妖怪荘・六 参と四

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:7〜11lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 45 C

参加人数:10人

サポート参加人数:3人

冒険期間:10月07日〜10月12日

リプレイ公開日:2005年10月17日

●オープニング

 京の都は真ん中を南北に走る朱雀大路を中心に、大きく右京(西側)と左京(東側)に分けられる。
 都の外まで広がる左京の隆盛に比べ、右京は衰退が激しい。近頃では妖怪、魑魅魍魎の怪異に遭遇する事も珍しくない。
 その中に妖怪荘というものがあり。
 元は貴族の某の荘園の一部だったが、ある時に災いがあって管理が行き届かなくなると田畑がいつの間にやら庶民の家となり、次いで盗賊の巣と化した。それが何時頃からか妖怪の目撃談が多くなり、やがて妖怪荘と呼ばれるに至る。
 わずか一町、四十丈四方の間の魔窟である。

●闇
「‥‥ここらが潮時では無いかな?」
 人影が闇に向って言葉を投げかけている。
「‥‥」
 闇の中に蠢く気配がある。それは形を持つようであり、息をしていた。
「四門も既に二門か‥‥まあ、わしには関係ないことだが」
 人影は言葉を切って闇を凝視したが、いつのまにか気配が消えていた。
「‥‥あわれ」
 嘆息し、人影も闇のうちに消えていく。
 静寂がその場を包み、そしてざわざわと何かの音が聞こえた。

 ――神聖暦一千年10月京都、大和の黄泉人との戦いはようやく本拠地決戦まで漕ぎ付けたが依然として予断を許さない情勢が続いていた。江戸の神剣騒動の噂が京都にも聞こえてきた頃で、ジャパン全土が異常な雰囲気の中にあった。
 昨年から次々と起こる変事に人々は気もそぞろになり、末法末世の思想が幅を利かせていた。災厄を恐れる人も増えている。
「乱れた現世に神仏のお怒りじゃ、怨霊の祟りじゃあ」

●依頼
 京都冒険者ギルド。
 手代は集めた冒険者達に依頼を説明している。
「今度は鬼と賊が両方‥‥理由は分かりませんが、危険な場所なのは間違いないですな。本来ならお侍の仕事ですが、全然人手が足りなくて」
 昨日は大和、今日は江戸と武士の世界も大変なようである。
 噂では黒虎部隊の隊長がギルドに酔狂な依頼を持ち込んだそうだが、源徳に激怒した京都守護職の平織虎長が手勢を率いて江戸に行った為に現在、京都の守りがえらく薄い。
「各地で反乱騒ぎは起こりますし、治安は悪くなる一方で‥‥」
 手代は溜息をつく。
 そんな理由で怪しさ爆発だが周囲に実害の出ていない妖怪荘に貴重な戦力を回す余裕はどこにも無かった。そう、冒険者ギルド以外は。
「その参の門の鬼の砦とやらは早く始末した方が良さそうですな。あとの事はお任せします」

●参の門鬼砦
 妖怪荘の北西部は通称参の門。
 そこに元貴族のお屋敷があるのだが、今では何故か山鬼、豚鬼など複数の鬼と浪人や博徒風の無頼漢が巣食う砦と化していた。
 数は二十体程と思われるが、冒険者も舌をまく手強さだとか。

●今回の参加者

 ea1151 御藤 美衣(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea1289 緋室 叡璽(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1966 物部 義護(35歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2454 御堂 鼎(38歳・♀・武道家・人間・ジャパン)
 ea2614 八幡 伊佐治(35歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea5973 堀田 左之介(39歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea8087 楠木 麻(23歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea8545 ウィルマ・ハートマン(31歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 eb0334 太 丹(30歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 eb1516 片桐 弥助(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

神楽 香(ea8104)/ 拍手 阿義流(eb1795)/ テスタメント・ヘイリグケイト(eb1935

●リプレイ本文

●砦落とし
 黒い光帯が一直線に空へ伸びた。
 参の門の鬼砦を前にして威嚇の地魔法を放ったのは女志士の楠木麻(ea8087)。
「死にたくない者は去れ!さもなくば撃つ!」
 麻は威風堂々と冒険者の先頭に立ち、砦の中の敵に向けて警告した。
「小癪な奴よ! これでも食らえ!」
 麻の口上に触発されたのか、砦から一直線に短槍が飛来する。槍は華奢な麻の体を貫くかに見えたが。
「‥‥よしっ」
 女志士は素早く片手を動かすと、高速詠唱から放たれたグラビティキャノンが槍を空中で弾き落とした。
 それが参の門の戦いの幕開けを告げた。

「真正面からなんて、疲れるだけだよっ」
 着物の裾をからげて女壷振り師、御藤美衣(ea1151)は両手に霞の大小を握り、砦に走り寄る。
 迎え撃つ敵は塀の上や門の前から弓矢を撃った。美衣は地面に転がって避ける。
「おまけに豪ちゃんも居ないしっ。これでお宝出てこなかったら、あたい何するか分からないよっ」
 悪態をつく美衣の目に、砦から武装した人間と鬼が現れるのが見えた。
「鬼は俺に任せろっ」
 前に出た代書人の片桐弥助(eb1516)は、忍術の印を結んだ。竜巻の術だ。
 だが術が完成するより先に山鬼の金棒が弥助を打つ。痛みで術が失敗した。
「一人で前に出るんじゃないよっ」
 武者鎧に身を包んだ御堂鼎(ea2454)が援護に上がってくる。新たな敵の出現と見て山鬼は鼎に踊りかかったが、鼎は金棒の攻撃をヘビーシールドで受け流し、逆の手に持つモーニングスターを鬼の頭に振り落とした。
「ぐひぃっ」
「西洋の武器だよ。とくと味わいな」
 悲鳴をあげて倒れる鬼に、鼎は止めを差した。
「無事かい? こりゃいけないね、おーい宿六っ。あんたの出番だよ」
 弥助の怪我を見た鼎は後ろに待機する僧侶の八幡伊佐治(ea2614)を呼んだ。
「こっちに運んでくれ。僕は恐くてそっちには行けんのじゃ」
 鼎は舌打ちして周りを見回す。前回と違って、今回は冒険者十人総出の戦いだ。一時的に鼎が後退しても即崩れる事は無い。
「俺のことは構わないで‥」
「そうも行かないよ」
 鼎が弥助を庇って下がると、代わりに中列でウインドスラッシュを飛ばしていた志士の物部義護(ea1966)が前に出た。
「さて、已むをえんか‥‥どちらが人でどちらが鬼だ?」
 義護は鬼には容赦しなかったが、人間相手には武器を折って無力化することに腐心した。相手によって戦法を変える戦い方は枷になる。刃を持って対峙すれば相手の種族にどれほどの意味があろう。
「それでも、聞かねばならぬ事があるからな」
 半数ほどの冒険者が人を殺さない配慮をしていたろうか。
「ご苦労なことだな。それほどの余裕、ある訳でもあるまいに」
 後方から弓矢で援護するウィルマ・ハートマン(ea8545)は仲間の戦い方に溜息をつく。ウィルマは躊躇なく狙える相手は倒した。
「‥‥しかし、どうやら私の親父殿はここにはいなさそうだな。やれやれ」
 女騎士は陰鬱な笑みを浮かべた。

「オヤビン、大変っす!」
 前衛で闘っていた武道家の太丹(eb0334)が、血相を変えて伊佐治の所まで戻ってきた。
「何だ? はあはあ‥‥僕は忙しいから手短に話すのじゃ」
 伊佐治は自分も戦いに参加しようと仲間と戦っている鬼の後ろにこっそり近づいてコアギュレイトを唱えたりしていた。途中で気付かれて呪文を中断し、逃げ返ってきたばかりだ。
「砦が燃えてるっす!」
 戦闘開始から暫くして砦の一角が燃え出した。ウィルマが火矢を射掛けた辺りだ。燃えやすい物に引火したのだろうか。砦側も慌てたが、冒険者側も慌てた。
「ちょ‥、なんてことするのよ! あたいのお宝が中に眠ってるんだよ!?」
 美衣は抗議したが、火勢は強くなる。
「自分、燃えるっす‥‥違うっす、自分の住処が燃えるっす!」
 太丹は闘いの傷も忘れて、砦の中へ駆け込む。
「あ‥‥あ‥‥」
 冒険者に鬼退治を依頼した少年が、炎に包まれる屋敷を呆然と眺める。
 炎を逃れて砦の裏から逃げようとした鬼と人間の前に、緋室叡璽(ea1289)が立ち塞がる。
 赤い髪の志士は、紅蓮の炎を背にして陽炎の如く立っていた。
「‥‥お前達、どこへ行く?」
「煩い、其処を退け!」
 山鬼と盗賊が一度に襲い掛かった。叡璽は鬼の一撃を横に跳んで躱し、盗賊を切り伏せた。
「死にたくなければ‥‥いや、かかってこい」

 結果的に、火事の起きたおかげで冒険者側は最小の被害で砦を落とした。
 砦にいた鬼と人間は約半数が逃げ出したが、火事が起きなければ逃げずに戦っていたとすれば、勝敗は分からない。弱い相手では無かった。この場は痛み分けか、勝ったとしても冒険者側に数人の被害者を出していただろう。
 しかし、火事は別の所に傷跡を残した。
 砦はほぼ全焼し、延焼により二の門、四の門も半分が焼けた。


●焼けた町にて
「良い格好だな」
「‥‥」
 義護が赤泥の祠を訪れると、小さな祠は燃えていた。赤泥は茣蓙をかぶって、恨めしげな視線を義護に向ける。
「俺達は鬼退治に砦を落としたが、赤泥殿の住処も失せた。‥‥悪気あっての事では無いが、まことに世の中は難しい。赤泥殿にとっては俺達は鬼か人か?」
 土産の酒を舐めつつ、赤泥は義護を見上げて言った。
「阿呆め」

 僧侶の伊佐治は火事の後、仲間や他の怪我人の傷を治す仕事に専念していたが、それから解放されると蜻蛉の元へ立ち寄った。
「蜻蛉ちゃん、これ贈り物じゃ」
 紫陽花の浴衣と真珠のかんざしを手渡す。楠木からの貰い物だ。親の恋人に贈物とは良い偽娘である。
「まあ、嬉しい‥」
「似合いそうじゃの。着て見せてくれ」
 疲れていた伊佐治はゴロリと横になる。本業だけでなく、冒険者達は火事の騒ぎを役人に説明したり、捕えた賊を検非違使に引き渡したりとここ数日は色々と大変だった。自分達が砦を燃やしたとも言えない。
「四の門も燃えたのじゃなぁ‥‥あそこには何があったのかのう」
「さあ、ここの人は塀の向うのことなんて関心がありませんからねえ」
「鬼もか?」
「ええ、鬼が居るって噂はありましたけど、それがどうしたって感じでしたねえ」
「ふーむ」
 伊佐治は何気に道服の老人の事を聞いた。古参の住人で、妖怪荘の人物には珍しく面倒見の良い男。壱の門のヌシである赤泥とも親しい。
「何をしてる御仁じゃ?」
「さあ‥‥」
 ご多分に漏れず、正体は不明である。

 弥助の紹介で、堀田左之介(ea5973)が妖怪荘に入った。
「狭いけど、俺の所に居候させるんで頼むぜ。金さん、ほんっと悪ぃ!」
 両手を合わせて弥助が謝るのに、遊び人の金次は微笑した。
「いいって事よ。ワケありなんだろう? 男と一つ布団てぇのはいいもんじゃねえが、お前さん、ソッチの気は大丈夫だろうな?」
「ああ、ヨロシクな」
 左之介は冒険者とは言わず、渡世人の堀田左之介。又の名を鶸の天狗と名乗った。
 一通りの挨拶を済ませると、弥助にお礼を言って左之介は薬売りの右之助に会いに行く。
「右之さん、ヨロシクな」
 初めての顔をして挨拶する堀田に、薬売りは笑顔で応えた。
「おまえさん、薬屋かい? 俺は生まれつき喧嘩っぱやいのが病気でね。世話になると思うがそん時もよろしく頼むぜ」
「おやおや」
 この二人の積もる話はいずれ。

「まさか謎も宝も全て灰になったなんてオチじゃねーだろうな?」
 弥助、美衣、鼎の三人が焼け落ちた鬼砦跡に佇んでいた。
「宝はあっても、これじゃ消し炭だよ?」
 炭化した柱の残骸は掴むと、ボロボロと崩れた。
「今回こそは勝利の美酒と洒落込むつもりだったけどねぇ、それがこれじゃどうしたもんだか」
 鼎は曖昧な顔で溜息をつく。これで妖怪荘の幾つかの謎は永久に喪われた、ように思える。
 死人も鬼も盗賊も全て消えて、探索の必要ももう無い、のだろうか。


‥‥つづく