フオロ再興8〜カオスの罠への進撃
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■シリーズシナリオ
担当:内藤明亜
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:9人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月09日〜02月14日
リプレイ公開日:2009年02月18日
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●オープニング
●カオスからの挑戦状
そこはドーン伯爵領の東の端にある廃墟の館。崩れかけた石造りの建物の中へ冒険者が足を踏み入れると、待ち構えていたのは魔物の群れを率いる謎の男だった。黒いローブをまとい、フードを目深に被って素顔を隠したその姿は、これまでにもたびたび冒険者の前に姿を現した怪人物のそれだ。
「こりゃ、きつい戦いになりそうだぜ」
冒険者が死闘を覚悟するや、怪人物が言い放つ。
「向こう見ずな冒険者め、これだけの数を相手に1人で戦うつもりか? それとも、これが欲しいのか?」
差し出された手のひらには白い玉。
「それはデスハートンの白い玉か!?」
怪人物が白い玉を投げつける。それを冒険者がキャッチしようとするや、横から飛んできた翼ある小鬼に横取りされた。
「返せこの野郎!」
「ククククク‥‥おまえがそれを受け取るにはまだ早い。53人の魂から取り出した白い玉、彼らの魂の一部は廃墟の塚にある。それが欲しくば取りに来い。私はそこで待つ。ククククク‥‥」
怪人物の姿が大ガラスに変じ、空に舞い上がる。その配下の魔物どもも鳥や虫やコウモリに姿を変え、空の高みへと飛び去った。
1人残された冒険者は呆然と空を見上げていたが、ふと気づく。
「そういえば‥‥ヤツはどうして俺達が白い玉を探していることを知っていたんだ?」
●防郷兵団結成
精霊暦1042年1月。マリーネ姫は伯爵位の叙爵を受けてアネット領の領主となり、これに伴いアネット男爵領も伯爵領へと格上げされた。
そのアネット伯爵領の東側に、アネット騎士団の管轄下にある土地がある。現在、その土地には新しい客人が住んでいる。過去、『惨殺の廃墟』における魔物との戦いに際して、冒険者によって救出された53名の元人質たちだ。彼らは現在も魔法の魔物の影響下にあるという理由から、長らくフェイクシティの治療院派出所に収容されていたのだが、派出所からの出入りもままならない彼らの境遇に同情し、アネット騎士団の長であるボラット・ボルンは元人質たちをアネット領へ引き取ってはどうかと提案した。
この話がマリーネ姫に伝わるや、王領ラシェット領の領主代行でありマリーネ治療院の院長でもある姫は自らの権限を行使し、元人質たちをアネット領へ引き取ったのである。
元人質たちの監視も続行中ながら緩やかになり、自由に行動できる範囲も広がった。中には隣領である王領ラシェットに親族がいる者もいて、たびたび面会人が訪れる。
そしてマリーネ姫自身も、時間のある時には元人質たちの住処を訪ね、彼らの労苦を労わった。元人質たちが感謝の念を抱かぬわけがない。
「マリーネ姫様とボラット殿のお陰で、以前よりも自由に生活できるようになりました」
「でも、魔物の魔法はまだかかったままなのでしょう?」
「はい」
憂いの表情を浮かべる姫。冒険者の話によれば、元人質にかけられた魔法はデスハートンの魔法だ。これは人間の魂の一部もしくは全部を奪う魔法で、奪われた魂は白い玉となって魔物の手に渡る。廃墟の館で冒険者が魔物に見せつけられたのは、この白い玉だった。魔法を解くには白い玉を奪い返し、魔法をかけられた当人の体内に戻さなければならない。
元人質たちとの会話を終えた後で、騎士ボラットがマリーネ姫の耳に囁いた。
「それにしても気がかりです。なぜ魔物は、我々が白い玉を捜していることを知っていたのでしょう?」
「我々の中に魔物のスパイがいるとでも?」
「恐れながら‥‥その可能性は排除できませぬ」
マリーネ姫は気丈に言い放つ。
「我々の内にお互いへの不信感を植え付け、分裂と混乱を引き起こそうとするのが魔物の常套手段。恐れず受けて立とうではありませんか」
マリーネ姫が屋敷に戻ると、従者が報告に駆けつける。
「姫様、お帰りなさいませ。実は留守中にお客人がありました。王領ラシェットに住む元領主と元騎士の代表者たちです。今、客間に待たせております」
「分かりました。今から会いに行きます」
「それと‥‥まことに申し上げにくいのですが‥‥」
「どうしました? また悪女マラディアからろくでもないシフール便が届いたのですか?」
「‥‥はい」
「気にすることはありません、いつものことです」
そのまま姫は客間へ足を向け、客人たちと対面した。姫に深々と一礼した元領主と元騎士たちは姫に願い出る。
「エーロン陛下並びに姫殿下のご尽力により、我らが王領ラシェットもようやく領地としてのまとまりが生まれて参りました。ここでご領地のさらなる団結を図るべく、我ら元領主と元騎士から成るラシェット防郷兵団を結成したく願う次第です」
「防共兵団の結成は、カオスとの戦いに備えてのことですね?」
「はい。我々はカオスの魔物から挑戦を突きつけられました。元人質たちの奪われた魂、デスハートンの白い玉を取り戻すべく、ドーン伯爵領での戦いがそう遠からず行われるはず。我らも身内の汚辱を晴らすべく、参戦を願うものです」
「ラシェット防郷兵団の結成を認めましょう。ただしドーン伯爵領の戦いにおいては、私の認めた指揮官の指揮下に入っていただきます」
「異存はありませぬ」
姫と客人たちは合意に達し、ここにラシェット防郷兵団が結成される運びとなった。
●カオスの罠
軍師ルキナスは忙しい。冒険者からの依頼を受け、今日も彼は沼地に取り囲まれた廃墟の塚の攻略作戦についてあれこれ思案中。そこへやって来たのが、冒険者たちと縁の深い地球人の3人連れだ。
「シャミラにエブリーじゃないか、よく来てくれた!」
3人のうち2人の女性を見てルキナスは顔を輝かせ、残る男性1人にはそっけない口調になる。
「なんだゲリー、あんたもか」
「相変わらずだなルキナス。で、作戦の目処は立ったか?」
「ああ、何とかな」
ルキナスは地図を広げ、廃墟の塚を指し示す。
「ご覧の通り、廃墟の塚は沼地の中に位置している。フロートシップを使えば楽に到達できるが、問題は船に積んだ戦力をいかに展開させるかだ。戦場は足場の悪い沼地で、敵の攻撃のことを考えると発着所を建設している余裕なんてないからな。そこで過去の戦いを参考に、フロートシップからの降下作戦でいこうと思う」
ルキナスの作戦はこうだ。まず作戦に使用するフロートシップには、十分な数のフロートチャリオットを搭載する。船が廃墟の塚に達したら船を地上30m程度の低空まで降下させ、地上戦力を搭載したチャリオットを一挙に降下させて、廃墟の塚に戦力を展開する。外部からの魔物の攻撃に対する防御を固めたら、突入隊が廃墟の塚の内部に突入。魔物の手から白い玉を奪還する。
だがその説明を聞いて、シャミラが言い放った。
「1つ警告しておこう。これは罠だ」
「は!? 罠だって!?」
エブリーが言う。
「私はフォーノリッヂの魔法を使って未来を予知してみたの。見えたものは崩れていく廃墟。そして廃墟の中で大水に飲まれ、溺れていく大勢の人たちよ」
続いてシャミラ。
「廃墟の塚には、周囲の沼地の水を中へ取り込む仕掛けがあるはずだ。突入隊が中に入ったところで遺跡を崩して出入り口を閉ざし、沼地の水を中に導いて溺れさせる。実に見事な魔物の作戦だ。魔物は落石だろうが大水だろうが、それが魔法による攻撃でない限り傷つくことはないのだからな。一方的に有利な戦いとなるわけだ」
「なんてこった‥‥」
ルキナスは頭を抱え込んだ。
●リプレイ本文
●拝謁
今回の作戦に先立ち、マリーネ治療院副院長のゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)は、院長であるマリーネ姫に拝謁。
「今回どれだけ魂を回収できるかわかりませんが、自分にできる形で全力を尽くします」
言ってうやうやしく頭を下げると、姫はゾーラクの態度に感銘を受けた様子で。
「貴方に幸運のあらんことを。でも相手はカオスの魔物、決して油断なさらぬよう」
その言葉を受けてゾーラクが姫の前より退出しようとすると、姫の傍らに侍る親衛隊隊長のカリーナ・グレイスが彼女を呼び止めた。
「待たれよ」
「何か?」
「貴女に忠告を。今回の件、カオスの魔物がこれ見よがしに、奪われた魂であるデスハートンの白い玉を見せつけて挑発したのが気になる。わざわざ戦場まで指定したというのも。おそらく連中は姦計をもって我らを欺こうとしているはず。我らが戦いに勝ったとて、素直に全員の分の魂を返すとは思えぬ。なれば連中の姦計を見破る知恵が必要となろう。ともあれ、貴女と仲間達が無事に帰還できることを祈る。竜と精霊のご加護を」
●警戒
ここは王都警邏隊本部。王都の治安を預かる警備隊の指令所だ。王都警邏隊に権限を有する冒険者、オラース・カノーヴァ(ea3486)はここに出向き、カオスの魔物に対して有効な武器を警備兵達に支給した。即ち魔力を帯びたダガー10本と、魔力を帯びたノーマルソードを10本。
「これはこれは」
「かたじけない」
「流石は冒険者殿。これほどの数の魔法の武器が手に入るとは、素晴らしいコネをお持ちだ」
「このところウィルのあちこちで魔物事件が勃発し、我らも警戒を強めていたところだ。魔法の武器は非常に力になる。篤くお礼を申し上げる」
オラースの大盤振る舞いに警備兵達はただただ感激。ついでにオラースは別件の話を切り出す。
「ところで先日、どこぞの冒険者が王都で騒ぎを起こしたが、あの一件がカオスの魔物に利用される危険もあるからな。警戒を強めてくれ」
すると警備兵の1人がオラースに報告した。
「実は王都のあちこちで悪い噂が流れていましてな。治療院副院長のゾーラク殿に関するものですが、それはもう口にするのも憚れるほど品のないもので」
「さっそく来やがったか。だが俺は請け負うぜ。その噂は真っ赤な嘘偽りだってな」
「でしょうな。これ以上、悪い噂が広まらぬよう、我らも力を尽くします」
警備兵は請け負い、オラースから受け取った剣を手に一礼した。
●作戦会議
今回の戦いに参戦する戦力は、次のようになる。
まず9名の冒険者、これがデスハートンの白い玉奪回のための中核戦力となる。
次に、王領ラシェットとその近々領の元領主・元騎士からなるラシェット防郷兵団、これが50名。
続いては、ドーン家当主シャルナー・ドーンの命により参戦したドーン伯爵領騎士団。これを率いるのは騎士サーシェル・ゾラスでその数は50名。
そして元テロリストの地球人、シャミラが率いる対カオス兵団・ドラゴンガード。その数は20名で、地球人の魔法兵が多数参加している。
戦いの総司令官には、これまでの実績も十分にあり、参戦者からの信頼も厚いルーケイ伯爵アレクシアス・フェザント(ea1565)が就任した。その彼が副官として選んだのがアリア・アル・アールヴ(eb4304)。この2人が中心になって攻略作戦が立てられた。
参戦者が一同に会すると、アリアは作戦を説明する。
「ラシェット防郷兵団には安定した攻撃陣として、廃墟の塚の包囲網を担って頂きましょう。ドーン騎士団も同様の役割を果たして頂きます。冒険者隊は危険に直面した際のガードと主攻撃を。ドラゴンガードにはその魔法遊撃を生かした遊撃を任せ、必要に応じて魔法を使用して頂きます」
簡単に言うと、騎士が築いた戦線を壁として敵の攻撃を受け止め膠着を作り、予備に配した遊撃隊を戦線の補強と攻勢に投入するというものだ。地球の近代戦においては定石の展開である。
一通り説明するとアリアは改めて全員を見回し、気がかりな懸案について触れる。
「さて、我らの仲間が廃墟の館で接触した怪人物の言動を見るに、我らの中にスパイがいて、情報がカオスの側に筒抜けになっている懸念があります」
この衝撃的な言葉に大勢の者が顔を見合わせたが、アリアは冷静に続けた。
「これについては各部隊の責任者に裁量を委ね、発見された場合の処置を願います」
元来、騎士は呉越同舟の関係が多く、内敵は居て当たり前。緻密な情報を求めすぎ、ことさらに振り回されることはない。そうアリアは考える。
作戦会議が終わると、アレクシアスはシャミラを呼び止め、余人のいない場所で相談を持ちかけた。
「例のスパイの件だが、対策としてドラゴンガードが他の部隊の監視を行えないか?」
「いちおう監視はするが、戦場では監視に専念する程の余裕はなさそうだ。スパイのあぶり出しなら、常日頃から地道にやらねばな」
シャミラは答えたが、さらに付け加える。
「これは前から懸念されていたことだが、今はアネット領で保護されている元人質の中に、カオスと通じる者がいるかもしれないぞ」
「だが彼らは、今はアネット騎士団の監視下にある」
「それでも警戒は怠るな。カオスの魔物は手段を選ばぬ相手だ」
●攻略
フロートシップ、ブンドリ号。冒険者がカオス勢力から鹵獲した船で、今は冒険者達の持ち舟となっている。その船の作戦室で、セオドラフ・ラングルス(eb4139)は仲間と話を続けていた。
「ドーン領で行動するようになってから、以前と比べてカオスの魔物の行う戦術がより狡猾になっていますな。これは魔物を指揮する者が、以前より的確に指示を出せているという証。魔術師ヴァイプス‥‥、我々の近くに居るのでしょうな」
魔術師ヴァイプス、カオスに与して暗躍するジ・アース人。
作戦室のテーブルには、ドーン伯爵家から提供された廃墟の塚の図面が広げられている。
【廃墟の塚・内部の概略図】
沼沼沼沼沼沼沼沼沼沼沼沼
沼┏━━━━━━━━┓沼
沼┃┏━━━━━━┓┃沼 ━:石壁
沼┃┃┏━━━━┓┃┃沼 ■:石棺
沼┃┃┃■∴∴■┃┃┃沼
沼┃┃┃∴■■∴┃┃┃沼
沼┃┃┃■∴∴■┃┃┃沼
沼┃┃┗━┛┗━┛┃┃沼
沼┃┗━━┛┗━━┛┃沼
沼┗━━━┛┗━━━┛沼
沼沼沼沼沼沼沼沼沼沼沼沼
「これは先の当主、ハルゼー・ドーン伯爵殿が存命のおりに行われた廃墟の調査結果に基づき、作成されたものです」
と、その場に居合わせる騎士サーシェルが説明する。
「調査の結果、何か見つかったのか?」
尋ねたのはアレクシアス。サーシェルは首を振る。
「いいえ、何も。廃墟は盗掘で荒らされ、残っていたのはガラクタばかりだったということです」
「その廃墟は今ではカオスの魔物の巣窟となり、罠を張って我らを待ち構えているわけですが、水攻めに対しては引き込み口周辺にマジカルエブタイドの魔法をかけ、崩落は予め柱などの強度をストーンで補強、というのが有効でしょうか?」
アリアに尋ねられ、シャミラはこう答える。
「マジエルエプタイドは使えそうだが、ストーンでの補強はどうかな? ストーンは石化の魔法だが、石の強度を強化する魔法ではあるまい?」
「ところで、ドラゴンガードの水魔法使いの方には、これをお渡し頂きたく」
セオドラフがシャミラに、手持ちの『富士の名水』3つを手渡す。
「6分でも無いよりマシですからな」
セオドラフがそう言った途端、空を行くブンドリ号がぐら〜っと大きく揺れた。
「この船はひどく揺れますな」
「操縦しているのは誰だ?」
「私がゴーレム工房に手配を頼んだ鎧騎士のはずですが‥‥」
ぐら〜っ、とまた船が揺れた。
「どうにも気がかりです」
心配しているのはセオドラフだけではない。船があんまり揺れるもんだから、ライナス・フェンラン(eb4213)も気になって操船室を覗いてみた。舵輪型の操船舵を握っているのは若い男。工房から派遣された鎧騎士には違いないようだが。
「うひょぉぉぉーっ!」
奇声を上げて操船舵を動かすたびに、船がぐら〜っと揺れる。見るからに危なっかしい。
「おいおい大丈夫かよ」
声をかけたライナスに、操縦士はニカッと笑う。
「気にすんな、俺の船じゃねぇ」
「あのな‥‥」
「どうせ敵さんからぶんどった船だろ? 乗り潰すつもりで飛ばしてやるぜ」
「失礼だが、貴殿はフロートシップを操縦した経験はあるのか?」
「いいや、この船が初めてだ。なんだ、そんな心配そうな目で見るなよ。‥‥あひゃぁぁぁぁーっ! 手が滑ったぁ!!」
ぐら〜っ、またしても船が揺れる。そのうちセオドラフまで操船室へやって来た。
「これは問題ですな。これでは廃墟の塚に着く前に、船が墜落しかねませんな」
「頼む、俺と操縦を替わってくれ」
予定外の行動だったけれど、見かねてライナスが操縦を代わる。
「おい、進路がずれてるぞ」
正しい進路に戻すべくライナスが操船舵を動かす。船は傾きながらもゆったりしたペースで旋回を始める。
「へえ、うまいもんだな」
下手くそ操縦士が感心したように言った。
「俺も一応は鎧騎士だからな。大型船舶の操縦に関してはまだまだ初心者だが」
ライナスの操縦で飛行は安定。セオドラフもほっと一息。
「やっと落ち着きましたかな」
しかし何だって、こんな下手くそ操縦士がブンドリ号に派遣されたのだろう? まあ、工房にも色々と事情があるのだろうが。
やがて船はドーン伯爵領内に入り、広大な沼地の上空に達した。
「見えたのじゃ! あれが廃墟の塚じゃな!」
船の舳先に立つユラヴィカ・クドゥス(ea1704)、テレスコープの魔法を使ったその目に、沼地の只中に顔を出す小島のような廃墟の塚が映った。
「うむ、見たところ塚の上には誰もおらぬようじゃが‥‥。いやそんなはずはあるまい」
そう思って目を凝らし、廃墟の塚を見つめるが、やはり塚には特に変わった様子がない。ただ大きな土饅頭のようなたたずまいを見せ、沼地の中にでんと構えている。塚の上には人1人、魔物1匹見当たらない。
「どこか地面の下にでも潜んでおるのかのぅ?」
船と廃墟の塚との距離が十分に縮まると、ユラヴィカは龍晶球を使ってみた。
「おお、やはり!」
龍晶球はほのかに輝く。魔物が近くにいる証拠だ。
次いでユラヴィカはエックスレイビジョンの魔法を使い、廃墟の塚の周囲に広がる沼の中を透視してみる。以前には沼の中に潜むモンスターにてこずらされた戦いもあった。しかし今回は、沼の中に大型のモンスターが潜んでいる様子はない。見えるのは魚など小型の生き物ばかり。だが、それが姿を変えた魔物でないという保証はない。
「アリア殿、如何いたす?」
ラシェット防郷兵団の者達がアリアに問う。
「計画段階では敵の攻撃を受けながらの降下を想定していたが、廃墟の塚にほとんど敵戦力は見当たらぬ」
「予定通り降下戦でいくのか?」
「だが、魔物の存在が感知されているのであろう?」
「その魔物はどこに潜んでいるのだ?」
「探し出すのには時間がかかりそうだな」
口々の問いかけにアリアは頭を悩ませる。
「困りました。ここは廃墟の塚の攻略の前に、時間をかけて慎重な偵察を進めるべきでしょうか?」
するとシャミラが発言した。
「それよりも、いつまでフロートシップを空中に留めておくつもりだ?」
「ならば降下ではなく、着水しての戦力展開と行きましょう」
シャミラの提言をアリアは受け入れた。
「そうか。船を廃墟の塚のぎりぎりまで接近させて、着水するんだな?」
アリアから報告を受けたライナスは、ブンドリ号の着水を試みる。
バシャアアッ!
かなり派手な泥水の飛沫を上げて、ブンドリ号は廃墟の塚の間近に着水した。
「ふう‥‥何とか上手くいった」
ライナスは下手くそ操縦士に声をかける。
「後は頼んだぞ。俺はバガンで外に出る」
続いて戦力を搭載したフロートチャリオットが、次々とフロートシップから発進して廃墟の塚に接近。フロートチャリオットの操縦者は、そのほとんどがラシェット防郷兵団所属の鎧騎士だ。冒険者の操縦する3体のバガンも、沼地を歩行前進して廃墟の塚に接近する。
ただしセオドラフは、ラシェット防郷兵団の中から選んだ20名の者と共に船に残った。船に対する襲撃に備えてだ。
「なんだ、あんたは居残りなのか」
下手くそ操縦士がセオドラフに声をかける。
「ええ、廃墟の罠を潜り抜けても、ブンドリ号を落とされては無事な帰還は難しいでしょうから。それにしても、ゴーレム工房も随分と人手不足と見えますな」
セオドラフは下手くそ操縦士に皮肉っぽい視線を投げかけた。
●入り口の罠
ゾーラクはチャリオットに仲間の冒険者達を乗せ、自らが操縦士となってチャリオットを廃墟の塚に接近させる。
「恐らく遺跡の外に水を引き込む装置などがあるはずです。そこにムーンフィールドを展開し、誰にも近づけない結界を構築しましょう。レミエラの力があるから、月の出ていない今でも魔法は使えます」
「ならば、わしが調べてみるのじゃ」
同乗するユラヴィカがエックスレイビジョンで泥水の中を透視する。
「あそこにそれらしき吸水口が見えるのじゃが‥‥」
ユラヴィカが指差すその場所を目標として、ゾーラクはムーンフィールドの魔法を唱えた。ところが何も起こらない。
「何故、魔法が効かないのでしょう? あの場所に効果を望まぬ者、すなわち魔物がいるのでしょうか?」
引き続き吸水口を観察していたユラヴィカが言う。
「吸水口の中に魚が何匹おるぞ。もしかしたら、その中に魔物がおるのかも知れぬが」
ユラヴィカの龍晶球はずっと輝きっ放しだ。
「となれば、ドラゴンガードの手を借りるしかありませんか。ひとまず上陸しましょう」
ところが、ゾーラクのチャリオットが廃墟の塚に上陸すると、先に上陸したラシェット防郷兵団の者達が、サイクザエラ・マイ(ec4873)と言い合っている。
「またその話を持ち出すか!」
「今度はゾーラク殿を魔物のスパイ扱いとは!」
例の如くで、またしてもゾーラクとの諍いを蒸し返したらしい。そのうちに年嵩の元騎士が、サイクザエラをたしなめた。
「サイクザエラ、戦う相手を間違えるな。それにここは戦場、仲間割れは命取りになると知れ」
サイクザエラも自分の不利を悟り、ゾーラクへの非難を引っ込めて次の行動に移った。
「では、私はバガンで行かせてもらおう。入口にバガンを立たせておけば、たとえ魔物が入口を崩しにかかっても、バガンで支えていれば入口は塞がる事はない」
廃墟の塚の内部への入り口は、すぐに見つかった。石で縁取られた洞窟のような穴が、ぽっかりと口を開けている。入り口の高さは約3m。
「しっかり支えてくれよ、サイクザエラ」
兵士が軽口を叩きながら歩み寄った時、
「うわあっ!」
いきなり足元の地面が崩れた。
どおおおん! 開いた大穴の中に、サイクザエラの乗ったバガンの足が滑り落ちる。近くにいた兵士達も幾人かが穴の中に転がり落ちる。
「こんな所に罠が!」
「気をつけろ! 穴の中に何かいるぞ!」
「魔物かっ!?」
「違う! ぐにゃぐにゃ動き回る気持ち悪い生き物だ! うわあっ!!」
必死に穴から這い出して逃げる兵士の後から、腕を伸ばすようににゅうっと伸びてきたぐにゃぐにゃの物体。それはシャドウジェルだ。遺跡に生息する不定形生物だ。
「た、助けてくれぇ!」
逃げ遅れた兵士が穴の中から叫ぶ。その兵士に向かって、何匹ものシャドウジェルがぐにゃぐにゃうごめきながら接近してくる。
「今、助けてやる!」
半身を穴の中にめり込ませたサイクザエラのバガンが動き、逃げ遅れた兵士を掴んで引き上げる。続いて制御胞のハッチが開き、サイクザエラが姿を現した。
「焼き尽くしてやる! くらえ!」
次から次へと穴から這い上がってくるシャドウジェルに向かって、サイクザエラはファイヤーボムを放つ。シャドウジェルはダメージをくらいながらも、なおも獲物を求めてうごめき回る。
「後始末は任せろ! 俺のバガンでケリをつける!」
ライナスのバガンが駆けつけた。足でシャドウジェルを踏みつけて回り、やがてシャドウジェルは全滅した。
「造作もない敵だ」
「みんな、無事か?」
仲間と兵士達の安否をアレクシアスが確かめる。
「私のバガンが穴の中にめり込んでしまった」
サイクザエラのバガンは、入り口の真下に開いた穴にめり込んでしまい、身動きが取れない。
「無理に動かさない方がいい。下手に動かせば衝撃で入り口が崩れる」
「ならば、私は仲間が白い玉を持ち帰るまで、外で入口を守ろう。元からそうするつもりだったからな」
アレクシアスは仲間に呼びかける。
「では予定された作戦通り、廃墟の内部へ突入する。皆、ついて来てくれ」
●廃墟の罠
廃墟の塚の図面を見れば、すぐにでも中央部へたどり着けそうな構造だが、実際は違った。床、壁、天井、どこもかしこも崩れそうな箇所や、とっくに崩れ落ちた箇所だらけ。だから廃墟の塚の中は迷路のような有様だ。崩れそうな場所を避け、崩れた穴に足を踏み入れ、遠回りのジグザグルートで中央部への接近を試みる。
当然ながら廃墟の中は暗い。明かりとなるのはディアッカ・ディアボロス(ea5597)の連れてきたペットの鬼火。その明かりに導かれながら、ディアッカは『石の中の蝶』の動きに注意を払い続けつつ、仲間の先導役を務める。
石の中の蝶はゆっくり羽ばたいている。この廃墟のどこかに魔物は隠れている。
蝶の羽ばたきが激しくなり始め、廃墟のどこかから可愛い声が聞こえてきた。
「シフール便のお届けよ!」
前方の暗がりを、小さな影が過ぎる。
「今のは何でしょう?」
「こんな時に、シフール便の配達じゃと?」
「でも、あの声にはどこかで聞き覚えが‥‥」
「わしも同じじゃ。先行して正体を確かめねば」
シフールのディアッカとユラヴィカが、仲間に先んじて暗がりへと進む。その目が床の置き手紙をとらえた。
「何じゃこれは?」
2人は文面に目を通す。それは脅迫状だった。
『おまえら全員皆殺し。ここがおまえらの墓場になるのよ』
「思い出したぞ。さっきの声と影は、いつぞやマリーネ姫のお屋敷で遭遇した魔物じゃ」
「シフール便の配達人に化けて、姫を襲おうとした黒いシフールですね」
「手紙の裏側に、ハエに化けた魔物が隠れてはおらんじゃろうな?」
ディアッカとユラヴィカは注意深く手紙を観察し、次いでそれぞれの魔法の指輪の様子を確かめる。だがディアッカの『石の中の蝶』もユラヴィカの『龍晶球』も、魔物の存在を感知してはいるものの、魔物が急接近している様子は示していない。
「この光り方からすると、魔物はそれほど近くにはおらぬようじゃ」
「あ‥‥危ないっ!」
とっさに気配を感じ、危険を察知したディアッカが叫ぶ。それにユラヴィカが反応し、2人が身を翻すや、さっきまで2人のいた空間に四方から液体の飛沫が飛んできた。
ビュッ! ビュッ! ビュッ!
「うわっ!」
それは酸だ。体にかかればダメージを負う。
「大丈夫ですか?」
「危ないところじゃった」
あと少し逃げるのが遅れていたら、とんでもないことになっていた。
酸の飛んできた方向を見れば、そこには廃墟に生息する不定形生物がひしめいている。今度のはビリジアンスライムだ。深い緑色でずるずる動き回り、酸を飛ばすモンスターだ。
「気をつけて下さい! ここはスライムの巣です!」
「罠じゃったか! 皆に知らせねば!」
急遽、仲間の元に戻る2人。
「ここから先にスライムがおるぞ!」
「おっと、あっちからも現れたぜ」
逆方向を指差してオラースが言う。オラースのペットの鬼火の光に照らされて、遠くから黒い塊が転がってくる。迷宮の中を転がるように動き回り、動く物に襲いかかるブラックスライムだ。
ソードボンバーを食らわせようとして、オラースは考え直す。
「おっと、遺跡が崩れちまうかもな」
攻撃をスマッシュに切り替え、ブラックスライムが十分に接近すると、オラースは太刀「鬼神大王」を振り下ろした。
●白い玉
数々の妨害をはねのけ、ようやくたどり着いた廃墟の中央部。
「あれがそうか!」
冒険者達は見た。安置されたいくつもの石棺の合間、床にぽんと置かれた皮袋を。
「あの中にデスハートンの白い玉が?」
ユラヴィカがエックスレイビジョンの呪文を唱え、皮袋の中味を確かめる。
「確かに白い玉がぎっしり詰まっておるのじゃ。念のため、床と石棺の中も調べてみるのじゃ」
床の下、そして石棺の内側が見えた。石棺の内側にはジェルが何十匹もびっしり張り付いている。
「なるほどのぅ。床に仕掛けがしてあって、誰かが歩いて近づくと、石棺の中のジェルどもがどっと飛び出すわけじゃな。それにしても、よくもこんなにジェルを詰め込んだのぅ。気持ち悪い」
ディアッカがアレクシアスに告げる。
「私とユラヴィカとで、空中から皮袋をつかまえて持ってきましょう」
「頼んだぞ」
2人のシフール冒険者が飛び立ち、すぐに皮袋と一緒に戻ってきた。
「どれどれ?」
アレクシアスとオラースとで中味を確かめる。中には白い玉がぎっしり。
突然、声が響いた。可愛いながらも邪悪を秘めたあの声が。
「残念だけど、これでおしまい。おまえ達は生きて帰れないよ」
見れば石棺の上に黒いシフールの姿が。
ゴトリ。遠くで何かが外れる音。続いてゴウゴウと水が流れ込む音が響いてきた。
「あはははは! ここはもうすぐ水浸し! おまえ達は全員、溺れ死ぬのよ!」
セリフを残して暗闇に飛び去るシフール。気がつけば足元は水浸し。水かさはぐんぐん増していく。
「佐熊達朗! 頼んだぞ!」
アレクシアスが、同行するドラゴンガードの魔法戦士の名を呼ぶ。
「お任せを」
地球人の中年男が進み出て、マジカルエプタイドを唱える。増していた水位が一気に下がった。
だがその頃、廃墟の外では非常事態が持ち上がっていたのだ。
●非常事態
「何だ、あの音は?」
廃墟の外で防御の指揮を担うアリアは、地面の下からのただならぬ物音を聞いた。
「廃墟に水が流れ込み始めましたか!」
配下の兵士達に命令を下そうと歩き出した瞬間、いきなり目の前が真っ白になる。
霧だ。突然に霧が湧いて出たのだ。
「さては、霧を使う魔物の仕業ですか!」
「遺跡が崩れるぞ!」
兵士の叫びが聞こえる。魔物が遺跡に仕掛けたトラップが作動したのだ。
霧の中には素早く動き回るいくつもの影がある。大きなネズミが飛び回り、兵士達に襲いかかっている。カオスの魔物、霧吐くネズミだ。
「外と内とを分断するため、このタイミングで攻撃を仕掛けてきたのですか!」
ブンドリ号に居残っていたセオドラフも、異変を知った。
「これは緊急事態です」
「で、どうすりゃいいんだ?」
下手くそ操縦士がセオドラフに問う。
「一刻も早く打開の手立てを‥‥」
「ええいまだるっこしい! 救援のためブンドリ号で突っ込むぜ!」
廃墟の塚に向かってブンドリ号が動き出す。下手くそ操縦士の独断だ。
「待ってください、このままでは廃墟の塚に衝突です‥‥そうだ、あれを使わなくては!」
急遽、甲板に向かうセオドラフ。そして戦神の角笛を吹き鳴らす。霧の中で戦う兵士達に警告するために。
ズゴゴゴゴゴゴォン!! 船底から衝撃が伝わり、動いていた船体が停止した。ブンドリ号、船体前半部を損傷。なぜか笑い出す下手くそ操縦士。
「あはははは、座礁しちまったぜぇ。いや、衝突だ。‥‥ま、いいか。魔法装置には損傷なしで、まだ飛べるようだし」
●救出
(「ゾーラクさん、救出を急がせて下さい! マジカルエプタイドの効果もそろそろ限界です!」)
廃墟の中にいるディアッカが、仲間の窮地をテレパシーで知らせてくるが、ゾーラクには思うように動けない。
「外は混乱しています! 霧と共に魔物が襲撃してきて、外の部隊は戦闘にかかりきりです! 今、アリアが態勢の立て直しを図っていますが、救出に向かうまでにはまだまだ時間がかかります!」
(「分かりました。何とかギリギリまで頑張ってみます」)
ゾーラクは焦った。このままでは廃墟の中にいる仲間が溺れ死ぬ。
ふと、ゾーラクは思い当たった。
「もう1度、ムーンフィールドの展開を試みてみます! 今度は上手くいくかもしれません!」
ゾーラクは吸水口の場所に急ぐ。だが、まだそこに魔物が潜んでいたら万事休すだ。
祈るような思いでゾーラクはムーンフィールドの呪文を唱える。今度は上手くいった。
ディアッカから再び、テレパシーでメッセージが送られてきた。
(「水が止まりました。これなら何とか持ちこたえられそうです」)
外での戦闘が終わったのは、かなり時間が経ってからだった。
「魔物は消えましたか。では、仲間の救出を始めましょう」
アリアはバガンに乗り、廃墟の塚の入り口へ急ぐ。そしてバガンの力で、入り口を塞ぐ瓦礫を慎重に撤去。かなり時間が立ってからようやく脱出口から開き、ずぶぬれの仲間達が中から姿を現した。
「ご無事でしたか?」
アレクシアスが真っ先に答える。
「白い玉は取り戻した。着替えを、そして暖かい飲み物を頼む」
●怪人
混乱はあった。だがともかくも冒険者たちは混乱を乗り越え、ブンドリ号に戻ってきた。廃墟から携えてきた白い玉と共に。
「さあ、こんな所に長居は無用」
ブンドリ号が空へ飛び立つ。
「あとはこの白い玉を、元の持ち主に返すだけか」
だが、冒険者達が一息ついたのもつかの間。
「あれは何だ!?」
「あそこに人がいるぞ!」
兵士達が騒ぎ出す。ブンドリ号の船首に人が立っている。黒いローブ姿のあの怪人だ。怪人の肩にはあの黒いシフールが座り、冒険者をせせら笑っている。
「ほんっとにしぶとい連中ね。あの廃墟から生きて戻るなんて」
「また会ったな、怪しい奴め」
太刀『鬼神大王』を手に歩み寄るオラース。今度こそ息の根を止めてやるつもりだ。その姿を見て怪人はせせら笑う。
「ククククク‥‥怪しい奴だと? そうか、まだ名乗りを上げていなかったな。私は真のドーン伯爵領の支配者。おまえ達にいいことを教えてやろう。おまえ達が苦労して取り戻したはずのその白い玉、全て偽物だ」
「なんだと!?」
「私が全員の白い玉を素直に返すほど、お人よしかと思ったか?」
その言葉に誰もが衝撃を受ける。怪人はせせら笑い、右手を差し出す。その手には3つの白い玉が握られていた。
「だが、私を楽しませてくれた褒美だ。本物を3つだけ返してやる。そら、受け取るがよい」
空中に放り投げられる3つの白い玉。それをディアッカとユラヴィカ、そしてオラースがキャッチする。
「貴様らが奪った魂‥‥全て返して貰うぞ」
怪人と向き合い言い放つアレクシアス。それをあざ笑うように怪人は答えた。
「残り全てを取り戻したくば、ハンの国へ来い。ハンの国での戦いは、今回とは比べ物にならぬほど派手な戦いになるぞ。どれほど多くの血が流れ、どれほど多くの命が失われるか、楽しみにしているがいい」
言い放つや怪人は黒いに大鷲に姿を変じ、空へ飛び立つ。黒いシフールも後に続く。
「今度ばかりは逃がさねぇ!」
フライングブルームにまたがり後を追うオラース。
「しつこいわねぇ!」
黒いシフールがファイヤーボムを放つ。空中で炸裂する火球。
「うわっ!」
オラースは爆発に吹き飛ばされる。フライングブルームでは、空中での激しい戦闘は無理だ。態勢を立て直して魔物を見るや、大鷲と黒いシフールが泥水の飛沫を上げて沼の中へと突っ込む姿が見えた。今度は魚に変身して、あっという間にオラースの前から姿をくらます。
「畜生! また、逃げられたか!」
●思案
戦いの後、アリアは監査官についての試案を取りまとめる。
1:当該地域や関連商店へ立ち入る権利
2:法的根拠のない勧告
3:ラシェットのような定期報告書(議事録)を作成
4:他領の過去年度の報告書を取り寄せを可能に。(提携技術など重要情報は削除可)
「こんなところでしょうか。立ち入りで注意を促す事が重要だから、権限を強くし断られても困ります。強い権限が必要なら上級監査官を作るなり、補佐官を兼ねれば良い事。陛下にも報告して正式な制度にするか検討するとしましょう」
またアレクシアスは、廃墟の塚の地図を騎士サーシェルに返した後に思案する。
「遺跡から財宝を得たとの噂‥‥廃墟の塔、そして廃墟の塚の内部の様子からすると事実かもしれない。そしてその事が魔物が現れるようになった要因と関係しているのではないだろうか?」
そしてオラースは、王都の警備隊長から報告を得た。
「噂をまいていた下手人を捕らえました。下手人の背後には魔物がいて、よからぬ企みを吹き込んでいたのです」
「で、その魔物はどうした?」
「下手人にへばりついていたのはカオスの魔物『邪気を振りまく者』でしたが、オラース殿から頂いた武器で見事、成敗致しました」
「そうか。俺のプレゼントも少しは役に立ったようだな」
警備隊長は笑って首を振る。
「いいえ、大いに役立ちました。これで悪い噂も収まりましょう。しかし退治した魔物は小物、背後ではあの悪女マラディアが糸を引いている様子です。くれぐれもご用心を」