妖怪荘・五 盗賊の宝

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:7〜13lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 80 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月07日〜09月12日

リプレイ公開日:2005年09月17日

●オープニング

 京の都は真ん中を南北に走る朱雀大路を中心に、大きく右京(西側)と左京(東側)に分けられる。
 都の外まで広がる左京の隆盛に比べ、右京は衰退が激しい。近頃では妖怪、魑魅魍魎の怪異に遭遇する事も珍しくない。
 その中に妖怪荘というものがあり。
 元は貴族の某の荘園の一部だったが、ある時に災いがあって管理が行き届かなくなると田畑がいつの間にやら庶民の家となり、次いで盗賊の巣と化した。それが何時頃からか妖怪の目撃談が多くなり、やがて妖怪荘と呼ばれるに至る。
 わずか一町、四十丈四方の間の魔窟である。

●穴
 草木も眠る丑三つ時、妖怪荘の壁の穴から何かが這い出した。
「‥‥」
 雲間からこぼれた月明かりに照らされたそれは狸である。
 狸は人目を忍ぶように左右に頭をふり、小路をさっと走って闇の中へ消えていった。
 それを見ていたのか、町の人々が最近狸や狐を良く見かけるものだと話をしていた。京の都は城砦都市ではなく、川もあれば林もあるから、禽獣の姿が珍しいという事も無い。
 ただ獣の姿が常より多いというなら、それは何か兆しであろうと法師が言う。
 折しも大和に向った亡者の追討軍は戦況はかばかしくなく、人々は親や子、連れ添いの無事の帰りを祈る思いで待っていた。
「最初の頃は良かったが、亡者の連中は飯も食わなければ眠りもしない。それを相手に侍衆は野山を駆け巡り、近頃は疲れ果てているそうな」
 状況打開の為に近々、大攻勢を行うという噂だ。


●依頼
 京都冒険者ギルド。
 手代は集めた冒険者達に依頼を説明している。
「妖怪荘で死人憑きが出た一件、お役人の方でも大層な話になったそうですな。一時は取り壊しに決まりかけたそうですが、今は大和の事で手一杯で、とてもとても回す人手が無いとかで‥‥結局、こちらに仕事が回ってくる訳です」
 京都の冒険者ギルドも江戸同様に、荒事用の便利屋として良いように使われつつある。
 評判が上がるのは結構な事だが、良い面ばかりではない。手代は一瞬、複雑な表情を見せた。
「とりあえず、早く妖怪荘の調査を終了させて、必要なら中に巣食う盗賊・妖怪退治を行うようにとのお話です」

●妖怪荘の住人
 水干姿の少年の話。
「参の門には鬼がおりまする。噂では元貴族の屋敷を砦の如くにして手下も大勢居ると聞きます」
 少年は鬼退治の侍を探していたという。

 光る坊主が聞いた蜻蛉の話。
「‥‥そう云えば、門の向うには宝物があるって以前に噂で聞いたことが‥‥何でも大泥棒の財宝だとか」
 妖怪荘に宝がある、という噂は前々からあったようだ。それが何であるか、何処にあるかは諸説あるが、皆眉唾ではっきりとしない。

●今回の参加者

 ea1151 御藤 美衣(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea1966 物部 義護(35歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2454 御堂 鼎(38歳・♀・武道家・人間・ジャパン)
 ea2614 八幡 伊佐治(35歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea5943 鬼子母神 豪(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8087 楠木 麻(23歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea8545 ウィルマ・ハートマン(31歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 ea8820 デュランダル・アウローラ(29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb0334 太 丹(30歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 eb1516 片桐 弥助(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

堀田 左之介(ea5973

●リプレイ本文

●壱から四
 冒険者達が妖怪荘を訪れてから数ヶ月が過ぎていた。
 季節も春の終わりから夏、そして秋へと移る。
 その間に、何が変わったろう?

「邪魔をするぞ」
 物部義護(ea1966)は赤泥の所へやってきた。
「‥‥」
 壱の門のあるじは相変らず狭い祠の中であり、身動ぎもしない。
「門の向うの黒装束どもは片付いたが、閻魔の姿は無かったな。まさか黒装束の中に居ったとも思えんし、真打ちは参の門に住むという鬼であろうか?」
 独白じみた話し方をするが、赤泥に聞かせるのが目的である。義護は、ぬしは何か知っているが自分達には話さない事があると思っていた。
「鬼とは‥」
「そうそう、この前の話だが。黄泉の人が生きているのか死んでいるのか‥‥真実、黄泉の国根の国が地の底に在り、彼らが人であるのなら‥‥生きているのだと俺は思う」
「黄泉人を人と言うか、ならばあやかしも人か? 人とモノ、生と死の境に拘泥する価値は無い」
 義護が持参した酒を赤泥は旨そうに飲んだ。
「人のものさしで測ろうとしても、見えぬものが多すぎる。わしが閻魔と言えば閻魔、夜魔と言えば夜魔か」
 また誤魔化された気がしたが、前よりは馴染んだ気もした。
 錯覚だろうか。

「ていうか、僕ぁこの仏像をどこで手に入れたのかのぅ」
 八幡伊佐治(ea2614)は先日、二の門の中で見つけた仏像を眺めて痴呆症のような言葉を吐いた。
「伊佐治さん、確りして下さいよぉ」
 じれったそうな顔で伊佐治の返答を待つ楠木麻(ea8087)。
「なんなら、二三発叩いてあげましょうか? 忘れた記憶が戻るかもしれません」
「‥‥お、思い出したのじゃ」
「‥‥都合の良い頭ですね」
 麻は伊佐治の記憶を頼りに、再び二の門へ出かける。
 今度の目的は妖怪荘の宝探しである。死人憑きは退治したとは言え、一人でうろつくには危険な場所だ。
「なに、やばいと思ったら即行で逃げゲフォゲフォ、転進しますから大丈夫です」
「そういう訳にも行かぬじゃろ。偽とは言え、娘じゃかろ‥‥一人より二人じゃな」
 伊佐治は妖怪荘に入る時に間違いからついた偽家族の話をまだ続けていた。麻はもうバレバレだろうと思っていたし、伊佐治もそんな気もするが少々拘った。
「僕は偽女房殿の手助けがあるから行けぬがな、弥助が宝探しと言ってたのじゃ」
「片桐さんですか」
「何か確かめたい事があると言ってたのじゃ」
 今回、人数的には鬼退治に偏った。
 それなら戦力は集中した方が良いようにも思うが、冒険者達は勝手気まま。独自行動を取る者が多い。これが新撰組や見廻組の事ならもっと話は早く進んだ事だろうが、どちらが良いとは一概に決められない。
「盗賊の宝って話だが、もともと俺の狙っていたものだからな。「知らぬが仏」「亭主の好きな赤烏帽子」あるかねぇ。いや俺は話のネタになる宝なら、拘っちゃいないんだけどな」
 片桐弥助(eb1516)は義護の部屋に薬売りの右之助を見かけると、話があると言って外に連れ出した。
「ですが宝なんてものは、噂話をしているうちが華なのでしょうね」
「ああ、意外性は大事だぜ。俺が思うに、こんなヤバげな場所に置いとくお宝なんて光り輝いてるようなもんじゃないだろう。一見そうは見えないようなものだと思う」
 十分ほどの間、弥助は立ち話を続けた。後で待機していた男に確認すると、当たりであるという。
「そうかい。俺の勘働きも捨てたもんじゃねえや」
 友の探し人の事は今は確認出来ればそれで良かった。後のことは置くとして、弥助は宝探しの聞き込みを続ける。

 参の門の鬼退治は、偽家族の御堂鼎(ea2454)が水干少年から引き受けた仕事だ。
 何が出るか分からぬ危険から、新たな助っ人が馳せ参じていた。
「自分は『フトシたん』こと太丹(たいたん)っす。よろしくっす!」
 大食いで知られた武道家、太丹(eb0334)もその一人。伊佐治の事をオヤビンと呼ぶ変わった青年だ。
「これで自分の家が手に入るんすね。もう野宿しなくていいんすね。パイロンに寒い思いさせなくていいんすね、やったっす〜!」
 伊佐治に騙されて参戦。尤も伊佐治に騙した自覚は無いが。頭はアレだが、これまで居なかったオーラ使い。戦力としては申し分ない。
「世の中には、鬼を喰らう鬼もいるということを教えてやろう」
 もう一人は異国の騎士、デュランダル・アウローラ(ea8820)。
 最近になってめきめきと頭角を現してきた戦士で、本来なら今頃は大和あたりで激戦の最中と思われた。先日の熊野の一件では女子供も容赦なく屠ったと言われる非情の人鬼である。
「とりあえず、頭数はこれで十分だろう。案内してくれるかい?」
 鼎は少年に案内を頼んだ。
「お待ち下さい」
 少年は鼎に言った。斯様な武名高き侍達を雇える報酬は自分には用意が無いと。無論、武名高きには鼎も含まれている。
「報酬なんざ要らないよ」
「左様な訳には参りませぬ」
 そもそも報酬は調査費用がギルドを通じて役所から出ているが、鼎は報酬の事ははなから頭に無かった。
「うちは酔狂で命かけて鬼退治がしたいんだよ。無粋な事は無しにしておくれさ。どうしてもって言うなら、あんたも一緒に行くかい?」
 元から同行は誘うつもりだった。少年は思案顔をするが、鼎の提案を受けて一行は参の門へ出発した。
「あと一人、来る筈なんだけどねぇ‥‥」

 女騎士は軽装で四の門に乗り込んだ。
「さて‥‥」
 ウィルマ・ハートマン(ea8545)には四の門へ行く明確な目的は無かった。鬼退治への同行も約束している。好奇心からの探索は、彼女自身にも意外であった。
「表だけみて帰らされるとは、気に食わん‥‥やれやれ、私らしくもないな」
 自嘲気味の笑みを浮かべ、ともかく廃屋を順に調べていく。数十m四方の狭さだが、慎重に調べていけば時間はかかる。


●それぞれの探索
「いやぁ久しいでござるなぁ」
 浪人、鬼子母神豪(ea5943)は御藤美衣(ea1151)と一緒に妖怪荘の中を徘徊した。
 その甲斐あって、目的の人物を探し当てる。
「ほぅ、あの時の浪人か。ふふ‥‥執念深いことじゃな」
 中年の僧侶は楽しげに笑った。名うての冒険者二人と対峙してその顔に余裕が見えるのは、僧侶も場数を踏んでいるからだ。以前は山賊団を率いていた事もある。
「それで、わしを斬るか?」
「このような場所で貴殿と戦う気はござらんよ‥‥どうでござろう、ここで逢った奇縁に一献というのは」
「剣呑剣呑‥‥残念じゃが、遠慮しておこう」
 僧侶が断る事は、豪も予想していた。わざとらしく落胆して見せる。
「折角じゃ、一つ教えてやろう。ここはな、問うて答えが得られる場所では無い」
「む、やはり何か知っているのでござるか」
「少々縁がある」
 立ち去りかけた僧侶に、豪は声をかけた。
「ここでは戦う気は無いと言ったが‥‥拙者は貴殿とは剣客として戦いたい。覚えておくでござる」
「坊主を刀で斬るのが剣客か? 面白い男じゃな」

 鬼退治は激戦となった。
 参の門の中は鬼と賊が溢れていた。
「分からぬの‥‥」
 戦力外通告を自分で出している伊佐治は仲間の後ろで高見の見物だが、疑念が湧く。
「壁で区切られておると言ってもな、この有様は何じゃ? 弐の門は死人、ここは鬼と盗賊‥‥訳が分からぬの」
 ただの雑魚では無い。鼎とデュランダル、重装備の熟練戦士が二人居て、太丹も決して弱くは無いが、勝負にならない。無論、人数の問題もあるが質もである。
「こりゃ駄目じゃな。女房殿、後退じゃ」
「誰が女房だい! いま面白い所なんだよ」
 鼎は狭い路地にデュランダルと並び、多勢を相手によく頑張っていた。
 敵は豚鬼や山鬼、それに浪人や博徒と多種多様。一瞬と気が抜けない。
「本丸まで近づけないとはねぇ‥‥」
 さすがの鼎も後退が頭に過ぎった。呼吸を整えようと僅かに下がる。
 その時、不意に隣で戦っていた騎士が咆哮した。
「え?」
 騎士の偃月刀が眼前にあった。
「ちぃっ」
 鼎は間一髪で大斧で受け止めるが、斧を砕かれる。デュランダルは狂化していた。
「オヤビン、何事っすか?」
「‥‥一言では言えないぴんちじゃ」

「遅かったのぅ」
 命からがら伊佐治達が参の門から逃げ返ると、ウィルマが待っていた。
「散々だったようだな。私の方も酷い目に遭った‥‥」
 よく見ればウィルマは丸腰である。猜疑心の強い彼女はこのような所で弓を手放す事は稀だが。
「何かおったのか?」
「ああ、僧侶の格好をした追剥ぎどもがな」
 四の門を探索したウィルマは薄汚れた僧服の集団に襲われた。気をつけてはいたが、敵は多勢で錬度も高かったという。捕まり、身ぐるみを剥がされた。
「それは災難じゃったな」
「まあな」
 全くの損でもない。賊と揉み合った時に掴んだモノがある。ただの破戒僧では無さそうだが。
「残念です! 僕が居れば! そんな賊など千切っては投げ、千切っては投げてやったのに!!」
 弐の門から帰ってきた麻は、そう憤慨した。
 犬を連れて弐の門内を丹念に捜索した麻だったが、簪があったくらいで目ぼしいお宝は発見できなかった。
「盗賊の宝なんて、デマだったんでしょうか?」
「さあね。うちらは失敗したけど、三の門にはあるのかもねぇ」
 砕けた大斧を見つめる鼎。
 帰り際、報酬の代わりでは無いがと少年が酒を彼女に渡した。


つづく