波乱万丈乙女7〜疾風怒濤の結婚式
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■シリーズシナリオ
担当:内藤明亜
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:06月21日〜06月26日
リプレイ公開日:2008年06月30日
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●オープニング
●リリーンの憂鬱
王都ウィルに教会というものが建てられたことを初めて知ったのは、もう2年も前になるだろうか? 教会というものを持ち込んだのは、ジ・アースという世界から来た天界人。ウィルとジ・アースを結ぶ月道が開いたことで、ジ・アース人たちは王都でその数を増していたが、彼らはセーラという大精霊を崇めていると聞いていた。教会はジ・アース人がセーラを祀る御堂なのだ。
でも、あの時には思いも寄らなかった。まさかジ・アース人と結婚して、教会で結婚式を挙げる未来が待っていただなんて。
気がつけば結婚式まで、指折り数える程に日が迫っている。
祝福を受け、あの人と結ばれる輝かしい日はもうすぐ。
なのに‥‥。いつの間にか心に忍び寄り、喜びの輝きを吸い取っていく黒い影は何?
分かっている。魔物だ。
人々を脅かし、傷つけ、時には命までも奪っていく魔物ども。
ついこの前も魔物との戦いが起きたけれど、あの時はむざむざ魔物を取り逃がすことになってしまった。それが口惜しい。
‥‥おや、誰かがやって来た。男と女だ。
「リリーン・ミスカ殿、我々は魔物の手から結婚式を守るためにここへ来た」
●カオスマン
リリーン・ミスカは河賊上がり。冒険者出身の新ルーケイ伯に取り立てられた今は現地家臣の一人として、かつては河賊の頭目だったムルーガ・ミスカと共にルーケイ水上兵団を取り仕切っている。
しかしリリーンには秘密の過去があった。彼女の本当の名はセリーズ・ルーケイ。反逆者として先王エーガン・フオロより死を賜りし、旧ルーケイ伯マージオ・ルーケイの娘だ。ルーケイ叛乱の平定で国王軍がルーケイ領内に攻め込んだ折り、セリーズも国王軍に追いつめられて自害したと世には伝えられている。しかし真実のところ、自害したのは身代わりの娘。生き延びたセリーズはムルーガの養女となり、リリーン・ミスカと名を変えて今日の日まで生き延びて来たのだった。
その後、フオロ王家と旧ルーケイ伯爵家との確執にも決着が付き、リリーンは新ルーケイ伯と婚約。結婚式の段取りも順調に進み、挙式まであと数日を残すのみとなった。
だが、彼女の心は晴れやかでない。大河を行く船を狙い、襲撃を繰り返す魔物どものせいだ。『霧吐く鼠』と呼ばれるカオスの魔物、その群れを率いるのは邪悪なるカオスマンだ。
話はおよそ1ヶ月前、魔物との戦いの時にさかのぼる。
「ウワーハッハッハッハ!!」
大河の岸辺に、奴は高笑いとともに現れた。全身、入れ墨だらけのムキムキの筋肉男だ。しかもスキンヘッドの頭にはナチスの鍵十字の入れ墨と666の数字。こいつ、地球人か!?
「俺はカオスマンだ!」
名乗りを上げたカオスマン。その攻撃の矛先を向けられた新米冒険者は、まさに不幸としか言いようがない。
「ぬああああーっ!!」
雄叫び放って背負い投げ、続いて飛び足蹴りの連続攻撃。
「ぐわっ! ぐふっ!」
ぼきっ! ぼきっ! 骨にヒビが入り、折れる音。カオスマンの猛攻の前に、新米冒険者は絶体絶命。
突然、ムーンアローの光の矢が、カオスマンの体を貫いた。
「ぬああっ!?」
矢の飛んで来た方をにらみつけるカオスマン。その目に駆けてくる2人の冒険者が映る。
「ウワーハッハッハッハ!! 次に会う時には貴様らの命、無いものと思え!!」
捨て台詞を吐くや、カオスマンの手が魔法印を結び、その口が高速詠唱で魔法呪文を唱える。と、カオスマンの体を魔法の炎が包み込んだ。
「ウワーハッハッハッハ!!」
魔法炎をまとうカオスマンの体が、鳥のごとく空に舞い上がる。ファイヤーバードの魔法だ。カオスマンの姿は高笑いと共に遠ざかり、やがて冒険者たちの視界から消え失せる。
「逃げられましたか」
ムーンアローを放った冒険者のバードが、口惜しげにつぶやく。すると、一緒にやって来たもう1人が言った。
「それでもあの男が逃げ去る間際に、リシーブメモリーの魔法でその記憶をつかむことが出来ました。あの男は『カオスの魔物と契約を結んだ地球人』、その記憶が確かに残っていました」
●結婚式防衛作戦
新ルーケイ伯とリリーン・ミスカの結婚式の日が間近に迫りつつある中、リリーンの元を訪れたのは元合衆国軍兵士ゲリー・ブラウンと、元救援活動家のエブリー・クラスト。共に地球からアトランティスに来た冒険者で、同じ地球人のテロリスト・シャミラを追い続けていたのだが、シャミラが冒険者の味方になってからは仕事がなくなって手持ちぶさた。‥‥と思いきや、今は追うべき対象をテロリスト一味からカオスの魔物へと変えて、頑張っているらしい。
「で、結婚式を防衛するために協力すると?」
「その通りだ。我々も冒険者ギルドの報告書からカオスマンの情報を得たが、奴はカオスの魔物と手を結んだ地球人。その行動パターンはテロリストと似通っているから、長らくテロリストを追い続けてきた我々になら、その行動を予測できる。奴等は間違いなく結婚式を狙う。ウィルの為政者と人々を恐怖で脅かすなら、結婚式という公式行事を魔物テロでぶっ潰すのが最も効果的だ。だが我々は断じて魔物テロを許さない。必ず阻止してみせる」
「カオスマンについて何か情報を得たのか?」
ゲリーに代わり、ジプシー魔法を習得するエブリーがリリーンの問いに答える。
「フォーノリッヂの魔法を使って、未来を予知したの。最初に見えたのは、灰と煤だらけになって教会の前で呆然と立っている新ルーケイ伯と貴女、次に見えたのは、教会の屋根で高笑いするカオスマン」
「つまり結婚式はカオスマンにぶっ潰されると?」
「私たちが何の努力もしなければ」
「もう一度、未来を見てもらえるか?」
「いいわよ」
エブリーはリリーンの前でフォーノリッヂの呪文を唱え、新ルーケイ伯・結婚式・襲撃という3つの言葉を指定して未来を垣間見た。その表情が硬く強張る。
「見えたわ‥‥。霧よ。結婚式を祝福しに教会の前に人々が集まった時を狙い、魔物が霧を起こして人々の自由を封じるわ。そこへカオスマンがファイヤーボムを放ち、人々は霧の中でパニック状態に」
「‥‥そうか、それが奴等の手口か」
手口が明かになれば、対策を講じることが出来る。なにより人望厚き新ルーケイ伯の結婚式だ、結婚式を守ろうという者は数多く名乗り出た。
「ルーケイの現地家臣たちが率いる防衛隊、アネット領の元領主と元騎士たちの戦力、シャミラ率いる対カオス傭兵隊‥‥こんなにも戦力が集まるのか?」
これにリリーン配下のルーケイ水上兵団を加えれば、まるで合戦でもやらかすかのような大戦力。
「なんて、おおごとに‥‥」
思わず頭を悩ませるリリーン。すると、母親のようにリリーンの面倒を見てきたムルーガが、笑って言った。
「いいから新郎新婦は余計なことに頭を悩ませず、結婚式のことだけ考えてな。邪魔しようとする魔物のことは、他の連中に任せておきなって」
●リプレイ本文
●迷い
──セリーズには笑顔でこの日を迎えて欲しい。カオスの手の者に邪魔などさせない。
「‥‥さて、教会での宣誓だが。リリーンとセリーズ、どちらの名で宣誓する?」
「考えさせて‥‥」
彼女は迷っている。
「俺は思うんだが‥‥これはセリーズ・ルーケイに戻る良い機会ではないかな?」
「え!?」
「亡くなった父上も、セリーズの親友も、喜ばれる事と思う」
「アレクがそう言うなら‥‥でも、もう少しだけ考えさせて」
●お膳立て
アレクシアス・フェザント(ea1565)とリリーン・ミスカの結婚式まで、残すところあと数日。
「さて、とうとう結婚式本番ですねぇ。まぁ、トラブルは尽きませんけど‥‥」
信者福袋(eb4064)以下、冒険者達は忙しく動き回っている。参列の貴賓やパレードに集まる庶民へ配る引き出物、警備兵に振る舞う祝い酒、そして教会へのお布施。資金的には財力豊かなルーケイ水上兵団が、バックについているから問題は無いけれど。
「披露宴では席順に祝辞のお願いと順番を。それと料理の調達方法と献立も‥‥」
「で、ご注文は?」
気がつけば福袋の目の前で、マリーネ姫お付きの料理人がどっしり構えている。披露宴の会場は王都の貴族街にある姫の館だから、披露宴の料理作りも彼が仕切ることになる。
「ここは新郎殿の故郷の味でキメるかね? それとも新婦殿の好みに合わせるかね?」
「ええと、アレクシアス様はジ・アースのノルマン出身ですから、フランス料理ということになりますかねぇ」
「ふらんす料理? 初耳だが詳しく教えてくれるかね?」
結局、福袋は味にうるさい料理人との打ち合わせを、延々と続ける羽目になった。
「で‥‥あとは、余興の音楽家や芸人の手配に隠し芸の募集‥‥。ところで、御祝儀ってウィルに存在しますかねぇ?」
もちろん、新郎と新婦には様々な祝いの品が贈られる。
披露宴会場の飾り付けや、ケンイチ・ヤマモト(ea0760)が育てたゴロツキ楽団のリハーサルにも、手伝いに仲間が駆けつけてくれている。
「では、音合わせをやってみましょう」
せ〜の。
ブィ〜♪ プワ〜♪ ビョ〜♪
ゴロツキ楽団、なんだか音が調子っ外れ。
「あはは‥‥これでは結婚式まで特訓が必要ですね」
●対抗手段
と、このように結婚式の準備が進む一方で、その裏側ではカオスマンへの対策が着々と講じられていた。例えば七刻双武(ea3866)。
「ストームの魔法でファイヤーボムを相手に投げ返せるじゃろうか?」
対カオス傭兵隊の協力の下、試してみたが。
「行きますっ!」
ファイヤーボムの使い手が火球を放つ。双武はストームで迎え撃つ。
ヒュウ! 放たれた火球は双武のぎりぎり横を通り抜け、背後で爆発。
ボウウウン!
「ご覧の通りだ。ストームの魔法が跳ね返せるのはアイスブリザード、ファイヤーボムの魔法に対しては不可能だ」
隊長シャミラが解説する。
「そうか、それは残念じゃ」
「何か考えでもあったのか?」
「うむ、実はな‥‥」
双武が自分のアイデアを話すと、シャミラは関心を見せた。
「なるほど、ストームにはそういう使い方があったか。演出には役立つことだろう。試しにやってみるか」
●パレード
「ルーケイ伯、リリーン様、ご結婚おめでとうございます」
頭にはムーンティアラとローズヴェール、体には羽飾りの衣装をまとい、大道芸人に扮した晃塁郁(ec4371)が、新郎と新婦にぺこりとお辞儀。
「よろしく頼む」
と、新郎アレクシアス。これから教会に向かって結婚式のパレードが始まる。
「大丈夫かしら?」
新婦リリーンは塁郁の施した化粧のお陰で、輝くばかりに見えるけれど、内心では落ちつかなさそう。敵が襲ってくるのなら、真っ先に自分が剣を抜いて立ち向かいたいのだろう。
「大丈夫だ。ここは仲間達に任せて」
新郎が新婦の耳に囁く。
「ところで、名前は決まったか?」
「決めたわ。宣誓はセリーズ・ルーケイの名で」
「そうか」
微笑むアレクシアス。そしてパレードは始まった。
先導はケンイチ率いるゴロツキ楽団。ゴロツキとは言っても、今日は派手な衣装で着飾って、パレードに賑やかな色を添えている。続いては大道芸人の一団で、歩きながら芸を披露しては観衆の目を楽しませるが、その中には塁郁の姿もある。
「おおっ! あれが噂の新ルーケイ伯!」
「新婦殿もなんとお美しい!」
噂のカップルを一目でも見ようと、道の両側は人で埋め尽くされ、天蓋なしの馬車に乗って進む新郎新婦に祝福の言葉が投げかけられる。
「新ルーケイ伯爵様、万歳!」
「新たな奥方様に万歳!」
「お二方に竜と精霊のご加護を!」
アレクシアスの愛馬、儀礼用に飾らせたペガサスのオフェリアも、馬車のすぐ側を進んでいる。
パレードを見下ろす高い建物からは、祝福の花びらが撒き散らされる。天界で行われるというライスシャワーにあやかって、ルーケイの特産品である米も雨のように降り注ぐ。その役目を担うのはルーケイ水上兵団の兵士。セオドラフ・ラングルス(eb4139)の発案で、周囲の高い建物にはカオスマンの出現に備えて、パレードの盛り上げ役を装った兵士達が配置されている。
ただし一箇所だけ、警備の手薄に見える建物があるが、これもセオドラフの策。実はこの建物の目立たぬ場所に、セオドラフは精鋭の兵士と共に身を隠していた。
●メッセージ
女医ゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)が結婚式のために設置した救護所は、披露宴会場であるマリーネ姫の館の中だ。元々が大きな建物で敷地も広いから、救護所としても十分に活用できる。貴賓の患者は客室に、民衆の患者は庭に設営したテントの中に。
だけど、今は披露宴も始まっていないし、酒の飲みすぎとかで患者が出るのはまだまだ先の話だ。それでゾーラクは王都の教会の入口で、参列者の受付を担当している。
「リボレー・ワンド子爵様ですね? ようこそおいで下さいました。お席は向かって右側の‥‥」
参列者を案内していたゾーラクだが、その言葉が急に途切れる。
「どうしたのだね?」
「ええ、その‥‥少しお待ちを」
仲間からテレパシーで連絡が入ったのだ。しばらくその場を離れ、ゾーラクもテレパシーでの連絡に専念する。
(「ディアッカからの連絡です。カオスマンが行動を開始した模様、警戒してください」)
ゾーラクからのメッセージを受け取ったのは、パレードの先頭に立つケンイチ。
(「分かりました」)
ケインチは建物の上で待機するセオドラフに、同じくテレパシーでメッセージを伝え、さらにすぐ近くで大道芸を披露する塁郁や、馬車の中の新郎新婦にもそれとない仕草で合図を送る。
「ついに始まるぞ」
アレクシアスが囁き、リリーンの顔に緊張が走る。すぐにアレクシアスは付け足した。
「これはあくまでも『余興』だ」
それが冒険者達の作戦だ。観衆にパニックが広まるのを防ぐべく、カオスマンの襲撃も予め用意された余興のように見せかけるのだ。
「うまくいくのかしら?」
新郎は余裕の微笑みを浮かべた。
「冒険者はベテラン揃いだ、必ず成功する」
●観衆の中の魔物
(「デティクトアンデットで1匹の魔物を突き止めました。小動物に化けて、観客の中に紛れ込んでいるようです」)
(「たった1匹ですか。5匹ちょうどなら、シュターゼンレミエラの力で5本のムーンアローを放てるのですが‥‥やむを得ません」)
ケンイチとテレパシーで会話を交わし、塁郁は長弓「鳴弦の弓」を手に取る。
「観衆の避難を‥‥魔物がいます! 逃げてください!」
周囲の観衆に呼びかけたが、誰も動かない。それもそのはずで塁郁は大道芸人の恰好だ。
「何、魔物だって?」
人々は余興のつもりで、ただ眺めている。周囲を固める警備兵に誘導させようにも、彼らとも事前の打ち合わせをしていない。
やむなく塁郁は長弓「鳴弦の弓」をかき鳴らす。その弦の音は近くにいる魔物の動きを鈍らせる。
ヤマモトは高速詠唱でムーンアローの魔法を放った。
一番、近くにいる魔物に当たれ!
放たれた光の矢は観衆の中に吸い込まれ、人々の足元にいた小さなネズミを貫いた。
「ギィエエエーッ!!」
沸き上がる断末魔に塁郁はひやりとして、再度の探知魔法を試みたが、もはや魔物は感知できない。遠くに逃げられたか、それとも近くの誰かに始末されたか? 観衆が壁になって確かめることが出来ない。
しばらくすると、観衆の中から双武の声が上がる。
「塁郁よ、安心致せ!」
魔物は退治されたと、双武は身振りで示している。魔物に止めを刺したのは双武の太刀「三条宗近」。対カオス傭兵隊と連携した行動のお陰で、双武は確実に魔物を仕留めることが出来たのだ。
「やれやれ、こっちはやりにくそうだ」
新郎新婦の馬車の後に付いてくるもう1台の馬車、そこから周囲をうかがいながらアリル・カーチルト(eb4245)は呟く。見たところ霧吐くネズミどもは着実に退治されているらしく、観衆のそこかしこから合図が上がる。周囲の観衆には分からなくても、魔物退治の当事者にだけは分かる合図だ。
「こりゃ、対カオス傭兵隊に手柄全部持っていかれるかな? ‥‥さて、予想通りならそろそろ出番だが」
アリルは馬車の中に身を潜める3人に声をかける。
「準備は出来たか?」
3人の女の声が返ってきた。
「はい、お兄様」
「はい、お兄様」
「はい、お兄様」
彼女達はアリルがエーロン王の許可を貰い、連れ出したイクラ三姉妹。お兄様と呼ばせるのはアリルの希望だ。
突然、空から猛々しい笑い声が。
「ウワーハッハッハッハ!!」
魔法炎を身にまとい空を飛ぶ影。カオスマンだ。ついに奴が現れた。
●カオスマンを倒せ
「あれは何だ!?」
「鳥には見えねぇぞ!」
人々が騒ぐ中、カオスマンはパレードを臨む物見の塔に下り立ち、空に向かってファイヤーボムを1発放つ。
ボウウウウン!
それは観衆の中に潜む魔物への合図となるはずだった。
だが、何も起こらない。
「ええいネズミども、何をしているっ!?」
怒鳴ったが後の祭り。霧吐くネズミは全て退治されていた。
しかもその塔は、セオドラフが精鋭兵と共に身を潜めていた塔。警戒が手薄と見せかけて誘き寄せたセオドラフの罠に、カオスマンはまんまと引っかかった。
ビュン! セオドラフの不意打ち、レミエラ装着の鞭がカオスマンの左腕を絡め取る。
「もう逃がしはしません!」
「おのれぇぇ!!」
カオスマンは鞭をひっつかみ、鞭ごとずるずるとたぐり寄せる。
「うわ、何という馬鹿力‥‥!」
そこへ助けが飛び込んできた。フライングブルームに乗ってきた2人の冒険者だ。
「くらえ!」
「覚悟っ!」
「ぐああああっ!!」
どがっ! どすっ!
塔の上で組んず解れつの格闘戦。ついにカオスマンは冒険者ともども塔の下へ落下。下に建っていた小屋の屋根をぶち破り、そのまま大通りへ転げ出た。
「下がれ! 下がれ!」
声を張り上げる警備兵。観客の目は目の前の乱闘に釘付けだ。
「阿呆が! 貴様はもう下がってろ!」
突然に響いた怒鳴り声はアリルの声だ。
ブゥゥン!
怒鳴ったついでに、サンソード「ムラクモ」でソニックブームをぶっ放す。礼服を着込みサングラスをかけて登場したアリル、わざと悪党っぽいムードを漂わせ、しかも周りには悪党の情婦みたいに装わせた三姉妹を侍らせていたり。
「うぐぁっ!」
ソニックブームに続き、三姉妹の罵詈雑言。
「この役立たず!」
「この無能者!」
「犬の糞でも拾ってなさいな!」
カオスマンは怒り狂った。
「俺をバカにするなぁーっ!!」
怒りに任せて魔法呪文をぶっ放した──はずだったが。
(「うあっ‥‥うあっ‥‥」)
呪文が出ない。それどころか息が苦しい。
「今だ、双武殿!」
「任せよ!」
隊長シャミラの合図で双武がストームの魔法を繰り出した。
「全員、伏せ!」
ほとんど同時に魔法の範囲内にいる警備兵達が、一斉に防御姿勢を取る。魔法の範囲内に観衆はいない。
ブオオオオオオ!
予め双武の用意した花びらが、ストームの嵐に撒き散らされる。ところがカオスマンの周囲には無風の空間が出来ていた。対カオス傭兵隊の魔法戦士が、バキュームフィールドの魔法で作りだした真空の空間だ。吹き散らされる花びらが、その形をくっきりと浮かび上がらせる。これも演出だ。見守る観衆は派手な展開に息を飲む。
双武はカオスマンとの間合いを縮め、言い放つ。
「毒蛇は不滅と言う訳か。じゃが戯言などは正義の剣で滅ぶべし。正義の剣は此処に有り、ルーケイ伯は不滅なり!」
言葉と共に太刀「三条宗近」を打ち込んだ。さらに援護にかけつけた冒険者も加わり、3方から包囲攻撃するように、カオスマンを同時攻撃。
「うぐ‥‥ぐぁぁ!!」
傷ついてもなお闘志を見せていたカオスマン。そこへ馬車から下り立ったアレクシアスが迫り、サンソードの強烈な峰打ちを叩き込んだ。
「がぁぁ‥‥!」
カオスマンが白目を剥き、巨木が倒れるように後ろ向きにぶっ倒れる。
どぉん!
「おおおおおーっ!!」
人々はどよめき、盛大に拍手喝采。カオスマンはまだ生きていたが、アレクシアスはサンソードを鞘に収める。
「晴れの日を血で汚したくない」
タイミングを見計らい、悪党を装うアリルがアレクシアスに深々と頭を下げる。
「我等の完敗だ。潔く負けを認めよう」
アレクシアスは片手を上げて、観衆に言葉をかける。
「ウィルの民よ、楽しんで頂けただろうか?」
拍手喝采が一段と高まり、アレクシアスを包んだ。
気がつけばアレクシアスの隣に新婦セリーズ。
「うまくいったわね」
アレクシアスは微笑んだ。
「だから、言ったろう?」
●誓いと祝福
ともかくも新郎新婦は無事に教会へ到着し、結婚式のクライマックスを迎えた。
「汝、アレクシアス・フェザントはこの女セリーズ・ルーケイを妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も共に歩み、死が二人を分かつまで愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを誓いますか? 」
「誓います」
司祭に誓うアレクシアス。続いてセリーズも誓いを立てる。
それを聞き届けた司祭は、2人の手を重ねて宣言する。
「では母なるセーラの御名により、アレクシアス・フェザントとセリーズ・ルーケイの結婚を宣言します。母なるセーラの祝福を、そして末永き幸せを」
ここに2人は夫と妻として結ばれた。
時に精霊歴1041年6月25日。この日が2人の結婚記念日となる。
教会の外に出ると仲間達が待っていた。
「邪魔者は消えたことだし、お次は披露宴と行くか!」
アリルは披露宴が待ち遠しそう。だって三姉妹のベルーガと踊れるチャンスだし。
「ご結婚の記念にこれを」
と、ゾーラクが新婚の2人に進呈したのは、対になったハーフハートのペンダント。今の2人にはぴったりの結婚祝いだ。