波乱万丈乙女5〜ゴロツキどもに愛の手を
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■シリーズシナリオ
担当:内藤明亜
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:04月03日〜04月08日
リプレイ公開日:2008年04月12日
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●オープニング
●裁き
ここは裁きの場。裁きを受けるのは悪代官フレーデンに雇われ、ゴロツキ兵どもを指揮していた隊長の1人。
「こいつが収穫を取り上げたせいで、俺の子どもは飢え死にしたんだ!」
「こいつは、おらのお父を殴り殺しただ!」
「あたしも妹も、こいつの兵隊になぶり者にされたのよ!」
かつては悪代官の支配地で村民を搾取し、やりたい放題の乱暴狼藉を繰り返していたその男は今、数々の悪事を暴き立てる声に取り囲まれて怯えている。
「俺は無実だぁ! 俺はフレーデンの命令に従っただけだぁ! 俺は1人の村人も殺しちゃいねぇ! みんな俺の兵隊が勝手にやったことだぁ!」
訴えた途端、証人として呼ばれた村人の1人が叫んだ。
「兵隊に殺しをやらせて、それをニヤニヤ笑ってながめていたのはこの野郎じゃねぇか!」
そうだそうだと、周りの村人達も声を上げる。
もう、うんざりだ。他人の命を虫けら同然に奪いながらも、いざ自分の身が危うくなると罪を他の奴等になすりつけて生き延びようとする手合いには。
「おまえ達はこの者に、如何なる裁きを望む?」
尋ねると、村人は声をそろえて叫ぶ。
「縛り首だ!」
「縛り首だ!」
「縛り首だ!」
ここには極刑を望む大勢の証人達がいる。その望みを叶えてやることに躊躇いはない。
「汝の犯したる悪逆非道なる悪行の数々、一欠片の慈悲をかけるにも値せず! よって汝を絞首刑に処す!」
「後生だ、助けてくれぇ! 俺は死にたくねぇ! 死にたくねぇよぉ!」
男はわめきながら兵士に引っ立てられていく。だけど仕事はまだまだ終わらない。裁きを下すべき次の罪人が控えている。
●ゴロツキがいっぱい
リリーン・ミスカは河賊上がり。冒険者出身の新ルーケイ伯に取り立てられた今は現地家臣の一人として、かつては河賊の頭目だったムルーガ・ミスカと共にルーケイ水上兵団を取り仕切っている。
しかしリリーンには秘密の過去があった。彼女の本当の名はセリーズ・ルーケイ。反逆者として先王エーガン・フオロより死を賜りし、旧ルーケイ伯マージオ・ルーケイの娘だ。ルーケイ叛乱の平定で国王軍がルーケイ領内に攻め込んだ折り、セリーズも国王軍に追いつめられて自害したと世には伝えられている。しかし真実のところ、自害したのは身代わりの娘。生き延びたセリーズはムルーガの養女となり、リリーン・ミスカと名を変えて今日の日まで生き延びて来たのだった。
長らく続いたルーケイ平定戦が終わり、新ルーケイ伯との婚約成ったその後、リリーンは悪代官フレーデンの討伐戦に参戦。新ルーケイ伯のためにリリーンは奮戦し、さしたる犠牲を払うこともなく、戦いは新ルーケイ伯側の勝利に終わった。
だが勝利の後には、面倒な仕事が山ほど待っていた。悪代官の下でさんざん悪さを働いていた連中への裁きである。
殺人・暴行・婦女子の辱め・その他諸々の罪状で、リリーンが極刑に処した者の数はざっと30人余り。
勿論、悪代官に雇われたゴロツキどもの中にはたいした悪事を働かず、改悛の情を示す者もいる。
「リリーン様! これからは心を入れ替えて罪を償います! だから縛り首だけは許して下さい!」
とは言うものの、悪代官に村人を焼き殺せと命じられれば、さっさと村に火を放つような連中だ。だが先の討伐戦の中心的な役割を果たした冒険者達は、『悪代官に連座して罪を重くせず、当人の罪においてのみ裁く』という原則をうち立てた。だから殺人などの重罪に至らず改心の情を示した者に課される罰は、苦役としての奉仕活動。
「本当に苦役だけで許していただけるのですか!?」
リリーンが寛大な裁きを言い渡すや、ゴロツキの顔が希望で輝く。
「許す。だが、苦役中に刃向かえば即、縛り首。逃げようとすれば即、縛り首だ。忘れるな」
これくらいの厳しさをもって臨まねば、ゴロツキどもはなめてかかる。
それにしても、やるべき仕事が多すぎる。悪代官に雇われていたゴロツキどもへの処断ばかりではない。去年には、掃き溜めの町ベクトに居座っていた悪代官を討伐したけれど、掃き溜めの町にはゴロツキどもがいっぱい。そいつらの面倒もリリーン率いるルーケイ水上兵団は見なければいけないのだ。
「あがぁ?」
リリーンの前に引っ立てられてきたのは、悪名高きイクラ三姉妹に用心棒として雇われていたジャイアントの男、ボーマ。図体はでかいけど頭が悪い。
「おまえ、また酒を飲んで暴れたのか?」
「うがぁ」
「罰として奉仕活動。仕事の内容はおいおい伝える。次!」
続いて連れて来られたヤツを見て、リリーンは唖然。
「何だこいつは!?」
「こいつは町の風紀を乱すもんですから」
連れて来た兵士が言う。
「あの‥‥あたし‥‥ミラナって言います」
おずおずと名乗ったその者は年端もいかぬエルフの娘。‥‥いや待て、何かが違う。
殿方の劣情を露骨に誘うスケスケのドレスを身にまとい、胸元や太股を露骨に露わにしたそいつをよく見れば、れっきとしたエルフの男の子。
「おまえは何でそんな恰好をしている?」
「あ‥‥あたし、小さい頃から‥‥ずっと娼館で働いてきたんです。だから‥‥他のお仕事を知りません」
いたいけな男の子にまでそんな商売をさせるとは、流石は腐りきった掃き溜めの町だ。
いや、感心している場合でもないか。
「罰として奉仕活動。これからはまともな仕事を覚えろ」
「あの‥‥」
「何だ?」
「あたし‥‥ルーケイの伯爵様に‥‥ご奉仕したいの‥‥。殿方の喜ばせ方‥‥小さい頃から色々と教わってます‥‥あたし、伯爵様に喜んでもらうためなら‥‥どんな恥ずかしいことだって‥‥。きっと‥‥伯爵様を満足させて‥‥ごらんにいれます」
あ‥‥‥‥。思わずあからさまな想像をしてしまったリリーン。
ぞわぞわぞわぞわぞわ‥‥! 背筋を悪寒が駿馬のように駆け抜ける。
「黙れいい加減にしろもう沢山だっ!」
思わず大声で怒鳴りつけたら、ミラナは怯えてうずくまった。
「いや‥‥ミラナをぶっちゃ‥‥いや‥‥」
こんなのばっかり続いちゃ体がもたない。奧の部屋に引っ込んで一休みしていると、腹心の部下ベージー・ビコがやって来て告げた。
「また仕事が増えましたぜ。南ルーケイの魔物退治ついでに、伯が保護したゴロツキどもの面倒見です」
「またか‥‥アレクはああいう性格だからな」
寛大なのはいいとしても、こうもゴロツキが増えては人手が追い付かない。
「いっそのこと、よりどりみどりのゴロツキを100人ばかり、冒険者に任せてみるか」
ベクトの町の復興にこき使うもよし。王領ラシェットのモンスター退治に連れていくもよし。ゴロツキどもにやらせる奉仕活動のネタならたくさんある。
●惨殺死体
大河の川面を1隻の小舟が漂っている。場所は王領ラシェットの南の岸部近く。
「何であんな所に小舟が? 乗っていたヤツはどこ行った?」
川船に乗って警戒に当たるルーケイ水上兵団の警備兵が小舟に気付く。見れば向こうの小舟も、同じルーケイ水上兵団の船。不審に思い、自分の川船を近づける。
「うっ‥‥!」
小舟の中をのぞきこんだ警備兵は見てしまった。小舟の中には警備兵の死骸が2つ。全身をズタズタに噛み千切られ、もはや人間の原型を留めていない。しかも小舟の底には獣の足形のような、血の足跡がびっしり。
「これは‥‥魔物の仕業か!?」
どうやら冒険者のやるべき仕事がまた一つ、増えたようだ。
●リプレイ本文
●現地調査
ここは王領ラシェットの南、大河の畔。兵士惨殺事件の現場だ。
早くもここには、調査にやって来た冒険者たちの姿がある。新ルーケイ伯アレクシアス・フェザント(ea1565)も事件の報せを受け、急ぎやって来た。
「これもまた『東』の魔物の仕業だろうか‥‥」
ラシェット領の東、ドーン伯爵領は魔物はびこる地だ。この事件にも関連が疑われる。
「どうやらカオス勢力は、よほど水上兵団に東へ進んで欲しくないようです。近い将来、さらに東進する事を考えれば尚の事、ここで水上兵団の士気を落とすわけにはゆきませぬ」
同行するセオドラフ・ラングルス(eb4139)はそう言うが、まさにその通り。事件の早急な解決が望まれる。
船底に残る血の足跡と、全身をズタズタに噛み千切られた兵士の遺体を見るに、まるで獣に群がり襲われた感がある。1日だけの助っ人として同行した、クレリックの冒険者の見立てによれば──。
「これは、クルードもどきの仕業かもしれぬの」
ジ・アース世界のデビル、クルードによくにた魔物がアトランティスにもいる。過去のルーケイ平定戦で、盗賊・毒蛇団の村を攻略した時にそいつは現れた。体長1mにもなるネズミ型の魔物で、口から霧の息を吐き、霧に紛れて人を襲う。
「今後はラシェット領より東の警備に当たる兵士達に、銀の武器を支給することにしよう」
アレクシアスはそう決めたが、事はそう簡単には運ばない。調査に立ち会う警備兵の隊長が言う。
「お言葉ながら、このところ魔物騒ぎが増えたせいで、銀の武具が品薄になっております。金のある貴族が自衛のため買いに走るせいもありますが。これから十分な数を揃えるには手間と時間がかかるでしょう」
「取り急ぎ今日は、わたくしの所持している銀のナイフを貸し出しましょう」
セオドラフが手持ちのシルバーナイフを同行の兵士に貸し出すと、一行は現場に近い大河の岸辺を調査。だが、事件解明の手がかりは見つからなかった。
●TFW
悪代官や悪党どもがいなくなり、一時は火が消えたようにひっそりしていたベクトの町も、今では少しずつ賑わいを取り戻している。だけど、街のお店は健全な営業が原則。夜になって警備兵が見回っていると、夜遅くまで店を開けている酒場があって、中でゴロツキたちが騒いでいる。
「こらぁ、お前ら何遊んでやがる!?」
店の中に踏み込んで怒声を張り上げると、ゴロツキたち混じってセオドラフの顔があった。
「セオドラフ殿、貴方も一緒でしたか」
酒場のテーブルの上には地球人冒険者の発案で作られた遊戯具、TFWの人形がずらり。ゴロツキたちはゲームの真っ最中で、遊び方を教えているのはゲームに詳しい地球人の冒険者だ。
「これも職業訓練です。1人でも達人に育てば、将来歓楽街の目玉になりましょう」
「では、良き勝負を」
警備兵が一礼して去ると、ゴロツキたちは再び盛り上がる。
「今度は負けねぇぜ!」
●ロバと馬
ロバの鳴き声は凄まじい。
「ガヒーン!」
「ガヒーン!」
「ガヒーン!」
さしものオラース・カノーヴァ(ea3486)も音を上げた。
「あーうるせぇ!!」
動物好きのゴロツキたちに馬の世話を教えようと、ルーケイ水上兵団の者に金を渡して馬市に行かせたら、ロバを5頭も連れて戻ってきた。
「どうしてロバばっかりなんだ?」
「ゴロツキに馬なんざもったいねぇ。それに、いい馬は他の買い手に買われちまった。だけど馬も2頭、いちおうは手に入ったぜ」
そういって連れてきた馬は、病気持ちでぐったりしている馬に、すっかりヨボヨボの老馬。
「どっちも馬市の売れ残りだ」
「しゃーねぇな」
とりあえず、手に入れた動物たちの世話をゴロツキたちにやらせてみる。
「馬の世話が上手いならどこにいったって重宝されるぜ。ロバに桶を積んで、街の中を水売りをして歩くのもいい。子どもでも出来る仕事だ」
周りを見れば、物珍しさに集まってきた子ども達の姿がちらほら。だけど、老馬を預けられたゴロツキは、深〜いため息。
「俺も年取ったらこうなるのか‥‥」
「いきなり落ち込んでんじゃねぇ! もっと明るくなれよ!」
教育中の飯はオラースの奢り。教育を終えると、街の酒場でみんなと一杯。
「やり方は一通り覚えたな? 明日からは自分だけでやってみろ」
「親分はもういっちまうんですかい?」
「悪いが別件の仕事があってな」
翌朝、オラースは皆より一足先に起きて、兵士惨殺事件の調査に向かう。
「‥‥もう俺も戦いを忘れて生きてェよ」
戦いの日々はいつまで続くのだろう?
●不審者
ケンイチ・ヤマモト(ea0760)はゴロツキたち相手に楽器の演奏や歌を教え続けた。
「最初から上手くなろうと焦らずに。音楽は心で表現するものです。まずは習う本人が楽しくなければ。つまらない感じで覚えようとしても無理ですし」
教える相手は顔のいいヤツ愛想のいいヤツを選んだけれど、人相の悪いゴロツキの中にも、歌や楽器の心得のある者はいる。
「それでは、街の酒場で演奏してみましょうか」
「俺のこの顔じゃ客が逃げ出しませんかい?」
「では、化粧やら仮面やら着ぐるみやらでごまかしますか」
行った先はイクラ三姉妹のあの店。店の前では晃塁郁(ec4371)が大道芸を披露中で、その軽業に見とれる人々の輪が周りに出来ている。
「では、行きますか」
ケンイチの一行と落ち合った塁郁は共に店の中へ。店の中には三姉妹のオシェトラとセブルーガが、足に鎖付きで控えていた。挨拶ついでに塁郁は贈り物を手渡し、ケンイチは姉妹に求める。
「私が駆け出し楽師の彼らをよろしくお願いします。それから人身売買とか、盗品売買の調査にも助力をお願いします」
しかし、姉妹2人は残念そうに言葉を返した。
「協力したいのは山々だけど‥‥」
「あたし達は執行猶予中の死刑囚。この足の鎖を外して自由には動けないのよ」
さあ、どうしよう?
すると、着ぐるみで人相悪い顔を隠したゴロツキが言う。
「ケンイチの旦那、ここはあの手で行きやしょう」
‥‥で、準備は整った。
「この恰好で町中に行けと?」
「はい」
オシェトラとセブルーガはネコ型動物っぽい着ぐるみ着せられて、だけど顔は丸出しで、頭にはケモノ耳。ほっぺには炭でヒゲまで描かれていたり。で、乗せられた馬車は囚人護送用の檻付き馬車で、『猛獣注意』というでっかい札付き。町の中には字の読めない者だっているから、そこは着ぐるみ男が大声で触れて回る。
「猛獣にご注意! 猛獣にご注意!」
ケンイチはリュートを弾き歌いながら、塁郁は大道芸を披露しながら共に馬車の横を並んで歩き、その後からはゴロツキの楽師たちがぞろぞろと。町の子ども達はやいのやいのと囃し立て、面白がって馬車に石を投げてくる者もいる有様で。
「良い子の君たち、猛獣に石を投げないでね」
塁郁はにこやかに注意してその場のムードを和ませる。通りすがりの者も、面白がって足を止めて眺めていたり。
「ほう。あれがベクトの町の名物、『晒し者』ですかな」
そんな感じで町を練り歩き続けたが、しばらくしてオシェトラがケンイチを呼び寄せ、その耳にこっそり囁く。
「馬車の後をこそこそついてくる怪しいヤツがいるわ」
オシェトラの指差す先を見れば、確かに不審者がいる。
「顔に見覚えは?」
「ハンの悪徳商人の手先をやっていた男の1人よ。今も町の様子に探りを入れているのよ」
ケンイチは塁郁に合図を送る。適当な場所でパレードを解散させると、2人は不審者に近づいた。
不審者はすぐに感づいた。2人に背を向け、狭い路地に駆け込む。ケンイチはとっさにリシーブメモリーを唱え、塁郁はそのまま男を追跡。やがて男は町の外れ、大河に面した船着場にたどり着く。そこにはウィルの隣国ハンの国の旗が停泊しており、男は船の見張りに合い言葉らしきものを告げ、船の中へ駆け込んだ。
ひとまず塁郁はケンイチの所へ戻る。
「何か分かりましたか?」
「記憶の断片が魔法にひっかかりました。『ヴァイプス殿は真のドーン家当主殿と‥‥』という内容です」
●復興支援
30人ばかりのゴロツキが、川船から船着場に下り立った。ここは王領ラシェットの西の端。
「この領地は悪代官によって荒らされてこのような状態だ。お前達の中にも似た境遇の者達もいる事と思う。村の者達とも協力して立て直して欲しい」
ペガサスの馬上からゴロツキ達に訓戒するのはアレクシアス。ここに連れて来たゴロツキ達の中には、南ルーケイでの魔物事件で彼が保護した食い詰め者たちもいる。彼らは更生の意志を見せていたので、リリーンから預かったゴロツキ達のお目付役を任せた。
ゴロツキ達が望めば、復興後の村での暮らしも保証。但し、悪さや逃亡を図った場合は拘束し、理由を聞いた上で相応の処罰を。労働の報酬は奉仕活動という事を鑑みて、ウィルの一般的な価値観に則した金額を支払う。
以上を言い含めると、アレクシアスはゴロツキ達を仕事にかからせた。
仕事内容は、廃村同然に荒廃した村の再建。現場指揮は長渡泰斗(ea1984)で、彼も手先の器用な者達を10人連れてきていた。これまでは盗みで生きてきた連中だが、工作の技術を覚えさせれば真っ当な働き口にも就けよう。
「やることは柵や家屋の修復。体力に余裕の有る者には村の用・排水路の修繕にも参加してもらおうか」
とはいっても、泰斗が得意とするのは戦場での工作作業。1日がかりの仕事でボロ家や用水路を修復したが、見栄えが悪い。
「こんなもんでいいんですかねぇ?」
と、ゴロツキも心配そうに尋ねてきた。
「なぁに、敵が攻め寄せてきた時に持ちこたえる強さがあれば、それでいい。お主ら、工兵として練度を積んでいっても問題はあるまい? 寧ろ国にとっては益となるのではないか?」
その日の仕事が終わると、アレクシアスはリリーンの元に向かった。自分が身近にいる間だけでも、彼女を労ってやらねば。
●治療院分院
ラシェット領の大河の畔、通称フェイクシティの建設予定地では治療院分院の建設も進む。さる冒険者の根回しがあり、あの軍師ルキナスも全面的に協力。
「だって、紅子の頼みだもんな」
アリル・カーチルト(eb4245)はアレクシアスに借りたデクを使い、奉仕活動のゴロツキ達にも手伝わせ、ルキナスの描いた図面に従って分院を建設。出来た建物はそこそこに広い丸太の家で、中には急ごしらえのベッドが並ぶ。
で、ここにはイクラ三姉妹の長女ベルーガが呼び寄せられていた。勿論、足には逃走防止の鎖付き。
アリルは彼女にスカーレットドレスを贈り、自分の手伝いを頼む。手が離せない時のゴロツキの監督や治療活動の手伝い、それに救急医療を教える際の手本の実験台も。
「ドレスを着るような仕事でなくてすまねぇが‥‥コイツで頼みの代価には足りるかい?」
「これをあたしに?」
ベルーガは深い赤色のドレスをとても気に入ったようで。
「気に入ったわ。ありがとう」
あのミラナも看護師の候補者で、塁郁からもらったジャーニージャケットとホワイトガウンを着て立っている。
「この格好で‥‥ご奉仕するの?」
「おいおい、ご奉仕だからって俺に体を密着させるな」
準備が整うと訓練開始。アリルが選んだ対象者は、ゴロツキの中でも性格が比較的穏やかで、かつ手先が器用もしくは頭の回転が速い者たちを10名。病人相手の仕事だから、なるべく健康で丈夫な人間を選んだ。
「いいか、寸暇を惜しんでなるべく多くの患者を公平に看病すんだ。救命は一分一秒を争う場合もある。グダグダ関係無い事に時間を浪費するような奴はハったおすぞ」
虫退治や掃除から薬品の扱い、病人食の作り方、怪我の応急手当のやり方、救急の心臓マッサージや人工呼吸などなど。とにかく時間のある限り、アリルは教授しまくった。人工呼吸の練習では、皮袋を利用した練習具を用意。これを呼吸で膨らませるのだ。
「阿呆! そんな強く吹いたり吸ったりじゃ相手の内臓が破裂しちまわぁ! コラそこ! 自分が呼吸困難になってどうすんだ!」
ともあれ治療院分院の出だしは、そこそこに快調。
●モンスター退治
「毒蛇団の首領はカオスの魔物の尖兵じゃった。毒蛇に魅入られた者は、その姿を魔物に変え、討たれたと聞く。首領も最後は散った。悪とされる者の末路は、その魂の救済も危うい。その様な最後を遂げるより、此処で更生する気は無いか?」
七刻双武(ea3866)はゴロツキ達に言い聞かせると、彼らを連れてラシェット領の東の森に向かう。モンスター退治が目的だが、森には野生化した豚が多かった。
「すげぇな爺さん、動物の息で居場所が分かるなんて」
ブレスセンサーの魔法が使える双武に、ゴロツキは感心する。双武の指導に従い、ゴロツキ達はちょっとしたスポーツ気分で豚を狩っていたが。
「うわあああっ!」
悲鳴が響き渡る。森には動く屍が潜んでいたのだ。腐って腐臭を放つ人間の死体が、生身の人間の肉を求めて襲い来る。
「ぬかったか!」
双武のブレスセンサーも、息をすることのない魔物は感知できない。だが双武の反応は速かった。ライトニングサンダーボルトを放って牽制をかけるや、太刀「三条宗近」を抜いて魔物に迫り、素早く斬り付ける。魔物が弱ったとみるや、双武は声を張り上げた。
「怯むな! 行け!」
その声でゴロツキ達が攻撃を繰り出す。得物は双武の貸し与えたスピア。魔物は幾本もの槍に貫かれて倒れ、双武が周りを見回すと、ゴロツキ達の自分を見る目がまるで違う。皆、双武の強さに感服していた。
●さらなる襲撃
兵士惨殺事件の調査は続いている。
「川で魔物に襲われたとなると、岸辺で獣に乗り込まれたか、空から襲われたか。水中からと言うのもあるが流石にそれは此処の主が見過ごすまい」
そんな泰斗の言葉を聞き、同行の警備兵が言った。
「南ルーケイの水精霊様のことか? 確かにこの辺りも、あちらの管轄になるのだろうな」
「また水姫殿やケルピー連中に臍を曲げられては適わんでな、早めに片付けたい所だな」
そう言って泰斗が空を見上げれば、きっちりと編隊を組んで空を飛ぶ水鳥の姿があった。この辺りは水鳥が多いのだ。
「ん? 何か妙だな」
共に行動するオラースが、泰斗の隣で呟いた。
「どうした?」
「水鳥って、あんなきっちり編隊組んで飛ぶものなのか?」
しばらくして。
「おい、何だありゃ?」
遠くの川面に立ちこめる霧が、オラースの目に映る。奇妙なことに、霧は岸辺近くの一箇所に固まっている。やがて霧は消えたが、嫌な予感がした。
「行ってみるか」
先ほど霧の現れた場所に冒険者たちは向かう。そこには1隻の小舟が漂っていた。漁師の舟だが、小舟は血まみれ。中には惨殺された漁師たちの死体が転がっている。
「やられたか!」
だが、漁師の1人はかろうじて生きており、オラースのポーションで一命を取り留めた。