くろすかうんたー・参【上州騒乱】足軽二つ
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■シリーズシナリオ
担当:松原祥一
対応レベル:7〜13lv
難易度:難しい
成功報酬:5 G 32 C
参加人数:10人
サポート参加人数:5人
冒険期間:10月09日〜10月18日
リプレイ公開日:2005年10月23日
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●オープニング
江戸城の地下で諸侯が神剣を求めて争っていた頃の話だ。
江戸が在る武蔵国に隣接する上野国(上州)では、国司上杉氏に対して地元の豪族、新田氏が反乱を起こしていた。当初、小競り合いと思われた戦いは戦上手と名高い真田氏が新田氏に味方し、元々上州に鬱積していた上杉氏に対する不満も手伝って戦火は広がった。
その一端が上州と国境の長尾景春の挙兵である。
乱は摂政源徳家康が治める武蔵国にまで至り、神剣騒動と相まって風雲急を告げる展開となっていた。
「今こそ、ご奉公の時ぞ!」
「ここで手柄を立てればわしも大名じゃな」
関東の諸将、豪族は色めきだった。功名心は無論のこと、振り払う火の粉ははらわねば何の為の武士か分からない。戦乱は上州一帯から武蔵北部まで、広範囲を巻き込む事となる。
●剣の話
「草薙の剣は、結局本物か偽物か?」
「‥‥さあ?」
江戸の冒険者ギルドで、馴染みの手代と冒険者が会話を交わしている。
「しかし、剣はあったのだ。まるきりの与太では無かった事はハッキリとしておる」
「その剣も、誰かが用意したものかもしれませんよ。まあ、私達には関係の無い事ですがね」
手代の冷めた口調が、冒険者には気に入らない。
江戸城地下での探索行――その最終局面では冒険者同士が睨み合う事態もあったと言われる。ジャパンが変わると、意気込んで参加した者も少なく無い。
「誰が政治を執ろうと私達民百姓には関係ない、などと小賢しい事を言うつもりはありませんがねぇ、年貢がどうの米の値段がどうのの話ならともかく、神様の剣の話なんて私達にはとんと関心が湧きませんよ」
「そう言われては、俺が馬鹿騒ぎをしたようではないか」
「言い方が悪うございましたな。それでは、剣とは別の話を」
●上州月夜野城
追跡者の手を逃れた博徒英五郎は新田勢の侍、松金晴恒の足軽として上州北部の月夜野城に篭もっていた。
月夜野城主尾川景重は、上杉氏に対して新田の反乱が起きるとこれに呼応して戦力を集め、周囲の豪族にも檄文を送り、現在はこれに怒った上杉側の軍勢に囲まれている。
「‥‥俺はここで死ぬのか?」
「大丈夫だ、お前は俺達が必ず守ってやる」
英五郎の側には、パラの侍と大きな弓を背負った女浪人がいた。
●同心の依頼
「城の中とは‥‥英五郎の探索も一時中止せねばならぬか」
町奉行所の同心、小宮は己が探索を依頼した英五郎が月夜野城と聞くと、落胆の表情を見せた。
「そうは限りますまい」
「‥何か思案があるのか?」
「いえ思案という程の事ではございませんが、冒険者とはこのような時にこそ役に立つと、そう思いまして」
ギルドの手代は或いはこんな状況の方が、下手に隠密の探索よりも冒険者の実力が発揮されるかもしれないと考えた。何しろ、穏便にしろと言えば反対の結果を持ってくる者達である。
「城内に侵入させましょう。上手くすれば、英五郎を捕まえてこれるかもしれません」
「手代、その方ずいぶんと大胆なことを考えるな。我らには立場があると先日も伝えたであろう」
「万が一に失敗しても、小宮様の名前は出しません。そんなことをすればこれでございます」
手代は片手を首に軽く当てて見せた。
●助五郎の依頼
「しくじっただと? 情けねぇ‥‥よし、もう一度機会をやろう」
冒険者は伝馬町の辺りで口入屋の助五郎に出会った。
英五郎が神剣を持っていると言って、奪還を依頼してきた男である。
「もう一度つってもなあ、神剣は江戸城で見つかったんだろう?」
「くだらぬ無駄足をさせられたものだ」
冒険者達は口々に不平を言う。
「‥‥さあな。だが依頼人はもう一度だって言ってるんだぜ。俺としちゃあ、江戸城で何が見つかろうと関係はねえのさ」
「しかし、英五郎は城の中だぜ?」
「ちゃんと手はあらぁな」
助五郎は冒険者達を攻め手の上杉方の足軽に仕立て上げる策を持ち出した。
「そんな事が出来るのか?」
「俺をただの口入屋と思うなよ。蛇の道は蛇だ、まあ任せておけ」
近々、新田方が月夜野城に加勢を送る噂があり、その前に攻め手の攻撃があると言われていた。そのどさくさに紛れれば、英五郎を捕捉できるかもしれない。
●リプレイ本文
「――私は預言者ではないが、為すべきことは理解している」
「それは何ですか?」
「楽しむことだ。どうせ世界はなるようにしかならん。真実やら正義やら、求道者のように求める生き方は疲れるぞ。‥‥まあ、冒険を楽しむのも骨ではあるがね」
●上杉方陣中
「足軽に化けろだぁ? オイッ、これで何も無かったら、倍払って貰うかんな?」
出発前、助五郎の着物の衿を掴んで凄んだ浪人の秋村朱漸(ea3513)は、足軽隊に溶け込んで機嫌よく上州の山道を歩いていた。
「へっへっ‥‥」
「おかしくなった? 悪いのはお腹かな頭かな?」
クリス・ウェルロッド(ea5708)の冗談を、二三発の拳固で許すくらい機嫌がいい。
「テメェに言われなくても俺は病気だよ。戦が恋しくてたまらねえ‥‥カカカ、思い切り暴れて依頼料まで貰えるなんて、いい仕事だよなァ」
晴やかな顔でそんな事を話す朱漸を、クリスは憮然と見つめた。
「クリスは女性が絡まない仕事は駄目なんだよな‥‥江戸で待ってても良かったんだぞ」
相棒の夜十字信人(ea3094)が言うと、女顔のナンパ師は肩をすくめた。
「私は別に仕事の選り好みはしませんよ。ああ、だけど気品に溢れる、端麗なこの顔は足軽の格好をしても隠しようが無いですね‥‥。フ、辛い所だ」
わざわざ墓穴を掘る事もあるまいに‥‥と、朱漸と信人に弄られるクリスの姿をみて仲間達は思った。
「この人達と一緒で、目立たないようにするのは叶わぬ望みでしょうか‥‥」
レヴィン・グリーン(eb0939)はしょうがないと嘆息した。助五郎の手引きで足軽の列に潜り込んだ彼らだが、変装を工夫したレヴィンの努力も空しく、有名な冒険者とばれて上杉方の武将の前に引き出される。
「その方ら五人、何か魂胆あって我が陣に潜り込んだのか?」
「五人?」
訝しげに信人は後ろを見る。クリス、朱漸、レヴィン、それに華国僧の璃白鳳(eb1743)。氷雨雹刃(ea7901)の姿が無い。朱漸は口元を歪めた。
「いつものこった‥‥」
雹刃は腕のいい忍びだ。付け加えるなら性格は悪い。恐らく姿を隠して近くに潜んでいるのだろう。
(「どうしたものかな‥‥」)
白鳳はいくつかこの場を乗り切る方法を考えたが、この仲間達のやり方を見守る事にした。さて体力自慢の浪人達は白鳳とは頭の出来は比べるべくもないが。肩をつつきあって、信人が発言する。
「俺達は上杉に味方しようとやってきた陣借り浪人。魂胆と言えば、敵を斬り、武功をあげることだけだ」
「では何故、足軽に身を変えておった?」
陣借り浪人と足軽に明確な区別も無いが、この場合は部隊の指揮下に無い助っ人と指揮下の雇われ兵の違いを言った。
「戦の工夫にござる」
真剣な顔で信人が言うと、上杉方の武将、内藤実清は笑みを浮かべた。
「よし、ならば手柄を立ててこい」
●月夜野城内
一方、同心小宮久三郎の依頼を受けた冒険者3名は、誰の助けを借りる事無く独力で月夜野城内潜入を企んでいた。しかし足軽に紛れるという作戦は脆くも露見した。
その直後から見てみよう。
「遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ!」
鷹見仁(ea0204)は彼らを包囲する槍衾に向って、大見得を切った。
「江戸一番の美人絵師(自称)、日の本一の大剣豪(自称!)、天下無双のイイオトコ(自称!!)、鷹見仁とは俺のことだぜ!」
勇者か大阿呆か、足軽達は動揺した。なお注釈は仲間達の合いの手だ。
「僕の努力は無駄だったのか‥‥ふう」
長い耳は布を巻いて隠し、変装していたエルフのファラ・ルシェイメア(ea4112)は嘆息した。この場にレヴィンが居れば友情が生まれたかもしれない所だ。
「予想通りですが‥‥デュランさんはどこへ行ったんでしょう?」
山本建一(ea3891)は姿を見せないデュラン・ハイアット(ea0042)の事が気になっていた。期せずして二組の冒険者達は近似の体験をしていた。
「怪しい奴らだ。さては上杉方の送り込んだ間者であろう」
「とんでもない誤解だな。私達は、こちらの城で働かせて貰うつもりでやってきた。名乗りが遅れたが、私は山本健二と申す、見ての通りの浪人です」
「近頃は見てくれ通りの者ばかりでは無い故、信用は出来ぬが‥‥陣借りであれば、城の外で戦って頂く事になるが宜しいか?」
三人は顔を見合わせた。
常ならば志士の山本や侍の鷹見の待遇はもっと良くなる筈だが、上杉方に囲まれた状況では猜疑心も強くなるのは無理もない。
「仕方無い。ここで追い返されたら何の為に来たか分からないし、時期を待つか‥」
城外で待機する事になった三人に、暫くして会いに来た男が居た。
「やはりお前達だったか!」
パラ侍の戸川月斎。街道の戦いでファラ達は彼と会っている。
「誰だ、お前?」
仁とは初見だ。偉そうなガキと思ったが、パラと言われて納得する。
「まさか英五郎と一緒なのか? だったら会わせてくれ」
「‥‥ふん、会ってどうする気だ?」
戸川は三人に敵意を向けている。
「話を聞きたい。その後の事は‥‥約束出来ないが、どうなっても江戸までは俺達が守る」
仁がそう言うと、ファラが付け足した。
「もうすぐ上杉勢が攻めてくる、この城は危険だよ。その前に逃げた方がいいと思うけど」
「江戸に帰れ」
戸川は要求をはねつけた。
「あいつは俺が守るんだ。俺の経験上、冒険者を信用しても碌な事が無いしな」
●月夜野城攻防戦
戦いは冒険者達が着いた夜に突然、始まった。
「思った通り、上空の防備は薄い」
空から月夜野城に侵入したデュランは大手門の上に着地した。
「見張りはあれか?」
足軽達がデュランに気付いて騒ぎ出す。
「貴様らに恨みは無いが‥‥さらばだ」
唱えたのはストーム。指先から生じた暴風を物見櫓に叩き付ける。見張りの足軽が櫓から落下し、城内は大騒ぎとなる。
「こらデュランっ! お前はどっちの味方だっ?」
下から仁の罵声が聞こえる。デュランはニヤリと笑った。
「言うまでもないが無論、依頼人の味方だとも!」
屋根の上で胸を張る魔法使い。
「こんな事を小宮さんが喜ぶとは思いませんが‥‥私達は仕事をしましょう」
山本は仲間を誘った。どうやら戦闘が始まる気配だ。搦め手から城内に侵入する事を提案する。
「僕も、今が最後のチャンスだと思うな」
三人はデュランを残して城の裏手を目指した。
城門を占拠したデュランは上杉勢が動き出すのを見て微笑する。
城方の混乱を見て、上杉勢の先鋒が攻撃を開始した。冒険者達も動く。
「行くぞクリス、秋村。レヴィンの旦那は方向音痴だろう? しっかりと付いて来いよ」
信人は足軽に混じって先陣を競った。先陣は武士の誉れだが危険も非常に高い。上杉方の兵は信人達に先陣を譲り、冒険者達の後ろについた。
「ま、奴が見つかるまでの仲だけどなァ‥‥楽しくやろーぜ」
信人のすぐ後ろを駆ける秋村の目は、城の土塁に弓手が現れるのを捉えた。
矢雨が先頭の冒険者達に降り注いだ。
「大歓迎だ、ハッ」
秋村はレヴィンを庇うと霞刀を縦横に振るい、空中で三本の矢を打落とした。矢止めの技を持たぬ信人は体捌きで避けるが、一本、肩に受けた。
「このままでは狙い撃ちですね。視界を塞ぎましょう」
レヴィンは懐からスクロールを取り出して広げる。念を込めて巻物に記させた魔法を解放する。
「な、なんだ!?」
突如、土塁の射手から冒険者を隠すように煙が発生した。
「今のうちです」
「ほう、スモークフィールドか‥‥しかし、させんよ」
突風が煙を吹き飛ばした。
「なっ」
「英五郎に辿り着くのは、私の仲間でなくては困るのだよ」
「デュラン、この騒動屋が! ちったぁ痛い目見ねぇと分かんねぇか?」
朱漸が毒づくが、弓手の矢から仲間を守るのに手一杯で門の上までは手が出せない。デュランの方も弓矢で狙われるようになり、スクロールのシャドウフィールドを使って逃げた。
「‥‥先に行くぞ」
足軽に隠れていた雹刃が漆黒の闇に覆われた大手門に吸い込まれた。その直後、押し寄せた両軍の足軽で視界ゼロの大手門は揉みくちゃになる。
「まるで肉の壁だな‥‥打ち破れば済むことだ」
信人は足軽を踏み砕いて突破を試みるが、秋村が止めた。そんな力技は信人しか出来ない。クリスの精密射撃とレヴィンの援護魔法で弓手を黙らせた四人は疲れ果て、その時にやっと後方から辿り着いた白鳳の治療を受けた。
「テメェ、来るのが遅ぇぜ?」
「本当に申し訳も。もっと泳ぎを練習しておくべきでした」
白鳳はアースダイブのスクロールで地中を進んで城内に侵入するつもりだったが、泳げない彼は危うく地中で死にかけた。
「議論はあとだ。依頼を遂行せねばな‥‥」
回復した信人が言って、五人は大手門から城内に入る。
月夜野城は単郭の小城で、大手門が破られた段階で戦の勝敗はほぼ決した。戦いが始まる前は曇り空だったが、戦場に雨が降り出していた。
搦め手から逃げる兵の中に、博徒英五郎の姿がある。
突然、英五郎の前を進んでいた足軽の群れが突風で吹き飛ばされる。
「見つけたぞ」
仁、建一、ファラの三人が英五郎の前に姿を現した。
「貴様ら、やはり上杉のっ!」
一人の武士が冒険者達に切りかかるが、ファラのストームで吹き飛ばされた。風使いとしての実力はデュランを凌ぐ。ファラの魔法は上杉方、城方の区別なく蹂躙した。
「すげぇ‥‥」
「凄くは無いよ。僕ぐらいの冒険者は何人も居るしね‥‥どうせなら、博徒は辞めて冒険者にならないか?」
無表情のファラは英五郎に手を差しのべる。
「大丈夫だ、英五郎。俺達がついてるぞ」
英五郎を守るように戸川と弓使いの女浪人寺田奈美が立ち塞がり、建一、仁と対峙する。当惑気味の英五郎は息を吸い込み、大きな声で言った。
「よ、よーし‥‥俺も男だ! こうなったらジタバタしねぇ。どこへなりと連れてってくんな!」
ファラは僅かに驚いた顔をした。
隠れていた雹刃は舌打ちした。彼の忍術はファラとは相性が悪い。
「‥‥奴らに渡すくらいなら、いっそ‥‥」
雹刃は小太刀に手をかけたが、沈黙のあと、音も無くその場を離れた。まだ手が無い訳では無い。
月夜野城は落城したが、冒険者達は最後だけは見ずに撤退した。
小宮の依頼を受けた者達は英五郎を連れて江戸へ、助五郎の依頼を受けた者達はそれを見ていた。
「ほぅ、信人じゃないか」
仁は茶店で彼らを待っていた信人達に笑みを浮かべた。仲良しになりたいという感じではない。
「依頼は‥‥完遂する」
「協力し合えないのは残念だが‥‥ふっ、お前には一度手合わせを願いたいと思っていた」
仁は二本の刀を掴む。信人も刀の鯉口を切った。仁の側は建一、ファラ、デュランに英五郎、戸川、寺田が同行している。信人の側はクリス、秋村、レヴィン、白鳳、雹刃。英五郎は数に入らないとして6対6の五分。実力も伯仲。
一触即発の状況に、水が入った。
「無駄な争いは止めておけ」
街道の江戸側から、イギリス人の傭兵戦士が現れる。
「ヒース‥‥」
クリスが呟く。彼は江戸を発つ時に目の前の戦士を探したが見つからなかった。
「悪いが、俺はこちら側だ」
ヒースと呼ばれた戦士は英五郎の側に立った。
「‥‥それがどうした」
信人は抜こうとするが、クリスが止めた。
「腕が良いのは知ってるからね。‥‥ここで争うのは確かに得策じゃないな」
二組の冒険者は緊張したまま、その場は何事もなく分れた。
事件はそして江戸へ。
つづく