【少女と剣】籠の中の小鳥

■シリーズシナリオ


担当:深洋結城

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 98 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:03月01日〜03月08日

リプレイ公開日:2008年03月08日

●オープニング

 ‥‥前回は冒険者達が動いてくれたお陰で、事無きを得る事が出来た。
 だがしかし、同時に私はとんでもない事実を知ってしまった。
 『奴』の存在が無ければ、恐らくはこの事実に気付く事も無く、訳が分からないまま最も大事なものを失っていただろう。
 ‥‥癪な話だが。
 とは言え、それを知った以上私がするべき事は一つ。
 その為には、これもまた癪だが『奴』の力を最大限に利用する他あるまい。

 ‥‥例え、私自身がカオス界に落ちる事になろうとも‥‥。



 朝方の冒険者ギルド。
 そのカウンターを預かる受付係が、いつもの様に仕事場に顔を出すと。
「‥‥ん? 何でしょう、これは?」
 カウンターの上にぽつんと置かれた羊皮紙。昨晩は無かった筈のそれを手に取り、紙面に目を通してみる。‥‥と。
「! これは‥‥!?」
 拙いセトタ語で書かれたそれは、ミーヤから宛てられた手紙であった。


 それは、ある日突然の事だった。
 前回は冒険者達に世話を焼かれっぱなしだったミーヤ。
 だが次こそは少しでも役に立つ為に情報を得ておこうと、彼女は屋敷から出て街に向かおうとしていた。
 ――ところが。
「お嬢様、どちらへ行かれるのです?」
 ミーヤの前に立ち塞がるのは、屋敷に住み込みで働いて居る使用人達。心なしか、その目には生気が宿っていない様に見えて‥‥。
「え、えっと、ちょっと下町へ‥‥」
「なりません。まだお身体が治っていらっしゃらないのでしょう?」
 使用人の言う通り、確かに前回の事以来ミーヤの身体の衰弱はどう言う訳か一向に治らず、ずっと気怠さに包まれたまま。
 とは言え、歩いて何分と掛からない下町に行くくらいなら問題ない。
 そう諭しながら、ミーヤが使用人達の間を抜けようとすると‥‥突然にその腕を掴まれる。
「痛っ‥‥は、離して下さい!」
「そうは参りません。アルメーダ様から、お嬢様をお屋敷から出さぬ様言い付けられているのです」
 使用人の言葉に、ミーヤは目を見開いた。
「お、お母様の‥‥?」
「そうです。アルメーダ様は、お嬢様の事を心より案じていらっしゃるのです。どうかそれをお察し下さい」
 無表情で言ってのけながら、腕を掴んだまま強引にミーヤを自室へと連れ戻す使用人。
 以来、ミーヤは屋敷はおろか自室さえも出して貰えず‥‥実質的に幽閉状態になって居るのだと言う。
 その上、窓から庭を見下ろせば四六時中見張りが屋敷の周りを巡回しており‥‥まるで外部からの接触も拒んでいるかの様な様相だそうだ。

『どうしてお母様が突然こんな事をなさる様になったのか、全く分かりません。ですが、このままでは絶対に良く無い事が起こる‥‥そう思うのです。お願いします、一体何が起こっているのかこの目で見る為にも‥‥どうか私を屋敷から外に連れ出して下さい!』


「‥‥と言う訳で、皆様にお集まり頂いたのは他でもありません。これから直ちにミーヤさんの屋敷に向かい、彼女を助け出してあげて下さい」
 真剣な表情で告げる受付係。集まった冒険者達は、大きく頷くと。
「それにしても、ミーヤさんの母親はアルメーダって名前だったんだな‥‥」
 その内一人が腕を組みながら言う。まあ、今まで知る機会も無かったので、誰しもが微妙に気にしている所であって。
「って、そんな事言ってる場合じゃないでしょ!」
 他の一人が、彼を嗜める様に声を荒げた。
「そうだな。何にしてもミーヤの事が心配だ。急いで向かった方が良いだろう」
「ええ‥‥。しかし、前回アルメーダさんには『まずは側にずっといて安心させてください』とは申し上げましたが‥‥これはいくらなんでもやり過ぎです。或いは、彼女の豹変には何か理由があるのでしょうか?」
 その言葉に、揃って頭を抱える冒険者達。
 誰の目から見ても仲の良い母子だった二人に、一体何が起こっているのか‥‥今それを知る事は出来ない。
 けれども、自分達がするべき事をすれば、自ずと答えは見えてくるだろう――。
 冒険者達は一つ心に言い聞かせると、ミーヤの屋敷へ向けてギルドを発って行った。


 ――その翌日、ミーヤからギルドに宛てたもう一通の手紙が届く事になる。

 ***

 このお手紙は前回の物とは別のルートを用いて使用人達の隙を伺いながら出しているので、きちんと届かないかも知れません。
 もしこのお手紙を拾ってくれた方は、お手数をお掛けしますが本来の宛先(ウィルの冒険者ギルド)へ届けて下さい。

 私が幽閉される以前に聞き込みによって集めた情報によりますと、前回私がお世話になった村の近くに盗賊が出没するらしく、その頭領が『元気の出る剣』らしき物を所持しているそうです。
 本当かどうかは分かりませんが、出来るならばお屋敷へ来て下さいますついでに調べておいて下さいますと助かります。

 ***



「‥‥まさか先に手を打ってくるとはな」
 ――暗闇に響く声。
「手勢も幾許か奪われたが‥‥まあ良い、それはそれでやり易いと言う物」
 ――声の主は一つ呟くと、目の前に置かれた羊皮紙にペンを走らせる。
「くくく、利用できる物は最大限に利用せねば‥‥な」

●今回の参加者

 ea0244 アシュレー・ウォルサム(33歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea8147 白 銀麗(53歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 eb4163 物輪 試(37歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4270 ジャクリーン・ジーン・オーカー(28歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4426 皇 天子(39歳・♀・クレリック・人間・天界(地球))
 eb4460 篠崎 孝司(35歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb5814 アルジャン・クロウリィ(34歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb6105 ゾーラク・ピトゥーフ(39歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

シルバー・ストーム(ea3651)/ 飛 天龍(eb0010

●リプレイ本文

●訪問診察
 街の中に鎮座する、一軒の大きな屋敷。
 以前にここに来た時には、誰しもがこんな事態になろうとは思ってもみなかった。
「シルバー様から聞いた話によりますと、アルメーダ様はやはりジ・アースで言うデビル‥‥即ちカオスの魔物に取り憑かれている可能性が高い様です。それか、もしくはドッペルゲンガーと言う魔物が摩り替っているのでは無いかとも‥‥」
 出発前にシルバー・ストームから窺った推測を述べるのはジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)。
 彼女の周囲に居る仲間達も、小さく頷く。
「もしそうだとすれば、心配ですね。アルメーダさんの精神に影響がなければ良いのですが」
 皇天子(eb4426)の意見は、何とも医者らしい。
 それは、彼女と同じく天界出身で医学に精通しているゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)と篠崎孝司(eb4460)も同様で。
「もし本当に魔物が憑依しているとして、それが被憑依者にどの様な影響を及ぼすか‥‥医学上では未知の領域ですが、私達はやるべき事をやるだけです」
「その通りだ。しかし、何ともややこしい事態になりつつあるようだな。無事に済んでくれれば良いのだが‥‥」
 そんな孝司に並び、難しい顔をして腕を組むのは物輪試(eb4163)。
「こんな事を言うのも何かも知れないが、また何か事が起りそうな気がするな‥‥。だが取り敢えずは、母親のアルメーダさんに監禁されているミーヤさんをどうにかする事に集中しよう」
 彼の言葉に仲間達は頷くと、屋敷の門の前に立っている使用人らしき人物に歩み寄って行った。

「どちら様ですか?」
 冒険者達が門前に来るや無表情で視線も合わせず尋ねる彼に、口を開くのは天子。
「私達は、以前ミーヤさんの診察を担当させて頂きました医者です。今日はミーヤさんの現在の状況を診させて頂きに参りました」
 すると、使用人は案の定。
「お嬢様は至って元気で御座います。お引取り下さい」
 無表情で言ってのける。が、冒険者達にこれで引き下がるつもりは毛頭無い。
「それは、何より。だが、前回の彼女の衰弱具合を鑑みるに、どの程度回復しているのか確認する必要がある」
「そうです。それに、今は元気でもそれは一時的なものかも知れません。元来身体虚弱気味だったミーヤさんならば、十分に在り得る事です」
 医学的な意見で捲くし立てるのは孝司とゾーラク。――だがしかし。
「お嬢様は至って元気で御座います。お引取り下さい」
 先程と全く同じ事を言われ、思わず言葉に詰まる一同。
「‥‥あくまで確認をしに来ただけです。それ以上何をしようとも考えていませんわ」(「考えてますけど」)
「私達は医者です。医者が患者の健康状態を診断しないで何をするというのですか」
 そう言うジャクリーンと天子の表情には、抑えているものの明らかな憤慨の色が浮かんでいる。
 その後ろでゾーラクは一つ溜息を吐くと。
「‥‥恐れ入りますがアルメーダ様はおられますでしょうか?」
 口調こそ丁寧だが、貴方では話にならないから責任者を出せ、と視線で激しく訴えている。
 ――すると。
「アルメーダ様は、現在お出掛けに‥‥‥‥」
 何かを言いかけたかと思うと、突然にその口を止める使用人。かと思えば。
「‥‥いえ、これは失礼致しました。貴方様方は先日お嬢様をお助け下さった冒険者の皆様ですね」
「だから、さっきからそう言っているじゃないか‥‥」
 呆れた様子で、聞こえよがしに呟く試。
「貴方様方がお見えになりましたら、丁重にお迎えする様申し付けられております。どうぞお入り下さい」
 言いながら、門を開く使用人。一同は彼の掌を返したかの様な態度に疑念を抱くものの、黙って屋敷の中へと足を進めて行った。

「‥‥それで、どうなんだ? やはり精神操作をされているのか?」
 廊下をぞろぞろと歩きながら、孝司が尋ねるのは先程の使用人の事。
「恐らくは‥‥。ただ、判断力を麻痺させられていると言うよりは、どちらかと言うと『好きでやらされている』と言った風に見受けられましたね」
「? どう言う事だ?」
 試が尋ねると、その横から口を開くのはゾーラク。
「‥‥『洗脳』されている、と言う事でしょうか?」
 彼女の言葉に、天子は小さく頷く。成程、ミーヤの手紙の文面から察するに魔法の力で操られているのでは無いかとばかり思い込んでいたが、その限りでは無いと言う事だ。
「‥‥油断なりませんね」
 ジャクリーンの言葉に、小さく頷く一同。
 一層警戒心を強めつつ、冒険者五名がミーヤの部屋へと向かっている頃――。



●暗躍
 屋敷の上空を羽ばたく大きな鳥の影。それは近辺の茂みに降り立つと、ゆっくりとその姿を人型に変えた。
「ふう、思った以上に厳戒態勢の様ですよ。ともあれ、アシュレーさんの仰っていた通り、忍び込む隙はいくらかありそうです‥‥」
 呟きと共に、神聖魔法ミミクリーの効果によって今度は蛇の姿に変身するのは白銀麗(ea8147)。
 彼女は柵等を前にするとその隙間の大きさに身体の形状を変えながら、屋敷の中へと潜り込んで行く。
 その姿のまま屋敷内部の構造を粗方把握すると、今度は使用人の部屋へと忍び込み、衣装を三着拝借した。
 その手際の良さ、まさにスネ(ギルドにより規制)。
 そして銀麗はその一着を来て使用人に成済ますと、少し開いた窓の隙間から身体を細めて屋敷を出て行った。
 この程度の変形であれば、服を脱ぐ必要は無いだろうと踏んでの手段である。
 やっぱりスネー(規制)。

「お、待ってたよ。‥‥どうだった?」
 屋敷から少し離れた場所で、現われた銀麗を見るや尋ねるのはアシュレー・ウォルサム(ea0244)。
 彼はセブンリーグブーツを用いて一足先に屋敷に訪れ、出来る範囲で下見をして終えると、銀麗と入れ替わりで別の事を調べに行っていた。
 そして事前の打ち合わせ通り、時間を見計らってこうして屋敷に戻って来たと言う訳だ。
「ええ、大体の構造は把握して来ましたよ。ミーヤさんの幽閉されている部屋の場所もバッチリです」
「それは良かった。こっちも成果はまあまあって所だけど‥‥それは後回しにして、今は捕われの令嬢の救出に専念しないとね」
 アシュレーの言葉に頷くと、先程拝借して来た使用人の衣装を渡す銀麗。

「‥‥‥‥あ゛」
 ‥‥‥‥。
「‥‥‥‥やれやれ、またか」

 と言う訳で、使用人の衣装に身を包んだアシュレーを前に。
「ごめんなさい、本当にすみません、ちゃんと確認しなかったので‥‥」
 しきりに頭を下げる銀麗。が、当のアシュレーは。
「良いって良いって。最近『メイド姿』にも慣れてきた所だしさ‥‥あはは」
 言いながら乾いた笑い声を上げていた。
 ‥‥そう、銀麗が持ち出して来た使用人の衣装は、三着とも女物だったのだ。
 まあ、本人の言う『慣れ』によるものなのか不思議と違和感は無いし、潜入する分には、これで問題は無いだろう。‥‥たぶん。
 ともあれ使用人に変装した二人は、気を取り直し屋敷へ向けて足を進めて行く。

「うーん、それにしてもなんだろう。普通に考えれば母親の方がデビルにでも憑依でもされてそうな気がするのだけども、なんか違和感がある気が。気のせいならいいんだけど」
 そんなアシュレーの呟きに、銀麗は。
「‥‥アシュレーさんもそう思いますか。そうですね、仮にアルメーダさんがデビルに憑依されていたとすると‥‥それならば彼女は、一体何を恐れてここまでの厳戒態勢を布いて居るのでしょう?」
「それは‥‥」
 少なくともそれは、冒険者では無い様子だ。でなければ、診断と称して来訪した天子達を迎え入れたりはしないだろう。
 となると、考えられるのはデビル‥‥アトランティスで言うカオスの魔物の存在。だがしかし。
「私の知る限りでは、デビル同士が対立すると言った事例はありませんよ」
 そう、それではアルメーダはカオスの力を借りてカオスを退けようとしていると言う事になってしまうのだ。
「となると、やっぱりシルバーの言っていたドッペルゲンガーかな? いや、もしそうならここまで事を荒立てはしないだろうし‥‥う〜ん‥‥」
 頭を抱えるアシュレー。
 その疑問に対する答えは出ないまま――二人は先程の窓の隙間から、屋敷の内部へと忍び込んで行くのであった。



●囮
 ――コンコン。
 部屋にノックの音が響く。
 するとベッドに横たわっていたミーヤは、むくりと顔を上げ。
「失礼致します。ミーヤさん、診察に参りました」
「あ‥‥っ!」
 次いで入って来た冒険者達を見るや、目を見開いた。

「‥‥そうでしたか。お手紙を出されてからも、やはり相変わらずお外へ出しては貰えていないのですね」
 ジャクリーンの、出発前に飛天龍が用意してくれた焼き菓子を差し出しながらの言葉に、力なく頷くミーヤ。
「それにしても、安心しました。あのお手紙、ちゃんと届いてくれたのですね」
「‥‥?」
 彼女の言葉に、試は何と無く違和感を感じる。
 だが、彼が尋ねるよりも早くミーヤは顔を伏せ。
「それにしても、お母様‥‥いえ、このお屋敷の中で一体、何が起こっているのでしょう?」
「‥‥それは、今は何とも言えないな。けれども‥‥」
 これはまだ、きっと前兆に過ぎない。これからまた何か事が起りそうな気がする‥‥。
 口に出しかけた言葉を、そのまま飲み込む試。
 唯でさえ、今の状況はミーヤにとって異常なものであると言うのに‥‥これ以上彼女の不安を煽る事に、気が引けたのだ。
 そんなやり取りを横目に見ながら、部屋の隅でミーヤの診察記録を眺め難しい顔をする天子。
 そこに、今まで別方面での調査を行っていたゾーラクと孝司が現れる。
「‥‥どうかしたか?」
 孝司の問い掛けに、天子は眼鏡を直しながら。
「‥‥ええ。前回ミーヤさんを診断した時の物と、今回の診断結果とを比べてみたのです。そうしましたら、どうも救出の際に見られた衰弱症状が、今に至っても全く改善していない様子なので‥‥」
「それは妙ですね。他の病気らしき症状は見受けられませんし、加えて図らずもアルメーダさんの差し金により、彼女は静養せざるを得ない状況にあったと言うのに‥‥」
 ゾーラクも顔を俯け、眉間に皺を寄せながら言う。
「ミーヤ君は元々身体虚弱気味であったと聞くから、それ故に回復が遅れていると言うのも考えられなくは無いが‥‥それにしても、遅すぎるな。となると、やはり呪いか何かの類だろうか‥‥」
「考えたくは無いですけれど‥‥その可能性が非常に濃厚になった、と言えるでしょう」
 本人には聞こえない様、小声で話を進める医者三名。
「ところで、他の使用人達の様子はどうでした?」
 天子が問い掛けると、孝司は自前のサングラスを外し。
「健康面では、特に異常は見当たらなかったな。ただ‥‥」
「孝司さんが問診によって話を聞き出した所、どうも最近バードの方が屋敷に訪れた様子でして。今はアルメーダさんと一緒に出掛けて居る様子ですが‥‥」
 ゾーラクの言葉に、目を見開く天子。
「ゾーラク君によれば、そのバードによるチャームの魔法によって友好的な感覚を持たされた上で、話術により洗脳を掛けられているのではないかと言う話だ。もっとも、それだけではまだ彼らを操るには不十分かも知れないが‥‥」
 孝司の言葉に、少し表情を緩ませながら頷くゾーラク。
 もしその仮説が正しければ、使用人に関しては脱出の際に強攻策を取らざるを得なくなった場合にも、余り手荒な真似をせずに済みそうだ。
 とは言え、そのバードの存在と言うのも気になる所である。
 三人が頭を抱えていると。

「‥‥と言う訳で、間も無く俺達の仲間がミーヤさんを助けに窺うと思う。彼らが『どんな姿をしていても』、驚かず指示に従って欲しい」
 耳に入るのは、ミーヤに脱出の手筈を説明する試の声。
 『どんな姿をしていても』と言うのは‥‥まあ、言葉通りの意味で。
 一応ゾーラクが、潜入救助組である銀麗とアシュレーの『普段の』姿をファンタズムによって見せては居るのだが‥‥本当にどんな姿をして現われたものか。
 想像して、乾いた笑いを浮かべるのはジャクリーン。が、その表情はすぐに真剣なものとなり。
「とは言え‥‥アルメーダさんの私達冒険者に対する信頼を裏切る様で、心苦しくはありますわね‥‥」
 ミーヤには聞こえない様な声量で呟かれた彼女の言葉に、目を伏せる一同。
 しかし、やはり何を考えているのか分かったものではないアルメーダの元で、このまま幽閉させておく訳にもいかないだろう。
 冒険者達は改めて決意を固めると。
「では、一度私達は怪しまれない様席を外させて頂きます。ミーヤさんは、脱出の準備をしておいて下さい」
 天子の言葉に頷くミーヤを尻目に、ぞろぞろと部屋を出て行った。

「後は、アシュレー君と銀麗君がうまくやってくれる事を祈るばかりだな‥‥」
「ええ。私達も、脱出がスムーズに行える様サポートする態勢を整えておきましょう」



●救出劇
 ――にゅるっ、と、細い隙間を縫う様に身体の太さを変え、屋敷の中に忍び込むのはアシュレーと銀麗。
「ふう、ひとまず潜入は成功と。さて、令嬢は何処に居るのかな?」
「ミーヤさんの部屋は、三階の中央です。この格好ならば気付かれないとは思いますが‥‥用心して行きましょう」
 顔を見合わせて頷くと、二人は使用人を装い屋敷の内部を進んで行った。
 万一使用人で無い事が気付かれて騒がれた時の為にと、サイレンスのスクロール等も用意しておいたアシュレー。
 しかし、その心配は杞憂に終わり、無事ミーヤの部屋まで辿り着くと。
「やあ、お待たせ。迎えに来たよ、ミーヤ」
 笑顔を作って見せ、片手を差し出す。
 ‥‥対するミーヤはと言うと案の定、事前にファンタズムで見せられた姿とは『性別』さえも違う格好の彼に、目を見開いたまま固まった。
「‥‥安心して下さい。彼がこんな格好をして居るのはちょっとした手違いであって、決して他意は無い‥‥筈ですよ」
 筈って‥‥。(汗)
 まあ、しっかりと化粧までしていて(目立ち過ぎない様あくまで最小限だが)女性の格好をしていても全く違和感の無い彼の姿を見れば、どうしても勘繰ってしまうのは人の性‥‥かも知れない。
 ともあれ、銀麗のフォローで納得したのかミーヤは固い動作で頷き、傍らに置いてあった鞄を手に取ると――。
「あ、その前に服をこれに着替えてくれないかな?」
 そう言ってアシュレーが差し出すのは、彼らが来ている物と同じ使用人の衣装――の、サイズの小さい物。
 恐らくは使用人の娘か、もしくはパラかが着ていた物であろうそれを、ミーヤに手渡すと。
「それじゃあ、俺は外に出てるね。準備が出来たら教えるんだよ」
 そう言って踵を返し、部屋の外へと出て行った。

 その後、使用人の服に着替え(念の為、アシュレーの理美容技術を持ってして人相も少し変えて)変装をしたミーヤは、二人の冒険者に連れられるまま屋敷の外へと向かう。
 やがて、彼等が玄関口に差し掛かると。
「ふう、一先ずは恙無くここまで来る事が出来ましたね」
 息を吐きながら言うのは銀麗。
「だけど、まだ安全な場所まで逃げて来れた訳じゃないからね。門の前には見張りも居たし‥‥寧ろ本当に大変なのはここからだよ」
 アシュレーの言葉に、ミーヤは緊張故きゅっと唇を噛み締めながら頷く。
 そして、彼女が意を決したのを察した銀麗が、玄関口をそっと開くと。
「‥‥あっ!?」
 同時に上がるのは、驚嘆の声。
 アシュレーが彼女の頭上から外の様子を窺ってみると、見えたのは――夜闇の中、何者かと対峙している仲間達の姿であった。



●立ち塞がる者
 時は遡り、彼等が玄関口に辿り着く少し前の事。
 万一強攻策を取らざるを得なくなった時の為にと退路を確保し終えた冒険者達は、あくまで客人を装い屋敷の外へと足を進めて居た。
「しかし、アルメーダ様にお会い出来なかった事が、やはり心残りといえば心残りですわね‥‥」
 ふとしたジャクリーンの呟きに、小さく頷く一同。
 アルメーダ。ミーヤの母親であり、この地域を統治する領主の妻であり、今回の事の発端。ミーヤを自室に幽閉した張本人。
 前回の情報収集において浮かび上がって来た、地元民の領主に対する悪評の事もありき‥‥。
 今回彼女には、ミーヤを閉じ込めた理由等など、聞きたい事は山程あった。
 とは言え、出掛けてしまっているのでは仕方が――。

「これはこれは、冒険者の皆様。もうお帰りでしょうか?」

 正面から掛けられた声に、思わず身構える冒険者達。
 直後に雲が晴れ、月精霊のほのかな明かりが夜闇に隠れたその姿を照らした瞬間‥‥思わず、一同は息を呑んだ。

「ア、アルメーダさん‥‥?」

 優雅な黒い衣装に身を包み、顔に僅かな笑みを湛える貴婦人。それは見紛う事無き、現在屋敷を出払っている筈のアルメーダであった。
「どうなさったのです? そんな、まるで『カオスでも見た』かの様なお顔をなさって」
 至って冷静に、いつも通り丁寧な口調で尋ねるアルメーダ。
 その表現は、冒険者達からしてみれば言いえて妙と言うか‥‥。
 とは言え突然に思いも因らぬ人物に出会ったと言う事もあり、誰しもが狼狽える中。
「その‥‥貴女はお出掛けになっていたのでは無かったのか?」
 尋ねるのは孝司。すると、アルメーダはポンと手を打ち。
「ああ、その事ですか。出掛けた先で、皆様がいらっしゃっていると言う報せを受けたものですから、この通り大急ぎで戻って来たのですよ」
 そう言ってのけるものの、彼女がどこに出掛けていたにしろ、冒険者達が屋敷に滞在していた時間を考えると、余りに早すぎる。
 それこそ、携帯電話の出回っていて交通手段も豊富な天界でならば、在り得なくも無い話かも知れないが‥‥。
「‥‥ところで、後ろの方はミーヤを連れて、一体どちらへお出でになるおつもりですか?」
 アルメーダの視線は、立ち並ぶ冒険者達、その背後へ。振り返ってみると、そこには玄関口の扉から顔を覗かせる銀麗とアシュレーの姿があった。
「しまった‥‥!」
 声を上げるのはアシュレー。思わず反射的に、身を引いて屋敷の中に逃げ込もうとするが‥‥気付かれてしまった以上、逆に屋敷の中に留まれば脱出が尚の事困難になってしまう。
「‥‥ここは、腹を決めて出て行くしかありませんよ」
 銀麗の言葉に頷くと、アシュレーは視線を向けずにミーヤに。
「ミーヤ、スカートのポケットに手を入れてごらん?」
 彼の言葉に従い、ポケットに手を入れるミーヤ。すると、中から木製の護符が姿を現した。
「いざと言う時は、それを燃やすんだ‥‥良いね?」
 彼女が頷いたのを確認すると、三人はゆっくりと扉から歩み出て、他の冒険者達と合流した。
「‥‥お、お母様‥‥」
「ミーヤ、一体何をして居るの? まだ身体は治っていないのでしょう?」
 アルメーダの言葉に、ビクッと身を震わせるミーヤ。その表情は泣きそうで‥‥さながら、悪戯がばれて叱られている子供の様だ。
「その上、冒険者の方々まで巻き込んで‥‥。貴女が何を考えて居るのかは分からないけれど、これ以上人に迷惑を掛けるべきではありません」
 思わず、ミーヤは顔を伏せる。それは他の冒険者達も同様で、誤魔化す余地さえも見出せず‥‥故に、この時アルメーダの周囲に黒い霧の様な物が立ち込めた事に、誰も気付く事は出来なかった。

「さあミーヤ、部屋に戻りますよ。――こちらに、来なさい」

 アルメーダの言葉のままに、フラフラと足を進めるミーヤ。
 その背を、誰も引き止める事は――。
「‥‥! 待って下さい!」
 様子がおかしい事に気付いた銀麗が、咄嗟に詠唱するのは魔法効果打破の魔法、ニュートラルマジック。
 その効果により、ミーヤの身体を黒い光が包み――。
「あ、あれ? 私、何を‥‥?」
 次の瞬間には、足を止めたミーヤが呆気に取られながら、周囲をしきりに見回していた。
「な‥‥何ですか、その魔法はっ!?」
 驚きの声を上げるのはアルメーダ。彼女が次の行動に出るよりも早く。
「銀麗さん! ブラックホーリーを!」
「はい!!」
 試の言葉に応え、ブラックホーリーを放つ銀麗。
 彼女の手から放たれた黒き光弾は――。

「うぐっ‥‥!?」

 なんとアルメーダに直撃し、その身体を蹲らせた。
 驚きの余り目を見開く冒険者達。
 と言うのも、ブラックホーリーは邪悪な者に効果を発揮すると言われる攻撃魔法。これを用いればアルメーダに取り憑いている『何者か』のみを攻撃できるだろうと推測しての行動だったのだ。
 だがしかし、冒険者以上に――。
「お、お母様っ!!」
 気が動転してアルメーダに駆け寄ろうとするミーヤを、ゾーラクが慌てて引き止める。
「待って下さい! 今近寄るのは危険です!」
 そう、先程アルメーダがミーヤに使用した魔法の事もある。
 いくら蹲って地に伏していると言っても、迂闊に近寄れば何をされたものか分からない。
「‥‥仕方がない。アルメーダさんには悪いが、ここは一度引き揚げよう」
 誰しもが戸惑い立ち竦んでいる中での孝司の言葉に、反対する者は居ない。
 未だに蹲るアルメーダの横を抜け、そのまま屋敷の門を飛び出して行く冒険者達。
 道中ジャクリーンが弓を構え、ペットと共に後方からの追っ手に警戒をしながら――彼等は逃げる様に屋敷を離れて行った。



●見えざる者の影
 冒険者達が向かったのは、前回ミーヤの保護された小さな村。
 屋敷からウィルへ至る道程の最中にあるここであれば、もし追っ手が来たとしてもすぐに逃げる事が出来る。それに加え――。
「何故かこの村から通じる街道にだけは、検問が一切無かったんだよね」
 潜入前に独自で調べていたアシュレーの情報は確かで、検問の行われている箇所を避けて通って来たら、ここに辿り着いたと言う訳だ。

 村に到着するや村長宅を伺い、見張りを立てながら一夜を過ごした冒険者達は、翌日の昼過ぎに一室へと集まった。
 その表情は誰しもが固く‥‥心なしか、部屋そのものの空気までもが重く感じられる。
「さて、話し合う事は色々ありますが‥‥その前に、この手紙を見て下さい」
 そう言って天子が取り出すのは、一通の手紙。――すると。
「あっ‥‥それは!」
 声を上げるのはミーヤ。
 その手紙は、彼女自身がギルドに宛てて出した物。それを書いた本人が知らない筈は無いのだが‥‥事が事だけに冒険者達は皆用心深くなっているのか、最初に来た手紙と筆跡を見比べまでして、手紙の『真偽』の確認をしていた。
「どうやら、二通ともミーヤさんが出した物で間違いない様だな」
 それならば、と、ミーヤに質問をかけるのは試。
「この二通の手紙は、それぞれどの様な方法で出したんだ? それと、この二通目の手紙に記された情報は何処から入手した物なのか‥‥詳しく教えて貰いたいな」
 するとミーヤは一つ頷き、彼の質問に答え始めた――。

 まず、一通目の手紙はと言うと‥‥なんと、使用人に預けて出して貰う様頼んだらしい。
 内容が内容ではあるものの、しっかりと封をしてあったので大丈夫だと踏んでの事だったのだが‥‥それにしても、まともに考えて素直に冒険者ギルドへ送ってくれる筈が無いと、出した後で気付いたのだそうだ。
 これに関しては、疑問を感じた冒険者達が一斉に首を捻る。
 それならば、一体どの様にしてその手紙はギルドに届く事が出来たのか――と。
 ともあれ、これに関する推測は後回しにして、話は二通目の方へ。
 それは彼女が幽閉される以前の事。前回教えられた通りに近隣の酒場へ聞き込みに行った際、ミーヤは冒険者風の男性と知り合った。
 盗賊に関する情報はその男から得たものだったのだが、後日に再度彼に会いに行こうとした所で、アルメーダに幽閉されてしまったらしい。
 この時点では余り明確な情報は集められていなかった為、一通目の手紙を出してから暫く悩んでいたのだが‥‥色々考えた末、念を押して手紙と言う形で伝えておいた方が良いだろうと言う結論に至ったのだとか。
 その際には一通目での反省を生かし、書き上げた手紙を――。

 窓から投げたらしい。

「‥‥‥‥」
 言葉を失う冒険者達。
 本当に、二通とも良くぞギルドまで届いたものだ、うん。

 ともあれ、ミーヤが知り合ったと言う冒険者風の男についても気にはなったが(名前を聞き忘れたものの、旅装束を着ていたらしい)話の焦点は‥‥アルメーダの事へ。
「‥‥昨晩見た限りだと、彼女は何か良からぬ力を使役している様だな。それはやはりカオスの魔物と契約して得た物なのか‥‥」
「それに、邪悪な者にしか効かない筈のブラックホーリーが通用してしまった、と言うのも気になりますよ‥‥」
「それは即ち、アルメーダさん自身が邪悪な存在と見なされた、と言う事でしょうか。それにしても、何故‥‥」
 頭を抱える冒険者達。‥‥の話を傍らで聞きながら、隣に居るミーヤと同じくらい沈鬱な表情をしている者が居た。
「まさか、あの領主様のご夫人ともあろう方が、邪悪だとかカオスの魔物に関わっているだとか‥‥とてもではありませんが、信じられません」
 頭を抱えながら言うのは、この村の村長。
 そんな彼の言葉に、冒険者達は些か違和感を覚えるものの‥‥。
「ひょっとすると、数年前に彼女の夫が病床に伏したと言う出来事が、何かのきっかけになってしまったのかも知れないな‥‥」
 呟く様に言うのは試。
 ――すると。

「‥‥ごめんなさい! 少し、一人にさせて‥‥‥‥っ!!」

 直後、ミーヤは逃げる様に部屋から飛び出して行ってしまった。
「‥‥さ、流石に気遣いが足りなかったか‥‥?」
 その背を見送り、戸惑いながら所在なさげに言う試。
 他の冒険者達も、各々表情を曇らせる‥‥が、天子だけは彼女の反応に、首を傾げていた。



●『狩人』
 その後の相談の結果、事態が収拾するまでミーヤはウィルにある治療院で匿って貰って居た方が良いだろうと言う結論を出した冒険者達。
 それまでは彼女の身辺に必ず誰かが付いている様にしながら、残りの期間を『元気の出る剣』を所持していると言う盗賊の調査に費やす事になった。
 巧く検問を潜り抜けては近隣の街や村に赴いて聞き込みをしたり、目撃情報のあった場所で過去視を行ったり等、手分けして情報を集めて回る一同。

 ――ところが。
「妙だな。この村以外の地域では、いくら聞けども盗賊の『と』の字も出てこないとは‥‥」
 腕組みをしながら言うのは孝司。どうやらアルメーダの夫である領主が治める地域は、全体を通して治安が良いらしく‥‥ここ数年、そう言った賊の類が表沙汰になる事は無かったのだとか。
「‥‥皮肉なものですわね。領主夫人は、カオスに憑依されているかも知れないと言うのに‥‥」
 苦笑いを浮かべるのはジャクリーン。その笑顔に少し自嘲気味な色が混じって居るのを、誰しもが見逃す事は無く。

 そして、依頼最終日。
 ウィルへ向けて発つ前に、村の近隣の森の奥深く‥‥前回、ミーヤを攫った人攫いの物と思われる馬車が乗り捨てられていた場所へと向かうのはゾーラク。
「今回はパーストで一ヶ月前の過去まで見る事が出来る様になりましたので、今度こそあの現場で何が起こったのか、突き止めたいと思います」
 そんな彼女に付き添うアシュレーと試は、万一モンスターが出て来た時の為の護衛役である。
 やがて、未だうっすらと残る轍を辿った末、見えて来たのは相変わらず横倒しになったままの馬車。
 そこで一つ息を吐くと――。
「では、行きます‥‥」
 精神を研ぎ澄ませ、過去視の魔法パーストを唱えるゾーラク。
 まだ高レベルの魔法に慣れていない為、成功するまで何度か詠唱し直す必要があったものの‥‥大体の時間の目測は付いているので、前回の様に何も見えない内に気力が切れて断念と言う事は無いだろう。
 やがて、パーストの発動に成功すると――。

「‥‥!! こ、これは‥‥!?」
 戦慄に表情を歪ませるゾーラク。
 その後、見えた物をファンタズムによって映像化すると、そこに現れた光景は――。
「‥‥なるほど、馬車から這い出て苦しむ男が三人。‥‥こいつらが人攫いか?」
 ゾーラクは試の言葉に頷き。
「ええ、恐らくは‥‥。それよりも、こちらの‥‥」
 そう言って、彼等の前に居る狩人風の男を指差す。
「この人物は、一体何者なのでしょう?」
 アシュレーがその前面に回り、顔を覗き込む‥‥が、パーストによってゾーラクが見たのはその男の後姿だけだったらしく、ファンタズムによって作られた幻影に顔は無い。
「さあ‥‥これだけじゃあ、何とも言えないね。ただ、この絵面を見た限りでは、狩人が人攫い達を苦しめている様に思えるな‥‥それも、普通じゃない手段で」
 アシュレーの言葉に、真剣な面持ちで頷く試とゾーラク。
「ところで、この後三人は一体どうなったんだ‥‥?」
 ふと試が呟くと、アシュレーとゾーラクは息を呑み。
「‥‥もう一度、お願いしても良いかな?」
「‥‥はい、分かっています‥‥」
 再び、ゾーラクは過去視の魔法を唱え始める。
 しかし、その後肝心の場面を見る事無く気力が尽きてしまい‥‥結局、調査を断念せざるを得なかった。

 とは言え、今回に至り大きな手掛かりを得る事が出来た冒険者達。
 それは‥‥人攫い達を苦しめていた『狩人』の存在。
 その正体は一体何者なのか‥‥それはまだ、知り得ぬ所である。
 未だに多くの不可解な要素を残したまま、ミーヤを連れてウィルへの帰路を辿る冒険者達。

 ――その背中を凝視する者の気配に、誰も気付く事は無く。