フェイクシティ3〜初めてのゴーレム操縦
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■シリーズシナリオ
担当:内藤明亜
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:04月10日〜04月15日
リプレイ公開日:2008年04月19日
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●オープニング
●シェーリンの勝利
ついこの前まで場末の酒場で歌姫をやっていたのに、気がつけば冒険者ギルドに籍を置く男爵様の婚約者。だけど、すんなり結婚にこぎ着けるわけじゃない。我等がヒロイン、シェーリン・ラシェットの前に、最初の強敵が立ちはだかる。それはラシェット家の領地も屋敷も財産も横取りし、支配地で悪逆非道の限りを尽くしたのみならず、シェーリンに懸想してしつこく結婚を迫り続けた悪代官フレーデンだ。
「この決闘に私が勝てば、シェーリンは私のものだ」
「決闘の勝負もついてないのに、もう勝ったつもりでいるの? 後悔するわよ」
フレーデンの屋敷の庭で、2人の欲望とプライドそして人生を決闘が始まる。フレーデンの立てた決闘代理人は、屈強なるジャイアントの戦士。対してシェーリンの側に立つ決闘代理人は、数々の修羅場をくぐり抜けてきたジ・アース人の冒険者。
ウィンターフォルセ軍師ルキナスはもとより、シェーリンに味方する冒険者達は立会人として決闘を見守るが、その周りには急ぎフレーデンがかき集めた兵士達がぞろぞろ。いざとなったらシェーリンと冒険者達を人質にしようとする魂胆が見え見えだが、これだけの兵士がここに集まれば、支配地の守りが手薄になって助かる。
時に精霊歴1041年2月25日、フレーデン討伐戦の決行日。
フレーデンが決闘にうつつを抜かしている頃、エーロン王が差し向けた討伐軍は着々とフレーデンの支配地たる王領ラシェットを進攻しつつあったのである。
「閣下! あれを!」
決闘の最中、フレーデンの取り巻きの一人が空を指す。そこには迫り来る討伐軍のフロートシップ。
「は‥‥謀ったなぁルキナス!!」
真実を悟ったフレーデンは絶叫し、屋敷の中に駆け込んだ。
「フレーデン閣下!」
総大将が一目散に逃げ出したもんだから、決闘代理人は慌てた。だが決闘の最中に目線を逸らしたのがいけなかった。
どがあっ!!
シェーリンの決闘代理人が強烈な一撃を見舞う。
「があっ‥‥!」
ぶっ倒れたその真上から、さらにもう一撃。フレーデンの決闘代理人、もはや戦闘不能。
「真剣勝負の最中に余所見をするからこうなる」
クールに言い放つ決闘代理人の冒険者。フレーデンの兵隊どもは反射的に剣を抜いた。
「貴様ら全員、人質だ!」
「あくだいかんのてさきは『どっかん』するのー♪」
出た! ウィンターフォルセ領主の『どっかん』攻撃が炸裂! 情け容赦なくローリンググラビティーの魔法が放たれた!
「うあああああーっ!!」
重力が反転して兵隊どもは宙に舞い上がり、続いて地面に落下する。これを3度も4度も繰り返したものだからたまらない。兵隊どもは総崩れ。
一方、屋敷の地下室に逃げ込んだフレーデンだが、既にそこは水浸し。こっそり侵入した冒険者が川からの水をせきとめる水門に魔法をぶちかまして穴を開けたのだ。吹き出した水は地下室から外に通じる抜け道にも流れ込み、しかも水門の破壊は未だに続いている。
どおおおおん!! どおおおおん!!
「やめろ! やめろぉ!」
絶叫するフレーデン。水はますます水量を増す。堪りかねたフレーデンは、水がじゃあじゃあ流れる抜け道を駆け出した。
「フレーデンっ! 俺達を置き去りにする気かぁ!?」
取り巻きの連中も、後を追ってぞろぞろと抜け道に飛び込んで行く。
「逃がさないわよフレーデン!」
シェーリンも後を追おうとしたが、冒険者のクレリック達に呼び止められた。
「はいは〜い、危険だから深追いはやめましょうね〜。後は討伐軍に任せとけば大丈夫ですよ〜」
「それよりもこの館には魔物が3匹潜んでおる。そいつらを倒す方が先じゃ」
シェーリンがキッと目を剥く。
「このお屋敷を魔物の巣なんかにさせないわ! 魔物はどこ!?」
「1匹はほら、あそこですよ〜」
神聖魔法による探知で、2人のクレリックには魔物の位置が手に取るように分かる。すかさずホーリーをぶちかますと、ネズミに化けていた魔物がぎゃっと叫んで正体を現す。それは翼を生やした醜い子鬼。さらなるホーリー攻撃で魔物は絶命した。
「2匹目はあそこです〜」
2匹目の魔物も早々に退治される。
「そして3匹目はあそこに〜」
「あの魔物はあたしに任せて!」
転がっていた銀の皿をひっつかみ、シェーリンは示された方向に投げ飛ばす。
ぼぉん! 皿は僅かに狙いを逸れ、家具の陰に隠れていたネズミがサッと逃げ出した。
「しまった!」
それは一瞬の出来事。ネズミに化けた魔物は小さな壁の割れ目に飛び込み、そのまま行方をくらましてしまった。
さて、屋敷から逃げ出した悪代官フレーデンだが、抜け道の出口に待ち構えていた討伐軍の冒険者達によって早々に引っ捕らえられた。だがシェーリンにとって残念なことに、シェーリンが駆けつけた時には既に冒険者にぶちのめされていた。
「こいつを殴り倒すのを楽しみにしていたのに‥‥」
残念がるシェーリン。すると、ぼこぼこにぶちのめされたフレーデンが、腫れ上がった瞼を持ち上げてシェーリンをにらむ。
「う‥‥が‥‥」
何かを言おうとしたようだったが、間髪を置かずシェーリンの蹴りが決まった。
どげしぃっ!!
「が‥‥!」
再びぶちのめされたフレーデンをちらりと見て、シェーリンは一言。
「これですっきりしたわ」
●あたしをゴーレムに乗せて
時は流れ、討伐戦からおよそ1ヶ月後。かつて悪代官の支配地だった王領ラシェットでは、フオロ分国東部復興の拠点となる通称『フェイクシティ』の建設計画が本格的に動き出していた。気が付けば計画の立役者となっていた軍師ルキナスも、どっと仕事が増えた。
「フェイクシティを建設する場所は王領ラシェットの南西、大河の畔にある土地だ。ここには元々、ラシェット家が所有する小さな町があったのだけれど、フレーデンが土地の支配者になって以来、町は荒れ果ててついには無人のゴーストタウンと化してしまったんだ。だから最初にやるべき事は、廃屋の取り壊しとか地均しとか区画整理とか。それに近隣の土地の調査も必要だしな。そこら辺は冒険者のみんなに頼むぜ。モンスターや野盗が出るかもしれないから、ゴーレムも一応は手配しておくからな。ついでに俺の方からも、関係者に色々と声をかけておいた」
「関係者って‥‥?」
「将来、フェイクシティに住むことになる元領主や元騎士の子弟達さ。これがそのリストだ」
ルキナスから手渡されたリストを見て、冒険者ギルドの連絡係・知多真人は呆れた。
「これって、女の人ばかりじゃありませんか?」
「それがどうした? 野郎なんざ、放っといてもてめえの面倒はてめえで見るもんだ。だけど女性はいたわってあげなきゃいけないだろう?」
ルキナス、相変わらず。
すると、シェーリンが2人の話に割って入る。
「で、あたしにもゴーレムを操縦させてくれるのよね?」
「シェーリン、ゴーレムなんて不粋なものは、美しい君には似合わな‥‥いてっ!」
シェーリン、さりげなくルキナスの脇腹を思いっきりつねる。
「逃げた魔物が仲間を引き連れて、あたし達を襲いに戻ってくるかもしれないじゃない! 万が一の時のために、あたしもゴーレムの動かし方に慣れておきたいの! 魔法武器のゴーレムがあれば、魔物だってイチコロよ!」
あくまでもゴーレムにこだわるシェーリン。結局、ルキナスは嫌だとは言えなかった。
●リプレイ本文
●8歳に手を出すな
冒険者たちを乗せたフロートシップは町の建設予定地に向かって飛ぶ。
「どうしたんだいセリーシア、顔色がすぐれないじゃないか」
「だって空を飛ぶのは初めてだから」
「落ちるのが怖い? 実は俺も最初はそうだった」
「ルキナスさんはもう怖くないの?」
「怖くはないさ。だって君の笑顔がそばにあるから」
ルキナスは例のごとし。船の甲板でナンパしている相手はルキナスのリストにある女性の1人、セリーシア・レビン18歳だ。今回はルキナスの誘いを受け、見学のため同行したのだ。
「ルキナスお兄ちゃ〜ん!」
可愛い声の主はアンジェ・ルアン8歳。やはりルキナスに誘われた見学者だ。
「やあ、アンジェ‥‥」
愛くるしいアンジェに声をかけようとしたルキナスだが、その言葉が喉の奥で消える。やって来たアンジェの隣にはルキナスの主人であるウィンターフォルセ領主、外見年齢11歳のレン・ウィンドフェザー(ea4509)が立っているじゃないか。
「るーちゃん、ストライクゾーンがひろすぎるのー。でも、むせっそーすぎるとそのうちなきをみるとおもうのー」
「それは誤解だプリンセス、俺はあくまで人助けのために‥‥」
ルキナスのいつもの言い訳が終わらぬうちに。
「ルキナスが8歳のアンジェにまで手を出そうとしてるそうじゃの? まったくこりない奴じゃの」
と、ヴェガ・キュアノス(ea7463)。さらにギルス・シャハウ(ea5876)も姿を現して。
「ルキナスさんの守備範囲が10歳以下に及んでいることが判明したので、魔法で固めて足の裏を犬達にペロペロしてもらいましょうかね〜。ゆかりさんのストップが掛かるまで続けさせますよ」
「うわ何をするやめろ‥‥」
ギルス、ためらうこともなくコアギュレイトの魔法を発動。
がちぃ〜ん。ルキナスは石人形のように固まって甲板に横倒し。ギルスはペットのボーダーコリー犬2匹に呼びかける。
「さあ、ペロペロしてあげなさい」
ペロペロペロペロ‥‥。
(「あひゃひゃひゃひゃ! やめろやめてくれぇ! ひぃひぃひぃ!」)
ルキナス、心で叫んでもガチガチに固まってるから言葉が出ない。
ヴェガはにっこり笑い。
「さて、こやつにはキリキリ働いて貰わねば。休むのはゆかりと共に居る時のみ、となるぐらい頑張ってもらうぞえ」
●現地調査
町の建設予定地、まだ廃墟の町しかないその上空を、2匹のグリフォンが飛んでいる。それぞれの背中にはオルステッド・ブライオン(ea2449)と時雨蒼威(eb4097)。これは町の下見だ。空から見下ろすと、土地の様子が手に取るように分かる。
シフールのギルスも空からの下見に同行し、現在の様子をざっとスケッチ。廃墟の町の北側と東側には林が点在する野原が広がり、南側は大河に面し、西側には大河に注ぐ川。その川のさらに西には湿地帯が広がるが、そういった周辺の様子もしっかり描きこんだ。
出来上がった見取り図をギルスから受け取ると、オルステッドはまだ存在せぬ町の姿に思いを巡らす。
「あの廃墟がどのような町に生まれ変わるか、築城軍師のお手並み拝見と行こう」
空からの下見の次は、地上での調査だ。
「気をつけて! 逃げた魔物はどこに潜んでいるか分からないわ!」
同行するシェーリンが注意を促すが、そこはギルスも心得ていて、予めデティクトアンデッドを唱えて安全確認。
「大丈夫。近くに魔物はいませんよ〜」
「本当ね?」
シェーリン、破れた扉から中を覗き込む。
「中は暗いわ」
「では明るくしましょうね〜」
ギルスがホーリーライトの呪文を唱え、その手に出現した光球が廃屋の中を照らしだした。
「ふぅん、便利ね」
さっそくギルスとシェーリンとで廃屋の1つに足を踏み入れると、天井で何かの影がぞわぞわっと動く。
「え!? あれは何!?」
いきなり、そいつらはどっと群がり寄せてきた。
「わーっ!!」
シェーリンは悲鳴を上げ、ドタバタと暴れ回る。
「魔物よ! 魔物だわっ!」
「はいはい、落ち着きましょ〜」
2人して廃屋から飛び出すと、その背後からパタパタ飛び出してきたのはコウモリの群れ。
「だから、あれはただのコウモリですよ〜」
ビキッビキッ。派手な音がして廃屋が傾く。
「‥‥あ?」
「暴れすぎですよ〜。崩れなくてよかったですね〜」
ワウワウワウワウ!
レンとヴェガが連れてきた2匹の忍犬がけたたましく吠え、離れた廃屋の中に飛び込んだ。何かの気配を察知したのだ。
「ぎゃあああ!」
飛び出してきたのは、廃屋に住み着いていたゴブリンだ。
たかがゴブリン、取り逃がすような冒険者ではない。ヴェガがコアギュレイトの魔法を飛ばしてガチガチに固めたところへ、2匹の忍犬が飛びかかって哀れなゴブリンはズタズタに。
「あんなのまで住み着いていたなんて‥‥」
シェーリンはうんざり顔。
一方、蒼威は少し離れた場所で地面を掘り返している。
「そんな所で何やってるんだ?」
ルキナスがやって来て尋ねた。
「空から見て分かった。ここに何かを埋めた跡がある」
やがて地面の下から現れたのは、いくつもの人骨。
「きっと、悪代官の悪事の証拠だな。反抗する者達を殺して埋めたんだ」
「俺は別の物が埋まっていると思ったんだが‥‥」
蒼威が予想していたのは、カオス勢力が埋めた恐獣アンデッドの死体だ。
「恐竜アンデッドの死体を予め敵国の要所に埋めておき、時が来れば魔法をかけ兵力を増産する。それが敵の戦術じゃないのか?」
ルキナスが言う。
「死体を埋めても放っとけば腐る。それをやるなら寒冷地とか乾燥地とか、死体が腐りにくい土地を選ばなきゃな」
●町造りの計画
大きな筆記板を前にして話しているのは、オルステッドとルキナス。
「王都を模す──これが町の基本コンセプトだったな。しかし、全部をそっくり真似るのか?」
「いや、全部をそっくり真似るのは大変だ。要所要所はしっかり造り込むが、どうでもいい部分はハリボテなどで代用する」
「さしあさって教会、戦技訓練、ゴーレム関連、産業振興の4つを基本に据え、これらが可能な王都の一角を持ってくるのはどうか?」
「俺もそれがいいと思う」
オルステッドの意見を元に、ルキナスは炭を使って筆記板に町の下絵を描き込んでいく。
続いてギルスとヴェガも意見を出す。
「戦闘演習施設なので、教会兼治療院、或いは治療院の中に礼拝堂を併設するのはいかがですか?」
「教会には布教や治療だけでなく、魔物に関する知識のレクチャーや対策を考える役目も担わせたいところじゃな」
そしてレンからも。
「いんたいしたぼうけんしゃのためのまちづくり、もういちどかんがえてほしいの〜」
冒険者引退後の訓練施設、これは悪代官フレーデンとの交渉で相手を油断させる為に使った方便だが、よく考えてみたら実際にも有益に活用できそうだ。
「町を守るゴーレムには、射撃用のウッドを希望する。兵装は弓だ。上位の射撃用機体も欲しいぞ。メイの国のモナルコスとは逆に、細身で精密動作可能なアイアンとかどうだ? 金属なら一度、型を取れば部品が細かくとも量産できるし。細身の脆さは素材でカバーできるだろう?」
これは蒼威の意見。
町におけるゴーレムの運用に関しては、戦闘訓練及び実戦に使えるよう、道路の道幅を広くする等の意見も出された。
これらの意見を構想に組み込むと、ルキナスは計画書の作成に取りかかったが、その仕事は夜遅くまで続いた。
「はい、眠気覚ましに」
「ありがとう、ゆかり」
婚約者の麻津名ゆかり(eb3770)が入れるハーブ茶を飲みつつ、ルキナスは仕事を続ける。
「ルキナスさん、仕事は捗ってますか?」
「完成までもうすぐさ」
「時間が出来たら、春の花を見に遠出しませんか? あたしの故郷でもこの時期、桜がとっても綺麗です」
「そうだな、ゆかり」
ようやく計画図が出来上がると、仕事の成果を見に冒険者たちが集まってきた。
「やりましたね、流石はルキナス様」
「そりゃ、伊達に軍師とは呼ばれていないさ」
するとギルスが、水を差すような一言。
「さっさと男性もリストアップしてくださいね、有能な軍師様」
「いやそれよりも、俺は見学者との打ち合わせが‥‥」
すかさず、ゆかりがルキナスの前に立ちはだかる。
「ルキナスさん、リストアップのお仕事が先ですよ」
んで。冒険者たちが立ち去った後も、ルキナスは部屋に残ってリストアップのお仕事。でもなかなかはかどらないようで、ため息ばかり。
「どうして野郎の面倒まで俺が見なきゃならないんだ?」
見かねて蒼威が耳打ちした。
「君は実に馬鹿だな。逆に考えるんだ、美人の妻子持ちを招けば良い──と」
途端にルキナス、目を輝かせる。
「そうか、その手があったか!」
「ついでに騎士学院にも街の事を伝えてみては? 出資も増えるし、会う機会の少ない女教師、女学生とも! ‥‥代官一人主導だと不安だ」
「友よ、俺はやるぞ!」
「そうか。お前にもコレをやるから頑張れ」
そう言って蒼威がルキナスに手渡したのは辺津鏡。
「モテる男がさらに輝くレアアイテムだ」
●ゴーレム訓練1日目
今日はゴーレム訓練が始まる日。
「アンジェ〜! アンジェ〜! ‥‥ったく、こんな時にどこ行ったんだ?」
アンジェの姿が見付からないので探し回っていたルキナスだが、ようやくレンと一緒にいるアンジェを発見。
「プリンセス‥‥ご一緒でしたか」
「るーちゃんのことをいろいろおしえてあげてたのー」
「ま、まさか、あ〜んなことや、こ〜んなことや‥‥」
「いいから、るーちゃんはまじめにおしごとするのー」
で、アンジェの方はやったらノリノリで。
「ルキナスお兄ちゃん、ご指導よろしくねっ!」
「アンジェ、今日は随分と気合いが入ってるな」
「レン様からゴーレムのこととか色々教わったのっ! アンジェ、がんばるもんっ!」
訓練を受けるのはシェーリン、セリーシア、アンジェの3人。ゆかりから贈られたゴーレムライダーを全員が着込んでいる。ゴーレムの基礎知識についての座学はジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)が担当。それが終わるとジャクリーンは実技に移る。
「操縦のコツに関してですが。私個人としてはゴーレムにいう事を聞かせるのではなく、力を借して貰っているという気持ちが強いので、馬等の生き物と同じ様にゴーレムと心を通わせることが大事だと思っています」
用意されたゴーレムはバガン。真っ先に乗り込んだのはシェーリン。
「頑張ってください、神様がじ〜っと見ていますよ」
空からギルスの声が飛ぶ。
「立って! 立つのよっ!」
シェーリンは制御胞の中で叫び、やがてバガンがむくっと立ち上がる。
「立った! 立ったわ〜!」
そのままバガンを歩ませるが、歩き方が危なっかしい。
「馴れないうちは急がずに慎重に」
指導するジャクリーンのバガンが止めなければ、そのまま遠くまで行ってしまいそうな勢いだ。
続くセリーシアも難なく起動と歩行に成功。そしてアンジェの番が来た。
「アンジェ、行きますっ!」
その声と共に、バガンがすくっと立ち上がった。
「歩きます! 歩きます!」
アンジェは勘がいい。最初はぎこちなかった歩きも、次第にさまになっていく。
その日の訓練が終わると、アンジェはジャクリーンに尋ねた。
「アンジェの操縦、よくできた?」
「初めてにしては上出来です」
「アンジェも鎧騎士になれるのかな?」
「アンジェ様が強く望むのなら。私も出来るだけ協力します。女性の鎧騎士には多いと思いますけど、私も初めは両親に反対されていましたからね」
●ゴーレム訓練2日目
訓練2日目はセオドラフ・ラングルス(eb4139)が担当。町の建設予定地、廃屋の建ち並ぶ場所にゴーレムを運び、3人の訓練生に訓練内容を教示する。
「皆様はゴーレムがカオスの魔物にも有効である、という話をご存知ですか? カオスの魔物の多くには魔法の武器しか通じませんが、ゴーレムはそれ自体が魔法の武器なのです。ただし、魔法がかかっているのはゴーレムの身体だけ。ゴーレムの手持ち武器は魔物に通じません。そこで、皆様にはゴーレムの素手格闘を練習していただきます」
最初にセオドラフがゴーレムに搭乗し、素手格闘の基本的な型を示す。
「と、このように素手格闘は決して格好良い物ではありません」
「でも、これならあたしにだって出来そうだわ」
と、シェーリンが言う。
「場末の酒場で鍛えた自己流格闘術よ」
「では、最初は生身の体で訓練を行いましょう」
セオドラフとシェーリン、生身の体同士で向き合う。
「本気を出してかかってきなさい」
「行くわよっ!」
シェーリンの攻撃。セオドラフを殴る蹴る殴る蹴る。だけど巧みにかわされ、ちっとも当たっていない。
「では参ります!」
セオドラフがシェーリンに拳を叩き込む。
「うっ!」
シェーリンは呻き、動きを止めた。防護具越しでもその攻撃は強烈に効いた。
「攻撃はともかく、防御が隙だらけですね。もっと修練が必要です」
と、セオドラフは顔色も変えずに告げる。
続いてはバガンに乗っての軽作業。
「ゴーレムに慣れる為、廃屋の取り壊しを手伝っていただきます」
「取り壊しなら任せておいて!」
シェーリン、今度は廃屋を相手に殴る蹴る殴る蹴る。
べきべきべきべき! ばりばりばりばり!
ものの5分もしないうちに、廃屋は残骸と化した。シェーリン、物をぶっ壊すのだけはやたら得意である。
その日訓練が一通り終わると、シェーリンは疲れていても涼しい顔。
「久しぶりにいい汗かいたわね」
すると、蒼威にこう言われた。
「シェーリン、ゴーレムの訓練も良いが君も何か意見は無いか?」
「意見って‥‥」
「ここは君の故郷だろう、任せ切りは感心しない。というか鎧騎士になりたいのかね?」
「それは‥‥あまり考えてない」
「ならば、次回までに案の一つくらい考えてくれ。誰かの傀儡になる程度の器か、君は」
「何よその言い方!」
シェーリンはムッとするが、蒼威は意に介さない。
「俺は青田買いする気は無いぞ? 美しくとも実りが無ければ、それは飾りだ」
そう言って蒼威は立ち去り、シェーリンは無言で立ち尽くしていた。
●月精霊の光の下で
その夜は月精霊の光が明るい夜だった。
光の中で妖精の粉を全身にかけた後、ゆかりは魅酒「ロマンス」を持ってルキナスの寝室を訪れた。
それから約1時間後。
寝室の入口にやってきたレンが、そっとドアに耳を押し付けると、中からゆかりとルキナスの会話が聞こえる。
「お願い、ルキナスさん‥‥いえ、ルキナス、今夜はずっと一緒にいて‥‥」
「待ってくれ、まだ心の準備が‥‥」
「ルキナス‥‥今夜は逃さないわよ」
その後、会話は途切れ、何やら物音が。
「これでまだるーちゃんがヘタレてるよ―だったら、こんごの『お給金』はげんぶつしきゅーだけにするの♪」
レンはそうつぶやくと、さっさとその場から立ち去った。
後は野となれ山となれ。