はーとぶれいく・五 盗賊と検非違使

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:5〜9lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 19 C

参加人数:9人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月14日〜08月19日

リプレイ公開日:2005年08月22日

●オープニング

 京都八月。

 真夏の京都は相も変わらず、亡者や妖怪騒動に忙しい。平織を中心とした黄泉人追討軍も大和に向かい、その戦果はそろそろ都にも届きそうな頃。


●検非違使失踪
「若様ぁーーー!!!」
 先月下旬。己の天女を追いかける検非違使の大平定惟は冒険者と追捕隊を残して大和の地に消えた。
 大平の失踪は冒険者達の誤魔化しと大平家の根回しにより、表沙汰にはなっていないがそれにも限界がある。大平家の家来、島野冬弥は狂乱するほど取り乱して、定惟の行方を探すのだが‥‥。
 杳として知れず、8月も半ばに差し掛かっていた。

●宮中の噂
「聞かれたか? この京に亡者が入り込んだという噂?」
「おう。平織様は大和討伐と息巻いておられるが、都の防備が先でありましょう」
「足元と申せば、丹波の一件‥‥」
「こうも乱が続いては、神皇様の威光に影響しよう。実は良くない話を聞きましてな‥‥」
 今日も貴族達は噂話に華を咲かせていた。地方の実権を武士達に奪われつつある貴族達だが、都においては依然として彼らは権力と共にあった。
 検非違使大平定惟の失踪事件などは、貴族達にとっては取るに足らぬ小事であり、かつ笑い話の一つに過ぎなかったが‥。

●追捕隊、再度大和へ
「お願いでございます、どうか我々と大和に行って下さいませぬか」
 若い検非違使が、冒険者ギルドを訪問したのは八月半ばの事。
 目的は行方不明の定惟捜索。
「何か手掛かりでも掴めたのか?」
 定惟失踪の件は、大平家がひた隠しにするので表立っては知られていない。検非違使庁は殆ど勘付いているが、厄介払いが出来たと放置している。
「はい。私達は大平様の事が気になり、国境近くの村を調査していたのですが」
 追加調査と口実を作って調べた所、大和の村人から定惟らしき人物の目撃情報を得た。
 それによれば、盗賊退治を行った村から南に行った山の洞窟で、定惟と、それから美しい姿の女性を見たという。その洞窟は良く修験者が修行に使っていた場所らしい。また鬼が良く出るとも言われる危険な所だとか。
「定惟様は大和の乱を影で操る天女に扮した妖怪を探しておいででした。おそらくはその洞窟こそ、妖怪の棲家に間違いありますまい。一人で鬼と対決なさろうとする定惟様を我らがどうして見捨てる事が出来ましょう」
 若い検非違使は決意に燃えた瞳を冒険者達に向けた。
「どうか我らと大和へ行って下さい!」
 さて、どうするか。


●補足
 追捕隊は真っ直ぐ洞窟を目指します。
 京都から洞窟までは約二日半の道ですが、急ぐつもりです。
 追捕隊の人数は若い検非違使が数人、それに手下の放免が十人程です。
 検非違使庁には本当の目的は言わず、盗賊退治と言っています。

●今回の参加者

 ea1467 暮空 銅鑼衛門(65歳・♂・侍・パラ・ジャパン)
 ea4465 アウル・ファングオル(26歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea4889 イリス・ファングオール(28歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7216 奇天烈斎 頃助(46歳・♂・志士・ジャイアント・ジャパン)
 ea9502 白翼寺 涼哉(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea9758 ミスティ・フェールディン(35歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb1528 山本 佳澄(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1645 将門 雅(34歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb2041 須美 幸穂(28歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●サポート参加者

哉生 孤丈(eb1067

●リプレイ本文

●いざ行かん
 大平を心配する追捕隊に乞われて、冒険者達は再び大和へ向った。
「しかし、妖怪よりも亡霊よりも手がかかるとはこれ如何に‥‥」
 行く先の奈良の山々を眺めて、陰陽師の須美幸穂(eb2041)は溜息をついた。
「しゃーないわ。これも乗りかかった船やし、うちらで大平はん連れて帰らんと」
 須美に同行するのは商人の将門雅(eb1645)。二人は韋駄天の草履を使って、追捕隊と仲間達より少しばかり先行していた。
「問題は大平様を発見したあとですが‥‥」
「そやなぁ。うちには名案は無いけど、他の人は色々と考えてはるようやね」
 女二人は道々で情報を拾いながら、韋駄天の如く走り抜けた。

 須美達から半日ほど遅れて、追捕隊と冒険者6人の大平探索本隊が進んでいた。
「むむむむむむ〜、おおおおなごといいい一緒おおおに洞窟でしっぽりらんでぶぶぶぶぶでござるか大平殿! ななななんたる破廉恥!! こここここれはミーのお世話侍としての血が騒ぐでござるるるる〜。探し出して説教でござるるる〜」
 パラ侍の暮空銅鑼衛門(ea1467)は大平が女と一緒に居ると聞いてから頭に血が昇りっぱなし。
「暮空、バカップル如きで血走るんぢゃねェ‥‥頭から血ィ吹き出したらマジでシメるぞ」
 医者で大平の主治医の白翼寺涼哉(ea9502)は前で喚く暮空を鬱陶しそうに見ている。その後、口から泡を吹き出して暮空が倒れると、治療してから本当にシメた。
「ったく、面倒かけさせんな。‥‥あんにゃろーもマジで行きやがって」
 大和まで往診に行く羽目になった事を毒づく涼哉を見て、神聖騎士のアウル・ファングオル(ea4465)は笑顔で聞いた。
「それほど嫌なら行かなければ良いのでは?」
「それが出来たら苦労はしねぇ。俺がやらんで誰がこんな仕事をやるんだよ?」
 確かに呆れる話だ。尤も、呆れているのはそれだけ大平と関わりがあったからでもあるが。
「でもあんたは腕の良い医者ですから、こんな仕事をしなくても頼まれて大事な仕事が他にあるんじゃないかと‥‥」
 大和には黄泉人追討の軍が派遣され、使える医者は世間が放っておかない御時世だ。アウルは平織軍の動きが気になっていたので、ついそんな言葉が口をついて出た。
「賢しいこと言いやがるぜ。俺はまだ仕事の選り好みするほど偉かねえんでな。目の前の患者で精一杯だよ」
「‥‥」
 イリス・ファングオール(ea4889)はアウルに近づいてラテン語で聞いた。
「何の話をしていたのですか?」
「姉さん、ジャパン語は難しいですね」
 一行は一刻も早く大平が目撃されたという山まで着きたかったが、陽射しに弱いアウルにはジャパンの真夏は堪え、また強行軍は体力的にきつい涼哉やイリスの事もあって無理はしなかった。

 休憩の時、イリスは少し悩んでいた。
「大平さん、悪い人に騙されたりしてなければ良いのだけれど‥‥」
「天女が悪女なら我々にはどうしようも無いですね、きっと。それより俺は相手の女性が迷惑じゃないかと心配ですけど」
 アウルは別の心配をした。大平の性格を見てきたアウルには、彼が天女に好かれるとは思えない。
「そうですね、天女の方の気持ちは考えていませんでした」
 側で聞いていた山本佳澄(eb1528)が言う。佳澄は天女コンテストからの付き合いだが、大変な騒動になったものだとしみじみ思う。
「果たして大平殿の天女は、本物の天女なのでしょうか‥‥。私にはそうは思えません‥‥」
 ミスティ・フェールディン(ea9758)も会話に加わる。こんな依頼を受けたくらいだから皆、大なり小なり大平定惟という人物を知っている。追捕隊の面々には正直に言えない話ではあるが、十中八九、大平は魔物に騙されているだろうと冒険者達は考えていた。
「ひーはー‥‥おなごの色香に騙されて破廉恥三昧、許せぬでござる〜〜」
 暮空は説教もーどが続いている。
「だけど、ここまで来たのは冒険者が付いた嘘が原因でしょう? 悪いことばかりが起こるなら、正直に話した方が良いのかもしれません‥‥」
 イリスは悩んでいた事を口に出した。しかし、とミスティが言う。
「だが、今も私達は大平殿の為に嘘をついているのですよ‥‥。追捕隊の人達には、大平殿が一人で妖怪退治に行ったのだと話して‥‥それを全て告白すれば大平殿は立場を失ってしまいます‥‥」
 嘘を守る為に嘘を重ねる事になる、だから嘘はいけないと、誰でも子供の頃に教えられる話だが、しかし嘘も時には必要なのが世の中であり、人は良く嘘に悩む。
「俺達は天女を厄介ごとと決め付けてるが、あちらさんにとっちゃぁ俺達が厄介ごとかもしれねぇんだ。今は考えても仕方ねえし、大平の野郎をとっ捕まえて都に返すことだけ考えてりゃ良いのさ」
 涼哉は突き放すように言ったが、その顔は少し辛そうだった。

●誤魔化しと説得
 問題の洞窟。
「ここらしいんやけど、中に入ったら鬼や物の怪が待ち構えとるやろ。ここで待っててくれへんか?」
 先に着いていた将門雅に笑顔でそう言われても、追捕隊の面々は納得しない。
「我ら、命を投げ打ってでも大平殿を救出いたす所存」
「‥‥さよか。ほなら、はっきり言うたるで。あんたら居ったら邪魔なんや。素人は邪魔せんとここで待っとき」
 営業すまいるを外して牽制する雅。その横で暮空がにっかり笑う。
「む〜ふ〜ふ〜、左様‥‥洞窟の中は危険でござる。中にはミーたちが突入するでござるゆえ、外に待機してバックアップに勤めて欲しいでござる」
 専門家に戦力外と通告されて、若い検非違使達の気勢は殺がれた。ここに来るまでの道中で、鬼の噂を耳にしていたので冒険者達の言葉に真実味がある。
 渋々だが、待機を承知した。
「では、大平様のこと、くれぐれもお頼み致します」
「任しとき」
「そーどすとらいく銅鑼衛門、行きまする〜」
 一行は検非違使たちに馬や荷物を預けて、暗い洞窟の中に入っていく。
 洞窟の入口は二丈ほどの広さがあり、高さも一丈程はあった。背の高い涼哉やミスティも苦労しないが、足元が滑りやすく、慎重に進む。中は概ね大人一人か二人が歩けそうな道が続いていた。
「分れ道があるでござるな」
 提灯を持つ暮空が分岐を前にして立ち止まる。
「足跡か何か分からないか?」
 一行には忍者が一人居るが隠密の技に明るくない。多分こちらだろうと勘で進む。
「‥‥感じるでござる」
 更に暫く進んで、暮空のオーラセンサーが大平の存在を捉えた。こうした仕事ではかなり役立つ男だ。
「覚悟するでござるよ、むひょひょひょ‥‥」
 説教もーど全開のままなので目が少しいってるが、暮空のセンサーを頼りに洞窟を進む。
「それにしても、広いですね‥」
「死体の一つや二つは転がってそうだな」
 所々に人が踏み入った跡は残る。修験者達の修行の後か、或いは鬼か蛇が潜むのか。冒険者達は万が一を想定して、剣や盾を装備し、戦闘準備は整えていた。ミスティの十文字槍はかなり邪魔だったけれども。
「こんな所に天女が本当に居るのでしょうか‥‥」
 重苦しい雰囲気で洞窟を進む。

●大平と天女?
「私と結婚して欲しい!」
 暗闇に大平の声が木霊した。
「愛しい姫、どうか私と都へ‥‥」
 大平の声が聞こえるや否や、パラが血相を変えて走り出した。
「そこへ正座するでござる大平殿のののの!」
 暮空は洞窟の奥、蝋燭の明りに照らされた一室に殴りこんだ。
「な、何事じゃ?」
「おおおおなごごの色香にだまされれれてかかかかかようなところでいちゃらいちゃらとはああああ!!なななななんたる破廉恥!!心を入れ替えて真人間になるでござるるるるるる〜〜〜」
 桃の木刀を振り回し、気が狂ったかと思える暮空の姿に、大平と、その側の女性は呆気に取られている。
「まず貴様から真人間になれ!」
 後ろから涼哉に蹴られて、暮空のコロコロした体が転がる。術を使おうとした幸穂や、他の面々も暮空の暴走に引っ張られて姿を見せる。
「探しましたぞ大平殿。‥‥何故このような場所においでかは存じませぬが、我らと共に都へお帰り下さい」
 冷静を装って涼哉が言う。
「そんな、まず大平さんの話も聞いてみないと」
 イリスが異を唱えるが、大平は険しい顔で冒険者達を睨み付けた。
「姫君の寝所に帯刀して押しかけるとは何事や! そこの者ら、呪いを止めよ!」
 呪文を唱えようとした幸穂やアウルを大平は止める。
「‥‥」
 大平に庇われている女性は展開に付いていけないのか一言も無い。年齢は十六、七か。暗がりで良く分からないが整った容貌の女性だ。
「大平殿、目を覚まして下さい。貴方が逢いたいと思っていた天女は、人々の平和を願う心優しい女性のはず。それがこのような場所に隠れ住んでいる筈がありますまい‥‥」
 ミスティは大平を説得しようとした。
「頭ごなしに言わなくても、まず事情を聞いた方が‥‥あの、その‥‥最近の様子はどうですか?」
 イリスは緊張と不安が織り混ぜられた異質な雰囲気に少し動顛した。探した大平は冒険者に敵意の篭もった目を向けているし、冒険者は突っ走っているし、暗い洞窟の中という条件もあってか落ち着かない。最悪すぐにも刃傷沙汰になりかねない。間違いが起きる時とはこんな時か。
「お待ち下さいませ」
 それまで無言だった女が声を出した。定惟を見て。
「あなたを心配して都から遥々来られたのですから、どうぞ一緒にお帰り下さい」
 と言った。
「なっ‥‥姫を置いて定惟がどうして帰れましょうや。いわんや京に戻ったとて姫が居ない都では五日十日も生きて居られませぬ」
「あなたと私では所詮、住む世界が違うのです。どうか私の事はお忘れくださいませ‥‥」
 以下、暫く大平と女の問答が続くが割愛。
 掻い摘んで言えば、大平が女を見初めて此処に居付いたが、女は鬼の姫であり、住む世界が違うと拒絶しているらしい。
「鬼の姫?」
 暮空が背負い袋から何か秘滅道愚を出そうとするが、大平に牽制されて出せない。大平は術者達が呪文を唱えるのも許さなかった。隠れようとすればすぐ声が飛ぶので迂闊に動けない。
 強引に捕縛する事は簡単だが、大平を傷つける恐れもあり、また女の実力も未知数なので躊躇われた。
「鬼姫と称する者を天女と見紛うとは‥‥あなたは外見が美しければそれでよかったのですか‥‥!」
 腹立たしそうにミスティが言う。
「生まれや種族に何の意味があろう。我が姫を想う心に比べれば全て空しい」
 大平の言には取り付く島も無い。
「‥‥大平殿」
 暫く大平を見ていた涼哉は一歩踏み込んで言った。
「大平殿、大事なモノと共に生き抜く‥‥覚悟はおありでしょうか? いくら与えても満たされぬ事もありましょう‥‥」
「何を申しておるのか分からぬ」
 涼哉はつい己の情念を大平にぶつけていた。これ以上は無理と判断して、後ろの冒険者が動いた。
「あっ」
 大平は声をあげたが遅く、雅が木刀で大平の鳩尾を打った。
 崩れる大平の体を涼哉が支える。
「お騒がせして、すんまへんなぁ。これ、貰って帰りますよって」
 雅は営業すまいるで頭を下げる。困惑気味の女に、イリスが言った。
「心配は要りません。都の彼の家にちゃんと送り届けますから」
 冒険者達は気絶した大平の体を担ぐと、足早にその部屋を後にした。色々と聞きたい事もあったが、大平が起きると面倒だ。満足に術を使えなかった幸穂は不満顔。
「‥‥他の女に現を抜かす輩には当然の仕打ちがありますよ」
 帰りの道中、幸穂は大平を洗脳しようと頑張った。

 追捕隊の面々には鬼と戦って名誉の負傷をおった大平を冒険者達が救出した、と誤魔化した。目覚めた大平は今直ぐに取って返せ、姫に合わせろと騒ぐので、その度に気絶させ、体を縛りつけ‥‥慌しく一行は京都に帰りつく。知らせを聞いて出迎えた島野冬弥にまるで囚人のような状態の大平を渡し、冒険者はほっと息をつく。
「本当に天女がいるものなら、大平さんを救ってもらいたいものです‥‥」


つづく。