フオロ再興4〜惨殺の廃墟

■シリーズシナリオ


担当:内藤明亜

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:12人

サポート参加人数:3人

冒険期間:05月01日〜05月06日

リプレイ公開日:2008年05月11日

●オープニング

●希望の村にて
 ここは冒険者の領主が治めるホープ村。
 王都の近くにあるこの村では先日、冒険者たちがやって来て、村人と共に大いに労働の汗を流した。家畜小屋を修理したり、用水路を整備したり、肥料にするための枯葉を森で集めたり。それが終わると、馬の代わりにフロートチャリオットを使って、荒れ地を開墾したり畑を耕したり。
「いやぁしっかし、たまげたなぁ」
 小麦の種が撒かれたばかりの、新しい畑を見回して村人の親爺が今更ながらに漏らす。
「あんな、とんでもねぇ乗り物見たのは初めてだ」
 戦の道具であるチャリオットに大きな鍬を取り付け、もの凄い勢いで土地を耕したことは、あれからずっと村人たちの語りぐさだ。
「あれ? あの乗り物がやってくるだ」
「乗っているのはお役人様でねぇか?」
 やって来たのはフロートチャリオット。エーロン王の補佐役リュノー・レゼンを乗せている。畑のそばにたむろしていた村人たちは、ぞろぞろとチャリオットの周りに集まってリュノーを出迎え、チャリオットから下りたリュノーは村人たちに語りかけた。
「王命を承り、ホープ村の調査に参りました。村の案内をお願いします」
 村人の案内でリュノーは村のあちこちを見て回り、その後も村人から聞き込みを続けて村の実状を把握すると、リュノーはエーロン王に提出する報告書にこう書き込んだ。

『かつては貧民村と言われていたホープ村の状況は、冒険者の努力により大いに改善した。以前は流民の寄せ集めに過ぎなかった村人たちの結束も強まり、村としてのまとまりが生まれている。村の家々や家畜小屋は丹念に修理が施され、用水路の状態も申し分ない。ただし、村の居住区の外にある井戸の水質は極めて悪い。ドワーフの井戸職人を招いて早急な改善を図る必要がある』

●復興計画
 エーロン王によるフオロ分国の立て直しはなおも継続中だ。去る2月、王領ラシェットの悪代官フレーデンを討伐すると、エーロン王はフオロ分国の農業力強化策を推進。食料増産の決め手は、重量鍬を取り付けたフロートチャリオットだ。その助けにより、復興の始まった王領ラシェットでは、耕地はそれまでの何倍にも広がった。
 だが、穀物の増産は一日二日で出来る仕事ではない。春に撒かれた小麦が実るのは秋。その収穫の後には秋小麦の種蒔きが控えている。これからの1年は、穀物増産を軌道に乗せるための重要な1年になろう。
 王領ラシェットにおいては、地球人冒険者が提案した輪栽式農法も実施される予定だ。これは小麦等の穀物を、クローバーなど地力を回復させる性質の牧草や、カブなど家畜の飼料となる作物と組み合わせ、ローテーションを組んで交互に栽培することで収穫を増す農法だ。
「王領ラシェット復興の試案がまとまりました」
 リュノーの提出した書類に王は目を通す。

【王領ラシェット復興における責任体制】
・領主代行(総責任者) マリーネ・アネット姫
  フオロ王家の一員として、復興事業の責任を負う。
・領主代行補佐〜元領主と元家臣の一族
  先王エーガン陛下により放逐された本来の土地所有者。
  復興が成れば、現在はラシェット領に統合されているそれぞれの領地に復帰。
  それまでは復興事業を補佐する役目を担いつつ、領地経営に必要な技能の習得に励む。
・領主代行補佐〜冒険者
  冒険者ギルドに所属し、さまざまな技能を持つ者たち。
  マリーネ姫と元領主・元家臣一族の間を取り持ち、復興事業に協力する。
・領主代行補佐〜王領ラント代官グーレング・ドルゴ
  職業訓練と戦闘訓練、2つの役目を併せ持つ、通称フェイクシティの建設責任者。
  元領主・元家臣一族の子弟の教育、領民の職業訓練を受け持つ。
・領主代行特別補佐〜元王領ラント領主レーガー・ラント
  その有する卓越した農業知識を復興に役立てるべく、特別補佐官の立場を与える。
  ただし、この人物はフオロ王家に対する忠誠心が疑わしい。
  よって、その権限は他の補佐官よりも限定されたものとする。
  常に監視下に置き、その役目は農業知識と技能の伝授に限る。

 試案の骨子には冒険者の意見も採り入れられているが、レーガー卿の処遇にはエーロン王の警戒心が反映されている。
「上出来だ。このまま実施に移せ」
 リュノーがまとめた試案をそのままの形で認めると、エーロン王は王領ラシェットとその周辺部に領地を有していた全ての元領主と元家臣の一族に対し、その帰郷を許すという布告を発した。これで戦争捕虜として新ルーケイ伯の庇護下に置かれた者達も含め、放逐された元領主と元家臣の一族は、その本来の領地に定住しつつ領地の復興に励むことが可能になったのである。

●惨殺の廃墟
 王領ラシェットの東側にあるドーン伯爵領は謎だらけの土地だ。徘徊する魔物ども、素顔を隠したドーン家当主、そしてドーン城に現れる正体不明の怪人。
 ドーン家当主の求めにより、冒険者たちはドーン領での魔物討伐を手助けすることになったが、密かに領内を調査していた冒険者たちはこんな領民の訴えを耳にした。
「ここに長居してはだめ。ここは魔物に支配された土地なの。ここに暮らす誰もが普通の人間に見えるけれど、本当は魔物の息がかかった奴等がたくさんいるの。恐らくはドーン家当主のシャルナーも‥‥」
 だが、そう訴えた娘は衛兵に見とがめられ、何処かへ連れ去られたままだ。
 娘と共に衛兵の取調べを受けた冒険者は、程なく釈放されたものの、衛兵たちは娘の訴えについてこう釈明した。
「あの娘は魔物に脅かされるあまり乱心し、あらぬ事を口走ったものと思われます。どうかお気になさらずに」
 またドーン領内のどこかには、恐るべき魔物の巣窟も存在するという。
「まだ‥‥大勢残っているの‥‥。あの‥‥恐ろしい場所に‥‥」
 そこから逃げてきたと主張する娘、ルシーナの言葉によれば、そこは古代の遺跡のような石造りの建物で、今も幾人もの人間が捕らえられているという。そこでは何か邪悪な魔法実験が行われているらしく、ルシーナは何かの呪文を朗々と詠唱する声や、身の毛もよだつ人間の叫びを幾度も聞いた。
 冒険者が魔法でルシーナの記憶を調べたところ、遺跡の外観は崩れかけた小さな砦のような感じで、今は根本しか残っていない2つの塔を備えている。その遺跡については魔物に脅かされてドーン領から逃れ、今はラシェット領の東の森に住んでいるオーガたちも知っていた。
「場所はどの辺りになるかのぅ?」
 冒険者が尋ねると、オーガはくねくね曲がりながら延々と続く森道を指さす。
「この道を進め。途中で迷うことなく歩き続けりゃ、そのうちに嫌な臭いの漂う場所に出くわす。この遺跡があるのはその辺りだ」
 その後日。ドーン伯爵家から冒険者ギルドに魔物退治の依頼が申し込まれた。
「ドーン領北部の魔物には手を焼かされています。動き回る死体や、翼の生えた小鬼ばかりではありません。最近では狂ったように人に襲いかかる死体や、骸骨の魔物など、これまで見たこともないような魔物までも現れる有様です。それらの魔物どもはどうやら、ドーン領の北部にある古代の廃墟から出現しているようなのです。魔物討伐のため、ぜひとも冒険者諸氏の力をお貸し頂きたい」
 冒険者ギルドを訪ねたドーン伯爵家の使者は、そのように訴えた。その遺跡はルシーナが逃れてきた遺跡と同一のものと思われる。

●今回の参加者

 ea0941 クレア・クリストファ(40歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1128 チカ・ニシムラ(24歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1565 アレクシアス・フェザント(39歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1704 ユラヴィカ・クドゥス(35歳・♂・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea3486 オラース・カノーヴァ(31歳・♂・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea9535 フィラ・ボロゴース(36歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb3033 空魔 紅貴(35歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 eb4213 ライナス・フェンラン(45歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4219 シャルロット・プラン(28歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4304 アリア・アル・アールヴ(33歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4410 富島 香織(27歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb7689 リュドミラ・エルフェンバイン(35歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)

●サポート参加者

バルバロッサ・シュタインベルグ(ea4857)/ カイン・イリーガル(eb0917)/ ゾーラク・ピトゥーフ(eb6105

●リプレイ本文

●レーガー卿
 ここは王都のフロートシップ発着所。
「いいわね、十二分に気をつけて行くのよ」
「うに、クレアお姉ちゃんありがとうにゃー。それじゃあ頑張ってくるのにゃ♪」
 自分のアイテムを貸し与えたチカ・ニシムラ(ea1128)をはじめ、王領ラシェットに向かう仲間たちがフロートシップで出発するのを見送ると、クレア・クリストファ(ea0941)は残りの仲間たちと共にエーロン王の館に向かう。そこに身柄を預けられているレーガー・ラント卿と会うためだ。
「私が知りたいのはただ1つ。貴方が『敵』になるか『友』になるかよ」
 クレアは単刀直入に、フオロ王家に対する真意をレーガー卿に問うてみた。それがエーロン王の信頼を得る為に必要な事だからだ。
「私は敵にもなれば友にもなろう。全てはフオロ王家一族の選択にかかっている」
 その言葉に監視の衛士が眉をひそめたが、クレアは構わず続けた。
「これまでの経過は理解しているわね? 貴方と敵対したエーガン陛下は退位し、フオロの王位を受け継いだエーロン陛下はフオロ分国の内部改革に力を尽くしているわ。ラシェット領の悪代官は討伐され、追放されていた元領主と元家臣の一族は帰郷を許されたわ。フオロ王家は貴方の望んだ良き方向に向かいつつあるの」
「今のところはな。その歩みが続く限り、私も共に歩いていけようが‥‥」
 いきなりエーロン王の声がした。
「一緒に歩きたければ好きなだけ歩け。俺は自分の役に立つ人間を無下にはしない」
 エーロン王はいつの間にかすぐそばに立っていた。
「陛下‥‥」
 レーガー卿は王に一礼して何か言おうとしたが、エーレン王はそれを手振りで押し止め、
「後は任せる。報告は必ず入れろ」
 短くクレアに言うと、足早に立ち去った。
「ホープ村まで来てくれるわね。頼みたいことがあるの」
 レーガー卿をエーロン王の館から連れ出すと、クレア達はホープ村へ。そこでレーガー卿や村人たちを交え、輪栽式農法を取り入れてのホープ村やラシェット領の復興について協議を始めた。
「天界の輪栽式農法というものをご存じでしょうか? 似たようなレーガー卿やり方をレーガー卿も行ったはずですが‥‥」
 その説明をリュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)が行い、レーガー卿は興味深げに聴き入った後にこう言った。
「確かに、私の行った農法とよく似ているな」
 すると空魔紅貴(eb3033)が言う。
「その輪栽式農業だが、クローバーなどの栽培は間違いではないが、雑草との兼ね合いがあるから少々難しそうだな」
「クローバーは繁殖力が強いから、他の雑草を抑えて伸び広がる。雑草の除去にそれほど手間はかからないはずだ。加えてクローバーは牧草にもなる。クローバーを育てる間は牛や馬の放牧を行えばよい」
 と、レーガー卿。
「それと、保存が効いて量がそれなりに取れそうな栽培物はなんだろうな?」
「カブはどうだ? 冬の間は家畜の飼料にもなる」
 差し当たっては小麦、クローバー、カブの栽培と、牛や馬の放牧を組み合わせてみようということになった。
「ただし、エーロン陛下はラント卿への警戒はまだ解いておりません。輪栽式農法による成果が上がるまでは、どなたかを監視役として同行させながら、農業への助言をして頂くことになります」
 リュドミラの助言を聞いて、クレアが言った。
「とりあえず、最初の監視役は私が引き受けることになりそうね」

●ホープ村のお仕事
 協議が終わると、フィラ・ボロゴース(ea9535)は村での仕事に取りかかる。
「まずは、家屋修繕や増築。農耕で必要そうな材料や用具も調査するか。村人からも何が欲しいかとか、何があれば楽になるかとかの意見も集めてみよう」
 村人たちを呼び集めて聞いてみる。
「牛や馬がいれば畑仕事もはかどりますだ」
「牛の乳も手に入りますし」
「ロバやヤギならもっと世話がしやすいと思います」
「ついでにアヒルやニワトリも」
「村に鍛冶屋がいれば、道具の修理も楽になるかと」
 色々な意見が出たが、ふと1人の村人が漏らす。
「近くに川があれば‥‥」
 ホープ村の近くに川は無い。だから農業用水には井戸やため池を利用しなければならない。
「今後のことを考えると、井戸やため池も増やさないといけないか‥‥」
 村人の言葉を思い出しつつ、フィラは村の周りを見て回る。
「畑が広がれば、それだけ使う水も増えるしな」
 現在、村の井戸は2つ。ため池もかつては3つあったが、2つは堤が破れて水が干上がり、まともに機能するのは1つだけだ。
 夜になるとフィラはクレアと一緒になって見積書をまとめる。見積書には先に協議された内容に加えて、村人たちの意見も加えてある。
「作物は小麦、クローバー、カブね」
「家畜は牛、馬、ロバ、ヤギ、アヒル、ニワトリ‥‥ってとこだな」
 既に時は夜中。同じく夜中もせっせと仕事を続けている紅貴が2人に告げる。
「クレアもフィラも無理続けんなよ? するのは当面俺だけで十分だ。安定しねぇとまだ終わるもんも終わらないだろう?」
「それじゃ、少し手伝ってもらえるかしら?」
「はいよ」
 翌朝。クレアは見積書を持って、王都の商人ギルドへ向かう。
「これもまた戦場、さー働くわよ」
 ついでにドワーフの井戸職人の手配もやっておこう。
 フィラと紅貴はホープ村に残って仕事の続きだ。一緒に家屋の修繕をやっていると、村を守る警備兵の隊長がやって来た。
「お勤め、ご苦労様です」
 ホープ村の警備兵は領主クレアとの契約で、隣のワザン男爵領から出張する形で来ている。
「去年の今頃ならば村の人口も減り始める頃合いですが、今年はなかなか人が減りませんなぁ」
 もともとホープ村は流民が集まって出来た村だ。冬の間は村に流れ込む流民が増え、夏が近づくにつれ減っていくのがこれまでの傾向だったが、今年は違う。村が住みやすくなったことで、新たに流れ込んだ者たちもなかなか村を離れないのだ。
「ともかくも、村が発展するのはよいことです。今後とも何とぞ、末永きお付き合いを」
 村が順調に発展しているせいか、隊長は愛想がいい。ルーケイ伯爵領から新たに警備兵を招く話も出ているけれど、ワザン男爵だって発展する隣領とは上手くお付き合いして、自領に利益を引っ張り込もうと考えているはずだ。

●復興に向けた体制作り
 王領ラシェットではアリア・アル・アールヴ(eb4304)が中心となって、元領主・元家臣たちとの協議が行われた。
 協議の案件は、徘徊する盗賊や流民への対策に、元領主・元騎士たちによる巡回警備体制を整えることだ。
「作物泥棒や悪代官の手先に、悪代官の手先だと名乗る他国の傭兵。そういう連中が出てきて畑を燃やされたり、青田刈りされても困りますから。力の余っている者や志願者を纏めて、自警団結成のメドをつけておきたいですね」
 そのアリアの言葉に、元騎士の1人が反応した。
「余所者による畑荒しは十分に考えられます。ことに悪代官のレーゾ・アドラとラーベ・アドラ、あの兄弟は自領における小麦の大々的な栽培で、莫大な収益を上げている連中。フオロ分国の小麦の大半は奴等に支配されているも同然で、これまでは好き勝手に小麦の値段を吊り上げてきましたが、他領で栽培される小麦が増えればそれも出来なくなります。だからあの悪代官兄弟が、何らかの妨害を仕掛けてくる可能性は大です。或いは言葉巧みに我々を丸め込み、利益の横取りを図るかもしれません」
 アリアにとっても説得力のある見立てだ。
「確かに要注意ですね。ことに灰色のレーゾよりも、真っ黒なラーベには」
 ともかくもアリアは協議を進め、元領主・元家臣たちは次の役職を分担してもらうことを提案した。

 1:それぞれの邑・村を巡って案件を調査・報告・応急対処する役
 2:役人として現地を回り、色々な案件に対して本格的に取り組む役。
 3:1〜2チームで巡回警備を行う役
 4:自警団および現地民への労働訓練の指導役

「差し当たっては、これらをローテーションで一通りやってもらった後に、自分や仲間の得意不得意を見据えながら、自分たちの判断で配役を決めていただこうと思います」
 一定期間後に起きた問題や重要案件についても、お互いに協議してもらう。
「勘違いしていただきたくないのですが、失敗が起きることは問題ではありません、原因が判れば対処でき経験にもなります。ですが失敗を認めることができなければ、人は成長できませんから」
 協議すべき案件には、街道の敷設や商品作物への切り替えなどを含めてもよいと、アリアは考える。
 アリアの提案はさしたる反対もなく受け入れられた。協議が終わるとアリアは1000Gと手持ちの作物の種を、元領主と元家臣たちに提供した。

●耕耘
 ライナス・フェンラン(eb4213)は前回と同様、ラシェット領にフロートチャリオットを持ち込んで、農地の耕耘を続けている。
「魔物討伐が終わるまでに、もう一仕事出来そうだな」
 ライナスは今回の魔物討伐には向かわず、畑仕事に専念するつもりだ。とはいえ、耕地はもう十分に広がった感がある。
 この前、チャリオットで耕した耕地には、既に現地民の手で小麦の種が撒かれ、すくすくと育っている。

●森のオーガ達
 ラシェット領の東の森にはオーガ達が住む。
 富島香織(eb4410)、オラース・カノーヴァ(ea3486)、リュドミラの3人は、連れだってオーガ達の所に出向いた。
 香織にはオーガとの交易関係を築き、その利益をフオロ分国のために役立てたいという願いがある。ラシェット領に向かう前に、交易の許可をエーロン王に求めたが、その時に王の補佐役のリュノーが色々とアドバイスしてくれた。
「西のワンド子爵領ではオーガとの交易で利益を上げていますが、あちらのオーガは広大な魔獣の森に住んでいます。対して東のオーガ達が住む森は、魔獣の森ほど広くなく、ラシェット領とドーン伯爵領にまたがって存在しています。このことからドーン伯爵家も森に権益を有することになるので、オーガとの交易においては伯爵家と利害関係を調節する必要が出てきます」
 そのアドバイスに基づき、エーロン王は香織に求めた。
「ドーン伯爵家との利害調整は後回しにするとしても、まずは森の実態を把握し、オーガ達と友好関係を築くことが先決だ。オーガ達をうまく味方として取り込めれば、カオス相手の戦いにも役立つことだろう」
 オーガ達を前にした香織は、お土産に焼いてきたケーキを配り、さらにリュドミラも、ワイン2本とサクラの蜂蜜を進呈。さらにオラースも、手持ちの武器の数々を贈る。
「魔物に追われるお前達を放っておけないという冒険者がいてな」
 そう言って手渡したのは『霊杖コノハナ』と『金棒鬼魂』と『ハンマーofクラッシュ』と『大斧恐獣殺し』とギガントアックス。ついでにワインと発泡酒も手渡した。
 数々の贈り物にオーガ達は大喜び。彼らが機嫌を良くしたところを見計らい、香織はオーガの族長に今後の交易について話を持ちかけ、さらに今回の魔物討伐への協力を願った。
「この武器で俺達に一暴れしろってことか! おもしれぇ!」
 もらったばかりの武器を振り回し、族長はオーガ達に呼びかける。
「野郎ども! 魔物どもを思いっきりぶちのめしてやろうぜ! 俺達には武器がある! さあ景気づけの宴会だ!」
 おおう!! オーガ達も声を張り上げて賛成し、たちまちその場は飲めや騒げの酒宴と化した。
「さあ飲め! さあ飲め!」
 気がつけば冒険者たちもオーガ達と一緒に酒盛り。盛り上がるオーガ達の姿を見て、オラースは思う。
(「オーガはどこの世界でも可愛い生き物だなぁ。人の争いには巻き込みたくないものだ」)

●先行
 アレクシアス・フェザント(ea1565)は愛馬のペガサスに跨り、オーガに教えられた森道を行く。
 オーガが何人か道案内を買って出てくれたので、森道で迷うこともない。人間たちに親切にしておけば、後で見返りがあると彼らも踏んでいる。
「おまえ、面白い生き物に乗っているな」
 オーガ達はペガサスが珍しい。
「これで空も飛べるのか?」
「ああ、飛べるとも」
 やがて周囲の森から、微かな悪臭が流れてきた。道案内のオーガ達が足を止め、警戒する。
「ここから先は行けない。魔物がうじゃうじゃいる」
「では、後は俺1人で行こう」
 アレクシアスはペガサスで空に舞い上がる。木々の枝の間を通り抜け、樹上に出た。
 見渡せば一面の樹海の広がり。だがその一箇所に、かなり大きな遺跡が見えた。以前に仲間が調べてくれた形の通りの遺跡だ。
「あれが惨殺の廃墟か」
 南の方に目を転じれば、ドーン城と思しき建造物が見える。この場所から見るととても小さい。
 魔物討伐軍を乗せたフロートシップの目印となるよう、アレクシアスは辺りで一番高い樹のてっぺんに目印の旗をくくりつける。
「道案内に感謝する!」
 オーガ達に一声かけると、アレクシアスは周囲の地形を上空から確認しつつ、帰路についた。

●伝説
 ラシェット領のとある村では、ユラヴィカ・クドゥス(ea1704)が元騎士の1人と話している。元騎士の出自は、今はドーン伯爵領に組み込まれている旧ワッツ男爵領だ。
「ドーン伯爵領をはじめ、あの辺りの土地には古くから伝わる伝説がある。遙かロード・ガイの時代にまで遡る伝説だ」
 それは今から5千年以上も前の、アトランティスにおける最古の英雄伝説の時代の話。
「あの時代、世界はカオスの侵攻を受け、世は大いに乱れた。死体は動き回り、魔物どもは跳梁跋扈し、人と人は互いを憎んで殺し合った。その世界を救ったのが英雄ロード・ガイと、彼に従う勇者たちだった。戦いは英雄ガイの勝利に終わり、ドーン伯爵領の辺りには強力な魔物が封じ込められたという。俺の一族を始め、代々あの土地に住んでいた者たちは、かつて魔物を封じた勇者たちの末裔とも言われているのだ」
 その後でユラヴィカが調べたところ、『惨殺の廃墟』の辺りに巣くう魔物たちは、精霊歴1039年の春あたりから徐々に増えていったという。それは聖山シーハリオンに、血まみれの聖竜の羽根が降り注いだその後だ。だが、もともとあの遺跡は人の住む地から遠く離れていたため、あの時に何が起きたか詳しく知る者はまだ見つからない。

●進撃
 ここはホープ村。野良仕事に精を出していた村人たちは、空から迫ってきた船影を見てびっくり。
「空飛ぶ船が来るでねぇか!」
 耕された畑の外れの空き地にフロートシップが着陸すると、フィラと紅貴が船に乗り込んだ。
「それじゃ、ちょっと魔物退治に行ってくるからね」
「後の仕事はよろしくな」
 船が飛び立つと、見送りの村人たちは驚嘆のため息。
「いやもうびっくりしたなぁ」
 船には対カオス傭兵隊の面々も既に乗り込んでおり、ホープ村から東進してラシェット領の東寄りの野原に着陸すると、やがてドーン伯爵領からの援軍がやってきた。サーシェル・ゾラスなる騎士と、彼に率いられた10人の兵士たちだ。
「ドーン家当主殿のお力添えに感謝する」
 アレクシアスは援軍への感謝を述べつつ、相手に気取られないよう指にはめた指輪『石の中の蝶』を観察。宝石の中の蝶は羽ばたかない。すなわち援軍の中にジ・アースでデビルと呼ばれる奴らに似た魔物は混じっていない。
 さらに森のオーガ達が乗り込み、戦力全てが揃うと船は『惨殺の廃墟』を目指す。
「地形からして、方角はあの辺りだと思うのじゃが‥‥」
 先行したアレクシアスからの情報を頼りに、ユラヴィカが場所の見当をつけ、テレスコープの魔法を使う。
「見えたのじゃ! あそこに旗が!」
 その知らせを受け、フロートシップは速力を増す。やがて眼下に廃墟が見えてきた。一足先にシフールのユラヴィカが降下し、森の木立を縫いながら遺跡に接近。
「がぁ‥‥」
「あがぁ‥‥」
 あちこちからうめき声が聞こえ始める。ユラヴィカという生き物の気配を察知し、あちこちに転がっていた死体がうごめき始めた。
 ユラヴィカは急いで森を突っ切り、目指す遺跡の真上を飛ぶ。遺跡の西と東にある崩れた塔の場所には、たくさんの骸骨が転がっている。‥‥いや、ただの骸骨と見えたそれは、『彷徨いし骨兵』と呼ばれる魔物だ。ユラヴィカの接近に気付くと一斉に動き始めた。 ユラヴィカは船に引き返して報告する。
「森の中も遺跡も魔物だらけじゃ」
「では、遺跡の北側の毒沼に船を降下させ、一気に攻めます」
 魔物討伐軍指揮官のマーレンが決定を下す。
 だが、船がゆっくりと毒沼に降下するや、冒険者の1人が警告を発する。毒沼の中に大型の魔物が3匹も潜んでいると。
「どこだ‥‥!?」
 シャルロット・プラン(eb4219)は、船の格納庫の出入口から毒沼を見下ろす。鼻をつくような臭気が漂うが、魔物は毒沼の濁水の下で見えない。
 味方のバガンが格納庫から毒沼に飛び込んだ。
 濁水が派手に跳ね上げられ、隠れていた3匹の魔物がバガンに襲いかかる。
 体長3m、2本足で歩く大トカゲのような魔物だ。後にシャルロットは、その魔物がデイノニクスと呼ばれる恐獣の死体が変化した魔物であることを知る。
 味方のバガンは濁水と泥を派手に跳ね飛ばして格闘中だ。人型ゴーレムにとって、沼地は戦うに困難な場所だ。泥に足を取られて動きを鈍らされる。しかも相手は3匹。
「ならば‥‥!」
 シャルロットは格納庫のフロートチャリオットに飛び乗る。万が一に備えて各種類のゴーレムを載せてきたのだ。
「押せ!」
 仲間や兵士たちの手を借りてチャリオットを格納庫から押し出させ、そのまま毒沼の真上に降下。水面すれすれで地の精霊の反発力を増大させて浮き上がり、走行を開始した。
 地球のホバークラフトのようなものだ。十分な地の精霊力さえ働くなら、沼地でも湿地でも平気で走れる。
 だが走行中は車体が前屈するから、正面からの体当たりは危険だ。シャルロットはカオス恐獣の1匹に接近するや、思いっきり車体をスピンさせる。側面からの体当たり攻撃だ。
「がああっ!」
 不意打ちにカオス恐獣はガッと口を開いて叫ぶ。口の中には牙がびっしり生えていた。
 カオス恐獣がチャリオットに飛びかかる。死体のくせして動きが俊敏だ。
 チャリオットが毒沼から固い地面へと走る。それをカオス恐獣が追いかける。
 シャルロットの頭の中に、仲間がテレパシーで警告を送ってきた。
(「遺跡の魔物が一斉に動き始めました」)
「了解!」
 チャリオット搭載の風信器にシャルロットは叫ぶ。
「船に搭載のエレメンタルキャノンで、遺跡の東西の塔跡を砲撃せよ! 構わん。それ位で我等はくたばりはしない!」
 続いてチャリオットを大きくスピン。追ってきたカオス恐獣を跳ね飛ばすや、フロートシップからの砲撃が始まった。
 ドオオオオン!!
 ドオオオオン!!
 骨兵が火球に吹き飛ばされ、骨の欠片が舞い散る。一連の砲撃が止むと、降下した船から戦力が本格的に展開される。冒険者と対カオス傭兵隊から成る突入隊が遺跡に突入し、マーレン率いる支援隊は遺跡周囲の敵に立ち向かう。森のオーガ達も支援隊に加わり、森から現れる死体の魔物を相手に戦っている。
「来やがれ魔物どもめ!」
「片っ端から切り刻んでやらぁ!」
 カオス恐獣はもはやチャリオットを追ってこない。振り返って見ると、味方のゴーレムに止めを刺されていた。

●人質救出
「喧嘩はやはり気兼ねなき相手に限るな。と言っても、相手が何だろうと気兼ねしない俺が言うのも何か」
 紅貴はそんな事を言いながら、突入隊の前衛になって小太刀『備前長船』を振るっている。敵は群がり寄せる骨兵ども。しかし武器のリーチが短いから、敵の接近を許しやすい。
 ザグッ! ザグッ! 骨兵どもが掴みかかってきたので返り討ち。骨の腕が2本、3本と宙に舞う。
「こうも近くまで来られちゃ。もっと長い武器の方が良かったか」
 その横で戦うフィラの武器は『聖者の槍』。リーチは長いけれど突き攻撃用の武器だから、体に隙間の多い骨兵が相手では攻撃しずらい。だから振り下ろしと振り上げで戦い続ける。
 グシャ! ボゴッ! 上へ下へぶらぶら揺れる槍の穂先が、骨兵どもの顎を砕き、頭蓋骨を陥没させる。
「突き攻撃じゃないと、やりにくいな」
 それでも骨兵どもは先の砲撃で痛んでいるし、さらにアレクシアスが皆の武器に付与したオーラパワーの魔法が、魔物への攻撃力を高めていた。どうとない攻撃でも、魔物どもはあっさり傷つき倒れていく。
「早くケリつけちまおうぜ!」
 長巻『相州行光』で骨兵の頭を打ち砕いたオラース、前方に群がる骨兵どもにもソードボンバーをくらわせた。
「ウインドスラッシュにゃ!」
 チカも魔法で援護。立ちふさがる骨兵がバタバタ倒れた隙に、突入隊は遺跡までの距離を一気に縮め、対カオス傭兵隊が魔法で開けた壁の穴の中から遺跡の内部へと潜入する。
「んー‥‥あちこちに人の気配があるにゃー。人質の人だといいんだけどにゃー‥‥」
 チカがブレスセンサーの魔法で調べたところ、遺跡の中には50人もの人質たちが、あちこちに分散する形で捕らえられていた。
 突入隊は迷路のように入り組んだ遺跡の通路を進む。闇を照らすのはオラースが連れてきたペット、エシュロンの炎の明かり。
「人質が捕らえられているのはこの辺りか?」
「だと思うにゃ」
「それにしてもひでぇ臭いだ」
 遺跡の中に漂う腐臭は凄まじい。
「見ろ、扉があるぞ」
 通路の先に重たい鉄の扉が見えた。
「どれ、開けてみるか」
 オラースが扉に手をかけようとしたが、
「おっと、その前に‥‥」
 ユラヴィカがエックスレイビジョンの魔法を使い、鉄の扉の向こう側を透視。途端、ユラヴィカは言葉を失った。
「な、なんという‥‥」
「どうした!? 魔物でもいたか!?」
「いや、魔物はおらぬが、しかしこれはあまりにも‥‥」
「じれってぇな」
 待ちきれず、オラースは扉に手をかけてゆっくり開いた。
「‥‥な、なんだこりゃあ!?」
 オラースも言葉を失い、ただただ立ち尽くす。
 扉の向こう側は大広間のように広い部屋。そこに骨の山が出来ていた。そこかしこに転がるしゃれこうべからして、骨は人間のものだ。一体、何人分の人骨がここにあるのだろう? 100体? 200体? それとも‥‥。
「ゲェヘェヘェヘェヘェ!!」
 気色悪いダミ声の笑いが響き渡る。何処から現れたか、翼持つ醜悪な小鬼の魔物が、骨の山の頂上で冒険者たちを嘲り笑っている。
「この場所に足を踏み入れたが最後、おまえ達は生きて外に出ることは‥‥」
 だが、魔物の言葉は最後まで続かなかった。リュドミラの放ったホーリーアローと、香織の放つムーンアローがその体を貫いたのだ。
「ギャアアアーッ!!」
 魔物は絶叫して逃げ回るが、香織が次々と放つムーンアローは獲物を逃さない。ついに魔物は断末魔と共に消滅し、体に突き刺さっていたホーリーアローが音を立てて床に転がった。リュドミラがその矢を拾い上げた時。
「あそこに人質の人達がいるにゃ!」
 チカが叫ぶ。
「これはひどい‥‥!」
 さらに奥の場所、牢屋のような小部屋に人質たちが押し込められていた。その数およそ15人。誰もが傷だらけで、死んだように横たわっている者もいる。人質の何人かが冒険者たちに虚ろな視線を向けた。
「おい、歩けるか?」
 冒険者たちは人質の1人1人に声をかけて確かめたが、自力で立って歩ける者は半数にも満たない。
「俺たちで遺跡の出口まで運ぶか」
「その後でチャリオットを呼んで移送しましょう」
「残りの人質たちも速く救出しなければ」
「では、連絡はわしが」
 ユラヴィカは1人、連絡のため外へ飛び立つ。残った者たちは人質を少しずつ運び出す。
 ところが、脱出のため遺跡の壁に魔法で穴を開けると、外にはまたしても大型の魔物が待ち構えていた。
 長い首のダチョウに似たカオス恐獣、体長4mのガリミムスだ。本来は歯のないそのクチバシからは、尖った歯がびっしりとはみ出ている。
「ギイイイイイ!!」
 耳障りな叫びを上げ、カオス恐獣が突っ込んできた。間髪を置かず、リュドミラが2本の破魔矢を放つ。
「ギアアア!!」
 傷つき叫びを上げるカオス恐獣。そこへ味方のバガンが体当たりをかける。2本の破魔矢は恐獣の下敷きになって、ぼきりと折れた。
 こちらに向かってくる2台のチャリオットが見える。
「オフェリア! 援護を頼む!!」
 飛んできたペガサスはアレクシアスの言葉を受け、肉の匂いを嗅ぎつけて群がり寄せる魔物どもを蹴散らし始めた。

●過去見で見たもの
 その後も人質たちの救出は続く。
「これで最後の人質だにゃ」
 チカはブレスセンサーの魔法で、もはや遺跡の中に人質が残っていないことを確認。
 戦いは終わり、魔物どもはことごとく討ち滅ぼされている。
 救出された人質たちはフロートチャリオットで船に移送されたが、念のためアレクシアスは『石の中の蝶』を使い、人質の中に魔物が紛れ込んでいないかを確かめた。
 『石の中の蝶』は羽ばたかない。
「人質の中に魔物はいないということか」
 しかしユラヴィカは忠告する。
「杞憂であるやも知れぬが、怪しげな実験が行われていたとの情報もある。救出した人質の確認はしっかり行わねばな。魂を一部盗られていたりとかもありそうじゃし‥‥。過去の経験からして、本人にその意図がなくとも内通者になってしまったり、処遇如何で他所にいらぬ口実を与えてしまう場合もあるじゃろう?」
「確かにそうだが、今は一刻も早くラシェット領の安全圏まで移送せねば」
 既にドーン家当主に対しては、救出された人質たちをエーロン治療院分院で保護するという通達が出されており、ドーン家当主もこれを認めている。
 香織は人質たちの間を回り、可能な限り聞き込みを行った。
「無理にとはいいませんが、何があったか、何をされたか話していただけませんか?」
 だが人質たちは誰もが衰弱し、心に大きな痛手を受けている。得られた情報は断片的なものばかり。
「みんな‥‥死んだ‥‥」
「毎日‥‥魔物の笑う声と‥‥人々の叫びを聞かされて‥‥」
「ずっと牢に閉じこめられ‥‥何が起きたのかも‥‥分からない」
 人質たちが治療院分院に移送された後も、香織は遺跡に居残って調査を続けた。
「これは‥‥」
 あの骨の山が築かれていた場所を調べると、床に何か重たい物を引きずったような跡がある。パーストの魔法を使い、冒険者たちが突入する直前の状況を調べてみたが、見えたのは突入時に見たのとさして変わらぬ骨の山。1週間前に遡って調べてみても、状況は同じだった。
 思い切って、過去1ヶ月前まで遡って過去見を行ってみた。
「あっ‥‥!」
 異様な物が見えた。石か金属で作られたような巨大な魔物像だ。しかもその魔物像の前には、何かが積み上げられている。垣間見たそれは、バラバラに切断された人間の首や胴体や手足のような‥‥。

●戦い終わって
「しかし、腑に落ちねぇな」
 と、オラースが言う。
「結局、遺跡にいたのは死体の魔物にデビルもどきだけか? あのルシーナが言っていたような、人質たちを浚って遺跡に連れ込んだ連中はどこへ消えたんだ?」
 シャルロットも、ふと漏らす。
「以前、ならず者の口封じと見せしめ処刑を行ったのは、この辺りに強い影響力を持つ黒幕と見るのが妥当なのでしょうが‥‥どうもしっくりこない。ドーン家当主は疑わしさ濃厚ではあるのだが、そもそもあれは本人なのか?」
 ドーン家当主の知人を訪ねる機会があるなら、彼の身形や人柄、筆跡などの情報を集めておこうとシャルロットは考えた。

 クレアは王領ラシェットで保護されているルシーナの元へ向かい、彼女の心身の療養の為、ホープ村に引き取る事を提案。
「私の村に来ると良いわ‥‥その前に」
 『聖なる釘』を地面に打ち付け、ルシーナを手招きする。
「さあ、こちらへ」
 不思議そうな顔をしながらも、ルシーナはクレアに歩み寄った。
「ありがとう、これで確かめることができたわ」
 『聖なる釘』に行動を妨げられなかったルシーナは魔物ではない。ルシーナの入れ墨にも、何ら変化は見られなかった。

 今回の魔物討伐戦の後、エーロン王はかねてから信任の厚いアリアと香織を、フオロ分国東部王領補佐官に任命した。

 アレクシアスは今回の依頼の必要経費を負担したいと、冒険者ギルドに申し出た。対応に出たギルドの事務員は答える。
「今回の必要経費はドーン伯爵家とフオロ王家、そして冒険者ギルドのスポンサーであるトルク王家から出ているので、アレクシアス殿が負担する必要は特にないのですが‥‥それでも負担をご希望であれば、これら当事者の方々と話し合ってお決めになって下さい」