はーとぶれいく・四 鬼と盗賊
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■シリーズシナリオ
担当:松原祥一
対応レベル:5〜9lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 74 C
参加人数:9人
サポート参加人数:2人
冒険期間:07月16日〜07月21日
リプレイ公開日:2005年07月26日
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●オープニング
京都七月、黄泉人撃退の報せに人々は安堵の息をついた。
追い返したものの大和南部には依然として亡者が存在し、騒動はまだ続きそうである。
都のあちらこちらでは今もその話題が一番である。先の決戦での神皇軍の働きや冒険者の活躍、果ては天狗の話や鬼の話‥‥騒動が続く中で今後都はどうなるのかと時代の行方に一抹の不安を感じさせた。
だが反対に考えたならば、波乱の時代の到来は冒険者には都合の良い毎日を意味するのか。
「松永殿も辛いのだろうが、大和の治安どうにかならぬものか」
「案外、此度の乱は彼方にとっては好機やもしれませぬ。食えぬ御仁ですからな‥‥」
「功名を期待して浪人達が集まっていると聞くが‥‥それに陰陽頭の」
「それより平織様と源徳様の事じゃ。今度の戦でお二方の態度どう見られる?」
「‥‥シッ」
大内裏の一室で話し込んでいた貴族達は廊下から聞こえる足音に息を潜めた。
権勢と共にある都の貴族達にとって、乱は他人事ではない。大和の乱に貴族達は水を得た魚の如く動き回り、その謀は幼い神皇の住まう清涼殿の中まで、日夜繰り広げられているという噂である。
今回の依頼人も一応は貴族であるのだが、政争とは無縁に思える人物だ。
検非違使の青年、大平定惟。絵の天女に惚れて恋煩いとなり、行動力だけはあるのか事件を起こすので、これまで何度も冒険者が出動していた。
前回は天女探しに大和に天女探しに行ったのだが‥‥。
「盗賊退治でございますか?」
「はい。先日、国境の村々を調査した折に京都を荒らした盗賊が大和の山に逃げ込んだ事実が分かりました。治安が回復していない事を良い事に、そこを根城に悪さをしている様子。見過ごしてはおけません」
大平は追捕隊を指揮してその盗賊を退治する気でいた。戦力として冒険者を雇いたいという。
断る理由が無かったので、冒険者ギルドはその依頼を受けた。
集められた冒険者は手代から話を聞いて、一言。
「‥‥天女らしい女の目撃情報があった近くだな」
「左様ですな」
天女の情報収集も仕事のうちだと手代は素っ気無い口調で言った。
「面倒臭い仕事だな。それも一つ目と二つ目に関係がねえ。‥‥二兎追う者は一兎を得ずって言葉があるだろう?」
困った事に大平の頭の中では整合性が取れているらしい。とりあえず盗賊退治に力を注ぐ事が大事だと手代は言うのだが。
「その、目撃された天女というのは妖怪じゃないのか?」
亡者の軍勢に襲われた村人がこの世のものと思えない美女を目撃したという話。女の様子を冒険者は聞いたが、見た者も逃げる最中の事で要領を得ない。亡者から逃げているようにも、反対に亡者の一味にも見えたという。
「盗賊はその亡者に襲われて無人になった山村に居るようです」
村には郷士の屋敷がある。この屋敷の本来の主人は村が襲われた時には多聞山城に出かけていて不在だった。村には他に目ぼしい屋敷は無いから、恐らく今は盗賊達の住処になっているだろう。
「盗賊の数は?」
「大平殿は十から二十と申されておりましたが、正確な事は分かりません」
確かに大和の治安悪化は由々しき事態ではあるが。
さて、どうするか。
●補足
今回、追捕隊は真っ直ぐ盗賊達の村へと向うつもりです。
京都から村までは約二日の道ですが、大平は急いで一日で到着しようと思っています。
追捕隊の人数は若い検非違使が数人、それに手下の放免が十人程です。
定惟が天女探しをしている事は検非違使庁に知れれば大変なので、盗賊退治以外に、追捕隊の人間に定惟の天女探しが知られぬようにする事も冒険者達の仕事になります。
●リプレイ本文
●奇天烈な人々
「暮空銅鑼衛門、奇天烈斎頃助の両名は怪人である。彼らを改造したのは秘密結社ぐらんどくろすである。彼らは信仰による世界制服のため、日夜戦っているのである! 今、友情のマッスルドッキングが炸裂する!」
己でナレーションを入れる熟年のパラ侍、暮空銅鑼衛門(ea1467)。
追捕隊の奈良行きに同行する仲間達は暮空を視界に入れても見えないフリをした。
暑くなってくると本当に色々な人が出てくる。
「所で‥俺が思うに、追捕隊の人たちはひじょーに真面目だよな」
里見夏沙(ea2700)は暮空の存在を無視して、旅の準備をする仲間に話しかけた。
「そう? うちには分からへんな。普通やない?」
保存食を背負い袋に詰めながら、将門雅(eb1645)は里見に応えた。
「うちらみたいに、世間ズレしてないだけと違います?」
追捕隊の面々が世間知らずかと言えばそんな事は無い。彼らは京都の治安を守っているのだ、善悪は知っている。
「それじゃ、まるで俺達が普通じゃないように聞こえるな」
大平に比べれば自分は常識人だと思っている里見には傷つく意見だが。
「――ともかく、今回も真面目な方々が自分の職務を真っ当出来るようにがんばりますか」
今回の追捕隊の依頼に参加した冒険者は9名。
初参加は暮空と“慈悲の神聖騎士”イリス・ファングオール(ea4889)の二人。
他は暮空の盟友の奇天烈斎頃助(ea7216)、ミミクリー使いの神聖騎士アウル・ファングオル(ea4465)、同じく神の騎士で日常茶飯事に“狂化する”ミスティ・フェールディン(ea9758)、大平の主治医こと僧侶の白翼寺涼哉(ea9502)、すぐに魔法を使いたがる魔法フリークの陰陽師黒畑緑太郎(eb1822)。
忌憚なく言うなら、割と愉快な面子が多い。
楽しい旅行になるだろう。
出立前に、暮空とイリスが大平に挨拶に行った。
「奇天烈斎の増援として結社から派遣された暮空銅鑼衛門でござる。ご安心召されよ大平殿、ミーの秘滅道愚の力を持ってすれば、天女探しなど容易いことでござる」
「ふむ、心強い言葉だ」
大平も馬鹿ではないので、暮空達の結社が何らかの宗教だとは分かる。が、仏教伝来から約五百年、京都に新興宗教の類は吐いて捨てるほどあり、生活の一部と言って良い。最近はジーザス教など西洋の宣教師も増え、この追捕隊にも僧侶と白と黒の神聖騎士が参加している。隊長の大平としては問題を起こさない限りは寛容を示す気でいた。
「ついでに、この六尺褌は今は亡き若葉屋文吉という漢が遺した魂の欠片でござる。これをはいて頑張るでござる」
使い古しの褌を差し出され、大平はさすがに顔を歪めた。
「アウル君がお世話になります。イリス・ファングオールです。よろしく」
イリスはジャパン語に慣れてない風だが、暮空と比較すればまともな少女だ。イリスは持っていた恋愛成就のお守りを大平を渡した。初対面で贈るような物では無いが、アウルから聞いたのだろう。
「いつか想いが叶うと良いですね」
「ありがとう」
変に思われないかイリスは不安な顔をしたが、大平は礼を言って受け取った。
追捕隊の面々は強行軍で盗賊が隠れる山村に急いだ。
●盗賊退治、そして
まず戦いの幕が上がったのは山村の上空。
ミミクリーで大鷹に変身して偵察を行ったアウルは、空中で奇怪な鳴声を出す首の長い鷹に襲われた。
(「‥‥つっ、うまく体が動かないっ」)
大鷹の能力をフルに使うにはアウルは知識が無い。アウルの鷹は辛うじて飛べる程度の性能。しかも襲ってきた鷹が尋常ではない。
「イツマデ! イツマデ!」
鳴声を聞くうちに何とも言えない罪悪感がアウルを打ちのめし、力が抜けていく。
「か、神よっ」
高度を下げて怪鳥から逃げ回ったアウルは溜まらず人型に戻った。地面に叩きつけられて体が回転する。
「地面の上なら!」
アウルは倒れたままの格好で、追撃する怪鳥に向って足を伸ばした。6mのロングキックが鞭のようにしなって怪鳥に命中する。
「さあ、早くしないと魔法が切れてしまいます。その前に倒させて貰いますよ」
武器があれば良かったが変身の為に今は真っ裸だ。全裸の少年は立ち上がり、戦闘姿勢を取った。
「アウル君たら、立派になって‥‥」
イリスはアウルの荷物を持って彼が不時着した丘に急ぐ。
偵察は失敗し、他の冒険者と追捕隊は山村に突入した。イリスも大平の側についていたかったが、武器を持たないアウルを心配して別行動を取る。
「やっぱり、ただの盗賊退治‥じゃないのか?」
白翼寺涼哉はアウルが怪鳥に襲われた様子に顔を曇らせた。偶然怪鳥が現れたとは思えない。
「大平殿。敵は面妖ですが、間違いなくここに賊がおります。検非違使の仕事、見せて頂きたい」
「無論だ。大平定惟が一人も逃さず捕えて見せよう」
大平は自信満々に涼哉に答え、指示を出した。村の反対側に追捕隊の半分と里見、フェールディン、将門、黒畑の四名を回らせ、大平は残りの半分と暮空、奇天烈斎、白翼寺の三名を連れて正面から村に入る。
「こっちや」
裏に回る班は将門が先導した。獣道を通って村の反対側に抜けようとしたが、彼女らの前進を阻むかのように不意に化け傘の群れが現れて道を塞いだ。
「時間がありません、私が突破します‥‥」
ミスティ・フェールディンが前に出る。十文字槍を構えて、左右を見回した。
「10匹は居ますね‥‥盗賊退治にお化け傘とは不可思議ですが‥‥」
跳ね回るボロ傘が前に出た所をミスティは槍で叩きのめす。彼女一人なら突破は訳無い。だが、悲鳴をあげて道から飛び出した味方の放免が傘化けに襲われて血だらけになった。
「‥‥クククッ」
それを見てミスティの青い瞳が赤く変わり、髪が逆立つ。
「それほど壊されたいなら、バラバラにしてあげましょう‥‥」
いつもなら、ミスティが狂化したら将門が気絶させて止めていたが今は後回しだ。縦横無尽に槍を振るうミスティを先頭に押し立てて突破を図る。
「参ったな。でもまあ、この分じゃ表に回った大平達が心配か」
黒畑緑太郎は置いていかれないように仲間の後ろをピッタリ付いていく。魔法オタクの彼としては思う存分攻撃魔法をぶつけられる絶好の機会だが、今は立ち止まって詠唱する余裕が無い。
表から突入した追捕隊本隊は、盗賊団の熱烈な歓迎を受けた。
正面から対峙するのはジャイアントとパラの凸凹コンビ。
「この案件は我輩一人で十分だと言うのに、結社も余計なおせっかいを焼く也な‥」
奇天烈斎頃助は暮空を一瞥すると、正面にわらわらと現れた盗賊の前に姿を曝して威圧する。
「こちらは検非違使庁追捕隊也! 貴様らは完全に包囲されている也! 観念してお縄につく也か、それとも我らの力試しの為に刀の錆になるか、どちらか選ぶ也! とはいっても決定権は我らにある也が」
盗賊達の返答は、矢が雨のように降ってきた。
頃助は盾で矢を防ぎ、構わず前進する。続く銅鑼衛門には巨人の体が大きな盾代わりだ。時折、頃助の背中から小さな体が覗いたかと思うと「秘技空氣砲(くうきほう)」と名付けたソードボンバー攻撃を放つ。
「こ、降参だ」
15人いた盗賊達は呆気なく白旗をあげた。
「こんな場所で火事場泥棒するわりには、根性が無いんだな」
涼哉は懐から取り出した六尺の白布で盗賊を縛り上げる。それが褌と気付いて盗賊は呻く。
「まさか‥‥こんな所まで都の役人が乗り込んで来るなんてよぉ‥」
盗賊達には追捕隊が来た事が驚きだったようだ。北部から亡者の軍勢を追い払ったとは言え、今の大和は酷く混乱した情勢にあり、荒稼ぎが出来ると思っていたのだろう。
「村人は居ないのでしょうか?」
イリスはこの村に山賊以外に生存者は居ないか探したが、在るのはもう見慣れてしまった打ち捨てられた骸だけだ。怪鳥相手に酷い目にあったアウルが盗賊を尋問する。
「では村を襲った黄泉軍について、知っている事を聞かせて貰いましょうか?」
「知らねえ。俺達は都合がいいからこの村を隠れ家に使ってただけだ。黄泉人だか亡者だかなんて、何も知らねえよ」
この盗賊達は黄泉人が襲った村を襲って、金品を奪っていた。黄泉人達は人命を奪うだけでお宝には興味を示さなかったから、彼らにとってこんなに都合の良い仕事は無かった。まさに火事場泥棒の類である。
「なんて卑劣な事を‥‥あんた達には困っている人を助けようとか、良心は無いのですか?」
アウルは憤りを感じた。大和の人々の危急に、集まるのは善意の者ばかりでは無いという事か。
目的はどうあれ、追捕隊が来た事で盗賊を逮捕できた事は何よりだった。
「素早く解決できましたから、帰りは多聞山城に立ち寄って情報を集めてみてはどうでしょうか?」
「そうしよう。この有様では、大和の治安はとても回復しているとは思えぬ」
追捕隊は盗賊達を全て捕縛し、山村を後にした。
所で追捕隊の面々には気を遣いつつ、天女の話を盗賊達に聞いた所、意外にも一度だけ見た事があるという答えが帰ってきた。
「あんなぺっぴんは都でも見た事がねえ」
「あれは人間じゃない。亡者に襲われて人気のねえ村を一人で歩いて‥‥きっと魔物の姫だ」
天女は果たして実在するのか。
しかし、困った事に、盗賊から天女がどっちに言ったかを聞いた大平は、一人で探しに行ってしまった。
「馬鹿な‥‥」
追捕隊と盗賊達を放っておく事は出来ず、冒険者達は大平を残して京都に帰還する。