希望の村4〜火霊祭と不幸せな娘

■シリーズシナリオ


担当:内藤明亜

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月30日〜12月05日

リプレイ公開日:2008年12月08日

●オープニング

●晒し者
 ここは王都ウィルに所在するエーロン分国王の館。
「陛下、ホープ村より面白いモノが届きました」
 エーロン王に部下が報告する。届けられたそれは両手両足を枷で封じられ、背中には重い荷物を背負わされ、首には罪状書きの札をかけられた罪人。あちこちのお祭りを荒らし回った盗人、ダラーノ・ボッタの見るも哀れな姿である。ホープ村に手を出したのが運の尽き。
「王都にて晒し者の刑に処すのがホープ村領主の意向ですが、如何いたしましょう?」
「協力してやろうではないか。ホープ村で悪さをしようという不届き者を、これ以上出さないためにもな」
 かくしてダラーノは晒し者となって王都を引き回され、それを見た街のゴロツキどもは陰でこそこそと囁きあった。ホープ村には手を出さないほうが身のためだと。

●届けモノ
「さて、例のアレをホープ村に届けてやるか」
 エーロン王の顔に笑みが浮かぶ。酔狂な楽しみを見つけた時の笑みである。そして王は部下に命じた。
「レーガー・ラント卿をホープ村まで護送せよ。今後、レーガー卿はホープ村に住まわせる」
「レーガー卿をでありますか?」
 レーガー・ラント卿は裕福な所領を持っていた元貴族。そのはっきり物を言う性格が災いして先王エーガンの怒りを買い、身分と領地を奪われた上に謀反人として追い回されていた男。今はその農業知識を買われ、監視つきながらフオロ分国再興のための農業指南役の仕事をあてがわれている。
「レーガー卿とホープ村の女領主、色々とその仲を噂されておりますが」
「ならばその行く末を見届けるのもまた一興。あの気丈な領主であれば、かつての謀反人だろうが助平ジジイだろうが造作なく扱えよう」
 こうしてレーガー卿はホープ村に護送されてきた。多数の警備兵が付き添うというおまけつきだったが、
「では後の監視はホープ村の領主殿にお任せする」
 そう言って、王都から付き添ってきた警備兵達はぞろぞろと引き上げてしまった。
 村の村長3人にとっては降って湧いたような話。元謀反人だか助平ジジイだか知らないけれど、レーガー卿はれっきとした元貴族の旦那様なのだ。
「旦那様、急なことで御住まいも整っておりませぬが、まずは私どもの住処へ。急ぎ、暮らしに必要な品々を用意致します」
「いや、お構いなく。それより村の様子を見ておきたい。来年の農作業に向けた準備があるからな。まずは畑に行き、この前に種を蒔いたカブの育ち具合を確かめてこよう」
 恐縮する村長を従えて、レーガー卿は村の周りの畑を見て回る。カブの育ち方はまあまあ順調、移植されたクローバーの根付き具合もまあまあ順調。
「さて、次なる仕事は家畜の買い付けだな」
 丁度、今は飼料の少なくなる冬に備え、余分な家畜を処分する時期でもある。王都の市場に行けば、牛や豚や羊や山羊や鶏やアヒルなどを、比較的に安値で手に入れることが出来よう。

●焼肉祭り?
 日ごとに寒さが増す中、ホープ村の人口はまた増えた。住処を失って村に流れ込む流民の数は減ったけれど、その代わりに増えたのが、地方の貧しい村々から奉公にやって来た者達。食物が不足する冬の間、食い扶持減らしのために故郷の村を出て、豊かな王都で働きながら食いつなぐのだ。言うなれば季節労働者。ホープ村も彼らの寝泊り場所となり、村の人口は今や400人を突破。
「この分だと、村の人口が500人を超えるのも時間の問題じゃないか?」
「来る者拒まずが領主殿の方針だが、これでは冬の間の食事代だけで大金が飛んでいきそうだ」
 お隣のワザン男爵領から出張し、ホープ村の守りにつく警備兵達の口からは、そんな言葉が出る。
 ホープ村の3人の村長達も、新参の者達を世話するのに忙しい。老村長ジェフ・ゼーロは村の決まりごとを教えてきかせ、女村長マリジア・カルルは村の女達とともに食事を作っては食べさせ、歌歌い村長キラルはご飯時にリュートを弾き歌いしながら場を盛り上げる。
 今日も村の広場では、新しく来た若い者達が焚き火を囲みながらみんなで食事。一仕事終わった後の飯はうまい。
「そういえば11月って火霊祭の月だったよな。老村長さんよ、この村の火霊祭はまだなのかい?」
 若者の1人が老村長に問う。
「いやしかし、月に1度の祭も何かと大変じゃしな」
「普通の村ならそれが当たり前だろ? ぼやぼやしてたら11月が過ぎちまう」
「まあこのところ、冬支度で忙しかったからのぅ」
「だけど焚き火に使う薪だけは、そこそこにあることだし」
 すると別の若者が言う。
「聞いた話だけどな。家畜のたくさんいる村の火霊祭は最高だぜ。冬に備えて処分した家畜を肉にして、盛大に食っちまうんだ。豚の肉、仔羊の肉、鶏の肉、ああたまんねぇぜ」
「おい火霊祭は焼肉祭かよ? だけどこの村も、もっと家畜がいれば火霊祭の焼肉も期待できるんだがな?」
 ここで、さらにもう1人の若者が口を挟む。
「俺の聞いた話だと、領主様は近々、家畜をどっさり買い込むらしいんだよな」
 それを聞いて回りの若者達は目を輝かせる。
「それじゃいよいよ焼肉食べ放題の焼肉祭りか!」
「これこれ、領主様にもご都合というものがあるでな。皆で勝手に話を進めるでない」
 老村長は一言、釘を刺した。
 ふと、若者の1人が疑問を投げかける。
「そういやホープ村は、元々はワザン男爵の村だったんだよな。でもその前は別の領主の村で。そのもともとの領主って、今どうしてんの?」
 老村長は首を振る。
「さあ‥‥わしも知らんでな」

●凋落の元男爵家
 王都のサロンでは例の如く、ワザン男爵とシェレン男爵がホープ村をネタにして盛り上がっている。
「‥‥にしても、かつての村の領主であるラウス男爵家の話はすっかり途絶えましたな」
「今や忘れられた存在ですからな」
 ラウス男爵家は元々、王都の近隣に領地を有していた貴族家だった。だが先王エーガンの暴政下で身分と領地を失い、その所領は近隣の領主達によって3分割された。それらのうちホープ村を含む土地を取得したのがワザン男爵で、後にホープ村とその周辺は冒険者出身の領主に割譲されることになる。
「ラウス家の当主は失意のあまり酒に溺れ、酔って冬の川に転落して溺れ死に。妻はハンの商人に身売りした末にお妾となり、その子ども達は散り散りになって行方知れず。思えば悲惨なものですなぁ‥‥」
「もはやラウス家のお家再興は不可能も同然。ともかくも今の領主殿の地位は安泰というわけですな。奪われた領地を返せなどと名乗り出る者など、よもや現れますまい」

●不幸せな娘
 ホープ村の領主が大枚を叩いて村に風車小屋を造ることになり、その建設現場では幾人もの人夫達が働き始めている。その光景を森の木の陰から見つめる娘が1人。
(「村もすっかり変わってしまうのね。もうあの頃の村じゃない‥‥」)
 その姿に人夫達が気づく。
「おい。あの娘、今日も来てるぞ」
「このところ毎日だよな」
「誰なんだ、領主様のお知り合いか?」
「お〜い! 何か用事があるなら話してくれ〜!」
 人夫が呼びかけると、娘はさっと森の中に駆け込んで姿を消した。
「何なんだよあの娘は?」
「でも何だか、悲しそうな目をしていたような‥‥」

●今回の参加者

 ea0760 ケンイチ・ヤマモト(36歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 ea0907 ニルナ・ヒュッケバイン(34歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea0941 クレア・クリストファ(40歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1128 チカ・ニシムラ(24歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea4441 龍 麗蘭(32歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea9535 フィラ・ボロゴース(36歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb3838 ソード・エアシールド(45歳・♂・神聖騎士・人間・ビザンチン帝国)
 eb6105 ゾーラク・ピトゥーフ(39歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●村のお仕事
 ソード・エアシールド(eb3838)とフィラ・ボロゴース(ea9535)は村の家畜小屋に足を運ぶ。扉を開けると中は家畜小屋特有の臭いで満ちている。
「さて、この家畜小屋でどれだけの数の家畜が過ごせるかな?」
「う〜ん、牛や馬なら最大で10頭くらいかな?」
 家畜小屋にいる動物は牛3匹、馬2匹、ロバ1匹。他に村には鶏が10羽ほどいるが、そちらは村の家々で飼われている。
「鶏をもっと増やすなら鶏舎が必要な気もするが」
 ソードに言われてフィラは考えてみた。
「鶏舎だったら棚とか止まり木とかエサ箱とか必要だよな」
 作れるものは今のうちからでも作っておこう。簡単な仕事だし。
「食用にするならアヒルもどうだ? せっかく池があるんだし」
 ソードがそういうので、続いて2人は村の溜め池にやって来た。
「この池の規模なら何匹位なら飼えるかな?」
 と、ソード。
「まあ最大で10羽から15羽ってとこかな?」
 しかし問題は家畜に与える餌だ。その件でレーガー卿に相談すると、今年の冬は家畜の飼料が不足するから大量の買い付けが必要だと答があった。
 さしあたって村で調達できる飼料だが、今年は少量ながら小麦の収穫があったから、小麦を粉にひいた後の麩(ふすま)が少しだけある。それに畑で育てた野菜の野菜屑も。近くの森に行けば、どんぐりなどの木の実もいくらか手に入る。
 年が明けたら家畜の飼料も村で自給できるよう、たくさんの仕事をせっせとこなすことになるだろう。
「ところで、家畜の世話に熟練した農夫が必要とのことだが。俺の知り合いに牧場経営の夫人がいる。住み込みで人を雇うことは可能だそうなので、ホープ村の村人を奉公に出して、牧畜や農作業のやり方を学ばせてはどうだろう?」
 レーガー卿は答えた。
「悪い話ではないが、今必要なのはこの村の家畜を世話する者だ。その者と一緒に村人もこの村で働かせ、仕事の要領を学ばせた方がいい」

●マイ・レディ
「レーガー卿の特別扱いは一切なし、別領への移動は私と同伴時以外は厳禁、村でも私の許可なしの単独行動を禁止、ということでいいわね?」
 村の村長3人にそう言い渡すと、ホープ村の女領主クレア・クリストファ(ea0941)はついでにもう一言。
「火霊祭のことで皆から色々と話が出ているようだけれど、お金は無限じゃないからね。皆にも協力してもらわないと」
「しかと承りました」
 村長3人は深く頭を下げて敬意を表した。
「それではレーガー卿を連れて王都へ行ってくるわ。留守をよろしくね」
 王都に着いたクレア達が最初に向かったのはエーロン王の館。
「陛下も本当に酔狂なお人ですね」
「こんなご時世だ、楽しみの一つや二つないと息が詰まる」
 エーロン王としばし談笑した後、クレアは畏まって本題に入る。王領バクルで遊んでいる土地を、一部で良いので農業利用の為に与えて欲しいとの陳情だ。
「あの土地、無駄にするには惜しいかと」
「そうか、分かった。あの土地を管理しているのはルーケイ伯爵夫人のセリーズだから、土地のことは彼女が詳しいはずだ。まずはセリーズと話し合え。俺が正式に許可を出すのは話がまとまってからだ」
 王は補佐役にも、この件の段取りを整えておくよう命じた。
 王の館での用事を済ませると、クレアとレーガー卿は王都の市場へと向かう。売りに出されている家畜を買うためだ。
「優先順位は牛、鶏、馬またはロバ、山羊の順ね。それにお祭り食材用に大きな豚を3匹」
 話をするうちに、2人の乗った馬車は貴族のサロンの近くに来た。
「そうだわ、今のうちにあそこの用事も済ませておかなくちゃ」
「エスコート役は必要かな?」
 尋ねたレーガー卿にクレアはにっこり笑う。
「よろしく頼むわね」
 馬車がサロンの前に止まると最初にレーガー卿が降り立つ。
「ではマイ・レディ、足元にお気をつけを」
 差し伸べられたレーガー卿の手を取ってクレアも外に。淑女のような物腰のクレアと、彼女を恭しくエスコートするレーガー卿。2人の姿がサロンに現れると、たちまちサロンでおしゃべりする殿方やご夫人たちの関心を引いた。
「これはこれはホープ村の領主殿、お立ち寄りを歓迎します」
「たまたまそばを通りかかったので、少しおしゃべりを楽しみに」
 微笑んで答えるクレアだが、実は大事な情報収集の目的があったりして。

●村はにぎやか
「自分の身は自分で守るって事で‥‥村人にも強くなってもらわなくちゃな!」
 そう考えたから、フィラは村の元気な男衆を集めて少しばかり訓練を始めた。
「最初は無理しない程度に基礎からいくぞ」
 まずは村の周りをぐるりと走らせる。その後、村の広場で腹筋と背筋と腕立て伏せのトレーニング。でもそのうちに音を上げる者が出始めた。
「もう勘弁してくださいよ〜」
「これじゃ疲れるだけですよ〜」
 それを聞いてフィラは考える。
「それじゃ、そろそろ組み合いの勝負をやってみるか」
 待ってましたとばかり、若い者達は元気づく。フィラは見た目の強そうな若者3人を選び、真鉄の煙管を手にして言い放った。
「あたいを盗賊だと思ってかかってきな、遠慮するな」
 わーっ! 3人の若者は大声張り上げてフィラに飛びかかった。だが30秒も経たぬうちに、3人は全員が打ち倒されて地面に伸びていた。
「あ痛ててててて‥‥」
 フィラが言う。
「もしも相手が悪党なら全員殺されてたぞ。強くなりたけりゃ地道に基礎体力をつけなきゃダメだ」
 その後も訓練を続けて基本的な格闘の型を教え、それが済むと工作の時間。フィラは皆と一緒に家畜小屋の備品などを作っていたが、そこへクレアとレーガー卿がたくさんの家畜を連れて帰ってきた。
「これはまたずいぶんと買い込んだね」
「牛7頭、馬3頭、山羊1頭、鶏50羽、それに焼肉用の豚3頭、ついでにアヒル3羽、ガチョウ2羽のおまけ付き。とは言っても牛の5頭は子牛、馬は1頭が子馬、鶏は30羽がヒヨコだけど。エサ代も入れて全部で400Gよ」
 クレアが報告する。
「でもこんなにたくさんの家畜、家畜小屋に入りきるかな?」
 するとレーガー卿が言った。
「冬の間は村人の家々で飼えばよい。暖房器具の代わりにもなる。子牛や子馬なら場所も取らないからな」

●衛生知識の普及
 女医ゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)のお仕事は、村人たちの診察と治療。村長の家を診療所に借りて患者を診たが、今時分は風邪っ引きが多い。それに下痢を起こした者が若干名。
「ちょっと台所を拝見させていただけますか?」
 患者の家に出向いて台所を見ると、あちこち汚れだらけ。ほったらかしの生ごみが異臭を放っている。これでは病原菌も繁殖しよう。
 村人への衛生知識の普及が急務と感じたゾーラクは、村人たちを呼び集めて衛生講習会を開いた。
 外から帰ったらうがいと手洗いを。
 家の中はこまめに掃除を。
 生水を飲まず湯冷ましで。
 日々の食事を疎かにせず栄養をきちんと取りましょう。
 肉類・魚類を食べる時は十分に加熱してから。
 その他もろもろの注意事項を言い聞かせる。
「はぁ‥‥」
 村人たちは分かったような分からないような。
「では次に簡単な応急手当の方法を教えます」
 簡単な止血方法、包帯の煮沸消毒、傷口のワイン消毒による化膿防止と、色々教えはしたけれど、それらの知識が村に定着するかどうか。ここはまだ様子を見る必要がある。

●謎の少女
 ここは風車小屋の建設現場。
「ここですか」
 場所の見当をつけると、ゾーラクはパーストの魔法を使ってみた。森の木の陰からこちらを見つめる少女の姿が確かに見えた。その姿をファンタズムの魔法で再現し、同行するクレアに示す。クレアには心当たりがあった。
「彼女は恐らく、ラウス男爵家の娘の1人よ」
 王都に出かけた時、貴族のサロンで情報収集したのだ。没落したラウス男爵家の次女は、今ではこのくらいの背格好に成長しているはず。顔立ちも目や髪の色も、聞いた話と一致する。
 その翌日。クレアは工事の視察ということで、チカ・ニシムラ(ea1128)を伴って現場を訪ねた。
「こうしてると、あったかいにゃー」
 チカはクレアと一緒なのが嬉しくて、馬上でクレアの背中に抱きついている。
「気を抜かないで、森に注意してね」
 と、クレア。風車小屋建設の前金も親方との約束通りに支払い済みで、人夫たちは精を出して働いている。
 森を見ると、あの娘は今日も来ていた。
「にゅ、あの人がそうかにゃ? やっほ〜♪ ちょっとお話しないにゃ?」
 チカが大声出して手をふったもんだから、娘は森の中へ逃げ出した。
「チカ、判る?」
 チカがブレスセンサーの魔法を唱える。
「うに、ばっちり判るにゃ! クレアお姉ちゃんあっちにゃー」
 チカが娘の動きを追い、クレアは馬を飛ばして先回り。森のはずれで待ち構えていると、娘が現れた。
「あっ!」
 クレアの姿に驚き、娘はまたも森の中に逃げようとしたが、背後に回ったチカが逃げ道をふさぐ。
「捕まえたのにゃ〜♪ 何で逃げちゃうにゃ〜?」
「‥‥‥‥」
 少女は無言。
「私はそんな悲しい目をする娘を、放っておけない」
 クレアは馬上から少女の前に降り立ち、娘に手を差し伸べる。
「もう直ぐ火霊祭があるわ、その後で話をしたいの。名前は?」
「‥‥キャロリーナ」
 おずおずと答える娘。その名はラウス男爵家の次女の名だった。

●お祭りの準備
 明日は火霊祭。フィラと村人たちは一緒になって、村の広場に藁(わら)でできた作り物の竜をこしらえた。
「よし、こんなもんでいいだろう。祭りの時に火を点けて、火竜ーって感じかな?」
 フィラがそう言うのを聞いて、村人の1人がぽつりと言う。
「何だかもったいねぇ」
「なーに、また来年も作ればいいのさ。あと火を点けるんだから子供が近づかないように、火竜の火粉やらが飛んでこないあたりに柵を作って火傷防止だな」
 祭りの準備で共同作業が多いだけに、食事も皆と一緒。お昼ごはんが終わると、子ども達がチカの周りに集まってきた。
「チカ姉ちゃん、踊りの練習は?」
「今回は踊りの練習は無しにゃ♪ 皆が踊りたいように踊るのにゃ♪」
 そばで話を聞いていたケンイチ・ヤマモト(ea0760)が、ローレライの竪琴を爪弾き始めた。
「たとえば、こんな感じですか?」
 ルンロンロン♪ リンロンロン♪
 単純だけれど軽快で心をくすぐられるメロディー。チカが踊り始めた。
「こんな感じだにゃ♪」
 決まった型はない。ただ心の赴くまま、メロディーに合わせて手を振り、ステップを踏み、体を動かし。そうするうちに子ども達も好きなように体を動かし、飛んだり跳ねたり。そうして5分ばかりが過ぎたろうか。
「さあ踊りはおしまいにゃ。次は歌の練習だにゃ♪」
 ケンイチは近くにいた村人たちに呼びかける。
「あなた達も演奏してみませんか?」
「いや〜おら達に楽器なんて、とても」
「最初は簡単な楽器でいいのです。きちんとリズムを取って叩けば、鍋や釜だって立派な楽器になります」
 村人たちは互いに顔を見合わせた。
「んじゃ、ちょっとだけやってみっか」
 その日の午後は祭りの準備と出し物の練習に明け暮れ、やがて夕ご飯の時間になった。
「よく遊び、よく食べて、よく寝る。それが一番にゃ♪ ‥‥あ、でも勉強も忘れずに。なのにゃ」
 チカも子ども達も一緒になって食べる。少し離れた場所にはニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)の姿。ニルナは村の女性たちと一緒になって、ずっとお祭り衣装を作り続けていた。火の精霊を模した衣装で、できるだけ暖色を使ってみた。
「でも本物の炎の色には及びませんわね」
 食事がてら、煮炊きの炎を見つめて言う。
「食べ物を焼いたり、夜は闇夜を照らす灯りになる‥‥私達にはなくてはならない物、大事にしなければなりませんね」
 ニルナの隣には村娘のルシーナ。11月に麻酔を使った手術を受けたばかりだ。
「ルシーナ、あの後どうですか? 痛みとか違和感とか‥‥」
「いいえ、すっかり大丈夫です」
「今回も火霊祭で一緒に踊りましょう、もちろん皆さんとも」
 離れた場所にはクレアの連れてきた娘、キャロリーナが独りでぽつんと座っている。ニルナには彼女にも声をかけた。
「見ているだけではつまらない、一歩踏み出して色々話してみると世界も広まりますよ?」
 返事する代わりに、キャロリーナは小さくうなずいた。
 さて食事が終わると。
「今日もマジカル♪チカの教室始めるにゃー」
 チカが子ども達を呼び集め、勉強の時間が始まる。40分の授業、最後まで集中できるかな?
 おや? しばらくしてチカは気づいた。キャロリーナが子どもの1人に読み書きを教えているじゃないか。

●火霊祭
 一夜明けて、今日は火霊祭の日。村の炊事では朝早くから、龍麗蘭(ea4441)がせっせと働いていた。仕入れた豚3頭のうち2頭は足を落とし、内臓を取り出して丸焼きに。内臓の方はミンチにした後、ハーブを混ぜて腸に詰めてソーセージに。残る1頭はバラしてブロックに分け、根気よく包丁で叩いてミンチにしてシュウマイ風の料理に。
「‥‥と思ったけど、全部ミンチにするのは無理よね。煮込み料理にでも使おうかしら?」
 豚の他にも、麗蘭とソードが持ち込んだ魚が沢山。
「人って言うのは傲慢なものでね。こうして他の沢山の生き物の犠牲の上で生きているのに、それをさも当然の様に思ったりしちゃうのよね‥‥」
 料理する手を動かしつつ、手伝いの村人相手にそんな言葉を口にしてしまう。
「でもね、実際は違って私たちは『生かされてる』立場なのよ‥‥だからこそ私たちはこうして犠牲にした動物たちに感謝をし、礼を尽くす事を忘れちゃならないの」
「痛ぁ〜っ!」
 轟いた叫びに驚き、見れば村人の誰かさんが食材のザリガニに指をはさまれていた。
「あっ! もしかしてつまみ食いしようとしてた!?」
「いえ、とんでもない! とんでもない!」
 弁解する男の鼻先に、麗蘭はでっかいクラックロブスターを突きつける。
「それとも、こっちがお望みかしら?」
「ひぇ〜! ご勘弁を!」
 お昼時には料理も揃い、皆で食べたり飲んだり歌ったり踊ったり。
 そして夕方になると、火霊祭のクライマックス。
「さあ盛り上がっていくわよ! でも、羽目を外しすぎないように。火の用心だけは忘れないでね!」
 領主の言葉と共に、山と積まれた薪に火が点される。深まりゆく闇の中、盛大な焚き火の炎は夜空を焦がすかのよう。そして藁の竜にも火が点り、火竜となって闇の中に浮かび上がる。村人達は焚き火を囲んで歌い踊り、焼肉料理を頬張っては酒を飲む。
 フィラも若い衆と一緒に酒を酌み交わし、ニルナも皆と一緒に大いに食べる。
「食べて満足感を得る‥‥この上ない幸せですね、本当」
 でも治療担当のゾーラクは、飲みすぎや食べすぎの患者が続出して、結構に忙しかったとか。