ぐらでぃえーたー・参 実戦

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:7〜11lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 79 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月19日〜07月25日

リプレイ公開日:2005年07月29日

●オープニング

 先日行われた冒険者同士の集団戦。
 龍虎二組に分かれ、荘園まるごとを使った戦いは依頼人の道楽貴族の眼にはどう映ったか。

「坊主、過日申したこと覚えておるか? あれが冒険者の真の姿か?」
 依頼人の白川某は不満だった。
 遭遇したら刃も交えず互いに一目散に逃げ出し、闇夜の奇襲、その後の鬼ごっこ。
 血湧き肉踊る大激闘を期待した白川にとって、先日の冒険者達の戦いは興醒めだった。何より、戦いの現場を自分で見ていない。
「白川殿は見ておらぬのか。あれでなかなか、面白い見世物だったがな」
 団体戦を白川に提案した中年の僧、紫円は詰問されているのに笑みを浮かべている。白川は薄気味悪さを感じつつ、吐き捨てるように言った。
「それにしても、大和の戦いだ‥‥相当な激戦であったとか、この眼で見たかったものであるな」
 六月末、大和に巣食い京を脅かしていた亡者の軍勢を駆逐せんと平氏源氏の名だたる武士団と冒険者達が大和北部で戦った。巷はその噂で持ちきりであり、白川も屋敷に武士や冒険者を呼んで話を聞いたりしていた。
「やはり実戦よな。道場の戦いとは、迫力が違うと言うぞ」
 白川の声は戦いを想像してか熱を帯びていた。おそらく話を聞かせた武士なりがそう吹き込んだのだろう。
「ならば大和へお行きなされ。まだ亡者の群れはおりまするぞ?」
 水を差すように紫円が言うのを、白川は睨みつけた。今の大和は物見遊山で行ける場所では無い。それに、仮にも貴族が行くとなれば色々と理由が要る。戦いを見たいだけ、では世間の笑いものだ。
「理由はどうとでも‥‥道中は冒険者に守らせれば良い。間近で実戦が見られようというものじゃ」
 危険な事を淡々と言う紫円に、さすがに白川は気色ばむ。
「その方は御仏の教えを説く僧侶であろう? 剣呑なことを申すものでは無い」
「白川殿、わしの事より御身じゃ。言葉を繕うても、心は隠せまいぞ」
 貴族は一瞬、僧侶の迫力に気圧されたが、その後考えて彼は冒険者ギルドに再び使いを走らせた。


 京都冒険者ギルド。
 先日の戦いの興奮も冷めやらぬギルドに、白川からの依頼が届く。
「‥‥実戦?」
 手代によって集められた冒険者は、今度は実戦だと聞かされた。
「猛獣と闘うとか? ‥‥それとも鬼とか妖怪?」
 冒険者の問いに手代は首を振った。
「依頼人の白川殿の遠縁の者が大和に居られるのですが、先日安否を気遣って便りを送ったそうです。ところが連絡も無く、まさか黄泉人に襲われていないかと白川殿も心配されまして。今度はご自分で大和へ確かめに行かれることになったのですが」
「なるほど、その護衛を俺達に頼みたいって話か?」
「それもあります」
「‥それも?」
 白川は大和の道中、武闘会も一緒に行うと言い出していた。
「‥‥待て。意味が分からないのだが?」
 まさか旅の途中で試合を行うというのだろうか。不死者が徘徊するような場所で? 狂気の沙汰だ。
 使いに来た白川家の家来の話ではそれも本当に考えたらしいが、依頼内容は別だった。
「道中で不死者をどれだけ倒せるか、それを競うとか」
 冒険者達は呆れた。
 普通、護衛の旅なら危険は避けるものだ。所が道中で不死者狩りを行わせるという。どこかおかしい。
「我らの都合で亡者が現れるか?」
「そのような道理ある筈はありませんが、目的の村は信貴山城より南、未だ亡者の多い所です」
 先月の決戦で神皇軍は黄泉人を大和北部で撃退した。しかし、損害も大きく本格的な追撃は早くても今月末と言われている。
「‥‥」
 手代は複雑な顔をした。見方によっては情報を得る機会だ。だが藪を叩いて蛇が出たら‥‥。

●亡者狩り
 白川家の家来の説明によれば、ルールは以下の通り。
 今回は個人戦。
 倒した不死者の合計点で優秀者を決める。
 一体につき死人憑きは一点、怪骨は二点。黄泉人は十点。
 それ以外の妖怪・不死者は見た目で点数を判断。
 冒険者は二組に分けて、一日交代で常に一組は依頼人の側で護衛を行う。もう一組はその間、別行動をして不死者狩りを行っても良い。
 旅のルートは冒険者に任せられる。
 当然ながら、依頼人に危害が加えられた場合は依頼失敗。
 白川は駕籠に乗り、護衛の武士二人、使用人二人、駕籠かき二人が同行する。
 予定は往復六日。三日目の夜に親類の居る村に着き、一泊して戻る予定。

●今回の参加者

 ea0629 天城 烈閃(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2614 八幡 伊佐治(35歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea5480 水葉 さくら(25歳・♀・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea6114 キルスティン・グランフォード(45歳・♀・ファイター・ジャイアント・イギリス王国)
 ea6147 ティアラ・クライス(28歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 ea8087 楠木 麻(23歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea8545 ウィルマ・ハートマン(31歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 ea8802 パウル・ウォグリウス(32歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ea8820 デュランダル・アウローラ(29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb1067 哉生 孤丈(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「もうルートはバッチリよ」
 ティアラ・クライス(ea6147)は胸を張った。シフールだから張ろうと隠そうと大差無いが。
「キミ達の希望を余す所なくカバーしてるから、安心してね」
 自信満々のティアラ。
 ちなみに各々の希望とは「敵沢山」「見晴らし良く」「行き帰り別ルート」などである。
「まー、順当な所だろう」
「僕はティアラさんの案で賛成です」
「前回不評だったから今回はガンガン行くねぃ」
 賛成多数反対ほぼ無しで決まった経路は、一言で言うなら「大和亡者観光ツアー」。
 これから危険中毒者の六日間の旅が始まる。

●初日〜二日目
 京都を出て大和へ入る一日目は危険は少ない。
 ひとまず山城を出るまでは襲われる心配も少ないだろう。冒険者達は依頼人を乗せた駕籠を中央に、どこかまだのんびりとした雰囲気で歩いた。
「親戚の方の身を案じて‥み、自らから危険な場所まで出向く‥‥なんて。‥い、依頼人さまはとても情の深い方‥‥なんですね。道中、不死者を倒した数を競うのは、ちょ、ちょっと意味が分かりません‥‥けど」
 依頼への理解度が低い事を喋っているのは水葉さくら(ea5480)。彼女は身長を越える長大な野太刀を引き摺って歩いている。
「まるで気に食わんが、仕事は仕事だからな」
 鉄弓を背負った猟師姿のウィルマ・ハートマン(ea8545)は陰鬱な顔をした。ウィルマは対極に位置する天然少女のさくらの話に一層表情を暗くする。
「やる事はいつもと変わらん。そうだ、それだけだ‥‥」
「‥‥」
 デュランダル・アウローラ(ea8820)はウィルマの物言いに眉を顰めた。
「貴殿は何故不機嫌なのだ? これほどの面々と競い合えるとは願ってもないことだ。しかも相手が不死人どもとあれば、手加減の必要もない」
「ハッ‥‥デュランダル・アウローラ、獲物を求めて来た狂戦士が知った風な事を言うか」
 ハーフエルフのデュランダルはバーサーカーとして幾つかの異名を持つ。
「戦場の武名は誇りだ。貴殿とは同じ班だが互いに、剣を捧げる主君に恥じぬ戦いぶりを示したいものだな」
「‥‥俺をお前と同じにするな」
 今回は護衛の仕事も兼ねるので五人ずつの班に分かれているが、その中身は個人戦である。同じ班の者は一番近い競争相手でもある。ティアラは騎士達の会話から視線を外し、前方を行く志士を見た。
「天城さんも大変ね。一匹倒すのに矢が何本いるやら」
 死人憑きは並の生物よりタフだと言われる。倒すには肉体が動かなくなるまで破壊するより無く、その点では弓矢は不利と言う者は少なくない。さくらが自分には扱い辛い野太刀「鬼霧雨」を敢えて持参したのも理由はそこだ。
「一本1両で矢を売ってあげようかしら」
 ティアラの商売人の血が疼いた。
 ただし、天城は彼女の予想を超えて百本以上の矢を持ってきていたのだが。
 その天城烈閃(ea0629)は本隊の前方を、楠木麻(ea8087)と歩いていた。
「狩りに行かないのか?」
 麻は天城達とは別班なので今日は護衛を離れて狩りに行ける筈である。
「別行動は義務では無いですから。ボクは全日、白川さんを護衛するつもりです」
「驚いたな」
 烈閃は微笑した。久しぶりに都の人々を守る為に腕を揮える事を喜んだ志士には、狩りを諦めて護衛に徹するという麻の行動は心地好い。麻の本心を知らぬが仏である。

「前衛がこれだけ居るのに、ちんたら魔法じゃなぁ‥‥」
 重武装の仲間達を見て自信をなくした僧侶の八幡伊佐治(ea2614)は白川にある提案をした。
「求められて僕が魔法を使ったら、その者から1点、譲るようにして欲しいんだが」
 僧侶の得意分野と思われる不死者退治でこのような提案は伊佐治としては遣り切れないが、実際に数勝負となったら神聖魔法だけでは話にならないと伊佐治は思う。
「あい分かった。寺の坊主どもも無一文では傷を治さぬでな。それが道理であろうよ」
 白川は伊佐治の提案をすんなりと容れた。

「しかし、前回も凄いと思ったが今回はそれ以上だね」
 女戦士キルスティン・グランフォード(ea6114)は一人で先行し、不死者を探した。
「物好きにも程が有るよ‥‥」
 八幡あたりは「理由は何であれ、貴族が身銭を切って亡者退治、良い事だ」と云っていたが、動機は重要だろうとキルスティンは思う。貴族が奇矯な人物だとしたら、領民は安心できない。
「ジャパン人は温厚なのか、それとも御目出度いのかね」
 今度聞いてみようと考えて、女戦士は思案を中断した。
 風に乗った腐臭を感じ、特別に重く作られた愛刀の柄を握る。暫くして臭いの元を発見した。動かぬ死体である。死体に残る傷跡から想像するに、元は動いた死体だったかもしれない。
「‥‥パウルか? それとも孤丈‥‥」
 同じ班のパウル・ウォグリウス(ea8802)と哉生孤丈(eb1067)の姿が見えない。彼女の先を行っていても不思議は無い。
「んー、悔しいが、先に行き過ぎると戻れなくなるしな」
 キルスティンの推測通り、韋駄天の草履の能力で先行したパウル・ウォグリウスは二日目の朝に合流できず、減点を受ける。十分な地図も無く街道も整備されていない時代の事だから、一度分かれると合流は簡単ではない。ましてや今の大和は旅に適した場所とはお世辞にも云えなかった。
「そうそう、一人で出かけちゃ駄目なのよ」
 勝ち誇った顔でパウルに云ったのはティアラ。今回、彼女は単独行動はしないと決めていた。
「だって、私が一人で行ったら絶対戻れなくなるからね」
 威張る事では無い。

●大和の黄泉人
「遠目に見ただけだが‥‥ざっと百」
 二日目の午後、先行した烈閃は宿泊予定の村が亡者の軍勢に飲み込まれているのを知って、戻ってきた。
「百? どういう計算じゃ、それは‥‥」
「村一つが食われたんだろうねぃ。どうやら黄泉人の部隊にぶつかったみたいだねぃ」
 哉生孤丈は笑みを浮かべて云った。大和南部に撤退した黄泉人が黙って隠れているとは思っていなかったが、反撃の為に戦力を整えている噂は本当だったらしい。危険ルートを選べば、遭遇するのも道理か。
「迂回できそうか?」
 キルスティンが聞いた。彼女は黄泉人の軍勢と戦う事は想定していない。
「何故ですか? 全員で協力すれば、倒せますよ」
 麻はやる気満々だ。キルスティンは反対した。
「自分達の受けた依頼と違う。黄泉人の軍勢と正面からやるなら、報酬も人数も足りない」
 半数ぐらい死んでも構わないというなら、打撃を与える事は出来るだろう。だが依頼人の安全を考慮すべきだ。しかし‥‥それを云うなら、最初に反対すべきなのだろう。既に自分達は危険地帯に足を踏み入れていて、行くも退くも修羅の道に変わりは無い。
「OK。どいつもこいつも死にたがりだな」

 ティアラ・クライスは目前のフィーバーチャンスを見過ごす女では無かった。
「今、私の為にボーナス確定! 報酬に色つけろよ!」
 シフールは村に駐屯する黄泉人の軍勢の上空まで飛び、眼下の死人の群れに火球を放った。
 轟音をあげて炸裂するファイヤーボム。
「ワッハハハッ!」
 魔王の如く高笑いをあげるティアラ。地上では混乱する死人の群れにデュランダルの戦闘馬が突入していた。騎士は馬上から偃月刀を振るい、爆発のダメージで動きの鈍い死人憑きの胴体を薙ぎ払う。その強さは鬼神の如きだ。
 それから約十分後。
「いい所に来てくれたわ♪」
 ティアラとデュランダルは本隊に合流した。怒り狂う黄泉人の軍勢を後ろに連れて。
「じゃ残兵処理宜しく、それハッスル♪ハッスル♪」
 雷撃魔法を受けてボロボロのシフールはその場に倒れた。デュランダルも無傷では無い。
「逃げるぞ!」
 キルスティンはクレイモアofハルクを構えた。白川の駕籠と使用人達を先に逃すつもりだ。
「ひぃっ」
 使用人達は迫る死の軍勢に失神寸前。
「安心しろ。ここは俺達が食い止める。ちゃんと守ってやるぜ」
 パウルと孤丈がキルスティンの両側に並び、三人で道を塞いだ。亡者の先端が冒険者に到達する前に、黒い閃光が亡者の前列を吹き飛ばした。
「やりました!」
 楠木のグラビティーキャノン。
 しかし、喜びは束の間だ。死者は恐れない。倒れた死人を踏み越えて、言葉にならない叫び声をあげて死者の軍団は冒険者に殺到した。
「‥‥くぁっ!」
 むしゃぶりつく死者に怖気を感じたが孤丈は太刀「三条宗近」を振るって一体を胴切りにした。鎧兜に身を包む浪人の身体はちょっとやそっとでは傷つかない。だが死人の豪力は今にも彼を押し倒しそうだ。
「立ち止まるな!」
 パウルは左手の盾で正面の死人を押し返すと、右手の刀で孤丈の足にしがみつく子供の亡者を切り伏せた。
「と言っても、これじゃどうしようもねえな‥‥どう逃げる?」
 多勢に無勢。オーラ使いの彼、それに巨大剣を振り回しワンヒット・キラーの異名を持つキルスティンが居ても、相手は軍勢だ。止められない。
 回りこんだ一体が魔法を連射する麻に襲い掛かった。
「‥‥気に食わん」
 ウィルマの声が背後から聞こえた。鉄弓から繰り出された矢が麻を襲った死人を仰け反らせる。続いて反対側から三本の矢が打ち込まれた。
「間に合ったみたいだな」
 烈閃とウィルマの十字砲火で死人の前列が崩れた。その間に伊佐治の魔法で回復したティアラとデュランダルが戦列に復帰し、死人の軍勢相手に冒険者達は持ちこたえた。
「一気に切り崩しましょう!」
 物欲と功名心で動いている楠木は敵陣に飛び込みそうだったが、仲間が止めた。
「俺達は武人だからそれでも良いんだけどねぃ、依頼人を死なせる訳にも行かないんだねぃ」
 功名出世は武士の華、吶喊して例え死んでも本望というものだが、巻き添えで依頼人を死なせるのは恥である。護衛組は依頼人を守って後退した。

●退却戦
 冒険者達の退却を支えたのは伊佐治だ。彼の神聖魔法は死人憑きを一撃で倒す事は出来ないが、仲間の治療や支援には絶大な力を発揮する。
「あぅぅ‥‥な、何が‥‥起こって‥‥?」
 一人で狩りをしていた水葉さくらは、不死者の群れを引き連れて逃げる仲間達の姿に呆然とした。
「はぅ‥‥た、助けないと‥」
 どうやって?
 百余りの亡者の列に飛び込むには野太刀「鬼霧雨」も何と頼りない事か。だが逃げるという考えは少女には無い。大剣を地面に突き刺し、さくらは風の呪文を詠唱した。

「死人憑きが約百五十‥‥多分そこらの村人の成れの果てだわね。骨の戦士が1ダースくらい、飛んでると寄って来る恐いレイスが片手ほど、偉そうな干物が三枚」
 危険覚悟で偵察したティアラの情報だ。かなり奮闘したがまだ余裕で致死量の数である。
「依頼人の希望する血湧き肉踊る闘いになったはいいが、競技どころでは無いな」
 烈閃が淡々と云う。前衛の頑張りもそろそろ限界で、弓兵の彼まで正面に出る事もしばしばだ。烈閃の体捌きは達人級であり、死人に囲まれながら弓を使う様は幻想的でさえあった。だがその彼も弦を切られて今は予備の霞刀で戦う有様だ。
「何の相談だ? 命あっての物種というがな‥‥」
 ウィルマは白川の駕籠に目を向けた。
「しかし‥‥紫円とかいう坊主、白川に怨みか何かあるんじゃなかろうな?」
「紫円か。そう云えば来ていないな」
 前回から白川に何かと吹き込んでいる僧侶は大和行きには同行していない。焚き付ける事が罪とは呼べないが、傍迷惑な存在だ。
「‥‥仕方がねえな」
 前衛から戻ったパウルは傷を治して貰う前に、白川の駕籠に近づくと駕籠を足で蹴飛ばした。
「な、何をするか?」
「駕籠は目立つんだよ。‥‥本気でやばいんだ、仕事を優先させてもらうだけさ」
 吐き気と耳鳴りがした。この場にあっても、この貴族には分かっていないのか。
 目的地の村に行くにはあの軍勢を越えなくてはならない。逃げるには駕籠が邪魔だ。全員で闘わないとヤバイ。状況の全てが、当初の依頼の遂行を不可能と言っている。
「これが実戦だ」

 駕籠を捨て、白川は馬に乗せて冒険者達は分散して必死に逃げた。駕篭かきは姿を消し、使用人と護衛の武士が一人ずつ、行方不明になる。命からがら、白川と冒険者達は山城に戻った。
 甘かったのは白川か、それとも冒険者達か。
 それでも仕事の報酬は払われた。