波瀾万丈乙女4〜トンデモ三姉妹またしても
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■シリーズシナリオ
担当:内藤明亜
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月22日〜02月27日
リプレイ公開日:2008年03月01日
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●オープニング
●三姉妹への裁き
ここは罪人の裁かれる場所。
目の前には、あの恐ろしい男がいる。
罪を裁く者として、誰よりも高き場所に座している。
裁かれるのは3人の姉妹。
1人はうなだれ、もう1人は口惜しそうな目で天井を見つめ、あとの1人は放心したような無表情。
男が判決を言い渡す。
「ベルーガ・イクラ、オシェトラ・イクラ、セブルーガ・イクラ。汝ら3人が犯したる罪を数え上げればきりがない。不逞なる王領代官シャギーラ・ジャロに対しての贈賄、ベクトの町の盗賊と結託しての盗品売買、ならびにハンの悪徳商人と結託しての人身売買、それら数々の罪の総計は汝らの死をもって贖わす程の重きに達する。よって我、フオロ分国の王座に座すエーロン・フオロは、汝らの全財産を没収した後に汝らを絞首刑に処し、その屍朽ちるまで晒し者と為すことをここに宣告する」
「そんな、あんまりだわ! 悪い奴等は他にもいるのに!」
姉妹の1人が言い抗って衛兵に取り押さえられ、もう1人は力を失ってよろよろと倒れ、あとの1人は意味もなく笑い続けている。
だが、男の言葉には続きがあった。
「但し、我は刑の執行までに3年の猶予を置く。3年の間に汝らが罪を悔い改め、その身をもって犯したる罪を十分に贖いし時には、死一等を減ずることをここに宣告する」
これが男の下した裁き。
迫り来る死の恐怖から解放され、呆然とたたずむ三姉妹に男は言い放つ。
「いいか、おまえ達に与えられた期間は3年だ。3年のうちに、悪徳商人がハンの国に連れ去ったウィルの民を全員連れ戻せ。人買いの片棒担いだお前達にとって、罪滅ぼしのために協力すべき事は山ほどあるぞ」
●営業再開
リリーン・ミスカは河賊上がり。冒険者出身の新ルーケイ伯に取り立てられた今は現地家臣の一人として、かつては河賊の頭目だったムルーガ・ミスカと共にルーケイ水上兵団を取り仕切っている。
しかしリリーンには秘密の過去があった。彼女の本当の名はセリーズ・ルーケイ。反逆者として先王エーガン・フオロより死を賜りし、旧ルーケイ伯マージオ・ルーケイの娘だ。ルーケイ叛乱の平定で国王軍がルーケイ領内に攻め込んだ折り、セリーズも国王軍に追いつめられて自害したと世には伝えられている。しかし真実のところ、自害したのは身代わりの娘。生き延びたセリーズはムルーガの養女となり、リリーン・ミスカと名を変えて今日の日まで生き延びて来たのだった。
そのリリーンの今の仕事はベクトの町の治安維持。ルーケイ水上兵団と冒険者の手で、町を支配していた悪代官が討伐されて後、かつての掃き溜めの町も健全な町へと生まれ変わりつつある。
先日には悪名高きイクラ三姉妹に対する裁判が行われたが、リリーンも証人として立ち会い、エーロン王が三姉妹に裁きを下すさまを見届けた。悪代官に取り入って数々の悪事に手を染めた三姉妹だが、一部の冒険者がその助命を願ったこともあってか、王の裁きは寛大なものだった。但し、その寛大さも民の反発を招かぬ程々のもの。
没収された三姉妹の財産はリリーンに預けられ、三姉妹が住んでいた豪勢な館も今はリリーンのものとなった。かつては町一番の高級娼館だったその館は、とりあえず町の酒場として営業再開。
但し、新しくつけられた店の名前がまたとんでもない。
「首吊り亭? 何だこりゃ?」
通りかかった男が店の前で首を傾げる。店の看板には首吊り縄の絵が描かれ、入口には店の目印である首吊り縄がぶら下がっている。
好奇心を刺激されて入ってみると、店の中には着飾った三姉妹がいた。今ではリリーン預かりになった三姉妹、その全員の足に重たぁ〜い鎖付き。
「お客様。罪深き私達のために、どうかご注文を」
かつては鼻持ちならなかった三姉妹も、今ではやたらと低姿勢。
「それにしても、何で足にそんな鎖を?」
「ここは私達の牢獄、そして私達は囚われの囚人だからです。店の目印の首吊り縄は、私達が犯した罪の深さを忘れぬようにとの自戒を込めて」
実はこれ、少しでもリリーン様のお役に立ちたいと、三姉妹が言い出して始めたパフォーマンスだ。店の名前も三姉妹が考えた。だけど三姉妹が囚人なのは本当のことで、酒場だって見た目は変わっているけど、実は酔狂で知られるエーロン王が公認した、れっきとした牢獄なのだ。はっきり言って晒し者、いや見世物である。
だけど、客の評判は上々。面白いもの見たさで次々と客が入って来る。
さて、酒飲んでいい気分になった客の男が帰ろうとするや、
「うわあっ!!」
驚いて腰抜かした。
だって、店の入口の首吊り縄に人がぶら下がっているじゃないか。
「何やってんだこいつは!?」
「早くこいつを下ろせ!」
ルーケイ水上兵団の警備兵達が飛んできて、首吊り男を抱え込んでその首から縄を外す。するとその男は頼み込むように言った。
「ひと思いに死なせてくれぇ‥‥俺は博打で全財産スッちまったぁ‥‥もうダメだぁ‥‥」
「バカ言ってんじゃねぇ!!」
男を怒鳴り飛ばした警備兵は、店の中の三姉妹にも苦言を呈した。
「店の名前は別なヤツに変えろ。こんな事件が何度も起きるのは御免だぞ」
●三姉妹またしても
「なんでまたこんなことになる!?」
酒場の開店早々、思わぬトラブルでリリーンは頭が痛くなった。
だがそれから程なくして、彼女のもやもや気分を吹き飛ばす知らせがエーロン王からもたらされた。
王領ラシェットの悪代官フレーデンに対する討伐令である。
「戦える! 新ルーケイ伯と馬を並べて戦える!」
冒険者出身の新ルーケイ伯はリリーンの憧れの人。ついこの前には、婚約の証しである指輪を貰ったばかり。指輪はリリーンの指にはめられ、銀色に輝いている。
「戦いの準備を急げ! 久々の大きな戦いだ!」
だが、張り切って準備に取りかかったのも束の間。
「お願いリリーン様! あたし達にも戦わせて!」
「少しでもいいからリリーン様のお役に立ちたいの!」
「決してリリーン様のお邪魔にはならないから!」
話を聞きつけて口々に頼み込む三姉妹に、リリーンはげんなり。
(「‥‥またこれか」)
かつてはベクトの町で贅沢三昧にふけり、悪党どもに顔を売っていた三姉妹だ。そりゃ、連れていけば何かの役に立つかもしれない。隠された悪事の証拠を発見したりとか、他人の振りして隠れているお尋ね者を見つけたりとか。
だけど、余計な事は一切忘れて思う存分に戦いたいリリーンにとっては、こいつら鬱陶しい以外の何者でもない。
リリーン様のお役に立ちたいといいながら、本音では自分達が助かりたい一心。少しでも役に立って、少しでも罪の負債を減らそうという魂胆が見え見え。
さあ困ったぞ。こんな時どうする?
だが、リリーンはすぐに名案を思いついた。こんな時こそ冒険者、困った時の冒険者頼み。
「そうか分かった、おまえ達のことは冒険者に任せる」
即ち、三姉妹は冒険者に丸投げ。こいつらを煮て喰うなり焼いて喰うなり生で喰うなり、好き勝手にやってちょーだい。
あ、念のために書いておきますけど、冒険者には戦場でのまともなお仕事もお任せします、一応は。
●リプレイ本文
●言い含め
こんなトンデモ三姉妹でも、助けの手を差し伸べる冒険者はいるものだ。
「本意はどうあれ、協力する気があるの良い事だ」
あくまでも前向きに解釈する長渡泰斗(ea1984)だが、その言葉を聞いて三姉妹は色めき立つ。
「必ず冒険者様のお役に立ってみせるわ!」
「どんな汚れ仕事だって引き受けます!」
「連れて行って損はさせないから!」
すると、華岡紅子(eb4412)がさりげなく木の枝を姉妹達の目の前に示し、
「でも裏切ったら、こうよ」
ヒートハンドの呪文を唱えると、灼熱化した手に握られた木の枝がめらめらと燃え出した。
え? これって火あぶりの刑?
三姉妹が顔色を変える。
「絶対に裏切ったりしないから!」
「私達を信じて!」
「約束したことは必ず守るわ!」
口ではそう言うが、いざ戦場へ連れて行ってドサクサに紛れて逃げられても困るので、泰斗も言い含めておいた。
「逃げるのであれば、それは世を捨てる事だな、また返り咲こうなんて下手な事を考えて敵方に回ったその時は‥‥裁きにかけられるまでもなく首と胴が離れると思え」
びきっ! 言って手の中で握りつぶしたのは胡桃の実。それを見て三姉妹は顔をひきつらせる。
「まあ、ちゃんとやってくれれば、上の人もそれなりに考えてくれる筈よ」
すかさず紅子がフォロー。そこは飴と鞭だ。
●治療院にて
ゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)がこれまで何度も世話になったエーロン治療院。今回の依頼でもゾーラクはその助力を求めて足を運んだ。しかし副院長のランゲルハンセルは難しい顔。
「また、来たか。用向きは何だ?」
「火傷治療用の薬草と、栄養不足に効果のある薬草を。そして救護所を設ける際、必要となるもの全ての用意をお願いしたく。勿論、代金は支払います」
「待て待て」
副院長は話を中断させる。診療室には大勢の患者、治療院は見るからに忙しい。
「君も手伝いに加われ。とにかく人手が足りん」
言われるままゾーラクも手伝いに加わり、仕事が終わった時には日が暮れていた。
「さて、先ほどの話だが‥‥」
と、副院長は話を切り出す。
「君も承知のように、この治療院は伝染病の防疫を目的として設立されたものだ。加えて来院する王都の民は数多く、必要な薬草を確保するだけでも一仕事だ。そこへもってきて、君の依頼のために薬草を大量に割いてしまうとなると、治療院本来の仕事が疎かになりかねん」
「ご協力は無理でしょうか」
「いや、それは君の支払う対価にもよる。100G、即金で出せるかね?」
大金だがゾーラクには手持ちがあった。即座に支払うと院長は協力を約束。さらに次の提案をした。
「最近は冒険者がこなす仕事も大きくなった。このエーロン治療院にも分院を作り、冒険者の手助けはそちらに任せるべきだとも思う。この件については私からエーロン陛下に進言しよう」
翌日。副院長が手配した大量の薬草と医療物資が、ルーケイ水上兵団に届けられた。
さらにゾーラクはリリーンを介してクローバー村のガーオンに依頼し、医療兵の中から本作戦への同行希望者を募らせ、その支度金として200Gを提供した。
●蒸留酒
「頼まれたブツを持ってきたぞ」
と、水上兵団の男が紅子に手渡したのは酒の小瓶。中味は地球人冒険者のアイデアを元に、水上兵団で試作した蒸留酒だ。
「たったこれだけ?」
「んな事言うなよ。これだけ作るのにどれだけ手間かかってると思う?」
ワインから作った蒸留酒だが、香りはイマイチ。だけど試しにちびりと飲んでみると‥‥。
「うっ‥‥!」
味の方はすっげぇ強烈。
ついでに普通のワインも樽ごと調達。こっちは馬で運ぶことにする。
●手紙
「きっと、最悪な事が起こるかもしれないから‥‥」
悪代官の支配下にある村人達の身を案じたルリ・テランセラ(ea5013)は、以前の依頼で出会った森の黒竜への手紙を書き、それをペットのケット・シーとフェアリーに託した。果たして黒竜が村人を助けに来てくれるのか確証は無いけれど。
●ロック鳥
囚われの身である三姉妹に脱走した振りをさせ、冒険者はその人質の役になって共に敵地に潜入。機を見て敵兵を攪乱する。これが冒険者達の立てた作戦だ。
「前は助けきれず悪かった。今回は俺らの命もおめぇに預けるわ。あんたらしく好きにやってくれ」
水上兵団の船の上で、アリル・カーチルト(eb4245)は作戦の同伴者となるベルーガに作戦を説明して、手持ちの様々なアイテムをベルーガに貸し与えた。
「無理ない程度に悪事の証拠探して、万一の時は俺らにかまわず逃げろ」
「随分と親切なのね」
と、ベルーガが言う。
「あたしみたいな死刑囚なんか放っといて、貴方が先に逃げてもいいのに」
「女に死なれると後味が悪ぃからな」
すると水上兵団の男がやって来て、岸辺を指して叫ぶ。
「おーいそこの冒険者! あれを何とかしやがれ!」
岸辺に居座っているのは全長10mの巨大鳥、アリルが連れて来た若いロック鳥だ。
「あれか? 餌代渡すから、檻に入れて預ってくれ。戦が始まったら、すぐ俺のトコへ飛んで来させるから」
「バカ言うな! あんなでかい怪物を入れとく檻なんてあるか! それに戦いの場所からどうやってあのデカ鳥を呼び寄せるんだ!」
戦いの場所は、今いる河岸を越えて何キロも陸を進んだ先。風信器でもテレパシーの魔法でも声の届かぬ距離だ。
「行きましょう。どうせここにいてもあたし達、厄介者扱いよ」
と、ベルーガがアリルを誘う。
「じゃあ、そろそろ行くか」
「ええ。行けば何とかなるわ」
そしてロック鳥は空へ羽ばたく。背中に乗ったアリルの右にはベルーガ、左にはゾーラク。
「両手に花たぁ男冥加に尽きるぜ。絶対負けらんねぇな!」
その姿をリリーンは船の上から見送る。
「上手くいくといいが‥‥」
ふとリリーンは後ろを振り返り、絶句した。
「瑠璃姫‥‥その恰好は‥‥」
「‥‥だめですか?」
セブルーガの人質役を引き受けたルリときたら、首輪と手錠と足枷と猿ぐつわ付きで泣きそうな顔。
「その‥‥何というか‥‥」
答えに窮していると、後ろから声がかかった。
「大丈夫、僕がついている」
いつの間にかルリの護り人スレナスがそこに立っていた。
●オシェトラと一緒
ここは王領ラシェットの南にある、とある貧村。
「何だ、ありゃ?」
見張りの兵士の目に映ったのは、馬に乗ってやって来る2人の女に、縄で繋がれて馬の後ろを歩く男。
「止まれ! 何者だ!?」
見張りの誰何に、馬に乗った女は偉そうに答える。
「ベクトの町のオシェトラをお忘れかい!?」
「オシェトラだと!? ルーケイ水上兵団に捕らえられていたのでは!?」
「見張りにしこたま酒を飲ませ、好きを見て脱走したのさ。ついでに見張りも人質に取ってやったよ」
オシェトラは連れの2人、泰斗と紅子を指さす。
村に貼り付いた兵士の大半は、フレーデンに雇われたゴロツキども。その間でオシェトラの知名度は高い。早速、オシェトラと2人の人質は隊長の元に通された。
「しばらくじゃねぇか、オシェトラ」
隊長もオシェトラとは旧知の仲。
「むさ苦しい所だが、とりあえず食い物はあるぞ」
出された料理は大きなパンに肉の串焼き。村は貧しいのに、自分用の食料はしっかり確保していると見えた。
「で、こちらのレディとは初対面だが?」
訊ねられた紅子は答える。自分は脱走の手引きをした協力者だと。
「オシェトラさんを是非とも助けて欲しいの。これはお近づきの印に。水上兵団が試作したスグレモノよ」
紅子の進める蒸留酒を口に含み、隊長は一瞬火を噴きそうな顔になったが、直ぐに飲み下して豪快に笑う。
「うわははは! こりゃ強烈だ!」
馬で運んで来たワインの樽も封を切り、兵士達は宴会で盛り上がる。
「さあ飲め飲め!」
紅子もお酌をさせられたり、酒を飲まされたり。
「おら人質! てめえも飲め!」
兵士は泰斗にも酒を勧めるが、
「敵の酒は飲まん!」
泰斗は酒を拒み、やがて寝入ったふりをする。
「ちょっと失礼するわ」
用を足しに行くと見せかけ、紅子は外に出るとあっちへふらふらこっちへふらふら。
「おい、間違えるな。帰り道はこっちだ」
見張りの兵士が呼び止める。
「あら、飲み過ぎちゃったみたい」
そう言って隊長の所へ戻る紅子だが、実はあちこちの家の鍵に、クイックラストの魔法をかけておいた。兵士達が村人達を中に閉じこめて火を放っても、これならすぐに逃げ出せるはず。
やがて宴も終わり、夜も更ける。紅子の寝場所はオシェトラと一緒だ。
だが、床に就いたのも束の間。ふと虹子が気付くと、武器を構えた兵士達が周りを取り囲んでいた。
「これはどういうこと!?」
狼狽するオシェトラに隊長が言う。
「全員始末せよとのフレーデン閣下のご命令だ。おまえ達が水上兵団の手先とも限らぬからな。抵抗する脱走犯を始末する際、誤って人質も殺されたことにすれば言い訳も立つ」
「そうはさせるかよ」
いつの間にか隊長の背後に泰斗が立っていた。縛めの縄は隠し持っていた短刀で切り捨てた。
「オシェトラ! 俺の太刀をくれ!」
すると隊長がにやりと笑う。
「これのことか?」
隊長の手には、泰斗がオシェトラに預けたはずの太刀が。いつの間にか奪われていたのだ。
「この人数相手に丸腰では勝てんぞ!」
言うや、隊長が剣で泰斗に打ちかかる。素早く泰斗は避け、剣は壁を打った。次の瞬間、
「うわあああっ!」
隊長がうろたえ叫ぶ。剣はボロボロの錆の塊となって崩れたのだ。紅子が放ったクイックラストの魔法が効いた。
「仕方ねぇな」
転がっていた薪を拾い、泰斗は敵兵どもをぶん殴る。紅子のクイックラストの連発で、敵兵の剣や鎧や甲が次々と錆びて朽ち果てる。
ぼがっ!
「うっ‥‥!」
狼狽する敵兵の前で、泰斗は薪で隊長をぶん殴って気絶させると、床に落ちた太刀を拾い上げて威嚇した。
「降伏しろ。さもないと‥‥」
「命だけは助けてくれ」
敵兵どもはあっさり降伏した。
●セブルーガと一緒
脱走した振りをするセブルーガに人質の振りをするルリ。2人がやって来たとある村の見張り兵は、セブルーガの顔を知っていた。
「で、何だいその、がんじがらめに縛られたお嬢ちゃんは?」
「これは商品よ。人質の役目が終わったら、ハンの商人に高値で売り飛ばすの」
「困るんだよなぁ、ここで勝手に商売やられちゃ」
とりあえずルリとセブルーガは村の中に通されたが、その夜。例のごとく2人はゴロツキ兵に囲まれた。
「悪いがフレーデン閣下のご命令だ。おまえ達には死んでもら‥‥があああっ!」
言葉も終わらぬうちに兵士の胸から噴出す鮮血、突き出す刃。叫んで倒れたゴロツキ兵の背後には、スレナスが剣を手にして立っていた。
瑠璃姫に危機迫る時、彼はいつでも現れる。
「こ、こいつをぶっ殺せぇ!」
仲間をやられたゴロツキ兵どもが怒り狂う。スレナスを取り囲み、剣で滅多突きの滅多斬り。血飛沫が派手に飛びまくる。
「いや‥‥ころさないで‥‥!」
思わず叫ぶルリ。だが滅多切りにされて床に転がったのはスレナスではなく、襲いかかったゴロツキ兵ども。あの刃の嵐をどうくぐり抜けたのか、スレナスだけが平然と立っている。その剣にたっぷりと血を吸わせて。
「本来なら皆殺しにしてやるところだが、瑠璃姫が見ている前で余計な死体は増やしたくない」
傷つき転がるゴロツキ兵どもに、スレナスは冷たく言い放った。
●ベルーガと一緒
フレーデンの築いたエアルート拠点に、空から巨大な影が舞い降りる。
「うわあ! 怪物だぁ!」
慌てふためく守備兵に、ロック鳥の背からベルーガが叫ぶ。
「水上兵団から脱走して来たわ! 人質も一緒よ! しばらくフレーデンの世話になるわ!」
「勝手なこと抜かすなベルーガ! こんなモンスターなんぞ連れてきやがって!」
既にベルーガとは見知った仲らしい守備隊の隊長が怒鳴り返す。すると近くにいた兵士がぶっ倒れて苦しみ始めた。
「痛ぇ〜! 腹が痛ぇよぉ〜!」
「この野郎! こんな時に仮病使って逃げる気かぁ!」
隊長が兵士を蹴り飛ばす。ロック鳥の背の上では、ゾーラクが困った顔。そもそも兵士がぶっ倒れたのも、ゾーラクがかけたイリュージョンの魔法のせい。最初の計画では兵士の病気を治す口実で、拠点に潜り込むつもりだったのだが。
「私は医者です! 病気の手当てなら任せて下さい!」
「怪物に乗ってくる医者など信用できるか!」
隊長には警戒され、当初の計画は台無し。
そのままロック鳥の背に乗って居座ること約半日。保存食をかじりながら時間を潰していると、フレーデンの部下の中でも偉そうなヤツが、増援の兵士達を連れてやって来た。
「フレーデン閣下の命令を伝える! ベルーガも人質も怪物も全て始末しろ!」
「始末しろだぁ!? あんなでっかい怪物をかよ!」
「ゴーレムがあるだろう! あれを使え!」
「断る! こんな仕事、割に合わねぇ!」
「貴様、閣下の命令に逆らうのか!?」
偉そうな部下と隊長の間で言い争いが始まったと思いきや、
「うわああああっ!」
隊長とその両隣の兵士2人が絶叫。彼らの目は恐怖で見開かれている。
「カ、カオスの魔物め!」
「成敗してくれる!」
実はゾーラクがイリュージョンの魔法を放ち、隊長ら3人の目には周りの人間全てが魔物に見えていたのだ。3人は拠点の中に飛び込み、引っ張り出してきたのが隠されていたフロートチャリオット。
「何をする止めろ! うぎゃあああっ!!」
偉そうな部下はチャリオットに弾き飛ばされ、周りの兵士達は大慌て。
「隊長が乱心だっ!」
暴走チャリオットに対抗すべく、引っ張り出されてきたのがこれまた隠されていたバガン。その中に兵士が乗り込もうとするや、
「そうはさせるか。やれ、フェイト」
アリルの命令でロック鳥がジャンプしてバガンを押し倒し、乗りかけていた兵士をくちばしでつまんで放り投げる。さらにロック鳥は暴走チャリオットに襲いかかり、乗っていた兵士ごとひっくり返した。敵の兵士達が立ち向かおうにも、ゾーラクのイリュージョンで同士討ちが続出して手が出せず。バガンとチャリオットはロック鳥のおもちゃ同然で、つっつき回されどつき回されて、気がつけばボロボロ。
「おっ! あんな所にグライダーが」
拠点の近くの森に隠されていたグライダーも、アリルによって早々に発見され、バガンやチャリオットと同様の運命を辿った。
●終わりよければ全てよし?
かくして討伐軍の本隊が到着する以前に、エアルート拠点は壊滅。ベルーガと冒険者2人とロック鳥に限って言えば、予想を遙かに越える戦果を上げた。
しかし、後に報告を受けたエーロン王は苦言を呈したという。
「今回はたまたま上手く行ったが、いつもそうなるとは限らんからな」
なお、ルリが黒竜への手紙を託したペット達は、黒竜の居場所が分からずやむなく引き返したとか。