フオロ再興3〜ドーン伯爵領への招待状
 |
■シリーズシナリオ
担当:内藤明亜
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:12人
サポート参加人数:4人
冒険期間:03月23日〜03月28日
リプレイ公開日:2008年04月01日
|
●オープニング
●救出
時は精霊歴1041年2月25日、悪代官フレーデン討伐戦の最中。
東への逃走を目論むフレーデンの動きに呼応するかのように、東の森から魔物の群れが出現した。
迎え撃つは冒険者のゴーレム。空戦騎士団長の操縦するウィングドラグーンも奮戦するが、綺麗な戦いをするには相手が悪い。なにしろ敵は偽りの生命を得て動き回る死体なのだ。人の死体、馬の死体、オーガの死体、果ては何者かがウィルに持ち込んだ、ヒスタ大陸に住む恐獣の死体までもが、生きた人間の血肉を求めて襲い来る。
勿論、ドラグーンにとっては動き回る死体など敵ではない。寄ってくる端からランスで串刺しにして地に投げ捨てる。戦いは一方的な殺戮で、気がつけばドラグーンは腐った血と肉片まみれだ。
ドラグーンの真正面を黒い影が掠める。ハゲタカの姿をした空飛ぶ魔物だ。翼の端から端まで4m、アトランティスの人々からは『死肉を食らう者』の名で呼ばれている。
動き回る死体の群れを森から誘き出したのはこの魔物だ。そして今、魔物は新たな獲物に狙いを定めた。
空戦騎士団長の目の前で、ふらふらと地上を歩いていた女性がハゲタカの魔物に連れ去られる。
何故、あんな所に女性が? 一瞬、そんな疑問が心を横切ったが、今の空戦騎士団長には余計な考えに気を取られている暇はない。
「逃がしはせん!」
今は一刻も早く女性を救出すべき時。ハゲタカの魔物を追ってドラグーンも空に舞い上がる。
速力だけを見れば、ドラグーンは魔物を圧倒している。ランスチャージの一撃を喰らわせれば魔物は簡単に仕留められよう。だが騎士として、捕らえられた女性の命を無視することは出来ない。
「どうしたものか‥‥」
魔物の動きに注意を集中しつつ、いかに攻撃するか考えを巡らしていると、いきなり魔物は捕らえていた女性を放り出した。
「あっ!」
下には森の広がり。落下した女性の姿は森の木々の合間に消える。そして魔物も森の中へ突っ込み、空戦騎士団長の視界からその姿を消した。
ドラグーンも森の中へ降下。森の中では周囲の大木が邪魔して、とても動きづらい。
それでも女性はすぐに見付かった。
魔物の姿はどこにも見えない。何か別の生き物に化けて、森の木々の間をすり抜けて逃げていったようだ。
●魔物の虜
フレーデン討伐戦は、圧倒的な戦力で戦いに臨んだ討伐軍の勝利に終わった。
「姫様、お約束通り‥‥無事に戻りましたわ」
討伐軍の旗艦アルテイラ号にてマリーネ姫に報告する冒険者の背後には、アイスコフィンの魔法でガチガチの氷漬けとなって捕らえられた悪代官フレーデンの姿があった。
空戦騎士団長によって救出された女性は、戦場に設けられた救護所へ運ばれて手当てを受けた。
「貴女は何故、あんな所に?」
「‥‥‥‥」
訊ねても答は無い。女性はひどくショックを受けており、放心状態にある。
「無理強いはしません。話せるようになったら話してください」
救護担当の女医が手当てを施しつつ、女性の右の手首に目をやると、奇妙な刺青がある。
文字のようでもあり、紋章のようでもある。だがそれはセトタの文字ではないし、女医の知る地球の文字とも異なる。
「この刺青は‥‥」
「話しても‥‥信じてくれない‥‥」
「信じます。だから話してくれますか?」
「私は‥‥逃げてきたんです。‥‥魔物のところから」
女性は少しずつ語り始めた。その話によれば、女性の名はルシーナ。平民の娘だ。かつては王都で働いていたのだが、怪しげな連中に騙されて見知らぬ土地に連れ去られ、気がついたら森の中の奇妙な場所にいた。
そこは古代の遺跡のような石造りの建物で、幾人もの人間が捕らえられていた。そこでは何か邪悪な魔法実験が行われているらしく、何かの呪文を朗々と詠唱する声や、身の毛もよだつ人間の叫びを幾度も聞いた。隙を見て彼女はその場所から逃げ出し、魔物がうろつく森の中を何日もさまよった果てに、ようやく悪代官フレーデンの支配する土地にたどり着いた。だが、彼女を発見したゴロツキ兵どもはその話を信じようとせず、彼女を自分達の見張り小屋に閉じ込めて慰み者にし続けたという。
●ドーン領への招待
悪代官フレーデンが支配していた王領ラシェットの東には、ドーン領が存在する。
悪代官フレーデンが逃亡先にドーン領を選んだことからもうかがい知れるように、ドーン伯爵家とフレーデンの結びつきは深い。だがフレーデンが討伐されてその知らせがドーン伯爵家に伝わるや、現当主のシャルナー・ドーンはエーロン王に使者を送り、討伐戦の勝利を讃えるとともに、討伐戦において功績のあった者達を領内に招いて祝賀会を開きたいと申し入れてきた。
シャルナーの使者は冒険者ギルドにも出向き、冒険者への依頼を行った。
「冒険者の皆様には祝賀会の前に、一仕事していただきたいのです。近年、ドーン領には魔物の出没が目立ち、我らが領主シャルナー殿も手を焼いております。とにかく人手が足りません。ここは一つ冒険者の皆様のお力で、ドーン城の近辺に出没する魔物を退治して欲しいのです。せっかくの祝賀会が魔物ごときに邪魔されぬように。シャルナー殿も冒険者の力量をその目で確かめたいとお望みです」
「で、城の近辺にはどういった魔物が出没するのです?」
ギルドの事務員が問う。
「動き回る死体、これが最も数が多いですな。それと『邪気を振りまく者』をよく見掛けます」
「邪気を振りまく者‥‥ああ、翼を生やした醜い子鬼ですね?」
「はい。こいつは他の生き物に化けるので厄介です」
●分国再興
ここは王都ウィルに所在するフオロ分国王エーロンの館。
エーロン王の前には2人の若者がいる。1人は長らくフオロ王家と対立関係にあったルーケイ家の出自ながらも、今は直属の騎士としてエーロン王に仕えるマーレン・ルーケイ。もう一人は先王の統治下で創設されたフオロ王家調査室の書記官リュノー・レゼン。そして実はもう1人、ここに来るはずの者がいるのだが‥‥。
「遅くなってすみません!」
両手に羊皮紙の書類の束を抱え、冒険者ギルドの連絡係・知多真人が現れた。
「遅いぞ!」
エーロン王は真人を一喝。呼び集めた全員が揃うと本題を切り出す。
「つい先日、これが届いた」
エーロン王がテーブルの上に投げ出したのは羊皮紙の束。フオロ分国において農政に通じた第一人者ながらも、先王との対立から長らく行方をくらまし、今はエーロン王の監視下に置かれている元貴族だ。
「レーガー卿め、いつ尻尾を出すかと長らく見張っていたが、尻尾の代わりにこんな物を出してくるとはな」
奏上書にはフオロ分国の食糧事情が事細かに、かつ正確に記されていた。
「軟禁の身でありながら、これほどの情報を手にするとは。レーガー卿はあなどれぬ男ということだ。だがフオロ分国再興の大義のためとあらば、利用できるものは全て利用させてもらおう。マーレン、リュノー、真人、おまえ達3人はこれから俺の補佐役となり、俺と冒険者の間に立って分国再興に全力を尽くせ」
エーロン王は早速、3人に指示を与える。それはフオロ分国内の農地を拡大する仕事だ。
「春小麦の種を撒く時期が近づいている。それに間に合うように、荒れ果てたままで残されている小麦畑を耕すのだ。かつて冒険者がルーケイの地で行ったように、フロートチャリオットを使え」
既にチャリオット用の鍬は用意されている。
●リプレイ本文
●王への進言
エーロン王に進言すべく、王の館に2人の冒険者がやって来た。
1人はアリア・アル・アールヴ(eb4304)。
「先の悪代官討伐戦に協力された元領主と元家臣達は、まず代官補佐や分領代官レベルの役人で仮待遇とし、実際に現地で施策を管理し、細々な案件の調査や解決していただくのはいかがでしょうか? 再び与えるべき領地は未だ荒れ放題。そのうえ彼らの多くは長らく領土経営から離れていたか、経験少ない子弟です。我々の行うことを見ながら経験と功績を積み立てもらい、逆にこちらの手の届かない、目が届かない部分を補ってもらえれば双方の助けになりましょう」
例えば税を払えない住民がいた場合、免除・減税・賦役へ振り替え・来年へ繰越のどれにするか? また村に必要とされる家畜や物資を、どの優先順番で供給するか?
これらを元領主や元家臣達との協議で決める場合、現地での実状を確認することが重要だ。どのような方策が一番良いかはケース・バイ・ケース。話し合いの過程や成功と失敗の経験は、元領主や元家臣達にとって貴重な経験にもなろう。
一定期間後にそれらの報告をまとめ、皆で反省会(勉強会)をして総括。その内容は報告書にまとめてエーロン王に提出し、また報告書の予備を製作して誰でも閲覧可能なようにしておく。
以上をアリアはエーロン王に進言すると、王は短く答える。
「進言を認めよう。任せたぞ」
素っ気なく聞こえる返事だが、重要な決定については無駄な言葉を挟まず、さっさと進めてしまうのがエーロン王のやり方だ。長らく王に接してきたアリアはそれを知り抜いている。
「リュノー、報告書が出来たらすぐ俺のところに持ってこい」
と、エーロン王は補佐役のリュノーに命じる。アリアは畏まって一礼し、王の前より退出。あとは進言の内容を実行するだけだ。
続いて王の前に現れたのはリュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)。
「小麦畑の耕作に関して進言致したく、参上仕りました」
ゾーラクから教わった輪栽式農法についての進言である。これは小麦等の穀物をクローバー等、地力を回復させる性質の牧草と組み合わせ、ローテーションを組んで交互に栽培する事で収穫を増す農法だ。
「その実施に役立つ農業技術を持った者が、西ルーケイのシャミラの村に数名いた事を確認しています。またワンド子爵領での新年祭でも、これと似たようなやり方をレーガー・ラント卿が試みて成功させたという話を、ワンド子爵から聞かされました。彼らを動員して輪栽式農法を取り入れた耕作地を試験的に一部作成し、従来の耕作法との結果を比較して有効性を確かめることを、ここに奏上致します」
「リュノー、今の話は理解したな?」
エーロン王に声をかけられ、はいとリュノーは頷く。
「では至急、計画をまとめて実施に移せ」
リュドミラの進言はここに認められた。だがエーロン王はさらに付け加える。
「レーガー卿だが、俺は完全に味方と認めたわけではない。あの男には気を許すな」
●ホープ村
私には命を賭して成さねばならない事が数多ある。
皆もまた悲願を、信念を、理想を、決意を‥‥それぞれの想いを秘めている。
その全てを、泡沫の夢とせぬ為に‥‥前へと進もう。
クレア・クリストファ(ea0941)は今、ホープ村にいる。自分が領主を務めるこの村は、貧苦に喘ぐ者達に居場所を与え、新たな人生へと送り出す場。
先王エーガンの暴政下で元々あった村が廃れ、その後に王都から流れてきた貧民達が集まって出来た村だ。ワザン男爵の統治下にあった頃はばらばらだった村人の心も、クレアを始めとする冒険者が村の復興に力を尽くしてきたお陰で、今では村としてのまとまりが出来ている。
少し前には魔物騒動があり、村は大きく揺れた。その事があって、心配して様子を見に来た仲間もいたが、結果として魔物騒動を乗り越えた村の結束は固まった。
雨降って地固まるとは、正にこのこと。
「色々あったけど、キラルさんもリーサさんも元気でやってるにゃー。村人のみんなとも、昔よりずっと仲良くなったにゃー」
先に来ていた仲間達から伝え聞いた話をチカ・ニシムラ(ea1128)がまとめ、クレアに報告する。
「2人はどこに?」
「あそこだにゃー」
領主を総出で出迎えた村人達の中にキラルとリーサの姿があった。仲良く手をつないだ2人の姿は、まるで恋人同士のよう。
「元気なようで何よりだわ、頑張りましょう」
現在のホープ村の人口はおよそ200人。但し、食を求めて立ち寄る流民も多い。元々の村の広さからすれば300人は養える村なのだが、今の村は他所からの支援で食いつないでいるのが現状。家々の補修も大方が済み、将来に向けた区画整理も出来ているけれど、本格的な復興はこれからの課題だ。
「さて‥‥今のうちにやっておける仕事は、と」
フィラ・ボロゴース(ea9535)は村のあちこちを歩き回って現状を確かめる。
「井戸の補修、家畜小屋の修理改築、用水路整備の為の木板作り、農具作、こんなところかな?」
まず井戸。村の中にある井戸と、村の外にある井戸の2つがある。このうち使える井戸は村の中にある井戸のみだ。村の外の井戸にはやたらとゴミが詰まっていて、水は濁っている上にひどい臭いがする。
「この井戸は、前に井戸浚いをしようとして怪我人出した井戸だよな」
中の水をくみ出して中を徹底的に掃除しなければ、井戸として使い物にならない。村の人口が増えたり、多くの家畜を養うのに、飲料水に事欠くようでは困る。
とりあえず井戸は後回しにして、先に家畜小屋から手をつけた。家畜が逃げ出さないよう、壁に柵に扉の補修はしっかりと。
昼休みになると皆で食事を取る。仕事を手伝った村の子ども達は、食事が終わると皆ではしゃぎまわる。
「オレは人さらいのあくとうだ〜! おまえらみんなまとめてハンのくににうりとばすぞ〜!」
「助けて〜! 悪党にさらわれる〜!」
子ども達の遊びは『悪党と冒険者ごっこ』。要は鬼ごっこと似た遊びで、悪党役の子どもが皆を追い回してしばらくすると、隠れていた冒険者役の子どもが現れる。
「そうはさせるか、ぼうけんしゃがあいてだ!」
「あくとうめ、せいばいしてやる!」
「悪い人さらいには魔法少女まじかる♪チカがお仕置きするにゃ!」
チカも一緒になって遊んでいたり。放っておいたら日が暮れるまで、子ども達と一緒に遊んでいそうだ。
「さあ、休憩は終わり! 仕事に戻りなさい!」
クレアの一声で遊びの時間は終わり、午後の仕事が始まる。フィラにとっては簡単な仕事だったから、家畜小屋の補修は日が暮れるまでに大方が片付いた。
「後は戸締まりの鍵と錠前を取り付ければ完璧だ」
だけど、家畜小屋には肝心の家畜がいない。家畜を買い揃えるのだって、結構な仕事になりそうだ。
夕暮れ時になると、村人を連れて森で枯葉集めをしていた空魔紅貴(eb3033)が村に戻ってきた。集めた枯葉は畑の肥やしにするのだ。
日が暮れてからの仕事は、村の水路の補修に必要な板材作り。
「‥‥やる事尽きんな。ホントに」
今夜は徹夜になりそうだ。
クレアは夜のうちにホープ村を発つ。ひとまず王都に戻り、そこからフロートシップに乗って東の王領ラシェットに向かうのだ。
●シャミラへの依頼
王領ラシェットへと向かう前に、アレクシアス・フェザント(ea1565)は対カオス傭兵隊を率いる元テロリスト、シャミラを呼び出した。
「気になることがある」
「ドーン伯爵領のことか? 逃げてきたルシーナの話といい、あそこは謎だらけだ」
「ルシーナが話した遺跡の件もあるし、モンスターの出没地帯という事を隠れ蓑にして、領内に何者かが潜んでいる可能性もある。そして最悪、ドーン家当主がその者達と共謀しているとしたら? ともあれ、その懸念に気づかれる事無く、ドーン領の実態を掴む必要がある」
「その役目を対カオス傭兵隊に?」
「引き受けてくれるか?」
「伯の頼みとあらば。だが、闇雲に敵地のど真ん中に飛び込んで全滅するような真似はしない。いざとなったら逃げ延びることが最優先だ」
「それでいい。では、ドーン領の調査を頼む。ドーン家当主から許可を得られたら、先ずは魔物退治に同行して欲しい」
「心得た」
●復興計画
レーガー卿は長らくエーロン王の庶子エーザンの元に軟禁されていたが、今は王都にあるエーロン王の館に移送され引き続き監視下に置かれている。彼を王領ラシェットに同行させる許可をエーロン王から得たクレアは、レーガー卿と対面した。
「私はホープ村の領主クレア・クリストファ」
名乗る前からレーガー卿はクレアを知っていた。
「君がワザン男爵を手こずらせた冒険者だね。ベクトの町での武勇伝は耳にしているよ」
「貴方の力、民の為に使わせて頂戴」
協力を求めると、レーガー卿は快く同意。
「私として国を愛する気持ちに変わりはない。是非とも手伝わせてもらおう」
王領ラシェットに向かうフロートシップには、クレアが冒険者ギルドから借り受けたフロートチャリオットが搭載される。なるたけ数を集めたいから、冒険者の頭数だけ借りてきた。これにアレクシアスが持ち込んだ個人所有の2台も加え、その総計は14台。一度に船に乗せられない分はピストン輸送だ。必要となる操縦者はその多くを、新ルーケイ伯アレクシアスの配下の者達の中から割り当てた。
船の中では復興事業についての協議が行われる。
【王領ラシェット概略図】
アネット男爵領 王領ラシェット
┏━━━━┓川┏━━━━━━┓森
┃∴∴∴∴┃‖┃∴∴∴∴∴∴┃森 01:旧ラシェット子爵領
┃∴∴┌―┨‖┃∴∴01∴∴∴┃森 02:旧ロウズ男爵領
┃∴∴│∴┃‖┃∴∴∴∴∴∴┃森 03:旧ラーク騎士領
┠――┤04┃‖┃∴∴∴∴┌―┨森 04:旧レーン男爵領(現アネット男爵領)
┃05∴│∴┃‖┃┌―┬―┘∴┃森 05:旧ルアン騎士領(現アネット男爵領)
┗━━┷━┛‖┠┘03│∴02∴┃森 ■:建設中の町(フェイクシティ)
※※※※※※‖┃∴∴│∴∴∴┃森 ∴:平原
※※※※※※‖■━━┷━━━┛森 ※:湿地帯
================大河
「‥‥と、各領地の土地の広さの割合はこのようになっています。ですがもともとあった耕地も今は荒廃の極みにあり、最初から始めるつもりで取りかからねばなりません」
と、アリアは地図を広げて提案する。ちなみに旧レーン領と旧ルアン領は現在、アネット男爵領に組み込まれているが、エーロン王はこれらの土地も王領ラシェットに組み込んで、一気に復興を図ろうとしているとか。
「加えてこれらの各領地は、もっぱら王都の近辺で抱え込んでいる流民を受け入れねばなりません。彼らの多くも元々は、土地を耕して生きる農民でした。受け入れ数は耕作可能な土地の広さに応じ、サイズ1の領地には1集団、サイズ2の領地には2集団と、各地の領地経営に安全な範囲で分散吸収が無難です」
もっとも王都の近辺だけでなく、各地を彷徨って生きる流民もいる。今の王領ラシェットも少なからぬ流民を抱え込んでいる。悪代官フレーデンの支配下では、彼らも支配地の村人と同様、奴隷同然にこき使われていた。
「チャリオットを利用した今回の耕作においては、当該区域に住むあちこちの村人から賦役または日銭で数グループの人数を集めることになります。その中に何人かずつ流民を入れておけば、今のうちに慣れておけます。人は朱に交われば赤くなるタイプの人間が多いので、悪代官の支配から抜け、やる気の出ている人たちの中に居れば感化されるでしょう」
アリアのこの提案は皆に受け入れられ、実行される運びとなった。なおアリアに賛同したアレクシアスは、500Gを復興資金として提供した。
●試運転
船がラシェット領に着くと、そこには東の隣領であるドーン伯爵領からの迎えが待っていた。
「お待ちしておりました。我等が領主殿も皆様のご到来を、ドーン城にて心待ちにしております。祝賀会を共に楽しみましょう」
だがクレアを始め、冒険者達の多くはラシェット領に留まることになる。迎えの者には丁寧に辞退を申し出て、クレアはドーン領へ向かう者達を送り出した。
「シャルナー卿の事は其方に任せるわ、私達には成すべき事があるからね」
最初にやるべきはチャリオットの試運転。14台のチャリオットが一つ場所に集まった様は、まるで出陣の時を待って勢揃いしたかのよう。操縦者のうち冒険者はライナス・フェンラン(eb4213)1人だけで、後は全てアレクシアス配下の元騎士達だ。
「チャリオットで鍬を引くのは初めてだな。上手く動かせればいいが」
などと言いながらもライナスが余裕を見せているのに対し、元騎士達は緊張している。無理もない。これまで冒険者には優先的にゴーレムの使用が認められてきたし、依頼でもチャリオットを動かす機会は多かった。過去にはチャリオットレースだって開かれていた。
それに引き替え、ずっと日陰の存在であり続けた元騎士達には、チャリオットを操縦する機会など滅多になかったのだ。
とりあえずここに来る前に、アレクシアスの所有するチャリオットで一通り、練習はさせておいたけれど。
「にゅ、今日もクレアお姉ちゃんと一緒だにゃ〜♪ なんでも手伝うから言ってにゃ♪」
チカは今日もクレアと一緒。
「まずは安全確認。冒険者と操縦者以外、近くに人はいないわね?」
「ん‥‥と。大丈夫だにゃ」
試運転ということで、この辺りの領民には距離を置いた安全な場所に留まるよう、お触れを出してある。まだまだチャリオットに馴れぬ元騎士達。交通事故を起こして領民に大怪我させたらおおごとだ。
「事故がないように注意して頂戴、安全確認は大事よ。さぁて、やってみますか」
操縦士一同に声をかけると、クレアはパーンっと自分の頬を叩いて気合を入れた。
「では、俺が模範を示す」
と、真っ先にライナスがチャリオットを走らせる。
ライナスはチャリオットの操縦が得意ではないけれど、ここは広々とした野原。町中でチャリオットを走らせるのと違って操縦は楽だ。直進とカーブを織り交ぜ、ぐるっと一回りして帰ってくると、ライナスは元騎士達に促す。
「ざっとこんなもんだ。次は貴殿らの腕前を披露してくれ」
元騎士達のチャリオットが動き出す。しかし彼らの腕はライナスから見ても、下手に感じられる。低速で恐る恐る動かし続けている者もいれば、スピード出しすぎで危なっかしい者もいる。
「‥‥これではな」
元騎士達にはしばらく練習を積ませることにして、ライナスは自分用のチャリオットに重量鍬を取り付けさせる。
「しばらくは俺一人で耕すか。それにしても‥‥」
ふと、ルシーナのことが頭に浮かんだ。
「ルシーナ嬢の言葉も気になるな」
●ルシーナ
当人の言葉を信ずるなら、魔物の元から逃げてきたというルシーナは現在、王領ラシェットに駐留するルーケイ水上兵団の保護下にある。保護されている場所は、かつての悪代官フレーデンが住んでいた館。彼女は今、3人の冒険者の面会を受けている。その3人とはユラヴィカ・クドゥス(ea1704)、富島香織(eb4410)、そしてベアルファレス・ジスハート(eb4242)。
ルシーナは見るからにやつれている。医学の心得のある香織が診察したところ、ルシーナの体に目立った外傷はない。彼女の救出直後に、冒険者のクレリックが魔法で傷を癒したのだ。しかしルシーナの顔色は悪い。聞けば食欲がなく、ろくに食べ物を口にしていないということだ。何らかの精神的ショックが悪影響を及ぼしていると思われた。
「無理なさらず、話せることから話して下さい」
今のルシーナに無理を強いるのは禁物。香織はそう判断した。しかし彼女の話が本当で、今も魔物に捕らわれた者達が残っているのなら、一刻も早く救出に向かわねばならない。
「色々と辛かったじゃろうし、話し難いとは思うが。犠牲者を増やさぬ為にも、ルシーナ殿と同じ目にあっている方々を助ける為にも、できれば協力頂きたいのじゃ」
と、ユラヴィカは頭を下げて頼み込む。
「まだ‥‥大勢残っているの‥‥。あの‥‥恐ろしい場所に‥‥」
感情の消えた呟きが、血の気の失せたルシーナの唇からこぼれる。
「それは森の中の遺跡の事か? ならばもっと詳しく教えて欲しい。遺跡にはどんな特徴がある? ここからどれくらい離れている?」
ベアルファレスは質問を急ぎすぎたのかもしれない。
「いや‥‥!」
突然、ベッドの上に半身を起こしていたルシーナの体が崩れる。
「戻りたくない‥‥あそこに戻りたくない‥‥」
「ルシーナさん、無理をしないで」
香織がルシーナの手を握って励ます。そばで見守るベアルファレスの目は、ルシーナの右の手首の刺青をしっかり捉えていた。
(「あの入れ墨、まさか‥‥」)
ひとまずルシーナが落ち着くまで待つことにして、3人の冒険者はルシーナには聞こえない場所で、これまで集めた情報を整理する。
「わしの調べたところルシーナは以前、両親と一緒に王都で暮らしておった。王都の貧民街に働き口を得た流民の娘じゃが、容姿・年齢・さらわれた時期を照らし合わせて身元を確かめたから間違いはなさそうじゃ。ディアッカ殿にも一足先に来てもらい、『石の中の蝶』で確かめてもらったところ、蝶はまったく動かなかったと。すなわちルシーナは魔物の化けた娘ではないということじゃな」
「そうか。しかし‥‥」
ユラヴィカの言葉を聞きながらも、何故かベアルファレスは疑わしげな表情。
「何か気になることでもあるのじゃろうか?」
「実は──船の出発前、私は城の図書館で調べ物をした。入れ墨の手がかりとなる情報を探していたのだが、調べるうちにとある書物の記述が目についた。それはアトランティスに伝わる古い伝承で、どの国の話かは定かではないが、カオスの魔物に魂を売った男の話だ。魔物は男の魂を得た証しとして、男の体に不気味な紋様を刻み込んだ。すなわちその紋様は魔物のサイン」
「ルシーナさんのあの入れ墨が!? そんな‥‥!」
香織の表情が張りつめる。
「‥‥いや、あの本の記述が真実とは限らぬし、ルシーナの入れ墨は全くの別物かもしれん。だが、警戒するに越したことはなかろう」
「おお、そうじゃ」
ユラヴィカは仲間から聞いた話を思い出した。
「ディアッカ殿がリシーヴメモリーの魔法で調べてくれたのじゃが、ルシーナ殿の記憶にある遺跡は、こんな形をしておるそうじゃ」
早速、簡単な図を描いてみる。遺跡の外観は崩れかけた小さな砦のような感じで、今は根本しか残っていない2つの塔を備えていた。
●遺跡の場所
ひとまずユラヴィカは、東の森に住むオーガの所へ向かう。
「おぅ来たか、ちっこいの」
フレーデン討伐戦では、森から現れた魔物の群れと共に戦う仲となり、以前にあった敵意はオーガ達の間から消えている。
「尋ねたいことがあって参ったのじゃ。こんな遺跡に見覚えはないかのぅ?」
ユラヴィカは例の遺跡の絵を地面に描いて示す。
「おぅ、これか。これなら見覚えがあるぞ。昔、俺達が住んでいた森にあった遺跡だな」
オーガ達は元々、ずっと東の森に住んでいた。その森に魔物が蔓延るようになり、オーガ達はよりラシェット領に近い今の場所に移り住んだのだ。
「場所はどの辺りになるかのぅ?」
オーガはくねくね曲がりながら延々と続く森道を指さす。
「この道を進め。途中で迷うことなく歩き続けりゃ、そのうちに嫌な臭いの漂う場所に出くわす。この遺跡があるのはその辺りだ」
●祝賀会
豪華に飾られた広間、テーブルの上には見るからに美味しそうな数々の料理が並び、その周りには小綺麗に装った侍女達。楽師達の奏でる心地よい楽曲が、華やかな祝宴をいっそう盛り上げる。
だけど、リュドミラは居心地が悪い。
「今の私には場違いです」
本当はドーン領での魔物退治と情報収集に専念したかったのだが、リュドミラは領主館に到着するなり至れり尽くせりの持て成しを受け、気がつけば祝賀会の場にいた。
それにしても。目の前にいるドーン家当主シャルナーの姿は奇異だ。何しろ白い布のマスクですっぽりと顔を覆い隠しているのだ。まるで素顔が見えないから、これが本当にドーン家当主その人なのかという疑念だって湧き起こりかねない。とはいえドーン家当主の接し方には節度と気品が感じられた。
「退屈なされましたか? 麗しき鎧騎士殿」
リュドミラに話しかけるその声はとても若々しい。
「‥‥いいえ。ただ、私はこのような場にはあまり慣れておらず‥‥」
今、この場に居合わせる者達のうち、冒険者ギルドに籍を置く者はリュドミラとアレクシアスの2人だけ。残りは対カオス傭兵隊に属する地球人ばかりだ。
「シャルナー殿。差し支えなければ、マスクで素顔を隠す理由を教えて頂きたいのだが」
礼装したアレクシアスが尋ねると、目の前のドーン家当主は穏やかな口調で答えた。
「素顔を隠す失礼をお許し頂きたい。我が父君亡き後の話だが、私はモンスターに襲われて顔に深い傷を負ったのだ。今の私の顔は、かつての私の顔ではない。無惨に変わり果てた素顔を無闇に晒せば、周りの者に不快感を与えもしよう」
「いや、こちらこそ失礼した。悪いことを聞いてしまった」
「お気になさらず」
続いてアレクシアスは、シャミラを始めとする対カオス傭兵隊の1人1人を紹介する。
「彼らは全員、魔法が使える地球人だ。魔物退治においては実に頼もしい存在だ」
「領内の魔物には私も手を焼いている。新ルーケイ伯の多大なるご助力に感謝する」
「ところで、魔物はいつ頃から頻繁に現れるようになったのだ?」
「精霊歴1039年の年が明けた頃合いだ。あの頃を境に、出没する魔物の数が増えた」
それは丁度、聖山シーハリオンの麓に血まみれのヒュージドラゴンの羽根が降り注いだ頃だ。
●黒い影
やがて祝賀会も終わり、招かれた者達も床に就く。
その夜、アレクシアスはなかなか寝付けなかった。気持ちが高ぶり、暗い寝室で考えを巡らしてばかり。
ふと、異様な気配に気付く。
暗がりに黒い影が立っている。顔は見えないが、こちらを伺っているようだ。
「そこにいるのはシャルナー殿か?」
そう問いかけはしたが、アレクシアスの直感は訴えている。こいつは祝賀会で言葉を交わしたシャルナーではないと。
しかもその黒い影は、とてつもなく禍々しい気配を漂わせている。
不意に、黒い影はすうっと姿を消した。
どこに消えた!? 今のは幻か、それとも‥‥。
「もしや‥‥!」
隣室で休んでいるリュドミラ達のことが思い浮かぶ。急ぎアレクシアスは部屋を飛び出した。
隣室の扉は開いていた。
「ああっ!」
中からリュドミラの叫び。
「リュドミラ!」
何ごとかと部屋に飛び込むと、それまでベッドに寝ていたリュドミラが、張りつめた表情で立ち尽くしていた。
「今のは‥‥何者‥‥?」
見渡しても、あの黒い影は部屋のどこにも見当たらない。
隣のベッドにはシャミラ。
「何者かが部屋に忍び込み、それで私は目を覚ました。そいつはリュドミラに覆い被さるようにしてその顔を覗き込み、ククククと声を上げていたが、あれは笑い声だったのか?」
シャミラは今しがた見た物を説明する。
「正体はまだ分からぬが、この城には何かが潜んでいるようだな」
●夜中に
その頃、王領ラシェットでは。
「うにー‥‥もう食べられないにゃー‥‥」
館の寝室からチカの寝言が聞こえる。
「にゃふふ〜♪ ‥‥って、にゃうっ!? く、クレアお姉ちゃん痛いにゃぁ」
寝返り打っているうちに、隣に寝ていた誰かに髪の毛を引っ張られた。
「間違えないでください‥‥。私は香織です‥‥。‥‥あなた、誰?」
と、隣に寝ていた香織が眠たそうに言った。
「‥‥あ、間違えたにゃあ」
クレアの寝ていたベッドに潜り込み、一緒にすやすや寝ていたと思ったのに、そこは香織の寝ていたベッド。
「クレアお姉ちゃん、どこだにゃぁ?」
クレアはこんなに夜遅くなっても、館の書斎で仕事をしていた。寝る暇も惜しんで、せっせと記録をまとめている。
「にゃふふ〜♪ クレアお姉ちゃん、こんな夜中までお仕事だにゃ?」
書斎にチカが入ってきた。
「もう夜も遅いし、一緒に寝るにゃ」
「いいえ、今日も徹夜になりそうよ。先に寝ていなさい」
「それじゃ、クレアお姉ちゃんの隣で寝るにゃ〜」
寝ぼけた声でクレアにしなだれかかるチカ。
「こらっ! 仕事の邪魔をしないの!」
●空戦騎士団長の到着
夜が明けると、1機のグライダーが王領ラシェットから飛び立つ。操縦するのは空戦騎士団長シャルロット・プラン(eb4219)。後部座席に香織を乗せている。
東へ延びる街道に沿ってグライダーは飛び、程なくドーン領の中心部に到着した。
「ようこそ我が領地へ。ですが、昨日の祝賀会にお越し頂けなかったのは実に残念だ」
出迎えに出たドーン家当主シャルナーはそう言いながらも、シャルロットと香織を城の中に導く。
「王領ラシェットでの調査がありましたので」
シャルロットが行っていた調査は、悪代官フレーデンが所有していたゴーレム機器の入手ルートの解明だ。現在のところ、まだ入手ルートは部分的にしか解明されていない。
「空戦騎士団長の私としては、エアルートの設置にも貴殿に協力して頂きたく。また、ドーン領におけるゴーレムの使用状況についてもお聞かせ頂ければ」
「エアルートの設置については協力しましょう。魔物に手を焼いている私としては、是非ともゴーレムが欲しい。既に鎧騎士の手配を済ませ、王都ゴーレム工房にゴーレムの使用を申請しているところです。早ければ来月にもゴーレムが貸し出されることでしょう」
「つまり現在、購入して使用しているゴーレムは領内に存在しないと?」
「はい。ゴーレムの使用に当たっては、まずは実績を積んだ冒険者の力も借りたいと考えています」
その口振りからすれば、ドーン家当主はシャルロットに好意的だ。だが本心ではどうなのだろう?
●魔物退治
ドーン領での魔物退治が始まった。
「行け! オフェリア!」
白いペガサスに乗ったアレクシアスが空を飛び、その指揮で対カオス傭兵隊が動く。
次々と放たれる攻撃魔法。標的は森の中を歩き回る死体どもだ。魔物退治にはドーン家当主も立ち会ったが、動く死体が1体また1体と倒されていくさまを見て、しきりに感心している。
「見事な連携だ。それにしても新ルーケイ伯の乗る、空飛ぶ馬の動きは素晴らしい」
ペガサスは翼を広げ、木の上を飛び回ったかと思うと、木々の合間にふわりと着陸したりする。
魔物退治にはシャルロットもグライダーに乗って参戦している。しかしこちらはペガサスに比べて動きが劣る。翼の固定されたグライダーは、森の中では扱いずらい。
「森の中での戦いでは、やはり新ルーケイ伯が乗るような獣が一番。図体のかさばるゴーレムでは、ああはいくまい」
●密告
魔物退治を行う一方で、香織とリュドミラはドーン領内での聞き込みも行っていた。ドーン領の村々は堅固なドーン城の周囲に固まって存在するが、その村の1つ1つを歩いて回る。
「森の中をうろつく魔物のことを知りたいのですけれど‥‥」
聞き込みを行うことで、森のどこかに存在する遺跡の手がかりがつかめるのではないか? そんな目論みが香織にはあった。
村には衛兵達の姿が目立つ。彼らは魔物に対する守りなのだと、ドーン家当主からは聞かされていた。
リュドミラはもっぱら、衛兵達と話をする。
「この辺りでは何が収穫できますか?」
さし障りない話をするが、それは兵士達の注意を自分に向けさせるため。そうして香織の情報収集を支援するのだ。
とある村に来た時のこと。
「こっちに来て」
一人の娘が小声で香織を呼び寄せ、家の陰に引っ張った。
「何か?」
「ここに長居してはだめ。ここは魔物に支配された土地なの」
「え!?」
「ここに暮らす誰もが普通の人間に見えるけれど、本当は魔物の息がかかった奴等がたくさんいるの。恐らくはドーン家当主のシャルナーも‥‥」
香織に囁いていた娘は、はっとして口を閉じる。
物陰から1匹のネズミがじっと2人を見つめていた。まるで2人を監視するかのように。
咄嗟に、香織はムーンアローを放った。標的は『一番近くにいる魔物』。
魔法の矢は見事、ネズミに命中。
「ギャアアアア!」
ネズミは魔物の正体を現して逃げていく。翼を生やした醜い子鬼だ。
「魔物がいたぞ!」
傷つき逃げていく魔物を衛兵が追う。
「そこで何をしている!?」
気がつけば、香織と相手の娘は衛兵に囲まれていた。
「彼女は私の連れです」
離れた場所にいたリュドミラが駆けつける。
「念のため、お二方にも取り調べを受けて貰いたい」
香織とリュドミラは衛兵の詰め所に連れて行かれ、取り調べを受けた。取り調べは短い時間で終わり、2人は自由の身となったが、再びあの娘と出会うことはなかった。
●引退
ベアルファレスは今回の依頼をもって、冒険者を引退することとなった。その爵位を返上するとともに、フオロ分国再興の為の資金として5500Gをフオロ王家へ寄贈。
「本来ならばこの手でフオロ再興に着手したかったのですが‥‥残念に思います。縁があればまた戻ってくる事もあるでしょう。それでは、お別れでございます」
一同を前にして演説を終えたベアルファレスは鉄仮面を外し、長らく仕えてきたマリーネ姫に挨拶。
「マリーネ様に御仕えできた事、このベアルファレス・ジスハートにとって至上の光栄でありました」
なお、彼が隊長を務めたマリーネ姫親衛隊だが、次の隊長はルージェ・ルアンが務めることになる。詳しくは別の報告書を読まれたし。