希望の村5〜お偉いさん達と新年祭
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■シリーズシナリオ
担当:内藤明亜
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月03日〜01月08日
リプレイ公開日:2009年01月13日
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●オープニング
●火霊祭の夜に
今日はホープ村の火霊祭。
夕暮れ時、闇が辺りを覆い始めた頃合に、火霊祭はクライマックスを迎える。
山と積まれた薪に火が点され、赤々と燃え上がる炎。深まりゆく闇の中、盛大な焚き火の炎は夜空を焦がすかのよう。
そして藁の竜にも火が点される。冒険者と村人達が力を合わせて作り上げた藁の竜は、火竜となって闇の中に浮かび上がった。
「おおっ、これは!」
「見事な火竜じゃな」
村人達は目を見張り、口々に唸る。だが、火竜の寿命は短い。藁はあっという間に燃え尽き、火勢は急速に衰え、残るはちろちろと赤い熾火の残る灰のみとなる。
「なんだ、あっけねぇな」
「来年もまた作ればいいんじゃ」
「今度作る時には、芯に太い丸太を入れとこうぜ。その方が火勢が長持ちする」
焚き火の方は盛大に燃え続けている。次々と薪が投げ込まれ、火勢は衰えることを知らない。その明かりに照らされ、炎の周りで宴は盛り上がる。
「さあ飲め!」
「さあ食え!」
「さあ歌え!」
「さあ踊れ!」
酒を飲み肉料理を頬張る村人の中にはキャロリーナがいた。かつての村の領主であるラウス男爵家の令嬢、一族が零落した今は平民に身を落としている娘。村の近くで寂しそうにしていたのを冒険者に見つかり、ホープ村へ連れてこられた。
「ねね、一緒に踊ろうにゃ♪ 踊って歌えば楽しいにゃよ♪」
「折角の祭りだし、一緒に楽しまないか?」
冒険者に誘われると、キャロリーナは弱々しく微笑んで踊りに加わった。でもすぐに踊るのを止め、料理の前に座り込んでただ黙々と食べるばかり。
「どうしたんだいお嬢さん? お祭りだってのにそんな暗い顔してさ」
「‥‥‥‥」
「まあここは景気付けに一杯」
隣にいた男に酒を勧められると、キャロリーナはなみなみと酒の注がれた杯を口に当て、ごくごくごく‥‥。その後でむせる。
「おい、大丈夫かよ?」
むせながらキャロリーナは空の杯を男に差し出す。
「もっと注いでよ、飲み足りないの」
さて、ホープ村の一角に設けられた救護所では。
「ま〜ったくどいつもこいつも羽目外しすぎだよ!」
次から次へと運ばれてくる患者に、女村長マリジア・カルルはぼやいていた。彼女は3人いる村の村長の1人。祭では村の女達と一緒の料理係だったけれど、あまりにも救護所に運ばれて来る者が多いので、こっちを手伝いに来たのだ。
運ばれてきたほとんどは、新しく村にやって来た者達だ。村に辿り着くまではすきっ腹抱えた生活が当たり前だったけれど、祭になっておいしい料理をどんと目の前に出され、おまけに酒もたくさん。そのせいでついつい食べ過ぎたり飲みすぎたり。時には喧嘩やらかして怪我したり転んで怪我したり。お陰で救護所の先生をやっている地球人の冒険者は大忙し。そのうちにキャロリーナまで運ばれてきた。
「なんだいキャロリーナ、あんたもかい! 早く先生に見てもらいなって‥‥ちょっとあんた!」
キャロリーナは顔面蒼白、息も絶え絶えで今にも死にそう。マリジアは叫んだ。
「先生、早く来ておくれ! この子が死にそうだよ!」
大急ぎで救護所の先生が飛んできて応急手当。
「急性胃炎に急性アルコール中毒を併発しています。しばらくは絶対安静に」
●キャロリーナの窮地
そんなことがあってから1ヶ月ほどが過ぎた。冬の寒さは厳しいが新年の待ち遠しい時節。村では家畜の数も増え、村の子ども達も大人達と一緒にその面倒を見ている。
「11、12、13‥‥こら動くなよ!」
この前の祭の時に買った若鶏の数を、子どもが一生懸命に数えようとしているけれど、動き回る生き物だからなかなか数えられない。
「そういう時にはこうするんじゃ」
老村長ジェフ・ゼーロがエサ箱を持ってきた。エサ箱が地面に置かれると、若鶏たちは一斉にエサ箱に群がる。エサを食べている間はあまり動かないから数えやすい。
「あ、こうすればいいのか」
ちなみに今のホープ村で飼っている家畜は、牛10頭、馬5頭、ロバ1頭、鶏60羽 山羊1匹、アヒル3匹、ガチョウ2匹。牛のうち5頭は子牛で、馬は1頭が子馬、鶏のうち30羽はヒヨコから大きくなったばかりの若鶏だ。
「おや?」
やって来た者達の姿にジェフは気づく。目の前には男が5人。1人は礼服を着た偉そうなヤツで、その周りには護衛らしき屈強な男が3人。残る1人はほっそりした優男。
「貴方が村の村長殿ですか?」
「如何にも」
「これはこれは。お初にお目にかかります」
礼服の男は恭しく一礼して名乗った。
「私はモラン商会の番頭、名をアルパース・モランと申します。こちらにキャロリーナというお嬢さんがご滞在中と聞きましたが」
「呼んで参りましょう」
ジェフ村長は子どもに呼びに行かせたが、なかなか戻って来ない。
「どうしたのじゃろうか? 伝えるべき事があれば、後でキャロリーナに伝えておきますが」
すると番頭は声を潜め、村長の耳元で告げた。
「実はキャロリーナという娘、我が商会で働いていたのですが、この秋に商会から132Gもの金を盗んで逃げ出しましてな」
「なんですとっ!?」
「姿を見せないところを見ると、この村からも逃げ出したのでしょうかな? ともあれ、これは村の領主様にも話を伝えねばなりませぬな」
また改めてここに来ると告げると、モラン商会の者達は立ち去った。それから程なくして。
「こんな所に隠れていたのかい?」
家畜小屋の敷き藁の中に身を隠していたキャロリーナを、エルフのバードで『歌うたい村長』と呼ばれるキラルが見つけた。
「私、何も盗んじゃいないわ! あいつらの話はウソよ!」
「だったらやっていないって、堂々と言い返せばいいのに。それとも何かやましいところでもあるの?」
「これ以上何も聞かないで!」
「あのさ‥‥僕、人の記憶を読み取る魔法が使えるんだけどな」
キャロリーナはぎくっとしてキラルを見つめる。
「正直に答えた方が身のためじゃないかな〜?」
「‥‥正直に言うわ。お金を盗んだのは本当のこと。でも132Gも盗んでなんかいない! 盗んだのは7Gと12Cだけよ!」
「本当に?」
「本当よっ!」
キラルは、はぁっとため息。
「これは厄介なことになったね〜」
●新年祭
今年も残り僅かとなったその日、ホープ村領主の上位領主であるフオロ分国王エーロンは思い立った。
「年が明けて、王都で新年祭を祝った後は、ホープ村を訪ねてみるか」
これはエーロン王ならではのいつもの酔狂、ということにしておこう。そう受け取った補佐役は早速、仕事にとりかかる。
「では早速、ホープ村の領主に連絡を。日取りは1月5日で如何でしょう?」
「それでいい。ついでだ、隣領の領主達にも招待状を送れ。王領バクルを治めるルーケイ伯爵夫人セリーズにもだ。ホープ村の領主には今後のことで、セリーズと相談すべきことがあることだろう」
1月1日からは少々ずれるが、1月5日は村にお偉いさん達が集まる日ということで、ホープ村ではこの日に新年祭を盛大に祝うことになる。その知らせは隣領のワザン男爵とシェレン男爵にも届き、2人は例のごとく貴族街のサロンで話に花を咲かせる。
「時に、キャロリーナの噂はお聞きになりましたかな?」
「いやもう、あちこちで噂になっておりますな」
どうやら噂を広めて回っている誰かさんがいるようで。
「ここはホープ村領主殿のお手並み拝見といきますか」
「ですな」
男爵2人はにんまり笑った。
●リプレイ本文
●キャロリーナの過去
「キャロリーナ、理由はどうあれ他人のお金を盗ることは良いことではないんです‥‥それは分かっていますね?」
「はい」
「ただ、その理由次第では貴女を救ってあげることができるかもしれない‥‥。だから正直に話していただけないでしょうか‥‥?」
「それは‥‥」
問い詰めるのはニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)。でもキャロリーナは口ごもりっぱなし。
「お金を盗ってしまった理由は‥‥? 以前はどのように暮らしていたのです‥‥? モラン商会での仕事の内容は‥‥?」
「‥‥‥‥」
見かねて、村の領主クレア・クリストファ(ea0941)が誘う。
「キャロリーナ、一緒にいらっしゃい」
連れ出した先は村を見渡せる丘の上。
「今は2人だけ。全てを嘘偽りなく語りなさい。ここなら遠慮なく本音をぶちまけて大丈夫。貴女もまた護りたいの‥‥領民達と同様に」
「私を護ってくれるの?」
「ええ、勿論よ」
ただ静かに、クレアは母親のような微笑みを浮かべる。キャロリーナは決意した。
「‥‥みんな、話すわ」
それからしばらくして、2人は村に戻ってきた。
「どうでした?」
「色々あってね」
問いかけるニルナに、クレアは聞き出したばかりの話を伝える。
平民へと零落した後も色々あって、下町のきつい仕事場で働いていたキャロリーナはモラン商会に拾われた。元貴族の娘で読み書き計算が出来たから、商会ではいい仕事にありつけた。
でも商会の番頭は酷い奴だった。キャロリーナに懸想し、言い寄ること数知れず。だけどキャロリーナが求めに応じないものだから、しまいに番頭はあくどいやり方でキャロリーナに迫り、とうとうキャロリーナは商会から逃げ出した。
商会のお金を持ち逃げしたのは、お金欲しさの誘惑に負けたから。
でもそのお金は全部、酒場で出合った優男に貢いでしまい、今はすっからかん。
その貢いだ相手の優男というのが、番頭と一緒に村へやって来たあいつだ。
「そういうわけでキャロリーナは村で謹慎。その間に奉仕活動をしなさい」
と、クレアは命じる。
「盗った分は働いて清算しなさいね」
●大掃除
新年祭を明後日に控え、ホープ村では大掃除が始まった。
「さって、徹底的に掃除するわよ!」
箒に手桶に雑巾、完全装備でお掃除に向かう龍麗蘭(ea4441)の後から、村人達がついて来る。
「で、姐さん。どこから始めやす?」
「まずは、あそこよ!」
麗蘭が指差したのは村の井戸のすぐそば。水精霊と地精霊の像が安置された、小さな祠(ほこら)だ。
「精霊を祀る場所は重点的に掃除しなくちゃ!」
で、村の家畜小屋では冒険者達がお掃除に奮戦中。ルスト・リカルム(eb4750)も仲間と共にせっせと働き、手伝いの村人にもきちんと指図する。
「古い敷き藁の片付けは済んだ? じゃあ、次は餌場の清掃を念入りにね」
でも言ってるそばから、村人の1人がうっかりして餌箱をひっくり返す。
「うわあっ!」
餌箱の中身を派手にぶちまけ、慌てた拍子に周りの鶏どもまで蹴散らした。
「コケーッ!! コケーッ!!」
「うわーっ!! 逃げたぞーっ!!」
「捕まえろ! 捕まえろ!」
鶏が散り散りに逃げる。村人達が追いかける。また物がひっくり返る。もうてんやわんや、とんだ大騒動。
「もう! 何をやってるのかしら!」
「ルスト様! 鶏が1匹足りません!」
「もう! ちゃんと数えたの!?」
●肥料が問題
フィラ・ボロゴース(ea9535)は肥料保管庫を作るつもりでいた。
「水回りを避けつつ、運び易い様に畑に近い場所を確保だな」
ところが小屋作りを始めると、ソード・エアシールド(eb3838)が農業指南役のレーガー卿を連れてやって来た。仕事中のフィラを見て、レーガー卿は不思議そうな顔つきになる。
「肥料保管庫を作っているのか? だが、肥料のことが分かっているのか?」
「ええと、それは‥‥」
「この村で肥料に利用できるのは、古い敷き藁、野菜クズ、生ゴミといったところだ。そんなものを小屋に詰め込んだら腐って虫が湧き、しまいには小屋まで腐ってしまう。肥料に用いるなら穴を掘って土に混ぜるべきだ」
「では、そっちの仕事に取り掛かろう」
ソードが畑のそばに穴を掘る。
「生ゴミ処理には手軽な上に畑も肥えるから一石二鳥だな。ところでレーガー卿、家畜の飼料を村で自給する為の下準備も必要だな? 今後の家畜の増加も見込み、現在の家畜が養えるギリギリではなく、多少増えても対応できるように」
「それよりも、まずはこの冬を乗り切ることだ。飼料の買い付けを急いだ方がいい。‥‥いや、待てよ」
レーガー卿の頭の中に何かが閃いたようだ。続けて彼は言った。
「飼料の少ない冬場を乗り切る方法を思い出した。かつて私が試したやり方だが、空気の出入りが悪い密閉した建物を作り、中に干草を貯めこんでおくと、干草は腐らずに長持ちするのだ。この村に大きな貯蔵庫を作って、このやり方を試してみるか?」
これは飼料となる干草をサイロで保存するやり方だ。
●衛生指導
1.生ゴミと食材を近くに置かない
2.台所のごみはこまめに片付け煮沸した湯で置いた場所を消毒する
3.病原菌は空気が澱み低温で乾燥した場所を好むので
こまめに窓を開けて換気し家の中に濡れた布をぶら下げ湿気を確保する
4.外から帰ったら手洗いうがいは忘れずに
5.肉などの食材は十分加熱したものを摂取する
6.日々の食事を疎かにせず栄養はこまめにとる
7.寝台のシーツや毛布はこまめに洗濯したり天日干しして使用する
以上はゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)が村で普及に勤めている衛生知識の一覧である。文字に書いて見やすい場所に張り出したいくらいだが、村人の中には字の読めない者も少なくない。だからゾーラクが根気よく、村人の1人1人に教えてやるのだが、やってみると大変だ。
電気もガスも水道もないのが当たり前の村。水は使う分を井戸から汲む。お湯を沸かすのも薪や炭の火力に頼る。お湯を沸かしたり、うがいや手洗いをするのにも労力がいる。家の衛生状態はなかなか改善しない。
大きな問題は冬場の栄養不足だ。新鮮な野菜や果物が不足する。
でも暖炉からはたくさんの灰が出る。
「暖炉の灰を肥料として畑に撒く方法は、この時期に有効でしょうか?」
と、ゾーラクはレーガー卿に尋ねてみた。
すると彼はこう言う。
「いい方法だが畑は広い。その全てにばら撒いては効果が薄くなる。肥料を重点的に撒く場所と、そうでない場所を定めた方がよいだろう。作物に肥料をどれだけ与えたらいいのか、その目安を覚えさせるためにも、村人の住居の近くに菜園を作らせてはどうだね? まずは小さいところから始めていくのだ」
●訓練
忙しい大掃除も一段落すると、フィラはソードと一緒になって、村の若い衆に戦闘訓練を施した。
「今回から怪我しない程度に、軽く組み合いを加えよう」
組み合いを始めてみると、それぞれの人間味が表に出て面白い。すぐに夢中になる奴と、そうでない奴。中には血気盛んですぐ喧嘩腰になる奴も。
「おいおい、これはあくまでも組み合いだ。喧嘩はするなよ」
すかさずフィラが注意して回る。
「うおう!」
「やあっ!」
威勢のいい組み合いの掛け声は、新年祭の飾りつけを始めたニルナの耳にも届いた。
訓練が終わった後で、ニルナは若い衆を呼び集めて諭す。
「身内にも礼儀ありです‥‥新年祭といっても迷惑をかけるようなことは絶対してはいけませんよ」
「心得まして」
若い衆達は真顔で返事する。だが、ここで騒ぎが起きた。
「大変だ、家畜泥棒だーっ!!」
突然の叫び。見れば鶏を抱えて逃げていく不審者がいる。
「ひっ捕らえろ!」
「逃がすな!」
今こそ訓練の成果の見せ所。若い衆がどっと不審者に飛び掛る。
捕らえてみれば、そいつは村に宿泊中の流れ者。
「すみません、つい出来心で‥‥」
「馬鹿野郎! 迷惑かけやがって!」
若い衆の1人がうんざり顔で言う。
「これでは先が思いやられるなぁ‥‥」
●お祭りの準備
新年祭の出し物の準備が始まった。
「お祭り恒例になってきたにゃねー。今回も歌と踊りを披露するのにゃ♪」
チカ・ニシムラ(ea1128)と村の子ども達が一緒になって、お祭りで披露する歌と踊りも今や恒例。
「上手く歌おうとしないでもいいにゃよー。楽しければそれでOKにゃ♪ ‥‥そういえば楽器の演奏に興味ある人はいるのかにゃ?」
尋ねると、幾人かの子どもが手を上げる。
「それじゃ楽器の練習も考えないとにゃー♪」
とりあえず、鍋を叩いたりして楽器の代わりには出来るけれど。
フィラも今回、村人と一緒に藁で竜を作っている。でも今度の竜は燃やさない。竜が完成したら、数々のおめでたい品々をくくりつけて飾るのだ。
「使わなくなったら、バラして家畜の寝床とかにも再利用できるしな」
さて、歌の練習が終わった後は、これも恒例のアレだ。
「第‥‥何回だっけにゃ? マジカル♪チカの学校開校にゃ♪ 今回もキャロリーナお姉ちゃんにもお勉強手伝ってもらうのにゃ♪」
「え? ‥‥ああ、奉仕活動ね」
キャロリーナの参加で、子ども達に教える先生が2人に増えた。
「んー、キャロリーナお姉ちゃんのおかげで少し楽になったにゃー」
ゆくゆくはキャロリーナにも、村の先生として頑張って貰いたいとチカは思う。でも、今はまだ口に出さないでおこう。
●番頭退散
今日は新年祭の日。麗蘭は料理にかかりっきりだ。でも使う道具は包丁だけではない。
「こらっ、そこ!」
目ざとく見つけた摘み食いの実行犯に、2本の薪を紐で繋いだ即製のヌンチャクが飛ぶ。
「私の目の黒い内は摘み食いはさせない!」
「ひぇぇ、ご勘弁を!」
料理を手伝う村の親爺はペコペコ。
「いいから真面目に手伝いなさい!」
「んじゃ、食材の調達に」
ソードが食材を持ってきたというので、親爺は取りに行く。ところが馬に乗せられた食材を見るなり、親爺は腰を抜かした。
「ひぇぇ、モンスターだぁ!」
巨大な大ナマズに、見るからに恐ろしげなアンコウ。
「どうした、料理に使わんのか?」
ソードが尋ねる。
「とんでもない、こっちが食われちまいそうだ」
料理の美味しい匂いが漂い始めた頃、村に来訪者があった。
モラン商会の番頭である。ぜひ領主と話をしたいとやって来た。
「‥‥もしかしてホープ村の金を毟り取ろうと企んでるんじゃ」
麗蘭の目が油断なく光る。
領主クレアは胸を張り、番頭と向き合った。
「キャロリーナが盗んだ分は私が弁償するわ」
ところが、クレアの差し出した7G12Cを見て、番頭は不満を露にする。
「これはいかなこと、まるで金額が足りません」
「差額があるというなら、金の流れについての全記録の開示を要求するわよ。それとも、頭の中の記憶を魔法で調べてみようかしら」
クレアはキラルを呼ぶ。
「誰が嘘をついているのか、白黒ハッキリさせましょうか。公平性が不満なら、中立の立場の魔法使用者を陛下に要請するけれど」
「いや、しばしお待ちを‥‥」
番頭は態度を変えた。
「もしかしたら当方の計算違いかもしれませぬ。今一度、調べて参りましょう」
そう言うと番頭は金を受け取り、村から帰った。後ほど番頭から連絡があったが、キャロリーナ以外にも盗みを働いた奉公人が見つかり、キャロリーナの件はこれで一件落着とのことだった。‥‥ホントかな?
●新年祭
「どんな世界でも新しい夜明けを祝うのは変わらないみたいですね‥‥。今年も良い年になりますように‥‥。この村にとっても、ね」
と、ニルナは願う。村の入り口には続々と馬車が到着。エーロン王やルーケイ伯爵夫人や隣の領主達といったお客人が全員揃うと、新年祭の始まりだ。
「今日はめでたく新年祭を祝うことが出来たわ。村がここまで来れたのもみんなのお陰、ありがとう。これからも先達の者達は、後に続く若者達や子供達に誇れる行動をするように。若者達や子供達はそれを見習い立派な人間となるように。それを胸に刻み今年もまた頑張っていこう」
領主クレアの挨拶に皆が拍手。続いて、藁で作った大きな竜の前に、村の子ども達がずらりと列を作って並ぶ。でもこれは村の子ども達の半分。あとの半分の子ども達は、その周りで輪になる。
♪新年 おめでとう 新年 おめでとう
めでたいめでたい 新年あけまして おめでとう♪
列になった子ども達が歌い始め、輪になった子ども達が踊り始める。その歌と踊りが一区切りつくと、フィラの声が響く。
「さあ新年を祝う祭りだ、ぱぁーっと行こうか! おっと、はしゃぎすぎて怪我してもつまらない、そこは程々にな。ま、それ以上は野暮な事いわねぇさ! 祭を楽しもう!」
人々は歓声を上げ、一斉に歌い踊り始めた。
●交渉
新年祭が終わった後も、領主クレアには大事な仕事が待っている。やって来たお客人達との交渉だ。ルストも大いに協力し、交渉が上手く運ぶようクレアを補佐した。
ルーケイ伯爵夫人セリーズに対しては、彼女の支配地である隣領、王領バクルの分割と開墾について交渉。
シェレン男爵に対しては、農作の指南役の派遣を要望。
ワザン男爵とも今後の取引を交渉。
そしてエーロン王との交渉に際して、クレアはキャロリーナを手招き。おずおずとキャロリーナが進み出ると、クレアはエーロン王に願い出た。
「彼女の後見人になる許可を、ここに願う次第です」
王はキャロリーナの顔を覗き込む。
「昔、おまえと会ったことがある。覚えているか?」
「‥‥はい。とても幼い頃に」
その返事に王は笑った。
「父母に連れられて宮中晩餐会にやって来た幼子が、こんなに大きくなるとはな。今後も期待させてもらうぞ。クレア、彼女を任せる」
王の許可を得ると、続いてクレアはその場にいる客人達の全員に願う。ラウス男爵家の長女と長男の捜索に協力して欲しいと。
「残る二人もきっと生きている‥‥私はそう信じたい」
「俺は協力する」
真っ先にエーロン王が答えた。続いてセリーズ。
「私も協力します」
そしてワザン男爵とシェレン男爵も。
「私もだ」
「出来る限り協力しよう」
クレアはその場にいる全員に一礼した。ありがとうという感謝の言葉と共に。