ぐらでぃえーたー・四 死線

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:7〜13lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 55 C

参加人数:7人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月17日〜08月22日

リプレイ公開日:2005年08月27日

●オープニング

「ここで止めておけばそれまでじゃな。‥‥しかし」
 黒の中年僧侶紫円は成り行きを静かに見守っていた。
「都の平穏、長くは無いかもしれぬの」

 武闘大会と称し、亡者狩りだと冒険者を連れて大和へ向い、そして亡者の大軍に襲われて命からがら逃げ帰った道楽貴族の白川某。
 九死に一生を得て京都に戻っても彼は、いつ亡者が襲ってくるかと生きた心地がしない日々を送っていた。
 たまに政務があって無理に宮中に出ても、「大和では散々でしたな」という友人の言葉が自分を嘲笑しているように思えてしまう。
「奴ら、わしを馬鹿にしておるのだ‥‥おのれ、おのれ‥‥」
 そして白川は闇に怯える。

「無理もないな」
 冒険者ギルドでその話を聞いた冒険者は、自業自得とは云え、少し気の毒に思う者もいた。
 冒険者であっても、死の恐怖というのは相当なものだ。戦場で臆病風に吹かれる勇者は別に珍しくはないし、無茶をするのが仕事な冒険者稼業では少しは臆病な方が良いとも云える。
「沢山死人を狩ってやろうと見通しの良い危険地帯を通ったら、亡者の大群に襲われて逃げ帰った‥‥可哀想にな」
 一人が複雑な表情で云う。
「しかし、結果的に良かったのではないか? 亡者の群れを発見したのは追討軍には朗報だし、これで道楽貴族も懲りただろう。命があって良かったじゃないか」
 二度と白川の依頼が来る事はあるまい。期待している者には残念な話だが、彼らも暇では無いし、何も無いのが一番だと冒険者は話していた。

 しかし、それから暫くして。
「また、武闘大会を開きたい」
 白川の屋敷から使いが来た。
 基本に戻って個人戦。舞台も同じ白川邸の庭。昔は使用人の家が立っていた広い庭で、一辺が約30mの正方形。今は建物は無く、所々に木が生えていて小さな池もあるがほぼ平地。
 試合のルールは魔法あり、携帯品の持ち込み可。
 約十mの間合いから始まる。
 勝利条件は、相手を殺すこと。

●今回の参加者

 ea0629 天城 烈閃(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1774 山王 牙(37歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ea8087 楠木 麻(23歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea8545 ウィルマ・ハートマン(31歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 ea8802 パウル・ウォグリウス(32歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ea8820 デュランダル・アウローラ(29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb1067 哉生 孤丈(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

夜十字 琴(ea3096

●リプレイ本文

「壊れちまったのかねぃ」
 哉生孤丈(eb1067)の独白には、怖れも含まれた。
 誰も狂人の依頼など受けたくは無いものだ。しかし。
「死んで見せろ‥‥か。ある意味で究極の道楽だな。それに付き合う俺達も俺達だが」
 天城烈閃(ea0629)の言ったように、死ぬ事を目的とした依頼に、7人もの冒険者が参加した不思議がある。狂気か正気か、それは一戦毎に冒険者が証明していく。

○一回戦第一試合
「東、閃光の射手、天城烈閃」
「西、天城烈閃、山王牙(ea1774)」
 初戦から高位冒険者同士の対決である。事実上の決勝戦では無いかと噂する者もいた。
 二人はこの依頼にて何度も対戦している。
「以前の戦いは俺の完敗だった。‥‥だが、今度は超えさせてもらう」
「天城さん、私は‥‥」
 雪辱に燃える天城と対峙して、山王の表情は晴れない。
「はじめぇ!」
 開始の合図。天城は重藤弓を構えて狙い撃つ。天城の実力なら二射や連射が可能だが、それでは山王に当たらない事を天城は思い知っていた。鋭い一撃は山王の腹に刺さる。
「くっ」
 山王が接近する間に天城は後退しながら次の矢をつがえた。撃とうとして、肉薄する山王に気付いて跳び退ろうとした。
「はっ」
 大薙刀を片手で振るう山王の膂力は尋常ではない。弓を斬られればそれまでの天城は間違ってもこれを受ける訳には行かず、大きく体ごと避けるしか無い。
 避けたつもりがかすった。天城の体を鮮血が濡らす。藪を飛び越え、天城はもう一度距離を取ろうと無我夢中に走った。
 最初の激しさはどこに行ったのか、長い鬼ごっこになった。
 見ている者には退屈だが、当事者は必死だ。一瞬のミスが敗北に繋がる。
「‥‥私の負けです」
 永遠に続くかと思われたが、山王がギブアップした。
「山王‥‥お前、勝ちを譲るのかッ」
「私は貴方に負けたと思ったからそれを伝えたまで」
 勝者、天城烈閃。

○一回戦第二試合
「勝者、パウル・ウォグリウス(ea8802)!」
「え?」
 楠木麻(ea8087)は戦いが始まる前にパウルの勝利が宣言された事に驚いて声が出た。
 本当はこの試合は楠木が戦う筈だがパウルと対戦相手を交換した。
「逃げたのではないです! 転進です!」
 が、肝心の相手が試合に来ず、パウルの不戦勝となった。
「‥‥困ったな」
 当のパウルは舌打ちしている。
「ええ?」
 楠木は何だか釈然としない。

○一回戦第参試合
「東、金髪の姫将軍、楠木麻」
「西、深紅の狂戦士、デュランダル・アウローラ(ea8820)」
 この戦いの前にひと悶着あった。
「騎士が馬に乗って戦うことに、なんの不思議がある?」
 とデュランダルが言い出したのだ。
「無茶苦茶だ!」
 当然、麻は抗議した。騎馬と歩兵の試合が不公平なのは自明であり、無論認められないと思っていた。しかし。
「なるほど、騎士が馬に乗るのは道理。許す」
 白川の判断に麻は顎が外れた。
「楠木殿も確か良い馬をお持ちのはず。乗られるが良い」
 審判役の武士はそう親切に言ってくれたが、麻は辞退した。彼女の馬術は手慰み程度でしかない。デュランダルのように己の手足の如く馬を使えなくては試合になど出せない。
「相手は麻殿か‥‥。このような依頼、受けた以上覚悟はしていたが緒戦から女性相手とはな‥。しかし、今回の相手、手加減して勝てる相手など一人もいない。全力を以ってお相手する」
 戦闘馬に乗った屈強な騎士に言われて、楠木は泣きたくなった。冒険者と言っても、人間離れした精神力を持っている訳ではない。恐いものは恐い。
「ここで逃げたのでは我が武士道の汚点! 妖精のトルク!」
 名誉欲と物欲が恐怖を上回った。
 試合開始の合図と共に麻は高速詠唱の重力波を放った。デュランダルは構わず接近する。
「‥凌いだ、覚悟」
「甘い!」
 麻がかざした手から黒い光の帯が一直線に伸びた。グラビティーキャノンの連射。そのために麻は防御力を無視した軽装で試合に臨んでいる。
「くっ」
 デュランダルの馬が転倒。騎士の刃はあと半歩麻に届かず落馬した。
「逃げちゃ駄目だ!逃げちゃ駄目だ!」
 麻は走って逃げ‥‥間合いを取る為に転進した。
「越えなくてはならぬ戦いなのだ」
 デュランダルは長剣を握って麻を追った。この戦いに騎士は鎧を着けていない。やや足に勝る麻は全力で逃げ回りながら、時折振り返っては重力波を放った。一見麻の優勢に見えるが、デュランダルの強力な一撃は麻には致命傷。
「逃げちゃ駄目だ!逃げちゃ‥」
「くっ」
 第一試合に続いて戦いは長引いた。必死で逃げる麻にデュランダルが狂化を起こす。一瞬の隙に、麻のストーンが騎士を石化した。

○一回戦第四試合
「東、浪人、哉生孤丈」
「西、陰陽師、東堂」
 冒険者の人数が一名足りないので孤丈の相手は白川縁者の陰陽師が努めた。
「それじゃ、行くんだねぃ」
 開始の合図と共に孤丈は小柄を陰陽師に投げつけた。孤丈は投擲は素人であり、あくまで牽制が目的だ。案の定というか、小柄は東堂から数mも離れて通過した。
「‥‥飛び道具を出されては勝ち目はありませんな。私の負けでございます」
 陰陽師は地面に手をついて敗北を宣言した。
「東堂、きさま!」
 あからさまな茶番に白川は怒りを示したが、陰陽師は負けと言って退出した。
「ふーん。まあ、気持ちは分からなくもないんだねぃ」
 孤丈は勝利を貰っておく事にした。背中に冷たい汗が流れる。これより先の敗北は死。果たして自分は生き残れるのか。

○準決勝第一試合
 天城烈閃VSパウル・ウォグリウス。
「ほぉ‥‥」
 試合場に現れた烈閃に、パウルは軽い驚きを感じた。弓使いとして機動力を重視し、これまで軽装弓兵として戦ってきた烈閃がヘビーアーマーにヘビーヘルムの重装備で現れたからだ。
 明らかにパウルが十手使いである事を意識した装備変更だ。十手では重い鎧は抜けない。
 しかし。
「お前さん程の人でも、命懸けとなると間違うのか?」
 戦いは序盤からパウルが烈閃を圧倒した。間合いの取れない至近距離で白兵の達人を相手に弓を使う事など不可能だ。烈閃も体捌きなら練達の士であり、これが他の相手ならまた別だったろうがパウルは山王以上の格闘巧者である。弓を庇う烈閃をパウルは滅多打ちにし、たまらず倒れこんだ烈閃を押さえつけた。
「勝負はついた‥‥な?」
「何をしておる。何故殺さぬ!」
 見物席で白川が立ち上がる。
 パウルは烈閃から体を離して宣言した。
「殺す気は無い」
「命を取れ。認めぬ、勝敗はついておらぬぞ!」
 白川の言葉にパウルは息を吐き出し、起き上がろうとする烈閃に組み付いた。
「負けぬっ」
 烈閃は弓の代わりに石を掴んで投げつけた。パウルは盾で冷静に受けて、十手で再び烈閃を滅多打ちにする。重い鎧を着けていても、何割かは有効打が入った。打撲程度の事だが、それをパウルは延々と繰り返す。
「まだだ。人一人死ぬのがどれほど労力のいる作業か‥‥」
 歴戦の勇者といっても烈閃も人の子である。最初は反撃を試みたがその隙が無いと精神は磨り減って降参したが、パウルは止めない。白川も止めない。
 意識を失った烈閃は、目覚めて勝利を知らされる。
 白川が本当に死ぬまで止めないと気付いて、パウルが棄権した。
「棄権だと? それでパウルは?」
「殺された」
 棄権を宣言したパウルは陰陽師の術で動きを奪われ、白川に斬り殺された。冒険者達は色めきだつが、白川は無表情に言った。
「心配致すな。敗者の定めゆえ、死んで頂いたのじゃ。規律が乱れれば何の為の武闘会か分からぬ。戦いが終われば生き返らせてくれるわ」
「なんて事を」
「元より覚悟の行動だったのだろう。あなたが気に病む事は無い」

○準決勝第二試合
 楠木麻VS哉生孤丈。
 死者を出した後だけに空気が重い。が、麻も孤丈も今を気にするよりとりあえず前に進む事を選ぶ。
「オラオラオラオラオラァー!」
 初っ端から麻が重力波連射で押した。孤丈の小柄はやはり明後日の方向に飛んでいく。
「‥‥駄目なんだねぃ」
 一か八かの特攻を、麻はストーンで迎え撃った。
「魔法の要諦は心の内にあり‥‥ストーン!」
 孤丈の十手を肩に受けるが、石化して楠木麻決勝戦進出。
 白川には石化が死亡と映ったので孤丈は後で高僧の解除魔法で復活する。もし石化後に砕かれていたら‥‥考えると恐ろしい。

○決勝戦
 天城烈閃VS楠木麻。
 烈閃は装備を軽装に戻し、弓も鳴弦の弓に換えた。
「はじめぇ!」
 戦いは撃ち合いになった。まず麻のグラビティーキャノンの連射。重力波で相手を転倒させてイニシアチブを握るのが楠木の戦法だが、天運が天城にあった。何とか倒れずに済んだ烈閃は二つの矢をつがえて撃つ。狙い違わず、矢は麻の体を撃ち抜いた。
「‥‥きゅう」
 倒れた楠木は虫の息だ。麻は止めを差すために烈閃が近づいてくればストーンを放とうと懸命に意識を繋ぎとめていたが、烈閃は遠間から弓を連射して女志士の息の根を止めた。
「それまで! 優勝、天城烈閃殿!」

 試合終了後、烈閃は白川の前に進み出た。
「良い戦いであったぞ。さすがは名高き天城殿じゃ」
「白川殿」
「何じゃ、褒美のことなれば‥」
「もう一度亡者達と戦う機会を貰えないか? あの時から俺が腕を上げたのは今回で証明した。今度こそ後れは取らない」
 戦いは次の物語へと続く。

 余談。
 死んだ二人は高僧の魔法により復活を果たす。格安の自費であった。