希望の村2〜水霊祭で船遊び
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■シリーズシナリオ
担当:内藤明亜
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:5
参加人数:10人
サポート参加人数:2人
冒険期間:08月28日〜09月02日
リプレイ公開日:2008年09月15日
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●オープニング
●初めての竜精祭
かつては貧民村と呼ばれていたホープ村。村は活気がなく、人々の心は荒みきっていた。でも冒険者の領主が村を治めるようになってから、村は次第に元気になり、人々の表情は明るくなった。
そして今日はお祭りの日。ホープ村で初めて祝う『竜精祭』の日だ。
村の広場は村人達で埋まり、みんな祭の始まりを今か今かと待っている。やがて広場に設けられた大きな舞台の上に、村の領主が現れた。
「共に祝おう、竜祭祭を。村に住む者も村を訪れし者も、共に喜びを分かち合おう」
領主が祭の始まりを告げるや、村の男衆がぞろぞろと姿を現す。みんなして、えいやえいやと引っ張ってきたのは、馬車の上に大きな黒竜のハリボテをこしらえた山車。この日の為に冒険者と村人が力を合わせて作ったのだ。
ところが、この山車があまりにも大きすぎた。
「おい、前に進めねぇぞ!」
「道が狭すぎらぁ!」
男衆と山車は舞台の前を練り歩く予定だったのに、舞台のすぐそばまで人で埋まって山車が進めない。
「舞台をもっと後ろへずらして、場所を広く空けるんだ!」
男衆の前で音頭を取っていた冒険者が大声を張り上げた。
「せーの!」
男衆は舞台の前で横並びになると、舞台をぐいぐい押して退ける。見ていた村人達も大勢が加勢に加わり、ようやく十分な広さの場所ができた。
「さぁ、祭りだ! 楽しもうぜ! さぁ飲め食え歌え踊れー!!」
山車は右へ行ったり左へ行ったりぐるっと回転したり。人々の喝采を誘う。山車の周りでは祭に呼ばれたシフール達が、宙を飛んだり跳ねたり鈴を鳴らしたりで、祭を盛り上げる。
特等席ではベージェル・ワザン男爵とメルート・シェレン男爵が、領主と共に祭見物を楽しんでいた。ワザン男爵は南の隣領の領主で、かつての村の所有者。シェレン男爵は東の隣領の領主だ。
特等席だけあって、客人の男爵2人には特製の長椅子が用意されているが、これは冒険者のお手製だったりする。
「これが、かつての貧民村だとは信じられん」
「短い間にこれほど村を活気づかせるとは。領主のお手並み、見事なものだ」
2人して祭の盛り上がりぶりを褒めていたが、そのうちにワザン男爵が領主に声をかけてきた。
「ところで領主殿、何かお忘れでないかね?」
男爵が視線で示す方を見れば、数名の商人達が離れた場所に立ち、領主から声がかかるのを待っていた。
「勿論、心得ておりますわ」
領主は席を離れ、商人達に歩み寄るとにっこり微笑む。
「ようこそ、我が村の『竜精祭』へ」
商人達も極上の微笑みでこれに答えた。
「領主様に竜と精霊の祝福を。いや大変な盛り上がり様ですな」
ホープ村の領主を有望なお得意先と見込み、わざわざ祭に出向いてきた商人達だが、祭の盛り上がりは彼らを大いに満足させていた。
この領主と取引して損はない。貧民村をここまで立て直した領主なら、これから先もきっとうまくやる。商人達はみんなそう思っていた。
「今後とも、何とぞご贔屓のほどを」
「私の方こそ、よろしくね」
領主にとっても、商人達とのコネは大切である。
●風車
さて、祭が終わったその翌日。
「う〜ん‥‥やっぱり水車小屋の建設は難しいか」
呟いたのは冒険者。これからのホープ村には水車小屋も必要だろうと、村のあちこちを歩いて調べてみたが、もとからここは川の無い土地だ。小川さえもなく、あるのは井戸とため池だが、ため池の水を引く用水路では水車を回すのに必要な水流を十分に得られない。
「さて、どうするか‥‥」
辺りの景色を眺めているうちに、ふと思いつく。
「水車がだめなら風車はどうだろう?」
風車ならアトランティスの技術力でも作れないことはない。だけど、動力として十分な風を得る為には、かなり大きな施設を作らなければならない。
「大きさは、最低でも二階建ての家くらいになるかなぁ?」
●収穫祭の月のツケ払い
ホープ村の畑では、春に撒いた小麦がすくすくと育っている。
だけど領主にとっての農業指南役、農業の経験豊かなレーガー卿の目からすると、状況はあまりよろしくない。
「小麦を撒いたのは初めて開墾した土地に、これまでずっと放置されていた農地だ。地力がないから、収穫は村人の自給分ぎりぎりかそれ以下だろう。10月の収穫祭の頃になれば隣の領主からツケの支払いの催促があるはずだが‥‥」
収穫祭のある10月は、領主が村を治めるようになってからちょうど1年。だから1年のツケを支払うことになる。
「それについては、こんな感じね」
領主は見積書を示す。
「まず、村人への食料と物資の支援が1年間で3000G、警備兵の雇い料が同じく1年間で300G。それと商人から購入した家畜の代金が300Gね」
ちなみに村の家畜は現在、牛が3匹に馬が2匹にロバが1匹、それと鶏が10羽ほどだ。
レーガー卿は言う。
「収穫祭の頃になれば、若い家畜が大量に出回るから買い時だ。多くは冬に備えて肉用に回されるが、今のうちにカブの種を畑に撒いて育てれば、その収穫で家畜にも冬を乗り切らせることができる。それと以前にハーブ園の話が出たが、村をこれからどのように発展させるかも、そろそろ決めておいた方がいいだろう」
●今度の祭は水霊祭
時は流れ、今は8月。3人も村長がいるホープ村だが、村長達は次の祭の相談を始める。
「アトランティスの8月といえば『水霊祭』の季節じゃな。水を称える祭じゃから、川や湖など水場に近いあちこちの村では、船遊びなどが行われるのじゃ」
と、老村長ジェフ・ゼーロ。だけど女村長のマリジア・カルルは困り顔。
「そんなこと言ったって、ホープ村には川も湖も無いじゃないか。あるのはため池だけだしさ」
「なら、ため池に小船を浮かべて‥‥」
「ため池に小船、ねぇ‥‥」
出るのはため息。先月は雨の多い月だっから、ため池の水はたっぷりあるけれど。
「なんだか、さまにならないねぇ」
すると、歌うたい村長のキラルが言う。
「ねえ、こういうのはどうだろう? ほら、お隣のワザン領は大河に面しているじゃない? 領主様のお許しが出れば、ワザン男爵に頼んでもらって、ホープ村からみんなしてワザン領に出かけて船遊びが出来るんじゃない?」
「うむ、それはいい考えじゃ」
さっそく村長達は村人達を集め、意見を聞いてみる。
「そりゃいい考えには違いないけど‥‥」
「ワザン男爵領か‥‥あそこの船遊びはさぞかし豪勢だろうなぁ‥‥」
村人達は今ひとつ、乗り気になれない様子。だってホープ村も昔と比べれば豊かになったが、裕福なワザン男爵領と比べたら天と地の差がある。
「俺達の村の方が何かと気楽だし」
「ワザンの殿様のとこにお出かけして、不始末をしでかしたらうちらの領主様に恥かかせることになるし」
「でも‥‥やっぱり船遊びやるならため池じゃなくて、川でやりたいよなぁ‥‥」
あれこれ話し合った末に、誰かが言った。
「やっぱりここは領主様と、冒険者の皆様に決めてもらおうよ」
その言葉に誰もが賛成し、結局そういうことになった。
●リプレイ本文
●劇をやろう
冒険者達は水霊祭をホープ村でやることに決めた。主会場は溜め池、出し物はレースと劇だ。
「それで、ニルナさんが劇で水精霊の役を?」
それは村人達にとっても、ちょっとした驚き。
「私もこの村の一員、それに祭りは皆で盛り上げるものですしね。皆で協力し合わねばなりません」
ニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)はそう言って、リーサとルシーナにも誘いをかける。
「貴方達もきっと素敵な水精霊になれますよ。一緒にやりませんか? キラルも見たいんじゃないかなと思いますし」
「え‥‥?」
「でも‥‥」
もじもじしている2人にキラルも一押し。
「やろうよやろうよ! 試しに衣装を着てみない?」
劇に使う衣装は冒険者達が1日がかりで作ってくれた。リーサとルシーナはそれを着てみたけれど。
「‥‥どう?」
「似合ってるかしら?」
どうも表情がすっきりしない。
「うーん‥‥衣装の素材に難ありなんだよな」
と、キラル。冒険者仲間がはりきって作ったのはいいけれど、ホープ村に衣装工房があるわけでもなし。手に入った素材は古いカーテンやら古いテーブルクロスやら、間に合わせのものばかり。さて、どうしよう?
「ルシーナ! ルシーナ!」
名前を呼びながらどっと現れたのは村の子ども達。連れて来たのはお祭りの合唱担当のチカ・ニシムラ(ea1128)だけど、チカはあと1人ひっぱり込むつもり。
「ルシーナちゃんも一緒にお歌歌うにゃ♪ 皆で練習して皆で歌えばきっと楽しいにゃ〜♪」
ルシーナは子ども達にかっさらわれるように村の広場へ連れて行かれ、そこで合唱の練習が始まる。
「今回も皆で歌って踊るにゃ〜♪ 前より上手くなって皆を驚かせるにゃ!」
さあみんなで歌うぞ、せーの!
●風車
ホープ村の近くには、村を望める小高い丘がある。空魔紅貴(eb3033)の見立てでは、そこが風車を建設するのに最も適した場所だ。
「ここなら村に近いし、農地に風車の影も被らない」
「風車は一度にたくさん作らずに、試験運用をしながら徐々に増やしてはどうじゃ? その方が村人達も使い方を学び易いし、失敗した時も対処をしやすいかと思うのじゃ」
これはユラヴィカ・クドゥス(ea1704)の意見。領主のクレア・クリストファ(ea0941)もそれは同じだ。
「これを見て」
と、クレアは皆の前に風車の設計図を広げる。ゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)が描いてくれたものだ。
「最初に3基の風車を3角形に配置。これは速成で1基ずつ建設するわ。その後で3角形の中央に、村の名物になるような堅牢なものを1基ね」
早速、クレアはゾーラクを連れて、大工ギルドとの交渉に王都へ出かける。村のことやレーガー卿との相談は紅貴に任せた。
「悪いね、噂だと良い感じらしいが当人じゃなくて」
笑いながら言った後、紅貴は農業指南役のレーガー卿と一緒に村の畑を見回りながら話を続けた。
「来年の話になるが、ここでアブラナや胡麻などを栽培できないか? 土が痩せてるのは分かっているし、場も合わんのも知ってるんだが‥‥」
「確かに痩せた土地だが、アブラナは荒地でも育つ作物だ。それに種から油を搾り取った残りの油粕は肥料になる」
と、レーガー卿。
「しかし胡麻は、ウィルの土地に合うじゃろうか?」
ユラヴィカが言うのを聞いてレーガー卿は答える。
「胡麻はウィルでは一般的な作物ではないし、やはり最初は種の手に入りやすいアブラナがいい。来年とは言わず、この秋からでも種を蒔いてはどうだね?」
●王都にて
訪れた大工ギルドで、クレアは大工の親方を紹介された。
「ふむ‥‥」
親方はゾーラクの描いた設計図にじっくりと目を通し、こう言った。
「図面自体は良く描けておるが、色々と細かい手直しが必要じゃな」
「見積もりについてはどうかしら?」
クレアが問うと、親方はにんまり。
「下は1Gから上は1万G、じゃが村の名物になる程の立派な風車にするなら、最低でも1千Gの出費は覚悟して頂こうかの。工期もそれだけ長くなるぞ。詳しい話は現場を見てからじゃな」
続いてクレアは船大工ギルドへ向かう。水霊祭のイベントに使うボートを入手するためだ。
「ほう、ため池でボートレースを。出来合いのボートなら色々とございますが。して、ため池の広さは如何ほどで? ‥‥え、そりゃ狭いなぁ」
注文を受けた事務員は考え込む。ホープ村のため池はそう広くはない。ボートを並べたらぎゅうぎゅうだし、向こう岸まであっという間に着いてしまう。
「困りましたなぁ‥‥。おっと、いい考えが浮かびましたぞ」
事務員はクレアの耳に何やらひそひそ。
●溜め池にケルピー
ホープ村の溜め池に馬がいる。池の周りでは村人達がぞろぞろ見物。
「ありゃ誰の馬だい?」
「迷い馬かもよ」
「ちょっと見て! あの馬‥‥足に水かきが!」
「何だってぇ!?」
気がつくや、村人達は顔色を変えて騒ぎ出した。
「水かきのある馬ってことは、ケルピー様でねぇか!」
「子どもを溜め池に近づけるな! 水の中に引きずりこまれるぞ!」
精霊信仰の盛んなアトランティスでも、ケルピーは悪意ある水の精霊として人々に恐れられている。
そこへやって来たのが、王都から馬車で戻って来た領主クレア。
「これは何の騒ぎ?」
「領主様! 溜め池にケルピー様が!」
「ケルピー? ああ、あのケルピーなら大丈夫よ」
クレアはケルピーに向かって叫ぶ。
「ディアッカ、そこにいるわね!」
すると、ケルピーのたてがみの陰に隠れていたディアッカ・ディアボロス(ea5597)が顔を出した。
「大丈夫です。目を離したりしません」
ケルピーはディアッカのペット。たまには羽を伸ばさせてやろうと村へ連れてきたのだ。ケルピーの手綱を操って村人達に近づくと、ディアッカは村人達に弁明する。
「心配いりません。手綱をケルピーの首に掛けることができた者は、思いのままに従わせることができると言いますし」
「なら冒険者様、その手綱を決して離さねぇで下せぇよ」
村人達はまだ怖がっている。
「クレア、帰って来たか!」
フィラ・ボロゴース(ea9535)が現れた。
「留守の間、レースに使う旗を子ども達と一緒に作っておいたんだ。あたいは月と黒い狼の旗印。それでボートは‥‥あれ?」
クレアの馬車に積まれているのはボートが1隻、そして大きなタライが5つ。
「溜め池の大きさを考えて計画変更。洗濯用のタライだけど、これを使ってレースをやるわ」
フィラはぷっと吹き出した。
「タライ船のレース? 初めてだけど面白そうだな!」
●選択
薄暗い夕暮れ時になり、キラルはランタンに灯を点した。
「ほら、見てごらん」
水精霊の衣装を着たリーサとルシーナの姿を、暖かい光が照らし出す。
「まあ‥‥!」
「きれい‥‥!」
昼間の時とは見違えるような互いの姿に2人は見とれた。衣装のあちこちには磨かれた銅貨が飾られ、ランタンの光を受けて輝いている。
「夜の光の方が、昼間の光よりもずっと綺麗に見えるだろう?」
キラルが得意そうに言う。
「ほんと、まるで本物の水精霊ね」
それは領主の声。思わず2人が振り向けば、そこにクレアが立っていた。
「ルシーナに話があって来たわ」
クレアはルシーナに伝える。魔の者につけられたルシーナの刺青を、医術で消し去る準備が整いつつあることを。ゾーラクは準備の為、アネット領を訪ねている。
「それで将来の事について訊きたいの。貴女はどの道を選ぶつもり? 鎧騎士か、キラルに師事してバードになるか、それとも別の道か」
「‥‥‥‥」
ルシーナは返事に困っている。まだ心の準備が出来ていない。
「返事はそう急がなくてもいいわ。でも貴女がどの道を選ぼうとも私が支援します。それは他の領民達も同じこと。望む未来と望む力は貴女自身で選びなさい」
●明日はお祭り
お祭りの前日になると、村のお祭り気分は一気に高まる。龍麗蘭(ea4441)は今回もお祭りの料理担当。先月の竜精祭で出した地球のトルティーヤ風スナックの作り方を、村の女達に教えている。
「変った料理とかあればそれだけで珍しいし、名物とまでは行かなくても美味しければ、それ目当てに村を訪れる人も増えるかもでしょ?」
「そういえばこの料理、名前は何ていうのかしら?」
尋ねられ、麗蘭は考え込む。
「うーん、それはまだ考えていなかったけど‥‥」
すると誰からともなく声が上がった。
「ホープ村の名物だからホープ焼きでいいんじゃないのさ」
「そうね、それでいいか」
「あら麗蘭さん、今度は何を?」
麗蘭が何か別の料理を作り始めている。
「祭りは祀りと言われるから、精霊を称え感謝する気持ちを大事にしないとね〜」
塩と水と小麦粉を練って、団子にして出来上がり。
「と、言うわけで〜お供え物っと」
皿の上、山の形に団子を盛り付けた後で、麗蘭はふと考えた。
「‥‥てか水の精霊って何供えるのが一番良いんだろ。魚‥‥は何か違うような」
そういうことは老村長のジェフに訊くのが一番。ジェフが言うには、
「そうじゃな。聞いた話では海辺の村では魚の干物をお供えしたりするが、そうでない村では水辺に咲く花をお供えするそうじゃ。じゃが、どんなお供え物でも感謝の気持ちがこもっていることが一番じゃ」
村の女達が料理に励む一方で、男達は祭の会場作りなどの力仕事。そして子ども達はチカに率いられて歌の練習だ。
♪讃えよ 讃えよ 水の恵みを
清らかなる水 命の母よ♪
「あっ!」
「あれを見て!」
歌っていた子ども達が空を指差す。シフールのユラヴィカが賑やかな連中を連れてやって来た。竜精祭でも手伝いに来てくれた、しふ学校のシフール達だ。みんなで鈴を鳴らしながら、踊るように宙を舞っている。
「お祭りは稼ぎ時じゃしな。できればドラパピ達にも声をかけたかったのじゃが」
その言葉を聞いて、子ども達がぐるりとユラヴィカを囲んだ。
「ドラパピって竜の子ども!?」
「連れて来て! 連れて来て!」
ユラヴィカ、困った。
「いやそれはまたのお楽しみということで‥‥。その代わりと言っては何じゃが、うちのフェアリーも仲間に入れてやってくれると嬉しいのじゃ」
小さなユラヴィカの隣に現れたさらに小さな姿を見て、子ども達は目を輝かせた。
「わーい、フェアリーだ! フェアリーだ!」
チカが声を張り上げる。
「盛り上がったところで、歌の練習の続きをやるにゃ♪」
「んじゃ俺達も、一つ景気のいい歌を」
しふ学校のシフール達も、子ども達に負けじと歌い始めた。
♪お〜やじのハゲ頭〜はぴっかぴか〜
ハエが止まって滑って転んだ〜♪
「こらーっ! 変な歌を歌っちゃダメだにゃー!」
練習が一段落すると、子ども達はシフールを相手に遊び回っている。チカはその楽しげな様子を眺めながら考えていた。
「うーん‥‥やっぱり村の発展には学力の向上は必須だよにゃー‥‥。うに、少しずつでも教えていくかにゃ♪」
思い立ったらすぐ実行。
「と、いうわけでマジカル☆チカの基礎講座にゃ〜♪ 簡単なところから少しずつでも覚えようにゃ♪ きっと役に立つのにゃー」
地面を黒板、棒切れをチョークの代わりにして、チカは子ども達に勉強を教えようとしたけれど。
「チカお姉ちゃん、それよりも冒険者ごっこをやろうよー!」
「僕はモンスターだぞ〜! 食べちゃうぞ〜!」
子ども達は遊びに夢中。なかなか上手くいかないものだ。
●お祭りの日
水霊祭の日がやって来た。
「いや見事に晴れたな〜」
「でも、雲が多くないか?」
村人達はお天気が気がかりだ。
「天気調整の方はお任せなのじゃ」
ユラヴィカがウェザーコントロールの呪文を唱えると、空は見事に晴れ渡った。村人達は感心する。
「見事なものだねぇ」
お祭りはニルナの言葉で始まる。
「水は生命の源。渇きを潤し、大地に活力を与え、ときには災害となって私達に襲いかかります。それだけ村の生活に密接にかかわるものなんです。今日この日は水霊に感謝の意を込め、このお祭りが行われます。皆さん、ここにいる水精霊達に敬意を払い、村のこれからの繁栄を祈りましょう」
続いて領主クレアからの注意。
「だけど楽しむ時も、気配りはしっかりとね? 特に子ども達、溺れたりしないようお互いに気配りするように」
「はい、領主様!」
元気な子ども達の返事が返ってくる。
●レース
お祭りの前半はタライ船レースだ。溜め池に5つのタライが浮かび、それぞれに2人の漕ぎ手が乗り込んだ。
フィラは紅貴とペアを組んでレースに参加で、気合入りまくり。
「レースは負けないぞ! 直線距離なら力押しでも勝てる! ‥‥気がする、かな?」
レースが始まった。漕ぎ手はタライ船の右と左に座り、手のひらをオール代わりにしてタライ船を前に進ませる。ところがこれがなかなか上手くいかない。
「お〜い、右だ右!」
「もっと左に寄れ〜!」
「何だ全然進んでねぇぞ!」
「うわっ、ぶつかる!」
右へ寄ったり左へ寄ったりでなかなか進まないタライ船、見守る村人達も面白がって声援を送る。だがその中にあって、フィラと紅貴のタライ船はダントツで突き進む。さすがは年季の入った冒険者。旗を振る子ども達の声援も、自然と2人に集まった。
「ガンバレ! ガンバレ!」
これで優勝はいただきと思いきや、アクシデント発生。後方を進むタライ船の1隻がひっくり返り、漕ぎ手が溜め池に投げ出された。
「助けてくれぇ! 俺は泳げねぇんだ!」
「こりゃいかん!」
紅貴とフィラが水に飛び込み、あっぷあっぷする漕ぎ手に手を貸してやる。
「ほら立てよ。足の立つ深さだろ?」
「あ‥‥こりゃどうも」
そうこうしている間にも、冒険者のタライ船を別の船が追い抜いて勝利を手にした。
「勝者チームには祝福の口付けを」
表彰式で領主クレアの言葉を聞き、勝者の村人はたじたじ。
「そんな勿体ねぇ領主様‥‥」
構わずクレアは勝者の額に祝福のキッス。
レースが終わった後、溜め池の傍では子ども達が水遊びを楽しんでいる。クレアも身軽な姿になるとその中に入っていった。
「あっはっは、楽しむ時は楽しまないとね」
「あ、あの‥‥領主様‥‥」
おろおろする村人に声をかけたのはニルナ。
「折角のお祭りです。固いばかりでなく楽しみましょうね」
●水上の劇
夕方になり辺りが暗くなると、溜め池の周囲に用意された篝火が燃え上がる。劇の始まりだ。
「さて、それじゃあ本番にゃ。皆、練習の成果を見せつつ楽しく行くにゃ♪ フレイアも頼むにゃね〜♪」
子ども達そしてペットのフェアリーに声をかけ、水精霊に扮したチカがボートに乗り込む。同じくニルナも、リーサとルシーナを従えてボートへ。
「大役を頂いて少し緊張しますが、精一杯演じらせていただきますよ」
「では、始めますか」
ケンイチ・ヤマモト(ea0760)がリュートの演奏を始める。ボートはケルピーに引かれて溜め池の中央へ。
こうして劇は始まった。それは水霊祭のハイライト。