希望の村3〜収穫祭とお祭り荒らし

■シリーズシナリオ


担当:内藤明亜

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:10月11日〜10月16日

リプレイ公開日:2008年10月20日

●オープニング

●水霊祭
 時は8月、まだ夏の盛り。
 この暑い最中に重い荷物を背中に背負い、王都に通じる街道を徒歩で行く行商人の2人連れがいる。
 王都を目指して延々と歩き続けたが、やはり重たい荷物が身にこたえ、街道の脇に生えている木の陰で一休み。
「いや、このところ景気がいいのはいいんだけどねぇ。売り物の重てぇのなんのって」
「仕方ねぇさ、荷運びに使ってた馬が寿命で死んじまったんだ」
「だけど、これじゃ身がもたねぇ。どこかこの近くの村で売り捌いて、荷を軽くした方がよくねぇか?」
「そういやこの近くに、貧民村っていう村があったよなぁ‥‥」
 連れ合いの言葉を聞いて、行商人の男は呆れた顔をした。
「貧民村だぁ? そんな不景気な村へ行くのはご免だぞ。こっちにまで貧乏に染まっちまいそうだ」
「だけど噂だと、村の領主様が変わったついでに村の名前も変わってな。最近じゃ景気のいい村になったそうだ」
「本当かねぇ? んじゃ様子見に寄ってみるかい」
 そうして2人はやって来た。かつては貧民村と呼ばれていたホープ村に。
 丁度、その日はホープ村の水霊祭の日。村はお祭り気分でにぎやかだ。
「何だ、思ったより景気がいい村だな」
「おい、見ろよあれを!」
「お! あれはレースか!?」
 2人は見た。たっぷりと水を湛えた村の溜め池でレースをやっている。それも水に浮かべた大きなタライに人が乗ってのタライ船レースだ。乗り手は手で水を掻いてタライ船を進めるのだが、右へ寄ったり左へ寄ったりひっくり返ったりでなかなか前に進まないが、観ているとこれが面白い。村人達は旗を振りながら、元気に歓声を送っている。
「いや〜、こりゃ思ってた以上に景気のいい祭だな〜」
 表彰式では村の女領主が勝者の額に祝福のキッス。聞けばかの領主は冒険者出身で、領主になった今でも冒険者稼業に励んでいるという。
「なんとまあ、綺麗なお方だなぁ」
 レースが終わっても、祭はこれで終わりじゃない。お次は何だと待っているうちに、行商人達は空腹を覚え、出店から漂ってくる美味しそうな匂いに思わず食欲をそそられる。
「そりゃ何という食い物だね?」
「ホープ村名物のホープ焼きだよ」
「2つ頂こう」
 村の名物は炒めた肉と野菜を、薄く焼いた小麦粉の皮で包んだ料理だが、食べてみるとこれが美味い。料理の作り手は村のおかみ達で、相手が行商人と知るや売り物を買いたいと頼んできた。
「食材が足りなくなりそうでねぇ。悪いけど手持ちのお金があまり無いから、ツケ払いでいいかい?」
「まあ良かろう。払いは収穫祭の時にでも、村の領主様にお願いするとしよう」
 これだけ景気のいい村だ、ツケ払いでも安心できると行商人は踏んだ。

 夕方になり辺りが暗くなると、溜め池の周囲に用意された篝火が燃え上がる。劇の始まりだ。
 リュートの絶妙な調べが流れ、村の子ども達によるコーラス隊が歌い始める。

♪讃えよ 讃えよ 水の恵みを
 清らかなる水 命の母よ♪

「おおっ!」
 2人の行商人は目を見張った。劇の舞台に変わった溜め池を、1隻のボートが進んでいく。ボートを引くのは馬の姿をした水精霊ケルピー。ボートの上には水の精霊に扮した女性達。その頭上ではエレメンタラーフェアリーが飛び回り、篝火の明かりに照らされた彼女達の姿はとても幻想的だ。
 まるで本物の水精霊がその場にいるかのよう。
「水の恵みに、水の精霊に感謝を」
 思わず2人の行商人は、手を合わせて拝んでいた。

●領主のお仕事
 ホープ村でちょっと一休みするつもりだった行商人達は、思いもかけず村に長居してしまい、その日の夜は村長の家に泊めてもらった。翌日は王都に出かけて商売に励んだが、ホープ村で目にした村祭があまりにも素晴らしかったものだから、商売のついでに会う人会う人へ話を聞かせたものだから、ホープ村のお祭りの噂はあちこちに広まった。
 さて、ホープ村では。
「カブの種蒔きとクローバーの移植、やれる所だけはやっておいた」
「家畜小屋の増設も、とりあえず済ませておいたしね」
 お祭りの準備を続ける間にも、冒険者達は村でのさまざまな仕事を進めてきた。ホープ村の領主は農業指南役のレーガー卿と共にその報告を聞き、最後に仲間の冒険者達を労った。
「ありがとう、みんなよくやってくれたわ」
 しかし農業の経験豊かなレーガー卿にとっては、色々と物足りない点がある。だから彼はこうアドバイスした。
「村としての形は整いつつあるが、現状では今の村の人口を養うにもまだまだ収穫が不足する。小麦の粉引きに使う風車小屋の建設計画があるが、小麦の収穫で村を支えていくつもりなら、小麦の品種も土地に適した物を選ばねばならない。種小麦を入手する伝も必要だ。ホープ村の近隣だけではなく、ハンの商人から調達するという手もあるが‥‥。家畜にしても、家畜の餌となる牧草や作物がまだまだ足りない。今年の冬から来年春の種蒔きまでに、やるべき事は山ほどあるぞ」
 ここはきちんとしたスケジュールを組んで、やるべき事を整理してみるべきだろう。

●闇医者グリーフ
 ここは、シムの海に面したとある港町。怪しげな酒場のカウンターに男が1人。
「従軍医殿、探しましたぞ」
 声をかけられて男は振り向き、見知った顔を目にした。
「ボラットか。だがその従軍医という呼び方はやめろ。今の俺はしがない闇医者だ」
 自らを闇医者と呼ぶその男の名はグリーフ・ラッド。アネット騎士団長ボラットとは周知の仲で、かつては従軍医として協力したこともある。
「ボラット殿に兵士の命を助けて頂いたご恩は忘れません」
「ご禁制の麻薬の力を借りて、腐りかけていた手足を切り落とした、いつぞやのアレか? だが、助けた兵士はもはや使い物にならぬ」
「実は‥‥」
 ボラットは用向きを伝える。マリーネ治療院の副院長が、麻薬を麻酔薬として普及させることを考えているので、グリーフにも協力して欲しいと。
「私は副院長殿から直々に相談を受けました。近く、麻酔を使ってとある娘の手術を予定しているのですが、グリーフ殿には豊富な経験がございます。きっと副院長殿の助けになるかと‥‥」
「ならば俺をそのバカ者に会わせろ。そのバカげた考えを粉砕してやる」

●お祭り荒らし
 時は移り、今は10月。収穫祭で賑わう月だ。
 王都、貴族街のサロンでは、例のごとくホープ村の隣領の領主2人が、ホープ村を話の種にして歓談している。
「しかしホープ村の領主も気が早い。収穫祭が来るまでにこれまでのツケを清算してしまうとは」
 と、ワザン男爵。
「ともあれ、村が発展するのは良いことです。収穫祭も大いに盛り上がるでしょうな」
 と、シェレン男爵。
 ふと、ワザン男爵は思い出す。
「ときに、かつて我が領地の祭を荒らし回ってくれた、ダラーノ・ボッタというケチな悪党がおりましたな」
「ああ、あの悪党なら我が領地も迷惑をこうむりました」
 このダラーノ・ボッタという男、お祭りを専門にした盗人である。お祭りで賑わう町や村に忍び込んでは、あの手この手で盗みを働く。一度などは馬車に山と積まれた食料を馬車ごと盗んでいったこともある。
「ホープ村が有名になれば、ダラーノのような良からぬ者どもの関心も引こう。ここはホープ村の領主殿に注意を呼びかけた方がよさそうだ」
 ワザン男爵はホープ村の領主に書状を送り、注意を呼びかけた。念のため数年前に描かれたダラーノの人相書きも添えて。

●今回の参加者

 ea0760 ケンイチ・ヤマモト(36歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 ea0941 クレア・クリストファ(40歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1128 チカ・ニシムラ(24歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1704 ユラヴィカ・クドゥス(35歳・♂・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea4441 龍 麗蘭(32歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea5597 ディアッカ・ディアボロス(29歳・♂・バード・シフール・ビザンチン帝国)
 ea9535 フィラ・ボロゴース(36歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb3033 空魔 紅貴(35歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)

●サポート参加者

アレクシアス・フェザント(ea1565)/ ソード・エアシールド(eb3838)/ ルスト・リカルム(eb4750)/ 晃 塁郁(ec4371

●リプレイ本文

●風車
 風車の建設予定地は村を望む小高い丘。ここに大工の親方が現場の下見にやって来た。
「この小さな丘に4つも風車を建てるとは豪勢な」
 そう言う親方に、村の領主クレア・クリストファ(ea0941)は予算を示す。
「急造する3基は合計で1000G、名物の大型は3000Gで如何かしら?」
「うむ、それでよかろう」
 建設費の半額を前金で、残り半分は後払いということで話はまとまり、来月から建設が始まることになった。

●闇医者
 一行が村へ戻ると客人が待っていた。闇医者グリーフである。
「この村の領主が話をしたがっていると聞いてやって来た」
「領主としてではなく、一個人として話しましょう。貴方の力が必要なの」
 クレアは説得を始めるがグリーフは納得しない。
「麻薬を麻酔薬として普及するなどと、たわけた事を!」
 クレアの瞳は真っ直ぐグリーフを見つめる。
「苦しむ人を救うからこそ医者ではないの?」
「思い上がるな、人の力で全てを救えるか!」
 言い合いは長々と続き、最後にグリーフが言った。
「ここはひとまず、麻酔で手術を受ける娘に会わせて頂こうか」
 クレアはグリーフをルシーナの所へ連れていく。彼女の手首に彫られた刺青を見て、グリーフは絶句した。
「これは‥‥!」
 じっと刺青を凝視していたグリーフだが、やがてクレアに向き直り口を開く。
「条件によっては協力しても良い。だがそれは副院長の為でも領主殿の為でもなく、カオスどもの悪事を阻止する為だ」

●調査
 農業指南役のレーガー卿は今回も村にやって来た。呼び寄せたのは領主クレア。
「勉強はしてるけど貴方には遠く及ばないから」
 近隣の調査に向かう空魔紅貴(eb3033)にレーガー卿も同行。2人が最初に訪れたのは南の隣領、ワザン男爵領だ。
「ワザン男爵には、過去に食料支援でお世話になったな」
 男爵の許可をもらい、昼間のうちに行ける範囲で領内の村々へ足を運ぶ。ちょうど収穫祭の時期だから、畑の近くのあちこちに刈り取られた小麦が積まれている。しかし村人の話を聞いてみると、この小麦は村の自給自足のために栽培されており、他所にはあまり売り出されないという。
「この辺りでの小麦の買い付けは期待薄か」
 紅貴の言葉を聞いてレーガー卿が言う。
「王都の北の代官領では小麦が大々的に生産されているが、その商取引の多くは悪名高いアドラ家が仕切っているからな。もっともルーケイの地の復興で、今後はルーケイ産の小麦も徐々に出回るだろう」
 続いて2人はホープ村の近場を見て回る。
「おや、こんな所にチモシーが」
 一見するとありきたりの草地にも、よく見れば牧草になるチモシーやクローバーが生えていたりする。
「この辺りは放牧地としても有望だろうか?」
 尋ねる紅貴。
「牧草さえあれば牧場が出来るというものでもない。家畜の世話に熟練した農夫が必要だし、家畜を盗まれないための備えも必要だ」
 と、レーガー卿。
 歩くうちに2人は領地の境までやって来た。
「おっ‥‥!」
 紅貴の目に広々とした草地が映る。かつては農地だったようだが、今は雑草が伸び放題。遠くには誰も住んでいない廃村の崩れた家々が見えた。
「隣の領地には使われていない土地がこんなにあるのか、もったいない」
「ここから向こうは南東の隣領、王領バクルだな。元々はホープ村と一続きだった領地だが、先王エーガンによって元の領主が放逐されると、土地も切り離されてしまった」
 夕暮れ時になってホープ村に戻ると、フィラ・ボロゴース(ea9535)がせっせと仕事を続けている。
「悪ぃ、ちょっと手伝ってくれるか?」
「お安い御用さ」
 フィラに乞われて紅貴も手伝いに入る。フィラが作り始めているのは広めの小屋だ。
「流入者が増える冬に備えて、一時の待機場所にするつもりだけれど、集会所や休息所にも使えて便利だろ? 今年中には完成させたいけど、焦らずじっくりと丈夫なヤツを作るさ」
 手伝いながら、ふと紅貴は悩む。
「‥‥俺、流浪人だよなぁ?」
 職業は浪人だけど、今じゃ村の領主に仕えているようで。

●話し合い
 夜遅くなっても村長の家では冒険者達の話し合いが続いている。
「う〜ん。今後の人口増を考えると、家の建て増しも必要だけど‥‥」
 村の見取り図とにらめっこで、領主クレアはあれこれ考える。
「今の村の広さでは手狭だから、もっと村の敷地を広げないと。防御柵もしっかりした物に作り直すべきだし」
 紅貴が言う。
「肝心なのは村を支える作物だが、基本は小麦の栽培で、それと同時にカブやニンジンなど早育ちする野菜を育て、冬の間は空きの農地を整える。ついでに肥料もな。それで小麦に関してだが‥‥これを見てくれ」
 紅貴は皆の目の前に、穂がついたままの小麦の束を示した。
「これはルーケイ産の小麦。ルムス村から送られてきたもので、この辺りの小麦より背丈は低いが実は良質だ。今後の交渉次第では、種小麦が沢山手に入るだろう」
「あたしもこれ全部、提供するにゃ」
 チカ・ニシムラ(ea1128)が、手持ちの緑の豆を6粒差し出す。
「私もこれを」
 同じくディアッカ・ディアボロス(ea5597)も、緑の豆を2粒。そしてユラヴィカ・クドゥス(ea1704)は、
「今、丁度大豆の株を育てているところじゃしな。役立ててもらえれば幸いなのじゃ」
 そう言って大豆の鉢植を差し出したが、それを見てレーガー卿は奇妙そうな顔になる。
「しかし豆は春に種を蒔く作物だ。この鉢植えを村の畑で育てても、冬の寒さを乗り切れるかどうか‥‥。やはりこれは冒険者の手元で育てるのが一番だろう」
 結局、鉢植えは元の持ち主に返され、8粒の豆の種は春の種蒔きに備えて、村で保管されることになったが、レーガー卿は言う。
「しかし、たった8粒の豆では心もとない。本気で豆を育てるなら、種蒔き用の豆をもっと仕入れなければ」
「その仕入れ先ですが、ハンは食料がらみで疫病が出たりしているので、ハンの商人から買い付けるなら混ぜ物をされないよう、検疫が必要になるかもしれませんね」
 言いながらディアッカは、その視線をユラヴィカに向ける。ユラヴィカの使うリヴィールポテンシャルの魔法は、食物が安全かどうか見定める事も出来る。
「検疫か‥‥」
 レーガー卿は眉根を寄せた。
「疫病の情報は耳にしている。厄介な事にならねばいいが‥‥」

●明日は収穫祭
 その日は収穫祭の前日で、フィラは山車の準備。チカは小物作りの担当だ。
「皆で一緒にやれば楽しいのにゃ〜♪」
 村の子ども達と一緒になって、チカが作っているのは藁で出来た竜の人形。

 ♪収穫祭がやってきた〜みんなで踊れ〜輪になって踊れ〜♪

 手を動かしながらみんなで口ずさむ歌は、練習したばかりの収穫祭の歌。
「うに!? みんな結構うまいのにゃねー‥‥。ま、負けないにゃっ」
 やがて1匹、2匹と藁の竜が出来上がっていく。よく出来たのやら、不恰好なのやら、色々あって面白い。
「よし、完成だ!」
 フィラの声が響く。以前に作った竜の山車を改造し、竜の飾り物をより頑丈にした。
「ほら、子どもが乗っても大丈夫だ」
「わー、ホントだ」
 子どもが面白がって、竜の頭をよじ登っていく。
「だけど、1度に2人以上は乗っかるなよ」
 皆の仕事が一段落すると、チカは今度も子ども達に勉強を教え始めた。
「今回こそちゃんと教えないとにゃ! 将来のためにも知識は必要にゃー」
 ただし、まずは短い時間の勉強に慣れさせる。
「30分ちゃんと聞いてくれたら思いっきり遊んであげるにゃ♪」
 時間はどうやって計る? 幸い、クレアが手巻き腕時計を持っていた。読み書き計算をみっちり教えるうちに、30分はあっという間に経過。でも、遊び盛りの子ども達には長い時間だ。
「終わった〜!」
「遊ぼう! 遊ぼう!」
「チカお姉ちゃんも冒険者ごっこやろうよ!」
 子ども達は頭を使うより、体を動かす方がよっぽど楽しいのだ。
「みゅー、遊びの中に計算とかそういうのを取り入れた方いいのかにゃー‥‥?」
 考えているうちに、チカもたちまち遊びの輪の中に引き込まれる。

●お料理
「そろそろ冷え込みも辛くなってくる季節、こんな時は暖かい料理が恋しい筈! そんな季節にぴったりな『すいとん』をご紹介!」
 今回も気分はノリノリ。村の女達を呼び集め、龍麗蘭(ea4441)がお祭り料理の指導を始める。
「最初に小麦粉をふるって塩と混ぜ、水を少しずつ入れながら粉が手に付かなくなるまでこねますね。耳たぶくらいのやわらかさになったら丸くまとめて、ぬれ布巾をかけてしばらく休ませてください」
 休ませる間に食材の魚を捌く。タラにマスにカレイに大サバ。これ全部、クレアの提供。切り身を取った後の骨や頭は、野菜屑と一緒に大鍋にぶち込んで出汁にする。
「はい、出汁が取れたらガラを取り除きましょう」
 続いて、一口サイズの魚と野菜をぶち込んで、さらに小麦粉のお団子をぶち込んで、ぐつぐつ煮込んで10分経過。
「はい、そろそろ食べ頃ですね」
 では器に盛って、食べてみましょう。うわ美味しい! 皆の喜びの声を聞いて、麗蘭はニッコリ。
「これなら大量に作れるしねぇ〜、簡単だから教えるのも楽だし〜」
 料理教室はこれにて終了。明日の本番、収穫祭が楽しみです。

●警戒
 収穫祭の日がやって来た。
「さぁ、祭りだ祭りだーっと!」
 張り切るフィラ。だが今回はダラーノのことがあるから、フィラは村人の中から体格の良い若者を選んで、見回りをさせることにした。
「あまり目立つとダラーノ一味に警戒されるから、見回りはあくまで怪しまれない程度に、ただし手を抜かない様にしっかりとな」
 領主クレアも100Gを支払い、冒険者のコネを通じてルーケイ水上兵団の者達を30人ばかり雇った。その者達には村人や見物人の振りをさせ、警備に就かせている。
 フィラの選んだ見回り役にも、クレアはしっかり声をかけておいた。
「無理はせず、何か起きたらすぐに警備兵か自分達を呼ぶようにね」
 念の為、消火用の水等の準備も徹底させる。
 そしてユラヴィカはダラーノの人相書きを手にしながら、サンワードの魔法を使って輝く空の陽精霊に尋ねてみた。
「この人相書きの男はどこにおるじゃろうか?」
 だが、何度尋ねても答は『分からない』。
「う〜む、どこか日陰に隠れておるのじゃろうか?」
 この手の盗人が活発に動き回るのは暗い夜中で、昼間はじっと隠れ場所に潜んでいるとも思える。
「な〜に、そのダラーノとか言うヤツが現れたら、俺達がふん縛ってやるさ!」
 お祭りは稼ぎ時ということで、ユラヴィカの呼び集めた『しふ学校』のシフールから頼もしい言葉が返ってきた。
「しっかり頼むのじゃ。では祭の間、良き天気を」
 いつものように、ユラヴィカはウェザーコントロールの魔法を唱える。

●収穫祭
 収穫祭の始まるお昼時には、他所からも大勢の人々が集まってきてた。辺りに漂う美味しそうな匂いは、村の女達が作るすいとんの匂い。
「こりゃ美味しそうだ」
 出店では列が出来ている。
「前回の竜精祭よりも賑やかになりますね」
 雰囲気を盛り上げようと、ケンイチ・ヤマモト(ea0760)がリュートを爪弾き始める。
「難しいのではなく楽しい曲でいきましょう」
 曲は村人達もよく知ってる収穫祭の歌。引くうちに周りの村人達も声を合わせて歌い、踊り始める。
「これは賑やかじゃないか」
 ケンイチに声をかけたのは、馬車に乗って村にやって来たばかりの男。荷物がぎっしり積まれた馬車の上には、5人の子ども達の姿もある。
 見回り中の紅貴がやって来た。
「この近くの方か?」
「いいや、わしはトルクの国の商人でな。王都に向かう途中、この村に立ち寄ったのじゃ」
「この子ども達は?」
「わしの手伝いじゃ」
 見れば男の身なりは立派で、怪しいヤツには見えないが‥‥。
「さあ、お前達もお祭りを楽しんで来なさい」
 男の言葉で子ども達は馬車から降り、お祭りの人ごみの中に混じっていった。
 リュートを引き続けるケンイチの横を、踊り子の服で着飾ったチカが通り過ぎる。
「にゅふふ♪ お祭りは参加してこそ意義があるのにゃ♪ 皆も一緒に参加にゃ♪」
 その後からぞろぞろ続くのは子ども達。
「わーい、お祭りだ!」
 雰囲気は盛り上がり、ついに収穫祭の本番に突入。
「私の幸せは民の笑顔と共にある。さあ始めよう、収穫祭を」
 領主クレアがお祭りの始まりを告げ、フィラに率いられた村人達が竜の山車を引っ張ってきた。
 山車の上では『しふ学校』のシフール達が舞い踊り、ユラヴィカとディアッカがリードする。
「いよっ! 待ってましたぁ!」
「国で一番のお祭りだ!」
 見物人から上がる歓声、山車の動きに合わせて歌い踊る村人。だが祭が大きな盛り上がりを見せようというその時、騒ぎが起きた。
「火事だぁ!」
 村のあちこちから火の手が上がる。放火だ。
「水だ、水っ!」
 こういう事もあろうかと、あちこちに水を用意したのが幸いした。火はたちどころに消し止められた。
「一体、誰が放火なんか‥‥あっ!」
 こそ泥に目を光らせていた麗蘭は気づいた。子ども達が料理場を荒らしている。それも村の子ども達ではない。
「止めなさい! ぶっ飛ばすわよ!」
 怒鳴ると子ども達が逃げていく。逃げた先は外から来た馬車、そこにぎっしり積まれた荷物の中から、ひげもじゃの男がすっくと立ち上がる。
「畜生! なんでこうもうまくいかねぇんだ!」
 お祭り荒らしダラーノだ。ずっと荷物の下に身を潜めていたのだ。
「野郎ども、ずらかるぜ!」
 手下の子ども達が馬車に飛び乗る。だが馬車は動かない。
「どうした、動け! 動け!」
 馬車はチカの放ったシャドウバインディングの魔法で、動きを封じられていた。
「逃げるんじゃないにゃ!」
「うるせぇ!」
 動かぬ馬車から飛び降りるダラーノ。そこへ、見物人に扮したルーケイ水上兵団の兵士達がどっと押しかける。
「うわあっ!」
 ダラーノは取り押さえ、その頭を紅貴の手がぐいっとつかむ。
「話をじっくりと聞かせてもらおうか。これまで働いた盗みのこともな」
 共犯者の男と子ども達も、全員が捕らえられた。
「さあ、お祭りの続きをやろうぜ!」
 フィラが皆に呼びかけ、お祭りは再び始まった。ダラーノの起こした騒動など、ちっぽけな出来事に過ぎなかったかのように。
 なお、ダラーノは祭の後で領主クレアの裁きを受け、両手両足を封じられた上で運搬用の荷物を背負わされ、首に罪状を示す札をかけられて、王都で晒し者の刑に処せられたという。