幾重のリング(第二話)

■シリーズシナリオ


担当:みそか

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 46 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月12日〜10月24日

リプレイ公開日:2004年10月20日

●オープニング

<キャメロットから北西・森>
 青年は森の中で焚いた火が与える温かみに身体と心を預けながら思案にふけっていた。

 目の前でのん気に眠っているのは子供二人。もともとただのガキじゃないことくらいはわかっていたが‥‥‥‥ここまでだとも思わなかった。
 大人と一緒に歩いていた子供達(今考えてみればその時点でこいつらは既に誘拐されていたのか?)を自分の興味本位で同行させてから早幾日。街道を通れば身に覚えのない追っ手(少なくとも俺を襲いに来たわけではない)に襲われ、冒険者らしき人間とも剣を交え、ついにはこんな森の中にまで逃げこんできてしまった。
 この一週間で見た襲撃者の種類は既に5種類。子供に声をかけて連れ戻そうとする襲撃者、子供を無理矢理奪い去ろうとする襲撃者、自分もろとも子供を殺そうとする襲撃者、そして、いまいち事態が理解できていないらしい冒険者と‥‥。
「食糧確保、ってか? つーか食えるのかな‥‥こいつは?」
 最後は森の中に住むモンスター達。町で落ち着こうと思えば襲撃者が来るのだから正直やってられない。どこへ向かっているわけじゃなかったが、このまま進めば確か鉱山都市があったはずだ。自分ひとりならともかく、三人分の食料を確保することなどできるはずもない。
『何ら生産せずして仲介料を貪る商人の存在は人々に幸福をもたらすんですよ』
 というのはどこかの商人の言だが‥‥‥‥なるほど、確かに今は保存食一食が1Gにも思えてくる。
「鉱山都市に行けば多少ごまかしもきくだろ。何より人も多いし、俺みたいな子連れの流れ者もゴロゴロしてるだろうからな」
 子供二人と出会う前は空気より軽く思えた財布は、今や五つに増殖を果たしていた。子供達が持っていたもの‥‥衣服であろうと、アクセサリーであろうと何であろうと徹底的に売り払った。子供達が狙われている以上、わざわざ目立つ格好をしていても仕方がなかったし、子供達も特にそれに抵抗することはなかった。
「こいつは町についたら‥‥‥‥ふふふ‥‥」
 グルーダは若者らしい、思慮のない笑みを満面に浮かべる。
 焚き火は既に消えかかっていた。

 <冒険者ギルド>
「貴族の子供二人がさらわれた件なんだが‥‥」
 ギルドの職員は冒険者達を前にして言葉尻を濁しながら今回の依頼内容を説明する。
「お前達の尽力、その後の情報収集で子供達が今『ベガンプ』っていう鉱山都市にいることはわかった。今回の依頼はそこにいる子供二人を連れ戻せばいいって話なんだが‥‥どうにも話がきなくさい。依頼主は本当に子供を捜しているんだろうが‥‥どうにも他にも子供を‥‥捜すと言うよりは、かなり手荒に扱おうってグループがいるみたいだ。推測の段階で物を言うのはどうかと思うが? ‥‥何かこの事件はでかそうな気がするぜ。噂じゃあ子供二人を連れているのは賞金首のグルーダって話しだしな。厄介ごとに巻き込まれたくないんならこのあたりで身を引いておくのが無難だと思うぞ」
 依頼書を、うすっぺらい紙切れを見てギルド職員は溜息を吐くと、カウンターの奥へ消えていった。

●今回の参加者

 ea0186 ヴァレス・デュノフガリオ(20歳・♂・レンジャー・エルフ・ロシア王国)
 ea0263 神薙 理雄(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea0497 リート・ユヴェール(31歳・♀・レンジャー・人間・ロシア王国)
 ea0673 ルシフェル・クライム(32歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2253 黄 安成(34歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 ea3519 レーヴェ・フェァリーレン(30歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea3590 チェルシー・カイウェル(27歳・♀・バード・人間・イギリス王国)
 ea6591 シーナ・アズフォート(31歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

<キャメロット>
「とにかく少しでも情報を集めよう。どうやらこの依頼は単なる誘拐事件で片付けられるようなものではないようだ」
 依頼を鵜呑みにするのではなく、あくまでも全容の解決を目指そうとするレーヴェ・フェァリーレン(ea3519)。それは契約違反に当たるのだが、他の冒険者もこの意見に異存はないらしく、彼らは四人の仲間が乗ったベガンプ行きの馬車を見送ると、それぞれ情報収集をすべくキャメロットの町中へ消えていった。

<酒場>
 きょうも多くの人でごったがえすキャメロットの酒場。テーブルを借りて恋を語り合う者、冒険談に華をさかせる者、酒で渇いた喉を潤してその日一日の疲れを癒す者‥‥数えればきりがない。
 そんな酒場のざわめきに溶け込むようにして、目的の一団がテーブルに料理をずらりと並べて騒いでいた。
「久しぶりじゃな、元護衛隊の諸君」
 空いていた椅子にどっかりと腰掛け、護衛隊へと話し掛けたのは黄安成(ea2253)。胸に抱いていた疑惑がひとつの確信へと変化したのか、気付かぬうちにその眼光と口調は厳しいものとなってしまう。
『‥‥何をしにきた。俺達はもうあの仕事は辞めたんだ』
「その割にはずいぶんと羽振りがよさそうじゃな。我らも普段は気の抜けたエールを飲んでいるというのに」
『そんなことは俺達の‥‥‥‥』
「まあまあ皆さん。まずは再開を祝して一杯飲みませんか? 込み入った話はその後にでもするとしまして」
 ともすれば殴りあいの喧嘩になりそうな雰囲気の中に慌てて飛び込むリート・ユヴェール(ea0497)。何とかその場を収めると、機嫌を直してもらうべくエールを注文する。
『悪いが俺達はこれから仕事を探してくるんでな。お前たちと話している暇はない。これで失礼するぜ。‥‥‥‥やめておけ、これは俺たちやお前たちがしゃしゃり出られるようなものじゃないんだよ』
「待て! それはどういう‥‥」
 僅かに顔をしかめてエール代をテーブルに置くと、元護衛兵達は二人を避けるように酒場から出ようとする。黄とリートは慌てて後を追いかけたが、結局有用な情報が彼らの口からこぼれることはなかった。

<キャメロット近く・馬車>
 レーヴェは馬車の中で腕組みをしたまま考え事をしていた。今回の誘拐事件、不審な護衛兵の行動、叔父の存在‥‥‥‥全てをつなぎ合わせれば‥‥‥‥。
「‥‥いや、まだ結論を出すのは早いか」
 彼は馬車の揺れの中に纏まりつつあった考えを放り投げると、腕組みをしたまま背もたれに身を任せ、静かに寝息を立て始めた。

<クロウレイ地方・ベガンプ>
 馬車に揺られること二日‥‥冒険者達を迎えたのは雑踏と喧騒、そして槌音が絶え間なく鳴り響く町・ベガンプであった。彼らは馬車から飛び降りると、同姿勢をとり続けて硬くなってしまった身体をほぐすのもそこそこに聞き込みを開始する。今回の依頼内容である子供達を捜すのはヴァレス・デュノフガリオ(ea0186)、神薙理雄(ea0263)、ルシフェル・クライム(ea0673)。そして子供達の命をつけねらう勢力について調べるのがシーナ・アズフォート(ea6591)。
「さて、俺達はここに観光をしにきたわけじゃねぇんだし、さっさと子供とガルーダの野郎のところにいこうか」
「そのためにもまずは地道な聞き込みから‥‥だね。前回の例もあるからくれぐれも襲撃には注意しないと」
 すっかり今から子供達のところにいくつもりでいるヴァレスをシーナは優しくたしなめると、初めての町に興奮を隠しきれない子供‥‥とは少し違った視線で周囲を見渡す。
 周囲を見れば人、人、見知らぬ人の大群である。ふだんキャメロットで見慣れている光景ではあるが、ここは初めて来る町である。さらに自分たちを狙っているかもしれない襲撃者がいるとなれば話は全く違ってくる。
「さて‥‥気を引き締めていこうか」
 ルシフェルは三人の肩を叩くと、子供達を探すべく雑踏の中へと歩んでいった。

<依頼主の邸>
『‥‥で、つまるところあなたは依頼を放棄してここにやって来たというわけですか』
 依頼主である貴族の邸を訪れたレーヴェを待っていたのは、冷めた紅茶と執事の言葉であった。依頼主の代理として眼前に立った執事は椅子に腰掛けたままこちらを睨みつけてくる。
「ですから、今回の事件は単なる誘拐事件ではない可能性が高いと言っているのです。我々も敵の正体すらわからないまま危険を冒しながらそちらの御子息二人を捜索するのは困難です」
『こちらはそれを何とかするのが冒険者という職業だと受け止めているのですがね。いいか、あの二人は、あの二人だけはこの領のために何としても無事に‥‥留学へ行ってもらわねばならないのです。‥‥聞けば賞金首まで絡んでいるそうではありませんか。とてもあなたがこんなところで油を売っていられる状況だとは思いませんがね。どうぞお引取りを』
 レーヴェの反論にも聞く耳もたず、あくまで雇い主としての態度を見せる執事。
 結局執事の態度が軟化することはなく、キャメロットから実に一日半かけてやってきた馬車と冒険者は、僅か三十分の休憩を挟んで邸をあとにすることとなった。

<ベガンプ・裏路地>
『ああ、確か‥‥この子達ならトランゼっていう宿屋に泊まってたと思う。昨日その宿に泊まっている知り合いに会いに行ったからな』
 冒険者達がようやく子供達の情報を入手できたのは、現地に到着してから二日目の夕刻であった。工夫らしき青年がすすに汚れた頬をこすりながら、人相書きの人物がいた場所を知っていると言ったのだ。
 長時間の聞き込みで既に足は棒のようであり、声もしゃがれてはいたが、待ち焦がれていた情報が舞い込んだとなればそれはどんな回復魔法を上回る効力を持つ。冒険者達は青年に礼を言うのもそこそこに、宿へ向けて早足で歩いていく。
「はぁ〜〜〜。ようやくガルーダの奴に会えるってわけだな」
「そうですねヴァレスさん。あとは宿屋に忍び込んで、グルーダさんと子供達二人と会うだけですの」
 ようやく情報が入った嬉しさからか、溜息をつきながらもヴァレスと理雄の表情は明るい。青年の情報をもとに、町の人に道を聞きながらすたすたと進んでいく。
「ふぅ、それにしても‥‥‥‥下手糞な尾行はそこまでにしたらどうだ?」
「あなた達はなぜ子供を狙っているの?」
 いよいよ宿もが見えようとしていた頃、ルシフェルとシーナは唐突に立ち止まると、武器に手をかけて後ろへ振り返る。
『‥‥‥‥‥‥!!』
 冒険者達の背後につけていた四人の敵は質問の回答をあっさりと拒否すると、何のためらいもなく物騒な武器を引き抜いて一気に彼らへ襲い掛かる。
「やはり応じてはくれないか? ‥‥仕方がない、少々手荒い方法になるが‥‥‥‥お前達の目的、教えてもらおうか!」
 耳をつんざくような高い音が響きわたり、地面に落ちていた石が『ガチッ!』っと音をたてて砕け散る。通行人は悲鳴を上げ、大通りへ逃げていった。
「ヴァレスさん! 理雄さん!!」
「ああ、わかってるぜ。子供達とガルーダは任せろ」
 シーナの指示を受けるよりほんの少しだけ早く、残る二人の冒険者は宿目掛けて疾走を開始する。下手に騒ぎが大きくなっては三人に逃げられかねない。
「ふっ、頼もしい言葉だな。‥‥強いて言うなら、本当の賞金首の名前はグルーダだってことを除けば」
 ヴァレスの声、そして一秒ごとに近くなってくる大勢の足音を耳にして、ルシフェルは自嘲気味に口元を緩めた。

<キャメロット・酒場付近>
『ああ、あの貴族だろ。一度依頼を受けたことがあるから知っているぞ。‥‥子供達の叔父? ああ、そういえばかなり有力な貴族が兄だか弟だかにいるって話も聞いたことがあるな。‥‥こんなことが歌のネタになるのか?』
「うん、すごく参考になったよ。お兄さんかっこいい〜〜〜〜。ありがとね!」
 チェルシー・カイウェル(ea3590)は情報を提供してくれた冒険者へほがらかに手を振って礼をすると、紙に集まった情報を歩きながら記入していく。
●依頼主である貴族は病床に伏せている
●子供達が誘拐された日に会う予定だった叔父は有力貴族。依頼主の貴族を見下しているらしい。
●依頼主の貴族は水源や交易をめぐってどこかの貴族と対立して‥‥
「どうだ、情報は集まったか?」
 突然後ろから肩を叩かれ、チェルシーは僅かに飛び跳ねる。振り返ると、そこにはレーヴェ、黄、リートが立っていた。
「すまんがこっちはほとんど情報が集まらなかった。‥‥どうじゃ、そっちの情報で背後が見えるかのう?」
 集まった四人の冒険者は僅かな情報を頭の中に入れ、この依頼の裏は‥‥真実は一帯どこにあるのかということへ思考をめぐらせるのであった。

<ベガンプ・宿>
「急げ急げいそげぇ! あんまり騒ぎが大きくなると逃げちまうかもしれねぇぜ!」
「わかってますの。ここまできたんですから」
 けたたましい音を立てながら宿の階段をのぼっていく二人。
 外からはルシフェル達がまだ戦っているのか、時折金属音と野次馬の歓声や悲鳴、そして巡回兵の怒声が聞こえてくる。
「お二人とも無事ならいいんですけどね。捕まってもすぐ釈放されると思いますけど‥‥」
「まあ大丈夫だろ。それより今は‥‥‥‥」
 二人が階段を登りきったのとほぼ同時に二階のドアがけたたましい音と共に蹴破られ、目にも止まらぬ剣戟がヴァレスへ襲い掛かる。
『何をしに来た? 二階は俺の貸切なんだよ。さっさと失せろ』
「‥‥‥‥今はこっちの命‥‥ってわけだな」
 ヴァレスの銀髪がふわりと床へと舞い降る中、グルーダは剣を携えたまま二人の冒険者の前に立ちはだかった。もともと人がすれ違うのがやっとの幅しかない廊下である。一人の男が壁によりかかるだけで完全に行く手は遮られた形になる。
「あ、すまねぇ。別に何かしようってワケじゃねぇ。ちと、話したいんだ。その子達との事について。闘る気は無ぇから安心してくれ。俺の名前はヴァレス、ヴァレス・デュノフガリオだ。子供達が狙われる理由を知ってるなら教えてくれねぇかな?」
 間一髪剣戟を回避した‥‥それとも相手が最初からそのつもりで放っていたのか。とにかく生きた心地のしなかったヴァレスは額に汗をうっすらと浮かべながらグルーダへ自分達の立場を提示し、質問を投げかける。
『聞こえなかったか、失せろと言っているんだ。理由なら俺も知りたいくらいだよ』
「知らないんですのね。‥‥でしたら、真相が明らかになるまで一緒に子供達を‥‥」
『断る。お前達が信用に足る保障なんてどこにもない。‥‥それに、あのガキどももあくまで俺の暇つぶしだ。飽きたらこの剣でいつでも‥‥‥‥!!』
 グルーダの返答の言葉尻を掴んで理雄は話を続けようとするが、彼女の言葉が言い終わる前にグルーダは剣を持ち上げ、ぎこちなく口の端を歪める。
「‥‥わかった。どっちにしろ今の俺たちに具体的な提案なんてねぇしなここは帰るとするぜ。ただ、一人じゃあ手におえない面倒事、厄介事があったらいつでも受けるのが冒険者ってもんだ。依頼を待ってるぜ‥‥‥‥ガルーダ」
「最後の回答が嘘でも気に入らなかったからあれはお預けですの。‥‥でも、今まであの二人を守って下さってありがとうですの。優しいお兄さん」
 自信たっぷりに間違えた名前を言うヴァレスと、ふてくされながらもなぜか赤面する理雄。
 グルーダはわけのわからない二人に呆然としながらも、奥の部屋へと歩いていった。


 ‥‥翌日、冒険者達は馬車に乗りキャメロットへの帰路についた。
 キャメロットで彼らを待ち構えていたものは、四名の仲間と数個の情報‥‥そして、依頼主である貴族の執事から寄せられた、一通の(苦情と嫌みがぎっしり詰まった)手紙であった。