はーとぶれいく・八 家宰と試練

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:5〜9lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 29 C

参加人数:10人

サポート参加人数:5人

冒険期間:11月30日〜12月08日

リプレイ公開日:2005年12月12日

●オープニング

 京都十一月。

 無常の殺鬼は時も場所も貴賎老少も関係なく突然に訪れる。
 だから、一度きりの人生を大事に使えと人は言う。
 たまには羽目を外すこともある。

●鬼の試練
「ここか‥‥」
 中年の僧侶が一人、京都冒険者ギルドの暖簾をくぐった。
 黒の僧侶で名を紫円と言う。
「大平家の仕事を扱っていた手代を呼んでくれるか」
 この日、紫円は懇意にしている貴族の頼みで、ギルドを訪れた。
 手代は紫円の事を幾つかの報告書で知っていた。冒険者にちょっかいを出すのだから、並の坊主では無いのだろう。いや近頃は坊主といえば冒険者とどっこいである。
「大平定惟に良く似た男を大和の山中で見たという御仁がおってな。ギルドの冒険者が大平殿を探していると聞き及び、知らせに参ったのじゃ」
「それはわざわざご丁寧に‥‥」
 手代は心中で舌打ちした。大平定惟関係の依頼は碌な事になっていない。出来れば係わり合いになりたくなかった。このまま風化させてしまいたい。
「吉野の山中で、近頃鬼が出没して地元の民が困っておるという話じゃ。かの地では今も黄泉人が生き残っておるというし、ここは冒険者の出番であろう」
 紫円は楽しげに語る。こっちは胃が痛いというのに。毎回死と隣り合わせの依頼を冒険者に斡旋するのがこの手代の仕事である。多少慣れてはいても、心が痛まぬ訳ではない。
「吉野の南の方でございますな。しかし、貴方は良くこんな情報を」
「寺で経文を読むばかりでは僧ではない。修行で各地を渡り歩いておるゆえ、多少は諸国に知り合いがある」

「それがしが修行で吉野のお山に入った折のことじゃ、美しい女と貴族の夫が山道を連れ添って歩いていた。かような所に面妖な、さては大和を騒がす亡者の変化と思い、修行のついでに彷徨う魂を調伏してくれんと錫を握って近づいた」
 紫円が一人の山伏を連れてきた。まだ若い二十台の山伏は定惟に会った時の事を手代に話して聞かせる。
「先に女が振り向き、男もそれがしに気づいて腰の刀を抜いた。その時に声高に名乗ったのが、大平定惟という名。危うく反対に殺されかけたが、誤解と分かって別れたのだが」
 山伏は京に戻り、紫円にあって大和の話をすると大平定惟は京では少しだけ知られた名前だという。死病に憑かれて検非違使の役目を放りだし、女と駆け落ちした青年貴族で、冒険者達が行方を探していると。
「何たる奇縁と思い、それがしが知る事をお話した次第」
 山伏は話し終えると満足そうにギルドを出て行く。これからまた旅に出るという。手代は残った黒僧を睨み付けた。
「ギルドは別に定惟様を探してはおりませんよ」
「はて? 大平家とは関係が悪化したままであろう。ここらで点数を稼いだらどうじゃ。それにな、わしもただの駆け落ち者なら関わる気は起さぬ。先刻も申したが、山伏が二人を見たというあたりに、鬼が出る」
 鬼と言えば、定惟と駆け落ちした相手は鬼姫という話である。しかし、この事はまだ世間にはあまり知られていない話だ。
「それは、どんな鬼ですか?」
「大きな鬼で、人喰いと聞く。鬼祓いのついでに人探し、悪い話ではあるまい?」
 手代は息を吐いた。これを受ければ、また何か話がややこしくなる、そんな予感があった。

●今回の参加者

 ea0629 天城 烈閃(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1661 ゼルス・ウィンディ(24歳・♂・志士・エルフ・フランク王国)
 ea4465 アウル・ファングオル(26歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7216 奇天烈斎 頃助(46歳・♂・志士・ジャイアント・ジャパン)
 ea9502 白翼寺 涼哉(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea9758 ミスティ・フェールディン(35歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb1645 将門 雅(34歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb1822 黒畑 緑太郎(40歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2041 須美 幸穂(28歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2704 乃木坂 雷電(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

暮空 銅鑼衛門(ea1467)/ 天道 狛(ea6877)/ 哉生 孤丈(eb1067)/ ラシェル・ラファエラ(eb2482)/ ケント・ローレル(eb3501

●リプレイ本文

 早起きした天道狛が己と仲間達の為に作った弁当を白翼寺涼哉(ea9502)は受け取る。
「ありがとう。イイ奥さんに‥‥これからしてやる」
 そう云って妻を抱擁し、涼哉は下僕どもに見送られて京を発った。
「何様やねん」
 万屋『将門屋』の店主将門雅(eb1645)はその様子を呆れ顔で見ていた。
「まあ旅の間は局長はんの命はうちが護らせて貰うで、よろしう」
 医者で僧侶の涼哉を守るのは自らの務めと、商人で忍者の雅は思っていた。
「みんな揃ってるのか?」
「一人、先に行ったみたいやね。9人や」
 今回の旅は鬼退治と大平定惟捜索の二つの側面を持つ。
 定惟の方はややこしいので、とりあえず鬼退治に焦点を合わせる。この9人はそれが出来る手錬れだ。中でもウィザードのゼルス・ウィンディ(ea1661)は、異国の魔法使いでありながら新撰組一番隊にも名を連ねた実力者だ。尤も、いきなり殲滅戦ではなく、ひとまずは現地の状況を見極める事で皆の意見は一致していた。

 冒険者は山伏に聞いた道を通って京から大和を通り抜け、吉野へ向った。
 その道中。
「悲しい事に、普通に人食い鬼王国の姫の客人に落ち着いていてもあんまり違和感が無い方ですよね」
 軍馬の上で揺られる神聖騎士のアウル・ファングオル(ea4465)はまったく仕方が無いなぁと溜息をつく。
「アウル殿は、本当に人喰い鬼の村があると考えている也か?」
 騎士の横を歩くジャイアントの奇天烈斎頃助(ea7216)が口を開いた。
「可能性はあります。人喰いと聞いたら立場上放置も出来ないですし」
「ふふ、鬼退治也か‥。道楽貴族と生臭坊主の掌で踊らされるのはあちらだけでは無い也ね」
 頃助はこのおかしな廻りあわせをともかく楽しもうと思っていた。順応しようと。
「それでホントにいいのか? 紫円とかいう奴が何を考えているのか見当もつかないんだろう」
 志士の乃木坂雷電(eb2704)が異論を挟む。雷電は集合場所となった羅城門で紫円の姿を探したが、黒の僧侶は現れなかった。
「確かに最初から疑ってかかっては進展も無いが‥‥考えておかねばならぬこともある」
「それも一興、これも一興でいい也。ふふ、踊りきってやろう也」
 頃助は不安を笑い飛ばした。
「不謹慎ではありませんか‥‥?」
 アウルと同じ神聖騎士のミスティ・フェールディン(ea9758)は頃助を詰問する顔である。
「大平殿の事も心配ですが‥‥人食い鬼による被害が出ていないかが心配です‥‥。私達の任務は責任重大なのです‥‥」
「そうそう、定惟は異種族であれ、実在の女性を対象にしたのだから、以前よりましだな。放ってもおけない人だが、放っておきたい気もする」
 陰陽師の黒畑緑太郎(eb1822)が言う。
「貴方は魔法を使いたいだけでしょう‥」
 緑太郎はパッと見はまともそうなのだが、実は攻撃魔法を思う存分に使う為に冒険者になった事は仲間達の間では割と知られていた。
「おたくらも同じ穴の狢だろうに。実践なくして陰陽を極めることが出来ようか」
「ご立派ですのね」
 須美幸穂(eb2041)は適当に相槌を打つ。幸穂は出発前の僅かな間にラシェル・ラファエラの手伝いで大平邸に行っていた。島野冬弥は定惟を連れ戻せば一命に代えても復職させると言った。
「問題は山積みですけれど、願わくばそれぞれが元の鞘に」
「それが出来れば、ね」
 高望みは禁物だが、せめて前へと冒険者達は歩いた。

「すまないが、力を借りたい」
 一方、同じ依頼を受けた仲間達と分かれて単独行動に出た天城烈閃(ea0629)は、僧侶紫円に同行と案内を頼み込んでいた。山道には慣れた烈閃だが、それでも一人では不安がある。その点、旅なれた年長の僧侶が一緒なら何かと都合が良かった。
「どこへ行こうと言うのじゃな?」
「定惟達の足取りを確かめたい。‥‥それに帰り道で寄りたい所があるのだが」
 烈閃の表情は僅かに強張った。紫円は突き放したが、それでも行くと言うと僧侶は笑った。
「わしはそこまで面倒は見切れぬが、好きにするが良かろう」


●吉野の鬼退治
 紫円と二人連れになり、道中で聞き込みをしながら吉野を目指した烈閃は仲間達より約二日遅れた。
「‥‥弱ったな」
 吉野と言っても広い。
 先行している筈の仲間達との合流も容易ではなかった。その頃、彼が想像した通り、先着した9人は人喰い鬼の噂を聞きつけてとある山村まで来ていた。
「鬼は群れで村を占拠しているとか‥‥既に被害が出ている以上、ここは戦って倒すべきです」
「是非も無い‥‥」
 ゼルスとミスティは攻撃を主張した。
「数も実力も未知数也。今回は偵察と戦術の工夫に専念すべき也よ」
「俺もそれが良いと思いますね」
 頃助とアウルが反対したが、調査して京へ戻り、それから討伐隊を編成したのでは一月近くはかかる。
「姫と大平はんらしい人を見たっちゅー目撃情報もあったけど、行き先は分からへんかった。鬼退治が先やろか」
 将門が言う。冒険者達の意見は分かれたが僅差で攻撃に決まった。烈閃を待つ意見も出たが、いつ来るか分からない事から、この戦力で攻める事になる。

 特に作戦らしいものは無かった。仲間達は武器を構え、辺りを警戒しながら一団になって山村に侵入する。村の中は静かだった。前日に降った雪を踏みしめて村へ入った冒険者達は、村の入口付近で死骸を発見した。
「斬られてる。‥‥殺されてから二、三日経ってるな」
 物陰に横たわる死体を視た涼哉は、首筋に牙の痕を見つけた。人喰い鬼だろうか、しかし人を食う鬼や肉食獣にやられたのなら亡骸がまともな人の形で残っているのはおかしい。
「白翼寺はんっ」
 短刀を構えた雅が涼哉に注意を促す。村の奥から、元凶が姿を見せた。
 頭からは二本の角を生やし、褐色の肌をした大柄な鬼は冒険者達に気付くと得物の大薙刀を構えて威圧した。鬼は何か言ったが、この場に鬼語の分かる者はいない。仲良く会話という雰囲気でも無かった。
 二本角の鬼は一番近くにいた雷電に向って走った。雷電が迎え撃つ前に、ゼルスが高速詠唱のトルネードを放つ。竜巻で鬼の体が宙を舞う。
「とおっ!」
 地面に叩き付けられた鬼めがけて、雷電が両手で握った日本刀を叩き込む。だが鬼は大薙刀で雷電の刀を弾き、返す刀で反対に雷電に切りかかった。雷電が倒れるのを見て、仲間達に緊張が走る。
「‥こ、この鬼手強いぞっ」
「単体でかかっては勝てません‥‥。皆で一斉に押し包むのです‥‥」
 十文字槍を構えるミスティは仲間に向って叫び、鬼の側面に回った。怪物や剣豪を相手にする時は一人一人で戦っては被害を広げる。逆に言えば、雑兵も集団であれば剣聖も逃げ出す他は無いのが兵法。雷電がやられたがまだ前衛にアウル・頃助・ミスティの三人、後衛にゼルス・涼哉・雅・幸穂・緑太郎と合わせて8人がいる。
 囲まれる前に思ったのか鬼はミスティに迫った。止めようとゼルスが風の刃を、緑太郎がムーンアローを飛ばした。雷電と前衛の戦士達が気になって二人とも範囲魔法は撃てない。
「お相手します‥‥」
 カウンターを狙うミスティに鬼は両手で握った大薙刀を振り下ろす。紙一重で急所を外すが深手を負ったミスティは必殺の槍を外す。
「我輩もいる也!」
 横から突進した頃助が短刀で鬼を斬る。一歩退いた鬼をアウルが追撃する。ミミクリーで腕を伸ばしたアウルは直刀で鬼の背中を斬りつけた。さしもの鬼も驚愕の表情を浮かべる。
『もうお前の負けです、降参しなさい』
 テレパシーを使った幸穂が鬼に語りかけた。
『おかしな術を使う人間め‥‥口惜しや』
 鬼は近くの小屋に入った。頃助とアウルが後を追いかけるか躊躇していると、小屋の反対側から鬼が飛び出して逃げている。
「‥‥逃げられたか。仕方ない、治療が先だ」
 涼哉の魔法で、負傷者の傷は回復した。鬼が村の外に逃げた事を確認した後、冒険者は村の捜索を続けると庄屋の家の倉の中に避難していた村人達と出会う。
「鬼は私達が追い払いました。もう安心ですよ」
 優しい声で涼哉が説明すると、村人達は大喜びし、冒険者達に深く礼を言った。涼哉は村人の傷も治療し、村人はその礼に彼に袈裟を贈った。
「所であの鬼は、何です?」
「村の近くの山に棲む人喰いです。時々、人を攫いにこの村に来ます」
 更に村の入口の死体の事を聞くと、それは別の魔物だという。近頃、大和の方から亡者がやってきたという。話を聞いてみると、どうやら黄泉人らしい。この村は黄泉人と鬼の被害を受けていたようだ。黄泉人の方は何処かへ移動した後のようだが。

「お主達、見事な活躍だったぞ」
 倉の中には村人以外に珍客がいた。いや本命というべきなのだが、大平定惟と良姫である。
「なんと、大平様のお知り合いだったのですか?」
「ええ、親しき友達です」
 驚く村人に、都でも名高い冒険者達であると説明する定惟。少々旅の汚れは目立つが、すこぶる元気そうである。
「こんな所で何してるんですか貴方は?」
「旅の途中で立ち寄った村が災禍に見舞われていたので、手助けをと思ったのだが‥‥手強い鬼であった」

「この近くにおたくの国があるのかな?」
 緑太郎が良姫に尋ねると、姫は悲しげに俯いた。
「それは‥‥」
「何か事情があるんやね。姫様、なんか身に付けているもの。小物とか安物でええんで売ってくれへん?」
 雅は人懐こい笑顔で良姫に提案する。
「そしたら、姫はうちの顧客になるさかい、うちは顧客の信用を商人として裏切れなくなるさかい」
「さすが商人、嘘が上手い」
 茶化す緑太郎に肘を入れて笑顔を向ける雅に、良姫はこんなもので良ければと小柄を見せた。
「ほー、よさそうな品やね。これなら五十文で買わして貰うわ」
 その後、冒険者達が聞いた所では以下のような話だ。
 良姫は鬼国に定惟を連れて行けば定惟が命を落とす事になるのは明らかだから、寄り道をしてその間に彼に諦めさせようと試みたらしい。人間、口で何と言おうと実際にとんでもない苦難に見舞われれば諦めるものである。しかし、定惟の決心は予想以上に堅く、彼女は困り果てていた。
 話を聞いた冒険者達は京に戻って対策を立てる事にして、大平と良姫にはこの村に暫く留まってくれるように頼んだ。大平は良姫に頼まれると、暫く滞在して村を守ると冒険者の前で誓った。

 帰路、ゼルスは仲間と別行動をして烈閃を待った。
「何でも今回の依頼とは関係なしに、個人的に手伝って欲しい事があるとかで。まあ、急ぎで向かえば寄れない場所でもないですし、確かに危険はありますが、新撰組の一員として、あの辺りの現状は一度この目で見ておきたいと思っていましたから」
 ゼルスと烈閃はそのあと無事に合流して大和のある場所へ向う。
 そこは一面の廃墟となっていた。
「‥‥烈閃、ここに何が?」
「悪いがもう少し付き合ってくれ。近くでここの事を知っている者を探して‥‥何か形見の品を持ち帰ってやりたい」
 喪われた時と命を思いながら、二人はその場所に半日ほど留まった。


つづく