ち。
「く、くぐ‥‥」
 娘達の言葉を文吉は正座してただ受け止める。最初は反論もしたが無駄に終わった。誰から見ても文吉の決断が暴挙なのは疑いの余地が無い。
「それでも、アナタは古褌に拘るのですカ?」
 クロウが言った。すっかり小さくなった文吉が頷いたのは最後の意地か。
「なら仕方ありませんネ‥‥」
「しょうがねぇ、言っちまったもんは最後まで覚悟を決めろよ」
「時間は十分では無い。忙しくなりますね」
 巴と真壁は他の仲間とも話し合って、おーくしょん開催のために色々と策を準備していた。
「まずは、闇でなく、表のおーくしょんとして体裁を整えることですぞ」
 真壁は文吉に板切れを大量に用意させた。筆を取り、サラサラと何やら書いていく。
「これを店の表に張り出して下さい」
 そこにはこんな文面が書かれていた。
『使わなくなった古褌を買い取ります』
『買い取った古褌はオークションに出品し、売り上げの半分は寺社に寄付を行います』
 おーくしょんの引き札だ。これまでも古褌に『いい褌ありマス』など書いて表に張っていたが、一つの方向性を示した意味では一線を画するだろう。
「クロウ殿も言っておいでですが、古褌を売るなどと言うのは常人では考えつかない行動です。ですが、それが慈善になるというなら話は別だ」
 古褌にマニア受けするだけの価値しかないなら、それを認めて他の意味を付け加えれば良い。
「褌マニア共から金を巻き上げ、生活に困った方も助かり、若葉屋も潤う。これならば奉行所も文句は言いづらいでしょう」
 町奉行所対策と表のおーくしょんの形作りは真壁が請け負った。
「それで、表と決めたからにはヤバイ在庫は捨てろ。表の仕入れは俺とレディスで話をつけてくる。寺関係はジュディスが回ってけっど、文吉、ちゃんとお前が話してこい」
 仕入れの交渉は先鞭をつけた巴達が継続する。他に町奉行所への届出なども真壁に文吉が同行し、商売のやり方を彼から学ぶ。
「新規顧客獲得には『ぽいんとかーど』なる制度を提案するでござる」
 販促強化は暮空と虎杖達の担当。
「最初は青銅褌となり、累計売買件数が他に抜きん出ると白銀褌に昇格。さらに仁、智、勇を兼ね備え褌界の発展に尽くし褌の褌による褌の為の大儀に殉じた勇者に対し黄金褌を‥‥」
「殉じた勇者って死んでねーか?」
「それぐらい褌の道は険しいのでござる」
 店員業務の傍ら、小桃とジュディスもこの暮空の提案に協力する。
「何やら、上手く行きそうな気がしてきたよ。あとの問題は褌頭巾だけか‥‥」
 虎杖の不安は全員が感じていた。だが、今からおーくしょんの準備を始めると、とても正体不明の侍にまでは対応できない。
「デュランが何か考えてるようなことを言ってたけどな‥‥とりあえず、今出来ることをやるしかねーだろ」
 ともかく、当面の目標は決まった。
 あとは結果を待つばかりだ。

●幕間弐 『先生はお前達を見捨てない』そんぐ
♪You need a WAKABAYA
 胸に眠る若葉屋 掘り起こせ
 生命(いのち)より 重い古褌を 抱きしめて走れよ
 You need a WAKABAYA
 つかまえてよ 若葉屋その手で
 古褌をもし あきらめたら
 ただの廃人(ぬけがら)だよ

(作詞・作曲:闇のおーくしょにあ 歌:若葉屋裏後援会)

●それぞれの準備
 方向性の固まった若葉屋の面々は、まず店に巣くった褌狂い達の放逐に力を入れた。
「褌頭巾がいなきゃ、お前らなんぞ烏合の衆!! まっとうに心を入れ替えたら客として扱ってやる、さァ帰んな!」
 巴が陣頭指揮を取り、ほぼ全従業員でこれを敢行する。客として問題ないレベルの者達は難を逃れたが、奇行を抑えられない者達は容赦なく叩き出された。
「褌仮面! あんたは俺たちの仲間じゃないか、頼む、助けてくれよ!!」
「‥‥ユー達は早すぎたのでござるよ」
 暮空はすがる彼らの袖を振り払い、宣伝に出かけた。
「そ、そんなぁーーーーっ」
 幾ら呼んでも褌頭巾は現れなかった。

「先日はすまなかったな」
 絶望した褌人たちに声をかけたのは、意外にも隅田川で彼らを追い立てたデュラン・ハイアット(ea0042)。警戒する彼らに、魔術師は手を差しのべる。
「アレは私の本意ではない。お詫びといってはなんだが、君たちを食事に招待しよう」
 褌狂い達を小洒落た料理屋に招いたデュランは、彼らの窮状に耳を傾けた。そして。
「君たちの褌に懸ける情熱には敬服するよ。そんな君たちに耳寄りな話があるのだが、今度若葉屋で開かれるおーくしょんのことだよ」
 そこでデュランは言葉を切り、褌狂いの反応を確かめた。彼らの目にはおーくしょんを奪われた悲しみと捨てきれない望みが入り混じっていた。
「そこで、君たちに協力して欲しいことがあるのだ。当然報酬は払う。褌に関して色々と便宜も図ろう」
「し、しかし‥‥」
「悪いようにはしない。詳しい話はまたの機会にな。良く考えておいてくれ。それと、このことは他言無用」
 褌狂いと別れたデュランは何食わぬ顔で若葉屋に顔を出し、文吉におーくしょんに関する町奉行所対策を確認した。
「真っ当な商売を目指しているなら私は手を出さないのが無難なのだよ」
 猫の手も借りたい時にデュランはそう云って立ち去った。

「え〜と。はんこを押す枠は桃の形と葉っぱを交互に入れて‥‥できたっ!!いい感じ♪」
 小桃は暮空発案のぽいんとかーどのデザインを書いた。
 白樺木綿さんの似顔絵が書かれたソレは、絵的には上手いとは言えなかったが、味のある出来栄えに本人は満足した。
「血判ですか。本格的ですね‥‥」
 その横ではレディスが魔法を唱えていた。めんばーの証として捺印を取るつもりで、手始めに従業員全員の拇印を取ろうとした。レディスがミミクリーで仲間達に変身を試みる。
「‥‥手?!」
 問題はミミクリーではサイズが変わらない事だ。形を真似ただけでは小人になるので、拇印を同サイズで取るためにレディスは右手だけの形状に変身する。
「‥‥無理がありますか」
 人間サイズの手に強引に口と目を加えたそれはもはや妖怪。存在しない生物に化けたので自由に動くことも出来ず、拇印も真似ることは叶わなかった。若葉屋には右手の妖怪が現れると、一般客の間で噂になった。

「こんにちはぁ〜いらないふんどしゆずって下さぁい☆」
「ご苦労様でございます」
 ジュディスの寺回りは順調だった。
「ふんどしが売れたらお寺にきふしますからっ☆」
 おーくしょんの売り上げを寺社へ寄付すると云っているのだから、愛想も良くなる。
 レディスと渓達の屑屋との交渉も、適正価格を示すことで契約が結ばれた。おーくしょんが成功して安定した買取りを行うことが条件となっているが、古褌を探して江戸市中を歩き回らなくて済むのだから大きな前進だろう。

「またか‥‥」
 帳場に座っていた真壁は昨日追い出した褌狂いがまた入ってきたのに気づいて立ち上がる。
「拙者に任せて、仕事を続けて下さい」
 ひなたに言って、褌に顔を埋めていた男の肩を掴む。
「お客様、そのようなことをされては困ります」
 柔らかい口調で男を店の外に誘い出した真壁は、きつい仕置きが必要だろうと路地裏に連れてきた。
「今度生まれてくるときは、真っ当な道を歩むんですね」
 態度を豹変させ、刀を抜く真壁。殺す気はないが、簀巻きにして河原に曝しておくぐらいのことは考えていた。
「ひぃぃぃっ」
「逃げても無駄‥‥っ!」
 その時になって、初めて真壁は路地の奥の気配に気づいた。暗がりから、風切り音が鳴って何かが飛んでくる。反射的に跳び退った真壁は、地面に礫のようなものが突き刺さるのを見た。
「‥‥」
 暗がりから現れた人物は顔を頭巾で隠していた。
「褌頭巾!」
「た、助けて〜」
 思わぬ味方の出現に男が逃げる。追おうとした真壁の足先にまた礫が打ち込まれる。
 褌頭巾は真壁の動きを牽制しておいて、男の姿が見えなくなってから逃げ出した。真壁は無理に追わず、地面に残った数個の遺留品を拾う。
「‥‥これは、車菱?」

 次回につづく。