ぐらでぃえーたー・弐 団体戦
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■シリーズシナリオ
担当:松原祥一
対応レベル:5〜9lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 74 C
参加人数:10人
サポート参加人数:4人
冒険期間:06月05日〜06月10日
リプレイ公開日:2005年06月18日
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●オープニング
「冒険者と申す者達、中々のものであったぞ」
道楽貴族の白川某はおのれの屋敷にて昨日の武闘会の事を客達と話していた。
「ふっふふ‥‥」
客の中の一人の僧侶が笑った。
「御坊、無礼であろう。何が可笑しいか?」
「京都が亡者に襲われておるこの御時世に、強者を集めて見世物試合とは戯れが過ぎるのでは無いかな?」
この僧侶は白川が懇意にする寺に逗留する旅僧で、諸国の面白い話でも聞かせて貰おうとこの席に呼ばれたのだった。
「亡者討伐は武家の任じゃ、おぬし我らに剣を取れとでも言うか?」
「そうではない。わしは白川殿が見世物で冒険者の力を分かった気でおるのが可笑しかっただけでな。おぬしらが大和へ行ったとて、死人の仲間入りをするだけじゃろう」
僧の傍若無人さに場が白けるが、主人の白川は僧に問い返した。
「そこまで申されるのだ、和尚は冒険者の事を良くご存知と見える。聞かせて頂きたいものじゃ」
言われた方は困惑顔になった。この僧侶は数日前に冒険者の依頼に同行した者で名を紫円という。冒険者の事は少しは知っているが、何を話した所でこの貴族が納得するとは限らない。
「しからば、冒険者を集め下され。拙僧が、彼らの真の力をお見せしよう」
数日後、京都ギルド。
「真の力と申されても‥‥」
手代の顔がひきつった。冒険者と言っても別に特殊な人間ではない。少々腕は立っても妖怪変化では無し、大仰な宣伝をされても困るというものだ。
「ただの武闘会だ。腕自慢を集めてくれれば良い。そう‥‥同じでは詰まらぬから、今回は団体戦という事に致す故、左様心得えよ」
やってきた白川家の家来はルールを説明した。
冒険者は二組に分かれて闘う。
前回は屋敷の中庭では狭いことが一部に不評だったので、京都郊外の白川家と縁のある荘園を舞台にする。
荘園の広さは約1km四方。田畑に民家が点在する。二組の冒険者は荘園の両端からスタートする。
二組の冒険者は最長三日間戦い、一方の組が全員負けるか、四日目に生残りの多い方が勝ち。
勝者チームには賞金、優秀者には褒美の品物が贈られる。
勝負の見聞兼審判として、白川とその客達が荘園に同行するが戦いは白川達の眼前に限らずいつどこで始めても良い。勝敗の確認は荘園に同行して、荘園のあちこちに待機する白川家の家来が行う。
チーム戦だが複数で一人を襲う事は禁止。その逆に一人で複数と戦うのは構わない。
荘園の外に出ることは禁止、持ち込める装備は携帯品まで。バックパック及びペットの持込は禁止。荘園には農民達が働いているが接触禁止。農民に危害を加えれば失格。
「大掛かりでございますな」
一通り聞いて、手代は息を漏らす。
「左様。我らも審判役として駆り出されるのだ。ここだけの話、ご主人の道楽にも困ったものよ‥」
家来は溜息を漏らした。
手代は曖昧に頷く。さて誰に斡旋したものか、大和遠征で人手は足りない時期だというのに。
●リプレイ本文
広い。
およそ1キロ四方の空間の内側に田畑があり、民家があり、林も小川もあった。
道場でなく無人の野原でもなく、住民も動物も中にいるこの場所で、10人の冒険者は『龍』『虎』二つのチームに分かれて戦う。最長三日間。
「よくいらっしゃいました」
荘園の名主は複雑な面持ちで、訪れた冒険者に頭を下げた。荘園の人々には、今回のふってわいた椿事が面白い筈も無いが、領主の命令では逆らえないのだろう。
(「すまぬな‥‥」)
赤髪の青年志士、緋室叡璽(ea1289)は心中で彼らに詫びる。貴族の道楽に迷惑するのはいつも領民だ。かく言う己も、彼らから見れば人斬り包丁を差した同類に過ぎないのかもしれない。
「どうかしたのかだねぃ?」
武芸者の哉生孤丈(eb1067)が叡璽に声をかけた。青年の葛藤を見透かしたように孤丈は言った。
「所詮、遊びなんだねぃ。怪我しないように追いかけっこしてれば金がもらえるんだねぃ」
言葉とは裏腹に孤丈の姿は戦場に立つ武士そのものだ。鎖兜に皮鎧、外套を羽織り、腰には真鉄の煙管と十手を差している。
「遊びで‥‥死ぬ事もありますよ」
叡璽は彼よりは軽装だが、腰には刀。いくら神聖魔法の使える僧侶が待機していると言っても、命の保証はされていない。
「俺は、こういうのは嫌いじゃないな」
イギリスから一月前に戻ってきた志士の里見夏沙(ea2700)は荘園の風景を眺めつつ、微笑した。
「道楽だとしても、戦う俺達に目的があるなら、無意味じゃないだろ」
夏沙の得物は変わっている。武士の刀とは異質な直刀はワスプ・レイピア。イギリス土産だろうか。
「あなたは相変らずだな」
エルフのクレリック、サクラ・クランシィ(ea0728)が会話に加わる。サクラと夏沙は共にケンブリッジの生徒らしいが、友人でもあるらしい。
「俺も、最善を尽くすつもりだ。こんな機会でもなければ戦う事の無い相手だからな」
武闘会と縁の薄いクレリックや志士だから、尚更か。それは度し難い戦士の業か。
会話に入らず陰鬱な表情で周りの風景を眺める騎士ウィルマ・ハートマン(ea8545)も、名主の愚痴を親身に聞いている武芸者のパウル・ウォグリウス(ea8802)も、全員がこの時に考えていたのは、如何にしてこの戦いに生き残るかだ。
「『艱難、汝を玉にす』、お互い協力してがんばりましょう! チーム『龍』を勝利に導き、ボクの名誉を挽回するのです! それに褒美の妖精のトルク♪」
今回も私利私欲満々で参加した志士の楠木麻(ea8087)。
チームに分かれて開始位置に向う途中、彼女は必勝の作戦を皆に語った。
「悪いが、俺はその作戦には加われない」
「そんなぁ」
前回は惜しい所まで行った志士の天城烈閃(ea0629)に早々に作戦を拒否され、頭を抱える楠木。
「ま、嬢ちゃんの作戦も悪かないが、裏目に出そうな気はするよな‥‥」
パウルは意地悪く笑う。龍チームのメンバーは他に叡璽と夏沙。実力では天城が群を抜き、ついで駆け出しの頃に江戸の霜月祭で小武神の名を受けたパウルが強い。残る三人の志士の力量は同等だ。
龍チームは荘園の東の端からスタートする。
「敵は東、俺達は西からか‥‥」
前回優勝者の山王牙(ea1774)は案内役に連れられて『虎』チームの面々と荘園の西端に向っていた。京都の武闘大会の常連でもある山王は場慣れした雰囲気がある。
「やはり荘園一帯を会場とするからには、持久戦となるでしょう。武装を整えただけでは勝てないという事です」
山王は今回の参加者で唯一、寝袋を持参していた。
「余裕だねぇ。さて、装備に余裕のない自分らは夜は暖を取れる所を探さなくちゃいかん訳だが‥‥」
前回緒戦で敗北したキルスティン・グランフォード(ea6114)は今回は雪辱戦だ。霜月祭ではパウルの1ランク上の闘武神の称号を得た彼女としては、名誉挽回に期するものがあった。残る虎チームの面子はサクラ、ウィルマ、孤丈。先日の参加者が上手く二人ずつに分かれ、全体的にも実力がほぼ拮抗したのは組み合わせの妙である。
「何か作戦は?」
「‥‥無しかねぇ。ふーん、それも良いかねぇ」
龍チームには楠木という一応の指揮者がいるが、虎チームは個人重視だ。
開始の合図の鐘の音が響くと、バラバラに別れた。
●龍虎の戦い
「‥‥見つけた」
始まって四半刻も経たぬ内に最初の接触が起きた。
天城烈閃と山王牙、奇しくも前回の決勝と同カード、冒険者最高のベテラン同士。
(「さて、どうしますか‥‥」)
山王は畑の先に天城の姿を見つけるとしゃがんで隠れたが、音に聞こえし弓使いに対して山王の得物は長巻。身を隠すのも十分でない畑の中では気付かれずに長巻の距離まで近づくのは至難だ。
「あの民家の辺りは怪しいな」
気付いていない天城は、知らずに山王の方に足を向けた。山王が舌を巻いたのは、天城が殆ど足音を立てずに歩いている事だ。熟達の盗賊や忍者と同等の歩法を天城は身に付けている。
「‥‥」
一匹の驢馬が二人の間を歩いていた。
息を潜める山王は仲間の誰かがこの場に現れて烈閃と闘ってくれる事を望んでいた。その隙に乗じて烈閃を倒す心積もりだったが‥‥それは山王の失格を意味する。
「‥‥ん、しまったっ」
二人の距離が6、7間まで近づいた所で天城の方も山王に気付いた。忍び足を止めて、一目散に逃げる。
「ま、まずいっ」
山王の方も慌てて立ち上がると後方の林に逃げていく。この時、牽制で天城の放った矢が刺さり、傷を受ける。
「なんだそれは?」
審判役の家来からこの顛末を聞くと、白川は呆けた顔をした。
「戦場でつわもの二人があいまみえたら、勇ましく剣を合わせれば良いでは無いか。妖怪退治の勇者が、相手の顔を見るや互いに逃げ出すとは何事じゃ」
「ふふふ、だから白川殿は戦を知らぬ。戦とはそうしたものじゃ‥‥ちと退屈ではあるがな」
脇で聞いていた中年の僧侶、紫円は席を立つ。
「御坊、どこへ?」
「なに、勇者の顔を拝みにな。一緒に来なさるか?」
白川は腰を浮かせたが、家人らが止めた。
一日目の接触は、結局この一回だけだった。審判達の話では天城を除く龍チームの四名は空家を占拠して中に篭もり、対する虎チームも二名が林に潜伏して動かない、他の三人も何故か積極的でなかった。
●夜戦
「さて、行くか」
サクラのリカバーポーションを貰って傷を回復させた山王は深夜に行動を取った。
「どうしました?」
寝袋を漁りはじめた山王にサクラが聞く。
「いや、油が‥‥ない」
提灯を持ってきた山王は油を忘れてきたらしい。サクラは瞠目する。
「夜襲に行くのに、ランタンを持っていくつもりだったのか?」
提灯片手に奇襲とは、山王牙‥‥太い男である。
「では行ってきます」
提灯を諦め、牙は1人で出かけた。
「ちょっと待って下さい。それはさすがに水臭い。俺がバックアップしますよ」
天城との遭遇戦を見ていたサクラは一日目は何となく彼と行動を共にしていた。クレリックのサクラは1人では相手の冒険者に勝てない。共闘する仲間が必要だった。
「僕達がここで敵を迎え撃てば、村人に危害が及ぶ恐れもありませんし、寝る場所の心配も要りません」
楠木が最初に提案した篭城戦法に龍チームは叡璽、夏沙、パウルの四人が従った。一日目に両チームの接触が無かった一番の理由は龍側の攻撃手が天城1人だったからだ。
「俺の場合、1人では攻撃力に欠けるからな。しかし、二日目は行かせてもらう」
夏沙はいつ敵が攻めてくるかと緊張した一日に焦れ始める。
「どうやら‥‥敵側も一日目は様子見だったみたいだ。俺も、明日はこちらから打って出るのに賛成だ」
元々、叡璽は二日目には攻勢に出るつもりだった。予定通りに実行したいと言う。
「ですが、同じことを相手も考えてるでしょう。だからこそ、明日もここで敵を待つべきですよ」
楠木は二人に対して、篭城の継続を主張する。相手の潜伏先が分かれば襲撃のしようもあるが、外に出ない彼女達には虎側の居場所が分からない。
「ふああ、いつまで話してるんだ? 戦いはまだ二日あるんだ、早く寝とけよ」
欠伸をかみ殺してパウルが言った。
「そうですね、朝になったら天城さんからも連絡があるでしょうし‥」
楠木達は小屋の床に横になる。十分な寝具は無いが、それでも今晩は恐らく野宿の天城や虎側から比べれば疲労の回復具合が違う。
「あの家ですね」
サクラの先導で山王は楠木達が眠る小屋の前までやってきた。
「卑怯ですが、これも戦い‥‥行きます」
長巻を握り、身を屈めて小屋に侵入した山王を黒い影が襲う。
「ぐはっ」
硬い棒で頭を殴られ、山王の体が前のめりになる。
(「ちっ‥‥一撃で仕留めるのは無理か」)
山王を襲ったのはパウルの十手。昼間寝ていたパウルは山王と全く同じ事を考えていたが、先に山王の方が来たので迎え撃つ形になった。当然、パウルの警告で寝ていた三人も起きている。
「滅多打ちにすれば寝るだろ」
連打で勝負を決めようとしたパウルは不意に、山王を見失った。サクラのダークネスだ。暗闇に慣れた目でも、突然の漆黒にパウルの十手が空を切る。
「よし!」
その隙で体勢を整えた山王は長巻を振り抜いた。室内に衝撃波が生じる。
呪文を唱えていた夏沙と麻がもろに受けて、壁に叩き付けられた。
「くっ」
叡璽も衝撃波を受けたが、一歩踏み込んで両手で握る刀を突き入れた。叡璽の刀を足に受けた山王は外に退く。
「裏だ!」
ダークネスの効果から脱したパウルは仲間に叫ぶ。
「逃しはしません」
サクラが再び高速詠唱でダークネスを放つ。
「お前は寝てろ!」
視界を奪われたパウルはそれでも十手をエルフの身体に叩き込んだ。身体をくの字に曲げてサクラが倒れるのをパウルは耳で聞き、見えない外に走り出した。
「効けー!」
楠木は逃げなかった。ストーンを山王に放つ。無防備な楠木の援護に叡璽も刀で巨人を突き、夏沙も捨身の詠唱に入った。二発目のソードボンバーに三人は吹き飛ぶが。
「私もここまで‥‥あとは頼みます」
ストーンをレジストできなかった山王の身体も徐々に石化していた。
「承知した」
山王の最後を見届けたサクラは大きな梟に変身してその場から飛び去る。
「なんだと?」
翌日、白川は家人の報告に瞠目する。
「は、昨夜遅くに虎組の山王牙が龍組の小屋に押し入り、この戦いで山王、緋室、里見、楠木の四名が脱落いたしました」
「ううむ、冒険者あなどりがたし。して、どのような戦いであった?」
詳しい報告を急かす白川に家人はしどろもどろになった。夜番をしていた審判達が駆けつけた時には戦いは終わっていた。結果、治療もそこそこに四人が呼ばれて情景を説明する。
●決着
「‥‥おい、昨日の礼を返しに来たぜ」
味方を失ったパウルは虎チームの潜む林に侵入する。
着替え中のサクラを見つけたパウルは十手を鳩尾に叩き込んだ。サクラはミミクリーで変身しながら荘園の中を移動していたが、変身が解けた時は全裸なので服の調達は不便だった。
「さてと、あと何人残ってるんだか‥‥」
戦いの終了は鐘の音で知らせられるが、誰が生き残っているかは自分で調べるしかない。
「‥‥どうやら無事だったか」
音も無く近づいた烈閃がパウルに声をかけた。完全に別行動を取っていた烈閃は昨夜の戦いを知らず、朝方に小屋に来て残っていた戦闘の跡に不安を覚えていた。
「他の三人は?」
「生き残ってるのは俺とお前だけだ」
パウルが何人倒したかと聞くと天城は首を振った。何度かキルスティンを見かけたが、巨体の割に軽装の彼女はすぐ逃げてしまう。天城の方も深追いしないので、勝負にならない。
「哉生孤丈とウィルマ・ハートマンは?」
「見ていない。どこかに隠れているのだろう」
隠れる場所と言えば、民家は使い辛い規則があるから十中八九は林の中だろう。
「‥‥二対三か」
パウルと烈閃は分かれて別々に林の奥に入った。
「覚えのある猟師なら三日息を潜めるなど序の口だ。森は私の庭、来るならじぃっくり可愛がってやるさ」
ウィルマ・ハートマンは開始直後から林に陣取ると、全く動かなかった。騎士であり有能な猟師でもあるウィルマは罠に獲物がかかるのを待ち続けた。
「出来ればのんびりしたかったが、そうも言ってられないようだな。獣並みに恐ろしい相手だ」
己の領域に入った侵入者に気付いたウィルマは歓迎の準備をする。
「トラップか‥‥」
パウルは下草が結んであるのと、ちょうど転んだ先に置かれた尖った石を交互に見た。
「面倒な相手だぜ」
石にぶつけた頭がズキズキと痛んだ。目の良いパウルでも全部の罠を感知するのは難しい。この罠を仕掛けた相手は随分と巧妙だ。
「俺っちも手伝おうかねぃ」
ウィルマと同じく林に目をつけた孤丈は目的が同じと分かると、彼に協力した。この二人、持っているスキルの相性が良い。二人がかりの罠攻撃だ。
「‥‥逃げられたか?」
天城が林の奥で人影を見つけて接近すると、そこには木に旅装束が括りつけられていた。
「戦わないのかねぃ?」
罠で時間稼ぎをして林から脱出したウィルマに、孤丈は首をひねった。
「パウル・ウォグリウスと天城烈閃を相手に俺とお前でか‥‥ふ、瞬殺されてしまうわ」
邪悪、と形容できそうな笑みを浮かべるウィルマ。パウルと烈閃は二人を凌駕する戦闘力を有し、かつ足音を消して近づいてくる嫌な相手だ。そんな敵とまともに戦うのは愚だとウィルマは笑った。
「俺は逃げてるんじゃない、戦い方を考えてるんだ」
逃げ続けるウィルマ達はキルスティンと合流した。互いの情報を交換すると、ジャイアントの戦士はニッコリ微笑む。
「勝った」
その通りになった。
二人に逃げ続けろと言い含めると、キルスティンは逆に天城とパウルを探した。
龍側の二人はキルスティンとの戦いを嫌って彼女から逃げたが時間切れを気にしたパウルが諦めて戦う。パウルは順当にキルスティンに敗北し、その直後に天城が彼女を倒した。
そして天城1人では力を尽くして逃げるウィルマと孤丈を捕まえられなかった。