はーとぶれいく・六 検非違使と鬼の姫

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:5〜9lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 63 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:09月10日〜09月16日

リプレイ公開日:2005年09月22日

●オープニング

 京都九月。

 残暑厳しい京都は、どこか虚ろで不穏な空気が漂っていた。黄泉人追討軍は大和で苦戦している模様で、打開策を協議する声も騒がしい。


●これまでのあらすじ
「なりませぬぞ、若様っ! 大和へ行くなど、この冬弥の目の黒いうちは‥‥反対でございます!」
「五月蝿いわ! 何を言おうとわしの心は決まっておる。わしと姫の恋は永久不変、たとえ神仏であろうと邪魔だては無駄な事じゃ」
 検非違使の青年貴族、大平定惟は恋の病を患っていた。天女画に恋した定惟を家人は冒険者などを使って更正させようとしたが定惟は天女を探して大和まで行く始末。そして大和で鬼の姫と名乗る女性に逢った定惟は彼女こそ己の天女と想うようになる。
 冒険者の活躍で都へ連れ戻された定惟だったが‥。


●宮中の噂
「都に人斬りが現れるとは‥‥新撰組や見回組は何をしておるやら」
「大和討伐も思う様に進まぬのに、丹波の内乱じゃ。まこと武家は政より己の戦しか頭に無い」
「今上も都と民の平安を憂いておられる」
「我らも考える時かもしれませぬな‥‥」
 今日も貴族達は噂話に華を咲かせていた。噂だけなら世は全て事も無しだが、様々な策謀が裏では蠢いている。

●定惟の依頼
「頼みがある」
 半ば幽閉されていた大平定惟が屋敷を抜け出して、冒険者ギルドに現れた。
「私を、大和で私を待つ姫のもとへ連れて行ってくれ」
「しかし‥‥」
 ギルドの手代は逡巡した。
 これまで大平家から依頼を受けていたギルドにとっては正反対の仕事だ。信義として受け難い。
「断ると言われるなら定惟、この場で腹を斬り、魂魄となって姫の元へ参ろう」
「し、暫くお待ち下さい」
 鬼気迫る定惟に手代が戸惑っていると、大平家の家臣達が定惟を連れ戻しにやってきた。
「この金で、冒険者を雇うのだ。‥‥頼むぞ」
 定惟は手代に小判が詰まった袋を押し付けると、家臣達に取り押さえられて帰っていく。
「弱りましたねぇ‥‥」
 手代は困った顔で金袋を見つめた。
 取りあえず、冒険者に話だけはしてみるか。

●鬼姫
「定惟様と一緒にいた女性ですが、本当に鬼女なのでしょうか?」
 冒険者の一人が手代に尋ねた。
「本人がそう云っていたのであれば、恐らくは‥‥しかし」
 人間に近い姿をしている鬼族だが、人間と変わらない女の鬼となると一般的では無い。だが、比叡山の酒呑童子の片腕と言われる茨木童子は美しい女性の姿だと言うし、高位の鬼にはそのような種もあるようである。もし本物なら鬼の姫というのも本当かもしれない。
「係わり合いになりたくは無い存在ですが‥‥」
「まあ偽物という事もある。鬼か人間か判断できる物は無いのか?」
 魔法の品の中には鬼族に反応する物も無くは無い。変身している者の正体を看破する魔法もあるらしいが、確実に判別するとなると難しい。
 もっとも、鬼姫よりもまず問題は定惟である。
 さて、どうするか。

●今回の参加者

 ea1467 暮空 銅鑼衛門(65歳・♂・侍・パラ・ジャパン)
 ea4465 アウル・ファングオル(26歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7216 奇天烈斎 頃助(46歳・♂・志士・ジャイアント・ジャパン)
 ea9502 白翼寺 涼哉(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea9758 ミスティ・フェールディン(35歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb1528 山本 佳澄(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1645 将門 雅(34歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb2041 須美 幸穂(28歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●サポート参加者

駒沢 兵馬(ea5148)/ 哉生 孤丈(eb1067)/ 将門 司(eb3393

●リプレイ本文

 残暑厳しい9月半ば。
「ほひ〜、忙しくなったでござるな〜」
 冒険者ギルドに顔を出したパラ侍、暮空銅鑼衛門(ea1467)。天晴れ扇子をパッと広げてパタパタあおぐ。目当ての人物はすぐ見つかった。
「今までは、笑い話で済む話でござる。しかし、いまや相手は鬼と自称する存在。その本性が何であれ‥‥余人には見せられぬ依頼になったでござるな」
「珍しく、気を回していらっしゃいますな」
 机に顔を伏せて算盤を弾いていた手代は真剣な表情のパラに、涼しい顔を向けた。暮空はずいっと顔を近づける。
「果たして、このままにしておいて良いものか、思案してるでござるよ。良い知恵を聞かせて下さらぬか?」
「我輩からもお願いする也」
 銅鑼衛門に同行したジャイアントの志士、奇天烈斎頃助(ea7216)が頭を下げる。
 大平家の表に関するなら依頼に参加した彼らの方が手代より詳しい。しかし、貴族には表もあれば裏もある。その点、陰陽寮の出先機関とも揶揄される京都冒険者ギルドは事情通だ。
「話は分かりましたが、目的を伺っても宜しゅうございますか?」
 当然ながら、依頼された事以外に冒険者が気を回すのは余計なお節介だ。それに大平定惟に関しては、それまでが大平家を通した依頼だったから、定惟がそれに反した依頼を持ち込むのは話を拗れさせる。
「畿内の混乱、未だ治まる気配も無しだが‥‥この状況で、人と鬼が仲良く暮らせるものでござろうか」
「それが皆さんの総意ですか?」
 問われて、暮空と奇天烈斎は顔を見合わせた。
「そう取って貰っても、不都合は無い也」
 今回動いた冒険者が8人。
 それぞれの思いには違いはあるものの、大平が本気なら協力するという所で一致していた。
「外国では鬼の子供を処刑から救うために冒険者たちが助命嘆願をしたそうでござる。しかし、迫害は厳しいでござる。大平殿も、想い人と添い遂げようとすれば、全てを投げ出すだけですまないと思うでござる。それ以上に、社会の迫害をはねのけ、抵抗しなければならぬでござろう」
 そう語る暮空は苦しそうだ。彼自身、パラとして侍として苦労もあるのかもしれぬ。
「‥‥なるほど」
 手代は暮空の話を流した。ギルドには様々な国籍の者が居る。異なる身分制度に属する者が同居しているのだから喧嘩、流血沙汰も珍しくは無い。処世術として政治宗教、身分立場の話は避けるのが無難だ。
「定惟様のご病気の事は、大平家に近しい者の間では公然の秘密と言って良いでしょう。此度の鬼の姫との一件は大平家がひた隠しにしておりますから、幸いまだ外には漏れていない様子ですが」
 大平家では定惟を半年、一年でも閉じ込めて翻意を促すつもりかもしれなかった。
「あの家は阿波に縁者がおります。京都に居ては幾ら閉じ込めても噂は立ちます、いよいよとなれば定惟様を船に乗せる事も」
「まるで流刑でござるな」
 家名を守る為なら、大平家の人々は何でもやりそうだ。暮空達も大平定惟の人物を知っているから、家人の心配は理解出来なくも無い。
「定惟が駆け落ちしたりしたら、どうなる也か?」
「大平家に恨まれますよ」
 父母の悲しみは言うに及ばず、当主が鬼に血迷ったと世間に知れれば大平家の没落もある。
「そこを何とかする也よ。定惟は居なかったと思って、誰か他の者に家を継がせる也」
「簡単に仰いますなあ。そうそう上手く事が運ぶとは‥」
 定惟を一族から追放して、大平家は別の者に継承させる。
 揉め事の規模を大きくするだけの危険が多々あるが、あくまで定惟の立場を取るなら、強引な手法以外に無いのも事実。
「時には大胆に行動するでござるよ」


「本当に大丈夫でしょうか?」
 女志士の山本佳澄(eb1528)は不安を口にした。もう何度も同じ事を聞いた。
「大丈夫かは分からんがね。俺がやらなきゃ誰がやるって心境だからなぁ」
 白翼寺涼哉(ea9502)はお手上げとばかり腕を伸ばす。佳澄は不安なのか、溜息をこぼした。彼女は悩んだ末に仲間達を手伝うと決めた。しかし、躊躇はある。下手をすれば彼女らは犯罪人だ。
「覚悟を決めましょう‥‥」
 同じく随行する神聖騎士のミスティ・フェールディン(ea9758)からは諦観が見て取れた。他の仲間達は既に先発隊として京を発った。賽は投げられている。
「診察に参りました」
 涼哉は名の通った医師である。定惟の主治医でもある。彼自身も言っているが、他にこの変愛の病に立ち向かおうとする奇特な医者はいなかった。
「これは白翼寺殿、わざわざ忝い」
 島野冬弥は涼哉達を中へ通した。家人の中には定惟の症状が悪化したのは得体の知れない冒険者との付き合いのせいと思っている者もいたが、島野は大和から定惟を無事に連れ戻した冒険者達を信用していた。
「島野殿、それで定惟殿はどちらに?」
「貴殿らに隠し立てしても仕方が無いな。今、若様は此方でござる」
 定惟は離れの家人が使用していた一室に閉じ込められていた。家人には緘口令が敷かれているが、外から出入りする人々の耳目を気にしての事だ。
「心の治療にて、警護の皆様には席を外して頂きたい」
 涼哉は部屋を見張っている武士達を会話が聞かれない程度に遠ざけた。残る島野をどうするかの問題があったが、別の冒険者がやってきたというので彼は席を外した。
「しかし、とうとう監禁されましたか‥‥。当然と云えば当然ですが‥‥」
「私を笑うか? 良い、聞き飽きた。それより早く姫のもとへ向おうぞ」
 部屋を出ようとする定惟を涼哉が止める。確かめるべき事がある。
「大平殿と姫様とは生きる時間が異なります。先立たれる苦しみを味わう事になるでしょう。それでも、姫を幸せにする覚悟があるなら私は止めません」
「時の長短など想いの深遠と比すれば詮無き事じゃ。そのような事で姫の幸せをどうして量る事が出来よう。定惟が幸福は姫無しでは有り得ぬと言うのに」
 言い切る定惟に涼哉は苛立つ。本来なら止めるべきかもしれないが、呼吸を整えて言った。
「定惟殿、医師として申し上げます。余命は半年です。今の体では検非違使職を続ける事が出来ません。限られた人生を悔いなく生きて下さい」

 白翼寺が定惟に余命を宣告していた頃、島野は屋敷にやってきた陰陽師の須美幸穂(eb2041)の相手をしていた。
「島野様は大平様をどうなさるおつもりなのです?」
 単刀直入に聞いた。
「どうとは? 若様には大平家の当主として立派にご成長なされた。某がどうこうするなど畏れ多い事だ」
「大和へ向わせぬようにと監禁しておいでではありませんか?」
「一時の気の迷いでござるよ。若いうちは誰にもあること、それを諌めるのも家臣の務めと存ずる」
 これだけの騒ぎだから、大平家内部には定惟を放逐して別の誰かを当主にという動きも無くは無い筈だが、島野は定惟擁護派にあるようだった。一年が五年でも島野は定惟の「病気回復」に献身し、然るべき姫を迎えて大平家の跡継ぎをと想っているのか。
「時に島野様。定惟様は件の鬼を天女と思っているのでしょうか?」
「‥‥さて。若様のお心までは分かりませぬが」
 思い返して見ると、定惟は鬼姫を「姫」としか呼ばない。冒険者達は実際に会っているが、洞窟の薄暗さもあってハッキリと見たとは言えないが、天女絵と瓜二つとは言えない気がする。
「皆様の努力が実って、大平様は実際の女性を愛せるようになったのでしょうか‥‥?」
「いやしかし、それが鬼姫では‥‥難しゅうござる」
 話の途中、深刻な顔で涼哉が入ってきた。
「何かございましたか?」
「大平殿は、心労が原因で重篤な病を患ってらっしゃいます」

「バカップルの片割れを連想しろ」
 大平邸を訪れる前、白翼寺は哉生孤丈に演技指導を行った。いざという時は狐丈を定惟の替え玉にする為だが、孤丈は最後までは付き合えないというので屋敷で騒ぎが起きた時だけ頼む事にした。
 騒ぎとは、言わずとしれた事で定惟誘拐である。
 定惟自身の望みだから正確には違うのだが、大平家からすれば誘拐だろう。
「大平殿は、心労が原因で重篤な病を患ってらっしゃいます。私の見立てですが、大平殿の余命は‥‥後半年、長くて3年という所でしょうか? 検非違使職の負担が余程大きかったのでしょう」
「なんと‥‥!?」
 絶句する島野に、追い撃ちをかけるように辺りが騒がしくなった。家人の一人が慌しく入ってきた。
「騒騒しいが、何事か?」
「は、それが‥‥その‥‥」
 若い家人は同席する冒険者に躊躇した。
「若様に何か起こった様子。暫し失礼致します」
 島野は察して部屋を出た。
「島野殿、使庁への診断書は私が責任をもって書きますから」

「急ぎましょう‥‥。追手が集れば、京を出るのも難しくなります‥‥」
「本当に、こんな事をして大丈夫なのですか?」
 ミスティと佳澄の二人は、白翼寺が島野を引き付けている間に定惟を監禁部屋から脱出させた。警護の武士達を押し退けて、屋敷を脱出する。
「世話になった。定惟、この恩は生涯忘れぬぞ」
「まだです‥‥。大和には私達の仲間が‥‥あなたを彼女の元へ連れていきます‥‥」
 将門雅(eb1645)とアウル・ファングオル(ea4465)の二名が先行して鬼姫の居た洞窟に向っていた。
 二人に時間を与えるためだ。
 悪くすればこの話は堂々巡りになる。現実的には、もう彼女達が大平家の依頼を受ける事は叶わないだろうが、別の者が定惟捕縛に駆り出される展開は十分に在ることだ。
「あなたは、生涯、彼女を守ると神に誓うことができますか‥‥」
「申すまでも無い」


 将門雅とアウル・ファングオルは馬や魔法の靴の力を借りて、大和の洞窟へ急行した。
 二人が着くと、洞窟の前には不釣合いな豪華な牛車がとまっていた。
「虎穴に入らずんば虎子を得ずやな」
 車の周りに人が居るのに気付いて雅が出て行こうとする。
「では俺はここで待機ですね」
 アウルは隠れたまま。
「‥‥うちだけで行かせる気かい」
「大丈夫。何かあったらすぐ駆けつけますから‥‥万一の時も一人は生き残りますし」
 サラッと酷い事を言うアウル。
「なんやて?」
「気に障ったらすみません。ジャパン語は難しいですね」
 一抹の不安はあったが、用心は必要か。雅は一人で牛車の周りの人々に近づいた。
「あのー、この車はどなた様のものでしょうか?」
「良姫様の御車です」
「どこの良姫様やろか?」
「鬼国の良姫様です」
「‥‥」
 淡々とした受け答えに、雅は調子が狂った。
 その様子を不審に思われたのか今度は逆に質問される。
「お前は何者か?」
「申し遅れました。うちは京で商いをしてる将門雅や。良姫様がうちの知ってる御方やったら、取り次いで貰いたいのやけど‥‥先日洞窟へお邪魔した者やと言えば分かりますやろか?」
 果たして、良姫は先月出会った鬼姫だった。

「今日訪問したのはうちらが連れ帰った大平はんがあなたを向かえに来るということで、うちが先にその事を伝えにきました」
 雅が話すのを、扇子で顔の半分を隠した鬼姫は無言で聞いている。
「詳しい内容は本人から聞いてもらえればと思うんやけど‥‥迷惑やろか?」
「‥‥困惑しています。何故なのでしょう‥‥住む世界が違うと申し上げたのに」
 その言葉に雅が反応する。危険だが直接聞いた。
「失礼かも知れへんけど、あなたは何者なんですか? 鬼の姫やとか言われとるけど、うちはあなたが悪い人やとは思えへん」
「不思議な事を申される人ですね。私は鬼国の王の娘です」
 鬼国とはどこかと聞くと、詳しい場所を言うのは憚れるが西方であるという。鬼姫は神仏に誓願する事があり、この洞窟で行をおこなっていたがこれから国に戻る所だとか。
「そらアカン! せめてもう一日、待ってくれへんか? 大平はんがここに来て、あなたが居らんかったら‥‥絶望して死ぬやろ」
 何の為に努力したか分からない。空しすぎる結末だ。
「‥‥分かりました」
 鬼姫はお供の人々に一日帰りが延びた事を伝えた。供の者達は予定変更に良い顔をしなかったが、姫の言葉には諾々と従う。
「何とか話が付いたみたいですね」
 安全を確認してアウルが姿を見せた。帯刀したままの彼に再び供の人々は色めきだつが、保身の為と言って手放さない。
「まあ一言言いたいだけですから、目を瞑って下さい」
 鬼姫に向き直り、アウルは言った。
「太平さんは、何と言うか子どもみたいな方ですが‥‥どうやら本気で貴女の事を好いているのは間違いないようです」
 彼自身は全てを失う覚悟をしているらしいので、出来るなら相手してやって欲しいと頼む。
「勿論、貴女には貴女の事情があるでしょう。迷惑なら迷惑とズバッと斬ってしまって構いませんので。遠慮なんて全く不要ですよ」
 歯に衣着せぬ発言をすると、アウルは仲間達を迎えに行くといって立ち去った。大平は良い知り合いを持ったと言うべきか。

「我が姫! 定惟が参りましたぞ!」
 半日ほどして、冒険者を伴った定惟がやってきた。
 国に帰らなくてはならないという姫に、定惟は自分もついて行くと言う。
「こうして姫に再びお会い出来たのに、再び引き裂かれるなど考えられませぬ。どうしてもと仰るなら定惟はこの場で自刃し、魂となって姫を追いかけましょう」
 雲行きの怪しさに冒険者達は戸惑った。
「どうですか、一度京都に行ってみませんか‥‥。ちょっと変装すれば、誰もあなただとは気づかないと思いますが‥‥」
 ミスティが鬼姫に京都行きを勧めたが、姫は悲しそうに頭をふった。
「‥‥」
 幸穂は術を仕掛ける機会をうかがったが、定惟や鬼姫の供の者達の視線があって諦めた。日向の場所で観察した鬼姫は天女絵とそれほど似ているとは思えず、大平の成長と自分を納得させる。

 そして定惟は鬼姫と共に鬼国へと向った。
「これで終りでしょうか‥‥」
「そやな。結局、駆け落ちて事になってしまった訳やが‥‥」
 雅は後が大変そうだと言葉を濁した。ひとまずは一件落着と思って良い筈だが、そうは言い切れないのは大平の行く末を思うからか。
「私はもっと普通の人に愛されたいです‥‥」


‥‥つづく