フェイクシティ５〜ルキナスの災難
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■シリーズシナリオ担当：内藤明亜 対応レベル：8〜14ｌｖ 難易度：普通 成功報酬：4 G 98 C 参加人数：8人 サポート参加人数：-人 冒険期間：07月13日〜07月18日 リプレイ公開日：2008年07月22日 |
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●オープニング
●歓迎会は大成功かつて、王領ラシェットは悪代官フレーデンが支配する土地だった。悪代官は領民から税を搾り取り賦役でこき使いながら、自分だけは贅沢三昧にふけっていた。
まさに絵に描いたような悪代官である。
だがそのフレーデンも、元・子爵令嬢シェーリン・ラシェットと築城軍師ルキナス・ブリュンデッドそして冒険者諸氏の活躍によって討伐され、ここに王領ラシェットの復興は本格的に始まった。
シェーリンには王領代官グーレング・ドルゴという強力な支援者がついている。そのグーレングによって進められているのが、ラシェット領の南の土地に都市型訓練施設を建設するというフェイクシティ計画だ。
築城軍師ルキナスもまたフェイクシティ計画を熱烈推進する１人。
「学校だ！ お屋敷だ！ 女生徒だ！ この３つがそろえばフェイクシティは完璧だ！」
その熱意によって計画はどんどんふくらみ、フェイクシティには学校そして室内戦闘訓練用の屋敷が作られることになった。将来的にはここに貴族女学院の生徒達が送り込まれ、カオスの魔物との戦いを想定した訓練が行われることになる。
その将来のためのコネ作りの一環として、かつての悪代官フレーデンの屋敷を舞台に、大挙してフェイクシティの見学に訪れた貴族女学院の生徒達の、歓迎会が行われた。
それが、およそ１ヶ月前の話だ。
この歓迎会は、悪王エーガンによって平民に格下げされた、ロウズ家の姉妹とその兄ラーキスにとっては、貴族界への復帰に向けての最初の一歩。そもそもこの歓迎会を計画し、姉妹とその兄を呼んだのはルキナスなのだ。
「ご令嬢の皆様、王領ラシェットにようこそ！」
歓迎会のホストを務めるのはラーキスで、その晴れやかな礼服姿にシルリーナはもう惚れ惚れ。
「ああ、お兄様‥‥。私達はこの日を待っていたのよ」
シルリーナとその妹のエルリーネも着飾ったドレス姿。長らく着てこなかったドレスは冒険者からの借り物だけれど。
そしてダンスタイムがやってきた。
「さあ、いよいよ私達の出番よ。まずは顎を引いて‥‥」
この時のために冒険者の指導の元、姉妹は特訓を続けてきたのだ。
２人で優雅にお辞儀すると、シルリーナとエルリーネは軽やかな音楽に合わせて踊り始める。パートナーを務めるのは冒険者。最初のうちは割とうまくいっていた。
ところが‥‥。
「あっ！」
ステップが狂った。動きが音楽とズレてくる。焦るとますます動きがぎこちなくなる。
「どうしよう‥‥」
周りの女生徒達も、みんな自分を見てくすくす笑っているようで。
「そんなガチガチになることないわよ！ 楽しく踊れればそれでいいのよ！」
それまでのパートナーに代わり、シェーリンがシルリーナの手を取った。
「場末の酒場で覚えたダンス、あたしが教えてあげるわよ！」
音楽がアップテンポに変わる。のっけからシェーリン、飛ばしている。
「だめ、ついてけない」
「頭で考えるんじゃないの！ 動きを体で感じるの！」
荒っぽいダンス。決して上品とは言えないけれど、シルリーナは踊るうちにその迫力に飲み込まれ、それまで静かに踊っていた女生徒達も、誰もが踊る２人に注目している。
「すごいわね‥‥」
踊り終えると盛大な拍手喝采。２人で一礼した後、シェーリンがシルリーナに声をかける。
「また一曲、踊ってみたいわね」
「まるで曲芸師にでもなった気分。でも、気持ちよかったわ」
シルリーナはにっこり笑った。
●ルキナス刺される
さてその後日。フェイクシティにて本格的な工事が始まった。
「だんだん、いそがしくなってきたのー。とゆーか、るーちゃん。そのうちぜったい、だれかにさされるとおもうのー」
とかウィンターフォルセ領主のプリンセスは言っているけれど、とりあえずルキナスは現場監督をしっかり務めている。
「まずは訓練用のお屋敷だ。ここが町の重要拠点になるからな」
周りでは大勢の人夫が働いているが、その中にはラシェット領の治安維持を担うルーケイ水上兵団から派遣された、ゴロツキ達も混じっている。更生を目的とした奉仕活動ということで働いているのだ。
「おや、あれは‥‥」
ゴロツキの中の１人がルキナスの目に留まる。
一見すると男の子。年は１０歳に満たなそう。汚れたボロ服を着て、髪はボサボサ。
だけど、ルキナスにはピンときた。
「そこの君、顔をよく見せてくれるかい？」
話しかけると、子どもは恐い目でルキナスをにらみつける。その顔をルキナスもまじまじと見つめ、
「そうか、やっぱり」
男の子に見えた子ども、実は女の子だった。
「ちょっとこの子を借りるぞ」
周りの人夫に声をかけると、ルキナスはその子の手を引いて、離れた場所へ連れ出した。
「しばらく２人で話をしないか？ まずは君のその服を着替えなくちゃな。そんなボロ服は君に似合わない‥‥」
ぐさっ！
「‥‥あ？」
腹に走る鋭い痛み。ボタボタと滴り落ちる生暖かい物は何だ？
「君‥‥まさか‥‥」
全身から力が抜ける。ルキナスはぶっ倒れた。
●裁判
隠し持っていた凶器でルキナスを刺した女の子の名はキーダ。
「で、これはあくまでもキーダの過剰防衛だと言いたいのか？」
裁判官を務める王領代官グーレング・ドルゴの前で、ルキナスは神妙に答える。
「はい。俺が彼女に対して、身の危険を感じさせる振る舞いに出てしまったことは、完全に俺の手落ちです」
「つまりキーダは、人目につかぬ場所につれて行かれて、君に良からぬことをされると誤解したということか？」
「はい」
「念のために聞くが、君にそのつもりはあったのか？」
問われて、ルキナスはムキになる。
「俺が彼女に対して、そんな非道いことするわけないじゃないか！ 俺はあくまでも彼女に優しくしてあげたくて‥‥」
グーレングはその発言を手振りで制し、判決を言い渡す。
「罰として奉仕活動。奉仕内容についてはルキナスに一任する」
●シェーリンの忠告
「で、軍師殿ルキナスは名誉の負傷を負ったというわけ？」
シェーリンは呆れていた。
「運が悪ければ殺されてたわよ」
幸いにして傷は急所を外れていたが。
「それで、キーダをどうするつもり？」
「今、俺もそれを考えているんだが。育ちが育ちだけにな」
荒みきった育ち方をしたキーダは、決して他人に心を許さない。
「でも、いざとなったらナンパ男を刺してでも自分を守ろうとする覚悟だけは、見上げたものだわ」
と、シェーリン。
「戦闘力を鍛えたら、立派な戦士になれるかもしれないわ。今度の依頼で一緒に連れていこうかしら？」
「おいシェーリン、本気なのか！？」
「あたしは本気よ。ちょうど近場でモンスター退治をやろうと思っていたところなのよ。廃村とか森の中にゴブリンとか、巣くっていそうじゃない？ それにゴーレムの実地訓練にもなるから丁度いいわ。ところで話は変わるけど‥‥」
シェーリンの顔がぐっと近づく。
「婚約者、妊娠させたんですってね？」
「げっ‥‥」
ルキナスの顔から血の気が引く。
「どうしてそれを‥‥」
「とっくに噂になってるわよ。それで準備は出来てるんでしょうね。お腹で子どもが大きくなれば、婚約者だって冒険には行けなくなるわよ。その面倒は見るわよね？ それに出産の準備と赤ちゃん育てる準備。あ、その前に結婚式の準備があるか」
その言葉を聞きながら、ルキナスはぼそっとつぶやく。
「まだ、できちゃったと決まったわけじゃないんだ」
●今回の参加者
ea4509 レン・ウィンドフェザー（13歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国）ea5513 アリシア・ルクレチア（22歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国）
ea5876 ギルス・シャハウ（29歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国）
ea7463 ヴェガ・キュアノス（29歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国）
eb3770 麻津名 ゆかり（27歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン）
eb4097 時雨 蒼威（29歳・♂・天界人・人間・天界（地球））
eb4139 セオドラフ・ラングルス（33歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス）
eb4270 ジャクリーン・ジーン・オーカー（28歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス）
●リプレイ本文
●身柄引き渡し要求ルキナスの主人、ウィンターフォルセ領主レン・ウィンドフェザー（ea4509）はかく語りき。
「るーちゃん、やっぱりさされちゃったのー。これでほんのちょっとでもくいあらためる‥‥わけないのが、るーちゃんたるゆえんなのー」
のっけから言われまくりのルキナスだが、その殊勝な態度は認めよう。だが領主のレンとしては、傷害事件をなあなあで終わらせる訳にはいかない。そこでフェイクシティの実質的な統治者である王領代官グーレングに犯人の引渡しを要求した。
とはいえ必要以上に事を荒立てる必要はない。レンは穏当な形での引き渡しを提案する。すなわち自分がキーダの後見人となり、キーダにはフォルセの館でレンの御側付きとして働いてもらうと。
「しかしレン殿、折角の提案ではあるが‥‥」
と、グーレングは難色を示す。
「じんせいをやりなおすきかいをあげたいのー。としがちかいから、はなしあいてにもいいとおもうのー」
「いや正直に申し上げて、かの者は粗暴にして野卑。仮にもエーロン陛下の義理の妹君たるレン殿を、傷害沙汰の危険に晒す訳にはいかぬではないか」
話をすすめる間にも、グーレングお付きの侍女がジェトの高級紅茶や、やはり高級品であるハチミツたっぷりのお菓子をレンに振舞う。
グーレングは侍女の１人の名を呼んで呼び寄せた。その侍女、年はレンと同じくらい。
「話し相手をご所望とあらば、レン殿にふさわしい者を選んで遣わすが」
侍女はペコリと頭を下げる。
「レン様。不束な私ではありますが、ぜひともお役に立てさせて下さい」
何だかこの王領代官、あの手この手でレンを篭絡しようとしているような。
「もういちどかんがえてほしいのー」
なおもレンが主張すると、グーレングは暫し考えた後にこう言った。
「ならばしばらくの間、キーダをルキナス預かりとして様子を見てはどうかね？ キーダをフォルセの館に迎えるのは、フェイクシティにて必要な訓練を行ってからでも遅くはあるまい？」
今のところ、それがグーレングも納得するやり方のようだ。
●意地の張り合い
時雨蒼威（eb4097）はキーダをモンスター退治に連れていくことに反対だった。それでシェーリンと言い合いになる。
「これって、元の生活に戻るのが嫌なら戦場で殺し合いして来い、てことだぞ？」
「だから何よ？ どん底の掃き溜めで朽ち果てるか、戦場で殺し合ってのし上がるか、どっちか選べって言われたら、あたしは殺し合いを選ぶわよ」
「あのな‥‥。シェーリンももう少しで娼館行きだったろう？ 少女一人でそんな生活に戻るか、貴族の庇護で働くかと言われたら後者選ぶしか無いだろう？ それに戦場ではちょっとしたミスで人は死ぬんだ、簡単に殺し合いに行かせるとか言うな！」
「ちょっとミスで死なないように守るのが、あたし達の役目じゃないの！」
言い合っているところへやって来たのがルキナス。
「おいおい２人して口喧嘩は‥‥」
すると蒼威は厳しい目線をルキナスに向ける。
「ルキナス‥‥見損なったぞ」
「は？」
「女性の心を物で釣ろうとするとは‥‥父親になるんだろう？」
「キーダのことを言ってるのか？」
「そうだ。彼女に‥‥子供に一番、必要なのは物ではない。‥‥愛だろ愛！」
「そうだキーダに必要なのは愛だ！ だけど、キーダがどんな姿をしていたか、分かって言っているのか！？ 女の子にあんな惨めでみすぼらしい恰好させておくなど、俺の理性とプライドが許さん！ 俺は愛する者のあんな姿を絶対に見たくない！」
ああ言えばこう言い返す。するとルキナスの背後から声がかかった。
「ルキナス、もうやめましょう」
後ろに立っていたのは、婚約者の麻津名ゆかり（eb3770）だった。
●おめでた
仰向けに寝てみると、おなかの中に少し丸い張りが感じられる。
月のものは、もうずっと前から止まっている。
「おめでとう御座います。ご懐妊確定ですわね」
入浴後、ゆかりの体を確かめてアリシア・ルクレチア（ea5513）はにっこり。
「もう身重なのだから活動的な依頼、戦闘依頼なんかは参加できませんわね。出産後ともなれば育児にかかりきりになりますわ」
「そうね。大変なのはこれから‥‥」
「でも大丈夫ですわ。支えてくれる人は沢山いるのだし。それにしても、ルキナスさんはまたも女の子に手を出したんですってね」
「はぁ‥‥」
「‥‥でも、英雄色を好むと言うし、精力的な活動家なルキナスさんは頼もしい方ですわ。‥‥私の夫ときたら、朴念仁だからいつまでたってもうだつの上がらないいち傭兵のままなんですわ」
ちなみにアリシアの夫は、聖山シーハリオンでの冒険に出かけている最中だとか。
で、ゆかりの夫となるべきルキナスは、ヴェガ・キュアノス（ea7463）からみっちりと言い聞かされている。ルキナスには父親になる覚悟をしっかり決めてもらわねば。
「些細な事が母子共に危険が及ぶきっかけにもなる。おぬしにはそれを守り、支えてやる義務があるのじゃ」
かれこれ約１時間、お説教された後でルキナスは、
「俺、ちゃんとした父親になれるんだろうか？」
つぶやきながら寝室に向かうと、ゆかりが待っていた。
「ルキナス、怪我はもう大丈夫なの？」
「大丈夫さ。ほら、この通り」
ルキナスは服をめくって体を見せてやる。キーダに刺された傷は、ヴェガの治癒魔法のお陰で完全に癒えていた。
「良かった‥‥。ねぇ、話があるんだけど‥‥」
「何だよ、言ってみなよ」
共にベッドに座りながら、ゆかりはルキナスに話しかける。
「プリンセス・レンやシェーリンさんとかグーレング卿に、生まれてくるあたしたちの子の後見人を願うのはどうかしら？」
「後見人か‥‥。プリンセスは俺の主人だから当然として‥‥。グーレング卿は俺の雇い主だし、シェーリンも俺の同僚みたいなもんだし‥‥まあ、いいんじゃないのか？」
「それじゃ、後でお願いしてみるけど‥‥。あたし‥‥ちゃんとしたお母さんになれるかな‥‥？」
ゆかりを励ますように、ルキナスは明るい声を出した。
「そりゃなれるさ、この俺だって父親になれるんだから」
●キーダ
王都とフェイクシティの間を往復するフロートシップは、冒険者達にとって現地における住処の役目も果たしている。街の建設現場のすぐ近くに着陸した船の中で、皆は休息したり食事したりお風呂に入ったり眠ったり。船の中には生活に必要なもの全てがそろっている。
その船にキーダが連れて来られた。両手を縄で縛られ、両脇を警備兵にがっちり固められて。
「凶暴なガキです。決して油断なさらずに」
警備兵からキーダを預かると、
「まずは縄を解いてあげましょうね」
シフールのクレリック、ギルス・シャハウ（ea5876）はキーダの縛めを解いてやると、いきなりこう言った。
「よくやりました、あのエロ軍師にはいい薬になったことでしょ〜」
「！？！？！？」
キーダはぽかんとした顔。人を刺して叱られるどころか、まさか誉められるとは。
「ただ彼の場合は、本当に女の子にはかわいくあって欲しいだけで、他意はありません。そのことだけは僕が神に誓って保証します。彼もいきなりで驚かせてしまったと反省し、あなたを心配していますので、どうか許してあげてくださいね〜」
「男は大嫌い」
キーダは恐い顔になってボソッと言う。
「実は僕も男なんですよ」
ギルスの言葉を聞いて、
「ほんと？」
いきなりキーダはギルスの服をめくり、男かどうか確かめようとした。
「こらこら、いけませんよ〜」
ギルスは羽ばたいて、さっとキーダの手を避ける。
「あと、今あなたの前を幸運が通過しています。それらがあなたのこれまでの人生を精算して釣り合うものかどうかは分かりません。でも、あなたには提案を選択し掴む権利があります。できればあなたが御自身にとって最良の選択をされますように」
そう言ってギルスは十字を切った。
でもキーダを見ると、初対面の冒険者達を警戒している素振り。
「大丈夫、此処にあなたを傷つけようとするヒトはいないよ」
ゆかりはしゃがみ込み、キーダに目線を合わせて言い聞かせると、『エチゴヤのももだんご』を差し出した。
「お腹、空いてない？」
するとキーダは団子をひっつかみ、さっと物陰に駆け込んで、まるで自分の獲物を奪われまいとする動物のように、ガツガツと団子にかじりつく。
思わず、ゆかりの口からため息。でも気を取り直して言葉をかける。
「お風呂に入って、服も着替えなきゃ」
キーダの服はボロ服だし、汚れきっていてとても臭うし。ゆかりはキーダの手を引いて風呂場に連れて行く。
「ゆかり、俺も手伝おうか」
後からついていこうとしたルキナスの顔の前に、ギルスが立ちふさがる。
「あなたには自分の仕事があるでしょ〜」
すると風呂場からゆかりの悲鳴。
「痛ぁ！」
どたどたどた！ 半分、裸の姿でキーダが駆けてきた。風呂に入るのを嫌がって、ゆかりの手に噛みついて逃げて来たのだ。
「あ、キーダ‥‥」
思わず点になったルキナスの目をギルスが塞ぐ。
「男のあなたは見てはいけませんよ〜」
ヴェガの連れてきた柴犬のゴンスケがキーダを追いかける。
「来るな！ 来るな！」
キーダとゴンスケの戦闘が始まっている。キーダは殴る蹴る殴る蹴る。でもゴンスケは熊狩りをサポートできる程に賢い柴犬なので、巧みに攻撃をやり過ごしてキーダをその場に釘付けにする。
そうこうするうちにヴェガがやって来て、メンタルリカバーの魔法をキーダにかけた。
ゴンスケは畏まってキーダの前に座っている。主人のヴェガの意図を理解し、大人しくしているのだ。心から恐怖心の消えたキーダは、じっとしているゴンスケを不思議そうに見つめている。
「賢い犬じゃろ？」
ヴェガが優しく言葉をかけた。
「どれ、わしが手伝うてやろうか」
ヴェガはにこって笑ってキーダを風呂場に連れて行き、後の仕事をゆかりに任せた。
「こら、大丈夫だから暴れないの。あはは、そ、そんなトコ触らないで」
一緒にお風呂に入って体を洗い、風呂から上がってキーダの身だしなみを整えると、もう夕ご飯の時間。キーダはボロ服からちゃんとした女の子の服に着替えたけれど、何だ窮屈そうで。
ご飯の後で『幸せに香る桜餅』を与え、ゆかりはキーダに話しかけた。
「学校へ行かない？ それとも治療院で働いてみる気はない？」
キーダは沈黙したまま。そもそも学校や治療院がどういう場所なのか、理解できていないのだ。
「そうそう、これを返さねばな」
ヴェガがキーダに手渡したのは、警備兵に没収されていたキーダのナイフだ。今、そのナイフには綺麗な革製の鞘が付けられている。
「‥‥但し、治療院は清潔第一。血に汚れた刃物はみだりに抜いてはならぬ。約束じゃぞ。それと、これはお守りじゃ」
ヴェガは十字架のネックレスを、キーダの首に掛けてやった。
●モンスター退治
グーレング卿は教師を派遣する約束をしたけれど、その者が来るまでは自分が令嬢達の教師役を務めようとセオドラフ・ラングルス（eb4139）は考えた。
「フェイクシティ構想を成功させるには、企画だけでなく、ある程度は実績も示さねばなりますまい。となれば、やはり元貴族の令嬢達に一人前になっていただく事が、何よりも分かりやすい実績となりましょう」
近場でのモンスター退治も、ルキナスの呼び集めた令嬢達にとっては大切な教育の機会だ。シェーリンとアンジェにはゴーレムを任せ、残りの令嬢達には近くで見学してもらう。
但し、キーダはお留守番だ。
「場所が廃村や森ですから、武器はゴーレム斧が良いでしょう。ゴブリンなどが森に逃げ込まぬよう、地形を考えて動く必要もありますな」
近場にはゴブリンの潜んでいそうな廃村が幾つもある。
最初に冒険者達でお手本を見せる。セオドラフはバガンに乗り、ジャクリーン・ジーン・オーカー（eb4270）は軍馬に乗って射撃手を務める。アリシアはスクロール魔法を担当。ギルスは空から偵察したが、デティクトアンデットの魔法で魔物は感知できなかった。
ゆかりから借りたブレスセンサーのスクロールで、アリシアが廃村を探ると、いるいるゴブリンが５匹もいる。
「では参ります」
討伐戦が始まった。セオドラフのバガンが廃村に近づくや、それに気づいたゴブリンどもがどっと逃げ出した。だが逃走はお見通し。逃げた先に待ち構えていたジャクリーンが矢を放ち、アリシアもマグナブローのスクロール魔法で攻撃。やがて追い付いたセオドラフのバガンが、足止め食らったゴブリンどもに斧を振り下ろす。
ものの３分も経たずにゴブリンの群れは壊滅した。見事な連携攻撃だ。
「では、次なる廃村に向かいましょう」
次はシェーリンとアンジェのバガンが前衛を担う。ジャクリーンは２人に言い聞かせる。
「御二人共、今までの訓練を思い出してくれぐれも御無理はなさらない様にして下さいね」
「さっさと片付けちゃいましょう」
足早に先行するシェーリン。アンジェも出遅れまいと歩を早める。
「待って！ まだ偵察が終わってないわ！」
慌ててアリシアが探知魔法を放つ。
「気をつけて！ 茂みの中にゴブリンが！」
村の手前、茂みの中にゴブリンの群れがいた。そいつらはバガンの接近に気づき、一斉に飛び出した。だが、冒険者達の布陣がまだ整っていない。
「きゃあ！」
見学の令嬢達が悲鳴を上げる。ゴブリンの１匹が武器を振り上げて突進して来るではないか。
「アンジェ！ 行きますーっ！！」
アンジェが叫ぶや、その操縦するバガンが一気に動く。
「おおっ！」
セオドラフは目を丸くする。アンジェのバガンが大きく跳んだ。
どおおおん！！
ぐしゃっ！！
着地の衝撃と共に、バガンがゴブリンを押し潰した。だが不幸なことに、それは令嬢達のすぐ目の前。バガンの巨体は令嬢達から２ｍと離れていない。怒った令嬢の１人が怒鳴る。
「あなた、私達まで殺す気なの！？」
「ごめんなさい、そんなつもりじゃ‥‥」
●ルキナス大忙し
その後も、ゆかりは地球人のゲリーとエブリーを呼んで打ち合わせ、ついでに１００Ｇを寄付したり書類仕事をしたり。ギルスは王都の教会に出向いて司祭と話し合い、蒼威は令嬢セリーシアとの相談、ジャクリーンとアリシアはフェイクシティについての提案と、仕事は盛りだくさんだ。それこそ１つの報告書には収まりきらないくらいに。
そしてルキナスは、主人のレンからとんでもない仕事を押しつけられた。
「‥‥は！？ 来月か、再来月の始めまでにフェイクシティに教会を建てろと！？」
「じょせいをきずものにしたいじょう、せきにんはとってもらうのー。あまりひをあけすぎると、たいけいにあうどれすがないし、しきのあいだずっとたたせておくのも、おなかのこどもにわるいのー。しんろうのとうぼうはげんきんなのー」
ルキナス、ついに年貢の納め時か。
