フェイクシティ2〜悪代官フレーデンを叩け

■シリーズシナリオ


担当:内藤明亜

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月24日〜02月29日

リプレイ公開日:2008年03月04日

●オープニング

 場末の酒場の歌姫シェーリンは、実は旧子爵家であるラシェット家のご令嬢。先王エーガンの不興を買ったお家は貴族から平民へと転落し、ラシェット家に代わって領地の支配者となった悪代官フレーデンからは懸想されて、しつこく結婚を迫られる。
 堪りかねたシェーリンは家を飛び出し、あちこちを転々と渡り暮らした挙げ句、気がつけば場末の酒場で歌姫をやっていた。
 そのシェーリンに目をつけたのが、何かと評判の悪い王領代官グーレング・ドルゴ。ただしこっちの代官は、悪代官フレーデンと比べたらずっとマシな人間のようである。
 で、グーレングは冒険者を雇い、場末の酒場にいたシェーリンを見つけだした。そして王都ウィルの貴族街にある自分の邸宅に、シェーリンを招いたのである。
 酒場で歌っていた時には踊り子風の衣装だったシェーリンも、今は淑やかなドレス姿。付き添いの冒険者ともども、屋敷の客間にシェーリンを通したグーレングは、皆にジェトの紅茶を勧めつつ話を切り出した。
「さて、話は既に冒険者諸君から聞いてのことと思うが‥‥」
 グーレングは改めて、シェーリンに話を伝える。さる地球人の言葉に着想を得たグーレングが、今はフレーデンの支配地になっている旧ラシェット領内に建設しようとしている『訓練の町』の話だ。この町は地球で言うところの都市型戦闘訓練施設であり、かつ先王の暴政下で教育の機会を奪われた領主一族の子弟を教育するための施設でもある。また鍛冶屋や煉瓦職人など、領地を支える職能者の養成も併せてこの町で行われるのだ。
 この町が建設されれば、それは先王エーガンの暴政下でボロボロになったフオロ分国東部の、再生への大きな一歩となることだろう。
 しかし一通り話は聞いたものの、シェーリンは疑わしげ。
「で、土地の所有者である悪代官フレーデンと話はついてるわけ?」
「フレーデンとの話はこれからだ」
「あの悪代官から土地を買うのか借りるのか知らないけど、あの男は強欲だからがっぽり搾り取られるわよ」
「先の話はともかくとして、町の建設に当たっては元領主の一族である君の望みも聞いておきたい。だから、私は君をここに招いたのだ」
「‥‥そう、ならばあたしの望みを言うわ」
 決意を固めると、シェーリンは一気にまくし立てた。
「あたしの望みは悪代官のフレーデンを退治して、あたしが暮らしていたお屋敷を取り戻すことよ! 幸せだった頃のあたしに戻りたいの! それと、領地の牧場にはお乳のよくでる牛、美味しいお肉の豚に、美味しい卵を産むニワトリに、可愛いペットの犬と猫も忘れないで! ベッドはふかふかの羽根のベッド、朝食にはハチミツパンにジェトの紅茶、晩餐にはハチミツたっぷりのワイン、ええと、それから、それから‥‥晩餐会に着ていくドレスも最低1ダース! 白馬が引っぱる4頭立ての馬車付きで!」
 一気にぶちまけたシェーリン、荒い息をしながら挑発するようにグーレングを睨みつける。
「いかが、お代官様? これがあたしの望みよ。叶えていただけるのかしら?」
 グーレングがにんまりと笑った。
「心配は無用。君が努力し、それに運が味方するなら君の望みは全て叶う」
「え? え? それってどういうこと?」
 あっさりと答えられ、シェーリンは訳が分からなくなる。
「幸い、ここにはウィンターフォルセ領主殿とその家臣である築城軍師殿、並びにお二方と縁の深き冒険者諸君がおいでだ。後の話は皆で進めたまえ」
 そう言い残してグーレングが客間から去ると、ウィンターフォルセ領主ともども同席していたルキナスが、そっとシェーリンの耳に囁いた。
「実はここだけの話だけど、悪代官フレーデンの討伐が秘密のうちに進められているんだ」
 シェーリンの顔が、光あふれる真夏の空のようにぱあっと輝いた。
「そういうことだったのね! だったら話は早いわ! 冒険者みんなで悪代官を退治するならゴーレムも使えるわよね! だったら、あたしもゴーレムに乗せて! 悪代官をゴーレムのゲンコツでタコ殴りにしてやるわ!」
「‥‥おい、頼むよシェーリン」
 ルキナスは思わず、その手で額を押さえこんだ。これでは先が思いやられる。

●シェーリンの参戦
「実は、フレーデンの住処になってるお屋敷には秘密の地下通路があるの」
 と、シャーリンがルキナスに打ち明ける。
「それは本当なのか?」
「本当よ。地下通路そのものは古代の遺跡で、お屋敷が建てられる前よりずっと昔からそこにあるの。あたしも子どもの頃、両親に連れられて何度か地下通路に下りたことがあるわ。真っ暗で寒くて、長居したい場所じゃないけれど」
「フレーデンもその地下通路を知っているのか?」
「何年もお屋敷に居座ってきた男よ。知っていて当然だわ」
 早速、ルキナスはシェーリンの話を元に、図面を描いてみた。

【館の概略図】
 ∴□□□□□□□□∴ 北↑
 ∴□┏━━━━┓□∴
 ∴□┃┌―┐■┃□∴
 〓〓┃│館│塔┃〓〓
 ∴□┃└―┘∴┃□∴
 ∴□┃∴城門∴┃□∴
 ∴□┗━┫┣━┛□∴
 ∴□□□┃┃□□□∴
 ∴∴∴∴↑跳ね橋∴∴

 □:壕 ━:城壁 ∴:平地 〓:地下通路

「‥‥ふぅむ」
 出来上がった図面を見て、ルキナスはうなってしまった。
 シェーリンの話によれば、館から東へ向かう通路は万が一の時の逃走路の役目を果たし、西へ向かう通路は壕に水を引くための用水路として使用されている。そして館の地下には水門があり、この水門を開くか破壊するかすれば、川から引かれた大量の水が東の通路にもどっと流れ込むことになる。
「で、この地下通路は高さと幅があるのか?」
「人なら楽に走り抜けられるけど、馬に乗ってだときついわね」
「とにかく、悪代官フレーデンの逃走だけは絶対に阻止しなければならないんだ。戦いが始まるまで、少しでもヤツを館に留めておく方法があれば‥‥」
「あるわよ。あたしをエサにして誘き寄せれば、あのいやらしい男は間違いなく食いつくわ」
「そうか、その手があったか! ‥‥いや、駄目だ。君をそんな危険な目に会わせるわけには‥‥」
 言いかけたルキナスに、シェーリンは険しい表情で詰め寄った。
「これはフレーデンをゴーレムで殴り倒すまたとないチャンスなのよ! そのチャンスをふいにするって言うの!?」
「ずいぶんとゴーレムにこだわるんだな」
「いっそのことゴーレムを2体持ち込んで、祝宴の余興としてあたしとフレーデンにゴーレム同士の決闘をさせない? フレーデンが勝ったら、あたしはフレーデンの言いなりってことにして」
「それで万が一、フレーデンが勝っちまったら‥‥」
「バカ言わないでよ! あたしが負けるわけないじゃない!」
「だけどシェーリン、君にはゴーレム操縦の経験が不足してる。そもそもゴーレムを動かしたことだって無いじゃないか」
「だったら試してみればいいじゃない! 冒険者ギルドのコネで、ゴーレムの試し乗りくらいさせてもらえるでしょ!」
「分かった、分かった。ゴーレムのことは何とか手配するからさ」
 と、その場ではシェーリンに納得してもらったが、ルキナスにとっては悩みの種が増えた。
「しゃーない、後のことは冒険者が集まってから考えるか」

●冒険者ギルドより
 当依頼では、以下のゴーレムが冒険者に貸し出される。

 バガン 最大2体
 フロートチャリオット 最大2台
 ゴーレムグライダー 最大2機

●今回の参加者

 ea2449 オルステッド・ブライオン(23歳・♂・ファイター・エルフ・フランク王国)
 ea4509 レン・ウィンドフェザー(13歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5876 ギルス・シャハウ(29歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea7463 ヴェガ・キュアノス(29歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 eb3770 麻津名 ゆかり(27歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb4097 時雨 蒼威(29歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4139 セオドラフ・ラングルス(33歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4270 ジャクリーン・ジーン・オーカー(28歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)

●リプレイ本文

●作戦
 ルキナスの知己であるオルステッド・ブライオン(ea2449)が、再び彼のところへやって来た。
「よお、久しぶりじゃないかオルステッド」
「‥‥フッ、久々のルキナスさんが依頼を出していたと思って来てみたら、また女癖が再発したかな‥‥?」
「女癖だって? 誤解しないでくれ、俺がやってるのはナンパじゃなくて人助けなんだぞ」
 で、オルステッドはもちろんシェーリンとは初対面。ルキナスの側にいるシェーリンをまじまじと見つめて言う。
「‥‥なるほど、こちらが麻津名ゆかりさんという新妻がありながら、ルキナスさんが熱を上げているというシェーリンさん、か‥‥」
 ルキナスは慌てた。
「ちょ〜っと待て! ゆかりとは婚約者の間柄だけど、まだ俺の妻になったわけじゃねぇ!」
「それはさておき今回の依頼、私は護衛として付き従うつもりだが、万が一の時に決闘代理人を務める必要などがあるやもしれん」
 オルステッドはシェーリンに向き直り、訊ねる。
「家名を上げ、お家再興の礎となれるよう、私が貴女と騎士としての契約関係を結んでおく、というのはどうかな?」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
 シェーリンは困った顔に。
「あたしはかつての子爵令嬢には違いないけど、今のあたしは平民に格下げされた身で、騎士と契約できる立場じゃないし‥‥」
 ふと横目で時雨蒼威(eb4097)をちらりと見やり、その顔がぱあっと明るくなる。
「だけど男爵の婚約者ならいるわ! 結納金も支払い済み! ここは将来の男爵夫人候補ってことで、ぜひとも契約を!」
「こういう場合は蒼威さんとの結婚成立をもって晴れて貴族の身となり、契約発効ということになるのか?」
 上手く結婚までこぎ着けるかも分からないのに。ややこしい話だとオルステッドは思う。
「さて、そろそろ本題に入りましょう」
 と、セオドラフ・ラングルス(eb4139)が作戦を提案する。
「フレーデン、ここで逃がせば禍根が残りますな。フレーデンを騙すなら、フェイクシティ構想を話して領土割譲交渉をするのが良いでしょう。領土交渉ともなれば立ち話では済みませんし、フェイクシティ構想自体は本当なので、フレーデンもそう易々と矛盾点を見つけられないはずです。強欲な悪代官なら、大きな利益を前にすぐさま逃げ出す事はありますまい」
 そしてセオドラフは、フレーデンを騙すために考え出した筋書きを皆に説明する。その見事さにシェーリンは感嘆した。
「これなら絶対うまく行くわ! それで、あたしがゴーレムに乗るのはいつ!?」
「ゴーレムは持ち込むのが不自然なので外しました。決闘そのものは可能ですが──」
「そんな! あたしの出番が無いのは嫌よ!」
 露骨に不満を表すシェーリン。すると蒼威が言う。
「考え直せ、シェーリン。今、優先すべきなのは君の私怨か? それとも領民と領地の未来なのか?」
「ん‥‥」
 シェーリン、真剣な顔で黙り込む。
(「顔だけの女に興味は無いよ? 俺は」)
 思いながら、蒼威はなおも言い聞かせた。
「君の肩には圧制に苦しむ人々の未来がかかってることを忘れないように。まー代わりに、俺と恋人装ってフレーデンを挑発するのは? 少しは溜飲下がるでしょ。そのためのドレスも何着か持って来た」
 と、蒼威は手持ちのドレスをシェーリンに示す。気品があって売り切れ続出なシルクのドレス、見た目な派手なバタフライドレス、そして魅惑的なセクシーパラダイス。
「これを、あたしが‥‥」
 暫しシェーリンはうっとりとドレスに見入っていたが、蒼威の視線に気付いて言う。
「冒険者って随分と物持ちなのね。こういう時の為に前々から用意してたってわけ? だけど、考えてみれば蒼威の言う通り。ゴーレムは諦めるけど、代わりにこのドレスを着てフレーデンに見せつけてやるわ」
 蒼威はくすっと笑って付け加える。
「あ、婚約は訪問していきなり言った方が、ショックがでかくて面白い」
 シェーリンもくすっと笑った。
「それもそうね」

●戦いはこれから
 行動を開始した冒険者は二手に分かれる。幼きウィンターフォルセ領主レン・ウィンドフェザー(ea4509)に率いられ、表立ってフレーデンの館を目指す者達と、秘密裏に地下通路からの侵入を試みる者達とに。
「地図をありがとう」
 と、これから地下通路へ向かう麻津名ゆかり(eb3770)は、ルキナスが描いてくれた地図を手に、にっこり。
「くれぐれも気をつけてくれ。ゆかりに万が一の事があったら‥‥」
 と、案じるルキナスにゆかりは答える。
「あたしはあなたにしか捕まりません。安心して下さい。そちらこそ気をつけて‥‥」
 レンの元気良さと無邪気さは相変わらず。
「がんばって、あくだいかんを『どっかん』するのー♪」
 セオドラフのみは討伐戦の開始まで後方待機。残る冒険者達は、2つのルートからラシェット領内に踏み込んだ。時に2月24日、討伐戦の前日。

●悪代官の館
 セオドラフの計画に従い、ウィンターフォルセご一行様としてラシェット領を訪ねた冒険者達は今、フレーデンの館の真ん前にいる。
「これから勝負が始まるのね。ドキドキするわ」
 呟いたシェーリン、蒼威と目線が合った。
「勝つさ、愛に賭けて」
 と、蒼威。
「え?」
「気も無い女に冗談でも婚約申し出たりしないよ? 俺は。‥‥一応、男爵の身分があるからね」
 2人の会話はそこまで。衛士が一行を館の中に招き入れる。
 最初に通された控え室で、ヴェガ・キュアノス(ea7463)はこっそりとデティクトアンデットの呪文を唱えてみた。
「これは‥‥!」
 いた! 館の中の離れた場所に魔物が3匹。魔法の手応えからして小動物に化けている様子。ヴェガは何気ない風を装いつつ、皆に注意を促す。
 ヴェガの有する『生命の紋章』は、何ら反応を示していない。どうやら館の下に存在する地下通路は、古代の遺跡ではあってもロード・ガイとは関係ないようだ。
 続いて通された客間では、フレーデンが上機嫌な顔をして待っていた。
「これはこれはウィンターフォルセ領主殿、ご高名は以前よりうかがっております」
 今回の来訪は前もってシフール便で知らせておいた。当のウィンターフォルセ領主レンは久々のゴスロリ服に身を包み、堂々と話を切り出す。
「まちをつくるのに、きょうりょくしてほしいのー♪」
「では、ここから先の話はプリンセスに代わり、ウィンターフォルセ軍師の俺が説明しよう」
 と、ルキナスが話を代わり、フレーデンに伝えたのは次のような話。即ち──。

 フォルセの軍師ルキナスは、フェイクシティの建設を思い立った。これは近い将来、引退や怪我などで依頼をこなせなくなった元冒険者が、無理なく一般人の中で暮らせるようになる為の訓練の街。この構想を実現すべくルキナスが目をつけたのが、元子爵令嬢のシェーリン。彼女はお家再興のチャンスとばかりこの話に飛び付き、プリンセス・レンという後援者を得て、現在の土地の支配者であるフレーデンとの交渉にやって来た。
 シェーリンが求めるのは、フレーデンの支配地の使用権。もちろん、後援者から提供される相応の資財と引き替えにである。
 願わくば、今はフレーデンの所有となっているラシェット家の家宝も、シェーリンに譲り渡して欲しい。ラシェット家再興の象徴として。それはシェーリンの切実な願いなのだ。

 ──以上、全てセオドラフの立てた筋書き通り。
「町の建設に掛かる費用は我々が負担。かつ土地の使用料として、町から上がる税収の何割かを納めることも約束する。──そうですね、プリンセス?」
 ルキナスが確認を求めると、レンは即答する。
「ルキナスのいうとおりなのー♪ エーロンへいかのたすけもあるのー♪」
「そういう事であれば、この私めも力を尽くしましょう」
 美味しい話が転がりこんできたとばかり、フレーデンはにんまり笑う。そして、ドレスで華やかに着飾ったシェーリンにねっ〜とりした視線を向けて言う。
「それにしても、今日のおまえは実に美しい」
「だって、今日のあたしは人生の晴れ舞台に立っているんですもの。‥‥あ、そうそう。あたしを手助けしてくれる冒険者の皆さんを紹介しなくっちゃ」
 シェーリンはまずオルステッドを自分の護衛として紹介。オルステッドはきびきびした動作で一礼。次にヴェガを対カオスの戦闘指南役として紹介。ヴェガはニコニコと愛想良く一礼。さらに漆黒のサーコート姿の蒼威を指す。
「そして、このお方は‥‥」
 蒼威はシェーリンを制し、自ら名乗った。
「俺は時雨蒼威、シェーリンの後援者の一人で、かつシェーリンの婚約者だ」
「何ぃぃぃぃーっ!?」
 フレーデンが血相変えたが、シェーリンは蒼威にいちゃつきまくる。
「あら、聞こえませんでしたの? あたし達、婚約していますの。蒼威様ったら、結納金だってぽんと100Gも豪快に‥‥」
「黙れ! 黙れ! 黙れぇーっ!!」
 それまでの愛想の良さも完全に吹っ飛び、フレーデンはシェーリンに詰め寄る。
「他の男と結婚など絶対に許さんっ!!」
 ばしっ! フレーデンの顔に手袋が投げつけられ、言葉を封じる。投げつけたのはシェーリン。
「そこまで言うからには、覚悟の程を見せてもらうわよ!」
「決闘か! おまえの婚約者もそれを望むか!」
 フレーデンは怒りも露わ。しかし、蒼威の方はクールそのもの。
「ふ‥‥王領代官フレーデンともあろう方が未練とは‥‥」
 そう呟き、フレーデンに告げる。
「決闘の取り決めだが、俺が負けたら婚約解消。勝ったら婚約はそのままで、屋敷にあるラシェット家の家宝を引き渡してもらう」
 フレーデンは何か言いたそう。
「不満か? ‥‥ならば金や物で愛が証明できるとは言わんが、私の自慢の愛馬『闇凪』と手持ちの所持金1千Gも賭けよう」
 言うなり蒼威は、フレーデンの目の前に重たい金袋をどさっと置く。
 フレーデンの目の前に宿る怒りの炎は、今や欲望の炎に変わった。
「よかろう。シェーリンも家宝も金も馬も皆、私のものだ」
「なお決闘には代理人を立てる。代理人の準備も考え、決闘の開始は25日の昼でいいか?」
「ならば私も最強の決闘代理人を用意してやる」
 かくして決闘の日時は定まった。これも計画通り。

●潜入
 25日の夜明け前、ゆかりはギルス・シャハウ(ea5876)と共に川船の上にいた。場所は地下通路の西側の出入口近く。
「出入口は丁度、船の真下ですね」
 地図で場所を確認し、ゆかりはフライングブルームにまたがる。これなら水没した通路を早く移動できると考えてのことだ。水中移動に備え、予めウォーターダイブとレジストコールドのスクロール魔法を使用。そして、ゆかりは川に飛び込む。
 ところが、ゆかりはすぐに浮かび上がってきた。
「おかしいわ。ブルームが水中を進まない」
 いや、よく考えてみれば分かることだが、フライングブルームにかけられた魔法は『大地と空間の存在を前提として反重力を発生させる』魔法だ。従って、精霊力の働き方が異なる水中や地中では効果を発揮しないのだ。
「仕方ありません。地上を進みましょう」
 当初の計画を変更し、地上を高速移動。敵兵に見付かりそうな時はアースダイブのスクロール魔法で地中に身を隠し、そうしてフレーデンの館近くに達すると、アースダイブで館の地下に潜り込み、水門の場所へと辿り着いた。
「ずいぶん魔法を無駄使いしたけれど、後は時間に合わせて水門を開くだけです」
 アヴァロンの滴を使って魔法力を回復すると、蒼威に貸してもらった時計を見ながら時を待ち、ついにその時が来た。
「さあ、今よ!」
 ところが水門が開かない。長年使われていなかったせいで、可動部がガチガチに錆びていた。
 一方、ギルスはゆかりと別れ、地下通路の東側の出入口に達していたが。
「う〜ん、これは困りました」
 ようやく見つけた出入口の石の蓋が動かない。内側からしか開かないようだ。

●決闘
 ついに決闘の時がやって来た。
「貴様が決闘代理人か」
 フレーデン側の決闘代理人、図体のでかいジャイアントの戦士がオルステッドを睨めつける。
「これはご大層な」
 決闘場となった屋敷の庭には、急ぎフレーデンがかき集めた兵士達がぞろぞろ。
(「いざとなったら私たち全員を人質にとか考えているのだろう。その分、村々の守りが手薄になって助かる」)
 今やフレーデンの注意は外ではなく、内へと向けられている。これで討伐軍の進撃もやり易くなろう。
 決闘が始まった。
「ぬあああっ!!」
 対戦者はジャイアントソードの使い手。力押しの攻撃を巧みに避けながらも、これは強敵だとオルステッドは実感。じりじりと間合いを詰め、反撃を試みたその時だ。
 どおおおおん!!
 地中から地鳴りのような物音が響く。
 どおおおおん!!
 またしても、物音が。
 フレーデンの顔色が変わる。
「まさか、水門が‥‥」
「閣下! あれを!」
 取り巻きの一人が空を指す。そこには迫り来る討伐軍のフロートシップ。
「は‥‥謀ったなぁルキナス!!」
 真実を悟ったフレーデンは絶叫し、屋敷の中に駆け込む。続いて取り巻き達もぞろぞろと。
 だが、地下通路への隠し扉の場所には、レンのペットの忍犬が待ち構えていた。
 がぶり。忍犬がフレーデンの足に噛みつく。
「うああああーっ!!」
 転倒して叫ぶフレーデン。その後にはさらに凄まじい状況が待っていた。

●続きはまた今度
「‥‥で、それからどうなったの?」
 ジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)がルキナスに問う。彼女を相手にずっと長話を続けていたルキナスは、面倒くさそうに答えた。
「作戦は大成功。水門はゆかりの魔法で破壊され、フレーデンは水浸しの地下通路を通って逃げようとしたけど、結局全員が捕らえられてめでたしめでたしさ」
「ああ、フレーデンが捕らえられるところなら私も見たわ。ずっとあの辺りに張り付いてたもの。だけどルキナスの話、最後の方が何だか素っ気ないわね」
「詳しいことは、ギルドの記録係が次の報告書あたりで書いてくれるだろうさ。俺はずっと話し通しでいい加減疲れた。それより君の話を聞かせてくれないか? ずっと東の方で魔物どもと戦っていたんだろう?」
「ええ、グライダーに乗って魔物どもを相手に。まさか、あんな魔物の大群が攻めてくるなんて思わなかったけど‥‥」
「君の戦う姿、俺も見てみたかったよ」
「だけど動き回る死体の敵なんて、最低もいいところ」
「それもそうだな。美しい君には殺伐とした戦場なんかよりも、もっと相応しい場所があるはずだ」
 2人して話すうちに、何とな〜くいいムードになってきたが。
「あっ‥‥!」
 ルキナスは気付いた。ゆかりがきつい目で睨んでいる。
「ルキナスさん!」
「ま、待ってくれ。これは誤解‥‥」
 言いかけたルキナスがちらりとジャクリーンに目をやると、彼女は既にルキナスから遠く離れた場所に立ち、にっこりと笑って言う。
「続きはまた今度ね」