くろすかうんたー弐【神剣争奪】追跡者二つ

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:9〜15lv

難易度:難しい

成功報酬:6 G 48 C

参加人数:10人

サポート参加人数:5人

冒険期間:09月14日〜09月21日

リプレイ公開日:2005年09月28日

●オープニング

 少し前から、江戸城が不穏であった。
 町衆にはお城の中の事など計りようも無いが、どこか殺気だった旗本達の横顔から異変を感じ取っていた。
 この所、関東のあちこちが騒がしい。
 上州では新田氏が源徳に国司を任された上杉氏に反乱を起こした。水戸では死人騒ぎが頻発し、那須ではギルドの冒険者の謀反疑惑‥‥。
 程なくして、城の内外である噂が囁かれた。
 草薙の剣がこの江戸で発見されたと。


●人の噂
「面白い話だな」
「剣は神皇様がお持ちじゃあ無いんですかい?」
 江戸の冒険者ギルドで、馴染みの手代と冒険者が会話を交わしている。
「見た者はおるまい。三種の神器は神皇が持っている事になっているが、それを確かめる者もおらぬ」
「じゃあ、本物で‥‥」
 手代は途中で言葉を切った。迂闊な事を口に出すべきではない。
「剣は天照大神が神皇に授けられた神宝と聞く。それが帝の手になく、江戸に在りとは天下に乱を呼び起こす噂だな」
 冒険者は面白げに言った。
 手代はしょうがないとでも言うように溜息をつく。
 冒険者は荒事稼業であり、武士は功名出世を夢見るものなれど、庶民にとって荒事は喜べる物ではない。

●江戸城内
「先の大捕物にて逃げ果せた大前田村の英五郎、上州の素波に相違あるまい」
 江戸から上州へ至る街道を大騒ぎにして、逃げた若い博徒が居た。
「或いはその者、新田に味方しておる真田の忍びかもしれませぬな」
 博打場に踏み込んだ役人を斬って、出奔した無宿人‥‥の筈であった。
「町奉行所になど任せては置けぬか。源徳武士の誇りにかけ、草の根分けて彼奴を探し出すのじゃ」
 ‥‥。

●同心の依頼
「探索を頼みたい」
 小宮と名乗った町奉行所の同心は、冒険者ギルドに上州へ逃げた博徒英五郎の探索を依頼した。
「隠密でな」
 重々しい顔で、小宮はそう付け足す。
「何かありましたか?」
 手代が聞き、他言無用と念を押して小宮は語った。
 街道を舞台にした英五郎の逃亡劇は依頼人の思惑を外れて大層な噂になった。
 町奉行所は面子を丸潰れにされた格好だが、英五郎の捜査は打ち切りが決定した。
 上州の反乱拡大も理由の一つだが、町奉行所は一介の博徒に関わっている暇が無くなっていた。
「だがこのままにはしておかぬ。必ず英五郎は捕縛する。その為の探索を頼みたいのだ」
「分かりました。お受け致しましょう」
 上州は広いが、英五郎はこの前の一件で良くも悪くも名を売っている。
 探す手立ては無くは無いだろう。

●神剣争い
「剣だ、剣を奪ってこい」
 冒険者は伝馬町の辺りを歩いている時に口入屋の男に声をかけられた。
 普段は人足や用心棒の仕事を斡旋している男で、名を助五郎と言った。たまにやばい仕事も扱う。
「剣?」
「おめぇ、噂を知らねえのか? 江戸城の地下で神剣が発見されたって話をよ」
 冒険者はどこかで聞いたような気もしたが、与太の類と思っていた。
「与太なもんか。お城は大騒ぎだぜ。それでなぁ」
「‥‥神剣探しか」
「ああ、目星はついてる。俺も経緯は知らねえが今は英五郎って博打打ちが持っているって話だ。奴は上州に居る。そいつを是非とも奪ってきて欲しいって人が居るのさ」
 本当なら大変な話である。冒険者は依頼人を聞きだそうとしたが、助五郎は死んでも喋らないと言った。
「おめぇもこの仕事が長ぇなら、渡世の仁義は知ってるだろうが」
 しかし、二束三文で神剣探し等出来るものではない。
 そう言うと助五郎は少し考えて、首尾よく神剣を入手した時には、報酬は依頼人と直接交渉出来るようにすると約束した。

●今回の参加者

 ea0042 デュラン・ハイアット(33歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea0085 天螺月 律吏(36歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea3094 夜十字 信人(29歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea3513 秋村 朱漸(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3891 山本 建一(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4112 ファラ・ルシェイメア(23歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea5708 クリス・ウェルロッド(31歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea6177 ゲレイ・メージ(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea7901 氷雨 雹刃(41歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb0939 レヴィン・グリーン(32歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)

●サポート参加者

カイ・ローン(ea3054)/ ユウ・ジャミル(ea5534)/ 黒畑 丈治(eb0160)/ 黒畑 五郎(eb0937)/ 李 麟(eb3143

●リプレイ本文

●探索の縁 江戸
「またですか?」
「そうだ」
 ゲレイ・メージ(ea6177)はギルドで、英五郎に関して彼ら以外に別に動いているものが居ないかを調査した。
「この前も、山本さんが同じような事を仰いましたがね」
 ゲレイを見る手代の目に非難がましいものが混じっていた。英五郎を追いかけた冒険者同士の対決は街道中を騒がした。手代はあの後、随分と町奉行所に怒られたらしい。
「今度は大丈夫なんでしょうね」
 大げさに溜息をついて手代が帳面を捲っていると、そこへファラ・ルシェイメア(ea4112)が入ってきた。
「手代さん、隠密行動に長けた戦士を雇いたいんだけど」
「魔法使いなら一人余っていますがね」
 手代はゲレイを見た。
「余ってるとは酷い」
「左様で。隠密というなら、戦士より忍者ですな。しかし今直ぐとなると‥‥難しいですな」
 隠密活動の担い手達はちょうどこの時、不足していた。原因は色々とあるが、ふってわいた神剣騒動も要因の一つだろう。
「神剣か‥‥大層な話だね」
 この時はまさか自分達が騒動に関わっているとは思わないファラは仕方無いと諦めた。そのまま出発するファラに、少し遅れそうだとゲレイは伝え、再び手代に向き直った。
「忍者か、きっとそれだ。英五郎を追っている忍者は居ないか?」
「やれやれ。たかが若いヤクザ者一人を、どうして忍びが追いかけるんです?」
「そこに謎があるんじゃないか?」
 ゲレイは数人の仲間にも声をかけて、江戸で英五郎に繋がる糸口を探った。

 冒険者ギルドから二町ほど離れた裏路地。
 数人の冒険者が固まっていた。
「しかし、兄ぃ‥アイツよぉ、長物なんか‥‥持ってたか?」
 秋村朱漸(ea3513)は思い出すように言った。問われた氷雨雹刃(ea7901)は思案を中断して浪人を見る。
「さあな‥‥」
「マジに聞いてるんだぜ。俺ゃあどぉ〜〜もそいつが引っ掛かってしょうがねぇんだけどよ。なあノブ、クリスよ。お前らはどうよ?」
「え?」
 水を向けられてクリス・ウェルロッド(ea5708)はドギマギした。クリスは前回の依頼の事は隠しておくつもりだった。
「アア? 馬鹿か、おめぇ‥‥街道中の噂んなったんだぜ。今更隠すったって‥‥そーだなぁ、人相が分からなくなるくれぇ変装してみるかぁ?」
「顔は止めてね。私の顔を失ったら世界中の女性が悲しむよ?」
「いい冗談だ」
 朱漸がクリスを虐めている間に、レヴィン・グリーン(eb0939)が戻ってきた。
「騒々しいですね。何を遊んでいるのですか?」
「放っておけ。‥‥それで、何か分かったか」
 レヴィンは江戸を発つ前に助五郎に依頼の内容を再度確かめに行っていた。
「残念ながら新しい事は‥‥それより、秋村さんの話」
 クリス達は決して記憶力抜群では無いが、覚えている範囲で、英五郎は江戸を発つ時に剣らしい物は所持していなかった。
「腰に得物は差してやがったが、まさか神剣が長ドスじゃあるめえ」
「つまり、英五郎は江戸を出た後に神剣を手に入れた?」
 疑問だらけの仕事。最初から雲を掴むような話ではあるのだが。
「本人に聞けば良い話だ‥‥」
「ええ。ただ、あまり手荒な事はしたくありません。英五郎が剣を素直に渡して頂けると良いのですが」
 助五郎の仕事で冒険者達は再び上州へ向う。
 そこに、彼らの答えがある筈だ。

 江戸、下町貧乏長屋。
「失礼だが、ここにばくち打ちの英五郎と申す者が住んでいたと聞いてきたのだが‥」
「へぇ、仰る通りでございます」
 初老の大家は、いきなり訪れた天螺月律吏(ea0085)に目を白黒させた。律吏は上州探索に向った仲間と分かれて江戸での英五郎の住処を探していた。
「上州宮城村の英五郎に相違ないか?」
「間違いございません。一月ほど前まで手前どもの長屋に住んでおりましたので」
 大家に頼んで、律吏は英五郎が借りていた部屋を見せて貰った。
 荷物が片付けられた室内で律吏は床や壁を眺めて以前の住人の暮らしぶりを想像した。
「済まぬが大家殿。英五郎が親しくしていた者を教えてくれまいか?」
「はぁ。長屋の者に聞いて参りますので、お侍様はここで少々お待ち下さいますか」
 大家は律吏を残して部屋を出ると、角の部屋に入って奥で寝ていた若い男に何やら耳打ちした。
「‥‥本当かい?」
「ああ、ひとっ走り頼みたい」
 若い男は普段は飛脚でならしていた。大家の頼みに頷いて直ぐ出かけていった。
「さて、何か一つくらい有用な知らせがひっかかってくれれば良いのだが‥‥」
 律吏は英五郎の部屋で正座して大家を待つ間、上州に向った仲間達の事を思った。


●探索の奇 上州宮城村
「しかし、小物だと思っていたのですが‥‥神剣とは、とんでもない人物ですね。あれが演技だとしたら」
 山本建一(ea3891)は薄汚れた安浪人に化けて、上州へ入った。反乱が生じた上州で志士の山本が動いていると知られるのは得策では無い。
 それでなくとも探索方は目立たぬようにと苦労を強いられている。固まれば人目を引くからと、それぞれが単独行動である。
「どうだ? これで誰も私とは思うまい?」
 茶屋で会ったデュラン・ハイアット(ea0042)は山本に粗末なローブをみせびからした。デュランと言えば、いつも王様のような派手な格好の印象があるから確かに見違える。
「でも、西洋人は目立つと思いますけど」
「‥‥ふん、母親の胎内からやり直せとでも? 問題ない、ジャパン人は我々の顔など皆同じに見ているものだ」
「言われて見れば、そうかもしれませんが」
 話を変えて、山本はデュランに「また冒険者が来るだろうか」と尋ねた。
「私は予言者ではないぞ。だが嫌な予感がする‥‥冒険者くらいで済めば可愛いものだ」
 デュランは上州での連絡所にする宿屋の名前を教えて、二人は茶屋を別々に出た。

「英五郎という男を捜している。‥‥その男に、情報を持って来てな」
 夜十字信人(ea3094)は宮城村で英五郎の行方を聞いて回った。
 クリス、朱漸、雹刃、レヴィンも一緒である。
 人目を避ける探索方とは大違いだが、探索と奪取‥‥依頼の方向性の差だろうか。物が物だけに、英五郎を締め上げるだけで簡単に手に入るとは誰も考えていない。
「隠しても無駄だぜぇ。こっちの兄さんは手を触れただけで、てめぇの考えてる事何でも分かるんだぜ?」
「脅す事は無いでしょう‥‥大まかな所は間違いではありませんが。協力して頂けますか?」
 朱漸が凄み、レヴィンがリシーブメモリーの巻物を開けば村人は震え上がった。
「え、英五郎なら、もう村には居ねぇ」
「ほう‥‥詳しく話せ」
 村人の話によれば、英五郎が宮城村に戻ってから数日して見慣れない男と女が彼を訪ねてきた。英五郎はその者達と一緒に村を出たらしい。
「女? それは、どんな女性でしたか?」
 女性が関わると聞いてクリスが横から口を出した。村人は訪問者と良く話した訳では無いので人相までは覚えていなかったが、二人とも青年で英五郎とは顔見知りの様子だった。
「もしかすると奈美さんかな‥‥でも、一緒にいたのがヒースか戸川なら村人の印象に残る筈だけど」
「怪しいな」
「はぁ、確かに堅気の者には見えなかっただ。英五郎の奴、江戸で良くない連中と付き合ってたんだな」
 英五郎は三年程前にこの村を飛び出していったそうだ。剣で身を立てて侍になる夢を見ていたと言うが、暫くして江戸で博徒になった事を風の便りに知った。どこの村にも在る話だが、先日街道を大騒ぎさせて帰郷し、村人達を驚かせている。
「英五郎は、何をしでかしたんだ?」
「心配であろう。英五郎は濡れ衣を被せられている。我らは大事に至る前に何とか助けたいと思っているのだが‥‥」
 雹刃が英五郎の身を心配する振りをすると村人達は彼らを信用したようだ。
「俺は英五郎が話してるのを聞いてたんだが、英五郎は大胡に行くと言ってた‥‥頼む、英五郎を助けてやってくれ」
「大胡だな‥‥ああ、必ず助けてやる」
 英五郎の足取りを追って雹刃達は宮城村を後にした。

「あっ」
 村を出た雹刃達は街道でファラ・ルシェイメアとバッタリ遭遇する。
「‥‥」
 この時はまだお互いの仕事は知られてはいないが、先日の一件があるからどちらも偶然の再会とは思っていない。
「押し通るか‥‥」
「待てよ」
 鯉口に手をかける信人を朱漸が止める。朱漸は五対一で何も此方から仕掛ける事も無いと味方を見回して、舌打ちした。雹刃の姿が消えている。
「あの兄ィだけはよ‥‥さて、どうすっかな」
「無駄な争いは避けるべきですよ」
 レヴィンの言葉が正論だ。お宝を目の前にした戦闘はある意味望む所と思ってはいるが、意味もなくバッタリというのが一番始末に悪い。
「よぉ、また奉行所の仕事かい? ハハァ‥‥そんな面だよなぁ」
 努めて陽気に聞こえる声で朱漸はファラに話しかけた。頭の中では、この事態の収め方を計算している。
(「困ったな‥‥」)
 予期せぬ遭遇に困惑しているのはファラも同じだった。
 卓抜した風使いの彼も、一対四では勝負は見えている。
(「浪人が二人、それに弓使いとウィザード‥‥疲れているようにも見えない、なんて運の悪い」)
 ファラは後退した。
「‥‥さよなら」
 背中に手を回して箒を掴むと、ファラは空に飛び上がった。
「フライングプルーム!」
 クリスの弓かレヴィンの魔法ならファラを撃ち落す事が出来たが、冒険者達は飛び去るファラを見送った。英五郎に辿り着く前に他の冒険者達を敵に回すことは避けたかったからだ。
「知られてしまいましたね。彼が貴方の言うように奉行所の追手なら‥‥」
「ハッ、俺達が先に見つけりゃア済むこった」
 五人は多胡へ急いだ。

 上州の村々は反乱騒ぎによりピリピリとした緊張が漂っていた。街道のあちこちに武装した侍や足軽を見かけ、余所者である冒険者達は移動に苦労した。幸いだったのは実際の戦場と冒険者達の現在位置が離れていた事だろう。しかし。
「英五郎? 探しているのは宮城村の英五郎か?」
 多胡で英五郎を探した冒険者達は宮城村の郷士の息子、布施夜次郎から英五郎の消息を聞く。夜次郎は新田と上杉の戦いに参加しようと多胡に来ていたが、英五郎はここで足軽として新田勢の武士に雇われたという。
「確か、松金晴恒と申したな。今から行けば途中で会えるだろう」
「かたじけない」
 信人は教えられた道を進んだが、他の四人は足を止めた。
「その松金という武士は、ここで足軽を何人雇ったのですか?」
 レヴィンの問いに、夜次郎は顎に手を添えて思い出す素振りをした。
「そう‥‥十四、五人だったな」
「多いな」
 雹刃が呟く。襲撃するには面倒が多い、と。ましてや偶然と思えない節もある。英五郎が独りと決めてかかっていた訳ではないが、みすみす罠にかかる真似は出来ない。
「どうした? 行かぬのか?」
 信人が立ち止まった仲間達の顔を見る。
「下らぬ死合いに興味は無い‥‥」
 冒険者達はここで引き返した。
 ファラの知らせを聞いて、五人の後を追う形となった探索方も同じ道を行く。


●探索の灯 江戸
「何者だ?」
 英五郎の長屋を探し当てた律吏は、長屋の一室で黒覆面の集団に襲われた。
 腰に手をやって、刀を置いてきた事に気付く。
「‥‥くっ」
 丸腰の女侍に前後から忍者が襲い掛かる。
「やぁッ!」
 気を練り込んだ律吏は瞬間、開いた右手を前方から迫る忍者に突き出した。右の掌が光る。
 果たしてその忍者に手から生えた半透明の刃を視認できたか否か、閃光の剣が前方の忍者を切り捨て、反転して後方の忍者も斬った。
「刀が無いと見せたは兵法か‥‥さすがだな」
「いや、本気で慌てたのだがな」
 破れ障子越しに、どうやらリーダー格の忍びと対峙する。狭い室内では外の様子は半分も分からないが、どうやら十人以上は居るようだ。潜り抜けるのは無理か。
「お前達は何者だ? 私には狙われる覚えは無いぞ」
「‥‥ではこれ以上探らぬことだ。わしも忙しい、冒険者と戯れる暇は無いでな」
 周りを囲む部下達から不満を感じたが、小頭と思われる忍びの合図で忍者達は後退した。オーラソードで斬られた忍者は仲間に担がれていく。その後姿を見つめて律吏は呟いた。
「すまん‥‥」
 一人は剣が急所に入った。おそらく命はもつまい。
 忍者が去ると野次馬が集ってきたが、律吏は大家を探した。
「ご、ご勘弁を」
 大家は彼女に問い詰められると頭を床に擦り付けて小さくなった。
「あの者達は誰だ?」
「ぞ、存じません。まさかこんな事になるなんて‥‥わたしは、お城のお侍に言われたまま」
 大家の話によれば、英五郎が出ていった後に城の武士がやってきて、このあと不審な者が英五郎を尋ねてきたら番屋に知らせるようにと命じたのだという。
「城の武士?」
 江戸でお城といえば江戸城しかない。
 律吏は上を向き、9月の空を見あげた。


つづく