フオロ再興5〜侵入者は闇より

■シリーズシナリオ


担当:内藤明亜

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:12人

サポート参加人数:2人

冒険期間:06月12日〜06月17日

リプレイ公開日:2008年06月22日

●オープニング

●シェレン男爵
 シェレン男爵領は王都ウィルの南にある領地だ。
 領地としては小さ目だが、メルート・シェレン男爵はことのほか領地経営に熱心で、見るからに領地は豊かだ。
 もしもあなたが王都からの街道を通ってシェレン男爵領に入るなら、最初に目につくのは領内のそこかしこに広がるハーブ園だ。栽培されているのはセージやタイムといった薬草で、これらは医術にも利用されるだけではなく、ソーセージなどの保存食に使用される防腐剤として需要が高い。
 さらに街道を歩けば、洋ナシの育つ果樹園やぶどう畑を目にするだろう。果樹園では他にもリンゴやサクランボが育てられ、ドライフルーツや果実種の原料となる。ぶどう畑のぶどうから作られるワインも良質のものだ。
 さらに進んでシェレン男爵領の奥に進めば、そこにあるのは小奇麗な庭園を備えた領主館。洒落た雰囲気の館にシェレン男爵は住んでいる。領主館には王都からの客人がしばしば訪れるが、その日に訪れた客人は変わっていた。なにしろその客人は、領地持ちの女冒険者なのだから。昔から救護院建設に奔走し、男爵位を得た今もそれを続けていることから、彼女は救護院男爵と呼ばれている。
「お久し振りねメルート卿‥‥友として、貴方の力を借りたいの。昔の約束、覚えているかしら?」
 シェレン男爵は彼女のことを覚えていた。
「覚えているとも。君もついに貧民村の‥‥失礼、晴れてホープ村の領主となったわけだ。準備は整ったかね?」
「徐々に、着々と。畑は耕し終わり、用水路も整備され、井戸も近日中に清められます。牛や馬などの家畜についても、商人との売買交渉を進めています」
「それは結構なことだ」
 以前、救護院男爵がシェレン男爵に求めたのは、自領での農業復興に対してのシェレン男爵の助力だ。その時は十分な準備が為されていないからと断られたのだが、今に至って時は十分に熟したといえる。
 シェレン男爵は言う。
「近々、君の治めるホープ村を訪問するとしよう。是非とも村の様子をこの目で確かめたい」

●噂の2人
 フオロ分国の統治者エーロン王に仕える衛士たちの間に、奇妙な噂が流行っている。
「元謀反人のレーガー卿が、あの救護院男爵に懸想して言い寄った挙げ句、冒険者ギルドで張り倒されたという噂は本当か?」
「本当だとも、俺はこの目で見たぞ。男爵の頬には手形の跡がくっきりと」
「つまりは痴話喧嘩か?」
「おおかた、年甲斐もなく女男爵に恋文でも書いて送ったに違いあるまい」
「あの男、なかなか隅に置けぬエロ爺ぃというわけか」
 先王エーガンの不興を買い、反逆者と目されていたレーガー・ラント卿も、今はその豊かな農業知識を買われ、監視つきの身ながらフオロ東部王領の復興に協力している。救護院男爵も彼の力を借りることしばしば。もっとも衛士たちの噂ではないが、2人の身辺ではこれからも色々ありそうだ。

●闇夜の侵入者
 フオロ分国の東部に広がる王領ラシェット。悪代官が討伐されたこの地の復興は日増しに進む。巡回警備体制も冒険者の主導で整えられ、帰郷した元領主と元家臣たちが、それぞれの土地の警備に励んでいる。
 ここは王領ラシェットの中央部にある町。街人たちが寝静まった後も、警備兵たちは夜通しで町の見張りについていた。
「‥‥おい、何か臭くないか?」
 警備兵が異臭に気づく。
「これは死臭じゃないか? どこから臭ってくるんだ?」
 町の周辺の管理は行き届いている。この辺りに死体など放置されているわけがない。
「まるで空から臭ってくるようだぜ」
「‥‥待て。今、何か空を横切らなかったか?」
「何だって?」
 同僚から声をかけられた警備兵、空を見回すが見えるのは星空ばかり。
 暫くして──。ドン、と地響きのような震動が伝わってきた。
「今のは何だ?」
 まるで大きな何かが空から地面に舞い降りたような。
「警戒態勢を取れ! 万が一の敵襲に備えろ!」
 寝ていた警備兵たちも叩き起こされ、町はものものしい警戒態勢に入る。松明を手にした警備兵たちが馬に乗り、周囲の偵察を始める。
「音が聞こえたのは、確かこの方角だったな?」
「しかし何だこの臭いは?」
 死臭はますます強くなる。
 突然、そいつらは暗闇の中から姿を現した。
「ウガ‥‥ガガガガァ‥‥」
「ガァ‥‥ガガァ‥‥」
 2頭の馬と1人の男。だがその体は腐り果て、馬も男も骨が剥き出し、強烈な死臭を放つ。動き回る死体どもだ。
「カオスの魔物だ!」
「こっちにも出たぞ!」
 別方向からも数体の動く屍が出現した。
「こいつら、どこから湧いて出た!?」
「やつらを町へ向かわせるな!」
 その夜に繰り広げられた戦闘で、警備兵たちは7体もの魔物と戦いを繰り広げた。戦闘は夜中に終わり、魔物どもは全て退治されたが、朝が来て周囲が明るくなると、警備兵たちは地面に残された跡を見た。
「これはフロートシップの着陸跡じゃないか!」
「魔物を乗せたフロートシップが真夜中にやって来て、魔物を放り出して飛び去ったというのか!?」
「いったい、どこのフロートシップが!?」

●ドーン伯爵家からの依頼
 冒険者ギルドのカウンターに1人の男が現れた。名をサーシェル・ゾラスというその男は、ドーン伯爵家の現当主シャルナー・ドーンに使える騎士だ。
「この度の王領ラシェットにおける魔物侵入事件、我等が当主殿も憂慮しておられます。今後も同様な事件の続発が予想されますので、シャルナー殿も王領ラシェットの復興に与る冒険者と力を合わせ、さらなる事件の発生を未然に防ぐことをお望みです」
 こうして出された依頼は、フオロ王家とドーン伯爵家の双方を依頼人とする依頼となる。目的はラシェット領における魔物侵入事件の解明と、事件の再発防止だ。ドーン家当主の協力があるので、ドーン伯爵領でも踏み込んだ調査が可能だ。
 果たして魔物を乗せたフロートシップはどこから飛来したのか? それを突き止めるのが急務となる。依頼期間の間にも、謎のフロートシップが襲来する可能性は高い。
 また、ラシェット領の東に広がる森には、討ち漏らした魔物が潜んでいる可能性もある。

●魔物の影
 ドーン伯爵領に存在した魔物の巣、『惨殺の廃墟』から解放された人質たちは現在、マリーネ治療院の派出所(旧エーロン治療院分院)に保護されている。ラシェット領の南の大河の畔に建ち並ぶ、簡素な丸太小屋が53名の元人質たちの住処だ。
 冒険者たちの調査によれば、『惨殺の廃墟』では邪悪な儀式が行われ、大勢の人間が生け贄に捧げられていた。だが儀式を執り行った邪悪な者たちは、『惨殺の廃墟』が解放された時には忽然と消え去っていた。
 治療院派出所での治療の甲斐あって、元人質たちは身体の健康を取り戻し、心の傷も徐々に癒えつつあるようだ。だが彼らは魔物の影響下に置かれた者であるが故に、今も監視下に置かれている。
 その日の夜、派出所を警備する警備兵たちは、闇の中から響く耳障りな声を聞いた。
「ゲェヘェヘェヘェ!! おまえ達は俺達から逃げられねぇぞ!!」
「畜生! またか!」
 声に向かって警備兵が石を拾って投げつけると、翼の生えた醜い子鬼が羽ばたきの音と共に飛び去った。
「魔物め!」
 このところ夜になると、いつも魔物の嘲る声が聞こえてくる。警備兵が打ちかかろうとすると逃げていくが、次の日の夜になるとまた現れる。嫌な相手だ。
「奴等、何とかならねぇのか?」

●今回の参加者

 ea1128 チカ・ニシムラ(24歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1565 アレクシアス・フェザント(39歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1704 ユラヴィカ・クドゥス(35歳・♂・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea5597 ディアッカ・ディアボロス(29歳・♂・バード・シフール・ビザンチン帝国)
 eb0520 ルティア・アルテミス(37歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb4199 ルエラ・ファールヴァルト(29歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4219 シャルロット・プラン(28歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4288 加藤 瑠璃(33歳・♀・鎧騎士・人間・天界(地球))
 eb4304 アリア・アル・アールヴ(33歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4410 富島 香織(27歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb6105 ゾーラク・ピトゥーフ(39歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb7689 リュドミラ・エルフェンバイン(35歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)

●サポート参加者

クレア・クリストファ(ea0941)/ ヴェガ・キュアノス(ea7463

●リプレイ本文

●お使い
 ホープ村の領主である救護院男爵の知り合いだった関係で、ルティア・アルテミス(eb0520)はこの依頼に参加した。
「それじゃ、この手紙をマリーネ姫に。頼んだわよ。それからアネット領に住む元領主と元家臣にも連絡を」
「後は任せといて」
 近々、井戸掘りのドワーフ職人たちが、マリーネ姫の所領となった王領アネットにやって来る。ルティアが救護院男爵から預かった書状は、ドワーフ達の来訪に備えて姫にお膳立てを求めるもの。それを王都の貴族街にある姫の館に届けると、ルティアはシェレン男爵領にやって来た。
 シェレン男爵領は、ホープ村の隣の領地だ。でもルティアは童顔だから、領地の入口で衛兵に子どもと間違えられた。
「おやお嬢ちゃん、シェレン男爵領に何用だね?」
「むむっ! 僕は子供じゃないんだよー!」
 思わずルティアは頬を膨らませ、右手にはめた『ふわふわグローグ』でアタッ〜ク!
 ぽわん。
「こらこら。おいたはいけないぞ、お嬢ちゃん」
「だからっ! 僕は子供じゃないんだよー!」
 ぽわん。
 ルティアがシェレン男爵領にやって来た目的は、男爵領で生産されているハーブの買い付けだ。子どもには間違えられたけど、男爵との買い付け交渉はうまくいった。
「お望みのものはセージにタイムにラベンダーか。いずれも我が領地で生産されているが、これは治療院派出所で使用するものかね? ならば料金は、後で治療院に請求するとしよう」

●治療院派出所にて
 ハーブを買い付けると、王領ラシェットの治療院分院へ。そこでは仲間のチカ・ニシムラ(ea1128)が待っていた。
「チカ、よろしくね〜」
 ぴょん、ぴょん、ぴょん。
 兎のようにぴょんぴょんっ飛び跳ねてやって来たルティアを見て、チカは不思議そうな顔になる。
「ここまでずっと跳ねて来たにゃ?」
「ああ、これは気合いを入れてるの。じゃ〜チカ、頑張ろうか♪」
 このところ魔物騒ぎが頻発しているだけあって、派出所には他にも幾人もの冒険者がやって来ている。ところが、彼らから魔物退治のために提供された武器を見て、派出所の治安を預かる警備隊長は困惑。
「お心遣いは有り難いのだが‥‥」
 これら数々の武器をリストアップすると、次のようになる。

 ロングスピア「黒十字」+1
 アル・アールヴ・レミエラ・4
 疾風のレイピア+1
 聖者の槍+1
 霊剣「タケル」+1
 キューピットボウ+1
 妖精の盾

 いずれも魔力を帯びた武器だが、派出所を守る警備兵たちは、主として王領ラシェットに住む元領主や元騎士のところから派遣されている。その主君を差し置いて、これらの貴重な武器を受け取ってしまうのも如何なものか?
 結局、警備隊長はこう答えた。
「冒険者諸君の滞在中はこちらで使わせていただくが、武器の提供については改めて、我等の主の立ち会いの元で決めさせていただこう」

●かりそめの平安
 治療院派出所に着いたその日から、ルエラ・ファールヴァルト(eb4199)はペガサスに乗って、上空からの偵察を始めた。ジュンと名付けられたチカのペットも、空からの警戒と偵察を続けている。
(「ジュン、何か怪しい生き物を見なかったかにゃ?」)
(「いいや、な〜んにも」)
 テレパシー魔法のスクロールを使って、チカがジュンと交信しても、交わされる会話はこんなのばっかり。やがて辺りが暗くなると、ジュンは地上に舞い降りてきた。
 その姿を見て、警備兵たちは驚いたような呆れたような視線を向ける。
「こんなのを連れてきちゃ、魔物だって逃げ出すぞ」
 ちなみにジュンは体長3.5mのイーグルドラゴンパピーである。
 それにしても、いつものように騒ぎを起こしていた魔物は、さっぱり現れる気配がない。
「実は先にも、クレリックの冒険者の方がやって来てな」
 警備隊長の言葉を聞いて、ルエラは思い当たった。
「ヴェガですね?」
「そうだ。魔物を懲らしめ、2度と悪さをしないよう約束させたらしいが、果たして魔物が約束など守るのか?」
 とはいえ魔物が現れないのでは仕方ない。冒険者たちはもっぱら、収容された元人質たちの世話をして過ごす。
「お茶が入ったよ」
 漂うハーブの香り。ハーブティーのポットを片手にぶら下げ、お茶を次いで回っているのはルティア。
「ありがとう‥‥」
「いい香り‥‥」
 簡素なテーブルに集まってきた顔触れを見ると、10代から20代にかけての若い娘たち。その誰もの顔に翳(かげ)りがあるのは、カオスの魔物に捕らえられ苛酷な時を過ごしたことが、暗い影を落としているのだろう。
「魔物は‥‥まだ外にいるの?」
 娘の1人がルティアに問いかける。
「大丈夫だよ、僕達が何とかするからね」
 美しく刺繍されたルティアのローブ、そこに装着されたレミエラの輝きをちらりと見せると、ルティアは外へ向かう。
「さて、お次は‥‥」
 外へ出ると、ずらりと建ち並ぶ丸太小屋が目に映る。
「この1つ1つに、合わせて53人の元人質か‥‥。狭い小屋だし、ここに閉じこもりきりだと大変だろうな」
 この丸太小屋は急ごしらえで、いわば仮設住宅のようなものだ。マリーネ治療院副院長のゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)は、丸太小屋の1つを診療所として利用し、元人質たちの検診を行ったが、やはり不便さを感じるものだ。マリーネ治療院の運営体制が固まったら、いずれエーロン治療院にひけを取らない施設を用意しなければと思う。
 見たところ、元人質たちの健康状態は悪くはない。ただ、監禁同然の生活が長引いているので、誰もがストレスを抱えている。
「大丈夫です。一人たりとも二度と魔物の思う通りにはさせません」
 そう言い聞かせると、元人質の若者が言う。
「俺達はいつまで、こんな場所に閉じこめられているんだ? 俺は自分の思う通りの暮らしがしたいんだ」
 やがて夜が訪れたが、その夜も静かだった。冒険者たちが来る前は、魔物があれほど騒いでいたというのに。
「魔物はこのまま姿を現さないのでしょうか?」
「でも、僕たちが帰った途端、魔物がぞろぞろと姿を現したんじゃ話にならないよ。やっぱり魔物は、どこかで僕たちのことを見てるんだ」
「ジュンは目立ちすぎるのかにゃ?」
「‥‥いや、待って!」
 仲間と話をしているうちに、ルティアは名案を思いつく。
「考えがあるんだ。みんな話を聞いて」

●魔物撃滅
 その翌日。
 河岸に停泊した船に、ぞろぞろと冒険者が乗り込んでいく。ペットも一緒だ。やがて船は岸辺から遠ざかる。治療院出張所の上空には、もはやペガサスもイーグルドラゴンパピーも飛んでいない。
 そしてその夜。
 案の定、魔物どもは現れた。
「ゲェヘェヘェヘェ!! 夜が来たぁ!!」
「ゲェヘェヘェヘェ!! 魔物の夜だぁ!!」
「ゲェヘェヘェヘェ!! 今夜はたっぷり楽しんでやらぁ!!」
 暗闇に響き渡るダミ声に怯えたか、丸太小屋の中から1人の娘が飛び出した。途端、娘は翼の生えた小鬼どもに取り囲まれた。
「ゲェヘェヘェヘェ!! どこへも逃がさんぞぉ!!」
「君達なんて怖くないよ! さぁ、僕を苛めてみてよ!?」
 強がりを言う娘の目には涙が浮かぶ。いつの間にか、娘の周囲は小鬼だらけ。
「お望み通り、いじめてやらぁ!!」
 小鬼どもが一斉に、娘にとびかかる。
「痛い! 痛いよぉ!」
 泣き叫ぶ娘の声が、ますます小鬼どもを刺激する。
「痛がれぇ!! 苦しめぇ!! 泣き叫べぇ!!」
「痛いよ恐いよ痛いよ恐いよ‥‥な〜んてね」
 不意に娘の口調が変わる。
「げぇ?」
 もはや群がり寄せる魔物にも、娘はお構いなし。
「さあ、そろそろ始めようか。──お仕置きタイム!」
 娘の正体、実は変装したルティアであった。その装着した刺繍入りローブには、敵対する存在から集中的に狙われるという魔力が備わっていたのである。さらにルティアの右手には、『ふわふわぐろーぶ』が装着済み。
「そんなふわふわな代物で、俺達が倒せるものかぁ!!」
「だったら試してごらんよ。──蒼雷よ、空を駆けよ! 荒れ狂う嵐となりて、邪を払え!!」
 魔法呪文が放たれた。ルティアの放ったライトニングサンダーボルトは、扇状に広がる稲妻となって小鬼どもを襲う。
「ぎょえええっ!!」
 嘲りの声は絶叫に変わる。小鬼どもは酷い手傷を負ってあたふたと逃げ出したが、その目の前にチカが立ちはだかった。
「魔法少女マジカル♪チカがお仕置きしてあげるのにゃ! 風の刃、ウインドスラッシュ!」
「ぎゃあああああっ!!」
 放たれた真空刃が小鬼の1匹をぶった斬る。小鬼は絶命し、あっという間に消滅した。
 続いてまたもルティアの魔法攻撃。扇状の稲妻を2度もくらい、小鬼の多くは絶命して消滅したが、悪運強く生き延びて逃げていくヤツが2匹いる。
「とどめだにゃ!」
 ビイッ! 高速詠唱でチカが放ったライトニングサンダーボルトが、逃げる小鬼の1匹を貫く。小鬼は断末魔を上げて消滅。
「もう1匹は‥‥」
 その逃げた先を目線で追うと、
「こいつが最後の1匹だな?」
 片手に小鬼をぶら下げて、ルエラが現れた。
「離せ、離せぇ〜っ!!」
 小鬼はルエラの手から逃れられずにじたばた。と、思いきや──。
「あっ!」
 小鬼の体がぐにゃ〜っと変形し、気持ち悪い大ムカデに変わる。ルエラは思わず手を離してしまい、大ムカデは沢山の足をガシャガシャ動かしながら逃げていく。
「逃がすか!」
 ルエラが聖剣「アルマス」デビルスレイヤーを突き入れ、逃げる大ムカデの足を5、6本も斬り飛ばす。
「ぎぃええええ!」
 大ムカデは再び小鬼の姿に戻り、地面を転げ回って叫ぶ。
「まったく世話の焼ける‥‥」
 しばらくすると、警備隊長が部下の兵士たちを引き連れて現れた。決着がつくまで、離れて様子を見ていたのだ。
「作戦は上手く行ったようだな」
「やはり引き上げた振りをしたのが、正解だったよ」
「ところで、だいぶ派手にやられたようだが。怪我はないかねお嬢ちゃん?」
「もう、隊長まで! ひどいよ〜、僕は子供じゃないんだよー!」
 思わずルティアは頬を膨らませ、『ふわふわグローグ』でアタッ〜ク! ‥‥しようとしたら、警備隊長は顔を強張らせてサッと身を避けた。
「頼むからそんな物騒なものを俺に向けるな」

●魔物の尋問
 捕らえられた小鬼は逃げられぬよう、手頃な壺の中に閉じこめられた。
「では、尋問を始めるか。おまえ達は誰に指示された?」
 尋問するルエラ。小鬼は何も答えず、陰険な目でルエラをにらんでいる。
「答えないと、痛い目に合うぞ」
 ルエラはペットのペガサス、グラナトゥムを呼び寄せる。そして自らも聖剣「アルマス」をちらつかせる。小鬼の態度が豹変した。
「‥‥待て、答えてやる。俺に指示を下したのは‥‥聞いて驚くな」
「だから、誰に指示された?」
「俺達に指示を下したのは新ルーケイ伯アレクシアス・フェザントだ」
「何!?」
 また、とんでもない人物の名前が出てきたもんだ。
「嘘や出任せを言うと承知しないぞ」
「嘘や出任せなものか。確かにアレクシアスが俺達に命じたのだ」
「どうしてアレクシアスがそんなことを命じる!?」
「知るか、本人に聞け! だがアレクシアスはとんでもない浮気者だ。俺を自由にしてくれるなら、浮気の証拠を山ほど持ってきてやるぞ」
 どんどん話が怪しい方向に進んでいく。
「はい、そこまで」
 声で制したのはゾーラク。
「リシーブメモリーの魔法を使って、この魔物の記憶を読みました。魔物が喋っている内容は全くのデタラメです」
 途端、小鬼はわめき立てる。
「畜生、謀りやがったな! この最低女ども、ふざけやがってぇ!」
 すると、ペガサスのグラナトゥムが壺に近づく。敵愾心に燃える目で、壺の中の小鬼をにらみつける。
「この馬野郎! 何する気だ‥‥うぎゃああああっ!!」
 グラナトゥムはホーリーの魔法を放ったのだ。断末魔を放つ小鬼。その体は焼けただれてボロボロになり、やがて灰の塊が崩れるように消滅した。
 ルエラは気を取り直し、ゾーラクに尋ねる。
「それで、魔物の記憶から何を読みとったのだ?」
「読み取れた内容は2つあります。1つ目は『指示を下したのは真のドーン家当主』、もう2つ目は『隠れ家はドーン伯爵領のどこかにある』ということです」
 ふと、ルエラは指にはめた『石の中の蝶』を見る。そして驚いた。
「これは‥‥!」
 指輪の宝石の中で、蝶がゆっくりと羽ばたいているではないか。
「魔物はまだ近くにいる!」
 いや、待て。再び宝石を見ると、宝石の中の蝶は制止している。
「おかしい。さっきは確かに動いているように見えたのだが‥‥」
 その後、治療院派出所の隅々を捜索したが、もはや魔物はどこにも見つからなかった。

 ともあれ、これで治療院出張所を悩ませ続けた魔物は全て退治された。──恐らくは。
「もう、魔物は騒いだりしないの?」
 訊ねる元人質たちの顔にはまだ不安が残る。チカは極力、元人質たちを勇気づけるよう心掛けた。時には雑談の長話に付き合ってあげたり。
「うにゃー、皆少しずつでも元気になっていくといいけどにゃー‥‥」
 ふと、思い出してボソっとつぶやく。
「‥‥そういえば学校の方は今、どうなってるんだろうにゃ?」

●過去見
 王領ラシェットの中央部、魔物との戦闘が発生した場所では、冒険者たちが謎のフロートシップの調査を行っている。現場にはまだフロートシップの着陸跡が残っている。
「パーストの魔法を使ってみましょう」
「そうですね」
 富島香織(eb4410)とディアッカ・ディアボロス(ea5597)は過去見の魔法が使える。事件のあった日時に狙いを定め、着陸跡のすぐそばに立つと、2人して呪文を唱えた。
 視界が切り替わる。辺りは真っ暗な闇夜、頭上から巨大な影が迫ってくる。月はもう沈んでいるから、見極めるのがとても難しい。
 それでも2人は何度も魔法を繰り返し、僅かながらフロートシップの特徴と着陸時の状況をつかむことが出来た。
「どうやらフロートシップは、通常の船に魔法装置を取り付けた旧型のものらしいです」
「もの凄い勢いで着陸して、甲板から何かを乱暴に放り出すのが見えました。多分、それは魔物でしょう。その後で、早々と離陸して飛び去っていきました」
 調査に同行するユラヴィカ・クドゥス(ea1704)が尋ねる。
「何か、船の特徴を示すものはないかのぅ?」
「真っ暗闇の中で起きた事件なので、見極めるのが難しいのですが‥‥待ってください」
 ディアッカは空へ舞い上がり、さらにパーストの呪文を唱えてみた。
 ほんの一瞬だけだが、船から漏れる微かな明かりが見えた。
 着陸の際、船に乗る何者かが灯りをかざして、地面の様子を確かめていたらしい。
 その微かな明かりの中に、船の甲板に残る特徴的な傷が浮かび上がる。
「船の特徴を示すものといえば、これだけですが」
 ディアッカから話を聞くと、ユラヴィカはアトランティス特有の輝く空に目を向ける。
「ダメ元でやってみるかのぅ」
 サンワードの魔法が使えるユラヴィカは、魔法の媒体とした金貨を手にしつつ、空を輝かせる陽精霊に尋ねる。
「‥‥と、甲板にこのような特徴的な傷のあるフロートシップは今、どこに存在しているのじゃろうか?」
 ラッキーなことに、答が返ってきた。
『北におよそ350キロ』
「なんと‥‥それはまた遠いものじゃ」
 北におよそ350キロといえば、ウィルの北の国境を越えて、隣国ハンの内部にまで達してしまうではないか。

●誘き出し作戦
「魔物を放ってゆく謎のフロートシップ‥‥『惨殺の廃墟』の手の者達とも関係があるのだろうか? ‥‥恐獣の死体を運び入れるのも可能かもしれないな。敵はフロートシップを有する存在と繋がりがある。それは確かだが、実験的にラシェット領が狙われているのだろうか? それとも‥‥?」
 アレクシアス・フェザント(ea1565)は非常にそれが気になる。
「ともかくもフロートシップの正体を明らかにすべく、次の襲来までに罠を張り準備を整えねば。相手とて、夜中の航行や離着陸には大きな負担が生じる筈。それをカバーするなら魔法による補助、そして何者かの手引きによる地上からのアプローチが必要なはずだ」
 その言葉を聞いて、アリア・アル・アールヴ(eb4304)が意見を出した。
「領内で何者かが手引きをしているのならば、こちらが意図的にいくつか警備の空白地帯を作り出し、そこへ誘導することも可能でしょう」
 早速、アリアは動き始めた。
 ラシェット領に住む元領主と元騎士達を呼び集め、人員の派出を願う。
「謎のフロートシップから放たれた魔物の一部は、未だにラシェット領の東の森に隠れている可能性があります。また、南の治療院派出所の付近に出没する魔物への対策も必要です。これらの対策のため、警備要員を重点的に領地の東と南とに、重点的に配置していただきたい」
 元騎士から反対意見が出る。
「しかし、それでは他の場所への警戒がおろそかになります」
 それでもアリアは、その本来の目的を隠しつつも説得する。
「人員は東と南に傾斜することになりますが、それは一時的なものです。とにかく今、東と南の問題に片を付けることが肝心なのです」
 結局、元領主と元騎士達はアリアの説得に折れた。

●シャミラのアドバイス
「で、これがその結果か?」
 地図を見ながらシャミラが言う。張り出された地図に刺された数々のピンは、ラシェット領内の戦力配置を示すもの。現在、ピンの多くは東側と南側に集中し、西側と北側にはガラ空きの部分が出来ている。
 対カオス傭兵隊を率いる元テロリストのシャミラは、アレクシアスの呼び出しに応じて、ラシェット領の旧領主館に設けられた作戦室に来ていた。
「フロートシップが出現したら、直ちに追跡を行いたい。そのために対カオス傭兵隊からインフラビジョンの使い手を借りたいのだ」
 それが、アレクシアスがシャミラを呼んだ理由。
「人員の提供は構わないが、追跡にはドラグーンを使うのか? あれは図体がかさばって目立つぞ。もしも伯が案ずるように、ラシェット領内に内通者がいたとしたら、ドラグーンの持ち込みだって筒抜けになりはしないか?」
「ならば持ち込みに際しての機密厳守を徹底し、信用のおける者だけで行おう」
「それで、このように警備の空白地域を作っておけば、伯と冒険者たちは謎のフロートシップがそこに現れると思っているのか?」
「シャミラはそうは思わないのか?」
「先の事件で謎のフロートシップが出現したのは、町のすぐ近くだった。それも、着陸の音が町まで伝わる程の近距離だ。敵が我々の警戒を恐れているのならば、あんな出現の仕方はしない。次の侵入事件があるとして、恐らくフロートシップは西側と北側の警備空白地域には現れまい。フロートシップは今度も町の近くに現れるはずだ」
 シャミラの言葉をアレクシアスはじっと聞いていたが、結論を出すのはまだ早いように感じられた。そこでシャミラに別のことで質問してみる。
「そういえば、魔法を使える者達に声を掛けているそうだな?」
「それは昔からだ。主としてアトランティスのジプシー達だが、その魔法だけが目的ではない。ジプシー達はアトランティスの各地を移動して生活してきた者達だ。時には国境を越えて移動することもある。ジプシー達のネットワークを利用すれば、貴重な情報も入手できるだろう?」
「ジプシー達も対カオス傭兵隊に組み入れるつもりなのか?」
「志願者がいれば。ただし直接的な戦力としてのみならず。情報の収集と共有もまた大切だ」
「対カオス傭兵隊の現在の状況は?」
「基本的なメンバーは昔とさして変わらない。ただしジプシーなど、外部の協力者を迎えることもある。ああ、それから‥‥」
 シャミラは言い足した。
「ゴーレム工房にドラグーンを借りに行くなら、グライダーも借りてきて欲しい。味方の誘導に使いたい。ついでに風信器も何台か欲しい。緊急時の連絡に役に立つ」
「分かった、そのように取り計ろう」

●ドラグーン借り受け
 謎のフロートシップについての情報が集まると、空戦騎士団長シャルロット・プラン(eb4219)は王都ゴーレム工房を訪れた。
「これが、現在までに判明した情報です」
 まとめた報告書を差し出すと、対応に出たゴーレムニストは深刻な面もちになる。
「話には聞いていましたが、由々しき事態です」
「謎のフローシトップについては、機種や製造元を確認したいのですが」
「ええと、騎士団長殿。まだ得られた情報は少ないのですが‥‥謎のフロートシップが通常の船に魔法装置を取り付けただけの、いわゆる旧型フロートシップであることは間違いありません。製造元ですが、かつてはゴーレム先進国のウィルから諸外国に、各種のゴーレムが輸出されました。この船もその1つである可能性はあります。ただし現在は友好国ランの国や憎きバの国を始め、独自にゴーレムの製造・開発に乗り出す国も増えました。旧型フロートシップならば、どこかの国で製造することも難しくはないでしょう。まあ、現物を見たわけではないので、断言はできませんが」
 話を終えると、シャルロットは工房内でウイングドラグーンの借り受け手続きを取る。空戦騎士団長の肩書きを持つシャルロットであるが故に、ドラグーンの持ち出し許可は簡単に下りた。
 一方、加藤瑠璃(eb4288)もまたウイングドラグーンを借りるために、工房を訪れていた。
「ドラグーンでの実戦経験は何度も積んでいるし、スモールドラグーン搭乗員章も持ってるけど、さすがにシャルロットさんに続いて2機目のドラグーンは貸し出されないかしら?」
 不安はあったものの、あえて借り受けを申請してみる。案の定、担当官は難しい顔。
「ドラグーンですか。この辺りはロッド卿に相談してみないと‥‥ああ、ロッド卿。ここにいらっしゃいましたか」
 ウィル国王ジーザムの左腕、ウィルの軍事を取り仕切るロッド・グロウリング卿が、運良く工房を訪れていたのだ。担当官から話を聞くなり、ロッドは即決する。
「良かろう。持ち出しを許可する」
 拍子抜けする程に、あっさりと許可は下りた。

●待ち伏せ
 ラシェット領に夜が訪れる。
 冒険者達は北と西の警備空白地域のそれぞれで、謎のフロートシップのさらなる侵入に備えて警戒を続けている。
 瑠璃は西の警備空白地域にいた。ウイングドラグーンに乗り込み、いつでも出撃できるよう態勢を整えて。ドラグーンの近くにはディアッカもいる。
「本当に来るのかな?」
 心に疑問が浮かび上がること、数限りなし。シャミラのアドバイスも気になる。
 シャミラ率いる対カオス傭兵隊は、その半数が冒険者と共に警備空白地域を警戒し、残る半数は町を警戒している。危急の際には合図があるはずだ。
 夜もかなり更けた頃。
「あれは!」
 ディアッカは見た。町の上空に打ち上げられた、ファイヤーボムの火球を。
 シャミラからの合図だ。
「フロートシップは町の近くに現れたのね!」
 急遽、瑠璃はドラグーンを発進させる。
 冒険者達の予想は外れた。

●墜落
 北の警備空白地域を警戒していたシャルロットは、既にドラグーンを発進させていた。
 周囲は真っ暗闇。だがその中に、空中を移動する灯火がぽつんと見える。
「あれが誘導機か」
 先を行くグライダーの後部座席には、対カオス傭兵隊のメンバーが乗っている。インフラビジョンの使い手だから、暗闇の中でも物が見え、グライダーの操縦士に進路を指示している。
 シャルロットのドラグーンが速力を増す。誘導機を飛び越えたその先で目を凝らすと、空中を行くおぼろな船影が見えた。
「あれか!」
 船の魔法装置に取り付き攻撃、機動力を奪え。ドラグーンは闇の中の船影に急接近。
 だが突然、シャルロットは奇妙な感覚に襲われた。
「何だこれは!?」
 いきなり重力が反転したような──いや事実、重力が反転してドラグーンの飛行が不安定になっている。操縦にかけては熟練したシャルロットの腕前だから、直ぐに安定を取り戻すも、闇夜の中で重力反転が繰り返されると接近もやりにくくなる。
 何者かが船の上からローリンググラビティーの魔法でも放っているのか?
「ええい、もどかしい!」
 シャルロットはドラグーンを急上昇させ、次いで急降下。船から突きだした魔法装置の辺りに見当を付け、ランスチャージ。
 途端、またも重力が反転。
「くっ!」
 突撃のタイミングを狂わされた。ランスの切っ先は魔法装置を外れ、ドラグーンの機体とフロートシップの船体が派手にこすれ合う。
「応援に来たわよ!」
 ドラグーンの風信機から瑠璃の声が響く。瑠璃のドラグーンがやっと追い付いてきたのだ。
「よし! 左右に分かれて攻撃を! 敵の重力反転魔法に注意!」
「行くわよ!」
 2機のドラグーン、態勢を整えるや右手から瑠璃機が攻撃。2機のドラグーンの出現に敵の注意が分散したか、攻撃は見事に決まった。
 ゴオン! ドラグーンの巨大な斧が船右舷の魔法装置に食い込む。さらにもう一撃、さらにもう一撃。
「見て! 船が傾いたわ!」
 瑠璃の攻撃が功を奏した。船は傾いたまま、急速に高度を下げていく。
 だが、落ちていくその先には──。
「大変! 村があるわ!」
「しまった!」
 ゆっくりと落下してゆくフロートシップの動きは、まるで村への突入を狙っているかのよう。このまま突っ込めば大変なことになる。
「船の針路を変えなきゃ!」
「船の進路をもっと左舷側に! 少しでも落下速度を緩めよ!」
 瑠璃機とシャルロット機、それぞれフロートシップの右と左にへばりつき、その推進力を全開にして船の落下地点をずらしていく。
「このまま上手くいけば、なんとか‥‥」
 と、瑠璃が思ったのも束の間。いきなりフロートシップの落下速度が速まった。まるで完全に浮遊力を失ったかのように。
「だめ! もう限界!」
 どおおおおん!!
 とうとうフロートシップは墜落。巻き添えを食らう前に、瑠璃機とシャルロット機は船から離れ去っていた。
「やっちゃった‥‥」
 恐る恐る瑠璃が辺りを見回すと、そこは村外れ。人家は避けたものの、フロートシップは村の家畜小屋を幾つも押しつぶしていた。
「ブヒィー! ブヒィー!」
 闇夜に響くのは怯えた豚の鳴き声。
「あ、大変! 船の中には敵が!」
「瑠璃、気をつけて」
 2人はドラグーンに搭乗したまま、墜落した船の中をのぞきこむ。
 おかしい、人の気配がない。
「あ、あれは‥‥!」
 瑠璃の目の前の夜闇を空飛ぶ影が横切る。
「今のは‥‥」
 瑠璃の目に映ったそれは、フクロウの姿をしていた。
 やがて目を覚ました村人達が、手に手に灯りを持って墜落現場に集まってきた。そして口々に騒ぎ始める。
「うわぁ!! えらいこっちゃ!! えらいこっちゃ!!」

●外れた予測
 王領ラシェットの町は騒然としていた。
「またしても魔物を載せたフロートシップか!」
「奴等はこの町を狙っているのか!?」
 口々に声を張り上げながら、警備兵達が松明を手にして町の外に繰り出していく。
 今回、謎のフロートシップが着陸した地点は、前回の着陸地点から数百メートルも離れていなかった。フロートシップは早々に飛び去ったが、置き土産たる魔物どもが残っている。
「出遅れたか!」
 町から離れた警備空白地域で待機していた為に、遅れて現場に駆けつけたリュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)だったが、松明の光に浮かび上がる醜悪な姿の数々を見るや、立て続けに破魔矢を放つ。
 戦闘そのものは短時間で決着がついた。残された死体を見ると、人間のものが5体、小型の恐獣が2体。さっきまでは動き回っていたそれは、今や動かぬ本物の死体と化し、いたずらに強烈な腐臭を放っている。
「予測は外れたな、冒険者殿」
 警備兵の1人が、剣の汚れを拭き取って鞘に収めつつ、リュドミラに声をかけた。そして一言、付け加える。
「だが、応援には感謝する。次はもっと手際よくいきたいものだ」

●復興会議
 一夜明け、町の状況が落ち着くと、アリアはラシェット領に居住する元領主・元家臣を呼び集め、今後の復興政策についての会議を催した。
「まずは良き知らせを。現在、ホープ村まで井戸堀ドワーフ隊が来ており、彼らは続いて王領ラシェットの各地を回る予定となっています」
 喜びのどよめきと拍手とが、会議の会場を包む。貴重な井戸を掘ってくれるドワーフ隊を、土地に住む者達は待ち望んでいたのだ。
「さて復興政策に関してですが、重要案件は会議で、些事は裁量権の範囲で片づけると思われるので、細かいことに口を挟むつもりはありません。ただ目標を公示して、志気をあげると共に方針を明確にしたいと思います」
 そう前置きして、アリアは次の3段階を示す。

 1:東部の飢えを止める
 2:東部の負債を全て返済
 3:東部の発展

「1つ付け加えて頂きたい」
 と、元領主の1人が発言する。
「立て続けに2度も起きたフロートシップ侵入事件からして、カオス勢力はフオロ東部王領に狙いを定めているのではないか? 食料の増産と蓄財も確かに大切だが、我々は外部の敵に備えねばなるまい」
 その言葉に、会議に参加した者達は口々に同意した。

●補足
 フロートシップ墜落の件はウィル国王ジーザム・トルクの知るところともなり、王城に少なからぬ衝撃をもたらした。ただし墜落地点の村に被害が出たことに関しては、緊急時のことでもあり、冒険者達が咎め立てされることはなかった。また、村の被害についてはジーザムのお声掛かりで王国による補償がなされた。
 香織は引き続き、ラシェット領の森に住むオーガとの交渉に熱を入れている。
 以上の詳しい内容については、次の依頼書で明かされるであろう。