はーとぶれいく・七 鬼の姫と家宰

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:4

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:10月16日〜10月23日

リプレイ公開日:2005年10月26日

●オープニング

 京都十月。

 紅葉の秋、関東に諸侯が集いし騒動がひとまず終息し、人々は安堵の息を漏らした。
 三界に平安無しといえど、祈らずにはいられない。
 ただ何事も無い無事を祈る。

●宮中の噂
「お聞きになったか? 江戸で神剣が発見されたと‥‥」
「浅ましき武士どもの騒擾に、主上が乗せられましたな」
「今上はまだお若い。軽々しいお振る舞いは神皇家のお為になりませぬ‥‥」
「困りましたな‥」
 大和の惨状、各地の反乱、神剣騒動‥‥平安は乱れるままに、それが時勢というが如くに。

●誘拐犯
 自宅の離れに幽閉されていた大平定惟の依頼で、彼を鬼姫と駆け落ちされた冒険者達。
 大平家は上へ下への大騒ぎ、冒険者ギルドにも激しい抗議をした。
「はて? 何の事でしょう‥‥冒険者が定惟殿を? 失礼ですが何の事か分かりませんね」
 いつも依頼を受けていたギルドの手代は真顔で関与を否定した。
「ならば冒険者が勝手にやった事と言われるのか!」
「さあ? ともかく、ギルドの与り知らぬことです」
 これまで冒険者に仕事を依頼してきた大平家の家来、島野冬弥は腸が煮えくり返る思いだった。
 大平家は定惟の出奔を隠そうとしたが、噂は広がりつつある。
「分かりました。‥‥このままでは済ませはしませんぞ」
 島野は捨て台詞を残してギルドを去った。
「‥‥ふぅ」
 斬られそうな緊張から解放されて、手代は息をつく。
「困った事をしてくれましたなぁ」

●消息
「西に行ったなら‥‥四国?」
 鬼姫と一緒に行った定惟の行き先については様々な憶測が流れた。
「いや大和の黄泉人と関係があるような気がする」
「瀬戸内の島々に隠れ住んでいるというのは?」
「西なら九州、いやいっそのこと話に聞く琉球とかな」
 冒険者は無責任な噂話を酒の肴にした。
 二度と定惟とは会う事も無いだろうと、そう思っていた。

●今回の参加者

 ea0629 天城 烈閃(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1467 暮空 銅鑼衛門(65歳・♂・侍・パラ・ジャパン)
 ea1661 ゼルス・ウィンディ(24歳・♂・志士・エルフ・フランク王国)
 ea4465 アウル・ファングオル(26歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7216 奇天烈斎 頃助(46歳・♂・志士・ジャイアント・ジャパン)
 ea9502 白翼寺 涼哉(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea9758 ミスティ・フェールディン(35歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb1645 将門 雅(34歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

佐上 瑞紀(ea2001)/ 黒畑 丈治(eb0160)/ サントス・ティラナ(eb0764)/ デルスウ・コユコン(eb1758

●リプレイ本文

●それぞれの行動
「ふああ‥‥」
 京都郊外の田んぼの隅で、アウル・ファングオル(ea4465)は草むらに寝そべって空を見上げていた。
 少し前まで素振りの稽古をしていたが、疲れたら寝転んで小一時間はまどろんでいた。
(「俺は、家も何もほっぽり出して究極までやりたい様にやったんでは無いかと思える太平さんにこれ以上肩入れする気は無いですよ」)
 仲間達は依頼にもならない事で駆けずり回っているが、アウルはその気になれず、こうしてぼんやりと空を眺めていた。
「面倒なんだから‥‥拗れてくれるなよ。大いなる父よ、試練なんて面倒な事は俺には無くて良いんです。むしろ慈悲とか愛を‥‥ください」
 神聖騎士の少年は神罰が下りそうな発言を残して、再び寝息をたて始めた。

「鬼国?」
 冒険者ギルドの報告書に目を通した志士の天城烈閃(ea0629)は一つの単語に着目した。
「まさかとは思うが、熊野の内乱で堀内氏に反抗したという三鬼氏の‥‥」
 疑念を抑えられない烈閃は、武闘会の仕事で縁のある貴族の屋敷を訪れる。
「ほう、天城が来たと‥‥これからギルドに行かせようと思っておったに、地獄耳よな。良い、ここへ呼べ」
 烈閃が部屋へ通されると、都合よく白川と黒僧紫円が揃っていた。
「今、御坊とそちの話をしておった所じゃ。名の通り、光のような男よな」
 上機嫌で言う白川に、烈閃は一礼し、土産に酒を持参した事を告げると早速本題を切り出した。
「実は今日ここに来たのは、鬼について、白川殿と紫円殿に教えて貰いたい事があってのこと」
「鬼退治はそちの専門じゃろう。だが座興じゃ、申してみよ」

 白翼寺涼哉(ea9502)は、自宅で大平定惟の診断記録をまとめていた。島野に公言した以上、これは涼哉が責任をもってやらねばならぬ仕事だ。
「サントス、この処方で薬を作ってくれ」
「はいアルよ〜」
 涼哉はさらさらと診断書を書き終えると、大平家へ行く前に仲間の元へ向う。
「まず、私達に会って頂けるかどうか‥‥」
 涼哉が将門雅(eb1645)の家に着くと、ミスティ・フェールディン(ea9758)の声が聞こえた。先に来ていたミスティに挨拶して、雅に用意が出来たと伝える。
「当たって砕けるしかあらへん」
 雅は不安顔のミスティに微笑みかける。
「皆で一緒に行くのですか‥‥?」
「その方が面倒が無いだろう」
 声をかけた人間はもう少し居たがこの三人、雅、涼哉、ミスティで大平家に向う。
「そういえば、いつもの凸凹コンビが来てないな。ま、患者は少ないに越した事は無いんだがな」
 涼哉はこの場に居ないパラと巨人の事を考えたが、すぐに頭から消えた。

「以前お世話になった者ですが、島野殿は居られますか?」
 ゼルス・ウィンディ(ea1661)は何食わぬ顔で大平邸を訪問した。対応に出てきた大平家の小者は冷たい目でゼルスを一瞥し、吐き捨てるように言った。
「‥‥帰れ」
「いきなり帰れとは不可解な‥‥私は島野殿に会いに来たのです。怪しい者ではありません」
「怪しくないだと。うぬは冒険者だろう。痛い目を見ぬうちにとっとと出て行くが良い」
 敵意剥き出しの小者の態度にゼルスはカチンと来たが、困惑した表情で抗弁する。
「何があったかは存じませんが、私は夏前にこちらの仕事を一度請けた者です。怪しい者ではありません。その後ノルマンに行っていて一度きりの縁でしたが、風の噂にあの方がお家を捨ててしまったと聞きまして心配で駆けつけたのです」
「くどいぞ、よーし懲らしめてやるっ!」
 小者はパッと下がって門の脇に立てかけてあった棍棒を手に取ると、棒をゼルスに突き出した。
「こいつで打ち据えてやろう」
「あっ」
 小者がゼルスに飛び掛かった。

●冬弥
「前の時から、かれこれ四ヶ月になりますか‥‥。思ったよりノルマンでの行動が長引いてしまいました。それにしても、私の知らない間に随分と色々あったようで‥‥」
 腕を押さえたゼルスは、雅・涼哉・ミスティの三人と同じ部屋で島野冬弥と話している。ゼルスが小者に殴られている場面に雅達が出くわして、ミスティが小者を取り押さえ、屋敷からも更に人が出てきて、騒動を収める為に四人は中に入れられた。棍棒で殴られたゼルスは骨が折れていたが、涼哉が魔法で治療した。
「それは災難でしたな。しかし、今の当家の事情を知っていれば左様な危険な振る舞いもされなかったでしょう」
 島野の言葉には冒険者達を咎める語調が含まれていた。
「まるで、私達が悪いと言いたいようですね‥‥」
 ミスティが言う。
「貴殿は異教の神に仕える武士と聞き及ぶが、他家の主人を誘拐する貴殿の神は盗人でござるかな」
 普通なら聞き逃せない台詞だが、ミスティは我慢した。この場で狂化は論外だったし、島野には同情する所もある。何でも刺し殺せばいい訳が無い。
 雅はミスティの自制心に心中で安堵の息をついた。
「うちは噂で大平はんの事を聞きまして、何や西へ駆け落ちされたとか。島野はんが心配するのも分かるんやけで、大平の意思は固いようやし困ったもんやなぁ」
 島野の反応を見るが、彼の目は冷たい。島野は定惟誘拐には、いつも仕事を任せていた冒険者の大半が関わったと見ている。
「‥‥お前達、目的はなんだ?」
 押し殺した声で尋ねる島野に、平静を装って涼哉が答えた。
「大平殿は、自分の意思で生きる事を望まれたのでしょう。私は『告知』はしましたが、大平殿に負担を掛けるような治療は行ってません。目的と言われても、返す言葉が無い」
 自分達は大平の意思を尊重したのみと、そう言ったように聞こえた。

「せやけどな、うちらは大平はんのこと心配しとるんや。駆け落ちした言うてもあの性格やろ? 島野はんの想いも分かるし、ついでがあるよって大平はんを探して文を届けてもええなくらいに思っててな‥‥」
 雅は色々と島野に提案した。
 冒険者達が危険を冒して大平邸に乗り込んだのは、島野説得の為だ。彼と和解して大平捜索の依頼を出させる心積もりだったのである。
 大平家にすれば自分達で定惟を逃しておいて、何を虫のいい事をと思う所だが、冒険者の心情はそのような葛藤とは無縁である。己の思うままに行動する。因果、結果に拘泥しない。この点、定惟に通ずるものがあると言えば、アウル辺りは悶絶する所か。
「島野殿、大平殿がどこに行ったか知りたくはありませんか‥‥」
「何?」
 ミスティが島野の気を引く。
「大平殿は鬼の国へ、向かっていきました‥‥しかし、彼は家でなく愛する者を選んだのですから、もし、無理やり連れ戻しても余計に家名を傷つけるだけだと思います‥‥それでも連れ戻すつもりですか?」
「今の若様は間違っておられる。主人が道を誤れば、命にかけてもお諌めして正道に戻すのが家臣の務めにござる」
 島野の言には一分のブレも無い。過保護と思わなくても無いが。
「鬼の国の姫‥‥もしかしたら」
 話を聞いていたゼルスは何かに気付いたようだった。
「何かご存知か?」
「ええ、少し調べてみなくては分かりませんが‥‥」


 せめて大事な人が幸せであるように。
「‥‥格好の良い事を言っても、メタメタに弱いのは溜息が出ます」
 アウルはまだ寝そべっていた。夕暮れになれば、すっかり秋めいた寒風が肌を刺す。
「理不尽な争いごとなど一掃できるほどの力が俺にあれば‥‥でも下手をすればこの身も守れないですよね」
 わずかに欠けた秋の名月を見上げ、少年は寒さに上体を起した。
「というか色んな事に首突っ込んで無いで無視すればいいんです。ローマに居た頃は‥‥」
 叫び出しそうになり、アウルは地面に倒れこんだ。
「大平さんが羨ましいです‥‥あんな風になりたかったとは想いませんし、ならなくて良かったんですけど‥‥」
 悩める神聖騎士は草原に不貞寝して、風邪をひいた。

●鬼の国
「鬼の姓と申せば熊野の九鬼、五鬼、三鬼らであろうな」
 白川は烈閃の問いに答えて話した。日々を肉体の鍛錬に明け暮れる烈閃はこうした政治向きの事には弱い。
「海賊‥‥いや古くから海を縄張りとする者達よ」
 鬼に関係があるのかと聞くと、首を振った。鬼族が跳梁跋扈するジャパンにおいて鬼姓を持つ者は少なくない。熊野の例は単に他より少し知られているからに過ぎない。
「神皇家が日ノ本を統一する前までは、鬼が支配した国も少なくなかったと聞く。‥‥いや、鬼の国は現存しておるな」
 白川は楽しげに言った。京の近くでは比叡山の鉄の御所があり、また近江の豚鬼王殲も王国と呼べる領土を持っている。神皇家のお膝元からしてそうなのだから、六十余州に鬼国が幾つあるか分からない。
「大和も未だ不穏であるのに、今度は鬼国討伐か? 面白い、御坊もそう思うであろう?」
「まことに。天城殿は勇者の気魂を持っておられる」
 紫円もそう言うと、白川は膝を叩いた。
「それでは御坊が力を貸してやるが良い」
「ふむ、拙僧に出来ることがありますかどうか‥‥しかし、試練に挑む勇者に道を示すのも仏僧の役割なれば微力を尽くしましょう」


つづく