バカくさ物語3〜恐怖の火祭燃えろナンパ男
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■シリーズシナリオ
担当:内藤明亜
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや易
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:12月18日〜12月23日
リプレイ公開日:2008年12月27日
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●オープニング
●恋敵
♪そやつは正にこの世の恥ィィィ──ッ!! 名前を知らぬ者はなァァァ──いッ!!
その名はルキナス・ブリュンデッドォォォ──ッ!! 七柱の大聖竜もこれを許さじィィィ──ッ!!♪
ウィルの下町で働く物売りの娘が、とある酒場の前を通りかかった時、店の中からとんでもない音が流れてきた。
「え!? 何、これ!? まさか‥‥これって歌なの!?」
歌なのだろう、多分。歌っている本人は歌のつもりでいるようだ。だがものすごいドラ声で、歌というよりも何かの獣が吠えているようでもあり。
それでも娘は好奇心にかられ、店の中に入ってみた。
店の中ではバードの男が、リュートを猛々しくかき鳴らして絶叫していた。
ベベンベンベン! ベベンベンベン!
♪ド腐れ外道のルキナスめェェェ──ッ!! 首を洗って待っておれェェェ──ッ!!
復讐の日待ちて幾星霜ゥゥゥ──ッ!! 今こそ裁きの時は来たれりぃぃぃ──ッ!!♪
「は?」
娘の目が点になる。目の前にいるこの男はバードに違いないのだろう。だってバードの恰好をしているし。でも男の体格は筋骨隆々、表情も見るからに荒くれ者。どこぞの戦場で剣を振り回している方がよっぽど似合っている。だけど何故だろう、竜の雄たけびのようにほとばしる男の歌声には、どういうわけか心にガンガン響くものがある。
「なんてド下手な歌なの!? でも、ものすごくド迫力!!」
ブチィィィン!!
勢い余ってリュートの弦がぶち切れた。男は歌うのを止め、リュートの弦を張り直しつつ、店に入ってきたばかりの娘に目を向ける。
「お嬢さん、俺の歌に惚れたようだな?」
「ええ、こんな物凄い歌を聴いたのは生まれて初めて!」
「俺は正義とド根性の燃える吟遊詩人、シュベルグレンバウザー・バーニング」
「シュベ‥‥何だか長い名前なのね」
「ならばシュベルと呼ぶがいい」
「それで、歌の中に出てくる誰かさんだけど、ルキナスって‥‥」
娘にとってもどこかで聞いたような名だったけれど、誰だったっけ?
ドオオオン!! シュベルが拳をテーブルに叩きつけ、怒声を張り上げた。
「ヤツは俺にとって生涯の敵! ヤツのせいで俺は最愛の恋人を失ったのだ!! この怨みは死んでも忘れんぞ!! しかもあのド腐れ外道は婚約者を婚前交渉で身ごもらせ、あろうことか腹の子ともども結婚式を挙げようというのだ! 何たる破廉恥!! 何たる恥知らず!!」
「まあ! なんて酷い男なの!」
「その話を聞いた俺は今こそヤツへの復讐を決行すべく、ここでこうして仲間を集めているのだ!!」
見れば店の中は女性たちでいっぱい。皆、シュベルの歌に引き寄せられてきたのだ。
弦を張り替えたシュベルは再び歌い始める。
♪我が同志達よォォォ──ッ!! 怒れ怒れ怒れェェェ──ッ!!
怒りの炎でヤツを燃やし尽くすのだァァァ──ッ!! 正義は我らにありィィィ──ッ!!♪
歌を聞き続けるうちに娘の記憶の扉が開く。
「思い出したわ! ルキナスっていったら昔、あたしにつきまとい続けたナンパ野郎じゃないの! あたし、あの男を絶対に許せない! シュベルさん、あたしも戦列に加わるわ!」
「お嬢さん、今日からあなたも我らの同志だ」
差し伸べられたシュベルの手を握り返し、娘も大勢の女性と一緒になってシュプレヒコールの大合唱。
「我らは正義!!」「我らは正義!!」
「女の敵に鉄槌を!!」「最低男に天誅を!!」
恐るべし歌の力。実はシュベルの歌は、メロディーの魔法がかかった呪歌。耳を傾け心を奪われたが最後、誰もがその気になってしまう力を秘めていたのだ。
「我が同志達よォォォ──ッ!! 出陣の時は来たれりィィィ──ッ!!」
シュベルの号令が下り、集まった女性たちはぞろぞろと彼に続いて店を出る。
「結婚式をぶち壊せぇーっ!!」「最低男に天誅をーっ!!」
●強襲失敗
だが惜しいかな、恋敵に復讐せんとするシュベルの企ては失敗に終わった。
復讐を叫び、結婚式の行われるフェイクシティの教会へと迫る一団の行く手を阻んだのは、ウィンターフォルセの真田獣勇士と冒険者たち。シュベルは冒険者の放ったコアギュレイトの魔法で自由を奪われ、再び体の自由を取り戻した時には教会での式が終わっていた。ルキナスとその婚約者は、晴れて夫と妻となったのだ。
「いくわよ、せーの!」
祝福のフラワーシャワーを浴び、ルキナスの新妻が高々と放り投げる3つのブーケ。教会の前に集まった人々は歓声を上げ、ブーケにたくさんの手が伸びる。
だがその光景はシュベルにとっては耐え難い。連れてきた大勢の女性から引き離され、警備兵に引っ立てられいくシュベルは独り、苦渋のつぶやきを漏らす。
「おのれルキナスめ、いつか目に物を見せてくれる!」
この事件の後、ラントの王領代官にしてフェイクシティの治安責任者であるグーレング・ドルゴは、シュベルに町からの追放を言い渡した。
だが後になって考えてみれば、この処罰は軽すぎたのかもしれない。
●ピンチのナンパ男
時は過ぎて今は12月。
「いけね、羊皮紙を切らしちまった」
王都に戻って仕事中のルキナス、買い物で街中に出かけたが、ふと路地の陰から手招きする女性の姿に気づく。
「おや、お嬢さん。もしやどこかでお会いしたことが‥‥」
ついふらふらと女性に近づいたのが不味かった。
ガァン! 背後から振り下ろされる棍棒。気を失ってぶっ倒れたルキナスの頭上では、シュベルが笑いを浮かべていた。
「かかったな、ルキナス」
‥‥気がついた時、ルキナスは何処とも知れぬ部屋の中。体はぐるぐる巻きにされて棒に縛られている。まるで丸焼きにされる豚か何かのように。
「おい、これは何の真似だ?」
顔を上げると目の前にシュベルがいた。
「貴様には火祭りをたっぷりと楽しんでいただこう」
「火祭りだって? 火霊祭のある11月はとっくに終わったじゃないか?」
「そうだ11月は終わった。だが本当の火祭りはこれからだァァァ──ッ!!」
下を見れば料理に使う炭がどっさり。傍らでは女性たちが大鍋でドロドロのソースを煮込み、隣の部屋からは猛犬の唸り声が聞こえてくる。
「おい何をする気だ! うわやめろ!」
「ガハハハハハハハッ!! 火祭りのメインディッシュは貴様だぁ!! 全身を炭火でじわじわと焼いて、特製ソースをたっぷり塗りたくり、俺様の可愛い猛犬どもに味見させてやる!!」
●処刑予告
シュベルの処刑予告状があちこちに届く。ウィンターフォルセの領主館はもとより、フェイクシティの教会にも。
「つまり‥‥首謀者のシュベルにルキナスを殺すつもりはないわけですね。ただ、懲らしめのため死んだ方がましなほどの目に遭わせると」
下手くそな字で書かれた処刑予告状に目を通すと、町内会会長に立候補中のラーキス君は、困惑顔でこう言った。
「こう言っては何ですが身から出た錆です。ルキナスの救出は真田獣勇士と冒険者の有志に全てお任せとしましょう。こっちにはやるべき仕事がありますから」
話を聞いていた教会の司祭ピエールもこう言った。
「確かに日々の勤めを疎かにはできません。今はルキナスの無事を祈るとしましょう」
一方、ウィンターフォルセでは。
「ルキナスの居場所を突き止めました。王都の外れ、森の中の一軒屋です」
流石は真田獣勇士、動きが早い。
「直ちに救出に向かいましょう、冒険者ギルドにも連絡を」
●リプレイ本文
●キーダ
ここはフェイクシティ。
「しかしあのシュなんたらもしつこいのう。無関係ではないにしろ、一般の女性達も巻き込むとはちーっちゃい男じゃな」
そ〜んな言葉を呟きながら、ヴェガ・キュアノス(ea7463)はキーダに会いに来た。
過去にルキナスをナイフで刺したキーダだが、今はルキナスの優しさをよく判っているはず。そう思ったからヴェガは、目の前にいる10歳の女の子に問うてみた。
「キーダはルキナスの事を極悪人じゃと思うかえ?」
キーダは首を横に振る。
「吟遊詩人に利用されている女性達を正気に戻す為、ルキナスを助ける為、力を貸して貰えるかの?」
「ルキナスは嫌いだけど、ヴェガが行くなら一緒に行く」
キーダは同意したけれど、実質的なキーダの保護者である地球人エブリーは心配する。
「大丈夫なのですか? 危険な現場にキーダを連れていって」
「そこはキーダが危険な目に遭わぬよう、わしとゴンスケで全力で守るゆえ」
ベテラン冒険者の言葉である。エブリーも納得した。
「では、貴女を信頼してお任せしましょう」
●結集
「さて、シュベルなんとかさんの手から我らが軍師様を奪還しなければなりませんね。なんだかんだ言っても、フォルセの礼拝所もシティの教会もルキナスさんがいなければ出来なかった物ですから、やはり無事に救い出して差し上げませんとね〜」
ギルス・シャハウ(ea5876)がそう言うのを聞いて、ジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)が言った。
「自業自得なので放って置いても良さそうな気もしますが、ゆかり様や御子様の事を考えると捨て置く事は出来ませんか‥‥」
「ルキナス、要は美人局に引っかかったわけだな。‥‥正直、気が乗らないんだが、未亡人と父なし子が増えるのはよろしくない‥‥それに、処刑方法がグロいのは不味かったな‥‥。もっと面白ければ逆に協力していたところだ‥‥」
と、オルステッド・ブライオン(ea2449)。セオドラフ・ラングルス(eb4139)もこう言った。
「普段のルキナス殿の言動を思い返しますと、今ひとつ救出意欲が湧きませぬが‥‥。今、彼に死なれるわけには参りませぬな。やっていただく仕事も山ほどありますし。仕方がありませんから、さっさと回収して仕事に戻っていただきますか」
なんだかんだ言いながら、冒険者達は労苦を厭わずルキナスの救出に乗り出したのだった。さて彼らが待ち合わせ場所で待っていると、ウィンターフォルセからの一行がやって来た。真田獣勇士の面々に加えて少女が1人。
「お久しぶりですぅ。わたしも是非とも協力しますぅ♪」
フォルセのファーム担当、マリスである。
「本当に久しぶりだな‥‥来て頂けて心強い‥‥。さて、救出の段取りについてだが‥‥」
オルステッドのリードで作戦会議が始まった。
●救出作戦決行
今、冒険者達は森の中にいる。目の前には一軒屋。あそこにルキナスが捕らえられているのだ。その証拠に家からは騒々しいリュートの音とドラ声が響いてくる。
ベベンベンベン! ベベンベンベン!
♪ド腐れ外道のルキナスめェェェ──ッ!! 今や貴様の悪運は尽きたぁぁぁ──ッ!!♪
「また随分と賑やかなことだ‥‥」
真田獣勇士の指揮を執るオルステッドは呆れたが、そこに報告が入る。
「偵察の結果、家の中にはシュなんたらの他に女性が5人、それに猛犬が7匹いることが判明しました」
「そうか‥‥。煽動された女性たちの確保が最優先だ、保護できる位置についてくれ‥‥」
「了解」
ギルスは一緒に連れてきたペットのボーダーコリーの背中に、干し肉をくくりつけた。
「うちのルーニー君とファニー君に、猛犬を上手に誘き出してもらいましょう」
2匹の犬は森を飛び出して一軒屋へ駆けていく。ところが、しばらくすると2匹だけで戻ってきた。
「どうしたのです?」
2匹の犬は、一緒に来てくれという素振りを主人に示す。そこでギルスも犬と一緒に、目の前の家まで飛んでいった。家の台所には明かりが灯り、その隣には物置部屋。物置の扉の向こうからは猛犬のうなり声が聞こえてくる。
「ガルルルルル‥‥」
調べてみると、物置の扉には閂(かんぬき)がかけられていた。
「あ、そういうことでしたか」
半ば開いた窓からギルスは家の中に潜り込む。物音を立てぬよう、そぉ〜っと、そぉ〜っと‥‥。
「ガウッ! ガウッ! ガウウッ!」
「ガウウウウッ! ガウガウガウッ!」
気づかれた! ギルスの気配を察した猛犬達が一斉に吠え始める。
「ガウッ! ガウッ! ガウウッ!」
「しーっ、静かにしてください」
口に指を当てる仕草を見せても、侵入者に気づいた猛犬が静まるはずもない。見れば猛犬ども、み〜んな人相──いや犬相の悪い犬ばっかり。よくもまあ、こんな犬ばっかり集めたもんだ。
「困りましたねぇ」
ギルスはさっさと仕事を済ませることに決めた。すばやく扉の裏側に回り、さっと閂を外して扉を開けると、ボーダーコリー達が開いた扉の前にやって来た。
「ガウウウウッ!」
その姿に刺激さた猛犬達が開いた扉に向う。ボーダーコリー達はさっと逃げ出した。これは計画通り、猛犬を引き連れて逃げて行く先はマリスの待つ森の外れだ。ボーダーコリーの首には、『犬達のお世話をよろしくお願いしますね〜』というマリス宛の手紙もくくりつけてある。
「そう騒ぐな、美味しいディナーはもうすぐだ」
声と共に隣室へ通じる扉が開く。サッと物陰に隠れたギルスの目の前に現れたのはシュベル。シュベルは犬達がいなくなったのに気づいて慌てた。
「俺の犬達はどこへ行ったぁ!?」
開いた扉を目にし、シュベルも外に飛び出す。
「こらぁ!! 勝手に散歩へ行くんじゃねぇ!!」
好都合というか、シュベルも勝手に出ていった。
「あの足の速さでは追いつくのは無理でしょう」
ギルスは自分の仕事を続行。隣の台所からは威勢のいいシュプレヒコールがずっと聞こえてくる。
「我らは正義! 我らは正義!」
こっそりと隣の部屋に移動すると、そこにルキナスがいた。食材の肉みたいに棒に縛られた哀れな姿で。その傍らでは女達がせっせと処刑の準備に励んでいる。天井の梁の陰に身を潜めるギルスには気づかない。
「そろそろ炭に火をつけようかしら?」
そう口にした女に向って、ギルスはコアギュレイトの魔法を放つ。魔法の呪縛で女は動けなくなりその場に固まった。
「あら?」
別の女が天井を見上げる。だがギルスの姿に気づいた時、その女もまた魔法で呪縛された。
「これは」
「どういうことなの?」
残りの女達も状況がよく分からぬまま、気がついたらギルスの魔法で生ける彫像と化していた。
「これで全員ですねー。あとはシュなんたらの帰りを待ちますか」
ギルスは仲間達を手招き。家の中へ足を踏み込んだ真田獣勇士達はオルステッドの指示に従い、生ける彫像達を離れた場所へと運び出す。決着がつくまで退避だ。
「いいか‥‥そーっと運ぶんだぞ‥‥」
やがてシュベルがぶつくさ呟きながら戻ってきた。
「畜生、どこへ行きやがったんだ」
その姿に気づくや、森の木の陰に隠れていたヴェガはホーリーフィールドの呪文を唱え、連れてきたキーダとペットの柴犬そして自らの周囲に結界を張り巡らす。これでシュベルが襲ってきても大丈夫。だがシュベルはヴェガ達には気づかない。そのまま家の中へ戻り、がらんとなった家の中を見て驚いた。
「こ、これはどういうことだぁ!?」
「女性達は我々が保護しました」
「何ぃっ!?」
背後からの声に振り向けば、そこには縄ひょうを手にしたジャクリーンが立っていた。
●冒険者の勝利
「そんなおもちゃみたいな武器で、俺に勝てるってかぁ!?」
ドラ声で怒鳴るシュベル。ジャクリーンが動く。
ビィン! 繰り出された縄ひょうが、目の前のテーブルの上に置かれた水差しを叩き割った。
「今のはわざとです。ルキナス様を解放し投降しなければ次は当てますよ」
「だああああーっ!!」
シュベルは怒声を上げ、手をしたリュートを振り下ろす。そのリュートは普通のリュートではなく鉄の塊のような重量物、シュベル愛用の特注品だ。
バキィィィッ!!
鉄のリュートはテーブルを派手に打ち砕いた。
「お嬢さん、大怪我しないうちに降参した方が身のためだ」
不敵に言い放つシュベル。構わずジャクリーンは縄ひょうを繰り出し、刃のついたロープがシュベルを打つ。と、思いきや──シュベルは縄ひょうの攻撃を受けつつ、そのロープを素早く掴み取った。
「何っ!?」
「お嬢さん、俺を甘くみるなよ。だが俺は女性には優しい男。お手柔らかにお相手してやろう」
するとシュベルの背後からセオドラフの声が。
「おっと、ここにもう1人いることをお忘れなく」
シュベルは振り向き、その姿を認めて怒鳴る。
「野郎相手には容赦せんぞぉぉぉーっ!!」
その瞬間をセオドラフは逃さず。開いたシュベルの大口を狙って、高貴なる者のレイピアを稲妻のような速さで突き入れた。
シュッ! 空気を切り裂く刃。続いてシュベルの絶叫。
「ぐあああああああああっ!!」
ポイントアタックは見事に決まった。レイピアはシュベルの舌を貫き、その下の顎の肉にまで届いていた。
「ぐああっ!! ぐあああーっ!!」
暴れまわるシュベル。その動きがぴたりと止まる。頭上からギルスがコアギュレイトの魔法をかけたのだ。
「無駄な戦闘で時間を潰すのもアレですからねー」
小さな指でシュベルの頭をつんと押す。硬直したシュベルの体は人形が倒れるように傾き、どおんと音を立てて床に倒れた。
●おしおき
戦いは終わった。オルステッドの手際の良さで、女性達には怪我一つない。
「大丈夫、君達の安全は保障する‥‥。ん? シュなんとかとルキナス? ‥‥ああ、そんなのもいたっけな‥‥忘れてた。二人とも縛り上げて猿轡をかませ、バターを塗ってペットたちのおやつにでもしておけ‥‥」
「と、オルステッドさんも言っておられることだし、シュなんとかさんにはルキナスさんと同じ苦しみを味わっていただくために、ファームのペット達に全身舐め舐めの刑ですかね〜。ルキナスさんもナンパ癖を治すために一緒にどうですか」
ギルスがそう言ってクスクス笑う。
「こんな時に冗談はよしてくれ」
と、ルキナス。まだ棒に縛られたままだ。
「ウガァーッ! アガァーッ!」
と、シュベル。こっちも縄でふんじばられ、舌を切られたお陰でまともに喋れない。
「ルキナス様に恨みを持った経緯を初めからきっちり聞いてみたかったのですが、これでは無理ですね」
と、ジャクリーンが言う。
「まあいいでしょう。取調べは怪我が治ってからということで」
後の取調べで分かったことだが、シュベルはルキナスに恋人を奪われたのではなく、どうやら恋人の方からシュベルに愛想を尽かして去っていったようである。
ヴェガに連れられてキーダが現れた。その後からは女性達がぞろぞろ。
「おぬしらがルキナスを恨む気持ちは判らないでもないが、そやつにも良い所があっての。この子を最初に見つけて助けようとしたのもそこのルキナスなのじゃ。‥‥いささかだらしがないが、それも優しさから来るもの。許してやってくれるとありがたいのじゃ」
ヴェガは女性達にそう取り成すと、キーダを見る。でもキーダは何も言葉を口にすることもなく黙っている。
そこへマリスがやって来た。両手でバターのたっぷり入った壷を抱えて。
「ご注文のバターを見つけてきましたぁ♪」
マリスの後からは冒険者の連れてきたペットがぞろぞろ。犬に軍馬にヒポグリフに‥‥。キーダはくすっと笑ってバターの壷に手を突っ込むと、べったべたの手でルキナスにバターを塗りたくる。
「ルキナスは嫌いだけど‥‥これで許してあげる」
「や、やめてくれ‥‥うわっ、頼むからそんな所に塗るなぁ!」
お構いなしにキーダは柴犬のゴンスケを手招き。
「さあゴンスケ、食べていいよ」
「頼むジャクリーン! 君からも何か言ってくれ!」
ルキナスの目が哀願するようにジャクリーンを見る。でもジャクリーンは、
「良かったですねエリヴィレイト、ルキナス様が遊んで下さるそうですよ」
そう言って、ペットの若い戦闘馬を連れてきた。
回りで様子を見ていた女性達もくすくす笑い始め、
「そうね」
「あたし達もこれで許してあげようかしら」
その手がバターの壷に伸びる。それから後のことは‥‥報告書に書くまでもない。
●2人っきり
解放され、ゆかりの元に戻ったルキナスは、何故かバターの匂いをぷんぷんさせていて。
「あ〜、ひでぇ目に遭った」
「心配させないでよ、バカ‥‥無事で良かった」
2人っきりになったところで、麻津名ゆかり(eb3770)は奪うようなキスを交わす。ルキナスの唇もバターの味がした。その後は仲間にお風呂を湧かしてもらい、ルキナスの体を洗いながら話をする。
「もうこれからは女性にふらふら声をかけまくっちゃダメよ。ちゃんと反省してね」
「もう十分に反省したさ」
「本当に?」
「ああ、今回の件で懲りた」
「あのね‥‥あたし、エブリーさんのセーフハウスで奉仕活動することになったの」
「ああ、神父に約束したもんな」
「本当はクレリック見習いをやるつもりだったんだけど、クレリックになる覚悟が足りないってピエール神父に怒られちゃった。それで代わりにセーフハウスのお仕事。でも教会には通って、無事にこの娘が生まれるようお祈りするわ」
ゆかりのお腹をルキナスもじっと見つめ、しみじみとつぶやく。
「もうすぐなんだよな。俺もとうとう父親か‥‥」
●お茶会で
ルキナス救出に力を尽くした仲間達を労い、ゆかりはお茶会を開いた。ゆかりは身重だから、お茶を入れたりお菓子を準備したりの手伝いをキーダにやってもらった。
「ありがとね、キーダちゃん。もしあなたがママになったトキはこの娘に色々手伝うよう今からよく言っておくわね」
笑顔でお腹をさするとキーダが寄ってきて、お腹に耳を当てて呼びかける。
「もうすぐ‥‥生まれるよね」
やがて仲間達が現れた。
「ピエール神父やラーキス君と話をしてきましたが、やはりルキナスさんの評判は芳しくありませんねー。それで名誉挽回のため仕事を増やすことになりました。‥‥まあ、その話は後でゆっくりと」
と、教会から戻ってきたギルスが言う。続いてセオドラフ。
「私も結婚相談所の開設をラーキス殿とドルコ氏に提案してきましたが、良い反応が得られました。当然ながらルキナスは立ち入り禁止になりますが」
そしてオルステッド。
「私は例の件でシャミラと話してきた‥‥。反応はまずまずだったが‥‥対カオス傭兵隊に代わる新しい名称を決めないとな‥‥」
「そうね」
名前を決めるヒントにしようと、ゆかりは神秘のタロットをテーブルに広げてみる。
ふと、言葉が思い浮かんだ。
「ドラゴンガードはどうかしら?」