しかばね・壱 道
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■シリーズシナリオ
担当:松原祥一
対応レベル:9〜15lv
難易度:難しい
成功報酬:5 G 94 C
参加人数:10人
サポート参加人数:3人
冒険期間:09月28日〜10月04日
リプレイ公開日:2005年10月07日
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●オープニング
復讐。
怨嗟は木霊となり。
憤怒はその身を焦がす。
報復こそ本願。
‥‥怨敵冒険者。
神聖暦一千年ジャパン京都。
9月も半ばを過ぎて都は秋の風情を醸し始めた頃。
「熊野の事ですが‥‥」
冒険者ギルドの手代は仏頂面を更にしかめて、集めた冒険者達を見回した。
「依頼人は鬼退治で通す気ですな。報告の通り、漁村に鬼が居なかったは事実ですが、この分なら「上」を使っても結果は同じでしょう」
「‥‥馬鹿な!?」
鬼退治として引き受けた依頼。人に化生した鬼とは、村人だった。
冒険者達は劣勢を補い、依頼を果たして村は全滅した。
「領主と戦う気であれば打つ手もございますが、今はとても‥‥」
ジャパンは現在、西と東で同時に大事を抱えていた。政情不穏は治安の悪化に直結し、各地に争いの兆候が起きている。封建領主達は決して互いに仲が良い訳では無い。領土問題は日常茶飯事だが、中央が確りしている間は大人しくもしている。
「熊野もか」
「はい。‥‥良くはないですな」
冒険者ギルドが人を派遣して独自に調べた所、熊野では領主の堀内氏と他の豪族の間で諍いが起きていた。冒険者が滅ぼした漁村は堀内氏に反抗した三鬼氏のものであった。
「もう少し調べてくれるか?」
現在のジ・アースにおいて完全平和は幻だ。乱は絶えずどこかで起きたし、戦士稼業が失職する事態は今のところ心配しなくて良さそうだ。それでも戦いは嬉しいものではない。
敗者は勝者への報復を誓う。人でも鬼でも死者ですらも。
「また鬼退治をお願いしたいのですが」
堀内の家来、二木吉兼は涼しい顔で冒険者ギルドに現れた。
「何が鬼退治だ! 貴様、何をさせたか分かっているのか?」
冒険者の一人が二木に掴みかかる。
「受けられないと言われるなら、他を探しますが‥‥私の知る限り、ここが一番なのです」
今の京都は黄泉人騒ぎのあおりを受けて各地から浪人や腕自慢が集っている。兵を恃むには打って付けだが、少数精鋭という一面で考えて、新撰組や黒虎部隊の精鋭を除くなら冒険者ギルドが最強であろう。
「今度は九鬼村です。三鬼の生残りが居たのか、軍備を固めていまして‥‥相当に手強い」
二木は攻撃の中核を冒険者の精鋭に頼みたいと言った。堀内氏の侍衆も戦いに加わるが、冒険者と比べると一段も二段は劣るのは否めない。
「よろしくお願いします」
青年は、この前と同じく冒険者達に軽く頭を下げた。
●リプレイ本文
●別れ道
「時間稼ぎは任されたぜぃ」
平島仁風(ea0984)は九鬼村へ偵察に向う仲間達を見送った。
偵察は四人。神聖騎士アウル・ファングオル(ea4465)、忍びの紅闇幻朧(ea6415)、シフールの劉蒼龍(ea6647)、女騎士ウィルマ・ハートマン(ea8545)。
仁風の不審な言葉が示すように、ただの偵察ではない。
「むむ‥‥出遅れましたか‥‥」
依頼参加を遠慮した黒畑丈治(eb0160)は一人で九鬼村への先回りを考えたが、鎧を着込んだ僧兵が徒歩で仲間達を追い越す計画には無理があり、頑張ったが案内人も居ないから道に迷い、到着が遅れた。
「今の状況が分かりませんが仕方ない、九鬼村に行きましょう」
襲撃が始まっては大変と、僧兵は村への道を急いだ。
「あそこ走ってんのはクロハタじゃねーか?」
シーカーの二つ名を持つ蒼龍は目が良い。離れた場所を走る丈治の姿を捉えていた。
「一応、報告しとくか」
今回の依頼は危うい。
蒼龍は道中での事を思い出していた。
「これから行く九鬼村はどういう所かな?」
騎士のウェントス・ヴェルサージュ(ea3207)が尋ねた。
「土地の者が同行していますので説明させましょう」
侍衆とは後で合流するが、二木吉兼の他に一行には地理に明るい者など数人が同行していた。地形や予想される兵力を聞いてみると、冒険者達を数に入れても味方の劣勢が見えてきた。
「この戦力で攻めるのは無茶じゃないか?」
「戦はやってみなくては分かりません。それに今やらねば、こちらが鬼に攻められます」
「幾ら鬼ったって、人の形してやがんだぜぇ? 斬りゃあ胸の一つも痛まぁな‥」
平島仁風は依頼人に酒臭い息を吐きかけた。
「な、酔っているんですか?」
「これで呑まずにやってられるかってんだよぅ、二木ちゃんも付き合えよぅ‥うーぃ」
既に酔いの回った仁風は着物を脱ぎ始めた。
「いやいや」
浪人の奇態に、二木は困ったように笑みを見せる。
「所で、鎮圧の為にわざわざ鬼といったのはどういう意図があるかしらないが、いい趣味じゃあないな」
神聖騎士のティーゲル・スロウ(ea3108)が二木に話しかける。
「反乱は一大事だ。だが事情を知らされず悪事に加担はしたくない」
「これはしたり、鬼退治と申した筈。まあ趣味の良い戦などありませんからな。戦とはむごいものです」
鬼退治でさえ手放しでは喜ばれない。死人は出るし、戦費は民に跳ね返る。どの藩でも国中の鬼を殲滅しようとすればその前に藩が潰れるだろう。
「戦がむごいと言われるなら、何故このうえ屍山血河を築こうとされるのですか? 回避の方法もあるのではございませんか」
御神楽澄華(ea6526)が言った。
「堀内家の戦に口出しは止めて頂きたいですね。そのような事、頼んではいません」
戦いの是非を問う為に雇った訳では無いと。二木の口調は苛立っていた。しかし澄華も三鬼の一件で腹を立てている。
「私は、堀内をどうこう申しているのではありません。領民を鬼と断じて殲滅する事に、二木様方の想いをお尋ねてしているのです」
「‥私は主君の命を果たすだけですよ」
話は平行線だった。その夜のうちに澄華は金を置いて抜け出した。
●偵察
「争いに来たのでは無いです。代表者に会わせてください」
アウルは正面から九鬼村に乗り込んだ。村の周りは物々しい警戒で、すぐに武装した村人に捕まえられてアウルは中に入っていく。
「‥無茶をする‥‥」
幻朧は草むらの陰で様子を伺った。蒼龍、ウィルマも同様に離れた場所からアウルを見守っている。
「俺、真っ先に無駄な血が流れそーな気がするんだけど」
「さて世には思い悩む者の多いことよ。‥‥だがな、あれが村で血祭りにでもなれば、それはそれで都合が良いと思わんか?」
陰鬱な笑みを浮かべるウィルマに、蒼龍は肩をすくめた。
丈治、澄華に続いてアウルまで脱落する事になれば、逃げ道の確保を優先した方が良さそうだ。シフールの彼にはそれは難しい事では無いが。
「汝は冒険者と言うが、堀内に雇われた人鬼が何用で参った?」
九鬼村の侍達の前にアウルは引き出された。
「俺達は鬼退治の依頼を受けた者‥‥現在、仲間と堀内氏の侍がこの村に向っています」
「やはり‥‥三鬼の次は我らか」
アウルの話を聞いても村人に動揺は見えない。三鬼の惨状から予想はしていたのだろう。アウルは領主と争う事になった事情を聞かせて欲しいと訴えた。
「堀内の狗に聞かせることなど何も無いわ」
「俺は三鬼の件とは無関係ですよ。事情次第では此方につく冒険者も出ます。いやギルドは人殺しは請け負っていないのです。俺は妖怪退治が専門、人と判断した者を鬼と呼ばわりする依頼には、履行義務は無いと断定してます」
アウルがたどたどしいジャパン語でそう説明すると、武士の一人が大笑した。
「堀内も哀れなり。このような痴れ者を雇わねば我らと戦えぬとは。謀略か裏切りかは知らぬが、我らが信じると思うたか?」
「どうすれば信じて頂けますか?」
戦場に裏切り謀反は付き物だが、信用はされない。働きによって示す以外には。
「黙れ。見ればまだ小僧だが、よしんば裏切りが本当として、三鬼を滅ぼした冒険者をどうして我らが味方になぞ出来ようか?」
冒険者を憎む者も多い、味方にすれば村に不和が広がる。
「話は終わりか? ならば次は戦場で会おうぞ」
アウルは解放された。
「遅いから、てっきり殺されたと思ったぜ」
「‥‥成功したのか?」
「戦場で会おうと言われてしまいました‥‥あははは」
偵察隊は戻ったが、その中にアウルは居なかった。
「まぁ、放って置くと姉貴に怒られそうなんで‥‥こっちに付かせて貰いますよ」
●九鬼村の戦い
「おぉぉぉ‥いけねぇ、何か悪いもんでも食っちまったかねぃ‥‥」
仁風は涙ぐましい妨害を続けたが、彼らと堀内の侍衆は九鬼村に到着した。
仲間の秘密交渉は決裂し、村はやる気満々だという。加えて冒険者は三人が離反していた。
九鬼村には約二百人が集っているが、そのうち戦える者は百数十人。武士と思える者は十数人。
対する堀内勢は冒険者が七人、堀内氏の侍衆は三十人。そのうち侍は八人、残りは足軽。
どちらにとっても、苦しい戦いである。
「誰かを救うには誰かを犠牲にする‥‥幸も不幸も‥自ら選ぶ事などできぬ‥‥それが今の世界だ‥。あきらめろ‥‥」
戦場で、緋室叡璽(ea1289)は自問自答した。
「冒険者だ、人鬼が来たぞ!」
「‥‥依頼遂行する」
先陣を切る叡璽に続いて、仁風、ティーゲル、ウェントスが村に突撃する。冒険者の心中は複雑だが、この為に雇われたのだから後ろで見物は出来ない。
「我らも行くぞ!」
数の劣勢や離反者で士気の落ちていた堀内の侍衆も先鋒の冒険者に励まされて突撃した。ウィルマは弓で味方の突撃を援護し、幻朧と蒼龍は側面から村に侵入を試みる。
「‥‥ふん、来たか」
弓を構えたウィルマの視線の先、村の側に新たな影が三つ現れた。
「御神楽澄華、故あって九鬼村に助太刀します!」
「同じく黒畑丈治。我は、悪を滅ぼす鬼なり!」
「右に同じです」
戦闘が始まった直後、潜んでいた澄華と丈治、アウルが参戦した。
三人は動揺する堀内勢の側面を突く。
「味方が不利と見て裏切ったか? 何たる卑怯者!」
憤怒の表情で侍が槍を突き入れるが、アウルはブレーメンソードで穂先を切り落とした。
「間違った依頼を出したあんた達が悪いんですよ。恨まれるのは筋違いですからね」
アウルは侍を切り伏せる。
「戦わぬ者まで皆殺しにさせる訳にはいきませんね」
両手に金属拳をはめた丈治は村へ侵入しようとした堀内勢の前に立ち塞がる。
「私は無益な殺生は好みません。だが、無益な殺生をする者には容赦しない!」
「小憎らしき事を!」
丈治は勇敢だが格闘は素人同然。村の盾となろうとした彼は良い鎧のおかげで粘ったが、ボロ布のようにやられた。
「‥‥最悪か?」
ティーゲルは後方の混乱に足を止めた。
「これじゃ退路をふさがれて、俺達だけ孤立してしまう」
村人の攻撃を盾で受け流し、ウェントスは周りを見渡した。村に入ったのは先鋒の冒険者と堀内勢の約半分、残り半分はまだ村の外だ。
「俺達は罠に嵌ったのか‥‥」
これが九鬼村と離反者達の間で打ち合わせされた行動なら、この挟撃で堀内勢を冒険者ごと壊滅できた。しかし、九鬼村には仲間割れとしか映っていない。
離反者三名は堀内勢と九鬼勢の攻撃を受けて、沈む。
突撃の勢いを完全に殺された堀内勢に、数で勝る九鬼勢が襲い掛かった。
「手加減してやらぁ‥‥」
堀内側で一番目立ったのは蒼龍だろう。九鬼側にシフールとの戦闘を経験している者は居ない。
赤い羽妖精の武闘家は戦場を縫うように飛び、次々と村人を気絶させていく。
「蒼龍、味方が不利だ‥‥。中央の武士達を撹乱してくれないか?」
忍術で敵を翻弄していた幻朧の言葉に、蒼龍はかぶりを振る。
「武士相手じゃ俺の方が危ない。もう勝負は見えたぜ、俺は退かせてもらう」
金額分は働いたと言って、蒼龍は戦場から離脱した。
「‥‥潮時か」
幻朧も疾走の術で囲みを破って後退した。
さて、それほど簡単に行かないのが先鋒の四人だ。
多数の武装した村人に囲まれて、進退窮まっていた。
「兄の仇、冒険者! 覚悟っ」
槍を手にした長い髪の女が叡璽を横合いから突く。体を捻って躱すが、避けた先にも別の村人の刃があった。多対一、地の利も敵にあっては武芸の達人も足軽と変わらない。
堀内の侍が叡璽を狙った刃を弾いた。
「緋室殿、大丈夫でござるか!」
「助かった‥‥かたじけない」
四人の冒険者と先鋒に加わった堀内の武士達は互いの背中を守って戦う。
「埒が無いねぃ。‥‥俺が突破口を作るぜ」
十文字槍を構えた仁風に、仲間達は頷く。このままでは皆討死だ。ただ冥土の行きずりを増やす戦いより、一か八かに賭けたい。
「突撃なら俺が」
ウェントスは仁風の横に並ぶ。
最後の突撃で冒険者達は脱出したが、堀内勢の武士は多くが討ち取られた。
惨敗である。
敗れた堀内勢は追撃を振り切って熊野を逃れた。
「平島殿、槍はどうなさいました?」
帰り道、途中で拾った木の枝を杖代わりに歩く仁風に二木が声をかけた。
「戦いで折られてなぁ、捨てた」
堀内勢に無事な者は一人も居ない。軽傷はティーゲルのリカバーで回復させたが、姿はボロボロだ。仁風も足が折れている。
「折れた足は京に着けば治しますが、良ければ私の槍を代わりに使って下さい」
「ほぅ、いい槍だねぃ。良いのか?」
「あなた達が居なければ全滅していました」
二木は笑顔で言った。
「しかし、負けは負けだ‥‥」
二人の会話を聞くウィルマは呟いた。
「堀内にも三鬼にも禍根を残し、さてそれがどう出るか‥‥」
領主側の敗北は熊野に波紋として広がるだろう。
今回、曲がりなりにも冒険者の一部が反乱に加担した。人鬼、裏切り者と呼ばれてこの近辺での評判もすこぶる悪い。
まるで冒険者が戦を誘うよう‥‥
つづく