フェイクシティ4〜ロウズ家の家庭の事情

■シリーズシナリオ


担当:内藤明亜

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:05月23日〜05月28日

リプレイ公開日:2008年05月31日

●オープニング

●もう後戻りできない
 ルキナス・ブリュンデッドはウィンターフォルセ領主のプリンセスに仕える築城軍師である。ひょんなことから都市型訓練施設フェイクシティを建設する仕事を任され、王領ラシェットに出張してきた彼は毎日仕事で忙しい。現地を測量しては町の設計図を描き、必要となる物資の量や数を計算して値段を見積もり、町に呼び込む元領主と元家臣の名簿も作り上げる。
 だけどそこはナンパ軍師の性、名簿に載った名前は女性ばっかり。
 そのことで冒険者から文句をつけられ、ルキナスはしぶしぶ男性の名簿作りにも取り掛かったが、
「どうして野郎の面倒まで俺が見なきゃならないんだ?」
 思わず愚痴ると、傍にいた冒険者が耳打ちした。
「君は実に馬鹿だな。逆に考えるんだ、美人の妻子持ちを招けば良い──と」
 途端にルキナス、目を輝かせる。
「そうか、その手があったか!」
「ついでに騎士学院にも街の事を伝えてみては? 出資も増えるし、会う機会の少ない女教師、女学生とも! ‥‥代官一人主導だと不安だ」
「友よ、俺はやるぞ!」
 善は急げ。ルキナスは俄然、張り切りだした。
「美人の妻子持ち、美人の妻子持ち‥‥っと。ついでに美人の妹持ちとか美人の養女持ちとか当たってみても損はない!」
 手当たり次第に調べ回っていると、見つかった。格好の人物が。
「ラーキス・ロウズ、この男だ!」
 ラーキス・ロウズ23歳、旧ロウズ男爵一族の好男子だが、重要なのは下に2人の妹がいることだ。名前はシルリーナ・ロウズにエルリーネ・ロウズ、どちらも今が育ち盛り、ピチピチの美少女だとくればルキナスも放っておけるわけがない。
 しかもラーキスには婚約者がいる。ルミーナという平民の娘で親はパン屋をやっている。悪王エーガンの暴政下、平民に格下げされて町で働いていたラーキスをルミーナが見初めたのが、2人のお付き合いのそもそもの始まり。まだ親が認めた婚約ではないのだけれど、既に2人は将来を誓い合っているという。
「まだ美人の妻子持ち未満だが、俺にとっては全く問題ではないっ!」
 早速、関係者への根回しに動き出したルキナスだが、その直後にルキナスにとっての大事件が起きた。
「お願い、ルキナスさん‥‥いえ、ルキナス、今夜はずっと一緒にいて‥‥」
 一仕事終えた後、月明かりの差し込む寝室で共に酒を酌み交わしていた婚約者が、いきなり迫ってきたのだ。
「待ってくれ、まだ心の準備が‥‥」
 思わず言葉が口から出たが、今宵の彼女はあまりにも魅力的。もしかして魅了の魔法でも使ったのか?
(「いけない! このまま一緒にいたら、俺は二度と後戻りの出来ないところまで行ってしまう!」)
 ‥‥でも本当は一緒にいたい。だけどその誘惑を断ち切るようにして、ルキナスはその場から逃げようとしたが、淡い光の壁に邪魔された。冒険者で魔法も使える婚約者は、寝室のベッドの周囲にムーンフィールドを張り巡らしたのだ。
「ルキナス‥‥今夜は逃さないわよ」
 ルキナスが言葉を発する間もなく、婚約者の唇が強くルキナスの唇に押しつけられる。重なり合う肌と肌、吹きかかる彼女の吐息がとても甘く。
 ドキドキドキドキドキドキ‥‥。
 鼓動はどこまでも高まりゆき。
(「俺は‥‥俺は‥‥俺は‥‥‥‥ああ、もうダメだ」)
 そして、ついにルキナスの理性はぶっ飛んだ──。



























 ──気がつけば、すっかり夜が明けていた。
 ルキナスは朝の光を浴び、ベッドに座りこんでいる。
「ルキナスお兄ちゃん、ルキナスお兄ちゃん?」
 さっきから声をかけているのは、ルキナスがフェイクシティの見学に連れてきた8歳の少女アンジェ・ルアン。彼女は開けっ放しのドアから寝室に入り、魂の抜け殻のようになっているルキナスを見つけた。
「今日のルキナスお兄ちゃん、何だかヘンよ」
 ルキナスは放心したままアンジェを見つめ、情けない呟きをもらす。
「取り返しのつかないことを‥‥取り返しのつかないことを‥‥してしまったぁ‥‥」

●泥沼一直線
 しかしあの大事件から1週間も経つと、ルキナスは元の元気を取り戻す。流石は筋金入りのナンパ男。
「今日の予定は騎士学院での根回しだな。頑張ってくるぜ」
 かねてからの予定通り、騎士学院での根回しを終えた後、ルキナスは気がついた。騎士学院の隣には貴族女学院があることに。
「ついでだから貴族女学院にも街の事を伝えてみるか! 出資も増えるし、会う機会の少ない女教師や女学生だって、ずっと数が多いじゃないか!」
 騎士学院での根回しの数倍もの熱意をもって、ルキナスは貴族女学院での根回しを行った。結果、その熱意は見事に実を結んだ。
「フェイクシティ? 面白そうね!」
「行きのフロートシップは冒険者ギルドで手配してくれるのね!」
「友達をたくさん誘って見学に行くわ!」
「教師の私達も、街の見学を正規の授業に組み込みますわね」
 なんと女教師に女学生が大挙して、フェイクシティの見学に訪れることになったのである。
 ところが、ここで問題が起きた。
「ルキナスは私達に恥をかかせるつもりなのっ!?」
 ルキナスにくってかかるのは、同じく街の見学に誘った旧ロウズ男爵家のシルリーナ15歳。
「平民に格下げされて以来、ずっと貧乏だった私達には着ていくドレスなんか1着もないし、働きづめで礼儀作法だって学んでこなかったわ! 街だって未完成の荒れ地同然で見栄えが最低だし、これで貴族女学院の金持ち女生徒と一緒になったら私達、いい笑い者じゃないの!」
 その妹のエルリーネ・ロウズ12歳はずっと泣き通し。
「ルキナスお兄様、信じてたのに‥‥」
「そんな泣かないでくれ。困っちまうじゃないか」
 そんなルキナスにシルリーナがくってかかる。
「困っているのは私達の方よ!」
 だがうまいこと、ルキナスの頭の中に名案が閃いた。
「そうだ! フェイクシティからちょっと離れているけれど、悪代官フレーデンの元屋敷を見学コースに組み込むってのはどうだ? 金持ち悪代官が暮らしてた屋敷だから宮殿みたいに見栄えがいい。そこで歓迎の宴会を開くんだ。女学院からのゲストを迎えるホストは、君達のお兄さんであるラーキス君にやってもらおう。ドレスや礼儀作法のことは心配するな、冒険者が何とかしてくれる」
 シルリーナの手が、ルキナスの手をがしっとつかむ。
「信じてるわよ、ルキナス」
 ところが、このルキナスの独断先行に突っかかったのが、我等がヒロインのシェーリン・ラシェットである。
「もともとあのお屋敷は、あたしのお屋敷だったじゃないの! それを、あたしに断りもなく勝手に話を進めて!」
「信じてくれシェーリン、悪気は無かったんだ!」
「つまり、いつも言い訳してるように、これも人助けっていいたいわけよね?」
 ルキナスをにらみつけるシェーリンの目、マジでコワい。
「と、ところでシェーリン、今日の君の恰好はずいぶんと勇ましいな」
「でしょ?」
 シェーリン、口元だけで笑ってみせる。彼女はゴーレムライダーを着込んだ上からマントを羽織り、腰にはサンソード。恰好だけはどこから見ても立派な鎧騎士だ。正式にはまだ鎧騎士見習いなのだけれど。
「あたし決心したの。未来の領主を目指して、冒険者として修行を積むわ。あなたの婚約者からも支度金を頂いたことだし‥‥」
 シェーリンの顔が、ぐぐっとルキナスに迫る。
「これからは、あたしの好きなようにやらせてもらうわよ」

●今回の参加者

 ea2449 オルステッド・ブライオン(23歳・♂・ファイター・エルフ・フランク王国)
 ea4509 レン・ウィンドフェザー(13歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5876 ギルス・シャハウ(29歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea7463 ヴェガ・キュアノス(29歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 eb3770 麻津名 ゆかり(27歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb4097 時雨 蒼威(29歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4139 セオドラフ・ラングルス(33歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4270 ジャクリーン・ジーン・オーカー(28歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)

●サポート参加者

シルバー・ストーム(ea3651)/ 孫 美星(eb3771)/ 江 月麗(eb6905

●リプレイ本文

●退路なし
 ここは王都のフロートシップ発着所。
「この船に乗るの?」
「そう、この船さ」
「この船、空を飛ぶんでしょ?」
「そりゃフロートシップだから」
「落ちたりしないわよね?」
「平気、平気」
 ルキナスが話す相手は、ロウズ家の姉妹の姉シルリーナ15歳。
「本当に大丈夫なの?」
 姉の後ろから尋ねてきたのは、妹のエルリーネ12歳。
「そんな怖がらなくてもいいんだよ。いざとなったら俺が守ってやる」
 姉妹2人の手を取って船に乗り込むと、中で冒険者たちが待っていた。
「るーちゃんあいかわらずなのー」
 と、レン・ウィンドフェザー(ea4509)がルキナスの前に立ちはだかり、後ろからはヴェガ・キュアノス(ea7463)が、わんこ2匹を従えてがっちりと。
「ほほほ、ルキナスが引き返す事の出来ぬ道に足を踏み入れたのは、マルっとお見通しじゃ。これ以上やんちゃをするならば自慢の筋金を折り曲げてくれようかの?」
「引き返せないって‥‥」
 ルキナスが横を見ると、麻津名ゆかり(eb3770)がニコニコ微笑んでいる。
「ね、ルキナス」
「あ‥‥‥‥」
 ルキナス、口を半開きにしたままで言葉が出ない。
 ともあれ既成事実はできた。
 これからはじっくりと外堀を埋めていけ。
 選択の余地がなくなったら引導を引き渡すのみ。
 ‥‥と、プリンセス・レンは内心で思っていたりして。
「ルキナスさんはここアルか〜?」
 飛んでやって来たのは冒険者仲間のシフールで、しかも女性。
「学校の事なら任せてアル〜♪ これでもしふ学校作りは何度も頑張ったアル」
「ありがとう、君が力を貸してくれて俺はうれしいぞ。早速だけれど君の事を聞かせてくれるか?」
「名前は孫美星アル〜♪」
「なんて異国的な響きの名だ、俺は気に入った」
 それまでの様子から一転、ナンパと変わらぬ口調で話し始めたルキナスを横目で見ながら、オルステッド・ブライオン(ea2449)はげんなりしてぶつくさ独り言。
「出来てもいないフェイクシティに人を呼ぶとは。しかも女学院‥‥ルキナスは一体ナニを考えて生きているんだ‥‥?」
 ちなみに女学院からの見学者は4日後、冒険者ギルドの手配したフロートシップで現地にやって来る。

●コネ作り計画
「ルキナス殿の尻拭いと考えるとげんなりしてきますが、コネ作りの機会と前向きに考える事にいたしましょう」
 ということで、セオドラフ・ラングルス(eb4139)はフェイクシティの出資者、王領代官グーレング・ドルゴをフロートシップに招いて話を進める。
「フェイクシティ構想には『身分を失った元貴族の子弟に対する教育』という目的もありますが、騎士や貴族になるための教育をフェイクシティだけで行うのは困難と思われます。ならば天界で言う『予備校』のごとく、フェイクシティである程度の教育をした後、騎士学院や貴族女学院に進ませる、あるいは騎士の従者や貴族のメイドとして奉公に出て実地で学ぶ、というのが妥当なところでしょう」
「つまり今回の貴族女学院の見学も、コネ作りの機会として有効利用するということだな?」
「はい。騎士学院・貴族女学院やその生徒とのコネは、進学にも奉公先を探す際にも有効でしょうし」
「コネ作りといえば、こういう手も使えるな」
 セオドラフの意見を聞き、グーレングは閃きを得たようだ。
「フェイクシティを貴族女学院にとっての実習の場にするのだ。近年、カオスの魔物の跳梁跋扈が著しく、貴族の子女が狙われる危険も増えた。なれば魔物から身を守る訓練を、フェイクシティで実施するのもよい」
「成る程、その手もありましたか」
「貴公の意見には感謝する。私も実現の方向で進めよう」
「あともう1つ。教師や奉公先に心当たりがあれば教えて欲しいのですが」
「教師ならば、私の元に身を寄せている元貴族がいる。試しにその者に任せてみるか。奉公先については、我が領地で働くという選択もあるぞ」

●ゴーレム訓練
「誰でも始めは多くの失敗をします。大事なのは失敗を決して繰り返さない事、決してくじけない事ですよ」
「そうね。20や30の失敗なんかでくじけてなんかいられないわ」
 ゆかりがシェーリンを励ますうちに、一行の乗る船はフェイクシティの建設予定地に到着。
「建物はまだ何もないけど、ゴーレム訓練の場所ならいくらでもあるからな」
 とかルキナスも言いながら、始まったのがゴーレム訓練。指導役はジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)が務める。
「基礎的な事では操縦での疲労と、自分の活動限界を意識する事が大事ですわね。戦闘中に意識を失えば大変な事になりますから。まあ、私も初陣では戦闘後に意識を失ってしまったのであまり偉そうな事は言えませんけどね‥‥」
 鎧騎士を目指す8歳のアンジェは今回も見学に来ている。ジャクリーンの指導下、アンジェとシェーリンはバガンに乗り、ペアを組んで訓練していたが、そのうちにシェーリンが言い出した。
「そろそろゴーレム使って本格的な格闘訓練をやってみない? これから先、強力なモンスターだって現れるかもしれないし」
「分かったわ。アンジェ、がんばる」
 実はジャクリーン、格闘はあまり得意でなかったりするが。
「でも、試しにやってみるのもいいでしょう」
 シェーリンとアンジェ、両者のバガンが向かい合う。
「さあ、本気でかかってきていいわよ!」
「アンジェ、行きますっ!」
 どっ! どっ! どっ! どっ!
「‥‥えっ!?」
 ダッシュをかけたアンジェのバガンが、シェーリンのバガンに体当たり。
 どがぁん!! 派手な衝突音と共に、シェーリンのバガンが跳ね飛ばされた。
「大丈夫ですか!?」
 ジャクリーンが駆け寄ると、シェーリンのバガンがゆっくり起きあがる。
「凄いわ、あの子」

●政治指導者
 ゴーレム訓練が終わると、時雨蒼威(eb4097)がシェーリンに尋ねてきた。
「政治指導が出来る人間って、ロウズ家にいなかったか?」
「‥‥さあ、知らないわ」
「何だ、君はそんな事も知らないのか?」
 蒼威の物言いにシェーリン、カチンとくる。
「何よその言い方」
 だけど蒼威は相変わらずの調子で続けた。
「真面目な話‥‥君の容姿は魅力的だが、俺にも守るべきシグの所領と人々と猫々がいるわけで、無能者や不遜な人間を妻として迎え入れる気は無い。ま、将来、他に男が見つかるかも知れんがね」
「‥‥‥‥」
「あと‥‥色々と思う所があるかもしれんが、家族に手紙くらいは出せよ。壊れた物は直すのは至難だ、某所みたく手遅れとかだと笑えん」
「手紙‥‥ねぇ」
 シェーリン、目線が空を向いている。
「それからシェーリンにはラシェット領での初仕事をやってもらいたい。町を整備する人員の募集、それに悪代官の犠牲者を悼む慰霊碑の建立と、葬儀への出席だ」
「‥‥分かったわ」
 で、蒼威の質問の答だが、ルキナスに誘われた見学者のセリーシア・レビンが知っていた。
「先王エーガン陛下によって平民に格下げされた元領主一族の、その後の生き方には2種類あるの。1つは平民の身分を甘んじて受け入れ、平民に入り交じって働く生き方。もう1つはエーガン陛下に反旗を翻し、謀反人として生きる生き方。レビン一族もロウズ一族も、後の道を選んだ者が多かったから、これまでフオロの有力者達からは危険視されてきたわ」
「ずいぶんと詳しいんだな」
「私だって元・貴族令嬢よ。平民になってからは代書屋やりながら色々調べてきたし」
「それで適任者に心当たりは?」
「無くはないけれど、ロウズ一族から町の政治指導に関わる人間が出てくれば、出資者のグーレング氏が何か言ってきそうよ」

●計画変更
 フェイクシティに学校が付け加えられることになり、ルキナスも計画変更を迫られて仕事が増えた。ところがルキナス、文句を言うどころかなおさら張り切っている。
「女学院とのコネ作り! 女生徒とのコネ作り! 俺は超・燃えてきたぜ!!」
「座学やミーティングに使う校舎が必要だな?」
「そうだ校舎だ!」
「室内戦闘用の屋敷も必要だろ? 特に室内戦闘は、アネット男爵の立て篭もり事件やロメル領戦とかあったし」
「そうだ屋敷だ!」
 蒼威がアドバイスするそばから、新しい図面が描き起こされていく。
 ジャクリーンからも意見が出た。
「勿論ゴーレムもですが、チャリオットやグライダーを駆る者としては市街戦で、これらの機器を用いた場合に守り易く、また攻め難い構造を模索していきたいですわね」
 その言葉にルキナスはしきりにうなづき、
「その通りだ! 今後はゴーレムの運用を前提としての防御態勢を築いていかなければ!」
 するとオルステッドが口をはさんだ。
「忘れていたことがあるだろう?」
「何だ?」
「我々ジ・アース人やアトランティス人はそもそも、都市型訓練施設たるフェイクシティが何か全く知らない。時雨さんは天界人だが、根っからの武人と言うわけではない。つまりフェイクシティが何なのか知っている人間がいない‥‥。そこで、かつてテロリストと激しい戦いを繰り広げた天界の武人、ゲリー・ブラウンさんを講師として招聘するのはどうか?」
「そのゲリーとやらに美人の関係者はいるのか?」
「エブリー・クラストという女性が一緒だ」
「ならば問題なし! エブリーちゃんと一緒に招聘するぞ!」
 すると、図面引きの手伝いをしていたギルス・シャハウ(ea5876)が言う。
「教会関係もお忘れなく。以前、フォルセの翻訳作業作業の時に話を通した司祭様にも会ってきましたが、町に作る教会については母なるセーラ神に相応しい御堂をご所望されていましたよ」
「母なるセーラ‥‥やっぱり美人なんだろうな?」
「ルキナスさん?」
「いや、何でもない何でもない」

●ナンパじゃない名簿作り
 同じ頃、ヴェガとシェーリンはフェイクシティの住人名簿を作っていたりする。
「ほれ、ルキナスのは『何故か』美女の縁者が居る者に限られて居るし、ひじょーに偏っておるからのぅ」
「ええと、資料は‥‥」
 シェーリンが探す間もなく、
「これが、エーロン陛下に帰郷を許された元領主・元家臣のリストです」
 代書屋経験者のセリーシアが、さっと資料を差し出した。
「あなた、用意がいいわね」
「こういう仕事には慣れてますの」
「このうち、今はこの近場で仕事している人もいるのよね。蒼威から頼まれた仕事もあるし、ついでに挨拶回りもしておかなくちゃ」

●二人だけの夜
 その夜の仕事を終えてルキナスが寝室に入ると、中でゆかりが待っていた。
「ルキナスったら‥‥ホントにほっとけないヒトね。でもね、あたしはそんなあなたが好きよ」
 ふわりと抱きつくと、耳元でルキナスの声。
「ゆかり、俺だってゆかりのことが大好きさ」
 でもゆかりは、ルキナスをそっと押し止め。
「その、アレとかはこれからは少し控え目に、ね」
 自分の下腹をそっとさすると、これまでとは何か違って思える。‥‥気のせいだろうか?
「ねぇ、此処の教会が出来たら一緒に式を挙げましょうよ」
「‥‥そうだな。教会が出来たら‥‥一緒にな」
 2人してベッドに横たわり、ゆかりがルキナスの目を見ると、その目は少年の目のようでどこか遠くを見ているような‥‥。

●遺骨の埋葬
 さてその翌日。
「蒼威は歓迎会には出ないのか?」
「俺は忙しいからな。‥‥あ、ルキナス〜。ゆかりが酢の物とか欲しいそうだ‥‥良かったな」
「‥‥は!?」
 一瞬、硬直したルキナスを後目に、蒼威はシェーリンや仲間たちと共に仕事に赴く。ラシェット領内に埋まっている死体を探す仕事である。前々から死体の魔物化が気になっていたことでもある。仲間たちと相談し、人間の死体は手厚く埋葬して慰霊碑を建て、恐獣の死体ならば魔物化できぬよう徹底的に粉砕することに決まった。
「あたしは旧領主家の娘、シェーリンよ。みんなに協力して欲しいことがあるの」
 シェーリンが挨拶して回ると、ラシェット領の地元民も警備兵たちも喜んで協力してくれた。元領主家の娘という肩書きは大いに物を言う。
 レンとギルスとヴェガ、それぞれのペット犬の嗅覚を頼りに死体を探すと、出るわ出るわあちこちから人骨が。悪代官フレーデンに殺害された者達のなれの果てだ。魔物化した者がいなかったのは不幸中の幸いにも思えたが、デッドコマンドの魔法で身元を確かめようとしたギルスは、大勢の死者の無念の叫びを聞く羽目になった。
(「助けて」)
(「命だけは」)
(「お母ちゃん」)
(「苦しい」)
(「無念」)
 集められた遺骨は石棺に収められる。地元民が協力して土で形を作り、それをレンのストーン魔法で石化した石棺だ。遺骨を収めた石棺が埋められると、その上に小さな慰霊碑が建てられた。
「二度と悪政がこの地に蔓延る事が無いよう、この慰霊碑を戒めとしよう」
 蒼威は仲間たちと共に死者の冥福を祈り、そして東の方を見やる。
「恐竜の遺体や魔物の問題はどこから来るか、大本はどこかだが‥‥あそこだよなあ‥‥」
 東の先にあるのはドーン伯爵領だ。
「この地もまだ、もうひと騒動ありそうだ‥‥」
 なお蒼威が懸念していた恐獣の死体は、ラシェット領内からは見つからなかった。

●歓迎会
 ここは悪代官フレーデンの旧邸。ロウズ家の姉妹はセオドラフから踊りと礼儀作法の特訓を受けている。
「時間もありませんので、厳しく参りますよ。まずは顎を引き、頭の上に板を乗せ、板を落とさぬようまっすぐ歩く訓練から」
「まるで軽業師の見世物ね」
 ぶつぶつ言いながらもシルリーナは訓練を始めたが、すぐに失敗。エルリーネも失敗して泣きそうな顔。
「気にしない気にしない! 次に成功すればいいのよ!」
 端で見ていたシェーリンが声援を送り、2人は何度も何度も練習を続け、気がつけば夕方。
「最後になったけど、着付けの練習もしないと。そうそう、シェーリンさんにこれを差し上げます」
 ゆかりからの贈り物は『豪奢なシルクのマント』。
「私もドレスを幾つか持って来ましたが、お気に召すものはあるでしょうか?」
 ジャクリーンも姉妹にドレスを示すが、姉妹はどこか浮かぬ顔。
「気持ちはよう分かるぞ。わしも戦で一切を失うたからの」
 ヴェガの言葉に、姉妹ははっとしてその視線を向けた。
「女学院の御嬢様陣に対し、コンプレックスを感じるのは至極当然の事。じゃが笑われたり、同情されるのは望む所ではあるまい? さて、どのドレスを選ぶかの?」
 姉妹は、はにかみながらもドレスに手を伸ばし、ヴェガは着付けを手伝いつつ話しかける。
「いついかなる時も『笑顔』が大事じゃぞ」
「はい」
 姉妹はようやく笑顔を見せた。
「それで、お2人にお願いが」
 と、ゆかり。
「学校に関してはロウズご兄妹に生徒のまとめ役や、最初の生徒会役員になって頂きたく‥‥あ、お返事は後でいいですから考えてみて下さい」

 その翌日は歓迎会の日。
 結論から言うと、歓迎会は成功した。
 だがその後、まさかルキナスにあんな災難が降りかかろうとは‥‥。