大江戸物語・三 【江戸の騒擾】見廻り

■シリーズシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:5〜9lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 74 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月30日〜11月04日

リプレイ公開日:2005年11月11日

●オープニング

 神聖暦一千年十月ジャパン江戸。

 江戸は狙われている。

 と、改めて言うまでもなく昨今の江戸周辺は騒がしい。
 神剣事件は内外に波紋を残した。上州の反乱は治まる気配が無い。死人騒動のあった水戸とは音信不通。嘘か真実か江戸に九尾の狐が現れたとの情報にギルドはおおわらわだ。怪事件の噂は後を絶たず、灯火に群がる蛾の如く、不逞の輩が流入している。
 沸き起こる江戸の騒擾。


 江戸を守る者達が立ち上がった。


●大江戸防衛隊(仮称)
「そろそろ、何か、行動しても良い頃じゃありませんかねぇ」
 冒険者ギルドに顔を出した鷹山正之に、手代が催促するように言った。
 江戸の危機を唱える鷹山は今まで二度依頼を出しているが、特にこれといった活動を行っていない。冒険者達が集って、江戸の危機を肴に酒を飲んでいると専らの噂だ。
「時期だけで動くのは危険です。いまだ陰謀の実体が掴めないのに、軽々しく動くべきでは無い。私達の活動が、騒ぎを増長し、敵を利する恐れもあるのです」
「おっしゃることも分かるのですが、私どもも商売でして‥‥」
 軽挙妄動は慎むべきとは言っても、結果を求めるのが人の心である。依頼人にギルドが仕事の内容をあれこれ言うのは筋違いに思えるが、長期の依頼では時には口も出す。冒険者からの催促もあるだろう。
「あなたは江戸の大難を、商売の道具と言われるのか!」
「‥‥と、とんでもない」
 鷹山に一喝されて手代は恐縮する。だが、その後も宥めすかして何度も言うので、鷹山の方が妥協をした。
「市中の見回り、ですか?」
「はい。町奉行も源徳公に進言して江戸の見廻りを強化したと聞きます。小なりと言えど我々も自ら町を守るべきでは無いかと思います」
 見廻りで大した成果が出るとは思わないが、悪い話でもない。
 ではそういう事で、と手代は依頼を預かった。

●裏とウラ
 鷹山邸のある久松町の外れに、門弟数人の小さな剣術道場がある。
 道場主は夢想流の使い手で上州浪人の島田鉄之進。最近、無頼の輩が出入りしていると噂のあるこの道場に、鷹山が時々顔を出しているという話がある。

「冒険者なんざ、叩けば埃の出る奴らばかりだぜ」
 元岡引の千造という男が、とある仕事で江戸に入る冒険者の事を調べていた。冒険者といえば大体が一匹狼で、昨日は東、今日は西と河岸を変えては騒動に首を突っ込む。
 様々な生業を別に持っている者が多いが、その正体は渡世人とあまり変わらない。
「それからな、久地藤十郎が江戸に戻ってきてるぜ」
「久地?」
「フレーヤに言えば分かる」


 さて、どうなるか。

●今回の参加者

 ea0176 クロウ・ブラッキーノ(45歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea0392 小鳥遊 美琴(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea0639 菊川 響(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea1160 フレーヤ・ザドペック(31歳・♀・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)
 ea6147 ティアラ・クライス(28歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 ea6388 野乃宮 霞月(38歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea9784 パルシア・プリズム(27歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb3306 万里 菊(38歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb3347 江別 阿瑚(39歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb3418 天内 加奈(28歳・♀・陰陽師・パラ・ジャパン)

●リプレイ本文

●見廻り壱
 ぼんやりと天井を眺める男が一人。
「はぁ‥‥」
 男の名は文吉。取り立てて長所は無いが、江戸の冒険者の間では少し名前の知られた青年だ。
 今年の春に心に深い傷を負い、今は無為の日々を過ごしている。
「――失礼、文吉殿はご在宅か?」
 その文吉を訪ねたのは男装の若侍に化けた小鳥遊美琴(ea0392)。男である美琴が男装とはこれ如何に‥‥妙に色気があって男色の若衆を思わせる美琴に、文吉は緊張した。
「何か用かい?」
「鷹山正之殿の郷里での人柄等お聞きしたいのだが‥‥」
「ん?」
「かの御仁は昨今、大江戸防衛と称して派手に動いておられるがご存知か?」
 美琴の問いに、文吉は面食らった。
「そういうお前さんは何者だい? どうしてそんな事を俺に聞くんだ?」
「拙者は怪しい者ではござらぬ。ただ鷹山殿の振る舞いに些か気になる点があるのだ。昔から斯様な方であったか? 回国修行にてどちらに行かれたか伺っておられぬか」
 問答無用に怪しいが、文吉もこの手の手合いとは初めてではない。
「それなら本人に直接聞くんだな。俺に聞くのはお門違いだぜ」
 破れ障子が音を立てて閉められる。
「‥‥失礼仕った。では御免」
 一礼して美琴が立ち去ると、文吉は障子を開けて美琴の後ろ姿を見送った。
「何だかなぁ‥‥」

 久松町の鷹山正之邸。
「何をするにも、人を集めない事には始まりませんでしょう?」
 鷹山の奥方が淹れてくれたお茶を頂きながら、陰陽師の天内加奈(eb3418)が一同を見回す。
「その通りですわ!」
 手を叩いて何度も頷くのは女絵師の万里菊(eb3306)。
「確かに、聴衆あっての物語だが‥」
 教師の江別阿瑚(eb3347)はふむと納得する。物書きとして一計を案じる阿瑚にも、人集めは頭の痛い問題だ。阿瑚は部屋の隅にいる僧侶に声をかけた。
「野乃宮、あんた何か策があると言っていたな?」
「ああ。俺が弄ったものが姐さんの気に入るかは別だがね‥‥一応聞くかね?」
 外を眺めていた野乃宮霞月(ea6388)は立ち上がって阿瑚達の近くに移動した。
「まぁ、では兼ねてからの阿瑚様の計画を本格的に始めますのね♪」
 菊はわくわくして、話が良く聞こえるようにと野乃宮の隣に陣取った。
「そう期待されると話難いがね‥‥講演をただ聞かせたのでは広まらぬと思うのだ。見物人を演者として‥‥いやそこまで高望みはしなくても良いが、話の続きを見物人に問いかけてな、良き意見があれば足していき、物語を繋げていくのはどうだろうと‥」
 野乃宮があれこれと説明するのを聞いて、ああと言って菊は頷いた。
「筑波の道ですのね。それは楽しい思いつき‥‥ですが、些か難しくはありませんか?」
「うむ。話を一度なりと聞いただけで参加するのは酷ではないかと思うな。続きを思いつかぬ者が多かろう」
 阿瑚も問題を提議した。野乃宮の案自体には賛成の様だが。
「字を読める人の為に、物語を収めた冊子を用意するのはどうでしょう?」
「構成も良く考えねばなるまい。聞き手の理解を深めるには何度も繰り返すことも肝心だが‥‥そう言えば三味線引きが居た筈だが、どこへ行った?」
 阿瑚と菊は野乃宮を囲んで、ああでもこうでもないと物語の講演会の相談に夢中になる。家主が居る時は、時々思い出したように「鷹山殿はどう思うか?」と意見を求めるのだが、大抵そんな時の鷹山は「それは良い思案です」と鷹揚に頷くのみだ。鷹山は三人の活動が、物語作りが主になってしまい、肝心の目的と乖離するのではと心配しているようだが、止めろとは言わなかった。
 さて、今回は座談会ばかりの仕事ではない。昼間は鷹山邸で物語の相談をする阿瑚達も夜は交代で町の巡回を手伝った。
 その見廻りが主なのは加奈、クロウ・ブラッキーノ(ea0176)、菊川響(ea0639)、フレーヤ・ザドペック(ea1160)、パルシア・プリズム(ea9784)。ひいふうみい‥‥阿瑚達を入れて人数を数えてみると依頼参加者より二人足りない。鷹山邸に寄り付かない三味線引きの小鳥遊美琴とティアラ・クライス(ea6147)である。
「噂では、二人は『大江戸が〜るず』を結成したとか」
「ガールズって‥‥」
「はい、酒場で美琴さん本人が言ってました」
 繰り返すが美琴は男である。そうか男は止めたのかと何人かが頷いた。ティアラの歌と踊り、美琴の語りと三味線で怪しげな見廻りそんぐを流して回っている。
「‥‥明らかに不審者なんだよ。それを冒険者の見廻りですって説明するのは骨が折れたよな」
 菊川響は町奉行所と揉めないように巡回のメンバーの事を先に届け出ていた。結果、菊川は連絡や報告で奉行所や番屋に何度も出向く事になったが、おかげで仲間がしょっぴかれる事態だけは起きなかった。
「町奉行所は慢性的に人不足だよな。本当なら俺達だけで巡回するんじゃなくて同心か岡引が同行してくれたら楽なんだが、とても無理だったし」
 菊川は奉行所関連だけでなく、幾つか火消しの家にも顔を出していた。季節柄火事が恐いのも無論だが、漠然とだがこの時期、冒険者達の間で炎の不安があった。それは後日に現実の物となるのだが。

「しかし‥‥この物騒な時期に市中の見廻りだけで金を払うとは、鷹ピ〜も太っ腹ですネ」
 クロウの言葉に、菊川は思索を中断して振り返った。
「そうだな。浪人にしちゃ金回りがいいよな、鷹山さん。もしかして福袋成金?」
「ふむ財テクの才があるのですネ。私も商人の端くれ、羨ましいですヨ。タダ、鷹ピ〜を越後屋で見かけた事は無いですケド」
 浪人だろうと家が金持ちなら疑問は無いが、クロウが文吉に聞いた話からは郷里では並以下の郷士だった。
「大江戸を守ろうなんて平気で言う人だ。一癖二癖はあるだろう」
 菊川は先の依頼で遭遇した鷹山の身辺を探る忍者の事を思い出した。しかしすぐ忘れる。今はそれより巡回だ。町火消しの家で不審火の事を尋ねた。
「不審火が多い場所なんて無いかな」
「おかしな事を聞くぜ。不審火てな原因が分からないから言うんだ。そう何度も起きて原因が分からないなんて事はねえ」
 不審火の多くは放火だが、特に傾向はない。焚火一つでも運が悪ければ大火となるこの時代、何度も不審火が起こる場所があればとうに焼け野原である。
「そういや火事で見初めた男に逢いたくて火事のあとにもう一度火を付けた娘の話があったな。だがこいつはもう解決してる」
 火消しの家を出ると、響は更に江戸市中に残る旧跡廻りを行おうとしてクロウに引き止められる。
「張り切りすぎデスヨー。一人で回れる距離ではありまセン」
「それは分かってるつもりなんだが」
 結果を残したいと逸る気持ちがある。冷静に考えようと思っていても焦りが考えを鈍らせた。
「人のことを笑えんな‥‥何があるのだろう、俺の手は届かないのか?」
 菊川は天を掴むように腕を伸ばした。


●幕間 大江戸がーるず『見回り☆深浅組』
(歌:ティアラ&大江戸業殺新鮮組(仮))
(語り:美琴)

 歌は世につれ 世は歌につれ

 では 張り切って歌って頂きましょう
 見回り☆新鮮組です

「貴方を見かけた江戸の町
 貴方は私に気づかない 高鳴る胸を押さえて忍び足
 そっとあなたに近づくの

 江戸の治安を守るため 不審人物たたき斬れ!
 誤認なんて気にしない覚悟不問の新鮮組!

 一つ 士道不覚悟は切腹よ
 一つ 依頼放棄は切腹よ
 一つ 放火は重罪もちろん切腹よ♪

 嗚呼
 江戸の平和を守るため、唸れせつなさみだれうち
 敵から貴重なレアモノ奪うため情け無用の新鮮組!

(中略)

切腹申し渡す」


●見廻り弐
「全然説明してくれないんですけど、フレーヤさん。久地藤十郎とは何者なのです?」
 パルシア・プリズムは眉間に皺を寄せて聞く。
 問われたのは野乃宮霞月。順番に質問したらしい。
「以前にフレーヤが関わった事件の関係者だ。そうか、奴が江戸にな。どこぞに仕官したと聞いていたが‥」
 霞月は何やら考え込み始めた。なおもパルシアが聞くと、以前に冒険者殺しの事件があり、久地は殺された親友の捜査をギルドに依頼した。その後、事件は連続殺人になったり、殺し屋が出てきたりと色々あったが、事件は未解決のまま終わった。
「もし久地の居場所が分かる事があれば俺にも教えてくれると有り難い。いや何をするアテも無いが」
 霞月は言いだしっぺの責任で物語の台本作りに忙しかった。
「努力はしていますが‥‥危険な方なのですか?」
「さて、それほど奴の事は知らないからな。俺にも分からんよ」
 霞月の言葉にパルシアは心中で嘆息した。フレーヤも千造も詳しい事は教えてくれない。何だか自分が顎で使われているようで馬鹿馬鹿しくなる。
「‥‥不安だ」
 パルシア、フレーヤ、千造の三人が久地の居場所を探した。それが江戸の危機と何の関係があるのかフレーヤはともかくパルシアには寸毫の根拠も感じられなかったが、足を棒にして探した。
 今の所、久地を見かけた者が居るという程度で、居場所や活動を絞り込む仕事は骨が折れた。
「何にしても、千造の旦那にとっちゃ吉兆だわな」
「‥‥そりゃどういう意味でえ」
「余人は知らず、旦那なら分かるだろう? 久地は騒動の種だよ、掛け値なしで。楽しくなってきたじゃないか」
 そう云って笑みをこぼすフレーヤを千造は見据えて、鼻をならした。
「ふん‥‥騒動の種はてめぇだ。半年経ってもろくでなしは治らねえか」

「そうそう、名前ですわ」
 打ち合わせの合間に絵に写す場面を考えていた万里は防衛隊(仮)の名称がまだ未定な事に気付いた。
「御伽草子創始連‥講談連? 守護創志‥? 草子考察士?考察創志士? 行察新鮮組‥悪しき行いを察する組?」
「あらあら、それは何の呪文ですか」
 落葉で燃やした焼き芋を持ってきた加奈は、難しい顔で奇怪な呟きを発する万里に微笑む。話を聞いて、女陰陽師はすとんと腰をおろす。
「そうですねぇ、それが人の集る理由となる訳ですし。とりあえず、当面の目標は”宗教団体もどき”の方向? ‥‥あ、焼き芋食べます?」
 加奈はここ数日、真面目に辻占いに立って、地味に信者もとい協力者を増やしていた。
「この前も申しましたけど、人を集めない事には始まりませんから。そこで講釈しようと、演劇しようと、お守り売りつけようと、集まる理由が他にあれば、理由がある期間だけは、皆受け入れてくれます」
 場所については、鷹山がこの近所に知り合いがやっている道場があるので話を付けてくれると言っていた。人を集めるのは彼らの手腕である。

「何者だ、金なら無いぞ」
「ちっ‥‥」
 大江戸がーるずの合間に島田鉄之進の道場を探った美琴は、留守中に道場内を物色していた所を何の偶然か戻ってきた島田に鉢合わせした。一目散に逃げる美琴の後頭部に、突然殴られたような衝撃が走る。腐ってもさすがは道場主か、島田の放った衝撃波だ。頭を振って何とか逃げ果せる。
「ふ‥‥剣呑剣呑‥‥」
 単独で調べるには限界がある。誰か仲間が居れば良いのだが。餌を撒いたにも関わらず、鷹山の周りに目に見えた変化が無い事が美琴には不満だった。
「‥‥悠長なことだ」

つづく