フェイクシティ6〜九月のおめでた
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■シリーズシナリオ
担当:内藤明亜
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月09日〜09月14日
リプレイ公開日:2008年09月21日
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●オープニング
●師匠が夢枕に
ウィルは狙われている!
次々と出没する魔物、謎のフロートシップによる侵入事件、ますます不穏さを増すハンとの国境地帯。これら一連の動きを見るに、あたかも大いなる悪しき力がウィルを飲み込み始めているかのよう。
だがウィルの国王臣民とて、手をこまねいて眺めているわけではない。ここ王領ラシェットの南端、大河の畔では都市型訓練施設フェイクシティの建設が着々と進む。これはエーロン王による東部王領復興事業の一環。完成すればこの町は、市街におけるゴーレム戦や対カオス戦の戦闘訓練を行う場となり、また荒廃した東部諸領の復興に必要な職人達を要請する場ともなる。
そして街建設の責任者に選ばれたウィンターフォルセの築城軍師ルキナス・ブリュンデッドは、今日も夜遅くまで町の設計図と向き合い‥‥。
「グー‥‥グー‥‥」
あれ、設計図を描きかけで、いつの間にか椅子に座ったまま眠ってしまった。
「こらあっ! ルキナス!」
老人の怒声にギクッとして、ばっちり目が覚めた。
「‥‥うわっ! お師匠、ごめんなさい!」
思わず声の主に平謝り。でも顔を上げると‥‥あれ、誰もいない?
「‥‥なんだ、夢か。いけね、仕事中についつい居眠りしちまった。最近、色々あって疲れてるからなぁ‥‥」
それにしても夢枕で師匠に怒鳴られるなんて、何ヶ月いや何年ぶりだろう? まだ駆け出しの地図絵師だったルキナスに、作図術や築城術をみっちり叩き込んだ師匠である。が、その師匠も今はこの世の人ではない。今頃は空の向こうにあるとかいう精霊界から、出来の悪い弟子の行く末を見守っているのかもしれないが。
「まったく、おまえは何年経っても不甲斐ない。心配なので戻ってきたぞ」
そんな師匠の声が心の中に響いたような気が‥‥。いや、気のせいだ。まだ寝ぼけた頭が夢の世界から抜けきっていないに決まっている。
ルキナスは頭の中をすっきりさせるように頭を振ると、再びペンをしっかり握って仕事の続きに取りかかる。
●指導役職
王都からフェイクシティ建設現場への移動に使われるフロートシップは、冒険者達の宿泊施設も兼ねている。ルキナスが仕事をしている部屋からすぐ近くの別室では、セリーシア嬢が男爵位持ちの冒険者と相談中だ。
「今後、君に事務とかも任せていいかね? ルキナス一人だと負担もあるわ、やる事なす事偏るわ、刺されるわ」
「そうね‥‥」
セリーシアは部屋の天井を見上げ、物憂げに答える。
「事務関係は引き受けるけど‥‥。問題は今のフェイクシティ計画が、人望のある中心人物を欠いていることよ。シェーリンはあまりにも経験不足だし、ルキナスは偏りが激しすぎるし、王領代官のグーレング氏は真面目に仕事しているように見えて、その実なかなか本音を表に出さないし‥‥」
「同感だ。今のフェイクシティには、皆をまとめる指導役職が必要だ。それについてはフオロ王家への反発の大きかったレビン家やロウズ家の者を採用すれば、国全体の叛意を削ぐきっかけにもなるだろう? 国王も分国王も代替わりした。このまま危険視して燻らせて置く方が問題かもしれん」
「ラーキス・ロウズはどう?」
ラーキス・ロウズは旧ロウズ男爵一族の男子で、下には2人の妹がいて、婚約者は平民の娘だ。ルキナスに呼ばれて町の建設計画に参加しているが、ルキナスにとっては妹と婚約者とのお付き合いが目当てのようで。でもラーキスだって、5月に開かれた貴族女学院ご一行様の歓迎会では、立派にホスト役を務めている。
「ラーキスは23歳と年は若いけれど、関係者の中では最も指導職に適任だと私は見たわ。グーレング氏に推挙するなら紹介状を書いていただけるかしら?」
「ラーキスか‥‥考えておこう」
●教会完成
そして9月がやって来た。
フェイクシティには教会が建った。
ルキナスの主人であるウィンターフォルセ領主が、9月の初めまでに建てろと厳命した教会だ。石と木材と煉瓦で作られた2階建てで、大きさは王都の教会とほぼ同じ。1ヶ月という短期間で完成させたにしては、粗がなく丁寧な仕上がりになっている。
これもフロートシップという輸送手段を最大限に活用し、必要な物資や人員を遠方から次々と移送することで、短期間のうちに集中的な作業を行ったからだ。
「見事な出来映えだな、ルキナス」
教会建設の一部始終を見守っていたフェイクシティ建設のスポンサー、王領代官グーレング・ドルゴもご満悦。ルキナスもついつい調子に乗って、
「この築城軍師ルキナスの手にかかれば、教会の一つや二つ建てるのも造作ないことです」
グーレングがじろりとルキナスを睨んだ。
「だが、君の独力で建てたのではなかろう?」
「ええ‥‥その‥‥麗しき冒険者達の願ってもないお力添えがありましたし‥‥」
「そして何よりも、この私が全面的に協力しなければ、君は今頃プリンセスの前で頭を抱えていたはずだ。違うかね?」
ルキナスは代官に聞こえぬよう、口の中でこっそりと呟いた。
「あ〜自慢したいのはごもっともだけど‥‥」
「で、次の建設計画はどうなっている?」
聞かれたルキナス、今度は大きな声で。
「次はお屋敷型戦闘訓練施設と、それに付随した宿泊施設の建設を」
「では建設を急げ。君は女性関係で色々と抱え込んでいるようだが、それを理由に遅れることは許さんぞ」
代官は命令口調で言葉を下し、最後に少しだけ微笑んでみせる。
「それから9月に行われる君達の結婚式には、この私も参列させてもらおう」
ルキナスの婚約者は、今や妊娠5ヶ月目。
●指導者に立候補
きっちり整えられた礼服、ピカピカに磨かれた靴、髪もきれいにとかされている。鏡に写った姿は完璧。
「これで、よし」
若きラーキス・ロウズは気合い入りまくり。セリーシア嬢からフェイクシティの指導役の話を持ちかけられるや、この機会を待っていたとばかりに飛び付いたのだ。
「では冒険者との交渉のため、冒険者ギルドに行ってくる」
「頑張ってね。でも、あまり肩に力を入れ過ぎないように」
「ああ‥‥こうか」
肩の辺りをぐるぐる回して力を抜くと、ラーキスは堂々とした足取りで歩き始めた。
「フェイクシティには立派な指導者が必要なんだ。それがいないというのなら、僕が指導者に立候補する。遊び人崩れのふしだら女やナンパ野郎をこれ以上のさばらせてたまるか! 大切な妹達の為にも‥‥おっと、肩に力が入り過ぎた」
ラーキス、再び肩の辺りをぐるぐる。
●礼儀作法の指南役
その頃、冒険者ギルドでは。
「アルバーク・セバンと申します。王領代官グーレング殿のお計らいにより、礼儀作法の教官としてフェイクシティに赴くことになりました」
事務員に礼儀正しく挨拶したその初老の男は、続いて傍らに控える妙齢の女性を紹介する。
「こちらはエリーデ・ルード嬢。私のアシスト役を務めさせて頂きます」
優雅なドレスに身を包んだエリーデ嬢、スカートの端をつまんでやはり礼儀正しくご挨拶。
その姿は見るからに深窓の貴族令嬢で、思わず事務員は尋ねた。
「もしや、どこぞの高貴な御身分のお方で?」
するとアルバークは声をひそめ、事務員の耳に囁く。
「ここだけの話ですが、実はさる没落貴族のご令嬢でして」
「‥‥ああ、そうでしたか」
実は冒険者から、フェイクシティに礼儀作法の指南役を派遣して欲しいという要請があった。2人はその求めに応じてやって来たのである。
●リプレイ本文
●ルミーナのパン屋
しばらく依頼を離れていたオルステッド・ブライオン(ea2449)だが、久々に戻ってみると話が色々と進んでいる。
「教会が完成したのか。ふむ、ルキナスさんの子もすくすくと育っているようで、真に結構」
視線の先は麻津名ゆかり(eb3770)のお腹。
「もうこんなに育ったのか‥‥」
お腹の膨らみを見てルキナスがつぶやく。
「結婚式、急がないとウェディングドレスが着れなくなる」
「でも、ゆったりしたドレスでお腹を隠せば、大丈夫よね」
と、ゆかり。
彼ら冒険者の一行は、結婚式に向けた司祭との打ち合わせのため、王都の教会に行くところだ。
でもその前に立ち寄るところがある。それは下町のとあるパン屋。
「いらっしゃーい!」
店番の小さな女の子のニコニコ顔を見るや、誰よりも早くルキナスが飛び出した。
「俺はルキナス。ちょっと話をしないか? ここで君と会えたのも‥‥」
「ルキナスさん!」
ルキナスを後ろへずるずる引っ張ると、ゆかりは店番の子に尋ねる。
「ルミーナさんの働いているお店はここですよね?」
「うん、そうよ」
用向きを伝えてルミーナを呼んでもらう。現れたルミーナはふっくらした感じの娘で、いかにも下町育ち。
「私に、何か‥‥」
「ルミーナ、俺と一緒にどこか2人で‥‥」
「もう、ルキナスさんったら!」
相変わらずのルキナスを再びゆかりは引き戻し、オルステッドは呆れて一言。
「女癖の悪さは直っておらんか」
ゆかりはルミーナに話しかけた。
「ラーキスさんとの話を聞きました。私達はラーキスさんとの恋を応援しています」
「‥‥え!?」
ルミーナは呆気にとられた。
●新しい教会
ここはフェイクシティ。完成した教会の前にルキナスと、主人のレン・ウィンドフェザー(ea4509)がいる。
「るーちゃん、ごくろーさまなのー。みんなのきょーりょくや、だいかんさんのえんじょもたしかにだいじだけど、るーちゃんがちゃんとかんとくしてなかったら、まだかんせーしてなかったのー。いーこいーこなのー♪」
レンはルキナスの頭を撫で撫で。
「光栄の極みであります、プリンセス」
「‥‥ところで、るーちゃん? ねんのため、けっこんしきのしんろーがわのしょーたいきゃくが、おんなのひとばっかりにならないよーに、リストを『検閲』させてもらうのー」
「け、検閲!?」
ルキナスの顔色が変わる。
「だって、けっこんしきそーそー『刃傷沙汰』はごめんなのー♪」
教会の門にはボーダーコリー犬が2匹。番犬のように見張っているから『一見さんお断り』状態だ。そのうち入り口には専用の犬小屋が出来たりして。
犬の飼い主であるギルス・シャハウ(ea5876)は、教会の中で説教をしている。たった1人の参拝者、仲間の連れてきた女の子のキーダを相手に。
「母なるセーラの慈愛は大海の如く広く深く‥‥」
延々と続くお話はありがたくも眠たくて、いつの間にかキーダはうつらうつら。
おや? 外で犬が吠えている。誰か来たのだろうか?
ギルスが外へ出てみると、ラーキスがいた。
「この犬達に頼んで、中へ入れてくれるか?」
「どうぞどうぞ、大歓迎ですよ〜」
ラーキスを中に入れ、ギルスは説教を再開。眠そうなキーダとは対照的に、ラーキスは生真面目な顔で聞いていた。
説教が終わるとギルスはラーキスに尋ねてみる。
「神様のことに興味をお持ちですか?」
「別世界の守り主たる大精霊ともなれば興味も湧く。それに、新しく造られた建物の様子も知っておきたい」
「もしも悩み事とかあれば、お気軽にご相談ください」
「やはり一番の悩みはあのナンパ男‥‥失礼、ルキナスの結婚式のことだ。この教会の恥とならねばよいが」
「大丈夫、ベテランの冒険者がついてますからね〜」
「結婚式は無事に執り行えるだろうか?」
「勿論です。王都の教会での打ち合わせも、しっかり済ませましたからね〜。ルミーナさんも招待しておきましたよ〜」
「え!? ルミーナに‥‥!?」
驚くラーキス、後の言葉が続かない。
●現場のお仕事
教会を皮切りに町の建設は本格化。工事現場では大勢の人夫達が働き始め、人夫頭の怒鳴り声がひっきりなしに響く。
「きりきり働きやがれ、へなちょこどもが!」
人使いはずいぶんと荒っぽい。
「おい、あれを見ろよ!」
「うわっ、何だありゃ!?」
人夫達が騒ぎ始めた。工事現場にどでかいゴーレムのバガンが3体もやって来るじゃないか。
「訓練のため、ここで使わせていただくわね」
先頭のバガンに乗ったジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)に呼びかけられ、人夫頭は目を白黒。
「ゴーレムで工事をするのかよ!」
後に続くバガンにはシェーリンとアンジェ。8歳のアンジェが声を張り上げる。
「心配しないで下さい! 気をつけて動かします!」
でも人夫達は顔を見合わせる。
「あれは子どもの声じゃねぇか!」
「子どもがゴーレムを動かしてるのかぁ!?」
工事現場での訓練はジャクリーンが考えついたことだ。通常の模擬戦等とは違い、建設作業の手伝いでは周囲に対してより注意を払う必要があるので、力加減や細かな動きを身に着ける良い練習になる。加えて工事が捗るという利点もある。
「では始めましょう」
重たい土台石や丸太がバガンで運ばれていく。その有様を人夫達はおっかなびっくりの様子でながめている。
突然、騒ぎが起きた。
「この野郎! ぶっ殺してやる!」
喧嘩だ。些細な口論がエスカレートして人夫同士が殴りあいを始めている。
「何やってるのよ!」
シェーリンのバガンが駆け出した。
どぉん! どぉん! どぉん!
丸太を担いだまま足音響かせ、喧嘩している人夫達の目の前で走って来ると、丸太で思いっきり地面をどついた。
どぉぉぉん!!
「いい加減にしなさいよ!」
「ひぃぃ‥‥!」
人夫達は真っ青。でもその中にあって、顔色も変えずただ呆れている男が1人。
「おいシェーリン、やりすぎだぞ」
それはこっそり人夫の中に混じって働いていた、オラース・カノーヴァ(ea3486)だ。
●助言
「あのな、ゴーレムはれっきとした兵器で、人殺しも出来る戦争の道具なんだからな。軽々しく使うもんじゃない」
「脅しただけで、人殺しまでやるつもりはわよ」
「だけど人夫達の怖がりようを見てみろ。力に物を言わせてばかりでは、信頼はされねぇぞ。ゴーレムから見下ろしてばかりじゃなく、もっと生身の人間の目線を大切にしな」
シェーリンへのお説教が終わると、オラースは重要な話を持ち出す。
「さて本題だ。俺は領地の外部監査制度を、ラシェット領領主代行マリーネ姫に提案しようと考えてるところだ」
「外部監査制度?」
「ドーン領の当主に提案したアレだ」
オラースの言う外部監査制度は、信用のおける外部の者を雇って領地の状況を監査し、領地の抱える問題の解決を促す制度だ。そのことをオラースは大まかに説明する。
「ただし、提案するかどうかはシェーリンの気持ち次第だ。シェーリンとしてはどうなんだ?」
「う〜ん‥‥政治のことは苦手だし‥‥」
シェーリン、考え込んでいる。
「まあいい、後で答を聞かせてくれ。ところで蒼威たぁうまくいってんの?」
はぁ、とシェーリンはため息。
「なんだかギクシャクしているのよね。向こうの期待が大きすぎるのかしら?」
さて、その日の夕食の席にて。一同が集まったところでセオドラフ・ラングルス(eb4139)がシェーリンに助言する。領主を目指す者にとって最も大切なこと、すなわち領地の法について。
「領地の法を定める事は、領主としての権利であり義務です。領主たらんと欲するなら、まず領地をどのように発展させたいのかイメージする事ですな。法とはそれを実現するための道具ですから」
「う〜ん‥‥」
「もしイメージが湧かないのなら、ラシェットだけでなく他所の領地を見てみるのも良いかもしれませぬ。他領の良い所を真似してはならぬ道理はありませぬので。今なら、ラント領やウィンターフォルセの現領主に見学をお願いする事も難しくないと存じますが」
フォルセの領主レンは、目の前で一緒に食事している。
「それじゃ‥‥」
だがシェーリンが言いかけるや、同席していたラーキスが真っ先にレンに願い出た。
「畏れながら、もしも許されるならこのラーキスに領地見学の機会を。決してプリンセスを失望させません」
見るからにラーキスの方が勉強熱心だ。
「おいラーキス、本気か?」
声をかけるルキナス。その視線とラーキスの視線がぶつかり合う。
「僕は本気だ」
すると、デザートを食べながらレンが言う。
「えーとねー、らーちゃんがるーちゃんを『反面教師』にしてがんばろーとするのは、それはそれでいーの。でも、なにからなにまで、るーちゃんのぎゃくにするひつよーはないの。むかしから『清らか過ぎる泉に魚は住まない』ってゆーよーに、らーちゃんがただしいとおもったことが、かならずみんなにうけいれられるとはかぎらないのー。るーちゃんはるーちゃんなりにいーこともやってるから、らーちゃんはちゃんとそれをみてあげて、じぶんにたりないところをおぎなえばいーとおもうのー」
言われて顔を見合わせる2人に、レンはもう一言。
「ふたりとも、おたがいに『切磋琢磨』なのー♪」
食事の後、シェーリンは何だか気まずそう。ゆかりはシェーリンに声をかけた。
「あの、シェーリンさんに頼みがあります」
「私に頼みって‥‥」
「ラーキスさんとルミーナさんの恋の後押しを」
「え!?」
言われてシェーリン、ぽかんとした表情。
「後押しったって‥‥」
「あなたも時雨さんのハートを射止めるにはこれからが勝負、心技体と磨きをかけて頑張りましょう」
「‥‥そうね、頑張らなきゃ」
「それから愚痴や弱音や不満は、なるべく臣下やあたしたちだけに言う方がいいと思います。あと、決断だけは決して他人任せにしちゃ駄目ですよ」
●朝の教会で
翌朝。ヴェガ・キュアノス(ea7463)が教会で祈りを捧げていると、ラーキスが現れた。
「神に感謝を」
挨拶を交わし、2人して祈りを捧げたその後でちょっと立ち話。話題は自然とルキナスのことになる。
「まあ確かに女子には良い顔をしたがりではあるが、所帯を持てば落ち着くであろ。それに、これまでの働きぶりはおぬしも知っておろう。シェーリンとあやつが居らねばフェイクシティも土台すら出来なんだ」
「おっしゃる通り。ルキナスの築城軍師としての才能は僕も認めます。でもシェーリンにはもっと努力して欲しい」
「おぬしに指導者役の声が掛かったのは、彼らと共に力を合わせフェイクシティを導いてゆける人材ゆえ」
「全力を尽くします」
生真面目な顔でヴェガに一礼し、ラーキスが立ち去ろうとすると‥‥ゆかりが後ろに立っていた。
「あの、お話が‥‥」
「僕に何か?」
「シェーリンさんをよろしく頼みます。身分に拘らずルミーナさんを愛されているあなただからこそ、シェーリンさんを領主にする困難に打ち勝てると思うのです」
「え!?」
ルミーナの名前が出た途端、ラーキスはぽかんと口を開きっ放し。
「ルミーナさんが貴族夫人になりたいかはさておき、彼女の名誉を決して辱められる事が無いよう励むべきです」
「も、勿論です。ルミーナの為にも、僕は‥‥頑張らねば!」
真面目くさってゆかりに一礼し、ラーキスは去って行った。
●王領代官との会食
ここは王都の高級レストラン。王領代官グーレングの行き着けの店だ。その一室ではオルステッド、オラース、セオドラフの3人が、グーレングと会食している。3人の冒険者には、酒の席で代官から話を聞きだそうという目論見があった。
「早い話が、儲け話に一口乗らせてほしいということさ」
と、オラース。
「フェイクシティが完成しても終わりじゃないぜ。維持するにも費用がいる。フェイクシティでどうやって収入を得る? それとも他に見返りが?」
「献上品の美酒に免じて、聞かせてやろう」
オラースの献上品、ロイヤル・ヌーヴォーを味わいながら代官は答える。
「フェイクシティは大河の畔にあり、しかもラシェット領への出入り口に位置する交通の要所だ。東部王領が復興し交通が盛んになれば、その通行料だけでも莫大な収益が見込める。費用のことを心配するには及ばん」
「なるほど、そういう事だったのかい」
小声でつぶやくオラース。
「だが、それだけですかな?」
と、セオドラフがカマをかける。
「いずれは築城軍師を使って一夜城でもお考えですかな? 何処にお建てになるつもりかは存じませぬが、閣下なら『その時』がくれば教えていただけると信じておりますよ」
グーレングがニヤリと笑った。
「確かに今はまだ『その時』ではない。だが、今は北方の動きに注意を払うがよい。遠からず『その時』は来る」
ウィルの北方には、不穏な情勢下にあるハンの国がある。
●再会
代官との会食の後、オルステッドは王都でゲリーとエブリーに再会。フェイクシティに戻ると3人で建設現場を見て回る。
「教会の次はついに屋内戦闘訓練施設、フェイクシティの本命が登場だ。だが、結婚式の来賓接待を考えると、宿泊施設を先に建てたほうが合理的だな。そろそろフロートシップ暮らしから地に足の着いた拠点が欲しい」
その意見は後でルキナスに伝えておくとして。
「だが今は、屋内戦闘訓練施設の計画を練っておくとしよう。騎士らしい野戦じゃない分、我々戦士のノウハウが生かせるはずだ。まずは、地球での戦闘訓練施設の概要を教えて欲しい」
オルステッドに求められ、ゲリーは説明を始める。
「そもそも戦闘訓練施設では、卑劣な敵との戦いが想定されている。物陰から不意打ちしたり、罪もない市民を人質に取ったりと、およそ騎士らしからぬ敵との戦い方を訓練することが、施設の目的なんだ。カオスの勢いが増すアトランティスでも今後、そういう戦いが増えるはずだ」
その頃、ヴェガはペットの柴犬のゴンスケを連れて、キーダの世話をしていた。警戒心の強いキーダも、ヴェガやゴンスケと一緒の時は楽しそうだ。そんな姿は普通の子どもと変わらないのだが‥‥。
●エリーデの過去
「エリーデさんのことで何か知りませんか?」
「エリーデ? 何だか懐かしい名前だな。エリーデ、エリーデ‥‥」
ギルスに頼まれ、自分の記憶を探っていたルキナスだったが。
「あっ!」
いきなり叫んだ。
「どうしました?」
「‥‥いや、何でもない。エリーデという女性に心当たりは無いな」
本当か!? ルキナス、何か隠してるぞ。
一方、セオドラフは王都のサロンで情報収集。
「それで、彼女にはもう会われましたかな?」
「見たところ、好感の持てる淑女でしたが」
セオドラフの言葉を聞いて、話し相手はぷっと吹き出す。
「ああ‥‥淑女ね。そう言えば昔、似たような名前の貴族令嬢の話を聞きましたな。落ちぶれた挙句、貴族相手の高級娼婦に身を落としたという‥‥」
またとんでもない話だ。