【死国動乱】弁天洞
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■シリーズシナリオ
担当:御言雪乃
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:6 G 30 C
参加人数:7人
サポート参加人数:1人
冒険期間:10月08日〜10月17日
リプレイ公開日:2008年10月16日
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●オープニング
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その日、伊予と讃岐と国境に幾人かの侍の姿があった。
一方は松山藩の侍であり、また一方は高松藩の侍で。彼らは国境を間に挟んで対峙していたのであった。
やがて松山藩の侍達の中から一人の男が進み出た。すると高松藩の侍達の中からも一人の男が足を踏み出した。
二人はゆっくりと足を運び――やがて交差した。が、二人の歩みはとまらない。
そのまま足を進め、やがて二人は最初とは逆の陣営の侍の元へと行き着いた。
「与助、大丈夫か」
松山藩の侍の一人が問うた。すると与助と呼ばれた男はニヤリとし、
「助かったぜ」
答えた。そして憎悪に眼をぬめ光らせて、
「この借りは返さなきゃならねえな」
●
押入れの中、武吉は身を震わせて蹲っていた。
耳を押さえているのだが、指をこじ開けるようにしてもれ聞こえてくるものがある。
悲鳴だ。怒号だ。
悲鳴は斬り殺される村人のあげるものであり、怒号は突如乱入してきた侍のあげるものであった。
「誰か、いるか」
しわがれた声がした。
侍のものと気づき、びくりと武吉は身動ぎした。その拍子にぎしりと音が響いた。
「うん?」
侍の不審げな声。そして含み笑う気配。
「いるな。どこだ」
みしり。みしり。
軋む音がする。床を踏む音だ。
武吉は満面を涙で濡らし、身を強張らせた。がくがくと震えがとまらぬ。歯がかたかたと鳴った。
「そこか」
侍の声がした。その時だ。
「女が逃げたぞ」
別の侍のものらしき声がした。
「何っ」
呻きにも似た侍の声が響き――足音がやや遠ざかった。
「女が逃げた、だと?」
「ああ。彦太夫達が追っている」
「馬鹿が」
侍が吐き捨てた。
「もうむやみに娘は浚うなと釘を刺されておるのだ。一匹たりとて無駄にはできぬというのに」
「ともかくお前も女を追え。捕らえたら、いつものように弁天洞に運びこんでおくのだ。俺は後腐れのないよう村の者どもを皆殺しにしておく」
「わかった」
侍が駆け出していく音がした。
ほっと息をついた武吉であるが。その耳にはまたもやあの声が届いてきた。
悲鳴と怒号。
哀れな犠牲者のあげる助けを求める声と、地獄の獄卒どものあげる喜悦の雄叫びであった。
●
「何っ!?」
壬生屯所の奥。盃を持つ手を男はとめた。ふてぶてしさと虚無の翳が同居した、不可思議な気配をまといつかせた男だ。
男の名は平手造酒。新撰組十一番隊組長である。
「長吉の村が戦に巻き込まれただと」
「はい」
肯いたのは十一番隊伍長・不破蘭子である。
「詳しい事はわかりませんが、どうやら村は全滅の様子と」
「そいつは‥‥」
さすがの平手が声もない。が、同時に、平手の眼が蒼く底光りし始めた。
平手は何かを感じ取っていた。表面に見えるものの裏で蠢く何者かの影を。
「俺はゆくぜ」
「四国へ、ですか」
「ああ」
平手はニヤリとした。
「俺がこの眼で確かめる」
●リプレイ本文
●
白い航跡を残し、千石船は蒼い海原を進んでいた。
吹く風に頬をなぶらせ、舷に一人の男がもたれている。ふてぶてしさと虚無を同時に身裡にかかえたような、どこか不可思議な印象の侍。
平手造酒(ez0214)。新撰組十一番隊組長である。
「造酒兄さん、ひさしぶりね。寂しかった?」
「兄さん、つうなって云ったろ」
平手が顔を顰めた。すると声の主である娘――アン・シュヴァリエ(ec0205)はどんと平手の背を叩いて、
「照れちゃって」
「誰が照れるか」
「ふふ」
アンは舷に肘をつき、海原を眺めた。
「造酒、最近どうしてた?」
「俺か」
平手は顔を上げると、
「相変わらずだな。毎日京の町をうろついてたよ」
「そう」
アンは囁くように応えを返すと、
「私は忍びと戦ってたわ。霧隠才蔵って知ってる?」
「霧隠才蔵?」
さすがの平手の顔色が変わった。
霧隠才蔵の名は、およそ修羅の道に身を置く者なら知らぬはずがない。真田十勇士の一人にして、おそらくは現在のジャパンにおいて最強の忍者の一人だ。
「殺りあったのか」
平手が問うた。眼に、子供のような好奇心の光がゆれている。
ううん、とアンは答えた。
「戦ったけど、霧隠才蔵じゃなかった。多分、配下の忍びね」
「ふーん。で、殺ったのか」
「やられちゃった」
「なんでえ」
平手が一升徳利に口をつけた。するとアンがくるりと向き直り、平手の顔を見上げた。
「心配したでしょ」
「馬鹿か、おめえ」
煩そうに云うと、もう一度平手は酒を口に含んだ。
●
船が松山の港に着いたのは卯刻であった。
待ちかねていたかのように様々な人々が船から降り立ち、港に喧騒が満ち始める。その中には役人の声もまじっていた。
「待て」
と、役人が呼び止めたのは男女二人の巡礼であった。その眼が男のもつ刀にとまっている。
「遍路だな。何故、刀を持っている?」
「私の為です」
女――可憐な顔立ちの少女が眼をうるうるさせた。
「女一人で四国を巡るのは危ないだろうと、兄が付き添ってくれているのです」
「そ、そうか」
役人はうろたえた。さすがに女の涙には弱いようである。
「では、そちらの者は?」
役人は遍路の二人の連れであるらしい巫女姿の娘に眼をとめた。
「船で知り合った」
答えたのは男の遍路である。
「どうやら戦で傷ついた者達の慰問で来たらしいぜ」
「慰問?」
役人は再び娘を見直し、ぎくりとして眼をとめた。顔ではない。胸に。
巫女装束の胸元から乳房が溢れ出そうになっている。それは一種の凶器であった。
「はい。慰問に参りました」
役人の眼に気づき、娘が荷から薬研を取り出して見せた。
「いかがですか」
娘が会釈した。その拍子に胸元がはだけ、乳首がちらりと――
鼻血を噴出しつつ、役人は顔を背けた。そして悲鳴のような声を発した。
「ゆ、行け!」
「では」
「待て」
役人が慌てて呼び止めた。
止められたのは一人の侍であった。龍の頭を模して作られた兜に白金色に輝く鎧を纏っている。目立つなという方が無理ないでたちであった。
「その方、名は何と申す?」
役人が問うた。すると侍は優しげに笑いながら、山本建一(ea3891)と名乗った。
「何をしに伊予に参った?」
「それは」
建一は口ごもった。明確な返答を用意してはいなかったのだ。
すると一人の若者が進み出た。
魅惑的な褐色の肌に、雪のような白い髪をしている。切れ長の眼が特徴の美しい若者であった。
若者は云った。
「その者は私の護衛です」
「何者じゃ、おぬし?」
「ルーフィン・ルクセンベール(eb5668)。商人です」
「商人?」
ちらりと役人は若者――ルーフィンの背後に眼をむけた。そこにあるのは二人の男女の姿である。
一人は怜悧な相貌の、氷の眼差しの若者。一人はきりりと引き締まった顔立ちの娘であった。
「彼はゼルス・ウィンディ(ea1661)。私と同じく商人です。そして彼女はヤナ‥‥所所楽柳(eb2918)と申しまして、私どもの護衛役です」
「ほう」
役人が不審げに眼を細めた。
「何か怪しい。今少し取調べする。待っておれ」
「それは」
思わずといった様子で声をあげたのは柳だ。低い押し殺した声で、
「我々は明後日には四国を発たねばならぬ。ここでの足止めは困る」
「ほう」
役人はニヤリとした。
「では、面倒にならぬように明後日まで港にとどまってもらおうか。――おい」
役人が呼びとめた。背後をするするとすり抜けようとした男に気づいたからだ。
「待て」
「わたくしですか」
呼び止められた男は立ち止まった。紋付羽織姿で、ひきつったような相貌をしている。それが髪を強く結んでいる為である事を知り、役人は薄く笑った。
「そうだ。どうやら侍らしいが‥‥この伊予に何用だ」
「商売ですよお」
頼りない口調で男は答えた。
「戦があるから薬が高く売れるかと思いましてえ。いや、でも本当は働きたくはないんですがねえ。でも親がぶらぶらしてるのは駄目だからっていうしい。だから‥‥」
くどくど。くどくど。くどくど‥‥。
「もう、いい」
煩そうに役人が顔を顰めた。
「さっさと行け」
「どうも〜」
ふらふらと男は歩き始めた。
ふん、とすぐに役人は男から眼をはずした。故に知らぬ。寝ぼけたような男の眼に、ゆっくりと刃のような光が点りだした事を。
男は冒険者。名を設楽兵兵衛(ec1064)といった。
●
長吉の村までは後わずかだ。
森の中の路上で、兵兵衛は足をとめた。そして忍びとしての感覚器を研ぎ澄ませた。
いる。尾行者の気配だ。途中の町からずっとへばりついている。
「そろそろよりますかね」
兵兵衛の眼に剣呑な光がともった。監視者を長吉の村まで連れていく事はできないのだ。
兵兵衛がいきなり駆け出した。滑るように足を運び、道を曲がる。
その時、一人の行商人が姿を見せた。そして兵兵衛を追うかのように疾駆し、同じように道を曲がり――
ぎくりとして立ち竦んだ。
兵兵衛がいた。腕を組み、うっそりと佇んでいる。
「わたくしに何か用ですか」
「うっ」
呻き、反射的に行商人は飛び退った。
「待てっ」
鉄扇を片手に、兵兵衛が踊りかかった。が、一瞬早く、行商人はさらに飛び退った。そして振り向き、空に身を躍らせ――
白光がはねあがった。わずかに遅れて、行商人が地に叩きつけられた。
「殺したんですか」
駆け寄り、兵兵衛が問うた。すると白刃をだりと下げた平手が首を振った。
「心配するねえ。峰打ちだ」
●
「参りましたね」
港に設けられた役人屯所の片隅でルーフィンは溜息をもらした。まさかこんな所で足止めになるとは思ってもいなかったのだ。
「しかし、おかしいな」
呟いたのは柳だ。新撰組隊士である妹がかつてそうしていたように、今は彼女も男装であるが、しかしそれでも思案に沈むその姿は美しい。
建一が眼をあげて柳を見た。
「おかしい? 何がですが?」
「役人の対応だよ」
柳が答えた。
「前回もステラが役人に疑われた。が、それでも足止めはされなかった。ところが今回はそうではない」
「何かが変わった」
ゼルスの閉ざされていた眼がゆっくりと開かれた。
「と、見るべきでしょうね」
「伊予に何かが起ころうとしている、と?」
「さあて。でも、先に捕縛された男の怯えようも妙だったと聞きますし‥‥もしかすると、裏で蠢いているのは人ではないのかもしれません」
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「こいつは――」
平手の口から呻きにも似た声がもれた。すでにアンのミミクリーは解け、遍路の男から元の姿へと戻っている。
長吉の村。
そこは地獄に変じていた。
何人もの村人の骸がそこかしこに転がっている。男、女。中には老人と子供も混じっているようだ。
さしもものに動ぜぬはずの兵兵衛がぎりっと歯を軋らせた。
「やってくれましたね」
「が、松山藩の隠密は知らなかった。ただ戦に巻き込まれたとは思えねえ」
平手は云った。
隠密とは先ほど捕らえた行商人の事だ。遍路の少女に変じていたアンのリードシンキングにより、その表層意識は読み取ってある。
隠密を操っていたのは目付けの槇原勘兵衛であった。高松藩の間者であるかもと疑い、兵兵衛達を窺っていたのである。
が、事情が変わった。本格的に松山藩が動き出したのだ。讃岐の丸亀城を攻めるつもりであるという。もはや疑わしき者の国入りを許すつもりはないというのが松山藩の考えだ。
それが為にルーフィン達は足止めされた。もし兵兵衛がその中に混じっていたなら、彼もまた港に残されていたに違いない。
隠密は港近くの町に潜んでいた。そこで兵兵衛を見かけ、後をつけた――というのが真相であった。
「生き残っている人はいないのかな」
沈痛な眼で、アンが周囲を見回した。慰問の薬師に変じていたステラ・デュナミス(eb2099)が辛そうにかぶりを振る。
「この有様よ。とても生き残っている者がいるとは思えないわ」
「でも」
アンが呼んだ。誰か、生き残っている者はいないかと。命の欠片を。
すると――
がたり、と物音がした。すっと建物の陰で動いたのは人影であろうか。
一語も発さず、平手と兵兵衛が動いた。二手にわかれ、建物を回りこむ。挟み撃ちにするつもりだ。
が――
平手と兵兵衛は凍りついたように足をとめた。影の正体を見とめて。
それは少年であった。汚れ、やつれ、そして震えている。おそらくは生き残りの者であろう。
「君は――」
「あ‥‥」
怯えたように少年が後退った。そしてぺたんと尻餅をつく。恐怖の為に錯乱しているようだ。
その前にちょこんとアンが座った。
「助けに来たよ」
微笑みながら、アンは手をさしのべた。
●
「与助」
近づいてくる人影の顔を見とめ、弁天洞入り口脇に立っていた男は不審げに眉をひそめた。
「今時分、こんなところで何をしておる?」
「娘を捕らえてきた」
与助と呼ばれた侍は答えた。その手には綱が握られ、その先には繋がれた一人の娘の姿があった。
「ほほう」
娘の顔を覗き込み、男はニンマリした。
「なかなか美味そうな娘ではないか。――うん?」
男は、与助の背後に一人の男が立っている事に気づいた。へらへら笑って、腰の低い男だ。
「何だ、その男?」
「俺の手下だ」
与助は答えた。すると男の眼に陰火のような光がよぎった。
「貴様‥‥与助ではないな」
「ばれちゃあしようがねえな」
与助が苦く笑った。
刹那だ。男の顔で水飛沫が散った。水の塊がぶつかったのだ。
只の水塊ではない。それが強力な衝撃を伴っていた証に、男の身は仰け反っている。
「く――」
苦鳴は途中で途絶えた。与助が鞘走らせた刃によって首をはねられていたからである。
「どう、私のウォーターボムの威力は?」
樹陰から飛び出してきたステラが胸を張った。与助――ミミクリーによって変形した平手が面白そうに笑った。
「てえしたもんだ。うん?」
その時に至り、平手は気づいた。斬り飛ばした男の首の変化に。
それは人のものではなかった。
尖った鼻面といい、覗く牙といい――獣だ。おそらくは狸に違いない。
「これは‥‥」
愕然として兵兵衛が息をひいた。
●
平手は立ち止まった。
洞窟内は思ったより広く、二人並んで歩けるほどに幅があり、かつ高さもあった。ひんやりした空気が満ちている。真闇でないのは、奥からもれてくる灯りによるものだ。
「恐いか」
平手が問うた。アンが微かに震えている事に気づいたからだ。
するとアンは小さくかぶりを振った。
「ううん。小天狗さんを信じてるから」
アンは云った。
平手には武器を預けてある。命を、いや、全てを平手に委ねているつもりだ。
「へっ」
平手は笑った。
「おめえらしくもねえ。が、任せろ。おめえは死んでも守ってやる」
「うん」
アンは小さく微笑んだ。
●
奥には広い空間があった。高さもかなりある。
そこに、そのモノ達はいた。
三人。姿は人間だ。足軽らしき身形をしている。篝火の光に赤く濡れたその様は、まるで地獄の獄卒を思わせた。
その三人から離れた壁際に蠢くものがあった。白い影が幾十か。
女である。おそらくは浚われてきた娘達であろう。全員手足を縛られ、猿轡をかまされた上で転がされている。
そして他方の壁際。そこにもまた白い影があった。
肉と骨。娘達の骸である。
中には最近殺されたとみえて、まだ血が乾ききっていない娘の骸もある。腹が裂かれ、臓物がなくなっていた。
「与助」
一人の足軽が気づき、手をあげた。
「何だ、その娘は?」
「捕らえてきた」
与助――平手が答えた。その傍らでは娘――アンが息をつめている。むっと立ち込める血臭と腐臭で、とても息をするところではなかった。
「ほう」
別の足軽が唇を吊り上げ、牙を覗かせた。
その瞬間だ。平手の腰から白光が噴いた。
一瞬後、血飛沫をあげて足軽の首が飛んでいる。
「よ、与助、貴様――」
「何をする!?」
残る二人の足軽がはじかれたように立ち上がった。
刹那だ。唸りをあげて飛来した水塊に、一人の足軽が吹き飛ばされた。
「ぬっ」
呻き、三人目の足軽が、まるで重力を無視したかのように軽々と宙を跳んだ。平手が叫ぶ。
「設楽、殺すな!」
「わかってますよ」
答えは足軽の前で響いた。ふっとわいた人影から。
「どけ!」
「どきません!」
怒号は同時、そして動いたのもまた同時であった。
陰影瞬き、二つの影が交差する。一瞬後、また二つの影は離れた。
そして――
疲れたかのように兵兵衛は太い息をつきつつ、倒れた足軽を見下ろした。
●
縛り上げられた足軽の首に、冷たい刃が凝せられた。
「てめらは何モンだ」
平手が問うた。すると足軽は唾を地に吐き捨てた。
「知るか」
「妖狸だよ」
アンが告げた。足軽――妖狸の心を読んだのだ。
「生き胆を喰らう。八百八狸。足軽大将、三宅藤右衛門‥‥だめ、読めなくなった」
アンが悔しそうに唇を噛んだ。その顔をぬらりとした眼で妖狸が睨みあげている。見下ろすステラの眼に殺意が煌いた。
「どうやらこいつら、娘さん達の生き肝を喰らっていたようね」
「みてえだな」
平手が刀を振りかぶった。
「もう聞き出す事は無理みてえだ。死んでもらうぜ」
「くかか」
妖狸が笑った。
「図に乗るな、人間ども。伊予――いや、四国は必ず我らが手にいれ――」
絶叫ごと、平手が真っ二つに斬り下げた。
●
翌日、まだ暁闇に包まれた港に平手と三人の冒険者が現れた。待っていたのは、すでに解放された四人の冒険者である。
「やはり」
事の次第を知り、ゼルスは眼を伏せた。彼の読み通り、与助達の正体は化生であったのだ。
思案げにルーフィンが問うた。
「娘さん達は?」
「伊予を離れるのは嫌だというのでね。縁者を頼っていきました」
「そうか」
柳が暗い海を見つめた。
此度の事件は一応の決着をみた。が、それはさらなる大きな惨劇の幕開けにしか過ぎない。事件の真相は、この海のように深く、昏いところにある。
「夜明けは、まだ遠いな」
嘆くが如く、柳が呟いた。