ぐらでぃえーたー・六 縛鎖

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:7〜11lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 13 C

参加人数:12人

サポート参加人数:3人

冒険期間:10月23日〜10月28日

リプレイ公開日:2005年11月05日

●オープニング

 大和の激戦の後。
 道楽貴族の白川某は馴染みの黒僧侶を呼んだ。
「紫円、わしは悟りを得たぞ」
「ほう‥‥何十年と修行する坊主が未だに悟れぬものを、白川殿が悟られたと?」
「茶化すな。それよりも、御坊に頼みがあるのだ」
 白川は上機嫌であった。
 青年の頼み事に、紫円は目を細める。

「武闘会を催したい」
 それから暫くして、また白川家の家来が冒険者ギルドを訪れる。
「今度は火炎地獄ですか、針の山ですか?」
 手代はどんな無理難題を言われるとかとすっかり身構えた。白川の要求は、冒険者を殺す所まで来ている。付き合いを考えるべきだった。
「言うな、我らも少々恐いのだ」
 声を潜めて家来は言った。
「だが、此度はそこまでの心配は無用だ。少し、変わってはいるが‥‥」
 家来は今回の形式を説明した。

「冒険者と言っても実力の違う者が居る。これでは勝敗が最初から明らかで面白く無い。いつも同じ者が勝つのでは冒険者も励みが無かろう」
 勝敗を公平にする為に、白川は強者には枷を付けると言い出した。
 今回はハンデ戦。舞台は白川の荘園である村。
 試合は一対一。15mほど離れた距離から開始するが、制限時間内であれば審判の視界外に逃げても可。
 一試合の制限時間は一刻(2時間)。決着は戦闘不能or降参or時間切れ。時間切れの場合は、白川が勝者を決める。
 また、抜きん出た力量の参加者には、他の者と対等になるように試練を与える。
「‥‥試練とは?」
「何でも、僧侶にお願いして、試合の間呪いをかけるそうじゃ」
 手代の顔が引き攣った。

●今回の参加者

 ea0629 天城 烈閃(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1774 山王 牙(37歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ea3486 オラース・カノーヴァ(31歳・♂・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea4868 マグナ・アドミラル(69歳・♂・ファイター・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea7482 ファング・ダイモス(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea8087 楠木 麻(23歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea8545 ウィルマ・ハートマン(31歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 ea8802 パウル・ウォグリウス(32歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ea8820 デュランダル・アウローラ(29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb1067 哉生 孤丈(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb1822 黒畑 緑太郎(40歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2064 ミラ・ダイモス(30歳・♀・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

キルスティン・グランフォード(ea6114)/ ラヴィ・クレセント(ea6656)/ 鷹村 十戒(ea8392

●リプレイ本文

●一回戦
 初戦は天城烈閃(ea0629)対山王牙(ea1774)。
 同じ風の志士ながら弓の烈閃と刀の牙、対照的な二人だ。
 武闘会ではこれまで三度刃を交えて一勝一敗、一度は勝負付かず。
「以前の優勝は譲られたも同然だった。今度こそ、本当の優勝を勝ち取ってみせる」
「‥‥全力でお相手します」
 開始の合図と同時に距離を取る烈閃に、盾を構えた牙が接近する。
「‥‥」
 二人の差が詰まらない。牙は焦らず、烈閃の一挙手一投足に集中した。全力で駆けながら弓を射る事は不可能。一射ごとに踏み込めば、二人の距離はいずれ零に。
 その道理は裏を返して烈閃にも通じる。走りながら建物の影に入ったりフェイントを混ぜたり、追走する牙を撹乱して距離を取りながら戦いたい。
 長い戦いになった。
 傍目には、鬼ごっこである。武芸の実力は伯仲、追いかけっこの技能に関して言えば機敏性では烈閃が勝り、走り続ける体力では牙が勝る。
「はっ‥‥はぁはぁ‥‥くっ‥」
 半刻を越えても鬼ごっこは続く。二人とも汗だくのへとへと。
 そのまま試合終了。
「‥‥勝者、天城烈閃!」
 双方に目に見えた有効打は無い。かすった程度だが何度か矢を当てた烈閃の勝ちとした。

 続く第二試合、オラース・カノーヴァ(ea3486)とジャイアントのマグナ・アドミラル(ea4868)の、ノルマンとビザンチンの戦士対決は早かった。
「‥‥行くぜ」
 両手でクレイモアを握るオラースは正面から突進する。
「‥‥」
 対する巨人マグナは動かず、無言で左手のライトシールドをかざす。オラースの一撃に耐えて、がら空きとなった胴を右手のクレイモアで薙ぐ作戦だ。
 どちらも一撃必殺の武器を手にし、流派の違いが攻守を分けたかに見える。
「あああーーッ!!」
 オラースは巨大剣を『的』目掛けて振り下ろす。渾身の一撃は小さな盾を粉砕しただけでなく、マグナの胸に深々とめり込んだ。肺が破れてマグナは血を吐き出した。
「‥‥ごふっ」
 マグナの右手が動く。タイミングは完璧、振りぬけばオラースの胴を真っ二つにする一撃は、しかし途中で手から剣がこぼれた。戦士の横腹をマグナの手が叩き、ジャイアントの体が崩れた。
「盾を壊されることは分かっていたが、腕一本と考えていた。コナン流の破壊力を見誤ったか‥‥」
 蘇生したマグナは試合をそう述懐する。コナンの一撃必殺をまともに受ければ巨人族と言えど、滅茶苦茶になる。反撃が叶うのは三度に一度と言った所か。

 第三試合は少々組み合わせの段階で揉めた。
「兄さん、お願いがあります」
 申し込みギリギリで参加したファング・ダイモス(ea7482)に、妹のミラ・ダイモス(eb2064)が対戦相手の変更を頼んだ。またファングの相手だった楠木麻(ea8087)は黒畑緑太郎(eb1822)との試合を望み、その黒畑は楠木との相手の交換を望んでいた。
「気持ちは分かりますが、双方合意が原則。次までには何か方策を検討すると致しましょう」
 係りの者は困り顔で、事前の申し合わせ通りの対戦にする事を話す。
「兄さん、どうして‥‥?」
「勝機は薄いかもしれないが、正面から戦うよ」
 ファングと麻の相性は極めて悪い。それを承知でファングは朱槍を手に取った。麻とは実力差があるとして呪いも甘んじて受けた。少し耳が聞こえ辛くなる。
「その意気や良しです! 僕も正々堂々と戦いましょう!」
 そう答えた麻は試合開始と同時に転進してファングの突撃をやり過ごし、逃げ回りながらグラビティキャノン連射とストーンで戦士を無力化して完勝した。

 第四試合は弓騎士ウィルマ・ハートマン(ea8545)と戦士パウル・ウォグリウス(ea8802)。
 この試合も、実力差があるからと先にパウルが呪いを受けた。
「何を呪うんだ?」
「‥‥」
 僧侶が彼の頭に触れて経文を唱える。パウルは目に少し疲れを感じた。
「呪いには生贄を使うと聞いたが?」
「無用な殺傷な教えに反します。それにこれも修行」
 僧侶は生贄を使わなかった。
「‥‥修行ね、そうかな」
 さて試合である。
 パウルが正面から迫るのに、ウィルマの顔は満面の笑みを湛えていた。抜く手も見せぬ速射はパウルを捉えるが、構わず距離を詰められる。
「ふん‥‥戦士より足の遅い弓兵では、どうにもならんな」
 ウィルマの笑顔は自虐のそれか。
「‥‥どうも、私は‥‥執着心に欠ける‥‥」
 女騎士に追い付いた戦士は、十手を急所に叩き込む。楽しげな顔で、その実、苦々しさに憤りながらウィルマは笑顔のまま倒れた。

 第五試合は騎士デュランダル・アウローラ(ea8820)と浪人哉生孤丈(eb1067)。
 白髪の死神とも評されるデュランダルに対すると、孤丈は格下である。
「宜しいか?」
「構いません。どうぞ」
 デュランダルには二人の僧侶が呪いをかけた。
 奪われたのは聴力と、そして腕にも痺れがあった。
 違和感に戸惑うデュランダルの前に、対戦相手が姿を見せる。
「‥‥正直気が引けるんだけどねぃ‥‥全力でいかせて貰うんだねぃ」
 現れた孤丈は、右手に長巻、左手に盾、そして猫の着ぐるみ。
「何故そんな格好を? ‥‥なるほど、ハンデは要らぬという訳か‥‥」
 11月の京都、日中はまだ温かい。全身を防寒着で覆った事は不利益以外の何ももたらさない筈である。デュランダルは孤丈の武士道に感心した。
「なんか勘違いされたみたいだねぃ‥‥」
 孤丈にはデュランダルがどんな呪いを受けたかは分からない。考慮する必要も感ぜず、この浪人は無造作に狂戦士との間合いを詰めた。
 重装甲の騎士は浪人を待ち受けてその場から動かず、偃月刀を構えた。同じ長柄の武器でも、偃月刀の間合いは長巻とは比べ物にならない。見た目はどちらも重装備だが、差がありすぎではなかろうか。
 孤丈の有利は手数だが、騎士の間合いに入る間際で立ち止まった。
「二人とも、待ちの態勢だな」
 見守る仲間達が戦術を予想する。両者ともカウンター狙いは明白だ。
 数分の間、じっと動かず対峙したが先に孤丈が動いた。力任せに振るった長巻が騎士の鎧に跳ね返る。途端、唸りをあげる偃月刀の斬撃を浪人は盾で防いだ。
「甘いんだねぃ」
 長巻で再びヘビーアーマーを叩く。鎧に打撃の大半を吸収されるが、手応えはあった。よろめくデュランダルの脳裏に、これまでの敗北の記憶が過ぎった。
「‥‥一度も、勝てぬまま終るわけにはいかないっ」
 再び偃月刀を振るう。今度は孤丈の盾が破壊された。反撃を受けて騎士の体も今にも膝が崩れそうだ。
 三度目の攻撃はわずかにデュランダルが早かった。
 偃月刀を叩き込まれて猫かぶりは地面に倒れる。着ぐるみさえ無ければ、倒れていたのは反対だったと人々は思った。それから孤丈は猫かぶり浪人と呼ばれるようになる。誇れる名前では無いが、本人はとても喜んでいた。

 一回戦最後は陰陽師の黒畑緑太郎と女騎士ミラ・ダイモスの組み合わせ。
「フッフッフッ‥‥この勝負、私の勝ちだろう。占いで、そういう結果が出ているのだ」
 ニヤリと笑い、緑太郎はミラを挑発する。
「確かに魔法使い相手は相性が良いとは言えませんが‥‥勝負はやってみなくては分かりません」
 ミラの装備はナイフだけ。兄と同じくコナン流の戦士だが、接近戦は不利と考えて投擲で勝負をつける気だった。
「フッフッフッ‥‥そこまで言うなら仕方がない。本意では無いが、魔法が使えるしね」
 勝負は一瞬だった。
 開始の合図がかかるや否や、奇声と共に腕を振る緑太郎。
 途端、ナイフをふりかぶったミラの目が眩み、抵抗できずに眠りに落ちる。
「‥‥詐欺だな」
 見ていた戦士達は自分達の天敵の完勝に眉をしかめた。
 高速詠唱による無力化魔法の使い手と言えば麻もだが、届く距離が違う。
「お前さんの弓より速いか?」
「さすがに勝てる気はしないが‥‥」
 烈閃は苦笑する。尤も閃光の射手は相討ちの自信はあったし、そもそも志士の彼にスリープは分の良い選択では無いのだが。


●二回戦、準決勝
 翌日の第二回戦は烈閃とオラース、麻とパウル、デュランダルと緑太郎が戦った。
 第一試合は烈閃が前日の疲れが残ったのか自慢の足に今ひとつの切れが無く、クレイモアを捨てて榎の小柄を使ったオラースの四連撃の前に敗北を喫した。
 第二試合は十手から長弓に装備を変更したパウルを見て、麻の表情が露骨に強張る。普段は正々堂々と転進する麻が意外にも格闘の達人の前に突進した。パウルは弓で迎撃するが、これは彼にしてみれば失策だったろう。パウルの射撃は素人並、狙わなくては当たらない。逆に言えば、格闘の素人である麻に間合いに入る事を許した。ストーンを受けて、パウル敗北。
 第三試合はデュランダルが馬に乗り、ヘビーボウに装備を変更した。戦いは長距離からの撃ちあいになるが、デュランダルは呪いを受けている。この時は視力が若干落ちていた騎士は陰陽師の姿を何度か見失い、戦いは時間切れ。デュランダルの戦法が逃げ腰と取られて緑太郎の勝利。

 準決勝第一試合はオラースと麻。
 先日に続き榎の小柄を装備した高速戦仕様のオラースに対して、正々堂々と転進がモットーの麻は本領を発揮。
「小細工は不要! 正面から討ち倒すのみ!」
「いいねぇ、俺もそういうのが好きだぜ」
 荘園の農夫を買収した麻は収穫の終わった田んぼに水を引いておいた。オラースを泥田に誘い出して動きを止め、魔法を叩き込んで麻の勝利。
 準決勝第二試合は緑太郎と補欠要員の陰陽師東堂。スリープ速攻で緑太郎が勝利したが、勝ちを譲られた気がする内容だった。


●決勝 オラース・カノーヴァ対黒畑緑太郎
 実力差が激しいとして、オラースは二つの呪いを受けた。
 足が少し重く、耳が痛い。
「楽しくはねえが‥‥大したことは無いか」
 誰の目にも短期決戦は明らかだ。小柄を握るオラースは合図と共に飛び出して、高速詠唱の魔法を浴びた。
 気がついた時には床の上だ。
「‥‥まっ、勝ち目のねえ戦いも時には仕方ねえ」
 余裕のある戦いばかりなら良い、世の中上手くはいかないものだ。